未来・第362号


            未来第362号目次(2023年3月16日発行)

 1面  統一地方選
     大阪をバクチ場にするな
     大阪市長選で維新を倒そう

     関生弾圧
     和歌山広域協事件無罪 3月6日
     3・2 大津地裁は有罪・重刑(2面に記事)

 2面  関生 コンプライアンス弾圧
     湯川委員長に実刑判決

 3面  ストップ大軍拡
     神戸250人が集会・デモ3・11      

     ウクライナ反戦
     2月24日 大阪で行動     

 4面  入管法改悪阻止・仮放免者に在留資格を
     2月23日 全国9カ所で一斉アクション

     大逆事件第5回サミット
     5月26日〜27日 神戸で開催
     12月、3月にプレ集会

 5面  大軍拡・大増税を許すな
     ―今国会(第211回通常国会)の重要対決法案
     落合薫

     琉球弧への自衛隊配備反対
     新宿南口でスタンディング

 6面  ロシアのウクライナ侵略戦争から1年
     各地で「ロシアは撤退」の声

     強制不妊 2・24静岡地裁 
     1月熊本地裁に続き国賠命令 高裁併せ4例目
     「除斥期間」適用せず 国を断罪 「憲法擁護義務に背き、手術を実行・推進」
     3月23日(木)15時、大阪高裁202号法廷―兵庫訴訟控訴審判決の勝利へ

 7面  沖縄2月 新たな運動体が出発
     島々を戦場にするな!

     2・26緊急集会にあわせ
     関西で連帯行動

     3月21日西成区民センターへ
     狭山再審の門をこじあけよう

 8面  三里塚
     市東孝雄さんへのインタビュー
     全部持っていかれ、更地に

     (シネマ案内)>
     『「生きる」大川小学校津波裁判を闘った人たち』
     監督:寺田昭弘 2022年

                 

統一地方選
大阪をバクチ場にするな
大阪市長選で維新を倒そう

維新に勢いなし カジノで大阪の財政は泥沼

吉村知事と松井市長は「夢洲に作る世界最高水準のIRに税金は使わない」と豪語していた。だが一昨年末には、大阪市は汚染土壌対策と液状化対策に788億円を投入すると発表した。府市とIR事業者が締結した「基本協定」は、事業者がしっかり利益を確保できるよう、大阪市が土地所有者として夢洲の地盤改良をすることになっている。事業者側は、大阪市が適切な措置を取らなかったら契約を解除することができる。

青天井の地盤沈下対策費

788億円には「地盤沈下」対策費は含まれていない。夢洲は、地下50〜60m以上の深さにある洪積層が重圧で沈下する。事業者は大阪市に敷地全体の地盤改良を求めている。大阪市の土地改良費の負担については、現在の負担額が上限となっておらず、大阪市の免責について記載がない。土地所有者としての大阪市の費用負担は青天井にならざるを得ない。大阪市の財政は破綻する。

基本合意の内容を隠蔽

大阪IRの区域整備計画には、「世界最高水準の成長型IR」と華々しく書かれている。そんな「素晴らしい施設」のはずが、府市と事業者の契約内容が非公開にされている。基本合意の情報公開請求にも、開示されたのは「表紙」のみで、実施協定、事業用定期借地権設定契約など、契約の種類が分かっただけだった。大阪市は「(2023年の)3月末までは意見表明できない」と、国の認可が出て契約を済ませてしまうまでは、絶対に公にしない方針だ。

カジノ反対、住民投票求め府庁におしかける(22年7月29日)

経済効果はウソ八百

カジノ・IRで「大阪府・市は毎年740億円の納付金を受け取るほか、入場料収入320億円も得られ、120億円の税収も入る」バラ色の夢が描かれていた。
しかし、日本政府が今後決めるルールや大阪府・市の対応に不満だったり、見込みほど観光客が呼び込めないなどと判断したりすれば、事業者は撤退することができる。毎年25億円の賃料(不当に安い)を払うことになっているが、途中撤退なら市の土壌対策費が賃料を上回る。
オンラインカジノが急拡大し、中国の「カジノ観光規制」で状況が大きく変わった。10万u以上のMICE(展示場・会議場施設)を設置するはずが、開業当初2万uと大幅に縮小された。国際的なイベントや大規模イベントは結局、大阪には誘致できない。 計画が出来上がってみれば、売り上げも入場者もカジノが8割を占め、実態はただの「カジノ」だ。しかもゲーム機を6400台も並べる超巨大パチンコ店のような様相。ターゲットは日本人になったが、1日6千円の入場料を払ってパチスロをしに行く人がどれほどいるのか。
韓国では賭博による社会的損失額は経済効果の4・7倍という調査が公表されている。大阪では、経済効果にはギャンブル依存症発症による社会的損失は試算・検証されていない。府市は労働生産性の低下や治療費、刑務費用や裁判費用など、依存症がもたらす社会的損失の実態を隠蔽している。

維新の公約カジノかくし

基本合意の内容は大阪府市両議会にも示されていない。吉村や松井のやり方は甚だしい議会軽視だが、維新の会の議員が大多数の府市両議会は「行政のチェック機関の役割」を果たしていない。議会の承認を得ず、首長が独自判断で予算執行する専決処分は、大阪府は全国ダントツワースト1の46・8%もあり、暴君レベルだ。
維新の会は2月24日、府・市ダブル選の公約を発表したが、「1丁目1番地」の「大阪都構想」も、カジノもない。維新のタウンミーティングでも、自分たちからIRに触れることはない。
カジノは維新の弱点になっている。

市長選で維新落とせ

大阪府市は昨年4月、国にIR計画の認可申請をしたが、まだ認可はされていない。選挙が終わるまでは認可は出ないとも言われている。統一地方選という正念場で、「都構想」住民投票で二度にわたって勝利した市民の底力が問われている。カジノと串刺しで維新を葬ろう。

関生弾圧
和歌山広域協事件無罪 3月6日
3・2 大津地裁は有罪・重刑(2面に記事)

無罪判決を報告する組合員(3月6日 大阪)

3月6日、関生弾圧・和歌山広域協組事件の控訴審判決があり、大阪高裁(和田真裁判長)は武谷書記次長ら組合役員3人に無罪を言い渡した。

逆転無罪判決

裁判長は冒頭、主文を言い渡すとき「あなたがたの事件は」と言い始めた。おやっと思ったが、その直後に一審判決(全員有罪)を破棄し3人を無罪とすると発言した。
それを聞いた傍聴席にはオオッというどよめきが起こり、次の瞬間法廷には大きな拍手がわき起こった。この判決の最大の特徴は、産業別労働運動を労使関係の有無に関わらず認めたことであり、関西生コンの組合員の行動は団結権に基づく正当な行為であることを真正面から認めたことである。

労使関係なくても団結権行使は正当

報告集会で武谷書記次長は、真っ先に裁判長が産別労働運動を認めたことに触れた。「これまで労使関係のないところにピケをはるのはダメやと言われていたが、今回の判決は労使関係がなくても産業別労働組合がその産業全体のことについて団結権を行使することは正当で当然やと認めた。さらに経営者等の被害者の証言は信用できないと断定した。よう言うてくれた」と判決の画期的内容について報告した。
Mさんは「破棄と言われてあっ、まずいなと思ったが、次の瞬間、無罪といわれてびっくりした。3月2日の大津地裁判決で湯川委員長に実刑判決が出されているが、湯川委員長の逆転無罪獲得にむけて闘おう」と述べた。
Oさんは冒頭「よかったぁ!」と腕を突き上げて叫び、「無罪を聞いたとき、鳥肌が立ち、目がしらが熱くなった。しかし、よく考えると、これは当たり前の判断なんや。3人そろっての無罪に続き、湯川委員長の逆転無罪に向けて反撃していこう」と訴えた。

反転攻勢へ

労使関係の有無に関わらず産業別労働運動を認めたことは重要だ。関生の事件はすべて産業別労働組合の団結権の行使としてその正当性が浮き彫りになっていく。湯川委員長の逆転無罪を勝ち取っていく地平は開かれた。反転攻勢にむけ闘い抜こう。(米村泰輔)

2面

関生 コンプライアンス弾圧
湯川委員長に実刑判決

3月2日、大津地裁(畑山靖裁判長)は関生・湯川委員長に懲役4年の実刑判決、他の5人の被告に有罪判決(執行猶予付き)の画歴史的な反動判決を下した(写真)
関生支部、ひいては労働組合を「犯罪者集団」とする検察の主張を丸のみした判決に報告を聞いた人たちから激しい弾劾の声があがった。

コンプラ活動は世界標準の正当組合活動

コンプライアンスとは法令遵守という意味である。「コンプライアンス活動は、労働者の安全な作業環境の確保、労働協約を下回る労働条件の規制、品質の確保などを目的として、そこに組合員が直接雇用されているか否かにかかわらず事業所を調査または査察する活動であり、建設、海運、港湾などの分野で世界各国の産業別労働組合が日常的に取り組んでいるグローバルスタンダード≠ネ組合活動」(弁護団声明)である。
関生支部を「犯罪者集団」とする検察の主張を丸のみした畑山裁判長は「たとえ個々のコンプラ活動が平穏におこなわれたり、一部にそれ自体としては正当なものが含まれていたとしても」「被告人らの行為を正当な行為とみることはできない」と労働組合の団結権を全否定する立場から正当な組合活動を有罪とした。命や安全に関わるものも多数あり、違法行為を違法行為として是正を求めることの何が問題なのか。団結権を否定するということは、関生だけでなくすべての労働者の権利、労働組合の権利を奪うことだ。この攻撃は次には市民運動にもむけられる。

ずさんな判決

湯川委員長はコンプラ事件とは別にタイヨー生コン事件で「恐喝」罪で起訴されている。タイヨー生コン事件では湯川委員長とともに「共犯」とされた武建一前委員長も「恐喝」罪で起訴されていた。しかし、武前委員長には2021年7月に大阪地裁は「恐喝」をした証拠はないとして無罪に。
しかし大津地裁は、大阪地裁と同一の証拠に基づきながら、確かに「証拠はない」が「恐喝罪が成立すると推認できる」として有罪にした。「推認できる」とは想像であり憶測だ。想像や憶測で有罪にすることはあまりにもずさんだ。同一の証拠で一方が無罪、他方が有罪などありえない。
裁判長は終始下を向き必死に判決文を読みあげ、被告人と目を合わせないようにしていた。その様子はAI(ロボット)がしゃべっているようだった。裁判長は「団結権」と言うべきところを「団体権」と言い間違え、陪席裁判官から指摘されて訂正。
傍聴席から「お前こそ懲役に行け!」と怒りのヤジが。退席中の裁判長に対して「憲法28条違反、労働法違反でこの裁判長を逮捕しろ!」という大声での弾劾の声。

湯川委員長の決意

判決前の裁判所前・昼休み街宣では、全国の支援の発言が続く中、湯川委員長は「弾圧から6年、多くの裁判があり、会ったこともないような人が(検察側)証人として出てきた。コンプラ活動が犯罪になるのか。今日ですべてが終わるわけではない、勝利するまで闘っていく」と決意を述べた。
労働者の権利、労働組合の権利は民主主義の根幹を支えている。今、資本は関生や労働組合を「犯罪者集団」としてその権利を奪おうとしている。闘いの輪を広げ、資本と国家権力の攻撃を押し返していこう。(米村泰輔)

3面

ストップ大軍拡
神戸 250人が集会・デモ

神戸駅方面から元町商店街に入りデモ行進(2月23日)

2月23日神戸市内で「こわすな憲法! いのちとくらし! 市民デモHYOGO」主催の、ストップ大軍拡集会が開催され250人が参加した。メイン講演は、『戦後民主主義』(中公新書)という著作を持つ40歳前の山本昭宏神戸市外国語大学准教授で、演題は「市民の論理と国家の論理〜防衛政策の転換を巡って」。
主催者挨拶は簡潔ながら、戦後史を画する安保・防衛政策の歴史的転換=社会の大改編に対し、市民の論理で対抗していこうとした。
講演ではまず岸田政権の防衛政策の転換への確認として、敵基地攻撃能力の保有に合意、安保関連3文書の改定を閣議決定、防衛費を5年間で従来の1・6倍に当たる43兆円に増額と言及。また「国家防衛戦略」ではウクライナは十分な抑止力を保有していなかったというロジックを使用。これは平和主義を壊す防衛政策の何度目かの大転換だとした。
戦後民主主義を代表する何人かの識者を紹介。まず小田実は、「民は軍の論理に従って生きることでそれ相応の発展をした。そして軍の論理が究極におもむくところでどんでん返しをくわされた」と言う。次に久米宏は、80年代「ニユースステーション」開始直前のインタビューで「非常に大それた意見ですけれども、おそらくしたいことというのは、日本が二度と戦争をしないことだと思います。全ての国が軍備に費やすお金を全部なくしたら、どれだけ人間は幸せになれるか」と述べたと紹介。この発言は戦後民主主義の積極的表れとみなし得る。また宮崎駿は、『紅の豚』の主人公ポルコは空中戦では機体を撃って人を殺さない。ここには冷戦終結後、内戦が勃発したユーゴスラヴィア情勢を憂う気持ちがある。2000年代になると憲法調査会が再開され改憲論が起こった。この頃参議院参考人の加藤周一は、「徹底した平和主義は世界を先取りしているだけでなく、日本の将来にとって有効な施策を憲法が先取りしている」と述べた、と紹介した。
最後に山本さんは、歴史学者ジョン・ダワーの「戦争の文化」について触れ、それは大国意識、希望的観測、異論排除と同調圧力、宗教的人種的偏見、想像力の欠如であり、まさに私たちの日常にある要素ばかりだ。日常の中のこれらの要素に少し立ち止まって、できる範囲で少し変えようと関わることから始めたいと結んだ。

広い会場を埋めつくした参加者(2月23日 神戸)

次に〈ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会〉清水早子さんは、宮古島から自衛隊基地建設の進み具合をオンライン画像で詳しく説明。政府は住民を守るためと言うが、逆に標的になる不安が大きい。筆者は、去年夏に宮古島に行ったが、この画像を見た人は沖縄の島々の現状をよく理解できたと思う。清水さんは自らの闘いを「非暴力、不服従、実力闘争」と言ったが、これは今後の私たちの長い闘い方の道標になると思う。
〈老朽原発うごかすな! 実行委員会〉木原壯林さんは、岸田政権の原発再稼働について「3・11以後、最低でも40年超え原発は廃炉にするとした方針を覆し60年まで延長する。原発新増設などはとんでもないこと。3・21関電包囲大集会に参加を」と訴えた。
集会後、参加者は元町商店街を東にデモ行進。途中若者2人が飛び入り参加したり、沿道の市民は神戸市内初の「反軍拡・反増税」のデモに見入っていた。(大北健三)

ウクライナ反戦
2月24日 大阪で行動

中之島公園から御堂筋デモに出発する参加者(2月24日)

ロシアのウクライナ侵略から1年になる2月24日大阪市・中之島公園女性像前で「ロシアは直ちにウクライナから撤退せよ! 戦争をやめろ!」集会がひらかれ、300人を超える人たちが公園を埋め尽くした。呼びかけは「しないさせない!戦争協力」関西ネットワーク(以下、シーサーネット)。おおさか総がかり行動実行委員会が協賛。
シーサーネット共同代表・中北龍太郎さんが主催者代表あいさつ。「本日ロシア領事館に行き、ロシア軍の即時撤退の要求書を54団体の連名で提出した。この戦争はロシアが他国の領土を奪う侵略戦争であり、ロシア軍によるブチャの虐殺など民衆に対する残虐な行為がおこなわれており、民間人の死者はわかっているだけで8千人を超える。ウクライナの人々の苦しみを思うと胸が張り裂ける。ロシアの1日も早い撤退を求めていきたい。この機に乗じて岸田政権は、敵基地攻撃能力の保有、軍拡予算倍増を計画。戦争への道を断じて封じ、武力なき平和をめざそう」。
大阪平和人権センター理事長・米田彰男さんが開会のあいさつ。「プーチンは、目的遂行まで戦闘を続けることを宣言し、米国との核兵器軍縮条約の停止をおこない、核の脅威が高まっている。ロシアの侵略行為に断固抗議し、戦火の中で苦しむウクライナの人々と、戦争反対の行動を続けるロシア市民と連帯し、ロシアの即時停戦と撤退を求めていこう」。
賛同団体から3団体が発言した。日・独平和フォーラムの山本健治さんは「昨年2月から毎月2回JR高槻駅前でスタンディングをおこない、24日にはロシア領事館の前で抗議行動した。TVでコメンテーターが『ロシア疲れ』『ウクライナ疲れ』と言っている発言は許せない」と批判。全港湾大阪支部の陣内恒治さんは、「この1年間で30万人の被害者がでたと言ってるが、1つの都市、那覇市の人口全てが亡くなったことと同じ。8百万人もの避難民たちの生活をどうやって守るのか。停戦協議が最重要だ」。おおさか総がかり行動実行委員会から憲法会議・吉田一江さんが発言。昨年2月ロシアの侵攻からずっと「戦争あかん」という運動を続けてきて、子どもたちや若者の反応が良かったと話した。
最後に垣沼陽輔さんがデモコースを説明し全員でシュプレヒコールをして繁華街の梅田までデモ行進した。「ロシアは完全撤退せよ、市民を殺すな」「敵基地攻撃能力はいらない」「岸田内閣は憲法9条を守れ」と道行く人々に訴えた。

4面

入管法改悪阻止・仮放免者に在留資格を
2月23日 全国9カ所で一斉アクション

中之島公園からデモに出発する集会参加者(2月23日 大阪市内)

2月23日、入管法改悪反対全国一斉アクションが全国9カ所で同時開催された。
2021年3月6日に亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの3回忌への追悼として、札幌、仙台、高崎、東京、名古屋、京都、広島、高知、そして大阪の9カ所でおこなわれた。

入管法「改正」の内容

今回、国会上程が予定されている「改正」案は2021年に廃案になったものとほとんど同じである。2021年に国会に上程された「改正」案の目的は入管当局が一方的に「送還忌避者」と位置づける人たちを強制送還しやすくすることである。たとえば難民申請が3回目以降の場合、審査結果を待たずに強制送還できるようにしたり、送還を拒否する人に刑事罰を科すなどして強制送還する入管行政をさらに強権的にする内容が込められている。 しかし、2021年「改正」案は同年3月に名古屋入管でスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが入管職員の非人間的な処遇によって死亡したため、連日ニュースで報道され、入管行政や入管法「改正」に対する社会的批判が高まり、2021年法案は同年5月、廃案になった。しかし今、岸田政権はほとぼりがさめたとして再度、これを上程しようとしている。こんな悪法は絶対阻止しなければならない。

大阪で150人がデモ

大阪では、中之島公園で開催され150人が参加した。主催は、入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合。入管事件を闘う大阪弁護士有志の会が協賛。
冒頭、司会が「今日のデモの目的は入管法改悪反対と仮放免者に在留資格を≠ニいう2点を訴えて大阪を歩きたいと思います」と提起した。

社民党大椿副党首

大椿ゆうこさんは、カタルーニャ人のつれあいの手書きのプラカードを持参して参加した。そこに書かれているのは「外国人も日本の住民です」というメッセージである。大椿さんは、つれあいと結婚するために入管に通うようになったが、入管は、在日外国人をいつか犯罪を犯す人たちだから日本に来てはいけない、追い返すしかないという価値観で充ちており、犯罪者予備軍ではないことをクリアしないと在留資格をとれない日本の非人間的な入管行政の実態を報告し、「この悪法は絶対に通してはならない」「日本の入管は一度解体すべきだ」と意見を述べた。

「送還忌避者」の現実

WITH(ウィズ 西日本入国管理センターを考える会)は、入管が一方的に「送還忌避者」と決めつける仮放免者とその子が置かれている非人間的な現状を報告した。今、両親が仮放免中で日本で生まれた中学3年生A君の学習サポートをしているという。A君のスリランカ人の両親は政治的問題に巻き込まれ、日本に住むスリランカ人を頼って2006年に来日した。当時は人手不足で安い労働力として在留資格のない多数の在日外国人が雇われており、入管当局も黙認していた。2007年にA君が生まれた。しかし、両親は不法滞在で入管に収容され、赤ちゃんだったA君は乳児院に入れられ日本人職員によって育てられた。言葉を覚える大切な時期に両親から引き離されたのだ。その後、A君の養育のために両親は仮放免されたが、A君はお母さんを見ても最初、逃げ回ったそうだ。親子の関係を結びなおすのにとても時間がかかったという。A君はスリランカに国籍はない。また日本にも国籍はない。

仮放免の非人間性

仮放免で入管から出されても仕事に就けない、他府県への移動の自由がない、健康保険にも入れない、毎月入管に仮放免の延長申請に行かないといけない、延長申請に行くと入管から毎回、「国に帰れ」と言われる。延長申請のときに突然、入管に収容される人もいる。こんな不安定な中でA君は17年も過ごしてきた。

コロナ禍での苦難

頼みの綱の教会にもコロナで行けず、日本にいるすべての在日外国人にも支給されるというコロナ給付金は両親には支給されなかった。仮放免者は「すべての外国人」の中に入っていなかったのだ。

「帰れ」の非人間性

日本で生まれ、日本で育ち、日本語しかわからないまま、見たこともない、何の希望もない、国籍もないスリランカに帰れといわれても、そんなことは考えられないことである。
両親が強制送還されるかもしれないA君が高校に入ったら、両親だけ強制送還されるかもしれないという。

A君の作文

A君の書いた作文が紹介された。「僕は苦手な勉強をがんばって高校に入り、大学もしくは専門学校に行って、在留資格を取りたい、在留資格が出れば、一生懸命に働いて、これまで厳しい中、自分を育ててくれた両親を助けたい。僕が生まれたこの国で。」

『なぜ入管で人が死ぬのか』の学習を

集会主催者である〈入管の民族差別・人権と闘う全国市民連合〉は右記のパンフレットを発行している。これは同市民連合のホームページから無料でダウンロードできる。
我々の世代は在日朝鮮人に対する民族差別や『入管黒書』や『日本人のあなたと中国人の私』などと格闘する中で入管体制・入管行政の本質を学んできた。
しかし、それだけでは致命的に足りないことが今回の集会・デモに参加して突きつけられた。あらためて入管体制・入管行政を対象化し、これらを多くの人たちとともに打ち破っていくために闘っていきたいと思う。(三船二郎)

大逆事件第5回サミット
5月26日〜27日 神戸で開催
12月、3月にプレ集会

報告する森山誠一さんと、発言する中川智子さん(22年12月16日)

2011年、大逆事件100年を契機に始まった大逆事件サミットが、第5回として5月26日〜27日神戸で開催される。大逆事件は天皇暗殺を企てた(大逆罪)とする無実の罪で、幸徳秋水ら12人が死刑にされた明治〜昭和期=戦前日本の最大の治安弾圧・権力犯罪・フレームアップ事件である。
その無実性・権力犯罪性を訴える運動は、敗戦後親族らによって始められ、1960年代には生存者・坂本清馬(戦後中村市=現四万十市在)らの再審請求に多くの学者・文化人・弁護士が協力し、土佐中村(幸徳秋水生誕地)、和歌山新宮(大石誠之助ら)などで冤罪を晴らし、犠牲者を救援・顕彰する運動が次第次第に支持を得てきた。
中村では幸徳秋水は早くから「郷土の偉人」として慕われ、「幸徳秋水を顕彰する会」が活発に活動し、記念碑などが建てられ、墓前祭がおこなわれてきた。事件100年を期して東京・和歌山・大阪・岡山・熊本など事件の犠牲になった地域の人々・関係者に呼びかけ「大逆事件サミット」が2011年に中村で開催された。その後2年ごとに福岡(堺枯川)、大阪(菅野須賀子)、和歌山新宮(大石誠之助ら)で開催され、2020年には第5回が神戸で開催予定となっていたが、コロナ禍で延期となっていた。
この間神戸では「大逆事件を明らかにする兵庫の会」が発足、研究会がもたれてきた。それまでは、高知出身で神戸の病院に勤務していた小松丑次・岡林寅松が大逆事件の犠牲(当初死刑、のち無期懲役、20年で出獄)の事実は知られていても、その足跡はほとんど知られなかった。出獄後の2人の足跡も含め若手研究者・上山慧(現関西学院大講師)がたどり、21年末に『神戸平民倶楽部と大逆事件』(風詠社)を上梓し、当時の神戸界隈の社会運動と2人の足跡が広く社会に明らかにされた。
それを受けて22年12月16日には、隣県岡山の森近運平を語る会会長の森山誠一さん(金沢星陵大名誉教授)を迎えて講演会を開催。改めて農業改良家であった森近運平の人柄と大逆事件との無関係性を学んだ。またこの集会には和歌山・那智生まれで、親戚が「大逆事件の犠牲者を顕彰する会」の会長をしている中川智子前宝塚市長も「新宮組」の一員として参加。現在も続く権力犯罪との闘いを訴えた。そしてこの3月26日には、和歌山新宮から辻本雄一さん(中上健次の熊野大学に参画、佐藤春夫記念館館長)を招いて学習会をおこない(2時、兵庫文化センター)、第5回サミットの最終準備に入る。幸徳秋水は「100年後の日本」に期待したが、100年後の今も権力犯罪は続いている。全国の力でサミットの成功を。
(松田耕典・高知県生、小学前半中村市で育つ)

5面

大軍拡・大増税を許すな
―今国会(第211回通常国会)の重要対決法案
落合薫

大軍拡と大増税に、原発全面推進、社会保障切り捨て、差別・抑圧強化の岸田政権は今国会で歴史的な大反動を狙っている。5月G7広島サミットと4月の統一自治体選挙を乗り切り、6月21日国会が終了すれば、これを一挙に強化する目算だ。3月16日にも開設されようとしている石垣島への陸上自衛隊ミサイル部隊の駐屯地の開設がそれを示している。対中国戦争挑発の最前線として「新たな沖縄戦」を現実化するものだ。ここでは今国会で重要な争点となる法案を検討する。

大軍拡・大増税のための法案

上程されている法案のうち、直接、大軍拡・大増税にかかわるものは、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」、「所得税法等の一部を改正する法律案」、「防衛省設置法の一部を改正する法律案」の3本である。これらは次の内容を含む。
第1に、財政投融資特別会計、外国為替資金特別会計などから防衛費に充てることである。結局、国債発行によらざるをえず、日本国債の信用の喪失、超インフレ・生活物資の殺人的高騰の危険が増す。
第2に、公立病院の国庫納付金から防衛費を捻出したり、所得税に一部上乗せして東日本大震災の被災者の救済に充てていた税収を防衛費に回す。福祉に回すべき国費を防衛費に回すものだ。
第3に、一般会計から出る「剰余金」を防衛費に充てることができるようにする。予算のあらゆる項目で、「剰余金」が出る仕組みにしておけば、防衛費を捻出できる「打ち出の小槌」となる。
「防衛3文書」で打ち出された「反撃能力」または「敵基地攻撃能力」という名の敵領域に対する無制限戦争のための装備や、対中国戦争挑発の最前線となる琉球諸島への新たな部隊配置のための経費をどの費目によって賄うのかは明らかでない。向こう5年間の防衛費を過去5年間の1・6倍にあたる43兆円に一気に倍増する。そのために1兆円は増税で確保するという。消費税の大幅値上げに帰結することは明らかだ。
またこの大軍拡の中に、武器輸出のための企業援助や途上国へのODA以外の軍事援助資金の提供を含めている。世界的軍拡競争の火をつけ、対中国包囲と戦争挑発に一層の拍車をかけようとしているのだ。

原発全面推進の大反動

原子力規制委員会の中からも反対が出るなど、最後までもめぬいた原発関係法案が、2月28日、60年超の運転を可能とする閣議決定をもって国会に上程された。規制委の審査などによる停止期間を運転期間から除くことで60年超の運転が可能となる。事業者側の不備や事故により長期間停止した原発の方が、審査を速やかにクリアした原発より長く生き延びる逆事が起こる。運転が止まっていてもコンクリートの構造物は年数がたつほど劣化する。あらゆる意味で危険性を無視した決定である。
さらに今回の法案は、「原子炉等規制法」から運転期間の規定を削除し、「電気事業法」に新たに明記している。運転期間の問題は安全性の観点からの規制対象から電気事業者の営業上の判断にしてしまう。
また今回提出された法案はエネルギー関連の「束ね法案」として5本の法案を一括して提出している。「原子力基本法」「電気事業法」「原子炉等規制法」「再処理法」「再生可能エネルギー特別措置法」の5本である。「束ね法案」の問題は、「束ねた」法案を一括して審理することにあり、その中の1つの法案だけに反対したりすることは認められない。
また今回の法案は、建て替えや新増設、新型炉の建設を可能とする、何でもありの法案である。子ども脱被ばく裁判をはじめ、被ばく者・被災者の救済を放置し、汚染水の海洋投棄すら強行しようとする国策原発政策の推進を何としても阻止しよう。

社会保障の極限的切り詰め

「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」は、出産育児支援金に高齢者医療保険金から資金を回すことと、後期高齢者の医療保険負担率の見直しがメインとなっている。世代間を分断し、高齢者の医療保険の徴収分を増やし、子ども・子育ての費用に回すことができるようにするということだ。
2022年に出生数が初めて80万人を割った(日本に住む日本人に限ると約77万人)ことに岸田首相は危機感をむき出しにし、「異次元の少子化対策」「子ども予算の倍増」と打ち出した。しかし今国会の法案や予算案には具体的な対策は盛られていない。「こども家庭庁」の発足が4月、それからとりまとめをおこない、6月までに子ども予算倍増に向けた「大枠」を示す予定という。少子化対策のより包括的な全体像は、秋に閣議決定する「こども大綱」に持ち越される見通しという(日経2023年3月5日)。
しかも政府が現在検討しているという、児童手当の強化や子育てサービス拡充などの3項目は、すでに結婚しているカップル向けで、それさえ児童手当の所得制限の是非などをめぐって政府与党内で意見が割れている。少子化の最大の原因は未婚化・晩婚化であって、若者が結婚できない現実にある。若い世代の経済不安、不安定な雇用や低所得などの問題、さらに家事・育児が女性に偏っている現実を変えない限り解決はない。人間を生産性でしか評価しない社会全体の変革ぬきに解決はありえない。
医療・介護・生活保護などの社会保障面でもうひとつの問題は、新型コロナの感染時、法律上の類型を「5類」に引き下げる5月8日以降、政府は患者の医療費の公費負担を減らし、外来での自己負担額を季節性インフルエンザと同程度とする方針である。コロナにかかった人の医療費自己負担が増える、医療から見捨てられる人が増えることは確実である。

入管・難民法改悪案

政府の入管難民法改正案は、スリランカ人ウィシュマ・サンダマリさんの収容死による現在の入管体制の問題点を受けたものとされるが、驚いたことに、2021年に与野党協議で修正した部分を「白紙」に戻し、元の骨格をほぼ維持している。実質改悪となる点は、以下のとおりである。
@ 母国送還を拒否しても罰則付きで退去命令を出せる制度を設ける。
A 3回目以降の難民認定申請者を送還可能にする。
B 「テロリスト」などの犯罪者は難民認定の申請中でも母国に送還できるように規定を変える。
C 「原則収容」を変えて「監理措置」を設けるが、住居を制限し、「監理人」をつけることを条件とする。
前提として日本の難民認定数は異常に少ない。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の発表によると2020年の各国の難民受け入れ数は、トルコ370万人、コロンビア170万人、ウガンダとパキスタン140万人、ドイツ120万人という多さに比べ、日本は申請者3936人のうちわずか44人であった。しかも在留期間を過ぎた、または在留を認められなかった者は基本的にすべて入管収容所に収容される。その収容の実態はひどいもので、国連人権委員会が昨年11月に出した勧告によると、日本の入管施設で17年から5年間で3人の収容者が死亡している。そのため同委員会は、医療体制の改善や独立した人権救済機関の創設を求めている。
戦争や内戦、ジェノサイドや大自然災害が頻発する世界で、劣悪で、居住・往来の権利や国籍選択の自由などのあらゆる人権事項を踏みにじり続ける入管体制を廃止しよう。

琉球弧への自衛隊配備反対
新宿南口でスタンディング

新宿南口でスタンディング

3月4日、新宿駅南口で「辺野古ブルーアクション新宿スタンディング」がおこなわれ、75人が参加。道行く人市民に辺野古新基地建設反対を訴えた。

3月4日、新宿駅南口で「辺野古ブルーアクション新宿スタンディング」がおこなわれ、75人が参加。道行く市民に辺野古新基地建設反対を訴えた。

















6面

ロシアのウクライナ侵略戦争から1年
各地で「ロシアは撤退」の声

ロシアプーチン政権によるウクライナ侵略戦争開始から1年。東京では2月23日に新宿で行動がおこなわれ、24日には、日比谷野外音楽堂で、〈さようなら原発・1000万人市民アクション実行委員会〉と〈戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会〉が主催し、「ロシアは即時、撤退せよ! 原発に手を出すな! 核使用恫喝許さない!」を掲げた集会がひらかれた。同日、在日ウクライナの人々は、国連大学前で、ウクライナの大地を描いた多数のろうそくを中心にスタンディングの行動を展開し、2日後にも新宿で行動がおこなわれている。
プーチン政権は、アメリカ帝国主義の没落をにらんで、ロシア帝国の復活の野望により、この戦争を開始した。かつて、ソ連をはじめとするロシアの政権によって、大虐殺を経験してきたウクライナの人々は、必死の闘いを展開して、ロシア軍を押し返しつつある。かつての日本軍が、中国侵略戦争の中で、中国人民の反撃の前で本質的に敗北していたように、ウクライナ人民の死活をかけた戦意こそが、ロシア軍を追い詰めている本質である。バフムトの前線で闘う兵士は、「これは自由を守るための戦いだ。ウクライナとロシアの戦争ではなく、1つの政権と民主主義との戦争だ」と語っている。
ロシア国内では、苛烈な弾圧を加えられながらも、人民の反戦行動が続いている。ロシア軍のミサイルにより、子どもを含む45人が死亡したウクライナ東部ドニプロの集合住宅での惨劇を知ったロシア人たちが、ウクライナの詩人の像に献花し続けていることが報じられている。百万人とも2百万人とも言われる人々がロシアを脱出している。外国に住むロシア人たちは、ロシア国内に向かって、この戦争の真実を伝える努力を続けている。また、ウクライナ軍とともに闘う「自由ロシア軍団」やパルチザン部隊として闘う「ロシア義勇軍団」の存在も報じられている。

ウクライナ反戦かかげ各地でデモ(写真は2月24日 大阪市内)

軍事大国化進める岸田

岸田政権は、ロシアのウクライナ侵略を利用して、他国の領土を攻撃できる本格的な軍事大国になろうとしている。昨年12月に発表された防衛関連3文書では「ロシアがウクライナを侵略するに至った軍事的な背景としては、ウクライナのロシアに対する防衛力が十分ではなく、ロシアによる侵略を思いとどまらせ、抑止できなかった、つまり、十分な能力を保有していなかったことにある」(国家防衛戦略について)と述べている。核兵器保有を止めたウクライナを、足蹴にする言い草だ。
岸田をはじめとする支配層の中では、プーチンと同様、次のような世界観がある。「同時に、我が国の同盟国であり世界最大の総合的な国力を有する米国や、G7等の国際的な枠組みが、国際社会におけるリスクを管理し、自由で開かれた国際秩序を維持・発展させることは、ますます難しくなってきている」(「国家安全保障戦略について」)。だからこそ、他国の領土を攻撃できる軍事力保有を実現して、帝国主義国として世界政治にかみこもうとしているのだ。
この体制を支えるために、交通や公共インフラの軍事的利用を推し進め、そこに労働者人民、学会をも動員しようとしている。そのために、日本学術会議への攻撃、辺野古新基地建設をはじめとする琉球弧の軍事化、三里塚での強制執行をおこなっている。国会では、軍拡のため2023年度予算を通し、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」、「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案」などを通過させようとしている。また、統一地方選や国政選挙で、与党の勝利を許すならば、改憲投票を許すことと同じような意味を持ってしまう。社会保障の全面改悪も狙われている。わたしたちは、この動きを全力を挙げて阻止しなければならない。
イギリスを中心とした体制が崩壊して、アメリカ中心の体制になる過程で起こったものが第一次・第二次世界大戦だった。今の日本やロシア、世界の大国の支配層の動きを許すならば、第三次世界大戦へと突き進んでしまうだろう。
現代において、侵略戦争を最も展開してきたのは、核大国である国連常任理事国だ。こんな世界支配を許しておくことはできない。わたしたちは、核兵器禁止条約などの平和条約を日本に結ばせるための闘い、日米安保粉砕、侵略と加害の歴史に責任を取る中で、この世界を変えなければ、第三次世界大戦を防ぐことはできない。この立場こそ、世界の人民、とりわけ、闘うウクライナ・ロシアの人民に応える道ではないだろうか。(松坂徹)

強制不妊 2・24静岡地裁 
1月熊本地裁に続き国賠命令 高裁併せ4例目
「除斥期間」適用せず 国を断罪 「憲法擁護義務に背き、手術を実行・推進」
3月23日(木)15時、大阪高裁202号法廷―兵庫訴訟控訴審判決の勝利へ

旧優生保護法(以下、旧法)の下で不妊手術を強制されたとして、静岡県の宮川辰子さん(仮名。80代女性)が国に3300万円の損害賠償を求めた訴訟で、静岡地裁(増田吉則裁判長)は2月24日、国に1650万円の賠償を命じる判決を言い渡した。旧法をめぐり各地で起こされた国賠訴訟のうち、地裁での国賠命令は今年1月の熊本地裁に続いて2例目。昨年2月大阪・3月東京の両高裁での国賠命令と合算すると全国で計4例目。

ろう者はじめ支援の人びと、手話で喜びを爆発

2月26日、神戸市で開かれた「兵庫訴訟・大阪高裁控訴審勝利をめざす学習決起集会(兵庫訴訟弁護団および被害者とともに歩む兵庫の会主催)」で、勝訴の歓喜に湧く現場の状況がzoomで生き生きと伝えられた。弁護団は「4度目の断罪」「静岡も勝訴」と大書された垂れ幕を掲げた。傍聴席を埋め尽くしたろう者をはじめとした支援の人びとはみな、閉廷後の報告集会で、両高裁と熊本地裁に続く国賠命令の勝利判決に涙しながら抱き合い、手話で歓喜をあらわにした。
全身の震えを抑えることのできない光景だった。静聴協の前田さんからzoomを通し次のような報告がされた。「静岡の地では、ろうあ協会を協会長をはじめとした一部反動が長年支配し、ろう者の叫びと闘いを抑圧し、圧殺してきた歴史があった。今回の勝訴は、それに屈せず自己の意思を貫いた宮川さんの闘いをわが闘いとしてともに闘い続けてきたすべての静岡のろう者が重い反動のカベを打ち破った意義をもつものでした」。
衝撃的報告だった。この日の勝利は、静岡のろう者の人々の筆舌に尽くせぬ苦難の自己解放闘争史を画する歴史的大事件だったのだ。

宮川さんは生まれつき耳が不自由で、30歳だった1970年10月、結婚式を前に母親に県内の産婦人科病院に連れて行かれ何の説明もなく不妊手術を受けさせられた。2019年1月に提訴した。判決は、宮川さんについて「『不良な子孫の出生を防止する』という差別的思想に基づき、同意なく、生殖機能を回復不能とする手術を受けさせられた」と認定、「精神的、肉体的苦痛は甚大だ」と断じた。

判決は、旧法に基づく優生手術は、憲法13条によって保障された幸福追求権としての子を産むか否かについて意思決定をする権利を侵害し、かつ旧法は差別的な思想に基づいて不合理な取り扱いをするもので、憲法14条が定める法の下の平等に反すると判断、国の賠償義務を認めた。全国10地裁・支部の同種訴訟15件のうち、違憲判決は計7件。19年の両高裁判決を加えると違憲判決は計9件に積み上がった。

「除斥期間」不適用は国に責任があるためと断じた画期的判断

旧法をめぐって全国10の地裁・支部で起こされた訴訟で、これまでに出た9件の一審判決では、7件が請求を棄却、うち6件が「除斥期間」の経過を理由とした。昨年の両高裁判決、今年1月の熊本と2月静岡の両地裁判決は「正義公平の理念」を理由に「除斥期間」の適用を制限した。
しかし、今次判決は、これらをさらに超える判断を示した。
判決は、「除斥期間」について、適否を以下のように判断した。起算点は手術時とし、提訴時点で既に20年以上経過していたとしたものの、「国は全国的かつ組織的な施策によって、不妊手術を強いられたことを原告が知り得ない状況をことさらに作り出した」と指弾し、「除斥期間」を適用しないことが妥当だとの結論を示し、国の主張を退けた。
すなわち、「除斥期間」適用を認めない理由を、「国が憲法違反の手術を原告が知り得ない状況を〈ことさらに作り出した〉こと」にフォーカスしつつ、責任を全一的に国に帰したのである。今後の国賠訴訟運動の発展にとって大きな意義を持つ判断である。

憲法の尊重擁護義務に背き、憲法違反の法を執行した国家犯罪を厳しく断罪

憲法は「最高法規」の第10章において、以下の規定を置いている―第99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員はこの憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」。
判決は次のように言う「原告に対する手術は、厚生相(当時)が自らの注意義務に違反して優生手術を推進する政策を実施した結果として行われた。国には国家賠償法上の違法性が認められる」。
従来の各地裁・高裁における「旧法=違憲」判断にとどまることなく、憲法を守るべき厚生相が「憲法尊重擁護義務」を怠り、違憲の法律を実行し、推進したと指弾した。国の責任を追及する新たな論理を打ち出した点で画期的である。

弁護団の態度表明

・声明「国は判決を真摯に受け止めて控訴せず、他地裁の裁判でも控訴・上告を取り下げ、被害者の一律救済を強く要請する」。
・大橋昭夫静岡弁護団長「生まれながらにして持つ自由に、国の関与が及んではならないのは自明の理だ」。「除斥期間の論理を退けたことで、今後、各地の裁判で勝訴の流れが一段と加速するだろう」。「司法は正義・公平の観点から、被害者を救済するという姿勢を完全に固めた」。
・新里宏二全国被害弁護団共同代表「(国賠命令について)被害の重さを感じ取り、賠償額に表したのだろう。声を上げられない被害者は多く、国に控訴させないことが必要だ。全体の解決に向けて、全国の弁護団も最大の努力をする」。

新たな提訴相次ぐ

▼聴覚障害のある兵庫県内の女性2人(いずれも60代)が3月3日、それぞれ1981年と90年に30代で子どもを帝王切開で出産した際、医師から何の説明もないまま不妊手術を強いられたとして、国に各3300万円の損害賠償を求めて、神戸地裁に提訴した(兵庫訴訟第3次提訴)。

▼旧法下で不妊手術を強制され、人間としての尊厳を傷つけられたとして、大分県の知的障害がある60代女性が3月3日、国に約3300万円の損害賠償を求めて大分地裁に提訴した。大分での提訴は今回が初。大分県の手術実施は九州で最多の663人、全国で4番目の多さ。

3月23日開かれる兵庫訴訟・大阪高裁控訴審の勝利判決かちとり、国賠訴訟運動の新たな全国的発展―「優生保護法問題の全面解決」、優生思想とたたかう新たな社会の創造に向かってともに前進しよう。

7面

沖縄2月 新たな運動体が出発
島々を戦場にするな!

2月4日 名護市辺野古のキャンプ・シュワブゲート前で、毎月の土曜日におこなわれている「県民大行動」に632人が参加。辺野古新基地建設の中止を求めた。糸数慶子共同代表は「これまで新基地建設に反対する圧倒的民意がこの場から発信されてきた。辺野古の問題は沖縄だけでなく全国民の問題だ。全国の力を合わせていきたい」とあいさつ。続いて県選出の国会議員や県議、現場でたたかう市民が発言。登壇者は、昨年12月に閣議決定された安保3文書を批判し、「戦争できる体制になる」と危機感を訴えた。「国会請願署名」実行委員長の稲嶺進さんは「署名の期限を5月19日に延長した」と報告。山城博治現地闘争本部長は「安和での刑事弾圧に触れ、今後、土地規制法による市民運動への制限・弾圧の可能性がある」と言及し、「南西諸島の島々での基地建設が進んでいる」と警鐘を鳴らした。玉城デニー知事は「沖縄が攻撃目標になることはあってはならない」とメッセージを寄せた。 5日 沖縄防衛局は、地対艦ミサイル部隊配備計画に伴う陸上自衛隊勝連分屯地の新隊舎建設工事で、複数の法令違反が指摘された件で、「関係法令を順守している」と見解を出した。〈ミサイル基地配備から命を守るうるま市民の会〉は1月24日「強風時のクレーン車の使用と赤土の現場以外の流出について法令違反がある」と防衛局に見解を求めた。市民の会は防衛局の見解に、現認した光景と食い違っていると怒りを示した。
8日 名護市辺野古の新基地建設で、防衛局の設計変更を県が「不承認」とした処分をめぐり、「不承認」の効力を回復させるための抗告訴訟の第1回口頭弁論が那覇地裁(藤井秀樹裁判長)で開かれた。県は「不承認」を取り消した国交相裁決は無効と主張。国は県に訴訟を起こす適格性がないとして、訴えを却下するよう求めた。次回の弁論は4月26日。
「不承認」に関する県と国の訴訟は3件目。県は抗告訴訟のほか、地方自治法に基づき裁決と是正指示の取り消しを求めて2件の訴訟を起こしている。2件とも福岡高裁那覇支部で結審し、3月16日に判決が言い渡される。
14日、防衛局は、石垣市の陸上自衛隊ミサイル部隊を3月16日に発足させ、4月2日に開設記念行事を催す計画。また、ミサイル発射機や弾薬を輸送する時、民間港や公道を使用し、抗議行動を想定し機動隊派遣を計画している。(弾薬搬入日は明らかにしない)
21日〜22日 土砂搬出の安和桟橋で「塩川デー」と名付けた集中抗議行動がおこなわれた。この行動で土砂搬出を通常の3分の2までにとどめた。
26日 那覇市県庁前で「島々を戦場にするな! 沖縄を平和発信の場に!」2・26緊急集会が開かれた。当初呼びかけの千人を上回る1600人が参加。具志堅隆松実行委員長があいさつで「第2の沖縄戦を止めるために声を上げないといけない」と訴えた。集会は70以上の団体が参加している。
その中から与那国島や石垣島、宮古島、辺野古でたたかう団体などが平和への思いを述べた。参加者は集会後、奥武山公園までデモ行進した。この間、新型コロナウイルス感染拡大の影響で大規模な集会はなかった。全参加者を代表して山城博治運営委員長は今後、県民大会の開催を目指すと語った。(杉山)

2・26緊急集会にあわせ
関西で連帯行動

それぞれの団体旗、幟、メッセージを掲げてのデモ行進(2月26日 大阪市内)

沖縄現地の「島々を戦場にするな!沖縄を平和発信の場に!」2・26緊急集会にあわせて、大阪では関西各地で沖縄連帯行動を取り組んできた団体・個人100人が集まって、連帯のデモ行進をおこなった。

3月21日西成区民センターへ 狭山再審の門をこじあけよう

「裁判所は証人尋問とインクの鑑定を!」と訴える市民の集いが大阪市西成区民センターで3月21日午後1時から開催されます。この呼びかけに応え第三次再審請求審勝利へ今一度大きな闘いのうねりを作り出そう。狭山事件による不当逮捕から60年目の今年、24歳で逮捕された石川青年は84歳を迎えました。
第三次再審請求審は、いよいよ最終段階の攻防に入っています。1月31日に持たれた第53回三者協議において検察は弁護団が求めていたスコップとタオルの証拠開示について「不見当」と木で鼻をくくった回答を繰り返し、2月には弁護団が無実の証拠として挙げた11人の鑑定人尋問とインク資料の鑑定のうち9人の尋問とインク鑑定について「必要なし」という意見書を裁判所に提出。3月に残りについての意見書も提出するとしています。
一方、東京高裁第4刑事部の大野裁判長は今年12月に退官予定と言われる中で「証拠開示命令を」職権でおこなうこともなく、ずるずると検察の不誠実極まりない態度に引きずられています。1974年10月31日の東京高裁判決を最後に、48年ものあいだ一度も事実調べがおこなわれないまま書面審理のみで棄却決定を繰り返すという理不尽がくり返されてきました。「証拠を調べてもらえれば無実は明らかになる」という石川一雄さんの真実の声を一人でも多くの人々に伝えよう。昨年9月から始まった「事実調べを求める署名」は10月末で10万筆、年末までに20万筆、そしてこの2月末には40万筆を超えてよせられています。
2月27日、大阪高裁は4年7カ月前に大津地裁が決定した「日野町事件」の再審開始に対する検察の即時抗告を棄却してふたたび再審への道を開きました。再審が開始され無罪が確定したところででっち上げによって死に追いやられた阪原さんの命が帰ってくることはありません。せめてもの償いに検察は過ちを認めて許しを請うのが人の道というものです。にもかかわらず大阪高検は3月6日、最高裁に特別抗告をおこなったと伝えられています。
なんとしても開きかけた再審の扉を塞いでしまいたい。3月13日に判断が下される「袴田事件」や「狭山事件」の再審の道を閉ざしたいという検察のあくらつな意図がむき出しになっています。
えん罪を生み出す「人質司法・長期勾留」「自白の強要」「ラクダが針の穴を通るほど難しい再審制度」の改善など、国連の度重なる勧告も無視する岸田(安倍)政権にみられる人権後進国日本の汚名を返上しよう。布川事件の桜井昌司さんをはじめ冤罪被害者(獄友)は団結して人権活動家として闘い抜いています。
差別裁判を許さないという狭山の闘いも石川夫妻を先頭に東京・徳島など全国各地に広がり、関西・熊本での狭山キャラバンなどが意欲的に取り組まれています。検察の居直りを許さず、裁判官に真実の声をとどけるため一人一人が創意工夫を発揮しよう。共に闘いましょう。(秋山勝三)

8面

三里塚
市東孝雄さんへのインタビュー
全部持っていかれ、更地に

鉄板フェンス前でこぶしをあげる市東孝雄さん(2月21日)

2月21日、ふたりで三里塚へ行った。市東さんの家の前の畑と作業場などがある一角は、3メートルの高さの鉄板フェンスで囲い込まれていた。
市東さんから、樹木剪定用の大型脚立をお借りして、県道側に立てて登って中を見る。畑の北側の、空港フェンスを一部外して、そこから重機や機材トラックを入れて、「成田空港反対」の大看板、はなれ、作業場、ハウスなどを解体、略奪していったのが分かる。そのあたりは更地になっている。
その一方で、東側を見ると、旅客機の排気ガスから畑と家を守る竹林は残っている。空港を監視する見張り台や、星野文昭さんの樹と墓も残っている。畑には、ほうれんそうや山東菜が育っている。樹齢百年余の巨大な樫の木が中央にそびえる。木がつけていた「私を切るな」というゼッケンはない。昼食を終えた市東さんが来られて、お話を伺う。

・・・・・・

中は更地にされちゃいました。物も全部持っていかれて、何もない。何を持っていったか、目録をつくるらしい。3月中は何もできない。なので簡単なものだけ買ってきた。小さな鉄骨、値段が高くなっちゃってさ、ちょっと買っただけで18万円。すでに持っていた物なのに。置いてある所見てきたら、すごい荷物の量。その中(西側フェンスの方を指さして)、中を見るところがなくなって、ヤグラもなにもなくなっちゃってね。
いきなり来たからさ。15日の夜8時、暗くなってから。それも12時までにやると言ってたらしいけど、こちらには何も情報はない。こちらもある程度集まって、かまえて、「今日はもうこないだろうから」。寒いから、食事して何だかんだして、一区切りついてみんな帰った。5時半から6時頃。そしたら、NHKから「今日、執行する」っていうような発表あって、それから、じゃあまたかまえて、もう防禦のことばかりで、ものを外に出すことなんか頭になくて、そういう状況じゃなかった。そしたら8時に、いきなり機動隊が突っ込んで来て、本来はガードマンが来て、あとから来るのだが。今日は、いきなり来て、ジャバラを持ってきて、団結街道の真ん中にジャバラを置いて、ひとりずつ、家の方、移動されて、ジャバラを境にひと悶着あった。
囲いを建てるのは速かった。攻防は3時間くらいあった。その日は、機動隊は、「逮捕」と言わず、「排除」と言っていた。こっち側の人間も好き勝手に大暴れしていた。
けが人はないわりに、闘いとしては、やりきった。 公妨で3人つかまった。それはヤグラに上っていて、下から来る機動隊を棒で突いた。ま、その程度なんですけど。
全て、持ってかれちゃったからね、何もすること、できることなかった。こっちで制圧されちゃってるから。中に入って、執行官と話が出来たら、鍵とか、取れたかもわかんないけれど。
何しろ執行官が会いに来ない。俺言ったんですよ、機動隊の隊長に、「債務者だ。執行官に会わせろ」と言ったんだ。「じゃあ、いま連れてきますよ」と言ったきり、来なかった。よそで記者会見して、そのまま帰っちゃった。ひどい。会うと、またもめると思ったのでしょう。
やり方としては、いろいろあるみたいね。最初に目録つくって、「いついつに執行するから、それまでに必要なものは出しておけ」とか。俺の時は、有無を言わさず来たからね。構えて来たんじゃないですか。千人体制とか言ってた。ある意味、電撃的。国家暴力を使った。空港を持ってるのは国だからね。国交省が管轄してるから。普通の民間の会社だったら、とっくにつぶれてるでしょう。
昨日、(関西実行委員会の)Mさんが来てくれたけど、びっくりしていた。農機具、大きいのは(トラクターなど)、置き場に行っていた。鍵とか、全然わかんない。あと、コンテナ3つとか、ダンボールとか、コンパネ類も積み上げてある。ハウスの骨もシートもビニールも、取られた。
機動隊がこっちから来たときは、畑、大丈夫だと思ったんだけど、向こう(東)から来た隊がいたらしい。それが、出せそうな出荷前の、ほうれんそうや山東菜、全部踏まれちゃった。「収穫できない」と現闘から言われた。
3カ月くらいしないと、出せるものはない。しょうがない、これは。でも反撃しないと。
まあ、人生に一度あるかないかの経験。ここに帰ってきたのが、1999年だから、24年ですか。99年12月16日にこっちに帰ってきたんですね。

          

話をうかがっている間にも、市東さん宅の南、県道側に若い現闘員たちが、指示を受けてテキパキ働く。聞くと、資材やトラクターを入れる小屋を建てるという。足場パイプの骨格に、厚い合板で屋根をふく者。軽トラックで農業用品を買いに行く者。インパクトドライバーを持ってくるもの。狭い団結街道を人が行き交う。顔を目を輝かせて、若者が、古参の戦士が、市東孝雄さんとともに、勝利に向かって、砦を構築しつつある。
「来月また来ます」と告げて、私たちは、出発した。(つづく)
文責:本紙編集委員会

(シネマ案内)
『「生きる」大川小学校津波裁判を闘った人たち』
監督:寺田昭弘 2022年

3・11東日本大震災から、今年で12年目の春を迎える。2011年3月11日、宮城県石巻市の大川小学校(児童108人)が津波におそわれ、多大な犠牲者をだした。北上川を遡行してきた津波と太平洋からの津波の両方が同時に押し寄せてきた。大川小学校では、全児童の70%にあたる74人の児童(うち4人はいまだに行方不明)が亡くなった。この津波で子どもを亡くした親にとって、わが子はその日のままに生きており、この12年という歳月は止まっている。
この日、校長は休暇で学校にいなかった。出勤していた11人の教職員のうち、10人が死亡。教務主任1人だけが、裏山に逃げこんで助かった。学校の内情を知る人はこの2人しか生存していない。
学校で何があったのか。子を亡くした親たちは、その事実と理由を知りたかった。しかし、どうしてこのような裁判を起こすことになったのか。映画のサブタイトルにあるように、この映画は裁判の説明よりも、親たちの思いをしっかりと伝えるところに力点をおいている。責任から逃げようとする行政にたいして、このような事故を再び繰り返さないために立ち上がり闘った。このドキュメンタリー映画は、このことを記録に残している。
地震(14時46分)がおきてから、児童はただちに運動場に避難した。この運動場の南側は通称「裏山」があり、1分たらずで山に避難することができた。地震が発生してから津波がおし寄せるまでに約50分の時間的余裕があった。にもかかわらず、運動場で待機していた。「津波が近づいているから、ただちに避難するように」という市広報車の警報(15時30分頃)を聞いている。その直後、おそらく教頭らの判断で、児童たちは北上川の堤防横にある「三角公園」に移動した。この避難途中に、津波が押し寄せてきた(15時37分)。大川小学校は災害時の避難場所になっており、教職員側に「ここまで津波はこないだろう」という意識があったようだ。大川小学校では津波避難マニュアルを作っていたが、具体的に避難場所を特定していなかった。津波に対する避難訓練は、一度もおこなわれていなかった。明らかに判断ミスがあった。
しかし、市教育委員会と校長の対応は責任逃れに終始した。行政は「想定外の自然災害であり、仕方がなかった」という対応であった。第三者委員会も設置されたが、その報告書は親たちにとって納得できるものではなかった。最後に残された手段は、裁判しかなかった。
亡くなった児童23人の19家族が損害賠償裁判を起こした。引き受けた弁護士は2人だけ。裁判はわが子に値段をつけて争わねばならなかった。そのジレンマもあった。インターネットでは、「裁判は補償額を引き上げるためだ」という心ない誹謗中傷もおこなわれた。証拠集めは原告がおこなった。この親たちの熱意が裁判所を動かした。困難といわれた裁判は、地裁と高裁で勝利した。最高裁は石巻市側の控訴を棄却し、判決は確定した。高裁判決では、現場教員の判断ミスではなく、「備えに過失がなければ、児童は津波の犠牲にならずに済んだ」と、行政側の責任に踏み込んだ。
この闘いによって、おおきな犠牲のうえではあるが、大川小学校の教訓は生かされることになった。原発事故では、東京電力と国は「想定外の自然災害による事故」として責任を放棄しており、事故の教訓は生かされないままになっている。なお、『止まった刻 検証・大川小事故』(河北新報社報道部)が岩波書店から出版されている。(津田保夫)

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