未来・第427号


            未来第427号目次(2025年12月4日発行)

 1面  高市は対中国戦争宣言を撤回せよ
     人民の反戦決起のみが戦争を阻止できる

     花角新潟知事の再稼働宣言許すな        

 2面  〈投稿〉
     関生弾圧で21件目の無罪 湯川委員長の実刑判決を取り消す
     湖東協コンプライアンスは有罪、労働組合活動の刑事免責を認めず
     11月18日大阪高裁

     沖縄を再び戦場にさせないスタンディングアピール
     高市首相は直ちに発言を撤回せよ
     11月24日大阪駅前   

 3面  《シリーズ 安保3文書研究 C》
     兵器・基地・弾薬・装備について
     児玉明

 4面  〈投稿〉
     沖縄レポート
     沖縄を二度と戦場にするな
     1月名護市長選に勝利を
     島袋利久

 5面  沖縄日誌10月
     続く基地建設
     辺野古 本体着工から10年

     厚労省の再減額方針を断じて許さない
     〜生活保護利用者の人間の尊厳を再び踏みにじる 司法軽視の再減額方針〜

 6面  古代文明から学ぶ(下)
     国家なき「文明」社会
     崎山洋

    追悼 安部哲多さん
     海の見える隠岐の島に還る

 7面  〈論考〉
     自衛隊員の処遇と自衛隊の人員不足問題
     太田一正

    (映画評)
     『よみがえる声』
     監督・朴壽南、朴麻衣 2025年 

     (闘争案内2)

 8面  通信KOSUGI
     ソウル日本大使館前の水曜デモに行って来た

     (本の紹介)
     『食権力の現代史―ナチス「飢餓計画」とその水脈』
     藤原辰史著 2025年9月30日発行 人文書院 2970円  

    (カンパのお願い)

           

高市は対中国戦争宣言を撤回せよ
人民の反戦決起のみが戦争を阻止できる

沖縄を戦場にさせないとスタンディング(11月24日 大阪市)
11・9に続きミサイル配備絶対反対で集会(11月24日熊本市 詳報次号)

高市「台湾有事」発言を契機に噴き出す反動

11月7日の高市早苗首相の「台湾有事」答弁を契機に、政治反動が一気に吹き荒れている。高市は戦艦という自らの用語を使用し、歴代内閣がなしえなかった「台湾有事」戦争発動と歴史修正主義・対中国共産党敵視の自己の極右性を暴露した。この一線を越えた発言に対し、反動派はこれを撤回せず、一斉に中国敵視の排外主義決起を始めた。
高市につながる山田宏参議院議員・自民党副幹事長ら極右政治家、大手新聞社説、河野克俊元統合幕僚長ら元自衛隊最高幹部、立川志らくらテレビ局コメンテーターらが一斉に高市擁護・中国敵視の排外主義キャンペーンを張り始めた。彼らは高市発言を「国益」の立場から論難する政治家らも批判し、「非国民」扱いを始めている。あげくは質問した岡田元外相の質問の仕方が悪いなどと、一億総翼賛、参議院選挙時の参政党の「日本人ファースト」以上の排外主義を鼓吹する。
これらの言説はさすがに良好な日中関係なしに成り立たない経済界の一部や、高市の地元・奈良を始め観光業界から具体的被害・批判が出されていてもこれにお構いなしだ。民衆の生活より反中国感情をあおり、生活苦と戦争の道に人民を引き込むつもりだろうか。

中国内政問題干渉は再度の侵略戦争の道

また高市は就任直後の一連の外交・会談で、新疆ウイグル自治区問題、香港問題にも言及した。中国共産党指導部の対応に問題があろうと、台湾・香港・新疆ウイグル問題は純粋に中国国内の内政問題である。他国の介入はロシア・プーチンのウクライナ侵略戦争、古くは日本の満州事変から15年にわたる侵略戦争と同じで、国際的非難は必至だ。実際11月24日の米中(トランプ・習近平)電話会談では、トランプは習近平の主張=「台湾問題は中国の内政問題」には同意したが、高市発言には賛意を示していない。
既に高市発言で「戦略的互恵関係」という日中関係を破綻させ、さらに米帝トランプの合意なく緊張関係を強め、まるで戦前日本軍部の独走(国民的高支持率のなか、国際連盟脱退時は42対1と全面孤立)を思わせる行動をとり始めた。
戦前の満州事変は、権勢を誇る軍部や岸信介ら革新官僚の主導により、中国東北部の地方軍閥(張作霖)と組み、廃帝・溥儀を押したて独自の勢力圏を構築した典型的な侵略戦争であった。94年を経た今また、中国の一部である台湾に対して、台頭を始めた自衛隊幹部や自民党極右派らが「存立危機事態」と称して軍事介入を狙い、国内の軍備を増強すれば、14億中国人民が94年前から2000万人が殺された歴史を想起し、対日決起するのは当たり前のことだ。
この高市の反動的決起に連なって、極右・右派勢力が一気に蠢動を開始した。参政党は高市人気に支持を奪われつつあるのに対し、スパイ防止法を単独で臨時国会に提出した。東京電力管内の柏崎刈羽原発の再稼働に、新潟県知事が同意した。高市の支持率が高いうちになんでもやる反動だ。

沖縄・熊本・祝園で始まった人民の決起

この高市政権成立1カ月の動きに対し、立憲民主党ら野党は及び腰だ。立憲は岡田元外相の発言に続いて、高市発言撤回を国会内外で求めるべきにもかかわらず、行動は極めて散漫だ。
これに対し、10・19祝園長射程ミサイル配備反対に決起した2700人の全国の反基地ネットワーク(沖西ネット)は、11・9熊本健軍駐屯地周辺の商店街で1200人の決起など、新たな「戦争反対、日中不戦・日中友好」の広範な決起を始めた。とりわけ対中国軍備拡張の最前線となる沖縄・九州での新たな基地建設・最新兵器配備への決起は重要だ。
12式ミサイル能力向上型(射程1000キロ以上)の熊本・健軍駐屯地への配備には11月9日、24日と連続決起となり、大分・敷戸弾薬庫でも大規模な反対集会が開催された。
熊本の闘いでは、駐屯地司令部が地下要塞化されることは地域にも被弾があるということで、駐屯地周辺の商店街の店主・女子高校生らが説明会を求めて決起した。野田立憲民主党代表も説明会を求めたが、小泉防衛相や木原官房長官(熊本選出)が否定的なことで、国会と地域を巻き込む論争・闘争になろうとしている。
沖縄では26年1月の名護市長選を前に、大浦湾側の工事が強行された。これに対しオール沖縄は市議4期の翁長久美子さんを押し立てて、基地建設反対と生活防衛を掲げて市長選を闘う(4面参照)。
花角知事が柏崎刈羽原発の再稼働に同意した新潟県では、即日1000人を超す県民が新潟県庁を取り囲んだ。原発銀座=福井県で絶えず再稼働の先陣を切ってきた杉本知事は、強権支配の県庁内外でセクハラを繰り返し、県民の怒りの前に辞任表明した。公益通報制度破壊をやめない兵庫県知事に対してはは1年を超えても県民の怒りの声はやまず、当選の最大の原動力=2馬力選挙のN国党代表・立花孝志はついに逮捕となり、自民党と会派を組み、その後離脱したN国党は消滅の危機にある。強権的な支配の一角が崩れ始めているのだ。
高市を頂点とする極右・反動派は、維新・参政党ら排外主義派と組み、マスコミ・SNSを使い、戦争と生活破壊・民主主義破壊につき進んでいる。野党の屈服をこえ、基地・戦争に反対する人々の決起を先頭に、国会・首相官邸前・大阪駅前で新たな人民のうねりが始まった。
高市政権を人民の反戦決起と生活防衛の闘いで追い詰め、日中不戦・侵略阻止を貫いていこう。今こそ高市打倒に立ち上がろう。

花角新潟知事の再稼働宣言許すな

新潟県の花角知事は、柏崎刈羽原発6・7号機の再稼働に同意することを表明した。絶対許すことは出来ない。花角知事は東電柏崎刈羽原発の再稼働をめぐって、次々公約をやぶってきた。この間の県による3回のアンケート調査でも賛否拮抗し、特に3・11を引き起こした東電に対する不信が圧倒的に県民の意思であることを無視し、「(再稼働を狙う)国の方針は理解できる」として、同意を表明し、12月県議会での信任を狙っている。 新潟県民を先頭に全人民の力で、柏崎刈羽原発再稼働を許さない闘いに立ち上がろう。

2面

〈投稿〉
関生弾圧で21件目の無罪 湯川委員長の実刑判決を取り消す
湖東協コンプライアンスは有罪、労働組合活動の刑事免責を認めず
11月18日大阪高裁

大阪地裁前で決起集会(11月18日 大阪市)

裁判所周回デモと前段集会

この日12時を期して連帯ユニオンと支援130人は大阪高裁を周回するデモをおこない、その後、裁判所向かいの小公園で判決を迎え撃つ集会を開催しました。
反弾圧大阪実行委員会の全港湾大阪支部・小林委員長が挨拶、「コンプライアンス活動が事件になること自体が許されない」とし、全港湾沖縄地本への弾圧に触れ、「これが有罪となればこのような弾圧を利用する企業が現れ、警察がそれを受け付けるようになってしまう」と警鐘を鳴らしました。続いて関生支部湯川委員長と当該組合員3名が労働法学者の意見書を証拠採用した裁判の経過を報告、判決に臨む決意を明らかにしました。
続いて反弾圧京滋実行委員会の稲村さん、兵庫の岡崎さん、「東海の会」の柿山さんが発言しました。稲村さんは8年に及ぶ弾圧との闘いを振り返り、支援者だけで大津警察署抗議行動を闘わなければならないような困難な時期もあったが、関生弾圧についてNHKがゴールデンタイムに特集を組むまでになったことは感慨深いとしました。
全港湾神戸、大阪全労協、港合同、なかまユニオンと支援労組の発言が続きましたが、ここで経営側・大阪広域生コン協組が裁判の傍聴に大動員をかけているという情報が入り、前段集会を打ち切って傍聴抽選に向かいました。

86人の傍聴券に約250人が並ぶ

裁判所入口前には背広をきた経営側の動員者と支援者が拮抗して詰めかけ、抽選に時間がかかり、午後2時半開廷予定の裁判が20分も遅れるというハプニングがありました。この間、関生弾圧の報道を続けているMBS、Tansa報道、竹信三恵子さんの姿もありました。

湯川委員長のタイヨー事件は無罪、コンプライアンスは労組の正当行為を認めず

11月23日に退官を予定している石川恭司裁判長は、タイヨー生コン「恐喝事件」で湯川委員長・武前委員長が金銭を要求したことを示す証拠はないとし、大津地裁の実刑判決を取り消して湯川委員長を無罪としました。他方、湖東協コンプライアンス事件は控訴を棄却、「威力業務妨害・恐喝未遂」等とし、湯川委員長は懲役3年・未決換算270日・執行猶予5年とし、他の4名の被告にも地裁の執行猶予のついた有罪判決を維持しました。
この日の判決は、関生支部の産業政策運動について、関生支部が生コン協同組合と協調して生コンの安売り競争を是正する一方、協組に加盟しないアウト業者の対策として法令順守を求めるコンプライアンス活動をしていたとし、一概にそれが違法な組合活動とは言えないとしながら、今回事件とされたフジタ・セキスイ・日建・東横インの各事件においては、「その目的と態様からして労組活動として許容される範囲を超えている」とだけ述べ、労組法1条2項の刑事免責を適用しませんでした。
しかし、関生支部のコンプライアンス活動は労働者と市民の安全を図り、また、生コン安売り競争を規制し、生コンの適正価格を維持することによって労働者の賃金原資を確保するという正当な目的の下で行われたものであり、また、その態様は判決も認める通り、少人数での穏やかな対応で繰り返し法令順守を求めるというものでありました。そして現場における違法行為の存在がこの活動の根幹にあるものなのです。かつて争議権を剥奪された公務員労働者が「争議に至らないもの」として順法闘争を闘ったことと比しても、コンプライアンス活動が、生産活動の阻害が当然に予定されている争議の許容範囲を超えている等とは到底言えないことは明らかです。

昼休み、裁判所を一周する包囲デモ(11月18日 大阪市)

不当判決に負けず 関生支部は闘い続ける

判決後、湯川委員長は、「実刑は取り消されたが、あまりうれしくない。労組活動を理解せず、まったく認めない判決だ」とこの日の判決を批判、他の当該組合員も「上告する。私たちは産別組合の強化・拡大のため、今後も闘い続け、動き続ける」と決意を語りました。(愛知連帯ユニオン)

沖縄を再び戦場にさせないスタンディングアピール
高市首相は直ちに発言を撤回せよ
11月24日大阪駅前

沖縄を再び戦場にするなと、JR大阪駅前に60人が決起(11月24日 大阪市)

11月24日「沖縄を再び戦場にさせない! スタンディングアピール」が大阪駅前人民広場でおこなわれた。〈沖縄を再び戦場にさせない実行委員会〉が主催し、好天のもと60人が集まった。2列に並んで色とりどりのバナーを広げて、三線による沖縄の歌やコール、5人の発言で市民たちに「戦争反対」「高市発言直ちに撤回」を訴えた。次のような発言があった。

中国に対する戦争準備

高市首相は「台湾有事は存立危機事態」と国会答弁し、日本の自衛隊が中国に対して武力発動する、戦争をすると言った。戦争を禁じている憲法に違反する。また日中共同声明で中国政府が中国の代表であり「台湾は中国の1地方」だと認めているのであり、その台湾に勝手に介入して中国に対して戦争をしかけるというのは重大な内政干渉だ。直ちに発言を撤回すべきだ。首相官邸前には1500人の若い人たちが集まって抗議行動をしている。
日本政府は多額の税金を使って、中国に対する戦争準備を進めている。小泉防衛大臣は昨日与那国島を訪問し、新たなミサイル配備を進めていくと言った。石垣島、宮古島、沖縄島、奄美大島にはすでにミサイル部隊や電子線部隊が配備されている。中国を相手に戦争をするような事態になれば、戦場になるのは沖縄・琉球弧の島々であり、犠牲になるのはそこの住民だ。

祝園・神戸で反撃の闘い

敵基地攻撃能力をもつ長射程ミサイルは熊本に今年度中に配備する予定。京都府精華町の祝園分屯地には14棟のミサイル弾薬庫を増設する計画があり、8月に工事が始まっている。
戦争は私たちの身近にも迫っている。高市政権は非核三原則を見直し、原子力潜水艦をつくることも想定しており、原子力潜水艦が神戸でつくられようとしている。これに反対する闘いも始まった。
円高や物価高で私たちの生活が苦しい中、戦争のため何兆円もの税金を使うことは許せない。憲法も法律も無視した戦争政策に反対しよう。

3面

《シリーズ 安保3文書研究 C》
兵器・基地・弾薬・装備について
児玉明

高市政権は、@防衛装備品移転を制限する要件5類型(救難、輸送、警戒、監視、掃海の5つの目的に限る)の撤廃、A防衛費GDP比2%水準への引き上げを2027年度から25年度へ前倒しB安保3文書の26年度中の改定C原子力潜水艦保有、D「国家情報局」創設などを唱える。自民党は非核3原則の見直しの検討をはじめた。とどまることがない大軍拡だ。
「国家防衛戦略」では、「新しい戦い方」として、「航空侵攻、海上侵攻、着上陸侵攻という伝統的なものに加えて精密ミサイルによる大規模攻撃、ハイブリッド戦、情報戦争を含むハイブリッド戦、宇宙・サイバー・電磁波領域や無人アセット(装備品)を用いた非対称攻撃、核兵器による威嚇等々を組み合わせた新しい戦い方が顕在化している」として、防衛上必要な7つの機能・能力の基本的な考え方と内容を示している。
@スタンド・オフ防衛能力、A統合防空ミサイル防衛能力、B無人アセット防衛能力、C領域横断作戦能力、D指揮統制・情報関連機能、E機動展開能力、国民保護、F持続性・強靭性など。
カギとして「反撃能力」をあげている。
今後5年間の優先課題として現有装備の稼働数上昇や弾薬・燃料の確保、主要な防衛施設の強靭化への投資を挙げる。またスタンド・オフ防衛能力や無人アセット防衛能力の強化に取り組んでいくとしている。

〈T〉「防衛力整備計画」の主な内容

(1−1)統合運用体制

・常設の統合司令部創設(24年5月成立)・サイバー防衛の強化、サイバー防衛部隊の確保・海上輸送部隊を新編〈T〉「防衛力整備計画」の主な内容
・26年度に海外派遣の先遣隊=中央即応連隊800人とゲリラ戦部隊=「特殊作戦群」を統合し、「特殊作戦団」を編成。

(1−2)陸上自衛隊

・南西方面防衛体制強化のため、沖縄担当の第15旅団を師団に改変・スタンド・オフ・ミサイル防衛能力強化のため、12式地対空誘導弾能力向上型を装備した地対艦ミサイル部隊保持・島嶼防衛用高速滑空弾を装備した部隊、島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)や極超音速誘導弾を装備した長射程誘導部隊を新編

(1−3)海上自衛隊

・今後導入する哨戒艦や護衛艦艇を一元的に練度管理し運用するため、既存の護衛部隊群や掃海艇群を改編し、水上艦艇部隊とする。
・イージス・システム搭載艦整備・海自情報戦基幹部隊を新編

(1−4)航空自衛隊

・宇宙領域の機能強化・空自を航空宇宙部隊とする

重点ポイントとして3点を挙げる。

(1)各種スタンド・オフミサイル装備
・国産の12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型)を1年前倒しし、2025年度から配備。・トマホークを1年前倒しし、2025年度から取得
〜(8月30日、朝日新聞)長射程の国産「スタンド・オフ・ミサイル」の配備計画は25年度以降、4道県の陸自駐屯地に配備。護衛艦や戦闘機への搭載も開始。射程1千キロ程度の「12式地対空誘導弾能力向上型」のうち「地発型」を25年度末と26年度の2回に分けて陸自健軍駐屯地(熊本)のミサイル連隊に配備。教育用として陸自富士駐屯地(静岡)の特科教導隊にも27年度に配備。「艦発型」(艦艇から発射)は、横須賀を母港とする海自護衛艦「てるづき」、「空発型」は百里空自基地のF2能力向上型で27年度から運用。ら配備。・トマホークを1年前倒しし、2025年度から取得
(2)2027年度1隻目、28年度に2隻目を目標に、イージス・システム搭載艦を2024年度から建造着手・既存のイージスと同等以上の各種能力+20%の省人化。イージス艦全8隻にトマホークを搭載する。
(3)全国駐屯地・基地などの既存施設の強靭化=自衛隊員の安全を確保し、「有事においても容易に作戦能力を喪失しないよう」に、「粘り強く戦う態勢を確保するため、主要司令部等の地下化、構造強化・電磁パルス攻撃対策、戦闘機の分散パッド、ライフラインの多重化等を実施」する。司令部の地下化の新たな対象は、空自三沢基地、入間基地、小牧基地、春日基地(福岡県)の5施設。他に空自築城基地、新田原基地、那覇基地など6施設。全土の戦場化と長期化を想定し、住民・市民の犠牲をよそに自衛隊だけは生き残ろうとするもの。

〈U〉弾薬庫増設と港湾:空港の軍事利用について

(2−1)弾薬庫増設

「安保3文書」は自衛隊の「十分な継戦能力の確保・維持」のため、「十分な弾薬を早急に保有」すること、「弾薬の生産能力の向上」と「火薬庫(弾薬庫)の増設」、射程1千〜3千キロにも及ぶ長射程ミサイルなど各種誘導弾の「早期かつ安定的な量産」を掲げる。自衛隊による「米軍火薬庫の共同使用」も進めるとする。
・既存の弾薬庫は約1400棟。10年間で130棟増設する。
2023年度予算の関連費約58億円。大分分屯地と海自大湊地区で各2棟。陸自祝園分屯地と海自呉地区で調査費含む。祝園では24、25年予算で計14棟新設。弾薬庫は地中トンネル式。
・大分分屯地に大型弾薬庫をさらに7棟、32年度までに増設
・25年度予算でも、各地の弾薬庫整備に336億円計上
・地域が戦争の拠点になる。住宅近接で攻撃対象になる危険性がある。戦時の住民保護を唱う国際人道法、ジュネーブ諸条約追加議定書の「軍民分離原則」に反する。

(2−2)住民を戦禍に巻き込む港湾・空港の軍事利用

・25年4月1日、「特定利用空港・港湾」追加指定。11空港・25港湾の計36箇所に。
・政府は「国民保護」を名目に台湾有事の際に住民を避難させる計画を策定した。計画自体が空論的で実現性はない。出て行くべきは基地・軍隊だ。 ・共同通信「台湾をめぐる有事に巻き込まれることはさけられない。申し訳ないが、自衛隊に住民を避難させる余力はないだろう。自治体にやってもらうしかない」(自衛隊幹部)
・「台湾有事で重要影響事態が認定されたら自衛隊は米軍の後方支援を最優先する。南西諸島の住民を避難させる余裕は全くない」(石井暁「台湾有事と日米共同作戦−南西諸島を再び戦禍の犠牲にするのか」(『世界』22年3月号)

断じて許してはならない。沖縄では「屋良覚書」で、下地島空港の軍事利用を認めないと堅持している。自治体は空港・港湾の軍事利用を拒否できる。戦争への道を阻んでいこう。

(闘争案内)

戦争あかん!ロックアクション御堂筋デモ
とき:12月6日(土)午後3時半
ところ:新町北公園 ※デモ出発午後4時
主催:戦争あかん!ロックアクション

南京大虐殺の真相〜殺した側と殺された側の証言〜
とき:12月7日(日)午後2時
ところ:国労大阪会館・3F大会議室
主催:南京の記憶をつなぐ2025

小笠原みどりさん講演会「情報機関は何をやってきたのか」
〜スノーデンの時代から高市政権のスパイ機関創設計画の現在まで〜

とき:12月13日(土)午後6時半
ところ:かながわ県民センター301会議室
主催:JCAーNET

スパイ防止法とは何か
講師:永嶋靖久さん(弁護士)
とき:12月13日(土)午後2時
ところ:PLP会館4階(大阪市北区)
主催:とめよう改憲!おおさかネットワーク
共催:共謀罪に反対する市民連絡会・関西

長生炭鉱の「水非常」を知るつどい
講師:井上陽子さん(長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会・共同代表)
とき:12月13日(土)午後1時半
ところ:国労大阪会館
主催:長生炭鉱の「水非常」を知るつどい実行委員会

南京証言集会2025
とき:12月13日(土)午後1時半
ところ:PLP会館5F大会議室
主催:南京大虐殺60ヵ年大阪実行委員会

ヒロシマ・ナガサキ被爆80年〜世界のヒバクシャとの連帯「救援関西」発足34年の集い
とき:12月14日(日)午後1時半〜4時
ところ:大阪市立総合生涯学習センター・第一研修室
主催:チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西

神戸港の軍事使用に反対する討論集会
報告:粟原富夫(神戸市議)
とき:12月14日(日)午後2時
ところ:神戸市中央区民センター・11階
主催:神戸港の軍事使用に反対する会

ミサイル搬入反対! 現地集会&デモ
とき:12月14日(日)午後1時半〜3時半
ところ:敷戸公園(大分市)
主催:大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会



4面

〈投稿〉
沖縄レポート
沖縄を二度と戦場にするな
1月名護市長選に勝利を
島袋利久

関西で沖縄を闘う人々がスタンディング(11月24日 大阪)

名護市に初めての女性市長を

2025年8月5日翁長久美子市議が来年1月25日投票の名護市長選に出馬すると発表しました。翁長久美子さん(69才)は2010年名護市議当選から4期連続で活躍し「海にも山にも基地は造らせない」と当選した稲嶺進市長を支えて来たオール沖縄の議員でスポーツウーマンです。
翁長久美子さんは市長選への出馬表明で「私はこの市政のあり方に強い危機感を感じます。国の意向に左右される、交付金頼みの市政でなく、私たちの未来は、私たち自身で決めていくべきです。未来を担う子どもたちに、誇れる名護を残す責任は、今を生きる私たち一人一人にあります。」と語りました。
渡具知武豊市長は辺野古新基地問題について、賛成も反対も表明していません。自民党政府は名護市に「米軍基地への再編交付金」として年間15億円支払っています。渡具知市長は「国がくれるというならば断る理由がない」として受け取っています。渡具知市長は再編交付金を原資に「医療、給食、教育費」3つの無料化攻撃で利益誘導し基地建設反対の声を抑え当選して来ました。生活苦に追われている名護市民は「ただで安い」市長を選択してしまった。キャンプ・シュワブ内の基地建設現場には美謝川が流れています。基地建設完成には美謝川の切り替え工事が必要で、市長の許可が必要。また、辺野古ダム周辺の土砂採掘には市長の許可が必要です。渡具知市長はこの工事を認可するとは言わずこの7年間以上黙認して工事は進んでいます。
前稲嶺進市長はこの工事を認可しませんでした。来年の市長選挙で翁長久美子市長が誕生すれば辺野古新基地の完成のめどは立ちません。自民党政府は「アメとムチ」を最大限活用し来年の市長選挙に襲い掛かってくるはずです。そして、来年8月の「沖縄県知事選挙」で玉城デニー知事を追い落としにかかってきます。
衆知の様に、2015年辺野古基地建設を容認した仲井真知事に対して自民党政権は「沖縄振興策資金」として3794億円をだしました。その後、基地建設に反対する沖縄県知事が誕生すると玉城知事には2761億円と大幅に減額したのです。更に、「沖縄振興特定事業推進費」法を設け、自民党政府は玉城デニー県知事の頭越しに沖縄41市町村に直接事業推進費として配分しています。その結果、沖縄県内11市長会及び30村町会は独自に首相官邸に赴き「振興事業費」増額の交渉をしています。この様に自民党政権はあからさまな沖縄県、市町村の分断を強い年々県独自に使える予算が削られ「兵糧攻め」にあっています。
石破、高市自民党政府は完成不可能な辺野古新基地建設には2兆5500億円、軍事費5年で43兆円など国民の血税を湯水のように使い増税、社会福祉、教育費、医療費等を削りアメリカに追従しています。
我々は今こそ沖縄差別と分断を乗り越え団結しなければなりません。まずは、名護市長選に勝利し天王山の沖縄県知事選に玉城デニー知事の再選を。

沖縄を二度と戦場にするな!

岸田、石破自公政権は与那国、石垣、宮古島を急ピッチで自衛隊のミサイル基地として増設強化を進めてきました。石破、高市は「台湾有事は日本の有事」と嘯き中国、朝鮮への民族排外主義を煽り日米韓が一体となり日本を守ると称して、朝鮮半島周辺と空域で軍事訓練を繰り返しています。アメリカは日本の陸海空の自衛隊を使い中国、朝鮮に戦争を仕掛ける為に「台湾有事は日本の有事」と扇動し沖縄を戦場にしようとしています。
その為にファシスト日本会議の西田昌司参議員は「ひめゆり平和祈念資料館」の展示を歪曲し沖縄戦を改ざんしました。高市らは沖縄戦での「軍隊は住民を守らない」「軍隊は戦争遂行のためには住民を虐殺する」という沖縄人民の「血の教訓」を抹殺するための歴史の歪曲をしています。
最近では「日の丸・君が代」の実施アンケートを強制したり、学校で自衛隊の宣伝パンフまで配布しています。更に、市町村の行事に自衛隊員が迷彩服(戦闘服)を着て市民パレードに参加し、自衛隊旗を先頭にエイサー祭りに参加する事態が当然のようにおこなわれています。これらは、全て自衛隊の宣撫工作で市民社会に溶け込み、何時でも住民を戦争体制に組み込むための訓練です。
日本会議の石破、高市は朝鮮、中国への差別排外侵略イデオロギーを煽動し日本ナショナリズムを鼓吹し、中国の「台湾有事」を口実にアメリカは自衛隊を突撃部隊にさせようとしています。
自衛隊(皇軍)に二度と侵略戦争をさせてはいけません。アメリカは沖縄を巻き込み沖縄を戦場にしようとしています。我々は全力で二度と沖縄を戦場にさせません。まさに、「台湾有事」とは沖縄を戦場にすることです。そもそも、「台湾有事が日本の有事」なのか検証しましょう。

日本政府は1972年日中国交正常化共同声明において

@日本政府は、中華人民共和国政府が中国唯一の合法政府である事を承認する。
A中華人民共和国政府は台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である事を重ねて表明する。日本政府は、この中華人民共和国政府の立場を充分理解し、尊重する。
B日本政府及び中華人民共和国政府は主権及び領土の保全の相互の尊重、相互不可侵、内政に関する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立することを合意する。
内閣総理大臣田中角栄、周恩来首相が署名しました。1978年10月日中平和友好条約では「尖閣諸島の領有権問題は両国とも取り上げない」事も確認しましたが、2012年日本政府は一方的に「尖閣諸島」の国有化を宣言しました。中国政府は厳重に抗議しましたが日本政府は2025年の現在まで「日中平和友好条約」違反を認めずに日本の領土だと主張しています。
中国政府側から見れば力による現状変更したのは「日中共同声明、平和条約」を違反し破った日本政府である事は明々白々の事実です。この日本政府に対して中国政府は抗議し撤回を要求しました。中国人民はこの条約違反に怒り日本製品のボイコット運動を起しました。そして、中国全土では日本政府に対する抗議デモが巻き起こった事実を忘れてはいけません。

「台湾有事」を煽り中国侵略戦争にのめり込むファシスト高市

2025年11月7日、高市早苗首相は国会答弁で「台湾有事は存立危機状態になりうる」と歴代内閣の公式見解から大きく踏み込みました。この発言に対して中国から抗議が起こり発言の撤回を求められましたが、高市は拒否しました。
存立危機事態とは「日本と密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる危機を示す。存立危機事態となれば、集団的自衛権が行使されるというものである。では、日本と密接な関係する国とはどこか? 台湾は日本とアメリカとは平和条約も国交も結んではいません。また、台湾は国際連合から追放され国連の非加盟国です。更に台湾と言う名称の国家はありません。
因みに、日本は中国と1972年に日中共同声明を発し、国交回復してから53年になり中国とは「密接な関係にある国です」因みに中国と国交を結んでいる国は国連加盟197国中167カ国、台湾と国交を結んでいる国は12カ国です。朝鮮国(朝鮮民主主義人民共和国)は179カ国が国交を結んでいます。
高市早苗国会答弁は少なくとも「1972年、日中共同声明」「1978年、・日中平和友好条約」の精神を一方的に破棄するものです。このような国際社会で認知された国と国との条約を軽視する高市自民政府の政治姿勢は国連決議、日中平和友好条約違反です。どのような「理由」を付けようともアメリカや日本の軍隊が中国の主権を侵害し台湾に軍隊を派遣することは「戦争犯罪」にあたります。それでも、中国台湾を攻めるのならば高市は中国との平和条約を廃棄して国交を断絶すべきです。
高市は「国会答弁」を撤回、中国に謝罪し改めて中国との友好関係を修復し、東アジア地域の平和と安定を構築することが最善の策ではないでしょうか。
我々は心を一つにして団結し沖縄を2度と戦場にさせない為に米軍基地撤去、辺野古新基地建設阻止、日米安保条約廃棄、自衛隊解体、ミサイル基地撤去、米軍犯罪を断罪し、沖縄の「民意、自治、尊厳」を守る闘いと全国の反戦、反基地闘争を結合、強化させます。そして、ファシスト高市早苗の主導による改憲攻撃と「台湾有事」煽動、中国朝鮮民族への排外主義を打ち破り、基地軍隊のない平和な沖縄を取り戻します。共に闘わん!(25年11月20日、記)

5面

沖縄日誌10月
続く基地建設
辺野古 本体着工から10年

10月1日 名護市辺野古の新基地建設で大浦湾側の海底の軟弱地盤改良工事で、砂ぐいを打ち込む大型作業船が約4カ月ぶりに同湾で確認された。6月上旬以降、台風など天候不良を理由にしていたが機器のメンテナンスが主な理由だと分かった。メンテナンスが終わった船(最大6隻)が順次大浦湾に戻っている。この間、砂ぐいを打ち込む作業はおこなわれておらず工事の遅れは否めない。

4日 名護市辺野古のキャンプ・シュワブゲート前で「第52回県民大行動」が開催され、市民470人が参加。新基地建設反対の抗議の声を上げた。うるま市の鉱山をめぐる話題(うるま市島ぐるみ会議は、鉱山業者が市所有の里道を手続きを経ずに削り取っているとして住民監査請求をおこなった)や、大宜味村沖の海砂採取などについて、市民らは現状を訴えた。

6日 南城市の古謝景春市長は、議会解散を市議会に通知した。市長はセクハラを巡り、9月26日不信任決議を突き付けられ、この日、議会解散で自ら「辞職」を拒否した。市議選は11月2日告示、9日投開票。

7日 名護市の安和桟橋前で、昨年6月の事故以降(8月22日工事再開)1年で11件の事故が起きており、死傷事故前の1・7倍に増えていることが明らかになった。防衛局は死傷事故を受け「安全対策を講じた」と説明しているが、市民の牛歩による抗議活動を封じ込めダンプの台数を増やしていることが原因である。

8日 昨年6月安和桟橋で負傷し、後遺障害を負った女性がダンプ運転手やダンプ所有会社、警備員が所属する警備会社に損害賠償を求める訴訟を那覇地裁に提起した。会見に参加した女性の姉が「事故は、安全性を無視して工事を急がせた危険なダンプ2台出しによって起こったものだ」とする女性のコメントを代読した。
この日、県議会で、沖縄自民・無所属の会と中立の公明が提案した「自衛隊および隊員とその家族に対する差別的な風潮を改め、県民に理解と協力を求める決議」が賛成多数(賛成25、反対19、退席2)で可決された。市民からは「県民が自衛隊に抗議活動をしてきたのは、沖縄戦の体験があったからだ。差別と言うのは許されない」との声が上がった。

20日 防衛省は、参加人数が過去最大規模となる実働演習「自衛隊統合演習」を開始した。31日まで。20日午前7時半、中城湾港には輸送訓練の車両が降ろされた、市民30人が「自衛隊統合訓練反対」と抗議の声を上げた。
宮古島市では、21日PAC3車両が平良港に入港した。〈ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会〉や〈平和運動センター宮古島〉は車両の行く手をふさぎ抗議した。
石垣市では、25日、石垣空港に米軍機が3度飛来し物資を降ろした。米軍と自衛隊が共同で西表島で訓練する。
航空自衛隊那覇基地では、29日、負傷隊員輸送訓練がおこなわれた。予備自衛官も初めて参加した。

29日 名護市辺野古の新基地建設で本体工事着手から10年を迎えた。沖縄防衛局によると、9月末で投入された土砂の量は、辺野古側で99・5%、大浦湾側で0・8%、全体では16・4%である。砂ぐいの打ち込みは作業船が4カ月も大浦湾を離れていたことから進んでいない。砂ぐいの打ち込みだけで約10年かかるペースとなっている。(杉山)

厚労省の再減額方針を断じて許さない
〜生活保護利用者の人間の尊厳を再び踏みにじる 司法軽視の再減額方針〜

11月21日 厚労省は、2013年〜15年に生活保護基準を大幅に引き下げたことを違法として取り消した最高裁判決への対応策を公表した。@違法とされた引き下げ方法とは別の方法で、2・49%減額する基準の再改定をおこなう。Aゆがみ調整(2分の1処理)は、違法とされていないとして再度実施する。その上でB違法とされた4・78%の減額との差額を、改定前に遡って全生活保護利用者に支払い、原告には「特別給付金」として、2・49%の減額分を積み増して給付する。
差額分の保護費は、利用者1世帯(単身者)約10万円、原告には約20万円支給する。対象は原告約700人、原告以外は約300万世帯で、費用は2000億円だとして、今年度補正予算案に計上するとした。
原告団は、すべての生活保護利用者に対する謝罪と2013年改定前基準との差額保護費の遡っての支給を求めているのに厚労省は完全に踏みにじっている。謝罪もなく、「物価偽装」と言われるほど詐欺的手法で生活保護基準を引き下げ多くの人たちに生活への被害を与えたことへの反省が全くない。最高裁判決を軽視し、「デフレ調整は違法とされたが、引き下げ自体は違法とされてはいない」とねじ曲げて、別のやり方で再度基準額を引き下げることなど許されるはずがない。生活保護の無差別平等の原則を投げ捨て、利用者に支給額の差をつけ、分断している。
厚労省の再減額方針に対して、21日〈いのちのとりで裁判全国アクション〉は、「生活保護利用者の人間の尊厳を再び踏みにじる 司法軽視の再減額方針の撤回を強く求める」緊急声明を発出し、「訴訟の敗者である厚労省が専門委員会を開催してきた目的が、最高裁判決の意義を矮小化し、被害回復額を値切ることにあった」「新たな減額改定をおこなうことは、最高裁による勝利判決の効力を全く無視するもの」「違法な事後的不利益変更だ」と批判し闘いの継続を表明した。(花山香)

6面

古代文明から学ぶ(下)
国家なき「文明」社会
崎山洋

メソポタミアとインダスは2500キロ離れていたが、モヘンジョダロとかハラッパなどはメソポタミアなど外部勢力からの衝撃を食い止めるバッファ=緩衝地帯としてつくられた都市。信仰はあったが宗教ではなかった。メソポタミアが外来勢力の侵攻で「消滅」する中で、気候変動もあって「都市」は必要なくなった。在地社会へ回帰した。
著者は、「メソポタミア的な都市のイメージを念頭にインダス文明を見てしまうと大きく見誤ってしまう。現代社会が抱く『国家中心の文明観』を見直す契機になるのではないか」と言っている。
その中で、このテーマをより深く理解するには、さらなる参考文献を読む必要があると考えた。

進歩史観は正しいのか?

「むかし、わたしたちが狩猟採集民だった頃、小さな集団で生活していた。この小集団は平等でした。この幸福なありさまに終止符が打たれたのは、『農耕革命』が起き、都市が出現したあとでした。これが『文明』と『国家』の先触れでした。『文明』や『国家』のもとで、文字による文献・科学・哲学があらわれて同時に人間の生活におけるすべての悪があらわれ〜、家父長制、常備軍、大量殺戮、人生の大半を書類の作成に捧げる官僚など。」「このような進歩史観は正しいのか?」と『万物の黎明』(グレーバー、ウエングロー)は問いかける。
『考古学の黎明〜最新の研究で解き明かす人類史〜』(小茄子川歩編著、関雄二編著、光文社、2025年)を入手した。実は、この著者らが影響を受けたデビッド・グレーバー(著)、デビッド・ウェングロウ(著)、酒井隆史(訳)『万物の黎明〜人類史を根本からくつがえす』(光文社、2023年)が本命なのだが、大部の本で高価だし、いったんパスする。
この本(『考古学の黎明』)で言いたいことは、狩猟採集生活→農耕革命→生産増→人口増→貧富の差→都市→国家という、多くの人が信じてきた「進歩史観」は正しいのか? グレーバーらの『万物の黎明』に刺激を受けた考古学者・人類学者らが最新研究をもとに、人類史のパラダイムシフトをおこなうという試みだ。

人類史のパラダイムシフトか

そこでは、旧来の学会の常識だけでなく、マルクス主義の唯物史観も批判の俎上にのせられている。この立場から、日本の古代史についても、弥生時代から古墳時代について発展史観で説明されてきたが、それは妥当か。平和で平等主義的な縄文時代が1万年以上長く続いた後、稲作農耕が導入されて生産力が増加して矛盾が拡大し、そこから首長・王が出現。王の権力を示す巨大な墓が築かれ、階級支配の装置として国家が形成されるというもの。ルソーは、平等で小規模な小集団からはじまった「幸福な」人類の歴史が、「農業革命」がおき、都市が出現した後、「文明」や「国家」のもとで、家父長制や常備軍、大量殺戮や官僚制などの「人間の生活におけるほとんどすべての悪」が現れたと捉えている。こうした先史観の背後に、史的唯物論による見方もある。(後略)
欧米はギリシャ文化を発祥の地と考え、その継承者として自らを位置づけた。その基準から上から目線で世界の他の文明を解釈してきた。日本でもこういう考えに意識的か無意識かを問わず、流されてきた。
日本では考古学と人類学はかなり隔たっているが、考古学と人類学は他の国ではかなり近い。とりあえず、この本の内容をひも解く中から、グレーバーらの『万物の黎明』を理解するための第一歩を始めることができると思う。それが、われわれの未来社会の展望に寄与できればなおよい。古代文明を知ることは、温故知新のようなものか。マルクス主義がこれをどうとらえるかが我々の課題である。(おわり)

追悼 安部哲多さん 海の見える隠岐の島に還る

安部哲多さん

安部哲多さんが亡くなった。満76才だった。2023年11月頃、安部さんに認知症的な症状があらわれた。12月末に病院で検査を受けたところ、脳に腫瘍がみつかった。精密検査で、それは嗅覚神経の腫瘍(嗅神経芽細胞腫)で、がん細胞は脳にひろがっていた。24年1月、奈良県立病院(奈良県総合医療センター)で放射線治療を受けた。その後、松江市民病院に転院し、松江市内の療養施設でリハビリをうけていた。
放射線治療の効果で、安部さんは記憶も復活し、身体はもとの状態に回復していた。しかし、今年7月末に腫瘍が進行していた。再発した腫瘍の進行は速かった。身体運動にかかわる脳分野が麻痺していったようだ。10月30日の夕方7時ころ、松江市の療養先で眠るように、安部さんはその生涯をおえた。

安部さんのこと

安部さんは1949年4月22日、隠岐の島(島後)の卯敷で生まれた。小学生の時に、足の骨に細菌がはいる病気にかかり、1年間を休学している。その後、島後にある隠岐高校にはいった。当時はまだバスもなく、高校では寮生活をしている。1969年に、広島大学理学部数学科に入学する。青雲寮における学生闘争のなかで、安部さんは革命的共産主義運動に接した。
その後、奈良市に移り、奈良育英高校で数学を教える。育英高校では、囲碁と将棋のクラブの顧問をしていた。安部さんは囲碁と将棋は強かったらしい。日曜日には、NHK教育テレビで将棋の番組をよくみていた。安部さんの蔵書には数学の本と将棋・囲碁にかかわる本が圧倒的に多かった。
安部さんは2022年に退職したあと、「なら小草」で小中学生に数学をボランティアで教えていた。また、奈良の地で、三里塚闘争、反原発運動と沖縄闘争をたたかった。

反原発運動と沖縄闘争

奈良育英高校で働いている時期、安部さんは三里塚闘争を闘っていた。わたしは1981年に東京から奈良に移っている。この年、わたしは安部さんにはじめて会っている。こうして44年間、安部さんとともに革命運動をすることになるのだ。その闘いの思い出をいくつか記しておきたい。
2012年7月、「さよなら原発10万人集会」が東京の代々木公園でおこなわれた。17万人が代々木公園に集まった。この集会は、東電福島第一原発事故以降の反原発運動のなかで、記念すべき闘争になっている。安部さん、Sさん、わたしの3人は奈良から夜行バスに乗って、この集会に参加した。Sさんはこの集会に横断幕を持参していた。安部さんと私で、この横断幕をもって、原宿の街をデモ行進をした。夜は、この日の闘いをふりかえりながら、新宿で酒をのんだ。
退職した後、安部さんは「沖縄の高江・辺野古につながる奈良の会」で精力的に活動していた。「奈良の会」は第2土曜と第4日曜日に、奈良駅前でビラ配りをおこなっている。安部さんはかならずここに参加していた。安部さんの姿は見えなくなったが、ビラ配りは現在もおこなわれている。

隠岐の島で

今年4月末、2泊3日で「奈良の会」のメンバー3人が安部さんといっしょに隠岐(島後)をまわった。境港から船で移動しているとき、隠岐の島という実感がいやがうえでもわいてくる。この時期、島後の山にはオキシャクナゲが咲いていた。島後は大きな島なので、ことさら島という実感はもたない。海があり山があり、自然豊かで、人間関係が濃密な土地だ。
この時、わたしたちは安部さんの実家にも行った。今はだれも住んでいない。実家からは海が見え、歩いて1分で砂浜につく。実家はまるで海の家といった場所にあった。卯敷の町は東側に海がひろがり、西側に大満寺山の峰がそびえる。このような自然豊かな町で、安部さんは少年期をすごした。現在、卯敷は数十軒の小さな町だが、江戸時代には北前船の中継基地として栄えた。
安部さんの亡骸はこの地に帰り、11月2日、隠岐の島で葬儀がおこなわれた。今、安部さんは卯敷の地で眠っている。

祝園ミサイル弾薬庫建設に反対する闘い

2024年、安部さんは奈良から松江市の病院に移った。この年3月、祝園のフィールドワークがおこなわれ、祝園弾薬庫の存在をはじめて知った。わたしはこのことを安部さんに手紙で伝えた。今年10月19日、祝園で全国集会がおこなわれ、2700人が集まった。安部さんが元気ならば、この集会に参加していたはずだ。安部さんはわたしから見えないところにいってしまった。これからも安部さんとともに闘っていく。安部さん、わたしたちを見守ってください。(寺田理)

7面

〈論考〉
自衛隊員の処遇と自衛隊の人員不足問題
太田一正

0.「敵基地攻撃能力」の保持と「南西シフト」とによって規定される現在の自衛隊は、かつてないほどの人員不足(現役、予備役とも)に見舞われている。この現象は様々な側面から考察されねばならないが、以下では給与、生活・勤務環境、退職制度等自衛隊員の処遇の側面からこの現象を見てみたい。予備役については、別に一節設けたい。

1.自衛隊員の給与体系一般

自衛隊員の給与表は公安職俸給表(一)で、警察官等にも適用され、国家公務員俸給表中で中位のものである。そして、自衛隊員には様々な手当が支給される。それには例えば川重事件で話題になった潜水手当をはじめとして、航空手当(236000円/月:一尉の戦闘機パイロットの場合)等がある。以上から給与体系一般についていえば、中位の給与額を各種手当で補完する構造になっているといえる。
この構造が人員問題の原因の一つとみて政府は、給与表自体の改訂、手当の新設【航空管制業務手当(一尉の場合:29000円/月)等8件】・手当の増額【災害派遣手当560円/日の増額で2160円/日、等25件】を打ち出している。

2.生活・勤務環境

自衛隊員の生活・勤務環境は相当特殊なものであり、これも人材確保のネックになっているといえる。例えば、営舎生活や艦内生活にはプライヴェートの空間はなく、また勤務地が僻地にある場合が多く、そこでは孤立した生活が強いられるなどである。

3.退職制度

自衛隊の現役兵士は、任期制自衛官と非任期制自衛官とからなる。前者の退職制度は任期満了退職であり、後者は定年退職である。以下では定年退職を巡る制度上の問題を見てみたい。
定年退職の年齢は56歳であり、若年退職という第一の問題がある。次に再任用制度に問題がある。定年後再任用された場合、56〜60歳間の収入は退職時の7割、60歳以後は60歳時の7割である。この再任用制度は、再任用者を必ずしも経済的に安心させるものではない。
更に定年退職後の再就職支援にも問題がある。定年退職後再就職する場合、国(防衛省)の支援があるが、やむをえず再々就職を強いられた場合、国の支援はない。
これらの現行定年退職制度は自衛隊員確保にマイナス要因として働いているものと思われる。それを裏付けるように、政府は現行制度の改革を提起している。それは、体力依存度の低い職種で一部取り入れられていた60歳定年退職を拡張すること、再々就職への国の支援を導入することなどである。

4.予備役について

高市の「台湾有事→存立危機事態」というむき出しの戦争挑発発言に規定される現状では、現役兵士の不足もさることながら、予備役(即応予備自衛官、予備自衛官と予備自衛官補からなる)の不足がクローズアップされざるを得ない。とりわけ予備役の中核をなす即応自衛官の不足が深刻である。
そこでここでは、即応予備自衛官の制度(この制度が、各国における対応する制度と比較して苛酷なものかどうかは今後の課題)と、そこでの処遇改善について見てみる。
即応予備自衛官の1任期は3年。義務は訓練参加30日/年。有事の際の役割は現役兵と共に作戦することであり、そのために訓練時から部隊に配属される。採用対象者は、元自衛官、予備自衛官、予備自衛官補である。任期満了退職後企業に就職した元任期制自衛官にとって、年に30日何らかの部隊に配属されて訓練を受け、事が起これば現役と共に活動しなければならないとは、どのような負担なのだろうか。
政府が提起している処遇改善策は、勤務報奨金(1任期終了後に支給される)の増額等である(この増額を含めて、3曹即応予備自衛官が1任期を終えた場合、支給額は103万円増の274万円になる)。

終わりに

人員不足問題にかかわるだろうと思われる諸要素に対する政府の対応を見ると、我々が如何に兵士を獲得すべきかが見えてくるのではないだろうか。なお、政府の対応については、2024年12月の「自衛官処遇・環境改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」に依った。

(映画評)
『よみがえる声』
監督・朴壽南、朴麻衣 2025年

このドキュメンタリー映画は、朴壽南さんが自分の人生を振りかえり、朴さんが撮ってきた記録映像を再現していく。朴さんは脳梗塞でたおれた。現在、その後遺症で自由に動きまわることができないが、記憶は鮮明だ。朴さんが撮りためた約50時間分の映像が倉庫に保存されている。娘の朴麻衣さんがこれらの記録(映像と音声)を整理している。両者の共同作業の中から、このドキュメンタリーがつくられた。
朴壽南さんは在日2世として、1935年に日本で生まれた。父は「関東大震災の時、千葉県野田市の醤油工場で働いており、仲間の労働者にかくまってもらった」と映画の中で語っている。戦争中は、皇国少女として育った。解放後、朝鮮学校で祖国の歴史と文化を学びつつ、自分自身の民族的な魂を再び取り戻していく。
朴さんの闘いは「小松川事件」をおこした李珍宇との交流からはじまる。李珍宇は貧困と差別のなかで、殺人事件をひきおこしてしまった。朴さんは彼との文通をとおして、人間的覚醒を模索する共同作業をおこなっていく。朴さんは「彼を助けてあげるというような他人事ではなく、李珍宇は私自身でもあった」と語る。当時、朴さんは朝鮮総連の新聞記者をしていた。朝鮮総連から「小松川事件」に関わらないように注意される。朴さんは新たな闘いをはじめる。
1964年、朴壽南さんは「在日1世」の声を記録する作業を開始していく。植民地支配で生きてきた朝鮮人がみずからの恨を言語化して、言葉で表現するのに限界があった。朴さんは「恨を表現する手段として映像が最適だった。つらい体験を言葉にすることができない。しかし、表情で表現することができる」と語る。朴さんは日本各地をまわり、朝鮮半島にも出向いていって、当事者の声を聞いて回った。朴さんは「歴史は支配者が残した記録によってではなく、虐げられた人たちによって作られる」と語っているように、その声は植民地支配の歴史を残すことでもある。朴さんは「こうして、わたしは被害者の声ばかりを聞いてきた。しかし、加害者の側は、ほとんど語っていない。これでは歴史が繰り返されることになる」と、日本の情況に危機感をいだく。
映像には、朝鮮人が体験した当事者の声がなまなましく記録されている。広島で原爆被爆した人、沖縄戦で軍属として日本兵にされた人、日本に連れてこられ炭鉱労働させられた人、軍隊「慰安婦」にされた女性など。
軍艦島を旅する映像(今まで未公開になっていた)が圧巻だ。残されたアパートなどをまわりながら、徐正雨さんがその体験を語っていく。辛さんは朝鮮半島の方を向いて、その過酷な人生に慟哭する。
同時に朴壽南さんの闘いでもあった。「自分は何者なのか」を検証していていく旅、これが朴さんの闘いであった。自己のアイデンティティーをさぐる作業が、当事者の声をきき、映像に残す作業でもあった。現在、日本帝国主義支配下の朝鮮半島からきた「在日1世」はほとんど亡くなっている。その貴重な記録が映像と音声で残されている。(鹿田研三)

> (闘争案内2)

2026元旦行動
とき:1月1日(木)午前10時
ところ:大阪府警本部前
主催:労働組合つぶしの大弾圧を許さない実行委員会

世界の核惨事と放射能ヒバク〜隠されたヒバクの恐ろしさ〜
とき:1月17日(土)午後2時半〜4時半
ところ:国労大阪会館1Fホール
主催:脱原発政策実現ネットワーク関西・福井ブロック

玄海原発控訴審判決
とき:1月20日(火)
午後2時半 行政訴訟(国)判決
午後2時45分 全基差止(九電)判決
午後3時 記者会見・報告集会

核問題特別委員会 公開講演会
講演:鴨下全生さん(福島原発被害東京訴訟原告)
津久井進さん(原発賠償ひょうご訴訟弁護団長)
とき:2月21日(土)午後2時〜4時半
ところ:大阪クリスチャンセンター1階大ホール
主催:大阪教区核問題特別委員会



8面

通信KOSUGI
ソウル日本大使館前の水曜デモに行って来た

柵で囲まれた「平和の少女像」(11月5日 ソウル)

11月はじめに、日本軍「慰安婦」問題を取り組む神奈川の人たちと「韓国の運動を学ぶ旅」(仮称)に行って来た。
メインは5日の日本大使館前での水曜デモ。この日は「第1725次」で、主催は日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)。この日の主管は韓国YWCA連合会。 私たちが着いたとき、すでに右翼が少女像前に攻撃に来ており、それを迎え撃つカウンターもいて、警察が警戒、私たちは「平和の少女像」前まで行けなかった。 正義連李娜榮理事長が週間報告をおこない、「極右勢力が2019年から水曜デモを妨害し、少女像を毀損し、被害者の自宅まで押しかけて極右集会を開き、面前で侮辱してきた。私設の研修会を開いて『金福童が強制連行されたと言うのは嘘だ』、『性奴隷制ではなく売春』、『少女像は娼婦像だ』と吹き込んだ。
さらにはドイツまで行って『ベルリンの少女像を撤去せよ』と叫び、ヘイトデモを強行した。彼らは日本の極右団体と協力して韓日を往来し、日帝の不法植民地化、戦争犯罪、強制動員、性奴隷制などを全て否定するために組織的に活動する人々だ。」と弾劾していた。しかし、「今も世界のあちこちで怒りと共感、勇気と情熱で真実を掴んで立ちあがる『私たち』がいる。私たちの存在そのものが勝利のしるしであり、超国家的連帯の力が希望の灯りだ。1725回まで積み重ねられた水曜デモの莫大なエネルギーと蓄積された時間の力が、私たちの未来を変えるだろう」という熱いアピールだった。
この日の「声明」も、「日本軍性奴隷問題について、日本政府は依然として真摯な謝罪と法的賠償を回避しており、問題を『すでに解決済みの事案』と規定する強硬な立場を維持している。韓国の裁判所は日本の『主権免除』なる主張を排除し、被害者への賠償判決を下したが、日本政府はこれを認めていない。また韓国政府も2015年韓日『合意』の曖昧な基調を維持し、事実上外交的議論を止めたまま、日本軍『慰安婦』被害者中心のアプローチという人類普遍の正義を無視している」と糾弾。「国際社会はこれを戦時性暴力・女性人権の普遍的課題として注目しているが、記憶の象徴を消し去ろうとする動きも絶えない。最近ドイツのベルリン・ミッテ区で、裁判所の決定により平和の少女像が撤去される出来事があり、世界各地で歴史否定勢力が被害者の名誉を冒とくしている。責任を回避することも、記憶の象徴を毀損し消し去ることも、すべて暴力だ。これらはすべて、被害者の尊厳を否定し、私たち社会の『安全な空間』を崩壊させる行為だ」と怒りの声明であった。
正義連李娜榮理事長が報告(11月5日 ソウル)
神奈川の市民団体として私たちからも韓国語でアピールをおこなった。
「私たち日本の市民団体は、大きく2つの課題を闘っている。一つは日本政府に対して、もう一つは各地域での闘いだ。日本政府に対する闘いとして、首相になった高市は、1997年10月、『慰安婦』問題の教科書掲載に関する質問主意書で、『日本だけでなく他国の軍隊も同様で、日本の軍隊の慰安施設だけをことさらに取り立て、現在の価値基準で一方的に批判することは不適』と主張し攻撃し続けてきた議員だ。その結果、今は日本の教科書に日本軍『慰安婦』についてほとんど載っていない。高市に大きな責任があるのであり、今後さらに強力に批判し、教科書への掲載などを勝ち取っていかなければならない。次に、各地域での闘いとして、在日コリアンをはじめとする在日外国人への差別・排外主義は、日帝植民地支配の残滓であり、さらにそれを煽る草の根保守勢力と、私たちは各地域で闘っている。近年は各選挙運動を利用して差別・排外主義を煽っている。高市も、草の根保守勢力も、日本軍『慰安婦』をはじめとする侵略と人権侵害の歴史を否定し、日本の過去の歴史を美化しようとしている。私たちは、ハルモニたちのことを忘れることなく、みなさんと共に連帯し闘っていく」と結んだ。(つづく/神奈川・深津利樹)

(本の紹介)
『食権力の現代史―ナチス「飢餓計画」とその水脈』
藤原辰史著 2025年9月30日発行 人文書院 2970円

ヒトラーナチスが、1日1工場10万人ともいわれるユダヤ人の虐殺を敢行していると知って、ドイツの女性哲学者は、こんなことはありえない、あってはならないと慨嘆した。『全体主義の起源』を書き、ニュルンベルク裁判を傍聴した彼女は、辛くも生き永らえ、アメリカで没した。
現在のイスラエルによるパレスチナ人虐殺は、世界中の心ある人が、同じショックを味わっている。人権法や国際戦争法やあらゆる刑事犯罪のものさしをあてようとしても、当てているほうが、おぞけを催し、正気でいられなくなる事態は、ハマスの蜂起は、造反有理であっても、イスラエルの過剰反撃虐殺以来、絶えることはない。大量殺戮―ジェノサイドのすさまじさに、パレスチナの人々はよく耐えている、耐えられないがやられながらたたかっているのだと伝える側も、それぞれ立場と距離がある。シオニストは、新たにパレスチナの人々を殺し、世界難民化する。
もはや、2023年10月以前よりパレスチナの人々を救え! と叫び訴えることしかできない市井の人々の人間的広がりとともにイスラエルの徹底的なジェノサイドについて、歴史的に考えつくそうとする任務を背負う人間のひとりとして藤原氏がいる。
明治維新のころ、欧米に近代国家なるものの正体を見、日本近代を速成した時の第一のモデルは、ドイツではなかったか。
大戦時のイギリスによるドイツへの「飢餓計画」について、すでに『カブラの冬 第一次世界大戦期の飢餓と民衆』を2011年1月20日に広刊している藤原さんは、東電福島大地震・津波原発事故のほぼ2月前、35歳くらいのときであったろうか。既に広島・長崎、朝鮮戦争、ベトナム戦争を知った彼の青春は、人間が置かれる最悪の条件についての研究の日々。飢餓が、政略・戦略となり、決して、自然の気象天候のもたらしたものではないことに至る。現在、とれたての、出来立ての、新鮮な食べ物を3食食べている人が、世界にどれくらいいるのだろう。しかし、食のある意味で、絶対的基礎的な位相から、氏は、戦略、政略として書き募ることは控えているようにも感じる。国家があれば「自然に」権力が発生する。戦後ドイツの家庭で、エコロジーが隆盛になるころ、自分の食卓に出てきた食べ物の由来や経路や、携わる人々のすがたを一通り思い浮かべて食べてみましょうという運動があった。魚が一匹切り身で泳いでいるというイメージを都会の子どもは持ち、魚が正札をつけて泳いでいると半ば信じている。現代の戦争では、電力製造と水利管理施設のインフラ攻撃が、現実になっている。人間の生存の基本をなすものへの軍事攻撃であるが、飢餓計画は、殺人の加害直接性が希薄なのだという。「自然とおもわれるものを全体的に冒してゆく」これが、飢餓のジェノサイドであり、パレスチナの人々が冒されたジェノサイドのひとつである。
そして、2023年勃発のパレスチナ大蜂起から、この著作まで、いわば、人類にあってはならないことばかり、みせられ、あじわわされ、語ることを期待されている立場にある。 日々の爆撃のなかで、爆発に見舞われたひとびと、とりわけ、こどもたちは、自分のからだに、名前を腕や、足にかきこんでいる。亡骸は、丁重にあつかわれるまえに、誰か、男性か女性か、大人か子どもかわからぬ迄に、ずたずたにされる。現代の行動的ジャーナリスト、学者知識人、医療従事者、支援者まで、同じ運命にある。
こうした状況で、この著書を読むのは、干天の慈雨である。もとより、国家権力や武器製造、儲けるための食品生産、化学薬品などに携わる生産事業者などについての読者なりの追及がまたれる。著者は最後にこう書いている。内容の引用はこれだけとする。この書物の歴史の木を見て森を観ずの悪弊に陥る。
「歴史化されなければ対象化できず、対象化されなければ解決には至らない。食権力そのものを歴史の根源から問わない限り、施設化した飢餓の命脈を絶つことはできない」 これは第2の自然学とも言えそうだ。(南方史郎)

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