体制的危機深める日本帝国主義
岸田打倒を機に人民総反乱を
政治経済危機深まる
首都防衛かかげる排外主義者=小池
東証株式大暴落 下げ幅過去最大
8月5日、東証株式市場は1987年のブラックマンデーを上回る4451円という過去最大の下げ幅を記録した。続くニューヨーク市場も大幅下落、世界的な株式大暴落となった。これに先がける2日の2216円急落と併せると、3週間で1万円という戦後最大規模の下落である。これは直接的には、AI退潮というアメリカ市場の先行懸念を発端とするが、さらに7月28日の日銀利上げにともなう円高ドル安も加えての日本の輸出産業への打撃は避けられず、市場全体がパニック状態になっている。そのうえイスラエルのハマス幹部殺害へのイランの報復戦争が中東情勢を混迷に追い込むのは避けられず、この先行き懸念で株式市場はさらに冷え込み、引き続きの続落は避けられない。
安倍政権は長く続くデフレ下でも株高だけを支持基盤にしてきたが、続く岸田政権は政治的混迷の中でも唯一「経済の岸田」を最後の支えにしてきたが、それも一気に崩れ始めた。7月30日からの株式下落は実に1万0765円で、株式市場はわずか1週間で4分の1の資産が失われたことになる。1929年ニューヨーク株式大暴落が世界恐慌と第2次世界大戦への道となった。
乱高下はあるが戦後帝国主義の「虚構の繁栄」が今大きく崩れ始めたと言える。
株式大暴落で岸田再選は消滅
わずか15%程度の内閣支持率ながら崩壊せずにきた岸田政権だが、「選挙の顔」選びの9月自民党総裁選は、今回の株式大暴落で、もはや岸田再選はありえなくなった。しかしながら裏金問題=金権問題を突破せんとする抜本的改革を掲げる次期総裁候補はどこにもおらず、9月自民党総裁選は混迷を続け、自民党政治の終焉寸前をつげている。その中での今回の株式大暴落は支配階級総体の危機を知らせた。官製春闘で史上最大の賃上げと言いながら、物価上昇がそれを上回り実質賃金は上がらない。わずかに経済状態が安定として円安基調打破と日銀は利上げに踏み切ったが、これも1週間で全面裏目に出た。
長く続く経済不況の中で「経済再生」にはもはや軍需産業・原発産業に全面回帰するしかないというのが経団連をはじめとする資本家たちだ。岸田政権が2022年末安保3文書を改定し、5年間43兆円の軍事予算を組むや、三菱・川重・NEC・IHIらは猛然と軍需産業に群がりはじめ、癒着を強めている。東芝・日立らも原発産業再開を目指し、国家政策(第7次エネルギー基本計画)で再び原発の全面再開に社運をかけようとしている。しかし今回の株式大暴落はここにも冷や水をぶっかけた。
さらに「貯蓄から投資へ」と今年1月から始めた新NISA(小額投資非課税制度)投資家に対しては、「一喜一憂せず」長期戦略としてガマンを呼びかけるしかないが、「損をするのはいつも個人投資家」との恨みが蔓延する。東証前の投資家は「ザルの底が抜けた」と丁度1929年ニューヨーク取引所前の市民のように慨嘆している。
軍備大増強にかける日帝・政治委員会
岸田政権は崩壊寸前でも、「安倍政権でもできなかったことをした」と自民党副総裁・麻生が言うように軍備拡大ではきわめて先鋭的な攻撃を続けてきた。すなわち安倍政権の敵基地攻撃能力(先制攻撃)を引き継ぎ、安保3文書で国家安全保障戦略を確定し、軍事予算をGDP比2%に2倍化した。24年4月日米首脳会談ではさらに日米軍事一体化を進め、7月2+2でも統合作戦機能を強化した。24年通常国会では「戦争法国会」として地方自治法や秘密保護法の改悪を進め、武器輸出全面解禁にむけ法整備を進めた。
実体的軍事整備では、とりわけ沖縄・南西諸島(琉球弧)をめぐって辺野古新基地建設には司法権力も動員して強行し、自衛隊基地は与那国島から石垣島、宮古島、沖縄島、奄美大島、馬毛島まで切れ目なく建設して来た。九州全域の基地網を整備し(佐賀空港=オスプレイ基地化、大分空港=米軍・自衛隊使用、大分日出生台での大演習、福岡・築城、宮崎・新田原、鹿児島・鹿屋など)、全国の港湾・空港を補給基地化(四国4港など)、本格的長期的戦争遂行のため大分・敷戸、京都・祝園など弾薬庫の大幅増設も予算化し工事が始まろうとしている。
装備においても先制攻撃のためのスタンドオフ戦略のもと、ミサイル網整備・次期戦闘機共同開発(空自)、空母・イージス艦・潜水艦隊整備(海自)、地対艦ミサイルの長射程化(陸自)などの全面整備をしてきている。また呉の日本製鉄跡地の買収=呉周辺の全面軍港化に典型の帝国陸海軍の「夢」を追いかけている。そして武器輸出の全面解禁で、三菱、川重、NEC、IHIなどの再生もかけて、この国の経済全体を軍民一体の軍事国家化・死の商人国家化をめざしているのだ。
沖縄全域を最前線出撃基地化し、九州全域に対朝鮮半島・中国大陸全体をにらんで配置し、熊本市健軍基地を軍事中枢とする。中国・四国は連合艦隊母港=呉軍港と連携させ、関西は三菱・川重の軍需工場、祝園の弾薬庫と舞鶴を軸に整備していく。ここにはまぎれもなく近代150年の大日本帝国の軍事思想が脈々と流れている。
侵略戦争思想に取り込まれる立憲民主党
このような岸田政権の危機の進行を、議会内政党とはいえ岸田政権打倒・政権交代・民主的諸改革として実現するのではなく、野党の側から政権危機を救う立場を急速に強めているのが立憲民主党と言わねばならない。とりわけ9月代表選をめぐって真っ向から岸田政権の全政策、とりわけ軍事大国化・憲法改悪に反対するのでなく、逆に基本的人権・国際連帯を否定する主張を披歴しているのが枝野元代表と泉代表である。枝野幸男前代表は7月7日宝塚市で、「沖縄の米海兵隊が撤退した後は自衛隊が引き受けたらいい」と主張した。沖縄人民にとっては、米軍も自衛隊も要らず東アジアの平和的関係の中に暮らしたいというのが願いである。しかも米兵による女性暴行が相次いでおり、岸田政権がそれを隠蔽しているさなかに、沖縄戦で沖縄人民を殺したのは自国軍隊であることを知ってか知らずか、自衛隊の進駐を進言するなど野党としては許されないことである。
今一つは埼玉県川口市議会におけるクルド人排撃問題で、立憲民主党やれいわ新選組などが排撃決議に反対する中、れいわ新選組に所属しながら賛成に回った小山市議問題である。小山市議はれいわから離党し無所属になり、引き続きの外国人排撃の主張を続けたが、なんとそのヘイト市議を立憲民主党は国政選挙候補として公認し、しかもれいわ候補のいる選挙区にわざわざぶつけてきた。ヘイトを容認し、野党共闘を破壊するこの行為には、各方面から疑義が出されたが、泉代表は「問題ない」として最終的に承認した。
戦争の足音が近づき、軍備が拡張され、外国人への排撃の世論があおられる。これに対しては断固として反対するのが野党の役割のはずだ。立憲民主党は杉田水脈のような人物を党内で育成していくのだろうか。
全面破産まぢかの維新
この立憲と一時は「野党第一党」の座を争うとしてきたのが維新の会であるが、今や崩壊に向かっての急坂を転げ落ちている。一つは大阪万博破産問題で、今一つは兵庫県斎藤知事問題である。維新は唯一の結集策であった大阪都構想が2度の住民投票で敗北し、橋下・松井が引退に追い込まれた。次の吉村世代の結集策が大阪万博・IRであったが、既に1年を切っているのに、パビリオン完成のめどは立たず、観客動員もママならず、大阪府下の児童・生徒を無料招待としたが、メタンガスやトイレ問題など基礎的インフラ面すら整備されてなく急速に忌避感が充満してきた。府下各地の市議会で忌避決議が上がり、吉村の地元でも選挙連敗が続いている。
兵庫県斎藤知事は元大阪府財務課長で、維新の推薦で兵庫県知事に当選した。当選前から県庁4人組(片山前副知事ら)と組み、当選後は好き放題の県政運営をおこなってきた。それがパワハラ問題である。自治体の首長はその自治体全体の代表だが、一政党の意向のまま人事・県政運営を壟断してきた。労働組合が弱体化する中で、県の局長が決死告発したわけだ。この内容について公益通報者を保護せず、関西マスコミを背景に「事実無根、ウソ八百」と虚偽会見をした時点ですでにアウトだ。馬場維新代表らはいまだに「事実が判明したら」と言っているが、7月19日の百条委員会で「ワイン」おねだり発言は確定したではないか。維新は収賄寸前の首長をかばい、製造責任を取らないなら、8月30日の百条委への喚問前に維新の支持率が断続的に低落していくだろう。
いずれにしろ、労働組合敵視の新自由主義政党として一時期大阪・関西で急伸した維新の没落は不可避だ。兵庫県知事の退任迫る市民の闘いは、民主主義の奪還の先頭に立つことが求められている。
祝園・武器輸出反対闘争先頭に今秋闘争へ
沖縄を最前線出撃基地に、全土を軍事基地化する攻撃に反撃が始まっている。8月10日には県民大集会が、関西=大阪でも同時行動がおこなわれた。祝園弾薬庫に対しては8月11日にフィールドワーク・申し入れ行動が闘われ、8・25には小西誠さん講師の大学習会・町内パレードが開かれる。武器輸出の全面解禁に向けては、武器輸出反対ネットワークの杉原浩司さんを招いての集会が開かれる。この一連の闘いを大きくさせ、新安保沖縄闘争と言える闘いに発展させよう。
また反原発闘争では敦賀原発2号機のデータ改ざんが問題となり、かの原子力規制委員会すら「新規制基準に適合せず」の結論を出した。イスラエルによるイランでのハマス幹部の殺害をめぐって世界的憤激が起こっている。アメリカ大統領選も本格的内戦寸前だ。要するに世界中で帝国主義支配階級の戦争と分断支配に対して、労働者階級・被抑圧人民の解放を求める闘いが澎湃と起きている。日本でも政治・経済的危機にのたうつ岸田政権打倒へ人民総反乱は不可避だ。対中国・対アジアへの排外主義的危機意識をあおる政権に対し、全人民的決起をたたきつけよう。
8・25祝園大学習会・パレードから9・22集会の戦闘的高揚を闘いとろう。
敦賀原発2号機
新規制基準に適合せず
8月2日 原子力規制委員会が決定
福井県敦賀市にある、日本原子力発電(日本原電)敦賀原発2号機について、原子力規制委員会は8月2日、臨時会合を開き、原子力建屋の真下に活断層がある恐れを否定できないとして、新規制基準に適合しないと結論づけ、審査を終える方針を決定した。事実上、再稼働を認めない結論がくだされた。
再稼働をめざしていた国内の原発で「新規制基準に適合しない」という判断が初めて示された。
データー改竄など不正くりかえす
敦賀原発2号機からわずか200メートルを活断層である浦底断層が走っている。2号機から北300メートルの掘削溝内で見つかった「K断層」が活断層か、2号機の原子力建屋の真下まで延びているのかが焦点になり、日本原電側に科学的にK断層が活断層ではなく、また2号機真下まで延びていないことを証明することを求めたのにたいして、日本原電はまともな回答ができなかった。そればかりか、データーの改竄や資料の誤りなどを繰り返し、異例の行政指導を受ける始末であった。そして23年8月末に申請書を再提出したのである。
廃炉を拒否する日本原電
歴代の規制委員会委員長は原発再稼働の審査について、「規制委員会は、原発の安全性を審査するものではなく、規制基準に適合しているかどうか(だけ)を審査している」と繰り返し述べてきた。
それを政府や原子力ムラが「安全性を規制委員会が認めた」とすり替え、地元同意から再稼働へ突っ走ってきたのである。
敦賀2号機に再稼働の道は残されていない。日本原電には、再度申請をおこなうことは認められているが、今回の結論を覆すことは出来ない。日本原電は「廃炉は考えていない」と居直っているが、廃炉を強く迫っていかねばならない。
敦賀市内最後の原発
敦賀市は原発銀座の中心として、かって4基の原発が存在した。新型転換炉ふげん(原型炉)、高速増殖炉もんじゅ(原型炉)、そして、敦賀原発1号機、2号機である。さらに敦賀原発3、4号機が計画され、立地造成は終わっている。しかし2011年3・11以後は、計画は中断したまま。
新型転換炉ふげん、高速増殖炉もんじゅは廃炉が決定し、敦賀1号機も廃炉が決定している。残された唯一の原発が敦賀2号機である。2号機を廃炉に叩き込めば、原発銀座若狭の中心をなした敦賀から原発が一掃されることになる。
原電存続の危機
敦賀2号機が再稼働できないことは、日本原電の経営基盤を危うくする。日本原電は、東海第二原発(茨城県)と敦賀原発2号機を所有しているが、現時点でどちらも稼働していない。
東海第二原発は新規制基準に合格しているが、安全対策が必要(防潮堤の不備)であり、また、地元同意についてもまったくめどが立っておらず、再稼働の時期を明らかにできない。さらに水戸地裁で運転差止判決が出され、控訴中である。
敦賀2号機も2011年3・11以後、止まったままである。
それでも、日本原電が存続できるのは、大手電力会社の支援があるからである。敦賀2号機の場合、将来発電できれば、関電、北陸電力、中部電力に電力を供給するとの前提で、1ワットも発電していないのに、関電などが「基本料金」と称して支払い続けているからである。この原資は、関電など大手電力の電気料金収入であり、何時までこの構図が続くのかと、株主総会でも毎年問題にされている。
2号機廃炉、3号機、4号機増設阻止へ
敦賀2号機は、日本原電が「廃炉を考えていない」といくら強弁しても、稼働したくとも稼働できない状況が続く。敦賀2号機の廃炉をわれわれの手で実現しよう。3号機、4号機増設の企みも阻止しよう。
2面
反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック総会
北野進さんが熱弁
7月15日高槻市
会場一杯の人で盛り上がった(7月15日 高槻市) |
7月15日(月・休)、高槻市内で反原発自治体議員・市民連盟関西ブロックの総会が開かれた。木村真豊中市議、高木りゅうた高槻市議、是永宙高島市議ら多数の自治体議員・元議員らの参加のもと、会場一杯の80人が参加し成功裏に勝ち取られた。
メインの講演は珠洲原発を阻止した北野進元石川県議と木原壯林さん。特に北野さんは珠洲市民として今年1月能登半島地震の直撃を受けた。現在志賀原発の再稼働をさせないため闘っているが、元は珠洲市で珠洲原発を阻止した中心的運動家。もし珠洲原発が稼働していたら計り知れない被害になっていたたと誰もが想定できる。北野さんはA4で20頁をこえるカラーのパンフレットを持参。1月1日の地震で能登半島が2メートル〜4メートル隆起した実態を海岸部の写真で提起。つづいて1990年代の珠洲の闘争が、町役場に座り込み泊まり込みながら闘いぬいたことを当時の写真から説明。各種の選挙戦も闘いぬき、自らも石川県議、珠洲市議として闘いぬいたことを証言した。木原さんは中間貯蔵地の問題などを報告した。
集会は質疑応答のあと、関東からの結柴前杉並区議等のアピールもあり、議員と市民が連携し、今秋にも策定される第7次エネルギー基本計画との闘い、9・23高浜全国集会などを確認した。
3面
沖縄米兵による性犯罪を許すな
政府、外務省が隠ぺい
豊崎西公園から梅田まで緊急抗議行動(7月22日 大阪市) |
昨年、12月24日沖縄において米空軍兵による性犯罪事件が起きた。しかも被害者は16歳に満たない少女だった。クリスマスの夜、米兵は妻とけんかをしてむしゃくしゃしたので外出し、公園にいた少女をみつけ嘘をついて誘拐、自宅で犯行におよんだ。解放後、少女はすぐに母親と警察に通報した。
今回の事で少女をさらに傷つけたであろうことはその後の事実経過にある。警察権力は外務省に連絡、首相官邸にまでは連絡が行ったが、沖縄県には一切連絡が行かず隠蔽していた。事実が発覚したのはなんと半年もたってからだ。地元のメディアが常日頃のルーティンワークとして裁判所の裁判予定をチェックしていて気が付いたという。選挙、沖縄追悼の日と忙しいさなかもルーティンワークを怠らなかった地元メディアの勤勉さには頭が下がる思いだが、このスクープによって沖縄県が初めて事実を知ったという経過は実に衝撃的である。
プライバシー保護と再犯防止
政府・外務省の隠ぺい工作の口実は「被害者のプライバシーを守るため」だそうだ。被害者の立場に立ちきった人が使う言葉を、加害者擁護・自分の立場擁護のために使うのだから犯罪的ではないか。こうした事件の場合、プライバシー保護は当然のことであり討論以前の問題だ。プライバシー保護により被害者個人は守られねばならないが、再発防止のために社会は全力で努力しなければならない。再発防止対策は文字通り再発を未然に防止するだけではなく、社会的な対策が被害者の心を慰め、「自分は悪くない、責められるのは百%加害者である」と性被害者特有の自責の念をそっと否定してくれるのだ。政府は口実にもならない口実だけは居丈高に叫ぶが、隠ぺいした期間、再発防止のための措置は一切取っていない。少女の心を何回傷つければ気が済むのか。
数字の中に消えてしまう被害
沖縄県警はネット上に被害件数をアップしていると居直っている。しかし、数字の中で被害者の怒りや苦しみ、悲しみを読み取ることは難しい。もちろん数字が雄弁にその被害の大きさを語る時もある。しかしあくまでも数字は数字であり、個々人の心も被害にあった経緯も消えてしまう。政府の隠ぺい工作はまさにこうした沖縄の怒りを永遠に葬りさろうとするものだ。
沖縄軍事政策のための隠ぺい
この隠ぺい工作は政策を有利に進めるための組織犯罪だ。
そもそも事件が起こった昨年12月24日とはどういう意味がある日だったのか。国は辺野古の新基地建設設計変更について玉城デニー知事に12月27日までに承認するようせまっていた時期である。知事が断固として拒否するとあくる正月、国は「代執行」に踏み切った。その真っただ中での事件を隠ぺいして代執行の暴挙に走ったのだ。
そして米兵が起訴された3月はどうだっただろう。4月に岸田首相の「国賓待遇」訪米が近づいていた。隠ぺいのおかげで岸田は上機嫌で訪米し、愛想笑いを振りまいていたではないか。しかし、最悪の事態が起こってしまった。米海兵隊員による第二の性暴力事件が5月に起きたのだ。もし4月の訪米において岸田がバイデンに厳格な米軍綱紀粛正・効果のある再発防止策を迫っていれば起こらなかったかもしれない事件だ。岸田はこの被害者にどう謝罪するつもりなのか。
そしてその5月にはエマニュエル駐日大使が日本最南端の与那国島を初めて訪れ、「戦争を防ぐ一番の方法は抑止力だ」とうそぶき沖縄にさらなる犠牲を強いると宣言した。事件を公表していればエマニュエルは厚顔無恥にも声高にこんなことは言えなかったにちがいない。
6月16日は沖縄県議会議員選挙だった。ここでも事件が公表さえされていれば結果は全く違ったものになっただろう。そういう意味で、正当な選挙はおこなわれなかったといわざるをえない。
そして6月23日は沖縄戦没者追悼式。岸田はここで「沖縄の皆様の負担軽減に全力を尽くしてまいります」と平然と言ってのけた。岸田は心の中できっと赤い舌を出して笑っていただろう。そして6月25日、ようやく7月に裁判が始まるときになって米兵の犯罪が明らかになったのである。
容疑者はなぜ保釈されているのか
日本の司法制度は容疑者を長期に勾留し、それが自白の強要=冤罪の源になっているといわれている。要するに長期勾留が正しいわけではないが、今回の少女誘拐・性犯罪事件では、重罪かつ容疑否認のまま保釈されている。日本人だったらありえないことだ。このダブルスタンダードは許されない。米軍は容疑者を「厳しい監視下に置いている」と言っているが具体的にどうしているのか明らかにしていない。米軍は今回の事件について、あくまでも謝罪を拒否しているのだからこのまま本国に返してうやむやにすることも可能なのではないか。容疑者はもしかしたら基地の外をうろつきまわっているかもしれない。
米軍基地を撤去せよ
容疑者はむしゃくしゃして外出し少女に出会った。つまり少女の自宅と容疑者の自宅は遠くないと推察される。また幼い少女の生活圏がそれほど広いはずはない。容疑者が裁判を前に少女の家の近辺をうろついているかもしれないと考えると、少女の恐怖はどれほどだろうか。容疑者は通報されたことを逆恨みしているかもしれないし、「合意の上だった」と証言するよう脅迫するかもしれない。米軍基地はあってはならないが、人々との共存はさらにできないことの証明だ。米軍基地をなんとしても撤去せよ!(岡田恵子)
沖縄日誌7月
米兵性暴力
県民大集会へ 高まる怒り
7月1日 名護市辺野古の新基地建設で沖縄防衛局が、4日にも大浦湾側の海域でくい打ち作業の試験を実施することが分かった。「A護岸」の造成に必要な鋼管矢板というくいを打ち込む。
3日 大浦湾でくい打ち試験作業が始まった。政府は、県が着手しないよう求めた要請を無視し作業を強行した。海上監視船の市民はくい打ちの開始に抗議した。キャンプ・シュワブゲート前の市民は、くい打ちの報告に「くい打ちをやめろ」「私たちはあきらめない」と怒りの声を上げた。
4日 那覇市の県民広場で「人権と命について考える緊急抗議集会」がおこなわれ、市民6百人が参加。集会では女性たちが次々とマイクを握り、日米政府や米軍への抗議の思いをぶつけた。玉城デニー知事はメッセージを寄せた。
6日 名護市辺野古のキャンプ・シュワブゲート前で、「第43回県民大行動」がおこなわれ、1200人が参加。ゲート前の座り込みを始めて、7日で10年。参加者はフェンス沿いで手をつなぎ「人間の鎖」をつくり、「辺野古新基地建設やめろ」とシュプレヒコールを上げた。
8日 辺野古新基地建設で沖縄防衛局は大浦湾側のくい打ちに着手した。防衛局は4日に大型サンゴの損傷を確認し、作業を一時中止していた。「沖縄ドローンプロジェクト」は、くい打ち作業の様子を撮影。撮影者は「濁り水が流出している。汚濁防止が機能していない」と指摘し「本格的に工事が始まれば、さらに濁り水が流出するだろう」との見方を示した。
10日 県議会は6月定例会本会議で、相次ぐ米兵性暴力事件に対する抗議決議と意見書を全会一致で可決した。この間、多くの市民団体が外務省沖縄事務所や沖縄防衛局に抗議するなど県民に激しい反発が広がる中、県議会でも与野党が一致して、強い抗議の意思を示した。
大阪での緊急行動(7月22日) |
12日 2023年12月に発生した米兵少女誘拐暴行事件の初公判が那覇地裁(佐藤哲郎裁判長)で開かれ、米空軍兵長の被告は「私は無罪」と起訴事実を否認した。無罪主張に法廷がざわめいた。
23日 北大東村への航空自衛隊移動式警戒管制レーダー配備計画で、村長が配備受け入れを述べた。この間住民説明会が開かれるなど配備を巡って賛否の意見が出されていた。
27日 県女性団体連絡協議会は「県民大会を開こう」と米兵による性暴力事件への抗議や再発防止などを求め大会の開催を呼びかけた。「超党派」の大会になっていくとの認識を示した。
同日 28日から8月7日までおこなわれる日米共同訓練「レゾリュート・ドラゴン24」に抗議する、うるま市民集会が陸自勝連分屯地ゲート前で開かれ、市民270人が参加。同訓練は県内では沖縄島や伊江島、鳥島、宮古島、石垣島、与那国島などの自衛隊や海兵隊関連施設でおこなわれる。
28日 日米共同訓練が始まった。石垣島では陸自石垣駐屯地前で市民団体15人が抗議行動。宮古島ではミサイル基地いらない宮古島住民連絡会と宮古島平和ネットワークの15人が抗議行動。与那国島では陸自与那国駐屯地前で市民団体や市民が抗議行動。
4面
米兵による性暴力事件弾劾!
岸田政権が隠ぺい 8・10県民大集会(下)
岸田政権は2023年12月24日から2024年6月25日まで報道管制を敷き隠ぺい
キャンプ・シュワブ包囲行動(7月6日) |
岸田は米兵による少女誘拐、性的暴行事件を隠蔽することにより日米軍事同盟の飛躍的強化をアメリカと約束し、バイデンに褒められました。また、6月16日沖縄県議選は過去最低の投票率(45・24%)でした。自民党は徹底した「裏金問題隠し」、辺野古問題を経済・振興にすり替え焦点を隠しました。選挙では自民党色を隠すため中央政府から1人も呼ばずに県民世論欺きに成功しました。投票率の低下のお陰で自公の「組織票」で勝利した。
公明党は「中立」と評し辺野古問題には触れませんでした。しかし、沖縄県と国との争いの当事者は公明党の斉藤鉄夫国土交通大臣です。「埋め立て承認撤回」の「是正指示」を出させたのは斉藤大臣です。沖縄公明党は声を出して「辺野古反対」を上げません。そして、行動も起こしません。このような政治勢力を「中立」と宣伝する沖縄マスコミは岸田とグルです。
玉城知事の「埋め立て工事設計変更不承認」を2023年12月28日に斉藤鉄夫(公明党)国交大臣が「代執行」をしました。
2024年1月10日から大浦湾の埋め立て工事の「代執行」したのも公明党の斉藤大臣です。このような辺野古新基地を率先して強行している公明党が「どの面さげて中立」なのか恥を知るべきです。マスコミも何故この事実を報道しないのか、岸田に付度しているのか。
少女誘拐暴行事件公判で米兵が無罪を主張。7月12日那覇地裁で昨年12月24日に引き起こされた米兵少女誘拐暴行事件、わいせつ誘拐、不同意性交の罪で起訴された米空軍兵長ブレノン・ワシントン(25才)の初公判が開かれた。地裁では世間の関心が高く264人が24席の傍聴席を求めて並びました。
罪状認否でワシントン被告は「誘拐もレイプもしていない」「アイム・ノット・ギルティ」=私は無罪だと主張しました。この無罪証言はまるで16才未満の少女が虚偽の訴えをした事になります。その証言に法廷内は一瞬どよめきが起こりました。
ワシントン被告は少女と性的行為は認めたものの、「同意」があったと犯意を否認しました。そして、少女への年齢確認では「18才と認識した」と証言しました。人間としての良心の一欠けらも感じられません。もし「同意」であるならば110番通報する訳がありません。
2023年7月の法改正で、米兵が問われている「不同意性交罪」では16才未満の少女への性的行為は有無を問わず、原則処罰の対象になります。しかし、米兵は「18才」であると誤信したと主張し、双方の合意での性交であると主張しました。
ワシントンは本島内を車で移動し、公園のベンチに座っていた少女に「大丈夫?」と日本語で声をかけ午後5時16分頃、車で少女を自宅まで連れ去り性的暴行に及んだのです。
少女は帰宅後、母親に泣きながら被害を訴え、母親が110番に通報して事件が発覚したのです。少女の勇気ある性的被害の告発があってこそ米兵を逮捕することができたのです。
次回8月23日には被害少女本人と母親が証言する事が決まり、7月の公判は約45分で終わりました。ただ、気になる佐藤哲郎裁判長の命令、指示がありました。それは、裁判が終了しましたが、傍聴人に対して許可なく席を立たないよう求めたことです。
ワシントン被告は足早に法廷から立ち去りました。弁護人や検察官らも退廷し、裁判長が傍聴人に席を立つことを認めたのはワシントン被告が席を立った約5分後でした。ワシントン被告は裁判長や看視に守られ逃げるように顔を隠し裁判所を去りました。
終わりに
7月12日、沖縄11市市長会が内閣府に自見英子沖縄担当相を訪ねました。それは少女暴行事件の抗議ではありません。その用件は2025年度沖縄会計予算の概算要求に向け、沖縄振興一括交付金の所要額確保と沖縄振興特定事業推進費の増額を求めたものです。自見沖縄担当相は「強い沖縄経済の実現に向け、要望の趣旨をしっかりと受けとめて調整したいと」と応じました。玉城デニー知事になってから岸田自公政権の圧力により沖縄振興一括交付金は減額が続いています。以前は沖縄県41市町村全体で一括交付金の増額を知事と共に要請して来ましたが、玉城知事は国と争ってばかりいるので交付金の増額は望めないと昨年11月から那覇、名護、沖縄、宜野湾市等11市が県から離れて独自に折衝を開始しました。
文字通りの「カネカネたこらの自公の反乱」で沖縄地方自治を内部から破壊して玉城県政を揺さぶり倒そうとしています。6月県議会選挙でオール沖縄20対自公維新28、大幅に過半数を制した結果、勢いづいています。しかし、「国民審査における無効票を減らす会」は7月19日県庁記者クラブで会見し「国が少女誘拐暴行事件を県に伝えなかったことで県民が事件を知らなかった。その結果、県議会で自民を中心とする勢力が多数を占めた。県民が知るべきことが伝えられなかった。選挙のやり直しすべきと」と主張しました。
キャンプ・シュワブ包囲行動(7月6日) |
ニコラス・エバンス司令官とマシュー・ドルボ在沖米総領事は県庁を訪れ池田副知事に面会するも副知事は抗議、再発防止と被害者への謝罪を求めましたが返答もせず謝罪はしませんでした。まったく誠意のないアメリカ人です。彼等は沖縄差別による女性に対する人権侵害を認識していません。今回の少女誘拐暴行事件は絶対許すことはできませんが、5月の性的暴行事件を起こしたのは辺野古キャンプ・シュワブの海兵隊員です。全国紙、沖縄タイムス、琉球新報は殆ど辺野古基地問題と切り離し、海兵隊ジャメル・クレイトンの犯罪を小さく扱っています。
2016年3月13日那覇市内のホテルでキャンプ・シュワブ所属のジャステイン・カステラノス(24才)が熟睡していた女性を部屋に引き込みレイプする事件を起こしました。
県内移設に反対する県民会議は直ちに「米兵による女性暴行事件に抗議する」緊急集会を開きキャンプ・シュワブゲート前には千人が立ちあがりました。沖縄県議会はキャンプ・シュワブの司令官に抗議の申し入れをしましたが、司令官は受け取りを拒否しました。ニコルソン4軍司令官は翁長知事に謝罪に訪れ「綱紀粛正と再発防止」を約束しましたが、その1カ月半後、4月28日名護市の島袋里奈(20才)さんがキャンプ・ハンセン勤務のケネス・フランクリンにより命を奪わる凄惨な強姦殺人死体遺棄事件が起こりました。
2016年6月19日「元海兵隊による残虐な蛮行を糾弾! 被害者を追悼し海兵隊の撤退を求める県民大会が那覇市奥武山陸上球技場で6万5千人の参加で開催されました。大会では女性共同代表の玉城愛さん(21才)が「被害者は私だったかも知れない。安倍晋三さん、本土に住む皆さん、事件の第二の加害者は貴方達ですよ、しっかり、沖縄に向き合って頂けませんか」と訴えました。
それから8年後の2024年、少女誘拐暴行事件に怒りフラワーデモに参加した玉城愛(29才)さんは「今回の事件を知り言葉も出ないほど悔しかった。沖縄の問題ではなく日本全体の問題。多くの人にこの痛みに気付いてほしい」と訴えました。変わらぬ沖縄の現実がこれからも続くのか。
今年、7月10日沖縄県議会は全会一致で米兵による少女誘拐暴行事件に対して「抗議決議と意見書」を可決しました。県下41市町村議会でも続々決議が上がっています。
8月10日「欠陥機オスプレイの飛行停止と普天間基地の閉鎖・返還を求め、米兵の少女暴行と政府による事件の隠ぺいを糾弾する県民大集会」が開催されます。
私たちは県民集会を成功させ普天間基地閉鎖撤去、辺野古新基地建設阻止、オスプレイ飛行阻止。在沖米軍を撤収させましょう。ミサイル基地はいらない、自衛隊撤収、沖縄を二度と戦場にさせない。日米韓軍事訓練反対。国際連帯で朝鮮中国に対する民族排外主義を克服しましょう。
名護市在住・金城佳宏 7月22日、記(おわり)
5面
続発する米軍人による性暴力を促進する日本帝国主義の対中国戦争政治
日米地位協定の廃止を(下)
島袋純二
キャンプ・シュワブ包囲(7月6日)(7月22日) |
こうした状況は、日本帝国主義の対中国戦争に向けた琉球弧のミサイル配備を基軸とする攻撃最前線出撃拠点化と強化、それと連動した日米共同軍事訓練の激化との相関関係があることが見て取れる。これまでも安保体制と地位協定による米軍の安定的維持と米軍人の保護の下で、米兵の性的暴力犯罪が繰り返されてきた。しかし現今において米兵による性暴力犯罪がこれまで以上に頻発化してきているのは、日帝の対中国戦争政治とそれと一体的に展開されている日米共同軍事訓練の激化と無縁ではないということだ。すなわち、日米共同訓練で疲弊した米兵がストレス解消のために女性差別である性犯罪に走りやすい傾向にあるということも言える。その意味では、自衛隊員の不祥事も同様である。こうした傾向は日帝の対中国戦争政治の煮詰まりの中で一層頻発化するであろう。
したがって、米兵の性暴力を根絶していくためには、当面する個別・具体的な闘いとして、政府のペテン的な「公表」方針を粉砕して実質的な公表体制を確立していくことや、米軍の綱紀粛正や再発防止策を監視するシステムの確立、日米地位協定の改変と共に、さらに地位協定と安保体制の廃止へ向けて闘うと同時に、日本帝国主義の対中国戦争政治を阻止していく闘いを展開していかなければならない。
結論として言えば、米兵の性暴力事件を解消していくために、日帝の対中国戦争政治を阻止していく闘いを通して安保体制と地位協定を廃止していく闘いを基軸的に展開していくことである。また個別・具体的な闘いを展開すると共に基軸的闘いと結合して闘っていくこと、この両側面の闘いを有機的に結合して闘っていくことが勝利を実現していく本質的・現実的な道筋だろう。たとえ困難であろうとも、この道筋を粘り強く断固として突き進んでいこう。さまざまな違いを建設的に批判し合いながら、共に闘っていきたいと思う。(おわり)
新宿スタンディング
8月3日、毎月恒例の辺野古ブルーアクション新宿スタンディングがおこなわれ、65人が参加した。呼びかけは、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック。
マイクを取った人たちは口々に、沖縄や米軍基地近くの地域で米軍人による性犯罪が度重なっていること、それらが隠蔽されていたことなどを弾劾した。
強制不妊福岡訴訟 5月30日
聴覚障がいの夫妻
「国が差別偏見を助長」の主張貫き、国賠命令をゲット
木々繁
旧優生保護法(以下、旧法。1948〜96年)の下で、聴覚障がいのある朝倉彰さん(仮名。21年5月、83才で死去)が不妊手術を強制されるなど、憲法に違反した国の優生政策で生み出された差別や偏見で甚大な精神的苦痛を受けたとして、彰さんと典子さん(仮名、82)の夫妻が国に約4400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福岡地裁(上田洋幸裁判長)は5月30日、「旧法は憲法に違反する」と判断し、計1664万5千円を支払うよう国に命じた。
強制不妊訴訟は全国12地裁・支部で起こされたが、一審判決は13件目。うち違憲判断は11件目。国賠命令は地裁段階で6件目、高裁判決を合わせると12件目。
上田裁判長は判決理由で、旧法は特定の障がいや疾患がある人の自己決定権を侵害し、憲法13条に違反する上、差別的な扱いをし、法の下の平等を定める14条1項にも反すると指摘、「立法を行った国会議員には少なくとも過失がある」と賠償義務を認めた。国側は、不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」の適用を主張したが、裁判長は「被告・国が旧法を立法し、推進する施策によって極めて強度の人権侵害をおこなった上、法改訂後も態度を是正してこなかった」と批判し、「除斥期間の適用は著しく正義・公平の理念に反する」と述べた。
朝倉典子さん――喜びの声 (手話で)「ほっとして涙があふれました。たくさんの仲間から応援をいただいたお陰で頑張れました。手術でいちばん悔しい思いをしたのは夫の彰です。勝ちましたよ、と一番に報告したいです。国には謝罪を求めたい」
彰さんは結婚直前の67年10月頃、双方の親の合意のもと、何の説明もなく勤務先の社長に病院に連れていかれ、不妊手術を受けさせられた。それゆえ、典子さんは彰さんとの子どもを持つ機会を奪われた。結婚直後、彰さんは夫婦関係が壊れることを怖れて手術されたことを打ち明けられず、約半年後に告白した後は、典子さんはショックで体調を崩し、夫妻は提訴するまでは親しい友人や親族にも手術のことを話せなかった。
彰さんの公的な手術記録はなかった。全日本ろうあ連盟(東京)の全国調査に伴う福岡県聴覚障害者協会の聞き取り調査を経て、19年12月24日、ようやく福岡地裁への提訴にこぎつけた。
提訴後の記者会見で、典子さんは身体を震わせ、手話で憤りと悲しみを訴えた。
「本当に悔しい気持ちでいっぱいです。子どもができないことを打ち明けられたとき、もう子を産むことができないと確信し、立ちあがれないほどのショックでした。夫の手術で私の人生も奪われました。毎日毎日泣いているような状況でした。夫との子どもがほしかった。国には謝罪してほしい。私たちの訴訟が差別や偏見の解消につながることを願っています」
「国が障がい者への差別偏見を助長した」にフォーカスし争った全国初の不妊訴訟
これまで各地で闘われた強制不妊訴訟はリプロダクティブ権(子どもを産むかどうかを自分で決める権利)の侵害を主要な争点としてきた。福岡訴訟は、「国が障がい者への差別・偏見を生み出し、助長したことが、自分たち被害者を苦しめている最大の原因である」として争い、司法の判断を問う初の訴訟となった。
提訴(19年12月)直後の記者会見で、夫妻は「私たち障がい者は国の優生政策で『本来生まれてくるべきではなかった劣等な者』という烙印を押された」と憤りをあらわに、「街中で手話を使うと人からそれをまねされ、ばかにされたり、職場で耳が聞こえないため物を投げつけられることもあった」などの経験を挙げ、国が差別や偏見を助長したことがその原因だと断罪した。また、16年7月に相模原市の知的障がい者施設「やまゆり園」で起きた入所者19人の大量殺害事件などを例示し、「今も差別被害は続いており、国は解消義務を怠ってきた」と糾弾した。
19年に福岡地裁に提出した訴状では、「一時金支給法」(19年4月成立)後の国の対応について、「真相究明に必要な検証を行わず、真摯な謝罪もされていない」と批判し、優生政策によって助長された差別や偏見はまったく解消されていないと訴えた。
第1回口頭弁論(20年7月16日)で、典子さんは「国は責任を認め、謝罪してほしい」と意見陳述、国側は請求棄却を求めた。
原告弁護団の徳田靖之弁護士は次のように述べた。「原告らは国に『生きていては困る迷惑な存在』という烙印を押され、差別偏見にさらされる地位に置かれ続けてきた。被害は今なお継続している。除斥期間が成立する余地はまったくない」
上田裁判長は今次判決で、上述したような原告・弁護団の主張の圧倒的正当性を認め、除斥期間を適用せず国に賠償を命じた。
物証なき手術をめぐる画期的判断
福岡訴訟においては、彰さんが手術を受けたことを示す手術記録などの客観的証拠がなく、彰さんが67年10月ごろ、旧法に基づく不妊手術を受けたかどうかが争われた。
上田裁判長は、「夫婦の証言には具体性があり、「重大なプライバシーになる事柄について虚偽を述べ、公にすることは考えがたい」と判示し、夫妻の供述の信用性を認めた。
かつて真逆の判決が21年2月4日、札幌地裁から出た(注)。その手術否認の主張の骨子は以下のようである。
旧法下で不妊と人工妊娠中絶の手術を強制された道央の女性(77)と夫(19年8月に82歳で死去)が起こした訴訟について、地裁判決は旧法に基づく不妊手術自体証拠上認められない、また中絶手術についても旧法に基づき強制されたとは認めがたい、として請求を棄却した。
(注)「未来」313号3面(21年3月4日)「札幌地裁が差別判決」を参照
さらに、神戸地裁で係争中の第3次兵庫訴訟(原告は聴覚障がい者の川野正子さん、山川百恵さん、いずれも仮名。)において、国側は昨23年12月時点で「原告らが提出した証拠からは、原告ら二人が優生手術を受けた事実は認められない」と主張している。
同種の事態は他の強制不妊訴訟でも起きている可能性がある。福岡地裁の判決は、手術存否問題に対する司法の姿勢の本来的あり方を示すとともに、国の誤った態度に対する厳しい批判だと言えよう。
朝倉夫妻の発し続けた叫びを受け止め、差別と偏見のない共生社会の創成に向かってともに前進しよう。
6面
投稿
地域からのレポート 兵庫県 近藤浩明
関西における地域主権めざして
朝日8月企画
なぜかしらこの7月末から、「斜陽激しい天下の朝日新聞」の1面〜2面を貫く大型企画が始まっている。一つは「百年―未来への歴史」という「8月平和企画」の一種。8月3日までの3回は、これまでのように8・6ヒロシマも含め「戦争の悲惨」を追うのではなく、第一次大戦から近代100年の歴史をたどり、世論(市民)と民主主義とマスコミの責任も問うものだ。特に8月2日の「持たざる国、戦前への逆戻り」では、各国比較のGDP比率は「持たざる国」と言われた1920年代(そのため「満蒙は日本の生命線」と煽った)とほぼ同じ。途中1990年には世界2位だったが、間もなく世界12位にとの予測がリアルに迫る。バブルがはじけ、08年リーマンショック以降は「先進国」から脱落し、市民の生活にも襲いかかる物質的根拠を感じずにはおかない。
かつて所属していた政治党派では、「GDP1位と2位の日米の帝国主義争闘戦が世界大戦になる」(→内乱へ・自国帝国主義打倒)なる愚劣な「テーゼ」があった(「万年決戦」「世界戦争待望論」)
それから15年、戦争はロシア−ウクライナ、イスラエルから始まり、やがて帝国の生き残りをかけてGDP下位の国が上位の帝国に分け前(植民地・勢力圏)の再配分を求めて、世界的規模の戦争になるのだろうか。
人口増=成長めざさない神戸市
さて8月5日からは1面〜2面で「8がけの世界」、「タワマンやめた神戸の選択」として、いきなり地域社会の「限界」を論ずる。久元神戸市長が、三宮周辺再開発にあたり条例でタワマン禁止を打ち出した時、何を考えているのかと思った。その後神戸市の人口減は避けられず、大阪と人口の奪い合いはしない、三宮に近郊から人を集中させる意味はない、とも主張。併せて郊外の町(北区など)に定住拠点が必要などと訴え、開発一辺倒の維新・斎藤知事批判の急先鋒ともなった。
日頃政治運動を主にしてきた(沖縄、原発など)が、他方で経済生活の急速な困窮化のもと居住地の市議を囲む小規模な学習会も重ねてきた。ここでも中心地の駅前には意味不明の商業施設(スポーツ施設など)が激増するが、駅から離れた周辺は衰退の一方。保育所や地域施設・公共施設の統廃合が進み、独特の商売形態を営むコープの閉鎖まで進む。他方で身の丈に合わない高度救急医療施設(医療センター)や、市役所立て替えには巨額の資金をつぎ込んだ。
そんな折、8月5日の朝日2面には、@神戸市の産業・都市構造の変遷(100年前の神戸・新開地を軸とした日本一の工業都市=川重・川鉄・三菱・鈴木商店。神戸も川重系列から戦後は三宮中心の商業都市に変遷)A北区・三田をはじめ近郊住宅地域の盛衰(一時は日本一の人口急増市、今や急速な過疎化)が分かりやすく語られている。
他市に市民病院?
特に三田市民病院と神戸市北区の民間病院の統廃合は、二転三転し、市長交代・移転反対を撤回した新市長不信任で大きな話題となった。三田市民病院が神戸市北区に移ることに、私も他市ながら反対したが(兵庫県東部=三田を含む阪神間ではどの市も市民病院建て替え、民間との統廃合が重大な市政テーマ)、その後は広域地域再生の中での移転もありかとも考える。
また2面左上のミニコープが唯一の買い物拠点の地域では、消滅すると買い物難民になるため、店舗内に「売上表」を掲示し、住民・行政・コープ一体で「自分たちの生活は自分で守る」と活動しているという。実は阪急駅前1分にあったコープが売り上げ減で閉店したが、知り合いのコープの委員さんたちや地域住民の訴えでこの8月再開する。関西各地で大型スーパーの隙間で、買い物難民急増に「とくし丸」という軽トラ移動販売が活躍している。地域の実情に詳しい私に、40歳代の市議スタッフの女性は「とくし丸運営したら、みんな助かるで」。
再び軍需産業か
他市に市民病院?
日本経済の弱体化が止まらない。先日のある学習会で、元シャープ勤務の人に「今はどうなってんの?」と聞くと「台湾資本に買収された」。そういえば関西資本の典型の家電、製薬会社は次々と外資化・消滅の危機に。「シャープもNECのように軍需産業やらんかったから潰れたんや」とは自嘲とも本音ともつかない50年を超す反戦運動家の弁。
5年間43兆円の軍事予算と、武器の海外輸出で儲ける以外、日本の基幹産業は存続できないのだろうか。川重・三菱の企業城下町の神戸は、鈴木商店時代の繁栄の道(台湾からの収奪と軍需)を再び選ぶのだろうか。かつて1970年代は「山、海へ移る」と、山跡には住宅地を、海には人工島をつくった神戸市行政は、タワマン禁止・成長しないこと(8がけ)を選択した。市民運動・社会運動・政治運動も、その社会的基盤抜きに発展はないだろう。何を基盤にどのような運動を作るのか、皆に問われている。
紹介
社会を変えよう連続市民講座第12期
民主主義を取り戻す
毎年秋におこなわれる連続市民講座の内容が確定した。好企画なので紹介する
市民の力で社会を変えるため、毎年秋に実践的な市民講座を提供してきました。今年は裏金問題で政治が劣化し、東京補欠選や都知事選では威嚇・パワハラ、政策論争ナシが横行。政治・選挙を通じて人々が分断されることを許さないため、春には東京・杉並の岸本聡子区長から1人から始める「地域主権運動」を学びました。
秋の連続講座では、関西を席巻した維新政治の破産を明らかにし、地球規模の気候危機に初めて取り組みます。誰でもいきいきと暮らせる地域社会は本当に進んでいますか。同調圧力の強まりで、政治運動・市民運動の中の「言論の自由」も大きな危機にあります。
政治や社会を変えるには口先のスローガンではなく、今一度地域に根差した「民主主義の取り戻し」が必要だと思います。それぞれ第一線の実践家の報告です。ぜひご参加を。
第1講座 9月29日(日) 維新政治はもう終わり〜万博・カジノ・斎藤知事問題
ここ10数年大阪・関西で猛威をふるった維新政治の凋落が始まりました。橋下・松井なきあとの結集軸だった大阪万博に各方面から批判がふき出し、斎藤兵庫県知事のおねだり・パワハラは今や維新の疫病神に。万博・カジノを追及し続けてきた西谷さんと、斎藤知事を追い詰めた丸尾さんが、斎藤県政の課題を暴きます。
第2講座 10月20日(日) 地球温暖化の現状と課題
「記録的な猛暑」が当たり前に語られだしました。地球環境自体が破壊され、酷暑、海温上昇=漁業異変、ゲリラ豪雨・洪水、世界各地での山火事の頻発。この問題解決のため立ち上がった次世代・若者がいます。どう行動すべきか、みんなで考える機会になればと思います。
第3講座 10月26日(土) 第13回さようなら原発1000人集会
毎年秋におこなわれるいたみホールでの「さようなら原発1000人集会」に今年も賛同し、第3講座としてとして取り組みます。
今年のテーマは「地震大国日本に原発NO! 未来社会に再エネYES!」です。能登半島先端の珠洲で原発建設を阻止した北野さんと、自然エネルギーに取り組んできた飯田さんが講師です。
第4講座 11月10日(日) 誰一人取り残されないまちづくり フルインクルージョンをめざしつつ
口先では「誰もがいきいきと過ごせる」「誰一人取り残さない」等が語られますが、本当にインクルーシブ社会は進んでいるのでしょうか。出産時の事故が原因で脳性まひとなり、小中は地域の学校、高校は全寮制の養護学校。自立支援センター・メインストリーム協会で障害者の自立支援や権利擁護に長年たずさわる玉木さん。障害者問題を本音で取り上げるNHK・Eテレ「バリバラ」のご意見番としてレギュラー出演中。誰もが暮らしやすい地域社会の論議が進めばと思います。
第5講座 11月23日(土) 問われる民主主義と言論の自由
昨年、日本共産党幹部だった松竹伸幸さんが、委員長公選を求め『シン・日本共産党宣言』を出版した所、ごく短期で除名され多くの人が驚き、朝日・毎日新聞からも批判されました。1月党大会でも松竹さん擁護の神奈川県議が田村新委員長から叱責され、「今も共産党には自由がないのか」と多くの人が落胆。ロシアのように言論の自由がない社会にさせないため、松竹さんは裁判に訴えました。この問題は共産党の問題ではなく、この国の「言論の自由」を考える重要な課題です。
第1講座 14時 尼崎中小企業センター(阪神「尼崎」北東5分)
講師:西谷文和さん(ジャーナリスト)報告:丸尾まきさん(兵庫県議)
第2講座 14時 尼崎市小田北生涯学習プラザ(JR「尼崎」北東4分)
講師:豊田陽介さん(気候ネットワーク上席研究員) 大阪大の学生
第3講座 14時 いたみホール・大ホール(阪急「伊丹」北3分)
講師:北野 進さん(珠洲原発を阻止した元石川県議) 飯田哲也さん(環境エネルギー政策研究所所長)
第4講座 14時 西宮若竹生活文化
会館(JR「西宮」北東7分)
講師:玉木幸則さん(一社兵庫県相談支援ネットワーク代表理事、社会福祉士)
第5講座 14時 東園田総合会館(阪急「園田」北1分)
講師:松竹伸幸さん(共産党除名処分撤回を求める原告)
市民の力で社会を変えよう! 連続市民講座実行委員会
連絡先:小柳久嗣(090−5132−0028)
7面
奈良教育大附属小で何が起きているか
教員入れかえ 附属小の実践つぶす
6月30日、「奈良教育大附属小学校の教育を守る市民集会U」が奈良市内で開かれ、ズーム参加を含めて235人が参加した。主催は、奈良教育大附属小を守る会。
何がおきているのか
奈良教育大附属小学校(奈附小)で何がおきているのか。まず事実関係をみておきたい。
@2023年4月、小谷隆男が県教育委員会から奈附小に送りこまれた。奈附小は独立行政法人であり、県教委の所轄ではない。21年度以降、「人事交流」という形をとって、校長は県教委から派遣されるようになっていた。こうして小谷が校長になった。
A小谷校長は着任してすぐに、「授業内容が学習指導要領にてらして不適切だ」など、教育実践の変更を強要する。小谷校長は職員会議などで威圧的な言動をおこなった。
B6月、奈良教育大学は調査委員会を設置する。約半年間にわたって書面調査・実地調査・聞き取り調査がおこなわれた。
C2024年1月、奈良教育大側が作成した「調査報告書」が公表された。奈良教育大の宮下俊也学長は「教育実践に不適切があった」と記者会見で述べた。メディアは、宮下学長の発言をそのまま報じた。
D1月末、「不適切事案は人事異動のない閉鎖的体質が一因」として、奈附小の教員を公立小学校に強制出向させる方針が明らかになった。当初、3年間で全教員(19人)を入れ替える方針であった。
E3月末、ベテラン4人の教員にたいして強制出向・強制配転がおこなわれた。また、管理職(校長、教頭、主幹)は処分され、県教委による人選で交代させられた。小谷校長は県教委次長に出世している。大学側は来年度も強制出向をおこなう方針にしている。
F6月12日、強制出向させられた3人が「出向命令無効確認」を求めて、奈良地裁に提訴した。
6・30市民集会の内容
集会では、強制出向の不当性が明らかにされた。まず、川地亜弥子さん(神戸大学准教授)が、「奈良教育大学の教育課程と教育実践」について、具体的に明らかにした。奈附小では、真実を探求する教育がおこなわれている。中学校受験には役立たないかもしれないが、子どもたちに寄り添って、教育がおこなわれている。川地さんの講演で、このことがよくわかった。
中嶋哲彦さん(名古屋大学名誉教授)は「強制出向・配置転換の不当性」について、つぎのように指摘した。
「宮下学長は出向の理由に『教育課程や学校運営について理解を深めるため』と言っている。これは公立学校に行って、学んでこい≠ニいうことであり、強制的な研修でもある。宮下学長は、教育課程とは学習指導要領に書いていることをそのまま教えることだと考えているのではないか。また、調査報告書に『校長の認識と学校運営の慣行に齟齬があった』『学校運営に行き過ぎはなかった』と書いている。つまり、校長の認識がおかしかったのだ。これを教員の責任にねじ曲げて、教員を研修させる方向にもっていった。この出向命令に根拠はない。宮下学長は学校を守る責任があったにもかかわらず、これを放棄した。ここが最大の問題点だ。」
兒玉修一弁護士は「訴訟の概要と争点」について解説した。今回は「在籍出向」になっている。この場合、本人の同意がない場合に、出向命令権があるのか。ここが最大の争点になる。奈附小の教員は民間労働者と同じく、労働契約法と労働基準法が適用される。公立学校の教員は地方公務員法、教育公務員特例法が適用される。このように法体系がことなる。この問題点についても指摘した。
集会では、奈附小の教員が職場の現状を語った。強制配転された教員が、公立小学校の現状と、裁判をする決意を語った。また、奈附小の保護者が子どもたちの状況、自分たちの思いを語った。学ぶ主体の子どもたちは、先生がたくさんいなくなって、不安に思っている。なによりも、子どもたちが不利益を受けているのだ。この責任は、県教委と大学側にある。
教育をめぐる闘い
これは奈附小の教育実践をつぶすために、文科省によっておこなわれた。その背後には、自民党議員の圧力がある。自民党は戦前の教育を復活させようとしている。文科省は「上から決められた方針を従順におこなう教員、国の言うことに従う子どもをつくろう」としている。
具体的に、一連の事態は県教委によっておこなわれた。このために、小谷校長が奈附小に送りこまれた。宮下学長は学校管理者として、自らの責任を放棄した。当時、奈良教育大副学長であった三木達行は文科省の官僚出身であり、文科省方針を貫徹するのに積極的な役割をはたしている。
教育を破壊しているのは、文科省であり、県教委なのだ。ここでおきていることは奈附小だけの問題ではなく、教育をめぐる全国の問題でもある。大学をめぐる問題、学術会議をめぐる問題と一体だ。戦争をめぐる国内支配体制の問題でもある。これらのことをあきらかにして、奈良教育大附属小の教育を守っていこう。強制配転された原告と裁判闘争を支援していこう。(生駒健三)
狭山再審へ
『造花の判決』上映会
7月22日尼崎
上映会のあと活発なアフタートークがなされた |
7月22日、尼崎市内で毎月1回の狭山行動として、映画『造花の判決』の上映会が、50人を超す個人・団体の賛同のもと30人が参加し開かれた。『造花の判決』は1975年に土方鉄さんの原作で入川保則さんが主演、永六輔さんがインタビューを務める歴史的名作。司法修習生役の入川さんが狭山事件に取り組み、検事調書・判決文をもとに、事実と石川さん供述調書の矛盾を突くドキュメント劇映画。これまでも幾多の上映会が開かれてきたが、尼崎の上映会でも元県議・市議・現市議や労組活動家、50年前から狭山を闘ってきた人などが参加。そのうえで半分が初めて見る人だった。
アフタートークでは50年前、教員になりたての頃無我夢中で同盟休校に取り組んだ。50年たって無実をはらせてなく悔しいが新たな証拠も出ており袴田事件のように再審・無罪を実現しよう、等の訴えが続いた。JP労組の若手役員は、一昨年狭山現地調査に行って無実を確信したと訴え。最後に8月の学習会、9月の現地調査への参加が呼びかけられ上映会を終えた。(G)
8面
津久井やまゆり園事件8年
インクルーシブな社会めざして
7月26日大阪
ヨドバシ前に150人が集まった(7月26日 大阪) |
7月26日、大阪駅北側のヨドバシカメラ前で、8年前に相模原市の障碍者施設「津久井やまゆり園」で19人が虐殺された事件を追悼して「施設障碍者虐殺8年目の追悼アクション」がおこなわれた。「わたしは7月26日に殺された19人のひとりだ」という大横断幕を掲げ、最初に黙祷をした。障碍者、介護者、差別と闘う仲間たち20人以上がリレートークをおこない、150人が参加しスタンディングをして市民に訴えた。呼びかけ人は「7・26追悼アクション有志」。
優生思想が引き起こした
NPO法人ちゅうぶの難病の女性は「障碍者は不幸しか生まないと言って決めつけて惨殺をした。まさに障碍者を社会から抹殺すべきだという優生思想が引き起こしたもの。優生保護法の裁判は7月3日最高裁の勝利判決を勝ちとって17日岸田首相の謝罪にまで至った。国は優生保護法を根拠にして、障碍者は不幸な子孫を残すんだというレッテルを貼って、本人に知らせることもなく、むりやり子どもを産めない手術を国の施策として実施し、優生思想を全国の末端まで広げてきた。優生思想をのりこえる取り組みを国家挙げて取り組んでほしい。そして一人ひとりが内なる優生思想に向き合って共に生きる社会を目指していくことが大事」と発言。
脳性まひ者の生活と健康を考える会・古井正代さんは「私たちは50年前から優生保護法と闘ってきた。やまゆり園で殺された人は全部脳性まひです。(犯人の)植松はこんなもんは生きている価値はないと言ったけど、皆さんの中にもそういう心があるはずです。皆さんの心の中には優生思想が根づいているんです」。
インクルーシブな社会をつくろう
リメンバー7・26兵庫アクションの女性は「津久井やまゆり園事件は、私が私の存在を理由に刃物で刺し殺されたも同然です。事件当初は車椅子で町へ出ることが恐怖でした。1日も早く障碍者を隔離・収容することをやめてインクルーシブな社会を再構築しよう」。 岸和田市在住の方のメッセージが代読され「4月岸和田光生療護園で、病死とされた障碍者Aさんに職員4人が常習的に暴力をふるっていたことが判り逮捕される事件があった。津久井やまゆり園でも虐待はおこなわれていた。入所施設を容認している人は障碍者虐待に加担している。私も殺す側の人間。自覚をもつべきだ」。
大石あきこ衆院議員は「精神障碍者が薬で虐殺された滝山病院事件」に触れ「津久井やまゆり園事件は終わっていないし、国は変わっていない。生きづらい社会を変えよう」。
大横断幕を持ち障碍者らが訴え(7月26日 大阪) |
国連勧告を拒否する日本政府
元教員の男性は「私は半世紀近く、インクルーシブ教育、ともに学び、ともに育つ教育と言い続けてきたが何も変わらなかった。支援学校・支援学級の在籍数は増加の一途である。2022年8月国連障害者権利委員会の日本政府に対する総括所見、勧告が出された。日本の特別支援教育は、分離特別教育であり、差別である。特別支援学校・特別支援学級を廃止すること、教員に正しいインクルーシブ教育研修をおこなうことなど、日本の障碍児教育の実態を厳しく批判して速やかな解決を求めた。ところが当時の永岡文科相は、わが国の教育はインクルーシブ教育システムであり勧告を受け入れるつもりはないと表明した。なぜ日本の教育はともにではなく、分けるのか。優生思想があるからだ」。
津久井やまゆり園事件を許さず、差別に抗うためにともに行動を続けること、優生思想とたたかうことの重要性を確認した。リレートーク終了後、大阪駅周辺のデモがおこなわれた。(花本香)
(映画評)
『リッチランド』
(監督: アイリーン・ルスティック 2023年)
リッチランドとは
ハンフォードはアメリカのワシントン州、コロンビア川流域に位置している。「マンハッタン計画」において、ここに原子炉が建設され、プルトニウムを生産した。リッチランドはハンフォードの南にあり、もともとは小さな田舎町だったが、ハンフォードで働く労働者のためにあらたに作りあげられた。現在、約6万人が住んでいる。
リッチランド高校の校章はRの文字にキノコ雲≠ェ重ねられており、このマークは街のいたるところに掲げられている。高校のフットボールチーム名は「リッチランド・ボマーズ」で、応援団のTシャツにはB29爆撃機のイラストが描かれている。このように、リッチランドは原爆で成り立つ街なのだ。住民は核開発賛成派ばかりなのかと思えば、そうでもない。映画は住民の意見をていねいに拾いあげている。
今は廃炉になっているB原子炉、この原子炉内で歌われるカンタータが印象に残る。市民合唱団は歌う。「その木の果実はプルトニウム 私たちはその果実を食べた…」。映画は、叙事詩のように反核を訴えている。
ハンフォードとは
ハンフォードは低木ステップ地帯であり、ここに先住民が住んでいた。映画のなかで、先住民が「自分たちの土地を返せ」と証言している。先住民から土地を奪い、先住民を追い出して、ここに原子炉がつくられた。原子炉で、原爆のためのプルトニウムが製造された。このプルトニウムは長崎の原爆につかわれた。
戦後も、核爆弾用プルトニウムの大部分は、ハンフォードで生産されている。発生した高レベル放射性廃液は、ドラム缶に詰められ、近くの地中に廃棄されてきた。
核汚染事故
ドラム缶が錆びて破損していた。ここから廃液が漏れ出し、土壌が広範囲に汚染された。1986年に、この事実が内部告発によって判明した。
こうして、プルトニウム製造工場は操業を中止することになった(1987年)。現在、汚染された土地の除染作業が進められている。50年以上をかけて、除染がおこなわれる。
ハンフォードでは廃炉ビジネスが生まれ、リッチランドは廃炉産業で成り立っている。なお、福島イノベーション・コースト構想は、ハンフォードの廃炉ビジネスをモデルにしており、軍需産業で再生させるという計画である。
「折りたたむファットマン」
映画は、川野ゆきよさんの芸術作品「折りたたむファットマン」の展示でしめくくられる。川野さんは広島市出身で被爆3世。現在、アメリカに住んでいる。
川野さんは祖母の着物をほどき、その布を縫いあわせて、長崎におとされた「ファっトマン」を実物と同じ大きさで作品(インスタレーション)を造形した。川野さんがつくった吹き流しの核弾頭が大地に向かって落ちてきている。吹き流しがゆっくりと風に揺れている。(鹿田研三)
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