未来・第391号


            未来第391号目次(2024年6月6日発行)

 1面  地方選連敗の岸田自民党
     大軍拡路線での強行突破許すな

     祝園ミサイル弾薬庫反対
     5・11に300人 8・25大集会へ

 2面  祝園・敷戸弾薬庫反対
     全国と連帯した反基地闘争を
     島袋純二
     

     7・7都知事選 小池打倒へ     

 3面  投稿
     狭山と私
     5月3日間・狭山闘争を闘って            

     宝島裁判 控訴審
     被告・宝島社を擁護する不当判決

 4面  岸田大軍拡を検証する
     実戦化すすむ日米共同演習と武器輸出
     落合薫      

       5面  福島イノベーション・コースト構想とは
     〜被害者置き去りの復興政策と軍民共用産業拠点化(上)     

 6面  カクマルとの闘いを「内ゲバ」とする『ゲバルトの杜』
     動労松崎明、盗聴・テロ部隊抜きのカクマルは虚像(上)
     大久保一彦      

 7面  地方自治法改悪案は廃案に
     自治体を国に従属化 戦争する国造りが狙い      

             8面  投稿
     ナチズムから平和を考える
     田野大輔講演会に参加して

     映画評
     クーデター下のミャンマーの闘い
     「夜明けへの道」(監督:コバウ 2023年)

     夏期カンパアピール
     自民党支配葬る大運動へカンパを

           

地方選連敗の岸田自民党
大軍拡路線での強行突破許すな

ラファ攻撃やめろ!と450人が御堂筋をデモ(5月18日 大阪市)

ラファ攻撃やめろデモ 大阪5月18日

1948年5月14日のイスラエル「建国」に伴い、400以上のパレスチナ人の村が強制退去の対象となり、各地で虐殺がおきた事実を語り継ぐために、毎年5月15日はアラビア語で大災厄を意味する「ナクバ」の日として記憶されている。この前後の日、全国各地でパレスチナ連帯行動がおこなわれた。
大阪では5月18日、「パレスチナ人に帰還権を! ラファ攻撃やめろ! 集会」がひらかれ450人が集まった。主催は関西ガザ緊急アクション。
集会場には、ラファ攻撃とガザ虐殺を止めるために、〈ガザのための署名「民衆バナー」〉が用意され、参加者が次々と巨大な布バナーにフェルトペンで署名していた。
集会では「パレスチナに帰還の権利を」が強く訴えられた。イスラエル・シオニストによって故郷を追われた人々は住んでいた家の鍵を持ち続け、帰還を思い続けてきたことが話され、会場には大きな鍵のオブジェも登場。

集会の2つの柱

主催者あいさつをおこなった役重善洋さんは「本日の集会の柱は2つ。ひとつは、イスラエルによるガザ地区南部の街=ラファでの軍事作戦、ジェノサイドを直ちにやめさせること、Aパレスナ人に帰還権を。帰還権というのは、パレスチナ問題の課題のひとつというレベルの話ではない。パレスチナ人の最も根源的な要求。イスラエルが「建国」されたことによって、パレスチナ難民は生み出された。よってイスラエル国家の存在を問う最も根源的な提起。さらにいえば、ヨーロッパにおけるユダヤ人迫害、ホロコースト問題をいかに解決すべきだったのか、それがイスラエル『建国』で解決されたというのは正しいのか、おかしな話ではないか、ということにつながる。もっとさかのぼれば、ヨーロッパにおける国民国家形成、ユダヤ人迫害からホロコーストに至ったヨーロッパに起源する国民国家体制。あらゆる人々の国民アイデンティがひとつの国家・民族に代表されるというものの考え方、これを根本的に見直さなければならない。国民国家が当たり前とされるなかでつくりだされてきた私達自身のアイデンティの在り方を見直すことが必要」と発言。
集会後、御堂筋デモで沿道の市民に「虐殺やめろ」「子どもを殺すな」「パレスチナに自由を」と訴えた。

5・23狭山闘争が高揚(東京・日比谷野音/記事は3面)




















祝園ミサイル弾薬庫反対
5・11に300人 8・25大集会へ

会場をうめつくす熱気ある集会(5月11日 京都府精華町)

5月11日、「祝園ミサイル弾薬庫問題 大学習会」が京都府精華町でひらかれた。主催は、京都・祝園ミサイル弾薬庫問題を考える住民ネットワーク。
京都、奈良、大阪、兵庫から約3百人が集まり、会場は熱気につつまれた。西岡信之さん(元・沖縄国際大学非常勤講師)が「ガザ・沖縄 そして祝園」というテーマで講演した(講演要旨、別掲)。
また、「今、祝園で何が問題になっているのか」について、「Q&A」形式で住民ネットワーク事務局が解説した(詳細は別掲)。
連帯メッセージが〈大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会〉からよせられ、読み上げられた。「このような無謀な計画をやめさせるために、私たちが建設反対の声を大きく上げ、全国に発信していくことが求められていると思います。お互いに手を取りあって頑張りぬいていきましょう。」
最後に、参加者が意見交流した。「ビラの反応は非常に良い。市民はたいへん驚いている」、「市民にもっと知ってもらうために、デモをおこなってはどうか」など、さまざまな意見が出された。次回は、8月25日(日)午後2時、京都府精華町の「むくのきセンター多目的ホール」でおこなわれる。

西岡信之さん講演要旨

禁野火薬庫爆発事件(1939年)

祝園弾薬庫問題を語るとき、禁野火薬庫爆発事件にふれないわけにはいかない。禁野火薬庫(大阪府枚方市)は、爆発事故を2度おこしているが、2回目の爆発事故は1939年。
この爆発は、3月1日深夜の午前2時45分にはじまり、次の日の19時まで、29回も爆発が続いた。半径2q以内はすべて壊滅、焼失した。死者は94人、負傷者は602人、全半壊焼失は821戸に及ぶ。爆風は高槻市にまで達し、窓ガラスや戸障子が壊れている。京阪電車は、5日間も運転することができなかった。
こうして、禁野火薬庫の代替地として、祝園に火薬庫がつくられることになった。

沖縄戦の教訓

沖縄戦において、約20万人が亡くなっている。このうち、住民の犠牲者が9万4000人におよんでいる。軍隊と避難住民が混在し、住民が戦闘に巻き込まれ、民間人がたくさん殺された。軍隊は住民を守らない。これが沖縄戦における最大の教訓だ。
現在、南西諸島全域は軍事要塞化され、ミサイル基地が造られている。防衛省はさらに増強する計画だ。
*種子島・馬毛島(陸海空自、米軍兵站基地)
*奄美大島(陸海空自・地対空ミサイル)
*沖縄島(陸自勝連駐屯地に12式ミサイル、沖縄訓練施設・弾薬庫、辺野古新基地、弾薬庫新設)
*宮古島(陸空自・レーダー、地対空ミサイル)
*石垣島(陸自レーダー、地対空ミサイル)
*与那国島(陸自レーダー、地対空ミサイル)

新たな「戦前」

民主党政権のとき、その防衛大綱(2010年)において、「動的防衛力」が打ち出された。このなかで、はじめて南西諸島に言及している。その後、沖縄、南西諸島にミサイル基地が造られ、軍事要塞化が進められていった。現在、これが九州、「本土」にすすんできている。
防衛省は、2032年度までに130棟の弾薬庫を全国に造る予定だ。祝園弾薬庫はニュータウンに隣接して造られる。これが爆発したら、禁野火薬庫爆発の比ではない。市民がこの計画を容認すれば、まっ先に攻撃されて、殺されてしまう。闘わなければ、殺される。平和に生きるために、断固として反対することが必要だ。

質疑応答

遠くの小山周辺が祝園弾薬庫

Q:祝園弾薬庫が注目を集めています。どうしてでしょうか
A:陸上自衛隊祝園駐屯地は精華町の面積の6分の1以上を占めており、一部は京田辺市にもかかっています。敷地面積は、甲子園球場100個分に相当します。1940年に造られたとき、ここは「東洋一の弾薬庫」と言われていました。
政府は今年度予算に102億円を計上して、「弾薬庫8棟増設と基地強靭化工事をおこなおう」と言っています。この弾薬庫は陸上自衛隊と海上自衛隊が共同使用します。昨年末に、このような報道があり、注目を集めました。この報道によって、私たちも知り、驚いたわけです。
Q:どうして計画されたのか
A:2022年12月に、岸田政権は「安保3文書」を閣議決定しました。この3文書の中で、「敵基地攻撃能力を持つ」こと、「防衛予算を現在の2倍に増やす」ことが書かれています。このとき、岸田首相は「我が国の安全保障能力を根本的に変える」と言っています。
Q:「敵基地攻撃能力」とは
A:政府は「反撃能力」と言い変えています。遠くに離れた外国の基地や拠点を攻撃する能力を持つこと、つまり長距離ミサイルを保持するということです。これは専守防衛や憲法の理念に違反しています。
トマホークミサイルは、アメリカから400発を購入します。このトマホークと12式地対艦誘導ミサイル能力向上型(射程を1000q以上にしたもの)、この2つの弾薬をここに貯蔵します。また、現在開発中の極超音速滑空弾の弾薬なども置かれるかもしれません。
Q:どのような心配をされていますか
A:今よりも大量の火薬・弾薬・燃料が保管されます。ミサイルの弾薬まで保管されるようになると、爆発した時の被害は格段に大きくなります。戦前におきた禁野火薬庫爆発の規模と比較にならないような深刻な被害になることは明らかです。
また、南海トラフ大地震が10年以内におきると言われています。このとき、作業などをおこなっていれば、爆発事故をおこす可能性がないとは言えません。また、もし戦争のような事態になれば、最初に標的にされるのは弾薬庫だということです。
Q:住民へ工事の説明があったのですか
A:住民説明会は、今のところおこなわれていません。今年度の予算で工事がおこなわれるので、住民への説明会は必須です。署名運動を展開していますので、御協力をお願いします。
Q:祝園弾薬庫について「確認書」が交わされています。どのようなものですか
A:これは1960年2月に、精華町長と防衛庁(当時)の間で交わされたものです。
精華町から23項目の要望事項にたいして、防衛庁が回答したものです。3人の署名と捺印がある正式な合意文書です。内容としては、貯蔵施設の拡張はしない、貯蔵能力以上は貯蔵しない、拡張する場合は事前に町側と協議する、取り決め事項は後任者に引き継ぎ確実に履行すると確認されています。
Q:確認書は、現在も守られているのか
A:木原防衛大臣は、国会の答弁で次のように言っています。「この確認書は行政文書として保管はしているが、契約的な意味合いを持つものではない。この点では、精華町とも一致している」。つまり、防衛省は「確認書は効力を持っていない」といっているのです。どうしてこんな解釈ができるのか、いつからそうなったのか。こういうことについて、われわれは防衛省に住民説明会を開くように要請し、見解を求めています。
1945年以降、米軍がこの弾薬庫を使用していました。60年、日米安全保障条約によって、陸上自衛隊に移管されました。この過程で住民は基地返還運動にたちあがりました。58年9月には、基地反対闘争が精華町全体にひろがっています。住民が一丸となって、弾薬庫撤去を求めて、青年団は「自衛隊使用NO!」と、むしろ旗をかかげて行進しました。
この反対運動を沈静化するために、この確認書が交わされたのです。この確認書によって、住民はしぶしぶ基地を認めました。こういう経過からも、政府はこの確認書を反故にすることはできません。われわれも、この確認書を大切にして、当時の住民の思いを引き継いでいかなければいけません。

2面

祝園・敷戸弾薬庫反対
全国と連帯した反基地闘争を
島袋純二

祝園ミサイル弾薬庫問題を考える住民ネットワークが主催した大学習会に参加した。地元・近隣や遠方から300人が参加し、会場内の雰囲気が盛り上がった。以下私が感じたことを3点報告する。

@学習会運動の重要性

今後の行動方針として、弾薬庫爆発が住民生活と生命に及ぼす危険性を多くの人に知らせる大小の学習会を展開することが提起された。これは弾薬庫建設阻止運動の強化・発展のために極めて重要なことだ。戦前の禁野火薬庫の大爆発事故にみられるように、弾薬庫の爆発は現実に起こる。爆発が起これば住民生活が破壊され生命まで奪われる。その恐ろしさを多くの人が肌で感じ取る学習会は運動の原点となる。
かつて「沖縄」の「日本復帰運動」が全琉球的な運動として発展した基礎には、米軍支配の過酷さとそれから脱却するための「日本復帰」(現実には幻想だったが)の必要性が繰り返し話し合われ、積み重ねられたことがある。祝園闘争でも、住民ネットから提起された学習会運動を粘り強く展開し、その危険性から自らの生活と生命を守るためたちあがる状況を創り出しそう。

A琉球が勝利した反基地住民闘争の教訓

琉球には軍事基地建設に反対し勝利した闘いがある。例えば、具志川村昆布の土地闘争、国頭村安波の土地闘争、恩納村の都市ゲリラ阻止訓練施設反対闘争、今年4月に勝利したうるま市の陸自訓練場建設計画撤回闘争、等々だ。それぞれ課題により闘争形態は多様だが、共通していることは、闘争課題・目標を鮮明にさせ、その実現のための強い信念と決意、生活のため体を張る不屈の精神、闘う者同士の人間的信頼に基づく団結力、最後の勝利まで決して諦めないこと、などである。
つまり、こうした共通性を柔軟に貫き闘争課題に応じた戦略・戦術を練り上げれば、勝利は切り開かれていく。現実には「言うは易く行うは難し」が多いだろうが、彼我の状況を見極めながら論議することが必要で可能だろう。

B大分県敷戸闘争と連帯しよう

戦争には武器や弾薬が必要不可欠である。武器や弾薬がなければ戦争はできない。ロシアのウクライナ侵略戦争でも武器・弾薬・弾薬庫などの数量が継戦能力を決定する。弾薬庫の削減、増設させない闘いは戦争を阻止する極めて重大な闘いだ。
安保3文書で出された継戦能力確保のために全国に130棟の弾薬庫建設阻止の闘いは、琉球弧を最前線攻撃拠点とした対中国戦争を阻止する闘いにとり極めて重要だ。祝園弾薬庫は全国最大規模だ。その勝利的展開は全国の弾薬庫建設計画にダメージを与える。
急ピッチで進む岸田政権の対中国戦争体制構築の中で、これを止めるため「沖縄を再び戦場にさせない」を合い言葉に琉球各地で闘う人達と連帯し、一体的な闘いとして祝園闘争を発展させよう。
敷戸弾薬庫の増設計画は当初2棟で、昨年11月から工事開始。今年になり突然さらに7棟の増設計画が発覚。地元住民は当初の増設計画発表直後から〈大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会〉を結成して創意工夫ある運動を展開してきたが、追加7棟の発覚にさらに怒りを倍加させている。今回の「祝園大学習会」には敷戸から連帯メッセージが届いた。敷戸闘争に学び連帯し全国の弾薬庫建設反対運動と結びついていこう。

7・7都知事選 小池打倒へ

岸田自民党は4月補選3連敗に続き、静岡県知事選、東京都議目黒補選でも連敗。東京では自民党と一体の小池百合子東京都知事の「選挙に強い」神話が、4月補選での乙武洋匡惨敗から一気に崩れだした。
8年前に「通勤電車満員ゼロ」など8つのウソの公約をかかげたが、マスコミは追及せず小池の居直り・独裁が強まっていた。東京五輪強行、神宮の森の樹木伐採、最近は日比谷公園も三井資本と連携し改造が進む。
これに対し立憲民主党の蓮舫参議院議員が出馬を表明、一騎うちに。西の大阪維新・吉村、東の都民ファ・小池こそ崩れゆく岸田自民党の最後のつっかい棒だ。7月都知事選小池打倒・この国の暴政一掃へ総決起を。

3面

投稿
狭山と私
5月3日間・狭山闘争を闘って

東京高裁前で訴える(5月23日)

5月21日、尼崎・阪急塚口駅前の街宣署名

昨年8月から、〈狭山事件の再審を求める尼崎市民の会〉として、毎月の狭山デー行動を始めて、この日は10回目の行動日。5人の会員は間近に迫った61年目の5月23日にいつもより気合が入っていました。マイク班の訴えがすこぶる良く、場所も良くて、「ビラの受け取りも良かった」と皆勤賞の会員さんから感想が出るほど。署名も16筆取れ、「ここでずっとやった方がいいのではないか」との会員さんの感想も。カンパも2700円集まり、市民から「何とか再審を実現させねばならないですね」との力強い返事が返ってきます。
これまで関心を寄せてくれた市民の皆さんの熱い思いを結集し、尼崎市民の会を大きくして、再審の世論を作ろう! その役目を私は、共に担いたい。

5月22日、映画『造花の判決』上映会

〈狭山事件を知ってもらう会@茨木・高槻〉がひらいた映画『造花の判決』上映会に参加。昨年、尼崎市民の会たち上げ時から、支えてくれた茨木の取り組みに心揺さぶられ、参加。映画の内容でさらに心洗われ、涙して今、街宣署名の活動の重要さをひしひしと感じています。茨木は4年前から会活動をしていることを知り、遅れてきた私たちですが、尼崎でも取り組みを前向きにやろうと教えられました。荊冠旗デザイン入りの手提げバッグを頂き、上映会参加者の皆様に送り出して頂きました。いよいよ明日は5・23当日です。

5月23日、東京

石川さんご夫妻の闘いに学び、661年目の原点を闘う。
夜行バスを降りると、福岡と宝塚の市民の会の先輩たちが思いを熱く語っている。3人でキリスト者の前段集会に参加させていただき、石川さんへの献身的な取り組みを聞かせてもらいました。祈りの言葉、「想像を絶する石川さんの身に降りかかった、被差別の社会構造を作り出している我らの罪を許し、一人一人の生命の尊厳が守られる社会が出来るように助け、導いてください。アーメン」。同宗連の信仰者の方々の「『石川さんの見えない手錠をはずすまで』不撓不屈で闘い抜く」声を間近で聞かせてもらい、私の運動の非力さを痛感しました。全国の市民の会が大きな勢力であることを知りました。
日比谷野外音楽堂では川口真由美さんの前段コンサート。前列で聞かせてもらいました。裸足のシンガーソングライター。石川さんの闘いに深く共鳴する歌声でした。
午後1時、いよいよ開会。
石川さんご夫妻はじめ発言者が演壇に居並ぶ。国会開会中の関係で各政党挨拶は短かめ。福島みずほさんは弁護士としての立場からも「検察の妨害をはねのけて再審法の改正を早急に実現したい」と強調。
石川一雄さんは先月の三者協議の弁護団のプレゼンテーションを評価されて、腹の奥底からの魂の声で、会場を圧巻しました。早智子さんも「一雄の気力は落ちていません」ときっぱりと言われました。
竹下弁護団事務局長は「家令裁判長にたいして、11人の専門家の証人尋問とインク資料の鑑定を強く説明した」と報告。部落解放同盟の片岡副委員長は「前日の袴田さんへの検察側の死刑論告を徹底的に断罪、新たな冤罪をつくろうとしている。狭山と一緒になって闘うことを誓う。万年筆のでっち上げを暴く鑑定実験、再審法改正のうねりをつくる」と発言。袴田事件の市民の会は「検察の死刑求刑に怒号が飛び交った。間違ったことを、直すこと、憚ることなかれ!」蒸し返しばかりの検察にたいして姉の秀子さんは、「底知れぬめまいがする。投獄されれば、獄中48年、釈放されて10年、今も拘禁症、検察や裁判所は人間らしく生きる権利を奪い続けてよいのか」と最終意見陳述をしたと報告。
足利事件の菅家さんは「石川さんの無念は、騙してでっち上げた3人の刑事たちだ、私も同じ気持ちです、謝らせたい」と怒りをたぎらせました。
市民の会事務局長・鎌田慧さんは「検察は面子ばかり。正義を裁けない司法。不正義をそのままにしてはいけない。間違いは正す。免田、財田川、菊池、飯塚などの冤罪事件の無念を繰り返さず、狭山の再審を袴田に続いて、勝ち取ろう」とまとめた。
デモは、東京高裁前を通り、日比谷公園西幸門まで、石川さんご夫妻を先頭に進んだ。一雄さんは終わってから休息を取られたので、早智子さんと記念写真を撮ってもらいました。

石川さんの短歌

緊迫の度合い深まり危急存亡 家令でも緊張溶かず 最後の願い


最後に、憎き東京高裁に向かって、門前での要請行動をしました。昼からは狭山大運動の仲間が要請行動をし、私たち市民の会が到着すると本隊は法務省要請に移動しました。各地の市民の会が約一時間にわたって、家令裁判長にたいしての抗議・要請行動をおこない、私も石川さんの思いを腹の底から訴えました。
阪急塚口駅北で5月街宣(21日、尼崎市)
狭山のホットスポットの三日間の闘いで、私たちの思いがつながる狭山行動をやっていこうと考えました。 一つは、『狭山・尼崎だより4号』を充実かつ迅速につくる。
二つは、尼崎『造花の判決』上映会の企画をつくり成功させる。
三つは、人づくりです。学習会と狭山デーを続けて、市民の会結成式をめざしたい。
部落解放の課題は、とりわけても差別する側にいた私を含む一般民の労働者が差別の社会の仕組みに痛みをもって感じ取っていく日々の中で、自主解放に立ち上がっている部落出身者の苦闘と生き様をさらに認識して、この日本社会の理不尽な差別構造を共に変革していくこと。その領域は行政闘争であり、司法を変える狭山闘争であり、日々の生活や人間関係そのものです。未だに暗中模索の私ですが、残された命の限り、平等な世の中、熱と光を求めて闘って参ります。皆さまのお力をぜひともお貸しください。共に闘いましょう。(小山俊一)

 宝島裁判 控訴審
被告・宝島社を擁護する不当判決

5月15日、宝島裁判の控訴審判決があり、大阪高裁(森崎英二裁判長)は、被告・宝島社を擁護し、控訴棄却の判決をくだした。

▼経過

 2021年2月に宝島社から発行された『大阪ミナミの貧困女子』は、原告(村上薫さん)を筆頭著者と明記して発行されたが、原告が執筆者とされた部分は原告が書いた文章とはかけ離れた内容に改変されていた。同書は、夜職や女性を消費する差別的内容で、中国に対するヘイト、セクシャルマイノリティへの差別偏見が書かれ、帯には「カラダを売るしかない女性たちの物語」と記され、セックスワーカーの労働者としての権利をかちとるために闘っている人たちを冒涜している。
 村上さんは、同書の絶版と謝罪を求めて提訴するも、1審大阪地裁は実質審理を一切拒否し、22年11月、訴えを退ける不当判決。
 村上さんは控訴し、24年1月、控訴審第1回口頭弁論で、1審では拒否された証人尋問が初めておこなわれ、当該本の編集長(小林大作)、編集者(角田育裕)への追及がおこなわれた。

▼被告の言い分を丸呑み

 控訴審判決は、出版された本の内容は事前に村上さんが同意したと認定。いまさら出版を取りやめたら1千万円の損害賠償を請求されると被告が脅迫したことは「脅迫ではない」とし、「カラダを売るしかない」と書かれた本の帯は、原告のことをさしているのではないから名誉棄損にはあたらない、など全面的に被告の言い分を認め、原告の主張を退けた。
 裁判長が閉廷を告げると、原告の音頭で全員が立ち上がり、法廷はシュプレヒコールに包まれた。原告や支援者の怒りの大きさに気圧された廷吏は、ただ呆然と見守るだけだった。村上さんは「こんな判決は認められない。上告してたたかいます」と決意表明。

▼われわれは勝っている

 閉廷後の報告会で、原告の村上さんは「この裁判を始めた時は、少人数だった。しかし、今日は,大法廷に入りきれないほど(百人以上)の方々がきてくださり、差別本の絶版と謝罪を求め、宝島社を糾弾する運動は大きく発展した。この力に依拠し、最高裁段階ではもっともっとこの運動を大きくしていきたい」と抱負を語った。
 仲岡しゅん弁護士は「前回の証人尋問でわれわれは勝っている。上告しましょう」と発言。
 裁判の結果と運動の勝敗は必ずしも同一ではない。裁判に全力をあげつつ、運動面でもさらに宝島社を追いつめる勢いをつけていこうという流れで、報告会は閉会した。

4面

岸田大軍拡を検証する
実戦化すすむ日米共同演習と武器輸出
落合薫

4月の岸田訪米後、大軍拡と人民の生活破壊が一挙に進んでいる。岸田自民党は、4月の衆院3補選の全敗以降、静岡県知事選、東京都議補選と連戦連敗だ。政権維持の展望もないなかで、大軍拡だけが突出している。その様相をとらえつくし、反撃の突破口を開けよう。

T 安倍の継承と安倍からの飛躍

安倍政権が日本を「戦争ができる国」にし、岸田政権が「戦争をする国」にしている。共同通信の石井暁編集委員の言葉である(『世界』2024年6月号)。至言である。岸田首相自身が訪米後の米紙『ニューズウィーク』のインタビュー(2024年5月24日号、4月17日取材)で、「再軍備」という言葉を使い、「この点についてはいかなる誤解もあってはならない」と述べている。この古色蒼然とした言葉で、岸田首相は何を言おうというのか? 従来の軍事強化は「軍備」とは言えない。自分はいままでとは次元の違った軍備強化をする、ということであろう。
すでに軍事予算の倍増、5年間で43兆円規模の大軍拡予算を打ち出している。そのために今年度の予算に7兆9496億円を計上した。ところが「いわゆる兵器ローン」の残高が過去最大の約14兆2千億円に膨らむ。円安や資材の高騰もあり、5年間に43兆円の倍規模になると試算される。そのための糊塗策や誤魔化しが練られている。最後は大増税に帰結することは歴史が示している。

U 誰が対中国戦争を煽っているか?

前記のインタビューで岸田首相は防衛力強化の要点として、次の点を挙げる。
(1)「反撃能力の保有とサイバーセキュリティの強化」
(2)「九州・南西地域の防衛態勢の強化」
(3)東南アジアへの「同盟戦略」の拡大
ここで岸田首相の意図は、安倍首相が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」戦略という「故人のレガシーを引き継」ぎ、東南アジアやアフリカへの勢力拡大に注力すること、および日米安保同盟を通じて米帝・米軍を対中国戦争に引きずり込むことである。
「アメリカの戦争に日本がまきこまれる」危険を煽る言説が乱れ飛んでいる。しかし、自国の政権が大軍拡に転じ、対中国戦争を挑発する軍備配置を急展開しているときに、何と的外れなことか。いな、自国政府擁護の極みである。岸田政権が、2022年末の防衛3文書で中国を「最大の戦略的挑発」と「仮想敵国」規定したのに対し、関係諸国で公然と中国を「仮想敵国視」した国はない。米国ですら「唯一の競争相手」としか言っていない(2022年10月、米国家安全保障戦略)。米軍部や軍産学共同体関係者が中国の台湾侵攻を盛んに煽っているが、それは自衛隊を「捨て駒」として中国と戦わせるための「策略」に等しい。そもそもハワイに司令部がある米インド太平洋軍が、日米共同統合態勢をつくったとして、どうして自衛隊を指揮できるのか。

V 実戦化著しい日米共同軍事演習

岸田訪米以降、自衛隊の実戦化は著しい。5月3日、「令和6年度インド太平洋方面派遣」と称して海上自衛隊の艦船6隻が出港した。空母化された「いずも」「かが」をはじめ6隻で構成され、12月15日までの期間という最大規模、最長期間の派遣である。しかも、従来の「訓練」という名称さえ冠しない実戦的派遣である。
また4月6日から7日にかけ、南中国海で米比豪の各国海軍とともに海上自衛隊が参加した「海上共同活動」が実施された。これも「訓練」や「演習」という名称を冠しない露骨な対中国戦争挑発活動である。これら随時に行われる活動以外に定例的な演習も実戦化を急速に強めている。主な定例的日米共同軍事演習を以下に挙げる(『軍事研究』2024年6月号からまとめ、コード名、頻度、最近の演習の実施期、目的と実態の順に記す)。
@ キーン・ソード=2年に1度、22年11月、中国を仮想敵国とする演習
A キーン・エッジ=2年に1度、キーン・ソードがない年の指揮所演習
B オリエント・シールド=毎年、陸自と米陸軍が参加する日米共同実動演習
C ノース・ウインド=9年ぶり、24年1月、積雪寒冷期の訓練
D ヤマザクラ=年2回、23年11月〜12月、日米共同指揮所演習
E レゾリュート・ドラゴン=毎年、23年10月、南西方面の島嶼防衛
F アイアン・フィスト=毎年、23年2〜3月、水陸共同作戦(上陸作戦)
G (コード名なし)=毎月、24年1〜2月、沖縄周辺域の海上訓練
H コープ・ノース=毎年、24年2月、早期警戒管制機による戦闘訓練
I タリスマン・セーバー=2年に1回23年7〜8月、着上陸演習
J サザン・ジャッカル=毎年、23年6〜7月、対テロ・コマンドウ作戦
K コプラ・ゴールド=毎年、米タイ共同演習に日を含む30か国軍が参加
※ @〜Hは自衛隊を主体とした日本周辺での日米共同演習、I〜Jは豪米共同演習に自衛隊が参加、韓国・フィリピンを演習場所とする演習には自衛隊は参加していない(植民地・軍事占領の記憶が生々しい)、リムパック=環太平洋合同演習など、米本土及び周辺での日米を中心とした演習は省いてる。
以上の日米共同演習のここ1〜2年の特徴は、@頻度が飛躍的に増え、ほとんど日常的に日本周辺でおこなわれている。A日米の全軍種が参加する多様な形態の演習が行われている。B日米に加え、豪・英・加・比・仏・蘭・独軍が参加するケースが増えている。C「米軍は矛、自衛隊は盾」論とは逆に、自衛隊が攻勢面を、米軍が防御ないし兵站面を受け持つ訓練が増えている。
『軍事研究』の記述を囲繞すると、
@について、「南西方面ではあくまで主役は自衛隊であり、アメリカ軍は自衛隊を支援するという役割分担だったようだ」Bについて、「アメリカ軍の小型揚陸艦艇部隊が、奄美大島に展開した陸上自衛隊に向けて、燃料、糧食、医薬品を輸送した」Cについて、「指揮所演習で、主として自衛隊が敵の攻撃に対処しながら、アメリカ陸軍と豪陸軍が日本に増援部隊を派遣するというシナリオ」。(以下略)

W 武器輸出と共同開発

3月26日、日本が英国・イタリアと共同開発する次期戦闘機を日本から第3国に対して輸出可能にする閣議決定がなされた。同時に武器輸出のルールを定めた「防衛装備移転3原則」の「運用指針」を国家安全保障会議(NSC)で改定した。
ここに岸田大軍拡の核心を見ることができる。すなわち、
? 米国に依拠しない最先端武器の開発、輸出、実戦化
? 日本における軍産学複合体の本格的形成
? NATO(欧米)と連携し、また対抗するインド太平洋の軍事的核の形成
他方で、米国との共同開発を通じて大軍拡に向かう動きも見られる。以下、公式には発表されていないが、一番の狙いを示すものだ。
ひとつには、超音速兵器の開発である。音速の5倍以上で低空を変則軌道で飛翔するため迎撃が困難とされる。ロシアはすでに実戦で使用しており、中国・朝鮮民主主義人民共和国も開発に成功したとされる。それに対してアメリカは開発段階で重大な失敗をしたため、成功しつつあるという日本の技術を取り込むことを必要としている。日本からも近未来の最新兵器を自力開発するチャンスと位置付けられている。5月15日、日米両政府は、この超音速兵器を迎撃するための新型ミサイル(GPI)の共同開発を始めることを公式発表した。30年代半ばの開発完了を目指すという。迎撃という「防御」用兵器の共同開発を公式発表したことは、攻撃用の超音速兵器について、秘密裏に共同開発をおこなっていることが推測される。
2つ目は、中距離ミサイルの開発・量産である。1988年に発効した中距離ミサイル全廃条約に基づいて米ソは核を搭載できる中短距離ミサイルを一定は廃棄した。しかしソ連の後継国家であるロシアは条約違反を重ねて中短距離ミサイルを開発・製造していることが判明し、2019年に当条約は失効宣言された。ところが、条約違反を重ねたロシアはもちろん、条約に加盟していなかった中国は中短距離のミサイルを膨大に開発・製造・配備し続けてきた。核ミサイルに軍事的に対抗する日米支配層の利害は、より精密な中距離巡航ミサイルの共同開発で一致する。その点でも水面下の策動がおこなわれている。
すでに三菱重工が長射程の4種類のミサイルの開発・量産を受注したことが明らかとなった。その4種類とは、射程1000〜3000キロで敵基地攻撃能力を持つ一二式地対艦誘導弾能力向上型、島嶼防衛用高速滑空弾、極超音速誘導弾、地対艦・地対地精密誘導弾であるという。そしてこのようなスタンドオフ防衛能力の開発・量産・輸入のために約7340億円がすでに計上されている(吉田敏浩「ルポ軍事優先社会」『世界』2024年6月号)。
なんのことはない、米国との共同開発以前に、日本の軍事企業に開発・量産を発注しているのである。

X 高圧の軍事・治安社会

岸田大軍拡がもたらすものは超高圧の軍事・治安社会である。労働者人民の生命や権利・自由や生活は徹底的に踏みにじられる。すでに以下のような体制・制度が今国会を中心に対象になっている。
第1は、「セキュリティ・クリアランス」制度である。今国会に提出されている「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」は、秘密保護法規に屋上屋を重ねるものである。そのうえ、@人権侵害の予防や救済制度が整っておらず、A濫用に対する歯止めや救済制度がなく、B規制の根拠も範囲も明らかでない代物である。いつ、だれが検挙・冤罪に落ちるか恐怖の制度である。
第2は、「特定利用空港・港湾」指定である。「国家安全保障戦略」に規定され、2023年11月27日に『朝日新聞』が、14空港、27港湾が候補地として挙げられていることを報じた。2024年4月1日には7道府県16カ所が具体的に指定された。民間の空港や港湾を軍事利用するための整備や拡張が目的とされる。自治体に管理権がある場合はその承認が必要である。そもそも軍事施設と見なされ攻撃の対象となる施設の改造や使用に地域住民の同意が必要でないわけがない。ちなみに沖縄県は当初、全国最大の12施設が対象として挙げられたが、最後に指定されたのは2施設のみであった(那覇空港と石垣港)。ここには反対運動の力が反映されている。
第3は、今国会に提出されている地方自治法改悪案である。非常時に国が自治体に対応できるようにする趣旨である。住民自治を奪い、各地の施設・人員・制度を軍事・治安目的に動員する制度となる。何としても阻止しなければならない。
岸田大軍拡と闘うために、以下の軍事拠点を人民的に包囲し、軍事使用を阻止しよう。問題はアメリカに動員されることや、中国に攻撃されることではない、自国帝国主義・自国政府にある。その手を縛り、戦争使用を許さない闘いを展開しよう。
第1は、侵略と攻撃の最先端の地点である与那国島と宮古島をまず挙げるべきである。対中国戦争挑発の発火点となる可能性が高い。それに次ぐ地点として沖縄島・石垣島・奄美諸島である。
第2は、兵站・補給線となる地点である。前記特定利用空港・港湾がまず挙げられる。九州、とくに鹿児島県と四国の港湾・空港・自衛隊施設である。すでに焦点となっているのは、関西の祝園弾薬庫と大分県の敷戸弾薬庫である。後背地どころか、第1の攻撃目標となる。
第3は、原発と政治・軍事中枢である。全国の原発が攻撃目標となることはウクライナ戦争が示している。また軍事施設とこじつけて民間施設、それも病院や学校も攻撃されることはパレスチナ戦争が示している。現代の総力戦に安全なところはない。シェルターや脱出を考えるより、まず戦争を許さない、自国政府と軍隊(自衛隊・海上保安庁)の解体と人民の側への移行を目指して闘おう。

5面

福島イノベーション・コースト構想とは
〜被害者置き去りの復興政策と軍民共用産業拠点化(上)

和田央子さん

5月12日、福島イノベーション構想を監視する会・和田央子さんの講演会が、大阪市内でおこなわれた。主催は西成青い空カンパ。福島イノベーション・コースト構想なるものは、国策で進められている軍事研究だ。和田さんの講演内容をまとめた。

(1)福島イノベーション・コースト構想

福島県の「浜通り」(太平洋沿岸地域)を中心に、「福島イノベーション・コースト構想」が、ひそかに進められている。超近代的な建築物が、つぎつぎと建てられている。この建物で何がおこなわれるのか。福島の住民は何も知らされていない。
こうして、国や関連企業の施設がつくられ、そのあとに、人材募集がおこなわれる。さまざまな補助金がつけられ、ここに「新住民」がよび寄せられる。街づくりが、ここに暮らしている人たちのためではなく、新たに移ってくる人たちのためにおこなわれているのだ。
新住民は「放射線は心配いらない。ここは安全だ」と教えられている。復興住宅は家賃が2万7千円、教育費は無料、今のところ医療保険も免除されている。さらに、ここに2年間暮らせば、2百万円が支給される。こうして、生活に困っている人たちが、ここに呼び寄せられているのだ。これは、戦前の「満洲」移民政策を想起させる。
福島イノベーション・コースト構想は、2017年5月に法定化(福島復興再生特別措置法・改訂)された。復興庁と経産省を中心に、関連省庁(文科省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省、防衛省など)が参加している。官民一体で進められ、膨大な国費がつぎ込まれている。つまり、これは先端科学技術産業を福島の浜通りに誘致する構想であり、中央官僚によって描かれた「福島復興計画」なのだ。
福島イノベーション・コースト構想は、6つの分野(@廃炉、Aロボット・ドローン、Bエネルギー、環境、リサイクル、C農林水産業、D医療関連、E航空宇宙産業)で構成されている。
いっぽう、「福島国際研究教育構想」(F−REI、エフレイ)が、JR浪江駅の西側につくられる予定だ。エフレイは、福島復興再生特別措置法にもとづき、2023年4月に国が設置した法人。エフレイは、@研究開発、A産業化、B人材育成、C司令塔、この4項目を理念に打ち出している。つまり、エフレイは先端科学研究者を育成する研究機関であり、福島イノベーション・コースト構想の司令塔に位置付けられている。
エフレイの研究内容は、福島イノベーション・コースト構想の6つの分野と一致している。また、これらは経済安全保障の「特定重要技術」(11物資)とも重なっている。ここに「原子力ムラ」に近い研究者たちが参加している。山下俊一が、エフレイの理事長特別顧問になっていることからも、その性格が想像できる。国は軍事研究に導こうとしている。

(2)福島イノベーション・コースト構想の内容

福島イノベーション・コースト構想は、先に述べた6つの分野ですすめられている。ここで、どういうことがおこなわれているのか。具体的にみてみよう。
@廃炉。楢葉町に楢葉遠隔技術開発センターが造られ、廃炉ビジネスが立ち上げられている。国はさまざまな補助金をだして、廃炉関連の企業を誘致している。廃炉ビジネスは、核戦争を想定した軍事産業でもある。
Aロボット・ドローン。南相馬市に福島ロボットテストフィールドが造られている。表向きには、廃炉作業用に、産業ロボットが開発されている。しかし、これは戦場を想定したものであり、ドローンによって操作し、無人ロボットが作業をする。このような実証実験がおこなわれている。
Bエネルギー、環境、リサイクル。いろいろな再生可能エネルギーの実証実験がおこなわれている。浪江町には福島水素エネルギー研究フィールドがあり、国は水素エネルギーにかかわる分野に力をいれている。
C農林水産業。バイオ・テクノロジー、ゲノム編集技術によって、植物工場、動物工場が造られている。また、コンピューター管理で水耕の植物工場がつくられ、ゲノム編集された魚が養殖され、IT化された畜産がおこなわれている。
D医療関連。福島県立医科大学と連携して、放射線を使ったガン治療の研究がおこなわれる。また、先端技術を使った医療機器の開発支援も実施されている。
E航空宇宙産業。IHIがロケット・エンジンを開発している。さらに関連企業を誘致して、ここを航空宇宙産業の拠点にする計画だ。(つづく)

6面

カクマルとの闘いを「内ゲバ」とする『ゲバルトの杜』
動労松崎明、盗聴・テロ部隊抜きのカクマルは虚像(上)
大久保一彦

5月末から代島治彦監督の映画『ゲバルトの杜〜彼は早稲田で死んだ』が「内ゲバの真相に迫るドキュメンタリー」の名で上映されている。映画は鴻上尚史が脚本を書き、池上彰、佐藤優、内田樹らが出演し、重信房子氏もメッセージを寄せている。代島監督の基本的視点は、川口大三郎さんの虐殺に抗議する闘いを「内ゲバ」(の始まり)とし、暴力的闘いからは何も生まれないとするようである。また多くの識者・関係者の登場により、50年を経て今の時代の大学や若者を考える契機にはなるだろうが、70年安保・沖縄闘争の意義とカクマルとの「内ゲバ」発生の社会的背景には踏み込まない。早大カクマルは描いても、転向し国労解体・国鉄分割民営化を導いた動労カクマル・松崎明が総評を解体させこの国の社会運動を転換させたことにも触れない。
われわれ革命的共産主義者同盟(再建協議会=通称中核派関西派)は2007年革共同中央と決別した組織だが、対カクマル戦の一方の当事者として党首を奪われながらも闘いつづけ、カクマルの軍事的脅威をほぼ排除し、今やこの国を「再び戦前にさせないため」に岸田政権の大増税・大軍拡攻撃と闘うものとして、この映画による「内ゲバ」キャンペーンは看過できない。(以下の論は6月からの関西上映を前にしてのネット上の宣伝物によるもので、映画そのものへの論及は観てからにしたい)

(T)川口さん虐殺弾劾・早稲田解放闘争は内ゲバではない

1972年11月8日、狭山闘争を闘う早稲田大学文学部2回生・川口大三郎さんは、当局(村井総長)と癒着し早大を暴力支配していたカクマルにより殺された。彼らは狭山を闘う者が中核派に見え、川口さんを拉致し数時間にわたるテロ・リンチで殺害した。これに対し川口さんの友人たち、早大の党派・無党派の学生は川口さんの非業の死に怒り、これを開き直るカクマルを数千人の決起で弾劾し、多くの負傷者を出しながらも闘い抜いた。しかし一度はカクマル執行部をリコールしたが、早大当局の庇護を受けたカクマルの白色テロルに制圧され、より陰湿な支配が続く。友人や文学部学生、早稲田大全学行動委員会(WAC)の闘いは社会の共感を呼ぶが(筆者をはじめ多くの人が早大に駆けつけた)、最終的には全国動員のカクマルゲバルト部隊に抑え込まれる。この1年余の闘いのどこが「内ゲバ」なのか。
また映画のあらすじには「リンチ殺害事件をきっかけに、各党派で内ゲバがエスカレート」とあるがこれも違う。ここには71年12月4日以前の「各党派で内ゲバ」(学生内の暴力抗争)と、12・4以降の「カクマルVS中核派+解放派」の対カクマル戦争とが意識的に混同されている。「100人を超す死者」の95%は後者=3者間での事で、それ以外は学生運動内の死でも個別に事情は異なる。
カクマルに殺されたという点では対カクマル戦かもしれないが、当事者早大生にとっては、一般学生の川口さん(知人に中核派がいた)が、カクマルに殺されたことを「内ゲバ」(どっちも悪い)と同列視し、早大カクマルの白色テロ暴力を容認するこの映画は許されない。
学生間の暴力的衝突が内ゲバと言うなら、右翼・原理研との闘いや、日大全共闘や明大学費闘争を襲撃した体育会との闘い(日大には後に理事長になる相撲部の田中英寿がおり、明大には原発推進のCMに出続けた野球監督・星野仙一がいた)との闘いもすべて内ゲバになる。監督もマスコミも、これを内ゲバとは呼ばないはずだ。
代島監督らは「この内ゲバへの恐怖が学生運動から遠ざけた」とするが、76年入学の早大で依然続くカクマルの暴力支配に「恐怖」を覚えても、中核派や解放派に「脅威」を感じたことはないはずだ。カクマルの暴力は中核・解放派や支持する人だけでなく、カクマルに異を唱える者すべてを敵とし襲いかかった。この事態は本映画の原作である元朝日新聞記者・樋口毅『君は早稲田で死んだ』に詳しい。発刊時これを読み、改めてより高度化されたカクマルの白色暴力行使に、十分対応できてなかった事を知り悔しさを覚えた。 代島監督らは多分「(カクマルも含めた)新左翼内部のゲバルト行使全体」を「内ゲバ」と呼ぶのであろうが、三派全学連内での暴力行使(この件については次に論じる)は多々あっても、対カクマル戦争以外には持続的な死者は出ていない。カクマルのテロは、早大反戦連合への今も語り継がれるリンチ、68年11月東大闘争さなか解放派への激しい暴力襲撃(100人規模で1週間)、69年1月東大闘争逃亡を全党派・全共闘から弾劾されるや、その暴力は全党派に向けられる。
もともと対立党派への権力弾圧を「チャンス」ととらえ、「他党派解体のための党派闘争」を組織路線としたカクマルは、69年4月の中核派・ブント最高指導部への破防法適用、11月の数千人の逮捕、71年11月過程で再度の破防法攻撃、数千人逮捕を、絶好のチャンスと捉え(カクマル議長黒田寛一は「今賀千安」の筆名を使った)、71年12月の中核派3政治局員への襲撃、12・4関西大学バリケード襲撃で中核派2人の殺害を機に、70年安保・沖縄闘争のさらなる発展を暴力的に襲撃・鎮圧する反革命としてカクマルが登場したのだ。
69年12月、11月決戦で全党派・各大学全共闘が数千人規模で逮捕され、機動隊に殺された岡山大生・糟谷君虐殺抗議人民葬すらカクマルは襲撃する。反撃で逮捕された中には法政大の糸井重里氏もいた。この種のカクマルの襲撃は各大学で頻発し、それゆえ「革マル派排除」は新左翼全党派(8派)・全共闘・反戦の共通確認となった。この事実を踏まえず、半世紀を経て映像で「内ゲバ」としてカクマルの暴力を擁護する意図は何だろうか。

(U)動労カクマルの「暴君」松崎明になぜ言及しないのか

この映画を見た人はカクマルという組織の恐ろしさを改めて認識するだろう。しかしそれが早稲田・学生の抗争としたら、歴史全体を見る目がない。なぜならカクマルは70年闘争の爆発抑止(大学で左翼を装い襲撃し鎮圧する)以外に、動労カクマルという形で戦後左派の大母体=総評の解体のため決定的な役割を果たすからだ。すなわちカクマル=松崎による動労(動力車労働組合)乗っ取り、国労(国鉄労働組合)解体・国鉄分割民営化、そして総評の解体だ。
代島・鴻上という「遅れてきた青年」はそこまで関心がないかもしれないが、『日本左翼史・4部作』で戦後左翼を論じ、この映画にも登場する池上彰・佐藤優は今日の翼賛政治の原因に、総評が動労カクマル=松崎明により解体されたことをなぜ論じないのかだ。池上・佐藤らが発展を願った社会党は、中曽根内閣の「戦後政治の総決算」=国鉄分割民営化・国労解体・総評解体で一気に衰弱。
ゲバルトの杜=早稲田大で当局と癒着して盗聴・学内パトロール・自己批判=退学強要で白色支配したカクマルは、動労・国鉄でも大規模な盗聴・暴力で動労を乗っ取り、当局と一体となって分割・民営化の先兵となり国労を解体し(動労はJRに再就職、国労の大半は余剰人員)、「昔陸軍、今総評」はほどなく消滅し、その系譜をひく政党は30年後にはわずか3国会議員の社民党になった。
この動労カクマルとの闘いでも中核派・解放派は、松崎の右腕=松下勝高崎地本委員長や国労の破壊者=真国労の前田らを打倒し(100人を超す死者には国鉄・全逓の組合員が多数いる)、カクマルの弱体化を進めた。西岡研介『マングローブ』・『トラジャ』、と牧久『暴君』などには、松崎明が暴君として君臨し、国鉄改革3人組と癒着・抗争し、さらには多数の死者・海外亡命者も出したカクマル内抗争も詳述される。
カクマル本体の黒田議長を辞任させた松崎が、動労を「左派」から「コペルニクス的転換」し、その後松崎明はJR総連会長となりJRに君臨する。JR総連は日本新党の枝野幸男に多額のカンパをし、元キャスターの小池百合子を集会司会者に呼んでいる。この時代、松崎は会長室に「日の丸」を飾り、勝共連合機関紙『世界日報』に10回も登場した。しかし、ならず者・カクマルを「先進国」の鉄道部門に抱える危険性をJR当局は認識し、松崎との対決路線に転じる。国家権力・警察は、警察無線を傍受するカクマルの白色テロ部門に、2000年の豊玉アジト弾圧以降、系統的に弾圧を加える。最終的には2010年の松崎の死を契機に、JR東労組の松崎支配は崩壊する。
この恐るべきカクマルの動労支配のカラクリを社会主義協会派の池上・佐藤は語らず、たかが動労となめていた(当初は労運研=反カクマルが多数だった)太田協会・向坂協会派は一戦も交えず動労を乗っ取られ、国労をつぶされ、少数派に追い込まれる。
『ゲバルトの杜』(早稲田)と『暴君』(動労)は、当局と癒着した運動つぶし・白色テロ行使のカクマルという同じ脈絡でなされた。
今日の「自由な言論空間」は、中核派や解放派が党首を暗殺され満身創痍になりながらもカクマル白色テロ部隊を粉砕した空間でなされているのだ。1972年なら、カクマルを少しでも批判する者は間違いなく第2第3の川口さんになっていただろう。

(V)転向を勧める佐藤優・池上彰

実はこの映画に先だち「知の巨人」池上彰・佐藤優は2021年6月から『日本左翼史』4部作を上梓し、社会党・共産党・新左翼の評価・総括の中で、とくに新左翼に対しカクマル擁護と内ゲバ史観を展開している。動機は「左翼の失敗を繰り返さないため」であるが、真意はアベノミクス崩壊から日本帝国主議が全社会分野で崩壊寸前に至り、「悪夢の政権交代」と70年を超える闘いの到来を回避するためと言うと、うがちすぎであろうか。
断っておくが田崎史郎のような自民党提灯持ち評論家に反論しようとは思わない。しかし佐藤優は高校時代から社会主義協会下で『資本論』を座右の書としたたバリバリの左翼活動家だ。池上彰も高校時に新左翼の洗礼をうけ、大学ではマル経を学び、NHK入局後も社会主義協会系の活動家で、2020年には的場昭弘神奈川大教授と『今こそ「社会主義」』を上梓している。それらの人物が時代の右傾化と自己の思想遍歴を総括するのでなく、あたかも他人事のように「左翼史を総括」し「転向を勧め」ているのだ(実は田崎も70年闘争時三里塚闘争で逮捕され全面ゲロし転向した人物)。
特に向坂派の佐藤は、大学時代には太田協会派が強い尼崎の叔父宅(=上江洲久社会党兵庫県委員長、兵庫県議、沖縄県人会県本部会長)を訪れる際は太田協会派の目を避けた人物でもあった(両派間での抗争もあった)。人の「誤り」を言う前に、母親とも信奉した社会党がなぜ150議席から3議席になったのか、再興の道はなかったのか、三里塚闘争を支持した叔父が終生を尽くした沖縄の闘いとも今は別れ、イスラエルやロシアをなぜ支持するのかをこそ総括すべきではないのか(東大文学部で、カクマル周辺にいた内田樹については映画鑑賞後に意見を述べたい)。

(W)新左翼内の内ゲバについて

次に70年安保・沖縄闘争をけん引した左翼は、運動の再興には統一戦線と党派闘争・党内闘争の総括が問われている。カクマルとの抗争は内ゲバではなく外ゲバだが、新左翼内の内ゲバ=「人民内部の矛盾」をいかに克服するかである。遅きに失するかもしれないが、中核派と、その流れをくむ我々再建協・「未来」派の責任は重いと考える。

@10・8前夜の解放派へのテロの誤り

コミンテルン=スターリン主義の色濃い日本左派運動は、党派対立(それ自身は常にある)を大衆団体に持ち込み、分裂させる誤りを絶えず犯してきた。三派全学連はそれを可能な限り克服した団体であったが、67年10・8羽田闘争前夜に中核派指導部(清水丈夫政治局員)が解放派指導部(高橋孝吉全学連書記長)に、それまでとは次元を画するテロ・リンチを加えた。批判の理由は「社民としての解放派の右翼的転落」であるが、中核派は10・8羽田闘争の画期的成果の裏で「前夜のテロ・リンチ」を今日まで隠蔽する。
また本多延嘉革共同書記長の統一戦線論は、3派共闘の拡大・強化、社民との共闘=反戦青年委、日共との共闘=反安保統一戦線であるが、それぞれ論争・抗争はあるが、69年4月には5派共闘・30団体声明となり、9月全国全共闘結成時には(カクマルを排除した)8派共闘にまで拡大した。もちろん日本共産党とは激しく闘い、社民勢力とも「反戦排除・凍結」をめぐり協会派とは争い、埼玉県反戦(三田岳)・全大阪反戦(主体と変革)らとは10府県反戦として共闘・論戦をしていく。しかし解放派に対する論戦以上の暴力的攻撃をする理由は語られない。そこには「反スターリン主義」と言いながら、スターリンが1930年代に取った「社民主要打撃論」があったと思う。
新左翼間抗争としては、他にブント内の党内闘争・分派闘争・党派闘争、70年代末東北大での解放派VS第4インターの抗争などがある。われわれは改めて「本多暴力論」と社民主要打撃論克服の再検討が必要だろう。

A三里塚闘争での第4インターへの革命軍発動の誤り

(つづく)

カクマルとの闘いを「内ゲバ」とする『ゲバルトの杜』もくじ

T 川口さん虐殺弾劾・早稲田解放闘争は「内ゲバ」ではない
U 動労カクマルの暴君・松崎明になぜ言及しない
V 転向を勧める佐藤優・池上彰
W 新左翼内の内ゲバについて
@10・8前夜の解放派へのテロの誤り

ここまで本号、以下次号

A三里塚闘争での第4インターへの革命軍発動の誤り
B無党派グループへの数を頼んだ威嚇
X 今日のカクマルをどう見るか



7面

地方自治法改悪案は廃案に
自治体を国に従属化 戦争する国造りが狙い
花本香

政府は「地方自治法の一部を改正する法律案」を国会に提出し、5月28日衆院総務委員会でろくな審議もせず可決した。地方自治法に新たに「第14章 国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例」を設け、自治体への国の指示権を拡大する。自治体を国に従わせ、戦争する国をつくる悪法だ。法律家、日弁連、自治体首長などが反対の声をあげている。地方自治破壊は戦前への逆戻りだ。地方自治法改悪案を断固阻止しなければならない。

地方自治の根本を破壊

地方自治を保障する憲法は「地方自治の本旨」に基づく自治を要求している(憲法92条)。「地方自治の本旨」とは、自治体が政府から独立した機能を持つ団体自治と、住民の意思に基づいておこなわれる住民自治である。2000年に施行された地方分権一括法により、自治体の事務は、国が本来果たすべき仕事を委ねる「法廷受託事務」と、それ以外の自治体が担う「自治事務」に二分された。法定受託事務は限定的に国の指示権を認めているが、自治事務については国は要望は出せても指示はできない。国と自治体の関係を「上下・主従」から「対等・協力」に改めるものだった。
改悪案は、法廷受託事務と自治事務の違いを無視して、自治体のあらゆる事務に対して国が指示権を行使できるようにするもので、地方分権改革に真っ向から逆行する。自治体を国に従属させる集権化であり、憲法が保障する団体自治を根本から破壊するものだ。

「災害や感染症」に国の指示権拡大は弊害

自然災害やコロナ感染症に必要だとしているが、国に指示権があれば「想定しない事態」に適切に対処できたのか。具体的事例は何1つ示されていない。災害対策基本法や感染症予防法などの個別法に、国の指示権が規定されている。個別法で対応可能である。
災害の実態や被災者の状況を迅速に把握し、効果的な対応をおこなうことができるのは、自治体である。現に自治体が先頭になって救援・復興をおこなっている。国がやるべきことは、迅速な対応ができる権限、財源、人を自治体に保障することである。能登半島地震でいまだに復興が進んでいないのは、国がお金と人を投入していないからだ。
世田谷区の保坂展人区長は、新型コロナ流行時に区で試行錯誤しながら対策を講じてきたことを述べ、法が改悪されれば「国の指示待ちの自治体が増え、住民の命が軽んじられる体制になる」と批判している。

恣意的運用が可能

改悪案の「国の指示権」にまったく限定がない。指示権発動の場面は「大規模な災害、感染症のまん延その他・・・国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合」。大災害や感染症は一例であって武力紛争や内乱・テロなども含まれる。「おそれ」を含むので、事態が発生して危険が現実化する以前からの発動も可能である。発動の要件は、各大臣が「特に必要があると認めるとき」と大臣の判断次第。発動の手続きは、国会の承認は必要なく、閣議決定だけ。自治体の意見を聞くのは努力義務にすぎない。
「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」という曖昧な規定なので、いくらでも恣意的運用が可能であり、指示権を拡大できる。「他に例を見ない大雑把な権力介入規定」(田中隆弁護士)と批判されている。

自治体丸ごと戦争態勢に組み込む

武力紛争すなわち有事の際に、指示権拡大は発動される。「武力攻撃事態」に対処するための有事法制(事態対処法、国民保護法等)では、自治体の役割は住民避難などの国民保護に限定されている。そのため国の自治体に対する指示権は、避難・誘導・救援と港湾・空港の利用に限定されている。
ここに指示権の拡大が加われば、自治体の意見を聞かずに有事法制では認められていない広範な指示を出すことが可能になる。そうなれば、自治体や地方公務員を戦争遂行に根こそぎ動員することもできる。例えば「自衛隊の補給の手伝い」「施設への防護措置」などに動員できる。「台湾有事のおそれ」を口実に「軍事基地建設に協力する措置」を指示することも可能になる。
岸田政権は、安保3文書に基づき、沖縄、琉球弧をはじめ全土軍事基地化を進めようとしているが、自治体の反対や住民の反対運動がおこっている。今でさえ、沖縄の民意も地方自治も踏みにじって、強制代執行し辺野古新基地建設を強行している。法改悪すれば、自治体は抵抗するすべを奪われ、政府は民意を無視して強権発動できる。

緊急事態条項の先取り

2012年の自民党改憲草案の「緊急事態条項」では、外部からの武力攻撃などにより緊急事態宣言が発せられた時には、国が「自治体の長に対する必要な指示」を出すことを認めている。緊急事態宣言には、「事前又は事後に国会承認」が必要としているが、改悪案には、それもない。改悪案は、「緊急事態条項」の中身を明文改憲なしに地方自治法改悪によって先取りしようとするものだ。

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ナチズムから平和を考える
田野大輔講演会に参加して

満員の聴衆相手に力強い訴え(5月12日 芦屋市)

5月12日、(兵庫県)芦屋「九条の会」19周年記念のつどいが開催され、甲南大学文学部教授、田野大輔さんが講演した。
主催者挨拶ののち早速、講演が始まった。田野さんの話は、「ナチズムから平和を考える」と題して、まず去年出版した本『ナチスは良いこともしたのか?』(岩波ブックレット)を、何故書いたのかのいきさつを語った。ある予備校講師のツイートで、教え子がヒトラーのファンでナチスの政策を肯定、文体は完璧で困ったと。これを受けて「肯定できるところはない」とツイートすると炎上した。この状況は何とかしなければと思い、知人の小野寺拓也さんと共に執筆する事になったと。
そして田野さんは何点か、「ナチスは良いこともしたのか?」について反論をした。よく言われるアウトバーンやフォルクスワーゲンなどだが、アウトバーンはナチス以前からおこなわれていたし、フォルクスワーゲンは軍事車両と一体の物だった。こうした人々が挙げる反例は事実認識として間違っているか、歴史的文脈への理解が不十分なものがほとんどだ。一見良いことに見える政策がほぼ例外なく、悪いこと=ナチスの犯罪的本質と不可分に結びついていることを見落としている。また、ソフトな歴史修正主義を装っていて、確信的な歴史修正主義とは異なり、ガス室はなかったとするホロコースト否定や、ヒトラー賛美の意図は希薄である。ナチス=悪を相対化することで、いまだにポリコレ的な価値観にとらわれている左翼に対して優位に立とうとする。自分たちこそが党派性にとらわれずに客観的に歴史を見ているのだという自意識がある。だがこれが悪の相対化につながる俗説の曼延につながっている。
そして「悪の相対化」をもとめる欲求については、ヒトラーの政権掌握が民主的だと言われているが、「民主的に選ばれた」「支持されていた」ことは「良いこともした」と必ずしもイコールではない。また、過去を一方的に断罪することへの拒否感もある。例えば「歴史に善悪を持ち込むな」「現在の価値観で過去を断罪するな」とか、過去の戦争を反省することばかり強いられる状況への反発がある。
次にヒトラーがユダヤ人少女を可愛がる写真を提示し、これはナチスが宣伝に利用した虚像と言い、これでヒトラーの犯罪を否定する根拠にはなりえないと説明した。続いてアウトバーンの建設で経済が回復したか、については確かに失業者は激減したが、女性を家庭に戻し、その分を男性労働者に替えた。何より実際には軍需経済が景気回復の主因であった。ナチスが導入した労働者向けの福利厚生措置は、実際は成果に乏しくお情け程度のもの。賃金凍結、それでも文句を言わず働いてもらうためのご褒美が歓喜力行団で、その原資は労働者が払う会費だった。
このように田野さんはネトウヨからどんなに攻撃されても、一つ一つ丁寧に論破してると語り、おかげでブックレット『ナチスは良いこともしたのか?』は10万部も売れたとのこと。これからも精力的に反論していくと笑いながら纏めていました。分かりやすく納得性がある良い講演でした。(大北健三)

     

映画評
クーデター下のミャンマーの闘い
「夜明けへの道」(監督:コバウ 2023年)

コパウ監督は、ミャンマーでたくさんの映画を作っており、安定した生活をいとなんでいた。2021年2月1日、ミャンマーで国軍によるクーデターがおきる。表現者にとって、自由は何よりも大切だ。権力者から監視され、自由が制限された社会のなかで、表現活動はできない。彼は仲間とともにクーデターに反対する行動に立ち上がる。デモにも積極的に参加した。こうして、コパウは政府から指名手配される。
コパウはヤンゴン市内で潜伏し、支援者にかくまってもらう。やがて、この生活もできなくなり、彼は国民防衛隊(PDF)の解放地区に移動する。解放区での生活は、潜伏生活よりもはるかに「自由」だった。この様子は映像からも伝わってくる。何よりも、彼自身の活動ができた。こうして、コパウは革命運動に身を投じることになる。
この映画は、この過程を時系列に追ったセルフ・ドキュメンタリー映画だ。コパウがスマホと一眼レフカメラで映した動画を編集しているため、映像は荒いところがある。また、あくまでも私的な記録であり、ミャンマーの反体制運動を網羅してはいない。しかし、この個人的記録が普遍性をもった作品になっているのだ。

解放区の生活

解放区は山岳地帯にある。PDFに参加する若者たちがここで軍事訓練を受けてゲリラ活動をおこなっている。支援体制はしっかりできているのだろう。ここでは、食料などに不自由はないようだ。
国軍は解放区に空爆を繰り返している。映画の中で、コパウがエピソードを紹介している。コパウが地域の学校で「支援するのに何が必要か、教科書は足りているか」という質問をしたとき、校長は「教科書はいらない。今、必要なのは爆撃機を撃ち落とすミサイルだ」と答えている。
解放区にある村落は、国軍によって無差別に焼き討ちされている。かつて、日本軍が中国でおこなったように。国軍による行動は、結果として農民の怒りを引き出すものになっている。

人民決起の可能性

解放区は毛沢東のゲリラ戦を想起させる。この影響があるのかもしれない。ミャンマーにおいては、今日でもこの戦いが有効だ。こうして、根拠地が存在することによって、ミャンマー人民の解放闘争はゆるぎないものになっている。
今年2月に、ミャンマー政府は徴兵をおこなう方針を打ち出した。徴兵制の導入に抗議して、若者たちが海外に脱出している。都市部においても、国軍にたいする怒りはますます高まっている。
コパウは安定した生活を放棄し、家族との生活もすてて、革命運動に身を投じる。革命運動は人を変え、革命家を作り出す。同時に、旧体制にまみれた人間をあぶりだす。歴史上、どの革命においてもそうだった。コパウの決起は、すべての人民に通底している。長い闘いになろうとも、ミャンマー人民はかならず勝利するだろう。このドキュメンタリーは、これを示している。(鹿田研三)

夏期カンパアピール
自民党支配葬る大運動へカンパを

ロシアによるウクライナ侵略戦争と、イスラエルによるガザでのジェノサイドが続く中、アメリカでは全土で学生によるパレスチナ連帯・ジェノサイド弾劾の決起が広がっている。パレスチナの正義を訴えただけで逮捕や卒業拒否(ハーバード大学)など、民主主義の見せかけの下でのアメリカ帝国主義の不正義の本性が暴露された。
世界の戦争と抑圧の主な担い手がロシアだけでなくイスラエル・アメリカであることがあまりにも明白だ。
米中対立ではトランプもバイデンもアメリカ第一主義をかかげ関税戦争=保護主義でアメリカ人民と世界人民に犠牲・分断を強いている。
日本帝国主義はかつてイギリス帝国主義がアジア支配をした時代に、番犬帝国主義として膨張し・アジア侵略と虐殺を働いて破産した。今ではアメリカの目下の同盟国として世界分断を率先し、軍事大国化・戦争国家の道へ走っている。これを食い止めなければ再び侵略の道だ。
補助金中止で6月からは電気・ガス代値上げがあり、値上げはまだ続く。自民党政治家は裏金で私腹を肥し、税金も逃れているというのに3大銀行の史上最高益や上場企業(自動車中心に)の史上最高益の一方で、消費支出連続減、実質賃金24カ月連続低下など、格差はますます拡大しているではないか。
世界の行き詰りだけでなく、日本国内も政治・経済・社会も行き詰っている。その典型が裏金犯罪が暴露された自民党政治の崩壊的危機だ。政治も企業も劣化が激しい。原発推進、GX推進で軍事大国化の政治・経済がうまくいくわけがない。
沖縄・辺野古新基地建設阻止、南西諸島軍事要塞化を許さず、全土の軍事基地の強化・空港・港湾の軍事使用の拡大などと闘い、安保・沖縄闘争を強化しよう。原発推進へ暴走する岸田と対決し、原発再稼働阻止・すべての原発廃止へ闘いぬこう。
政権交代が話題にのぼる中、問われているのは野党でなくわれわれ革命的左翼の闘いだ。戦後政治を牛耳ってきた自民党支配をいまこそ葬り去ろう。そのための党と大衆運動に極限の力が問われている。再建協議会の今夏・秋決戦への闘争を担いぬくためのカンパを訴えます。
革命的共産主義者同盟・再建協議会

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