未来・第371号


            未来第371号目次(2023年8月3日発行)

 1面  大増税、生活苦強制の岸田政権
     充満する人民の怒りの爆発

     使用済み燃料 仏へ持ち出し
     関西電力のペテン許すな

 2面  汚染水海洋投棄に反対
     7月17日に全国一斉行動

 3面  マイナンバー制度は廃止
     個人情報を守れ!      

      4面  6・25シンポ
     ウクライナ反戦  橋下利昭
     ロシアは直ちに撤兵を(下)

     『世界が引き裂かれる時』
     監督:マリナ・エル・ゴルバチ 2022年

 5面  ウクライナ連帯ネット集会
     人民支援連帯の闘いを
     7月16日 東京

     世直し研
     高橋ひろ子さん講演
     内部被ばく隠ぺいの歴史

 6面  長期・読み切り連載 大庭伸介
     先人たちの闘いの成功と失敗を学び現在に生かそう

     左翼労働運動が登場
     全労働戦線を牽引して大活躍

 7面  強制不妊 6月1日仙台高裁控訴審で国賠請求を棄却
     「優生保護法問題の早期全面解決を」に逆行する大反動(中)
     木々 繁

 8面  書評 中島京子著
     小説『やさしい猫』

     第54回釜ヶ崎メーデーに参加して(下)
     反省、メーデー・経済闘争を軽視
     上田勝

     シネマ案内
     『独裁者たちのとき』
     監督:アレクサンドル・ソクーロフ 2022年

     夏期カンパのお願い

           

大増税、生活苦強制の岸田政権
充満する人民の怒り

炎天下380人が関電本店を包囲(7月23日 大阪市内)

7月末に入り岸田政権の支持率が急落、毎日新聞では30%を切った。そのうえで自民党の支持率も下落。両者を併せて50%を切ると倒閣情勢と言われている。マスコミは「マイナンバートラブル」を原因とするが、それだけではない。何より昨年10月から続く物価高が止まらない。食料品・電気料金など2割以上の上昇が実感。猛暑のなか自販機の清涼飲料は100円で買えず140円が平均価格だ。経済成長率は1・3%だが、消費者物価は2・6%上昇で、誰一人「賃金が上がった」実感はない。
その上に増税である。6月16日には、「防衛費増額の財源を確保するための特別措置法」が成立。税外収入を積み立てて防衛費にあてる「防衛力強化資金」が新設された。さらに今後、法人税、所得税、たばこ税を対象に増税がおこなわれる。また6月30日には政府税制調査会が、サラリーマンの給与所得控除が手厚いと指摘。給与所得控除はこれまで段階的に引き下げられており、この動きが加速するかとの懸念も。さらに退職金増税も報じられた。

「やってる感」の化けの皮が剥がれる

岸田政権は成立以降、最大派閥=安倍派の意向をみながら、実効性を伴わない安倍以上の「やってる感」だけを醸成させてきた。閣議決定だけで、安保3文書=防衛費2倍化=大増税、原発再稼働への暴走=GX法案の強行を進めてきたが、それが法案通過後に増税となって現実味を持ち始めるや、生活苦と重なり「ちょっと待て!」だ。
社会が壊れるニュースが続く中、鳴り物入りの「異次元の少子化対策」とその司令塔としての子ども家庭庁の現実と無縁の施策で一気に支持が離れた。

安倍死後1年。極右・安倍親衛隊の析出

党内基盤の弱い岸田は常に安倍派に規定されてきたが、安倍死後1年、安倍の遺志を受け継ぐと称する極右部分(岩盤右翼、宗教右派)が2012年体制の汚物として析出し始めた。とくにLGBT法案では山東昭子、青山繁樹らと櫻井よしこが暗躍、さらに最高裁判決を受け片山さつきも合流、差別言動を繰り返している。また安倍昭恵の台湾訪問では、山谷えり子、北村経夫、杉田水脈、原田義昭らの統一教会人脈が随行し、安倍直系から離脱した稲田朋美が「転向派」として非難される始末だ。
この中で4月統一地方選は実質大敗北で、都市部での自民不振が際立った。石原伸晃の杉並区や、足立区、兵庫県西宮市などでは現職自民が大量落選。前回衆議院選で全敗の大阪自民党は、茂木の「テコ入れ」をも契機に壊滅の道に進んでいる。さらに20年にわたる自公連立の亀裂も深い。マスコミを使って煽りまくった衆議院解散・総選挙の脅しで国会審議は有利に進めたが、解散が消えるやその虚像への失望が一気に支持率低下となった。

支配階級にとって失われた30年、G7最貧国

日本帝国主義の政治・経済的危機は限りなく深い。1980年代以降、製造業の衰退はとどまるところを知らず、G7の最貧国だ。戦後日本を支えた繊維・造船・鉄鋼・電機(重電・家電)半導体はすべて衰退し、最後の自動車も崖っぷちだ。IT=半導体の超弱体化も止められず、21世紀を生き抜く国家的戦略指針はなく、政治=政権のすることは補助金手当だけだ。この中での成長産業はインバウンド=京都・浅草が目玉の観光産業のみという惨状だ。 

反原発・沖縄・狭山の戦闘的爆発で岸田を追いつめよう

岸田と関西電力ら電力資本らの原発依存社会への暴走に対し、7・23関電前闘争と7・28高浜現地闘争は、関電への怒りが大爆発した。9月1日の関電前一食断食闘争の高揚から12・3一万人集会・デモへ突き進もう。
琉球弧への自衛隊配備・ミサイル基地建設には、「島々を戦場にするな」の声が、切実感をもって受け止められ始めている。小さな島々は戦争になれば逃げ場がない。現地報告、映画会など連帯行動を強めていこう。狭山再審の実現は12月までがカギだ。大野裁判長のもと事実調べをおこなわせるのか、そのまま退官を許すのか、今秋が分岐点だ。今こそ第三次再審請求闘争に全力で取り組もう。
総じて今秋闘争が日本階級闘争の未来を決める。現状の在り方を良しとせず、自己改革・運動全体の高揚のため全力をつくそう。

使用済み燃料 仏へ持ち出し!?
関西電力のペテン許すな
7月23日 大阪

「最古の老朽原発・高浜1号うごかすな緊急集会」が7月23日、関西電力本店前(大阪市)でひらかれ380人が参加した。主催は、老朽原発うごかすな!実行委員会。 この日は暦のうえでは「大暑」で、朝から気温がぐんぐん上がり、強い日差しが照りつけるなかを福井県や関西各地のみならず首都圏、東海地方、四国からも多くの人々がかけつけ、関西電力の横暴に怒りの声をあげた。

主催者あいさつ

関電が23年末までに、使用済み核燃料を県外に搬出する中間貯蔵施設の候補地を提示するという約束を、フランスに一部を持ち出すことで約束を果たしたという「約束やぶり」について、福井県として認めるのか否かという件は、6月の福井県議会では結論を持ち越した。年末までに提示できないのなら、約束通り美浜3号、高浜1・2号は止めるのが筋だ。
中嶌哲演さんが提案した「原発依存社会への暴走を許すな一食断食」で一食を抜きながら、原発暴走社会に抗議し、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を展望しよう。一食断食で節約した浄財で、老朽原発うごかすな運動を支える行動にご協力を。
約束を果たしたという関電の態度を地元高浜町民はどう思っているのか。私たちは先日、高浜町全戸にアンケート用紙を配布した。まだアンケートの集約は終わっていないが、原発の運転は必要という方でも、美浜3号、高浜1・2号の運転は、やめてほしいという声が届いている。町民の生の声を町長に突きつけていきたい。
7月28日には、高浜原発前で現地緊急行動をおこなう。さらに9月1日には、ここ関電本店前で「関電前ハンスト=一食断食行動」を数百名でおこなう予定です。そして12月3日には、「とめよう!原発依存社会への暴走 1万人集会」を大群衆の参加で実現し、老朽原発の廃炉を勝ち取りましょう。

高浜原発の地元から/高浜町民

21年2月に高浜町長は「地元同意」したが、高浜1号・2号は、特重施設の完成が遅れ、今日まで原発は止まっている。1号機の特重施設を先日7月14日に規制庁が許可しました。普通は許可が下りてから運転準備をするのがあたりまえですが、関電は6月末から燃料をさっさと装荷し運転準備を始めました。これでは、何のために「規制」があるのか。2号機については、まだ特重施設の許可は下りていません。それにも関わらず、1号の再稼働が終わったら、燃料装荷し運転を開始すると言っておるわけです。けしからん話です。
フランスに一部運び出すという使用済み核燃料ですが、その中にMOX燃料が含まれている。MOXは発熱量が大きいので、プールから引き上げる作業を開始できる低温になるまで百年くらいかかる。ところが関電は、その高熱状態のままMOX燃料をひきあげると言っている。これはおそらく不可能。つまり、フランスへ運び出すということも実際は不可能になるのではないか。60年以上の原発を動かすのを止める手始めとして、高浜でも頑張りたい。

美浜原発地元から/若狭町住民

美浜町の隣、若狭町に住んでいます。美浜原発から15キロ地点にいます。
大阪は商人の街だ。うそをつかない、約束を守るのが商人だ。ところが関電は福井県との約束を何度も破っています。あげくのはてに詭弁を弄して、ごまかすということまでしている。商人の風上にもおけない面汚しの会社だ。
危険な使用済み核燃料を特定の地域におしつけることや、矛盾を将来世代におしつけること、こういう地域間、世代間の公平性のないものは止めるべき。
これ以上、放射性廃棄物を増やさないことが重要。そのためにいますぐ、すべての原発の運転は止めよう。
また、東電と国は放射能汚染水の海洋放出をやめるべき。これも将来世代に矛盾をおしつけるものだ。

集会決議(抜粋)

世界にも、60年を超えて運転した原発はない。最長でも53年。地震、火山噴火、津波の多発する日本での60年超え運転は、無謀で、福島原発事故の犠牲と教訓を蹂躙するもの。
現在科学技術で制御できない原発を、無理矢理稼働させようとするから、トラブル、不祥事、約束違反が頻発し、人々を欺かなければならなくなる。
「原発依存社会」に暴走すれば、過酷事故の確率が急増する。また、使用済み核燃料が溜り続けるが、その貯蔵を引き受ける所もない。
原発推進法が成立しても、実行させない、老朽原発の運転を認めない闘いを前進させよう。

長蛇のデモ

集会後、大阪駅前の繁華街・梅田までデモ行進。長蛇のデモ行進は沿道の注目を浴び、休日でごったがえすデモ終点付近では多くの反応と共感のまなざしがあった。

2面

汚染水海洋投棄に反対
7月17日に全国一斉行動

7月4日、国際原子力機関(IAEA)は福島第一原発の放射能汚染水に関して、海洋投棄方針に関する総括報告書を公表した。ここで、IAEA報告書は「国際的な安全基準に合致している」と述べ、日本政府の方針を容認している。
岸田文雄首相はIAEA報告書を受け取り、「報告書はIAEAが科学的根拠に基づいて、公正かつ厳正に分析をおこなったものだという説明を受けた」と言っている。岸田首相はこの報告書を利用し、「この夏」とする海洋投棄の時期を最終判断しようとしている。福島第一原発放射能汚染水の海洋投棄をやめさせよう。

報告書は政府の方針にそったもの

IAEAの報告書は科学的根拠にもとづいているのだろうか。
2021年4月、日本政府は海洋投棄する方針を決定し、IAEAに安全性に関する調査を要請した。IAEAは11カ国からなる専門家を組織し、22年2月から日本に調査団を派遣して、現地調査などをおこなってきた。
IAEAは、この調査に関して「IAEA自身は決断や認可をおこなうものではない。加盟国の決断を助けるもの」(リディ・エヴラール原子力安全・核セキュリティー局次長)と位置づけている。だから、第三者機関による科学的調査ではない。IAEA報告書は加盟国の方針にそうように作られているのだ。

トリチウムは安全なのか

多核種除去設備(ALPS)で処理できるのは62核種だ。「死の灰」には数100核種存在しているから、ALPSで処理できない核種は汚染水に残されている。また、ALPS処理できたとしても、含有量がゼロになるわけではない。だから、汚染水の中に含まれる核種の総量が問題になってくる。この総量が明らかにされていない。
処理できない核種のなかで、トリチウムの量が多い。トリチウムは水になって存在している。トリチウムは半減期12・3年でβ崩壊をして電子を放出する。この電子のエネルギーは0・019MeV(メガ電子ボルト、メガは10の6乗)であり、ストロンチウム90が放出する電子のエネルギー(0・55MeV)に比べて1/30程度小さい。このことをもって、政府は「トリチウムの放出するエネルギーは弱いから安全」と言っている。これはうそだ。人間の細胞の結合エネルギーは数eV程度だから、この弱さはおおよそ問題にならない。人体細胞にたいする内部被ばく問題なのであり、政府はこのことを意図的に隠している。
2010年、この1年間に福島第一原発から放出されたトリチウム水(液体)は約2・2兆ベクレル、水蒸気(気体)は約1・5兆ベクレルだった。このように、原発が稼働すれば、核分裂によってトリチウムが生成され、環境中に放出される。このトリチウムによって、周辺住民は健康被害を受けている。しかし、がん患者の発生は隠されている。
あまりよく知られていないが、福島第一原発の敷地内において、現在でもトリチウム汚染水は海に流出している。これまでに235万トンが流出した。地下水ドレンやサブドレンでくみ上げた水が、トリチウムに汚染しているからだ。これをもって、「海洋放出は問題ない」という暴論をはく人もいるが、これ以上、海を放射能汚染させてはならない。

基準値以下なら安全なのか

政府は、放射能汚染水について「基準値以下に薄めているから安全だ」と主張する。ここで、放射線被ばくにおける「基準値」(許容量)という概念をふりかえっておきたい。低線量の放射線内部被ばくでは、がんなどの発生被害者数は被ばく線量に比例して増加する。その症状は被ばく線量には関係しない。このとき、基準値は「しきい値」ではなく、「がまん値」なのだ。「がまん値」である以上、利害関係がなければ「がまん」する必要はない。汚染水の投棄によって、被害を受けるのは世界中の住民だ。東京電力にたいして何の利害関係もない人びとが、「がまん値」を押しつけられる理由はない。ここで、基準値なるものは「強制する側の論理」として使われている。
放射能汚染水の海洋投棄にたいして、「風評被害」対策が叫ばれている。しかし、「風評被害」で終わる保証があるわけではない。将来において実害はでないのか。実害があるから、住民は反対している。

政府方針に反対する人びと

なによりも福島の住民、とくに漁師が反対している。海をよごされることは、漁師にとっては絞め殺されるのと同じだ。漁師は2011年の原発事故で生業が奪われ、また再び生業がうばわれようとしている。闘わなければ、国と東電に殺される。海は世界につながっている。日本の漁師も反対している。世界の漁師はみんな反対なのだ。
太平洋フォーラム(16カ国及び2地域)の人たちも反対している。太平洋が生活の場であり、東電からは何の利益も受けていない。
中国政府は「太平洋は核汚染水を垂れ流す下水道ではない」といっている。日本政府が太平洋を核の廃棄場にしようとしていることに抗議している。いっぽう、韓国の尹錫悦政権は、IAEA報告書に「理解」を示している。しかし、伊政権に反対する人びとは海洋投棄に反対して、行動を起こしている。

海洋投棄に断固として反対

日本政府は「次世代にリスクを残さないように、なるべく早く処分を終える」と言っている。次世代のことを真剣に考えるのであれば、いますぐに原発は停止して、これ以上、放射性廃棄物を増やさないことではないのだろうか。
放射能汚染水は、当面のあいだ貯蔵タンクに溜めておくべきだ。岸田政権はグリーン・トランスフォーメーション(GX)関連法を成立させて、原発回帰に舵を切った。許してはならない。放射能汚染水の海洋投棄に反対し、福島の住民とともに抗議の行動をおこそう。(津田保夫)

3面

マイナンバー制度は廃止
個人情報を守れ!

7月22日大阪市内で緊急学習会「トラブル噴出! マイナンバーとマイナンバーカード」があり、K田充さん(自治体情報政策研究所)が講演した。主催は管理・監視社会化に反対する大阪ネットワーク。K田さんは、マイナンバーについて「問題なのは個人情報が漏れることだけではない。他人と間違われることや、政府や企業によって、私たちの個人情報が『合法的に』利活用されることも極めて重大な問題だ」と訴えた。要旨を紹介する。

マイナへの関心の高い学習会(7月22日、大阪市)

マイナンバーカードと保険証の一体化とは

健康保険証の役割は、加入している保険者(健保組合や協会けんぽ、共済組合、市町村国保等)などの確認。この確認をマイナカードを使い、オンライン(医療機関のコンピュータと資格確認システムのコンピュータ間)でおこなうのが 「マイナカードと健康保険証の一体化」。いわゆるマイナ保険証。
上記保険者が、私たちの被保険者番号や資格情報などを、マイナンバーと共に支払基金・国保中央会が共同運営するオンライン資格確認等システムにあらかじめ登録している。マイナカードのICチップに記録されている「電子証明書の発行番号」も登録されており、病院では発行番号をもとにオンライン資格確認システム等から資格・医療情報を取得する。マイナカードは情報の入った「金庫」を開ける「鍵」の役割を果たしているだけ。別人の情報が表示されるのは、マイナンバーと被保険者番号の紐づけが間違っていることが原因。マイナカードを持っていない人も、間違って紐づけされている可能性がある。

マイナンバー制度の目的

プロファイリングは、対象者に関する様々な個人情報を名寄せすることで、対象者の人物像をAI(人工知能)などを使って仮想的につくり出すこと。マイナンバー制度はプロファイリングのための制度であり、マイナンバーはそのためのID(識別子)。
「マイナンバー制度を活用し、リアルタイムで世帯や福祉サービスの利用状況、所得等の情報を把握することにより、プッシュ型で様々な支援を適切に提供できる仕組みの実現・・・」(骨太の方針2021)。これは、マイナンバーを使ったプロファイリング実施の宣言である。

マイナンバー制度は人権侵害

マイナカードの保険証との一体化の目的は、医療や介護などに関わる個人情報の官・民による利活用。「全国医療情報プラットホームをオンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し実現する」(骨太の方針2022)。
それぞれの情報がそこにとどまっている限りはよい。それが垣根を越えて外へ出ていって集められ、組み立てられプロファイリングされたら、その人がどういう人物かわかってしまう。全国医療情報プラットホームは、特に医療と介護の情報を集めて1人1人にプロファイリングをおこなって社会保障の給付や社会保険料を変えていくもの。一生涯に渡って病歴・介護歴を全部、マイナンバーを使って追跡していく。
この個人データを民間企業(保険、介護、医療、製薬、ヘルスケアなど)へ「儲けのタネ」として提供する。某生命保険会社は、昨年末に、マイナポータルから本人同意のもと、医療情報を取得し、保険申込時の査定に利用したり、給付金の算定に利用したりするサービスの提供を検討中と発表。今後、民間企業のサービス(保険、融資、介護、就職斡旋、婚活等)を受けるために、マイナポータルで閲覧できる自分の個人情報を、「本人同意」のもと、その企業に提供することになっていくだろう。
紐づけされた膨大な自己情報をマイナポータルやスマホで見ることができるようにするが、自分が使うことは少ない。結局、警察の取締やパンデミック時の動員や戦争時の徴兵・徴用に使われる。

「個人情報を守れ!」の運動を

EUは、加盟国の全てに適用される個人情報保護法「一般データ保護規則」(2018/5施行)に「プロファイリング(自動処理・決定)されない権利」を明記して、個人情報を守っている。欧州議会は23年6月にAI規制法案を採択。規制の核心は民主主義と人権の擁護にある。
マイナ保険証返納運動や来年秋の健康保険証廃止に反対する世論が高まっている。8月から全国保険医団体連合会は新しい署名運動を開始する。憲法13条「個人の尊重」に反するマイナンバー制度に反対する署名やデモをおこなって、少なくともEU並みの個人情報保護政策をとらせることが必要だ。
講演後、質疑・討論が活発におこなわれた。(花本香)

4面

6・25シンポ
ウクライナ反戦  
ロシアは直ちに撤兵を(下)
橋下利昭

各地でウクライナ反戦の行動

A侵略を必然化するプーチン体制

中国とロシアを、資本主義・帝国主義に一般化することは間違っている。現象的類似に引きずられ、ロシアのウクライナ侵略の次は中国の台湾、沖縄(日本)侵略が迫っているという右翼のデマに途を拓くことになる。また両者におけるスターリン主義の影響を無視することも過大視することも間違っている。「スターリン主義=独裁制」と客観主義的に規定して、そこに生きる労働者人民の苦闘を無視することになるからである。
現在のロシアの体制は、「旧ソ連時代のスターリン主義の残滓に広範に取り巻かれた特殊な資本主義」と規定できる。賃労働・資本関係が一応成立しているが、オリガルヒーという名の政商的資本家層は管理運営と労働者支配における自立性をもたず、プーチンとシロビキ(旧治安・情報機関出身の権力機構の構成員)によっていつでも解任され、消される存在でしかないからである。ツァーリ時代からスターリン時代をそのまま継承する大ロシア主義やユーラシア主義はこの特殊な支配機構から生じる。

B中国の体制規定と対外政策

ロシアに対して中国は「過渡期プロレタリア独裁の歪曲的創成形態」と規定できる。(1)農村と都市に分かれる特殊な戸籍制度、(2)土地は、国有または公有で私有はないこと、(3)相続制度が不完全であること、などがその根拠となる。
それによって中国の対外政策は上海協力機構(SCO)にしても、「一帯一路」政策にしても、自らをグローバルサウスの代表者として途上国・新興国の結集を図ることであって、穏歩前進、「熟柿路線」である。国内的には少数民族や農民工に対する抑圧を強め、中華ナショナリズムと強権支配を強めながら対外的には無理押ししない。たとえば対ロシアにしても、経済制裁に同調しないが、ウクライナ侵略は支持していない。原油・天然ガスの輸入も限定している。台湾に対しても軍事侵攻する体制は取っていない。そもそも人民解放軍は近隣諸国との軍事衝突で勝ったことがない軍隊である(1969年対旧ソ連の珍宝島(ロシア名ダマンスキー島)事件、1978年対ベトナムの「膺懲」戦争、2021年対インドのカシミール紛争)。
すべて軍事的敗勢を政治的に押し返している。中国が台湾に侵攻、着上陸作戦をおこなったり、日本(琉球諸島)に自ら侵攻、占拠したりする能力はもたない。問題は、日本の側から軍事挑発したり軍事的封じ込めをしたりすることが中国の反撃を引き起こす場合である。近距離の防衛的反撃では中短距離ミサイルの集中配備などによって日米合同の攻撃にも負けない体制を取っていることを明記しなければならない。

W ウクライナ反戦と一体で対中国戦争挑発阻止を

@日中対立か、米中対立か

米中双方には、いま互いに戦うべき動機・体制・イデオロギーはない。日本の大軍拡・大増税こそ中国を軍事的に包囲し、戦争を挑発している。2023年1月13日の日米首脳会談に表れた日米の違いを対比させると、日本は「敵基地攻撃能力」の取得を打ち出し、中国を「最大の戦略的挑戦」と「仮想敵国」規定し、「台湾危機」「台湾有事」を強調した。それに対し米側は、対中国の「協力」を語り、中国を「戦略的競争相手」と規定し、「台湾海峡の平和と安全」を強調した。
5月のG7サミットでは、日本は欧州を「インド・太平洋戦略」に引き込むことに成功したが、中国を「敵」と規定することはおろか、「競争相手」とすることにも成功せず、中国との「協力」を確認せざるをえなかった。グローバルサウスとして招請された8カ国はもちろん、独・仏をはじめ欧州諸国が反対したからである。フランスのマクロン大統領は、NATOの東京事務所設置にも反対している。他方、G7広島サミットには、台湾・韓国・フィリピン・ミャンマーをはじめ、米・仏からも、さらに沖縄とアイヌ民族の代表など、ロシアのウクライナ侵略に反対するだけでなく、アジアで日・米が対中国の戦争を挑発することに反対する民衆の連帯が始まった。 も負けない体制を取っていることを明記しなければならない。

A誰が対中国戦争を煽っているか?

台湾では、現政権側が「今日のウクライナは明日の台湾」などと煽ったが、台湾の民衆は「衰退著しい米国が、強大化した中共をけん制する目的で『台湾有事』を煽動し、利用している」「米国製武器を台湾に売りつけるための広告」などとする「疑美論」(米国に対する不信論)が強いという(山本恒人・本田雅和「つくられた『危機』を現実にしてはならない」『週刊金曜日』2023年6月2日付号)。
台湾では現政権を含めて、台湾の中国からの独立を主張する者はほとんどいない。したがって、中国が台湾に軍事介入する理由も口実もない。米・日が外から「台湾危機」や「台湾独立」支持などと煽り立てることが唯一危機をつくりだす。ところが米国の政府(大統領や国務省)は繰り返し、「『1つの中国』の立場を堅持する」、「台湾独立を支持しない」と声明している。「台湾危機」「台湾有事は日本の有事」などと煽っているのは安倍=勝共体制とそれを継承する岸田政権である。
また中国の立場から考えると、ありえないことであるが、仮に中国が「台湾の武力統一」に動いたとしても、その場合、沖縄―日本を直接攻撃することは、「台湾問題は内政問題」とする中国の立場からするとありえない。唯一ありえるのは、日米が何らかの形で手を出し、それに対し中国が反撃するという場合である。
台湾危機をもっぱら煽ってきた安倍晋三元首相は、2021年12月には台湾のシンクタンク主催の講演で、「台湾への武力侵攻は日本に対する重大な危険を引き起こす。台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事である」と言っていた。また番匠幸一郎、岩田清文、田母神俊雄などの元自衛隊の高官どもは、「台湾有事」には、存立危機事態ではなく、武力攻撃事態を認定し、「自衛隊の防衛出動」を発動すべきであると言っている。また対中国戦争の危機が迫ったとき、逃げ出すアメリカ(米軍)を逃がさないようにすることが自衛隊の任務だとさえ言っている。

B国際連帯で「新しい沖縄戦を阻止しよう」

昨年末に閣議決定された防衛3文章(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)は、先制・無制限・全面的な対中国戦争を打ち出し(「敵基地攻撃能力」とか「反撃力」の名称で)、南西地域戦略のもと、琉球諸島を中国への前進基地とし、大軍拡・大増税の路線を敷いた。いまや世界戦争・世界危機の焦点はプーチン・ロシアのウクライナ侵略と安倍・岸田の対中国の軍事的包囲、戦争挑発にある。切迫する「新しい沖縄戦」、アジアを焦点とする新たな世界戦争を阻止するために、沖縄・日本はもちろん、中国・台湾・韓国・朝鮮をはじめとするアジアの民衆の決起が問われている。とくに琉球弧への差別的な犠牲の集中に日本の民衆は断固たたかわなければならない。琉球弧を対中国戦争の基地にするな。ウクライナ反戦と一体で日本の(自衛隊の)対中国軍事的包囲を打ち破ろう。(おわり)

『世界が引き裂かれる時』
監督:マリナ・エル・ゴルバチ 2022年

映画の舞台は、ウクライナのドネツク州の小さな農村。地平線のかなたまで、大地が広がっている。ここは分離(親ロシア)派の支配する地域。ここにぽつんと一軒の家があり、イルカとトリクの夫婦が住んでいる。夫のトリクは親ロシア派を支援している。彼女の弟はウクライナ民族派だ。この二人は仲が悪く、つねに対立を繰り返している。
 ある日、分離派の誤爆によって、ふたりの住む家が破壊される。こうして、今までの平穏な日常が戦争によって崩される。しかし、イルカはこの地をけっして離れようとはしない。彼女は妊娠しているが避難しないで自分の生活を続けていく。

戦争と人間

 こんななかで、7月にマレーシア航空17便が撃墜される事件が起きる。ミサイルはウクライナの輸送機と誤認し分離派が発射したのだ。多くの乗客・乗員がこの事故で亡くなった。ひとりひとりには家族や友人があり、それぞれの生活があった。しかし、この事件は戦争という事態のなかで、「なかったこと」にされてしまう。
 映画には分離派の兵士しか登場しないが、兵士はみんな冷酷だ。兵士は人の死にたいする感情を失っている。マリナ・エル・ゴルバチ監督はイデオロギー的に批判するのではなく、この地で生きていこうとしている人間を対置し、イルカの視点で批判していく。イルカの選択は侵略者にたいするひとつの抵抗の姿なのだ。ゴルバチは、「イルカは生命を生み出し維持するエネルギーを象徴しています。これはフェミニズム映画でもなく、生命を支持する映画なのです」と語っている。

ウクライナ戦争の背景

ウクライナ東部ドネツク州で、14年4月に分離派が「独立」を宣言し、「ドネツク人民共和国」がつくられた。ロシア人やチェチェン人が義勇軍として動員され、ウクライナ民族派と分離派が対立しあい、内戦状態がつづいていた。22年10月、プーチンはこの地域をロシアに「併合」。「ウクライナを引き裂いた」のは、ロシアのプーチンなのだ。
 ゴルバチはウクライナ出身の女性監督。この戦争の不条理を告発するために、映画をつくった。彼女はドネツクに住む住民から聞き取り、紛争地に住むひとりの女性を主人公にして、戦争に反対する映画をつくった。

ロシアによるウクライナ侵略

2023年2月、ロシアによるウクライナ侵略が始まるが、この作品はその直前に完成している。この事態を予想するかのような展開になっているが、ロシアによる侵略戦争は2014年からすでに始まっていたからだ。
 ウクライナにおいて、今日でも住民は避難しないで、戦火のなかで生活をしている。これらの人たちの思いはきっと同じなのだろう。ウクライナの内部にどんな矛盾があるにしろ、われわれはこの抵抗闘争に連帯していく必要がある。(鹿田研三)

5面

ウクライナ連帯ネット集会
人民支援連帯の闘いを
7月16日 東京

「草の根からの国際的な連帯を十分に示すことができていない現状を自覚し、私たちはロシアの『侵略・併合に反対』、ウクライナの『抵抗を支持する』という立場を明確にするとともに、何よりも軛を断ち自由と尊厳のために戦う屈せざる者『ウクライナに栄光あれ!』―と、敬意と連帯を表すための運動を創り出したい」と昨年結成された「ウクライナ連帯ネットワーク」が主催するシンポジウムが7月16日東京渋谷区であり、約60人が参加し、猛暑に負けない熱い討論がなされた。

青山正さんの話

最初に発言に立ったチェチェン連絡会議代表の青山正さんは、次のように述べた。今、日本を含む世界各国でウクライナへのロシア軍の侵攻に反対し、平和を求める声が大きくなっている。一方で日本の中では、ウクライナ側に降伏を求めたり、プーチン大統領のプロパガンダに加担してしまうような主張が一部に出るなど混乱していることに、大きな危惧を表明。「即時停戦」は、住民のロシアへの強制連行などもたらし、ロシアへの属国化を進めることになりかねない。だからこそ、ウクライナの人々は軍事侵攻に対して自分たちの存在を賭けて全力で抵抗している。
プーチンはロシアが2014年に武力で併合したクリミア半島と同様にウクライナを分断して自らのものにしようとしていて、ウクライナの「非ナチ化」を侵攻の目的にあげている。しかし、ユダヤ系ウクライナ人であるゼレンスキー大統領が「ネオナチ」だというのは、一方的なレッテル貼りに過ぎない。NATOの東方拡大も、侵攻の正当性を認めるものではない。ロシアはエリツィン時代から、周辺国の内政に干渉し、いわゆる未承認国家を量産してきた。その結果が、周辺国に危機感を醸成し、NATO加盟の機運を高めた。チェチェン戦争後も、ロシアは2008年にジョージア(グルジア)内の南オセチアとアブハジアの分離独立を狙って軍事侵攻し、さらに2014年のウクライナのクリミア半島への侵攻による一方的併合とルガンスク、ドネツクの親ロシア派自治区での戦闘など、一貫して周辺諸国への軍事侵攻を繰り返してきた。今回のロシア軍のウクライナ侵攻は、NATOの挑発の理由をつけても正当化できない。
侵攻したロシアも悪いが、挑発したNATOも悪いという指摘は、今回の軍事侵攻の責任をあいまいにするだけだ。ウクライナの人々が自らの生存と尊厳を守るための必死の抵抗を否定することはできない。ブチャなどロシア軍の占領下にあった地域では、拷問・レイプ・虐殺などの戦争犯罪が相次いだ。ロシア軍が撤退しない限りこれらの非人道的な戦争犯罪は終わらない。とにかく停戦さえすれば平和が訪れるというのは幻想だ。何より当事者であるウクライナ側は、現時点では停戦を拒み徹底抗戦を選択している。それをウクライナの政権や軍だけではなく、ウクライナの人々の多くが支持している。ウクライナへの支援を含む、あらゆる手立てをおこなうべきだ、などと訴えた。
シンポジウムはジャーナリストの林克明さんをコーディネーターに、ウクライナ社会運動への連帯基金の呼びかけ人加藤直樹さん、武器取引反対ネットワークの杉原浩司さん、ウクライナ連帯ネットワークの原隆さんをパネリストにおこなわれた。それぞれ日本の平和主義の混迷を弾劾し、ウクライナ人民の闘いを支援連帯するたたかいを起こそうと強調した。(K)

世直し研
高橋ひろ子さん講演
内部被ばく隠ぺいの歴史

5月29日、大阪市内で第50回世直し研究会がおこなわれた。高橋博子さん(奈良大学教授)が、「内部被ばく隠蔽の歴史」というテーマで「被ばくは軍事問題であり、機密にされている」ことを強調した。「黒い雨」での内部被ばく、福島原発事故における小児甲状腺がん。日本においても、放射線による内部被ばくは隠蔽されている。高橋さんの講演を聞いて、この理由の一端がみえてきた。

高橋博子さんの講演要旨

放射線兵器として利用する計画も

放射線が人体に与える影響について、アメリカはマンハッタン計画のなかで研究しており、すでに知っていた。大戦後、世界の国々は核開発(核とは核兵器と原発の両方)をきそいあった。核兵器の威力を大きくするだけでなく、核兵器を実際に使えるようにする必要があったのだ。このために、核保有国は被ばく問題を隠す必要があった。現在に至るまで、被ばく問題は軍事機密にされている。
戦後、アメリカの核開発体制はマンハッタン計画の延長線上にあった。アメリカは核兵器を放射線兵器としても開発してきた。これは核爆発で生じた放射線によって、人間を殺す兵器だ。アメリカは生物化学兵器と同様に、特殊兵器の一つとして開発してきた。ここでも、人体に与える放射線の影響は軍事機密にする必要があった。

被爆者の存在と実相

戦後、バーチェット記者が広島に入り、被爆者の状況を世界に伝えた。1945年9月5日の「デイリー・エクスプレス」は次のように報じた。「広島では、最初の原子爆弾が都市を破壊し世界を驚かせた30日後も、人々は、かの惨禍によってけがを受けていない人々であっても、『原爆病』としか言いようのない未知の理由によって、いまだに不可解かつ悲惨にも亡くなり続けている」。この報道によって、被爆者の存在がはじめて明らかにされた。 
アメリカ政府は、この報道をまっこうから否定。広島と長崎には「残留放射線は存在しない」とした。残留放射線には2種類があり、放射化された物質と「死の灰」だ。元マンハッタン計画医学部門責任者スタッフォード・ウォレンは、「危険な核分裂物質は亜成層圏にまで上昇し、そこに吹く風によって薄められ消散させられる。都市は危険な物質に汚染されるわけではなくすぐに再居住してもさしつかえない」(1948年)と述べている。こうして、内部被爆問題は隠蔽された。
アメリカは、きのこ雲や廃墟になった広島の写真などを積極的に公開してきた。原爆の威力を示すためだ。一方で、被爆者が写っている写真は、人びとの目にふれないようにしてきた。被爆問題があきらかになるからだ。アメリカで原発政策は核開発体制のなかで進められており、はじめから一体であった。核の「平和利用」は日本で強調されるロジック、レトリックだ。

G7首脳が広島原爆資料館を訪問

G7広島サミットで、首脳は原爆資料館を見学した。何をみて、どのように感じたのだろうか。これはいっさい秘密にされている。日本政府はアメリカ政府に「配慮」して、おそらく被爆者の写真は見せていないだろう。
G7で発表された「広島ビジョン」は、「核保有5カ国の共同声明」(22年1月)と同じ内容。「共同声明」は、次にように述べている。「我々は、核戦争に勝者はなく、決してその戦いはしてはならないことを確認する。核の使用は広範囲に影響を及ぼすため、我々はまた、核兵器について――それが存在し続ける限り――防衛目的、侵略抑止、戦争回避のためにあるべきだということを確認する。我々は、そうした兵器のさらなる拡散は防がなければならないと強く信じている」。
ここでは、核拡散に反対しているだけで、核保有は承認されている。「それが存在し続ける限り」とあるが、存在させているのは核保有国自身ではないのか。日本政府はこの核保有5カ国と同じ立場なのだ。核兵器や原発が存在するかぎり、被ばく問題は軍事機密にされ続ける。

6面

長期・読み切り連載 大庭伸介
先人たちの闘いの成功と失敗を学び現在に生かそう

左翼労働運動が登場
全労働戦線を牽引して大活躍

工場代表者会議で地域統一スト
左翼のセクト主義でほとんど失敗

工場代表者会議(以下、工代)とは何か。本紙の読者には、耳慣れない言葉ではないだろうか。1905年の第1次ロシア革命の際に、モスクワの労働者が編み出した争議戦術である。荒畑寒村が訪ソした折りに耳にして、帰国後、左翼の闘士に伝えた。
全体的に組織率が低くて、しかも同じ工場内にいくつかの労組がある場合、統一ストを組織するために有効な戦術である。ロシアの場合、宗派別の、あるいは職能別のいくつかの労組が並存していた。
戦前の日本の労働運動は、右翼社会民主主義による労資協調の潮流、共産主義(実はスターリン主義)を指導理論とする左翼、そのいずれでもない中間派が競合していた。
1925年11月、大阪の高野印刷の争議を契機に、評議会傘下の大阪印刷労組が呼び掛けて大阪印刷工場代表者会議を作った。160工場から4百人余が参加して、同争議応援のため演説会や示威運動をおこなった。
さらに資本家全額負担の労働倶楽部の設立、慰安会・救済施設、休日・臨休に賃金全額支給。解雇・退職手当制定要求などを決議して気勢を上げた。
その結果、ストライキに参加した労働者20人中15人を解雇、同情金1人15円支給、組合幹部太田博・三田村四朗に75円贈与で争議は収拾された。
これ以降印刷工場で争議が相次ぎ、要求を全部獲得した例もあり、同年始め3百人余であった組合員が年末には1千人を超えた。工代の成果であった。
1927年4月24日、統一運動全国同盟の名でビラが全国に配布された。この組織は日常的利害にもとづく労働組合の統一戦線を表看板にしていたが、事実上は評議会の外郭団体であった。
同年3月、日本経済は金融恐慌の嵐に襲われた。倒産や工場閉鎖、事業縮小が相次いで、解雇、賃金の不払いや切り下げが続出した。
ビラの内容は、政府の大資本救済政策に反対して、工場閉鎖・操業休止反対、休業中の賃金を支払え、賃下げ反対、労働者の生活を保障する緊急救済法と失業手当法の即時制定を掲げて、同一地域で、あるいは同一産業ごとに工場代表者会議をただちに開け、と呼びかけるものであった。
評議会の指導部は大阪の印刷工代から、いくつかの教訓を得ていた。@未組織労働者を闘いに結集できる、A工代から工場委員会を組織する契機をつかむことができる、B工代によって労働者の現実的要求が生々しく反映され、多くの労働者の革命的創意が発揮されることである。
アピールが出されてから、ほぼ1カ月ほどで全国に37の工代が作られた。最も早く作られた神戸地方は60工場、尼ヶ崎地方では30工場の労働者が工代に結集した。工代が続々と結成される様子は、統一運動同盟発行の『闘争日報』によって全国に伝えられた。
東京深川の木材工代は、たまたま起きていた万信製材争議応援のため、5分間の統一ストを実施した。工代に参加する工場が大幅に増えて大会を開こうとしたが、官憲の介入で解散させられた。しかし小・零細工場が密集している地域では、工代がストライキを波及させる源となりうることを実証している。
工代は共産党が指導しているとみた官憲は弾圧を加えてぶっこわしにかかり、ほとんどの工代は成果をあげることなく竜頭蛇尾≠ノ終わった。それは何よりも、左翼が工代を他派の組合幹部の堕落ぶりや日和見主義を暴露する場としたことによる。工代は本来、党派の別を超えて組織されるべきものである。しかし評議会指導部にはその考えが薄く、一応セクト的対応をいましめたが、実際には他派への攻撃を手控えることはなかった。
左翼の独善主義的通弊として、我々も大いに心すべきである。

小樽港海陸仲仕大争議で成功
各現場代表者会議で全市ゼネスト

現在、港湾労働はコンテナー中心に機械化されている。かつてはすべて人力に頼り、前近代的な労務管理がまかりとおっていた。とくに日本の海運業の中心である小樽港の労働環境はすさまじく、労働者は日々虐待に耐えていた。
1927年6月11日から1ヵ月近く展開された小樽港海陸仲仕大争議のころ、約4千人の港湾労働者が働いていた。彼らは冬でも朝4時ごろから夜8時ごろまで働き、忙しいときに休めば罰金をとられた。
石炭荷役は竹駕籠をかついで、岸壁から、艀、本船へと幅わずか30センチほどの踏み板の上を、10メートルも20メートルも歩く。新参者のなかには足を踏み外して海中へ落ちる者もいる。石炭を貨車から貯炭場に吐き出すとき、足をとられて石炭もろとも底にのまれ、炭じんで窒息死することもあった。
雑穀を艀に積むときには、60キロ詰めを1度に2俵かつぐのが普通で、踏み板から落ちて貨物を水びたしにすると弁償しなければならない。木材仲仕は、巨木にはさまれて圧死することもあった。
艀の総収入のうち35〜40%が親方(経営者)の取り分で、さらに経費などを差し引いた残りが労働者に賃金として支払われる。
争議は6月11日、山甚艀組で普段にも増してピンハネがおこなわれたことに端を発した。36人の艀仲仕が割増賃金を出せと要求したところ、親方が何も回答しないことに憤慨して、ストライキ突入を宣言した。親方はスト参加者全員をただちに解雇した。
解雇された労働者は、北海道地評傘下の小樽合同労組に駆け込んだ。小樽合同は全面的支援に乗り出し、港に働く全労働者に連帯と決起を促すビラを配った。
一方、経営者側は全員協議会を開き、@業界全体の利害にかかわるので山甚を極力応援する、A労組加入者をクビにして各職場から不穏分子を一掃すること、などを決めた。
小樽合同は「規定賃金割引反対」「勤務の10時間制」「公休日制定」「水揚げ公表」「公傷の親方負担」などの要求を掲げた。18日、陸方労働者がゼネストに突入し、事実上荷役は不可能になった。
36人の解雇に端を発し、港全体の労働者が立ち上がった。陸上仲仕、つぎは石炭仲仕、倉庫仲仕作業所など、それぞれ現場代表者会議を経て、各同業者組合に要求をつきつけてストライキを始めたのである。ついには最も組織化の困難な自由労働者も巻き込んで、1500人余がストライキに参加した。
単に争議の応援に動員するのではなく、現場代表者会議のなかで自分たちの要求を討議・決定して、自分たちの職場の経営者にたいする闘争へと発展させていったのである。
21日には、警察は札幌から30人の警官の応援のもと、午前3時、小樽合同の委員長鈴木源重ら10人を逮捕した。
翌22日にもゼネストが打たれ、自由労働者7百人を含む2千人余が参加した。最大の山場23日には、スト参加者が2380人にのぼった。小樽合同の1千人そこそこの組合員にくらべ、その倍以上の労働者が決起したのである。石炭現場の朝鮮人労働者も連帯ストを敢行した。まさに虐待に抗した底辺パワー≠フ爆発である。
さらに運輸労働者以外の工場代表者会議もつくられ、8つの工場で労働者が要求を提出して、小樽の労働者1万数千人の大闘争にまで発展した。
長期争議に耐え抜くうえで、家族の支えは欠かせない。23日、争議団家族大会が開かれ、「夫の敗北は妻の敗北」という宣言文が読み上げられたときには、大きな拍手が沸き上がり感動に包まれた。
警察はこの大会を無届集会であるからと解散を命じた。そして抵抗した1人を検束。争議団は検束者を奪還しようと、巡査派出所を包囲。小樽署から駆け付けた20人の警官は血迷って抜剣をふりかざし、労働者におそいかかった。労働者約1千人が合流して派出所に投石するなど、数時間に及ぶ大乱闘の末、約50人が逮捕された。
翌日には、3千人の小学生が同盟休校した。家族ぐるみで、争議の正義性を社会的にアピールしたのである。教育の反動化がすすみ統制が強化した現在では想像さえできない事柄である。
また遠くマルセイユ港に停泊中の小樽船籍の船員が下船して、母港の闘いに連帯する意思を表明した。
7月1日の夜には、小樽公園に約30人の労働者が集まり、無届の街頭デモを敢行。このころ市内の公園には連日のように労働者が集合しデモをおこなっている。
函館や室蘭などの荷役労働者も連帯ストの構えを見せた。小樽港では1カ月近く港湾機能が完全にマヒし、全道の経済界に大打撃を与えた。小樽商業会議所会頭らの荷主を中心に調停の動きが出てきた。
7月5日、労資双方が認めた協定書には、@復帰希望者の復帰、A賃金カットの廃止に努力する、B公傷の親方負担、C1カ月の公休日を2日にすることが盛り込まれた。決して争議団の「大勝利」と喜べる内容ではない。
争議団の家庭は鍋や釜を質入れするほど底を尽き、闘いを継続する力がなくなっていたのである。
しかし、この争議を経て小樽合同の組織人員は、26年末の1200人から27年末には1700人に増加している。この事実が示しているように、労働者側の勝利と言っていいだろう。(この項終わり)

小樽高商を卒業した小林多喜二も支援に

〔参考文献〕

伊藤晃『日本労働組合評議会の研究 1920年代労働運動の光芒』社会評論社。
琴坂守尚『磯野小作争議・小樽港湾争議 資料集』不二出版。

7面

強制不妊 6月1日仙台高裁控訴審で国賠請求を棄却
「優生保護法問題の早期全面解決を」に逆行する大反動

「正義・公平の理念」、「除斥期間」適用制限、国賠命令―22年2月大阪高裁判決以降の司法判断を全否定(中)
木々 繁

全国からかけつけた東京の北三郎さん(仮名)をはじめとした原告の方々、支援者たちの声。

立命館大学客員研究員・利光恵子さん(69)(弁護団から棄却の理由が手術から20年以内に提訴しなかったことだと聞き)「飯塚さんは宮城県に証拠の手術記録を廃棄されて裁判を起こしたくても起こせなかった。いまさら何を言い出すのか」
「ちゃんと人として見て判決を出してほしい」
「判決理由も言わずにすぐ法廷から出ていった裁判官は初めてだ。堂々と胸を張って判決を語れない裏返しだ」
「判決は到底理解できない。司法は国が責任をとらず逃げるのを許すのか」
「裁判長が女性ということにショックを受けている。血も涙もない。人として許せない」
「強制不妊手術はマイノリティに対する国の迫害。誰もがマイノリティになる可能性があるのだから、この判決を人ごとだと思わず、早期全面解決の大切さを一人でも多くの人に訴えていきたい」
さらに、「ともに最高裁をたたかっていこう」「これが最後じゃない。国に過ちをしっかり認めさせよう」などの決意が次つぎに述べられた。

19年5月の地裁判決で敗訴したとき、飯塚さんは声を震わせて絞り出すように語った。「人の人生を無理やり奪って責任が問われないなんて。生きる気力がなくなった。もう疲れた。諦めたくはない。でも私の今までの闘いは長すぎた」 散会に際し、参加者全員、強制不妊の上に二度までも冷酷非情の判決に襲われた飯塚さん、そして佐藤さんの言葉に尽くせぬ苦難を我が身に受けて、最後の勝利の日までともに闘い抜くことを固く誓った。

強制不妊 23年6・1
仙台高裁判決を批判する

判決の問題性―1

本年3・23大阪高裁判決を「正義・公平の理念にのみに基づくもの」と 矮小化し、最高裁に「旧法=違憲」判決出すな」と露骨にアピール

判決は次のように言う―「民法724条後段所定の期間が、被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過により法律関係を確定させるため、請求権の存続期間を画一的に定めたものであり、民法724条後段の効果が生じないとされた事例をみても、除斥期間の適用を事案の具体的事情により制限することを広く認めたものとは解されないのであり、正義・公平の理念のみに基づいて、最高裁判所による違憲判決がされてから6カ月以内に権利行使した場合に、民法724条後段の効果が排除されると解することは困難であると言わざるを得ず、被害者の認識により民法724条後段の効果を排除し得るものと解することは困難である」。

  除斥期間は、権利を行使しないまま過ぎると自動消滅する期間で、進行の中断や停止は原則認められない。ただし、最高裁判例から著しく正義・公平に反する特段の事情がある場合は適用が制限できると解釈されている。
大阪高裁は今年3月、兵庫の障がい者5原告の控訴審で次のような画期的判決を出した。
「被害者の憲法上の権利を違法に侵害する立法を行った国が、民法の除斥期間の適用により賠償責任を免れることは、そもそも個人の尊厳の尊重を基本原理とする日本国憲法が容認していない。しかも国は今なお一貫して立法行為の違法性を争い、除斥期間の適用を主張し、責任を否定しており、被害者の権利行使を著しく困難とする状況は解消していない」。

このように、原告の方々が賠償請求権を行使するのが困難な状況を他ならぬ国がつくり出したとの判断の上に、除斥期間の適用は「正義・公平の理念に著しく反する」と判示し、国賠命令を下したのである。
仙台高裁の判決の最深の根拠が、13条が規定する「個人の尊厳の尊重」という憲法の基本原理への裁判長の完全な無理解と背反、それに規定された人権感覚の致命的欠如にあることが明らかであろう。
札幌高裁もまた同年同月、差別や偏見が賠償請求に必要な情報を得ることを阻害したとして除斥期間を適用しなかった。いずれも、最高裁判例に立脚した判決であり、仙台高裁判決は上述したような裁判長の問題性に規定されて「除斥期間の適用は正義公平の理念に反する特段の事情」の存在を否認した結果の産物という以外にない。

これらをさかのぼる22年2月の大阪高裁判決は「提訴するための相談や情報にアクセスできるようになってから6カ月」、同年3月の東京高裁判決は旧法の違法性を客観的に示したものとして「一時金支給法の制定時(19年4月)から5年」の間に提訴すれば、除斥期間を適用しないとした。
今次判決は、これら先行の高裁判決をことごとく否定する暴挙である。

判決の問題性―2

謝罪と補償の要求活動等を理由に「除斥期間内に提訴できた」と飯塚さんの請求棄却を合理化する暴論

「96年法改正の間には、日本障害者協議会から法改正の要望、国連から改正すべきとの勧告、改正後には〈謝罪を求める会〉が結成され厚生省に謝罪と補償を求める要望書提出、日弁連が被害者への補償措置を求める報告書を発表」・・・判決はこれらを列挙した上で、「控訴人甲2が、謝罪を求める会において活動し、弁護士に相談して日弁連に人権救済の申し立てを行ったことが認められ、優生政策が推進されたことなどにより、優生思想による差別や偏見が継続して存在していたことなどを考慮しても、上記期間内に控訴人らが権利行使することが著しく困難であって、手術の違法性を訴えることが不可能に近い状態であったとまではいえない」。
「控訴人甲2」と飯塚さんを名指して、〈謝罪を求める会〉(97年以降)や日弁連への人権救済の申し立て(2015年6月)といった活動を続けてきたことなどを理由に、「除斥期間内の提訴も著しく困難ではなかった」とする判決である。また、上記したような旧法をめぐる内外の動向から「控訴人ら」の2人が「提訴することが著しく困難だったとはいえない」とする判決だ。
飯塚さんは97年ごろから謝罪と補償を求めて活動を始めたが、すでに見たように、国・厚生省は「当時は合法、謝罪も補償も実態調査もしない」の門前払い、手術記録は宮城県に廃棄され八方塞がり、提訴などできなかったのだ。
判決はさらに他の個所で、飯塚さんが手術の約半年後に両親の会話をたまたま耳にして自身が受けた手術は優生手術であると認識したと断定している。佐藤由美さんに対しては、母が路子さんに不妊手術について伝えていたことを挙げ、2人とも「権利を行使することが不可能であった、機会がなかったとまでは言えない」と断じた。

まず飯塚さんについて。手術の約半年後の16〜17歳の、社会一般では「子ども」とされる年齢の少女が両親の話を耳にしたからといって差別と偏見の根深い社会の中で、手術の理由も知らず、記録も持たず、国を相手に訴訟を起こせる機会や可能性など、どこをどう押せば出てくるのか。
宮城県の手術記録は廃棄され、県が手術の事実を認定したのは2018年になってからのことだ。

次に、佐藤由美さんについて。
佐藤路子さんは義母から、由美さんの優生手術を伝え聞いたが、当時路子さんは飯塚さんとほぼ同じ年令の少女であり、手術の事実は知っても、その理由も知らされず、当然法律の知識もない彼女に提訴するためのどのようなすべがあったというのであろうか。
まさに、旧法とそれに基づく強制不妊・中絶手術は、裁判長のような人間的尊厳の尊重や人権に無関心な人間によって成立し、存続してきたことを示している。

判決の問題性―3

2020年改正前の旧民法の「除斥期間」規定の固守と機械的適用を国と最高裁に懇願

2019年5月の仙台地裁から21年8月の神戸地裁まで、除斥期間を適用して原告の訴えを棄却する判決が続いたが、22年2月の大阪高裁判決で潮目が変わった。司法判断が差別や偏見を助長させた国の責任や人権侵害の深刻さも踏まえ、提訴の困難さを重視するようになったためだ。

この判決は、18年1月の佐藤由美さんの訴訟提起(*これが被害者が訴訟を起こすことが困難な状況の解消時点となる)を知ってから6カ月以内に提訴した大阪府に住む原告の方々に除斥期間を適用することは「著しく正義・公平の理念に反する」として原告の訴えを初めて認めた。その後の22年3月の東京、23年3月の「兵庫訴訟」控訴審の大阪、同年同月の札幌の計3高裁の判決、23年1月熊本、同年2月静岡、同年3月仙台の計3地裁の判決はすべて「正義・公平の理念に著しく反する」として、除斥期間の適用を制限し、国に賠償を命じた。

しかし、国はこれらの判決すべてに対し、「除斥期間の解釈・適用に重大な疑義がある」などとして上告・控訴し、賠償責任を認めていない。
今次仙台高裁判決は、これら国の上告・控訴の論理と軌を一にする、強制不妊・中絶手術という「戦後最大の人権侵害」に対する原告・被害者、障がい者の長年にわたる苦難に満ちた闘い、そして司法の真剣な受けとめと憲法の基本原理に立脚した良質の判断の蓄積、これらの相乗せる力が生み出した「優生保護法問題の早期全面解決」の歴史的流れに立ちはだかり、あわよくばこれを逆流させようとする大反動である。(つづく)  

8面

書評 中島京子著
中央公論新社 1900円+税
小説『やさしい猫』

「入管法」改悪、衆参両院通過という恥ずべき時代のさなかに、悪しき「入管法」を乗り越える小説がTVドラマ化されている。文壇では、吉川栄治文学賞、貧困ジャーナリズム特別賞などの評価もされている。2020年5月7日〜2021年4月17日まで読売新聞夕刊に連載。
スリランカ女性の収容所内での非人道的処遇による惨死が表面化し、一昨年の「入管法改悪」は廃案になった。その廃案に寄与した作品ということもできようが、この23年改悪法は成立してしまった。

スリランカ人と入管体制

人口減少、コロナパンデミック、若い女性、中学生の自殺者の増大…。こうした時代背景のもとでのスリランカ男性の入管規制による受難と母子、母、子の友人、弁護士などの救援の闘いの物語は、ある意味で、社会と民衆への救援のメッセージに高揚してゆく。
帯の宣伝メッセージに読者の感想文があり「物語が私たちの社会を変えるーーそれを夢見たくなる小説でした」とあるが、結局、「入管法」の完全な改正は、これからの課題ではある。
スリランカ女性の収容所内の最期の記録映像が、十分に情報開示を要求するご遺族や市民を納得させていない。収容所の内実は、戦時のゲットーのようであり、植民地の「外国人」をいかに黙らせるかのような時代錯誤的国家政策にたいして、『やさしい猫』は、抑えに抑えて書かれている。
国際平和を国民の課題とする、憲法の姿勢は、無残にも風前の灯火ではあることの危機感をつのらせる国家制度の人道精神を問われる社会問題のひとつである入管問題。
戦後の日本人を感動させた吉川英治の「宮本武蔵」の虚構性に比べると、この小説は、ひとりの女性の前夫の子が、スリランカの第2の夫とのあいだの子どものためにつづられた表現となっており、きわめてリアルな小説的書簡体であることが、活字ばなれの時代への「点滴」となっている。次に生まれてくる子どもの名前が「光」であることは、亡き大江健三郎のお子さんの名前であることに気づく。
スリランカ女性への哀悼の意を、なんとか、危険な戦争を仕掛けようとする日本政府への文学的批判と読まねばならない。CHAT GPTが、シナリオを書くことに、米国ハリウッドのライター達は、デモで決起しているという。
かつて、まともな書店がなくなるという危機感の表現は、『You've Got a Mail』という愛すべき映画になっていたが、若い女性が未来の日本人のために描かれたこの小説には、サイバー戦争の世紀末感覚はない。文章の核は、「やさしい猫」というスリランカの寓話である。
悲劇とは主人公の死、喜劇とは結婚が主題である。現代の日本政府の「入管制度」のおそるべき時代錯誤を、喜劇小説としてえがいてみせた力量は評価すべきかもしれない。さらなる追求を自他ともに求めたい。
小説の詳細には触れませんので、是非ご一読を。さりげなく明治以来の日本近代の問題が集約された小説です。(南方史郎)

第54回釜ヶ崎メーデーに参加して(下)
反省、メーデー・経済闘争を軽視
上田勝

なお、この事件に出動した「予備隊」とは「警視庁予備隊」のことであり、後の機動隊である。警察予備隊(後の陸上自衛隊)のことではない。
警視庁は衝突の最中、早くも騒乱罪適用を決定し、同日夕刻から逮捕を開始、総検挙数1232人に上った。うち起訴261人、首謀者は存在せず「首なし騒乱」と称された。
一方、政府は事件を共産党の軍事行動と非難し、当時国会審議中の破壊活動防止法成立に利用した。
血のメーデー事件の裁判は、検察側と被告人側が鋭く対立したため、一審だけで28年もかかり長期化。東京地裁の一審では、かつてないマンモス公判のため分離を主張する裁判所側と、統一を主張する弁護側が対立したが、結局統一公判方式がとられ、1953年2月から例のない6人の裁判官による公判が始まった。
1953年2月4日以降、1792回の公判が開かれ、法廷に出た証人は検察側が570人、弁護側が358人という記録的な裁判となった。争点は騒乱罪成立か否かであるが、成否は、警官隊の行動を適法・正当とみるか、それともデモが正当な抗議行動であり、暴行・脅迫の共同意思は存在せず、違法な警察力の行使が衝突の原因であるとみるか、であった。
1970年1月28日の東京地裁による一審判決は、第一次衝突を警官隊違法、騒乱罪不成立、第二次衝突以降をデモ隊違法、騒乱罪の一部成立とし、110人を無罪、93人を有罪とした。
しかし、東京高裁(荒川正三郎裁判長)は72年11月21日、有罪の宣告を受けた被告100人のうち84人の騒乱罪については全面不成立と認定し無罪を言い渡した。残る16人には騒乱罪以外の罪を認めたが、原告・被告双方が上告を断念し、長期裁判に終止符が打たれた。事件発生以来実に20年7カ月が経過していた。(おわり)

シネマ案内
『独裁者たちのとき』
監督:アレクサンドル・ソクーロフ 2022年

登場人物は、スターリン、ヒットラー、ムッソリーニ、チャーチル。1930年代から第2次世界大戦にいたる過程において、戦争を指導した人物だ。このなかにヒロヒトが入っていない。それはこの4人たちと対話をしなかったからだろうか。ルーズベルトはどうなのか。細かい詮索はやめておこう。「独裁者たちのとき」は日本でつけたタイトルで、映画の原題は「おとぎ話」なのだから。
場所は、ダンテ「神曲」のなかの世界、煉獄。この4人が天国にのぼる扉の前で神の審判を仰いでいる。天国に行くか、地獄に行くか。これをめぐって、4人は自己の功績を主張しあい、おたがいに罵りあっている。結果、神はチャーチルだけを天国に行かせ、残り3人は「また必要になるから」という理由で保留される。あくまでも、キリスト教世界における「おとぎ話」なのだ。
登場人物はすべて実物だ。膨大なアーカイブ映像の中から人物を抜き取り、これを貼り付けて編集している。セリフはすべて当人が語ったもの。声優がしゃべっているが、これに応じて唇が動くように映像処理している。デジタル技術を使えば、こういうこともできるのだ。これは少なからずグロテスクでもあるが、ここまで当人にこだわった理由は何なのか。
映画をみていれば、この4人は同じことを主張している。ひとつは、民族を強調する態度。わが民族は優秀であり、けっして戦争に負けない。このことをことさら扇動する。二つめは、民衆が自分を支持しているという自己陶酔、同時に民衆にたいする蔑視。三つめは、共産主義者ないしキリスト教徒を毛嫌いする態度。スターリンにしても言葉で共産主義を主張するが、反対する人間を粛清した。
監督のソクーロフはロシア出身。ソクーロフは映画の中に歴史的人物を登場させて、20世紀の意味を追及してきた。かれは天皇ヒロヒトを主人公にした映画、『太陽』もつくっている。第2次世界大戦のなかで天皇ヒロヒトは現人神であり、そのように行動してきた。映画では、ひとりの人間として描かれている。
民衆がその時代の歴史をうごかす。政治指導者が歴史をつくるわけではない。時代がそれに見合った指導者を作り出すのだ。だからこそ、独裁者をみればその時代の様相が見えてくる。2022年、プーチンはウクライナ侵略を決断した。この映画は、これと同時期に完成している。ソクーロフは、とりわけスターリン主義体制を今日的に問いたかったのだろう。
映画で、スターリンは神のさばきで「天国行き」を拒否されている。だから、スターリンは今日においてもロシアの地をさまよっている。「歴史は繰り返される」といわれる。
われわれはウクライナ侵略という事態を目の前にしている。この情勢のなかで、表層においてアナロジーするのではなく、その歴史的な意味を深く問うことが求められている。侵略者にたいして反戦闘争をたたきつける。それはロシア人民だけの課題ではない。われわれに問われている課題なのだ。(て)

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