未来・第347号


            未来第347号目次(2022年8月4日発行)

 1面  服喪強制で翼賛政治狙う
     9・27安倍の国葬反対

     老朽原発 美浜3号うごかすな
     7・24福井美浜現地で闘争

 2面  東京電力株主代表訴訟
     旧経営陣に13兆円の賠償命令

 3面  大飯4号機再稼働弾劾
     7月15日 原発ゲート前で抗議      

     岸田が原発9基稼働発言
     7月15日 官邸前金曜行動     

     沖縄
     基地問題と戦争反対訴え
     伊波洋一氏が再選勝利

     宮古島フィールドワークB
     琉球弧全体が軍事化
     再び沖縄を戦場にするな

 4面  参院選総括―野党再生の道
     大衆運動基盤の民主主義の横溢を
     岸本耕志

 5面  ウクライナ戦争テーゼ
     ウクライナ侵略戦争と共産主義者の立場
     『未来』編集委員会

 6面  セックスワーク論批判B
     AV新法反対!
     根本的な被害防止を!
     石川由子

     投稿
     セックスワーク論考
     佐藤隆

 7面  直接請求署名を府に提出
     カジノ住民投票条例の制定求め21万筆
     7月21日

     生活保護基準引き下げ違憲訴訟 大阪高裁
     「専門家の意見を聞かないのは違法」
     7月13日

 8面  山上に行動を決意させた安倍晋三元首相と統一教会の癒着

     (シネマ案内)
     『ドンバス』
     監督:セルゲイ・ロズニツァ 2018年

     カンパのお願い

           

服喪強制で翼賛政治狙う
9・27安倍の国葬反対

福島社民党党首も参加し、首相官邸前で閣議決定反対の行動(7月22日)

閣議決定強行

岸田政権は、7月8日に銃撃死した安倍晋三元首相の国葬を9月27日におこなうことを、7月22日に閣議決定した。安倍元首相の銃撃死を利用し、法的根拠もなしに閣議決定一本で、1億円を超す予算の執行と、服喪を全国民に強要する国葬を認めるわけにはいかない。国葬は戦前、天皇の勅令として国威発揚のため使われ(最後の国葬は山本五十六連合艦隊司令長官)、新憲法のもと失効した。1967年の吉田茂の国葬も、その根拠があいまいで国論を二分し政治的には失敗となった。今回の銃撃死という突然の事態から日を置かずの国葬は、モリ・カケ・桜とまだ記憶に新しい安倍政治の犯罪性を、国家行事で国民に弔意を強制し帳消しにするものである。さらに第二次安倍政権は2015年の安保関連法の制定と改憲攻撃の連続であり、アベノミクスでの格差拡大と非正規雇用拡大をもたらした。この怨嗟の的の「アベ政治」を、国葬によって批判を封じ込め、以降の政治を翼賛政治に導くことは、絶対に認めるわけにはいかない。

各地で反対行動

22日午前の閣議決定に際して、首相官邸前では400人の抗議集会が開かれ、福島瑞穂社民党党首などが参加し、「憲法違反の国葬反対」「閣議決定徹底弾劾」などの抗議の声をあげた。また自民党大阪府連前でも20数人が抗議行動をした。閣議決定には各地で抗議が起こり、23日の神戸の市民団体の会合でも国葬に抗議する行動を8月・9月おこなうことを決めた。
国葬の閣議決定に先立ち、参議院選挙直後ながら、社会民主党、日本共産党、れいわ新選組は、国葬反対の意思表示をし、立憲民主党の泉健太代表も国葬反対を表明した。さらに立憲・共産と、維新・国民民主の4党国会対策委員長会議でも、国会で追及をおこなうことが合意された。
このような流れを受け、マスコミ各紙・各社の世論調査でも、賛成・反対が拮抗となっている。稀代の悪政をおこなった安倍元首相の銃撃死を利用して、国民に服喪を強制する国葬を許してはならない。9・27に至る過程で、安倍の国葬反対行動を全国各地で起こしていこう。

自民党大阪府連前で抗議(7月22日)

統一教会問題ナシに

「国葬強行」閣議決定の今ひとつの狙いは、銃撃死以降に判明してきた自民党と統一教会の癒着問題の幕引きを狙うものである。山上徹也容疑者の母親が統一教会員であり、多額の献金で山上の家庭・生育を破壊・ネグレクトしてきた。そのため高校は有数の進学校でありながら大学進学できず、職歴は就職氷河期に典型な非正規雇用の繰り返しで、最後は食生活にすら事欠き、山上の人生は統一教会と安倍により蹂躙されたと言って過言ではない。
そもそも統一教会は宗教の形式をとった反共カルト集団で、安倍の祖父・岸信介の仲介で日本に上陸した。それと一体の国際勝共連合は1968年に岸元首相と反共右翼の大物=児玉誉士夫・笹川良一と、文鮮明が設立したことが判明している。この統一教会=国際勝共連合が、霊感商法などで多額の資金を集め、この金をバックに自民党右派人脈と結合し、反共政治の推進と霊感商法の犯罪性を隠蔽する政治的力として利用した、持ちつ持たれつの共犯者に他ならない。安倍晋三こそは岸信介の孫にして、統一教会と最も癒着し、その集票力を配下の候補者に配分し派閥を形成してきたボスである。霊感商法を告発する弁護団は、安倍の統一教会への肩入れをやめるよう何度も申し入れをおこなったが、昨年9月には全面賛美のビデオメッセージを送った。これが山上が銃撃を決意する最終判断になった。安倍を先頭とする政治的癒着は、ジェンダー平等(選択的夫婦別姓、LGBT等)への阻害や、こども庁の名称に「家庭」を入れるなど、家族イデオロギーを執拗に強化する現在の反動的潮流の大元となっている。

岸田の終わりを

国論二分状況をも無視して国葬強行を岸田首相は決定した。それはハト派を装い、「新しい資本主義」などを掲げながらも具体策のない岸田にとって、長期政権へのある種最大の強敵=安倍元首相の死に対し、安倍を取り巻く右派人脈を取り込む最大の装置が国葬だからである。安倍政治は2006年の教育基本法改悪以降、生活保護基準の大幅引き下げ(13年)、特定秘密保護法(13年)、集団的自衛権を認めた戦争法(15年)、共謀罪法(17年)などの強行と、モリ・カケ・桜などの極悪政治であった。これを、国葬を通じ過去のものとして清算し、岸田自らはクリーンを装い、安倍以上に憲法改悪・軍事大国化の道を歩む出発点とするために他ならない。
安倍の国葬を通じ、大政翼賛の道を歩もうとする岸田政権を許してはならない。安倍を追悼したいなら、自民党と統一教会でやればよい。個人の内面の意思に踏み込み国民統合を進めることは許されない。国葬強行を国論二分の大衆行動で粉砕し、岸田政権の改憲・軍事大国化・生活破壊政治の終わりの始まりにしよう。

老朽原発 美浜3号うごかすな
7・24福井美浜現地で闘争

美浜町弁天崎に300人が集まり全国集会(7月24日 福井県美浜町)

原油・天然ガス価格が高騰しているなかで、岸田政権の意向も受けて、関西電力は定期検査を終えた原発をつぎつぎに再稼働させている。関西電力は7月15日に大飯4号機、24日に高浜3号機を再稼働させた。また、関西電力は45年超えの老朽原発・美浜3号機を8月上旬にも再稼働(原子炉起動)させようとしている。
7月24日、美浜3号機の再稼働を許さない、「老朽原発・美浜3号うごかすな! 現地全国集会」が福井県美浜町でおこなわれた。現地集会は、美浜原発を北側に望む菅浜「弁天崎」の空き地でおこなわれた。
集会終了後、美浜町役場付近に移動。「はあとぴあ」前から関西電力原子力事業本部までデモ行進し、関西電力にたいして「申し入れ」行動をおこなった。その後、再度町内デモをおこなった。この行動に全国から約300人が参加した。

弁天崎で全国集会

正午から開かれた弁天崎での集会では、地元の山本雅彦さん(オール福井/元原発技術者/美浜原発から9・5qに住む敦賀市民)が司会をおこなった。
冒頭、中嶌哲演さん(老朽原発うごかすな! 実行委員会/小浜・明通寺住職)が主催者あいさつ。中嶌さんは「美浜3号機を動かせば、関西電力は1年間で1000億円かせぐが、広島原爆800発分の死の灰、長崎型原爆20発分のプルトニウムをうみだす。だから、すべての原発を動かしてはならない。次の世代に負の遺産をおしつけてはいけない」「関西のみなさんも電気を使っているという点で当事者なのだ。原発を動かす立地地域と原発の電気を使う都市という関係はもうやめにしよう」と訴えた。
美浜町議会議員の松下照幸さんは、約50年におよぶ自らの原発反対運動を振り返り、「われわれの運動は何をなしえて、何がなしえなかったのか」と問いかけ、つぎのように述べた。
「関電は事故を繰り返してきたが、責任を問いなおすこともなく、事故の反省はしていない。事故はかならず繰り返される。関電の安全にたいする姿勢が問われている。われわれの運動で、原子力の拡大を阻止することができた。しかし美浜町議会は、今でも小型モジュール炉や高温ガス炉の開発を要請している。原発立地地域にも金をまわしてほしいということで、何と悲しい事か。われわれの未来は再生可能エネルギー技術を活用することにある。都市に住む皆さんは原発の電気を買わない運動をおこなってもらいたい。」
福島原発事故により、青田恵子さん(さいなら原発・びわこネットワーク)は福島県から滋賀県に避難してきた。青田さんは「福島原発事故の避難民は過酷な条件に置かれている。私も原発事故で、家と土地から追い出された。私たちは何のために犠牲になったのか。原発の再稼働は止めてもらいたい。このことを心からお願いしたい」と語った。
近藤亨子さん(伊方から原発をなくす会)がこの集会にかけつけており、「わたしたちはすべての原発を止めるために闘っている。この願いを実現するためにここに来た」とアピール。
そのほか、日本原水禁、原子力発電に反対する福井県民会議、老朽原発40年廃炉訴訟市民の会、京都脱原発原告団、オール福井反原発連絡会、再稼働阻止全国ネットワークなどの代表から発言があった。

中嶌哲演さんを先頭に町内デモ(7月24日)

8月上旬の再稼働を許すな

最後に、主催者を代表して木原壯林さんが行動提起をおこなった。木原さんは「岸田政権はこの冬に原発9基を再稼働させるといっている。しかし、電力の逼迫は節電でのりこえられる。8月に動かすといっている美浜3号機は、まだ動いていない。あきらめることなく、闘いぬこう」と訴えた。

関電原子力事業本部に抗議

集会後、美浜町役場付近まで全体が車で移動。午後2時再度全体が集合し、関電原子力事業本部に向けたデモ行進がはじまった。原子力事業本部前に到着後、抗議集会を開催。
関電に対して申し入れ行動をおこなった。
「申し入れ」の内容は次のとおり。
「(1)危険極まりない老朽原発・美浜3号機の再稼働準備を即時中止し、廃炉を決定してください、(2)原発を動かせば、行き場がなく、子々孫々にまで負の遺産となる使用済み核燃料が増加します。貴社の有する全ての原発を停止し、安全な廃炉を進めてください。」

関西電力原子力事業本部(左)へ抗議(7月24日 福井県美浜町)

再度、町内をデモ行進

その後、集会参加者は「美浜3号機、このまま廃炉」「危険な老朽原発うごかすな」とコールしながら、再度美浜町内をデモ行進した。強い日ざしのなかであったが、住民は家から出てきて、デモを見送り、手をふっていた。原発立地地域と都市住民がともに手をたずさえて、原発の再稼働を止めよう。韓国でも老朽原発を動かそうとしている。世界中の原発を止めるためにも、美浜3号機の再稼働を断じて許してはならない。

2面

東京電力株主代表訴訟
旧経営陣に13兆円の賠償命令

東京地裁前で行動(7月13日)

7月13日、東京地裁(朝倉佳秀裁判長)は、「東京電力株主代表訴訟」判決で、東京電力福島第一原発事故前の東電幹部は、巨大津波を予見できたのに対策を先送りして事故を招いたと認定し、「安全意識や責任感が根本的に欠如していた」と述べ、東電旧経営陣に、原発事故によって東電に与えた損害13兆円の賠償を命じた。

被告らの不作為

判決は、原発事故が起きれば「国土の広範な地域、国民全体に甚大な被害を及ぼし、我が国の崩壊にもつながりかねない」と。原子力事業者には「最新の知見に基づき、万が一にも事故を防止すべき社会的・公益的義務がある」と明示。
2002年に国が公表した地震予測「長期評価」には「相応の科学的な信頼性があった」と認定。これを基に東電子会社が08年に計算した最大15・7メートルの津波予測の信頼性も認めた。
その上で当時、東電の原発部門「原子力・立地本部」副本部長だった武藤(副社長)が08年7月、計算結果の妥当性の検討を土木学会に委ねて対策を講じなかったことを「不作為」とみなし、「津波対策の先送りであり、著しく不合理で許されない」と指摘。武黒本部長(副社長)は、翌8月に武藤副本部長の不作為を「是認した」と判断。
トップの勝俣元会長、清水元社長については、09年2月の「御前会議」での議論で「14メートル程度の津波の可能性」を聞いており、「対策を講じない原子力・立地本部の判断に不合理な点がないか確認すべき義務があったのに、怠った」と指摘。
さらに、主要な建屋や機器の浸水対策(水密化)をすれば事故は回避でき、その工事は2年程で完了できたのに怠った。事故発生との因果関係があると認定した。

判決の意義

判決の意義としては、原子力業界を主導してきた東京電力の元経営トップらに、事故の責任を明確につき付けたこと。
これまで、原発事故避難者らによる裁判では、賠償額は上積みされたが、旧経営陣が業務上過失死傷罪に問われた強制起訴(刑事事件)も一審は無罪。それが今回、東電の経営責任をはっきりと認めた。
第二に、経費を削り、安全に目をつぶるあり方に断を下したこと。東電では1998年当時、株主の利益を増やすために「(証券街の)兜町をみて経営する」と社内に号令し、経費を削り続けた。そして2002年、国が巨大津波を起こし得る地震を予測したが、旧経営陣は目をつぶった。当時、社内では津波対策は「数百億円」と試算された。数百億円をケチッて、人命が奪われたばかりか、何十兆円もの損失を招いたのだ。
第三に、福島第一原発事故被災者が国と東電に損害賠償を求めた福島・群馬・千葉・愛媛の4訴訟の上告審判決(国の責任を巡る初の統一判断)との関係を検討しなければならない。6月、最高裁第二小法廷の判決は「国の賠償責任を認めない」というものだった。
この6月原発賠償・統一判断では、「地震は2002年に地震本部が公表した地震予測としての『長期評価』に基づく揺れより、現実に2011年に発生した東日本太平洋地震のほうがはるかに大きく、国がたとえ規制権限を行使して東電に安全対策を講じさせていても事故を防ぐことはできなかった可能性が高い」として、国の責任を認めなかった。
だが、それならば、そのような地震多発地帯に原発設置を進めた国の原発政策が誤っているのではないか。また、最高裁判決は「水密化」対策などを検討の埒外としているが、今回の東京地裁判決は「水密化」で事故は防げたと追及し(福島第一原発の一部で既に水密化を講じていたことや、他の複数の原発で実施されている)、もう一歩突っ込んでいる。

仮執行付き

今回の判決は仮執行が認められているので、株主代表訴訟の弁護団が東電に対して被告4人に対する13兆3210億円の財産差し押さえ要請をした(7月22日)のは当然だ。

3面

大飯4号機再稼働弾劾
7月15日 原発ゲート前で抗議

「7月15日に大飯原発4号機が再稼働される」という報を聞いて、急遽、地元福井県全域、滋賀、京都、大阪、兵庫から約30人が福井県おおい町にかけつけ町内デモ(写真上)とゲート前での抗議行動をおこなった。
3月11日から定期検査入りしていた同機は、7月上旬に稼働予定であったが、6月27日、ポンプの過熱を防ぐために設置された配管(電動主給水ポンプミニマムフロー配管)からの水漏れが発覚し、関西電力は、取り替えのため再稼働を7月下旬に先送りすると発表していた。
しかし、この再際稼働予定を、7月1日にまた変更し、「7月15日再稼働」に前倒しした。
おおい町の「はまかぜ交流センター(しーまいる)」駐車場に集まり、午後1時から大飯原発に向かってデモ出発。原発ゲート前で再稼働をやめよと、強く抗議の声を上げた。

岸田が原発9基稼働発言
7月15日 官邸前金曜行動

7月15日、第14回となる〈原発いらない金曜行動〉が官邸前で取り組まれ、次第に激しくなっていく雨の中、100人以上が参加した(写真下)
参加者は、岸田首相の「今冬、原発9基稼働」発言や、火力発電抑制による電力逼迫の演出を弾劾した。
また、7月13日の東電株主代表訴訟判決に参加した人から「冒頭裁判長が、『静かに聞いて欲しい、感情が高ぶっても心の中に抑えて欲しい』と言ったので、バンザイとか言って騒ぐなということだなと思いながらも勝ったことを実感した。裁判長は『重要な内容なので主文は2回読む』と言って読み始めた」、という報告があった。
途中から土砂降りになったが、7月の首相官邸前での金曜行動を意気軒昂とやり抜いた。

沖縄
基地問題と戦争反対訴え
伊波洋一氏が再選勝利

大型ダンプを投入して進む基地建設工事(7月20日 名護市)

7月10日 第26回参院選が投開票された。沖縄選挙区(改選数1に5人が立候補)では〈オール沖縄〉が支援する伊波洋一氏が再選を果たした。
今回の沖縄選挙区では、伊波氏と自公推薦候補の一騎打ちとなり、開票終了間際まで接戦となった。日付が変わろうとする午前0時前に、伊波氏の当選確実が発表されると、割れんばかりの拍手と安堵の声が上がった。2888票差での勝利に、多くの県民もテレビの前などにくぎ付けとなり、一喜一憂した。
今回の参院選は全国的に自民党が圧勝するとの予想から、沖縄でも苦戦が伝えられた。自民党は、接戦が予想されるところに、首相はじめ幹部を大動員した。特に沖縄では9月の知事選を左右するたたかいとして、大物幹部や閣僚が連日投入された。今回政権与党は、初めて辺野古新基地建設を容認して選挙戦に臨んだ。伊波陣営は新基地建設反対を明確に掲げ、南西諸島(琉球弧)への自衛隊ミサイル配備に反対、二度と沖縄を戦場にしてはならないと訴えた。
伊波氏は初戦、本島北部や宮古島はじめ先島諸島もくまなく回り支持を訴えた。終盤になると大票田である那覇市にはいり、無党派層の拡大に集中した。今回争点が明確だったので、選挙戦終盤は特に基地問題と戦争反対を訴え、反基地層の受け皿になり勝利した。そして、玉城知事再選に大きな弾みとなった。
11日 名護市辺野古キャンプ・シュワブゲート前に座り込んだ市民は、伊波洋一氏の再選に「ほっとしている。反対の民意が改めて示されてよかった」と胸をなでおろし、これからも伊波氏とともに新基地建設反対の声を上げると誓った。
12日 名護市辺野古の新基地建設を巡り、総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」は県の審査申し出を却下すると決めた。県は4月8日、国交相の「不承認」を取り消す裁決に違法として係争委に申し出ていた。係争委は、審査対象となる「国の関与」に該当しないと判断した。係争委は裁決が違法か判断しておらず「門前払い」した。
係争委の判断を不服とする県は、期限となる8月中旬までに訴訟への提起の検討に入る。今回、係争委が県の審査申し出を却下したことで、県と国との攻防は法廷闘争に移行する公算が大きくなった。
20日 沖縄でも新型コロナウイルスは拡大している。それでも市民は、少人数であるが各場所で辺野古新基地建設反対のたたかいに決起している。埋め立ての現状はコンクリートブロック内の半分(6mくらいまで)が埋められたようだ。(杉山)

宮古島フィールドワークB
琉球弧全体が軍事化
再び沖縄を戦場にするな

島の中央部に陸自基地(保良地区、宮古島駐屯地弾薬庫)

6月15日から17日、沖縄県宮古島に行ってきました、沖縄には何度か行きましたが宮古島には初めてでした。まず驚いたのは沖縄島と宮古島の距離の長さです、ジェット機で1時間もかかる、帰って地図で調べたら290q程ありました。こんなに離れてるとは知りませんでした。これほど広い海は公海だから中国の船舶が通行するのは当たり前だろう。いちいち大騒ぎする日本政府はおかしい。どこの国の船も自由に往来する権利があると思う。
さて15日は旅行会社のミスで那覇空港経由で行くことになり、宮古島空港に着いたら午後6時半。その後、スケジュールなどを確認し、この日は何もできずにホテルに到着した。
翌16日は、陸自宮古島駐屯地の千代田ゲート前で抗議行動をした。〈ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会〉の清水早子さんと仲里成繁さんが申し入れを読み上げた。その間、私たちは横断幕や幟旗を掲げて支援した。申し入れ行動の始まりから猛烈な雨が降って来て、皆びしょ濡れになりながらこの行動を貫徹した。
一旦ホテルに戻って休憩しながら服を乾かし、再び駐屯地に向かった。今度はゆっくりと、野原レーダー基地、保良弾薬庫、射撃訓練場などを回りながら、清水さんが詳しい説明をしてくれた。
その後、日本軍「慰安婦」祈念碑を訪れた。こんな小さい島にも慰安所があったとは驚いた。昼食後、島の南東部を車で移動して宮古島の自然を堪能した。この日の最後はハンセン病資料館南静園を見学。当事者の方から隔離収容の過酷さをじっくり聞かせてもらった。
17日はやっと空が晴れてくれた。まず伊良部大橋を渡って長山港の海上保安庁巡視船基地を見学。ここから「尖閣」諸島(釣魚台)などに出港しているとのことでした。
その後、渡口の浜へ。陸自水陸機動団の上陸演習予定の海岸だという。次に下地島空港に向かった。下地島空港は民間空港だが3千メートルの滑走路があり、自衛隊の使用が懸念されている。有事の時は軍事空港として使うことは明白である。この小さな島には大き過ぎる空港、税金の無駄遣いもいいとこだ。そして伊良部島を一周しながら宮古島空港に昼頃到着した。
3日間の見学で思ったことは、宮古島だけではなく奄美大島、馬毛島、沖縄島、石垣島と繋がる琉球弧が今着々と軍事化されている現実である。ある程度予想はしていたが、これほど多くの軍事施設が作られているとは現地を見るまで分からなかった。本土(ヤマト)に住む私たちの無関心がここまで軍事拡大をさせてしまったのだ。再び沖縄を戦場にしないために、私たちに何ができるか真剣に考えていかなければならないと思った。(大北健三)

4面

参院選総括―野党再生の道
大衆運動基盤の民主主義の横溢を
岸本耕志

はじめに

本紙346号1面論文で参議院選挙の概括をおこなった。全体構図は、野党が対決構図を作れず負けるべくして負けたということである。自民党は比例票を減らしながらも、あらかじめ野党共闘を分断し、野党に政権交代=次の社会を垣間見せることもさせなかった。野党共闘の不成立は、1人区の接戦も含め4勝28敗、複数区でも大阪・兵庫で府県越えバーター共闘を成立させるなら5対2になるのを、7対0と惨敗した。小学生の算数以下の立憲・共産の中央=大阪・兵庫の指導部は目に見える責任を取らないと、今後何をしても信用されないだろう。
その中で奮闘した沖縄、微増のれいわ、政党要件を確保した社民党が、わずかに今後の反撃の道を残したが、それに満足するような状況でないことは自明だ。同時に岸田の改憲・軍事大国化・生活破壊の攻撃は、こうした野党の「ていたらく」を衝きまくり、引き続き安倍の国葬=大政翼賛会攻撃や、差別・排外主義、国益主義・愛国主義の鼓吹として襲いかかってくる。野党は真にシビアな総括をしないと、もう一回負ければ総崩れとなる。この点で、参議院選に幾ばくか関与したものとして、率直な意見を論議の素材にしていただけたらと考える。

七夕かざりで創意こらした市民の自主的決起が(7月7日 兵庫県尼崎市内)

現状維持でしかない自公政権

最初に自民の勝利としたが、必ずしも勝ったわけではない。接戦の所で安倍の銃撃死への「弔い」で勝利し、議席的には6増で勝利したが、比例では1議席減らしている。政権に対する批判的保守が、維新、参政、N党として増えている。また同盟軍の公明は、戦略的後退がはっきりし、自公政権があと10年続く保証はない。
維新はマスコミ的には圧勝だが、松井一郎代表は直ちに「敗北」を宣言。それは「選挙に強い維新」が、京都・愛知・東京という重点区で敗北したからだ。接戦勝利の神話が崩壊し、菅失脚・安倍銃殺で自民党(安倍・菅)との独自のパイプが詰まり、松井自身は引退を表明し政治的気力を失っている。さらに大阪都構想敗北以降の路線がなく、次期代表選に「人気の吉村」は出ず、馬場共同代表は金銭問題の上に統一教会問題も浮上し、橋下徹は多額のギャラの評論家生活に邁進し、松井・吉村・馬場・橋下の4人のだれも維新をリードできない。頼みの首長選も、3月西宮市長選の敗北に続き、11月尼崎市長選ではこれまでの内紛の上に、有力市長候補だった人物がが除名の上に逮捕の危機にあり、維新の信用失墜は甚だしく、参院選で自民を上回った兵庫でもいまだ維新市長はゼロだ。首都圏では立憲を追い上げ伸長というが、それは維新の実態を知らない政党・個人が多いゆえで、維新撃退には『展望』28号の剛田力論文などを活用してほしい。

解体的出直しの立憲

立憲民主党については、野党共闘をまとめる努力もせず、運動的にも他野党以下で、大敗北した兵庫以外に実体感覚を持ちあわせていないが、そもそも対決構図すら作れない野党第一党に期待など集まるわけがない。蓮舫や長妻昭・菅直人・枝野幸男などのいる東京・首都圏でも維新に急迫されたことは、「野党第一党」的魅力の急速な薄れで、かつて羽仁五郎氏が訴えた「ともかく野党第一党へ」を実践した旧社会党、旧民主党を支えた無党派が、今や消滅しつつある。
立憲民主党の党内政局には興味がないが、連合の芳野友子会長の言動は見過ごせない。連合民間大単産執行部の意見に押され、反原発の旗を次々と引き下ろし、野党共闘を破壊していることは許されない。かつての角栄王国=新潟では、反原発のうねりと粘り強い野党共闘の積み重ねで、自公対野党共闘が沖縄と並ぶまで成長していたが、知事選の大惨敗から今回の森裕子落選に至る過程で、東京電力の手先となった連合=電力総連は、自民党と統一教会・勝共連合に比すべき癒着で、いずれ何らかの形の制裁が下るであろう。
影響力が極小化しつつある労組に依拠するのではなく、沈みゆく現代日本で、格差・貧困の解消、原発依存でない持続可能な社会を提起などが立憲民主党の再生の道ではなかろうか。

党内民主主義のない共産党

日本共産党は創立100年の今年、ひとつのデッドロックにぶち当たった。党員の高齢化と、相変わらずの「民主集中」制による党内民主主義の不在があと5年続けば、消滅も間近だろう。路線的には1960年代からの宮本議会主義路線の最終的破産である。60年安保闘争を前後して日本共産党の主導権を握った宮本顕治は、徹底した戦闘的大衆運動への忌避と議会主義路線をとった。高度成長期には一定の議席増や革新自治体を実現したが、大衆運動と結合しない議会主義路線は、すべてを議会・選挙で決着する自民党・ブルジョアジーの総反撃に勝てなかった。中央委員会総会において、最低限でも戦闘的大衆運動の再建をベースにし、野党共闘では徹底して汗をかく(大阪・兵庫のバーター共闘では、当選の見込みがない兵庫の候補を先に降ろし、大阪の共産党候補の勝利に他政党をまきこむ)ことを確認すべきである。選挙が近づくと、戦闘的大衆闘争(改憲阻止闘争、各種市民運動)や労働運動から撤収するありかたも変革しないと支持は広がらないだろう。

再生へ正念場のれいわと社民党

2019年4月に結成し、7月参議院選で2議席を獲得したれいわ新選組は、21年衆議院選で3議席増やし、22年参議院選で8議席となった。だが本来なら比例で300万〜500万票・4〜5議席獲得が期待されたが、かなわなかった。それは「消費税廃止」の主張は受け止められながら景気回復だけで、政権交代の道筋やどんな社会をつくるのか、どんな党を目指すのかの全国的戦略的方針が定まらず、選挙区と比例の相乗作用も生まれなかった。山本太郎代表の危機感と発信力は高いが、党内民主主義の未成熟とあいまって結党時の勢いには遠かった。その横腹を、「日本の農業を守れ」「ワクチン反対」を前面に出す右派ポピュリスト集団・参政党に衝かれた。神奈川での擁立失敗、兵庫での山本代表の立候補あるかの「街頭記者会見」(〜するたびに失望・忌避感が拡大)など、21年衆議院選での「東京8区問題」は、いまだ克服されているとは思えない。それでも10人規模の中堅政党になったのだから、戦闘的競合の野党共闘を明言し、民主主義の横溢する全国的な運動組織を再構築し、地域社会に密着し天下国家を論ずる政党に飛躍する総括を提起することが、再生・躍進の道であろう。
社民党は文字通り生き残りをかけて選挙戦に臨み、2%を獲得し政党要件を満たした。だがその必死さゆえ、戦後革新の中軸をなしてきた「共産党のセクト主義と違うおおらかさ」は後退し、生活防衛と結びつかぬ護憲を唱えるほど市民は「ドン引き」した。典型は野党共闘をどうするかだ。昨年9月PLP会館集会で、「れいわを排除した共同テーブルに展望はあるのか?」と発言したが、新社会党の山下慶喜近畿ブロック議長がわずかに触れただけで、社民党から誰も答えがなかった。戦後革新の遺産を野党共闘に生かすのか、自党の延命に使うのか、多くの文化人・元労組役員が今回も支援をしただけに、3年かけて全体の再生のリードを取らないと今度こそ消滅となろう。

戦闘的民主主義の横溢を

今回の参議院選の選対活動を通じて痛感することは、岸田政権との政策的政治的競合の優劣とは別に、新自由主義の破産、没落日本の現実の中で、いかなる社会を作るのか、それを目指す政党内部で党内民主主義が横溢しているのかが、事の半分として問われていたと思う。政治的主張の良し悪しよりも、自分も含めて次の社会に参加できるのか、それを支持政党が体現しているかだ。無党派層だけでなく多くの市民は、朝日的マスコミの衰退、ネット社会の浸透、組織的統制ぎらいの中にいて、55年型対決構図の崩壊以降の階級的攻防にかみ込む方途を求めている。「民主集中」といいながら選挙制のない共産党、福島瑞穂や山本太郎の動向に左右される社民党・れいわ、議員政党でしかない立憲民主党は、いずれも入口で参加を狭めている。これでは勝てるわけがない。党内民主主義が横溢し、反貧困、反原発、反基地、農業・自然保護などの戦闘的大衆闘争との結合による左派・リベラルの再生が必要だ。エセ党内民主主義と、疑似政権批判のスローガン(日本の農業守れ、反ワクチン)と、選挙戦を大衆行動として闘った参政党(最終日には東京芝公園で数千人の集会)が、47選挙区と比例で一定の票を獲得したことを見なくてはならない。
岸田政権は9・27安倍国葬を閣議決定し、安倍(統一教会)も含む右派路線=改憲・軍事大国化・生活破壊の道を選択しようとしている。野党各党は真剣な総括の上に、野党共闘・戦闘的競合・党内民主主義の横溢・戦闘的大衆運動の再建を実践し、次のステップへ進むことを望む。この提起がその一助になれば幸いである。

5面

ウクライナ戦争テーゼ
ウクライナ侵略戦争と共産主義者の立場
『未来』編集委員会

ロシアはウクライナから撤退しろとロシア領事館に抗議する人々(4月5日 大阪府豊中市)

ウクライナ戦争は現代の危機の焦点であり、共産主義者としてその戦争を止める実践と理論的深化が問われています。以下に提起するのは、そのための叩き台です。内外の多くの皆さんの論議を期待します。
T〜Wの表題が、そのテーゼです。

Tプーチン・ロシアのウクライナに対する侵略戦争である

この核心点を否定、ないし曖昧にする次のような見解が乱れ飛んでいる。
@「帝国主義対帝国主義の戦争」論――ロシアもウクライナも資本主義、帝国主義の国だから、双方で自国政府打倒の闘争を展開することを主張する。明示的にこのように言いきらないが、これに近い見解は多い。
A「ウクライナを巻き込んだ代理戦争」論――ウクライナを抗戦の主体と認めず、「巻き込まれ」ているか、米帝・NATOの手先ととらえる。抗戦の主体と認めないウクライナに一方的武装解除を要求する「降伏」論も含む。
B「米帝、NATOの侵略戦争」論――プーチン・ロシアの侵略を認めない。
現に展開されている戦争はロシアの一方的な侵略である。ロシア軍はキーウまで攻めようとしたが、ウクライナ軍はモスクワを攻めるどころか、部隊が国境を超える攻撃はしていない。ブチャなどでの住民虐殺、劇場・病院・学校への意識的攻撃、160万人に及ぶウクライナ人の拉致、これらはチェチェンで、シリアで、ジョージアで、プーチンがやってきたことと同様の侵略である。
帝国主義の軍事同盟であるNATOの存在と「東方拡大」には反対する。しかし旧ソ連構成国であるバルト3国の加盟と、ジョージア・モルドバ・ウクライナ3国の加盟希望は、ロシアに侵略・併合されたことへの防衛的対応である。日米安保条約に「従属」している日本の人民に、口を挟む余地はないと考える。

Uウクライナはロシアに対して被抑圧民族である

プーチンはウクライナとロシアが同一・一体の民族であると主張する。ウクライナが独自の民族であることを認めない大ロシア排外主義である。ウクライナは近世以降350年間、ロシア、ポーランド、ハプスブルグ帝国の支配下に置かれた。しかし民族の重要な指標としての言語をとっても、近代的文章語の確立は1850年代と、日本より早い。ソ連崩壊後、一番早く独立したウクライナ人民の強固な民族意識に注目する必要がある。
ウクライナ国内でのロシア語使用禁止をロシア系住民の権利侵害とする見解がある。しかしこれはポロシェンコ政権の5年間のことであり、現在は撤回されている。ウクライナは、ツァーリ専制時代からソビエト体制の100年間に、10回以上もウクライナ語の禁止命令がだされ、ロシア語使用が強制されたため、現在、40歳代以上のウクライナ人にはロシア語しか話せない人が多い。そういった人々を、プーチンとその下にあるメディアは「ロシア系住民」と呼ぶが、彼らのほとんどはロシアへの帰属、ロシア領への併合などを望んでいない。
「資本主義だから抑圧・被抑圧の関係はない」という見解がある。しかし資本主義国(民族)相互の関係においても抑圧・被抑圧の関係はありうる。20世紀初めのころのポーランドやフィンランドは産業的文化的にロシアより進んでいたが、ロシア帝国の従属下に置かれていたという例さえある。
「植民地ではないから被抑圧民族ではない」という見解もある。しかし植民地主義が頂点に達した20世紀初頭、英国に対するアルゼンチンやポルトガルのような従属国の例があるし、また植民地化はしていないトルコ・イラン・中国などの半植民地諸国もあった。現在では、新植民地主義体制諸国(アフリカや中南米やASEAN諸国)が挙げられる。さらには、国内植民地や、国内従属民族の存在がある。中国に対するウイグル人の存在や、イスラエルにおけるパレスチナ人、トルコ・シリア・イラク・イランにおけるクルド人は、被抑圧民族としか言いようがないであろう。

V共産主義者は被抑圧民族の自決権を支持する

核心は、国家を形成し、その国家形態を決め、維持する権利である。その権利を行使するかどうかはその民族の選択による。また国家的分離に限定せず、連邦制、または自治区・自治権の行使を認めなければならないこともある。
民族自決などは資本主義の勃興期の課題であって、現在の新自由主義・グローバリゼーションの時代には適合しないとする見解がある。しかし帝国主義とは労働者階級だけでなく、農民や被抑圧民族を抑圧、圧殺する時代であることを考えると現在ますます必要な課題となっている。まして「諸民族の牢獄」(ツァーリ時代)から「諸民族の地獄」(スターリン主義の時代)を乗り越え闘う旧ソ連圏人民の課題と向き合うことが必要である。
現在、共産主義者は民族問題について以下の点を確認しなければならない。
第1に、抑圧民族と被抑圧民族を区別する。資本主義の階級対立の絶対性を強調するあまり、民族矛盾、民族抑圧、民族差別をあいまいにしてはならない。
第2に、抑圧民族の労働者階級と被抑圧民族の労働者階級の間には、特権や差別や、経済的処遇の違いがあり、平板な連帯はありえない。抑圧民族の労働者階級は自らの差別意識や排外主義を克服し、被抑圧民族(労働者階級だけでなく全体を対象)への連帯、援助、防衛に取り組まなければならない。
第3に、被抑圧民族の民族自決権を断固支持することである。
1913年にスターリンがおこなった民族の規定が現在も旧ソ連圏など、多くの民族運動を支配している。それは、言語・地域・経済生活・および文化の共通性を基礎として形成される人々の共同体とするもので、この4点の条件が全部そろっていないと民族と認めない。
、この規定は、抑圧民族と被抑圧民族を区別する規定を含まず、民族と民族でないものを区別するだけである。
、「民族は勃興しつつある資本主義の時代の歴史的範疇」として、民族闘争を時代遅れの闘いとするか、階級闘争に従属するものとしか位置づけない。
、ロシア・東欧において重大な革命要素であったユダヤ人やムスリム諸民族、ウクライナを民族でない、ないし遅れた民族として差別する。

この結果、中国・ベトナム・ユーゴスラビアでは、革命後、多かれ少なかれ、スターリンの民族理論の影響を受けた民族政策を採用し、歴史的変遷を遂げるが、最終的には、「諸民族の牢獄」のような抑圧体制に陥る。
@何が民族であるかを上から政権が決める。抑圧民族と被抑圧民族の区別よりも民族といまだ民族になっていない集団を区別することに力点を置く。
A被抑圧民族の自決権を実質的に認めず、せいぜい、連邦制の枠に抑え込むか、自治共和国や自治州や自治区を設定するにとどめる。
B民族とさえ認めなかった集団に対して初期的にはパターナリズム(父権的温情主義)的保護政策を採る(独自の文字を創始する、民族エリートの育成)。それも対外政策や経済建設によってご都合主義的に変化する。
現在のロシアはもちろん、日本も朝鮮・中国の旧植民地や東南アジアの軍事占領地域の出身者、国内では沖縄やアイヌに対する差別支配を継続している。

Wウクライナ人民の政治形態、戦闘形態の選択を無条件に支持する

プロレタリア革命に勝利した労働者権力ですら被抑圧民族の糾弾と軍事的抵抗に向き合わなければならないことがある。
1920年、赤軍はワルシャワを包囲してポーランドをソビエト体制に獲得しようとした。しかしピルズスキー社会党政権のポーランド軍が激しく抵抗し、期待した労働者の反乱による呼応は起こらず、赤軍は逆に撃退され、敗走する。
この革命戦争の過程で、レーニンとブハーリンはワルシャワ侵攻と赤軍の正規軍化の双方を推進し、トロツキーは正規軍化は推進したがワルシャワ侵攻には消極的であった。スターリンとローザ(前年に殺害されているからそれ以前の態度から図って)は、両方に反対した。ポーランド独立のための闘いを否定していたローザは別として、その独立の闘いを認めていた残りのボリシェビキ指導者すべてが、ポーランド人民の主体的選択を無視して、軍事的合目的性からの判断しかしていない。
勝利したプロレタリアートですら被抑圧民族の自決・自己決定権に向き合うことができなければ、裏切り的敗北を喫することになる。
その教訓を今こそ生かし、ロシアに対する被抑圧民族としてのウクライナ人民の自決権を断固支持する。独自の国家を形成する権利をはじめ、その政治形態(国家的分離か連邦制度か)などの決定権、ロシアの侵略と闘うその主体性をあくまで尊重する。これがわれわれの立場である。

6面

セックスワーク論批判B
AV新法反対!
根本的な被害防止を!
石川由子

AV新法について読者もどう考えればいいのかと迷っておられることだろう。何しろ、国会議員たちは他の国にはない画期的な法律だと自画自讃。しかし、性売買当事者や支援女性たちは「AV業者に有利なAV新法反対」と紫色のカードやスカーフを持って新法反対デモをおこなった(5/22新宿)。だが、その真後ろでAV新法反対派に対するカウンターデモ隊(セックスワーク肯定派)の女性たちが「セックスワーカー差別を許さない」と赤い傘をもって出現したのだ。
女性対女性の対立のような構図になり、セックスワーク肯定派は反対派を「人権侵害、差別者」とののしっていた。左翼が最も恐れる言葉だ。しかしこの言葉に動揺する必要はないときっぱり言いたい。

AV新法の問題点

まずAV新法に対する態度を明らかにしなければならないだろう。AV新法は一部評価されるべき良い法律ではあるが、決定的なところで悪法である。評価されるべき点はAVによる被害実態が明らかになり、法規制が認められたことだ。AVの問題点は数え上げればきりがないが、あえて挙げると4点ある。
AV問題の第一は、その撮影そのものが暴力であるということだ。詐欺や甘言で撮影に誘導する最悪のケースから女性の貧困につけこんで「ワリのいい仕事」として募集するなど方法は様々だが、契約また撮影そのものが暴力であるということだ。女性を契約に持ち込んだら間髪を入れず撮影に入り、台本は当日の朝、しかも口約束というケースが極めて多い。女性にはハードなものではないとだまし、撮影に入るとすべては反故にされ、「レイプシーンの撮影」となることが極めて多いのだ。これが女性たちのPTSDとなり、心を深く傷つける。深刻な人権侵害が堂々と市場に出回っているのだ。AV新法は契約から撮影まで一カ月の期間が必要であることを定めた。この点は前進といえよう。つまり一般的なクーリングオフなら8日間であるが、例外的に長い期間を作り女性が甘言や暴力によって強制的に契約させられることを防ぐためである。先の参議院選挙に立憲から比例代表で立候補し落選した要友紀子氏(セックスワーク推進派)は自らの宣伝動画の中で「かつてのAV撮影なら当日の朝契約をすればそれで良かったのに、新法には現場の声が反映されていない」とAV業者と思われる男性とあけすけに語り合っている。
AV問題の第二は、デジタルタトゥー問題だ[注]。一時はAV出演に納得して契約しても後で後悔することは当然ある。撮影現場で女性は裸で逃げることもできないのだから納得していない撮影が常態化している。しかし世に出たAVはインターネット上のどこかに漂っていたり、あるいは堂々と何度も使いまわされたりする。そのためAV新法では撮影から4カ月間公表を禁止し、たとえ同意の契約をしても公表から一年間は無条件に契約を解除できる。一年間は業者の責任で回収しなければならなくなった。これも進歩ではある。
AV問題の第三は、本番行為を撮影していることだ。日本では性売買は売春防止法で禁止されている(ちなみに売春防止法は今春一部廃止され、困難女性支援法が新たに制定された)。しかし、今回のAV新法では撮影時の本番行為の禁止が明記されていない。反対派が何度も本番行為の禁止条項を入れるように申し入れたにもかかわらず、国会は頑なにこれを拒否した。金銭授受のある本番行為を密室でおこなうと売春防止法で違法になり、公開するとAV新法で適法になるとはどういうことだ。これは売春の合法化ではないか。これがAV新法反対派の主たる理由であり、私がAV新法が悪法であるという理由だ。
AV問題の第四は、AVの内容があまりにも暴力的で、男性たちの性をきわめて歪んだものにしてしまうということだ。「AVは教科書、レイプは実践」と言われている。とりわけ少年に与える影響は大きく、レイプ犯の多くはAVで見たことを実践してみたかったと語っている。最近でいえば2020年、福岡で見知らぬ女性を刺し殺した少年は(彼はレイプ犯ではないが)、幼いころから父親が子供たちの前でも平気でAVを見ていた。また少年をかつて精神病院に入院させた母親は小学生の彼にポルノ雑誌を差し入れようとして拒否されたという。彼は今、更生の道を閉ざされ、今年7月、福岡地裁で10年から15年の不定期刑が言い渡された。彼こそAVやポルノの犠牲者である。もちろん父親や母親の直接的な暴力、ネグレクトが与えた影響も大きいだろう。しかしAVやポルノ雑誌が自分が受けている暴力の意味を教えてくれる教科書になったはずだ。
仮にAV出演女性が契約のすべてに納得し、デジタルタトゥーにもみじんの懸念も持たず、撮影は一切の暴力がなく平和的であったとしても、AVは人間が本来持っている人間性を奪ってしまう毒薬だ。表現の自由でもなければ、性の解放でもない。新たな女性差別を生みだす根源となっている。しかし何度も言いたいが、私はこうした性産業にかかわる女性を非難しているのではなく、利益をむさぼる業者と女性の性をおとしめる男性と新自由主義を批判しているのである。

[注]デジタルタトゥー

タトゥーとは入れ墨のこと。インターネット上に書き込まれたコメントや画像など、一度拡散された情報が半永久的にインターネット上に残されること。

投稿
セックスワーク論考
佐藤隆

『未来』345号から石川由子さんによるセックスワーク論批判が連載されている。男性がそれについて書くことはためらわれるところもあるが、石川さんの論考に触発されて少し書いてみたい。

(1)セックスワーク論争の様相

セックスワーク論は、フェミニズムの中の「性の商品化論」に対して、「当事者不在の議論」としてそれを批判するものとして提出されてきたという経緯はある(プリシラ・アレキサンダー等)。日本では、古くは雑誌『青鞜』における伊藤野枝の廃娼運動批判がこれに近い。
現在のヨーロッパの性産業についての政策論争として、性産業を非合法化する北欧モデルと、ドイツ等の合法化モデル・アムネスティの非犯罪化論等の論争がおこなわれている。 「合法化が性産業の膨張を招いた」VS「非合法化によって闇経済の危険の中に従事者が追いやられた」等の論争がなされている。当事者たちからは、人身売買から脱出したい、生命と権利の防衛、安全な労働環境を求める声が上がっている。セックスワーカーの労働組合も結成されている。
それぞれの論点について、注視して検討する必要があると思う。かなり幅広い論争の様相で、極端な例や個別の問題点を指摘して全否定するような議論の仕方には賛成できない。後述するように、「資本主義には売買春の問題は解決できない」という根本問題があると同時に、性産業がかなり多様な様相を示していることも先鋭な論争の背景にあるであろう。数千万とも数百万とも言われる人身売買とそれに伴う性産業の問題と、日本なら数十万人と言われる先進国の風俗産業の従事者たちの問題は、共通の質も持ちながら、同じアプローチでは扱えない問題ではないか、と思う。
因みに、日本の弁護士グループでは、「ヒューマンライツ・ナウ」がAV等性産業の被害者の支援に取り組み、「風テラス」が性産業に従事する女性等の相談活動や転職支援をおこなっている。風テラスとSWASHの要友紀子氏の論争や、コロナ持続化給付金を巡って、反貧困ネットワーク・ほっとプラス・藤田孝典氏のセックスワーク批判にフリーター全般労働組合/キャバクラユニオンが団体交渉を申し込んだことが昨今、話題になったりした。

(2)試論

資本主義は富の生産を剰余価値の搾取過程に転化する一方、人間の生産・ケア労働をその枠外に疎外する。売買春あるいはセックスワークは、ブルジョア的家族制度における「経済的扶養の見返りのセックス」(『セックス・ワーク概念の理論的射程』菊池夏野)の外化された形態といえる。「売買春・セックスワークの廃止はブルジョア社会・ブルジョア家族制度の廃絶と一体でしか実現しない」というのは『共産党宣言』以来のマルクス主義の考え方ではないか。
20世紀以降の帝国主義の植民地支配は、売買春の問題を、途方もない奴隷労働・人身売買の問題へと発展させた。帝国主義を打倒して平等な世界を実現しなければならない。
階級社会の廃絶が到達点であるということはそこに至るまでの改良が無意味だということではない。奴隷労働・人身売買は即時に廃止されなければならない。
ブルジョア国家による売買春・セックスワーク規制は、ブルジョア的家族制度の下への暴力的統制という性格を帯び、性被害者の保護へと直結するのは難しい。
Nothing about us without us、この障碍者解放闘争のスローガンは、性被害者やセックスワーカーの運動についても当てはまるのではないか。資本主義・階級社会を廃絶する力は、虐げられた当事者の連帯した闘いをおいて外にないはずだ。
同じ収入が得られる別の仕事の選択肢があれば、性産業に従事することを望む者は稀であろう。しかし、先進国でも現実には性産業が(刑務所の様に)最後のセイフティーネットのような機能も果たしている。貧富の格差をそのままに、「高収入の結婚相手を望む者は道徳的で、性産業を利用して生きる者はゲスだ」などとは到底言えない。
性産業に従事していようが、広告業などのブルシット・ジョブに従事していようが、労働者の権利は保護されなければならない。どのような政策・法律を権力者に要求するかは、主体的な運動に踏まえた具体的な課題であろう。気候正義運動において、エネルギー産業労働者のジャスト・トランジッション(公正な移行)という概念が提起されているが、性産業についても同様の考え方ができないだろうか。
性産業が女性差別産業だとしても、そこで生きる人たちが無権利であっていいわけではないし、性産業の現場で闘う人たち全てが勘違いをした無力な人たちであるというわけではない。

7面

直接請求署名を府に提出
カジノ住民投票条例の制定求め21万筆
7月21日

ひさかたぶりに雨があがった7月21日、カジノ住民投票条例制定直接請求署名を大阪府に提出した。署名総数は21万134筆で有効署名数は19万2773筆。法定数14万6509筆を5万筆近く超えた。署名用紙は大阪府庁玄関前のトラックの荷台に段ボール156箱が山となって積まれていた。21万134筆という大阪府民の汗の結晶が如何に大きなものかが一目でわかるもので実に壮観だった。
12時から「カジノ住民投票条例をもとめる大阪府民アクション」を開始。最初に〈カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会〉共同代表の大垣さなゑさんが挨拶。
コロナ第7波が到来している大阪では、感染者が2万2千人を超える事態になっているため、行動を簡略化し、署名を集めた大阪府下の72行政区の代表が自分の市区町村名と集めた署名数を報告し、参加した600人近い人たちは手をつながずに人間の鎖で府庁を包囲した。

各市町村ごとの署名数を記入したプラカードを持って大阪府庁前に結集(7月21日、大阪市)

直接請求

地方自治法に基づく直接請求は大阪府では45年ぶりである。直接請求とは、民主主義の根幹をなすもので、自治体の運営が住民の意思に反しておこなわれようとする場合、地方自治法で、それを阻止する条例等の制定を住民が直接、自治体に請求できることになっている。これを直接請求といい、住民自治の大切な制度である。
大阪府民の大多数がカジノの問題点に気づき、大阪府有権者総数50分の1を超える人たちが「カジノの是非は住民投票で決めよ」という声を上げたのである。吉村知事はその声を聞かざるを得なくなったのである。

在日外国人にも投票権

大阪府議会に提出する私たちの住民投票条例案は在日外国人にも投票権を保障している。カジノは大阪府内に住むすべての人たちの生活に根底から影響を与える。そのため国籍にかかわりなく大阪府内に住むすべての人に投票権を保障することは必要不可欠であり、そうすることによって初めて大阪の住民自治は本来の民主主義を回復していくのだ。

維新政治に打撃

先の参議院選挙公示前の6月6日、72市区町村すべての選挙管理委員会への署名簿提出が完了し、署名が必要法定数をはるかに超えることが明らかになった。各マスコミは翌日の朝刊でカジノ誘致と住民投票要求運動について一斉に報道した。
法定数突破にもっとも打撃を受けたのは維新である。参議院選挙中、維新はカジノには一言も触れることができなかった。維新の最大の成果としてカジノ誘致を打ち出したかったのにそれができなくなったのだ。さらに、参議院選挙では維新がもっとも力を入れた京都や東京で敗北した。松井一郎大阪市長も市長の任期が切れた段階で政界から引退すると表明せざるをえなくなっている。
吉村知事は当初「反対派の意見を聞くことも重要」とコメントしながら、今回、会おうともしなかった。

カジノはなんとしても止める

大阪府議会は臨時議会を7月29日に開催し私たちの条例案を即日採決に付す。この臨時議会では直接請求者である私たちの代表が意見陳述し、5人以上の議員を擁する維新、公明、自民が代表質問をして即日採決する。
府議会で多数を占める維新が数の力でカジノを押し通そうとしても、私たちには、2度の都構想住民投票での勝利や、今回のカジノ反対署名でも府民の中に入り込み、運動の力で維新政治を止めてきた力がある。
8月、むしろ旗を立てて東京にいき、カジノを管轄する国交省・観光庁・審査委員会、さらに国会議員への要請行動をおこなおう。

生活保護基準引き下げ違憲訴訟 大阪高裁
「専門家の意見を聞かないのは違法」
7月13日

裁判終了後の報告集会(7月13日 大阪市内)

7月13日生活保護基準引き下げ違憲訴訟の控訴審が大阪高裁でひらかれ、傍聴席は満席となった。
大阪地裁の勝利判決に続いて、5月25日熊本地裁、6月24日東京地裁で勝利判決を勝ちとっている。
この日の法廷で、平井健太郎弁護士は、「熊本地裁判決・東京地裁判決の概要」を述べ、大阪地裁判決よりも踏み込んだ判断をしたことを明らかにした。
まず相次いだ請求棄却判決に「NHK受診料」(正は受信料)という同じ誤字があり、コピペの疑いがもたれ、最高裁長官代理の行政局長が「裁判所の信頼を揺るがしかねないものとして重く受け止める」と発言する事態だ。
両判決が、「生活扶助相当CPI(厚労省が独自に作成した消費者物価指数)が、統計等の客観的数値等との合理的関連性を欠く」としたことは、大阪地裁判決の正しさを裏づけるもの。@デフレ調整の起点を物価上昇した2008年にしたことの問題 Aテレビ・パソコン等の支出割合について、生活扶助相当CPIと生活保護受給世帯の消費構造に大きな乖離があると指摘した。
さらに厚労省が、生活保護基準部会という専門家の意見を聞かずに決めたことに対し、「専門的知見との整合性」を欠くとした点など、大阪地裁判決より踏み込んだ判断をした。「要保護者の需要に関する専門技術的考察に基づいて、政策的判断をしなければならない」とし「基準部会等による審議検討を経ない場合、専門技術的な考察を経て合理的におこなわれたものであることについて、被告側で十分な説明をすることを要する」と言及。ゆがみ調整を一律2分の1にした点、ゆがみ調整とデフレ調整をした点、物価を考慮した点について、「専門技術的な見地からの検討が必要だが、専門技術的な見地からの検討はなく、被告からの十分な説明もない」と批判し違法であると断じた。
また東京地裁判決は「基準引き下げの影響が重大である」とし、2017年検証(事後的に、国が引き下げは問題がなかったという報告書を作った)について、「事後的な検証によって過誤・欠落が治癒されるものではない」と厳しく批判した。
裁判終了後、報告集会がおこなわれ、平井弁護士は「東京地裁の方が、すごくいいことを言っているので東京をメインに作った」。白井康彦さん(元中日新聞記者)は、「物価は明らかな統計不正。『誰でもわかる「物価偽装」教室』という本を出版した」とアピールした。
進行協議の結果を、和田信也弁護士が報告した。「次回、医師1人・原告4人の証人尋問がおこなわれる。12月最終弁論で来年3月頃判決の予定。今回、裁判所から求釈明事項が出された。こちら側に対しては、2017年検証について反論があれば教えてくださいという1つだけで、国に対しては6つ出している。国に多く出しているから国に不利という判断はできない」。
次回口頭弁論は、9月27日、午後2時、202号法廷。

8面

山上に行動を決意させた安倍晋三元首相と統一教会の癒着

7月8日の安倍晋三元首相の銃撃死を契機に、反共カルト集団=統一教会と自民党、とりわけ安倍派との癒着が連日明らかとなっている。
周知のとおり文鮮明を始祖とする統一教会は、1950年代に岸信介元首相(安倍元首相の祖父)の手引きで日本に上陸し、68年には政治団体・勝共連合が、文・岸・児玉誉士夫・笹川良一の4人で、70年安保闘争への反共防波堤として結成され、学生組織=原理研は70年安保・沖縄・大学闘争に敵対した。80年代には霊感商法で、90年代には芸能人の集団結婚でそのカルト性が問題となったが、90年代になると政権の介入によって統一教会問題はマスコミから姿を消した。
丁度このころ、岸の孫でNHK番組への介入などで自民党右派のプリンスとして登場したのが安倍晋三だ。オウム叩きの裏で統一教会は霊感商法以外に各種フロント組織を立ち上げ、選挙活動への信徒の派遣(電話かけなど)で、安倍ら自民党右派と癒着を深め、他方で霊感商法対策弁護団の活動を妨害する。山上容疑者の母親が入信し、多額の献金をしたのはこの頃だ。
その後統一教会の反社会的行動は刑事事件に発展し、前会長の辞任に至るが、霊感商法が止んだわけではない。それより悪名高き統一教会の名前を変更し(2015年当時の文科相下村博文が関与)巧妙に延命していく。
安倍晋三と統一教会の癒着は2010年以降その度合いを増し、首相就任後は統一教会との癒着を深めた。桜を見る会でのジャパンライフ元会長との癒着(広告塔)は個人的関係だったが、統一教会とは自民党右派の総帥として、選挙時の票の割り振りなどにも深い関係を築く。その頂点が、21年9月に統一教会のダミー団体=天宙平和連合(UPF)に送ったビデオメッセージだ(下)。これを見た山上は安倍こそ統一教会の最大のシンパで、殺害しかないと決意したという。
首相退陣後はさらに癒着を深め、自民党全体の右派人脈に広げていく。下村博文元文科相(宗教団体を管轄)だけでなく、萩生田光一現経産相(元文科大臣)はじめ、現衆議院議長・細田博之、現国家公安委員長・二之湯智、現文科相・末松信介など(いずれも安倍派)の癒着は、警察トップと暴力団の癒着以上のものがあり、自民党総体が反社会的団体との癒着を恥じないところまでなり下がっていることを示している。
そこへ、山上の一撃が直撃した。安倍に連なる一派はこの癒着を今後も続けるつもりだろうか。

天宙平和連合オンライン集会での安倍元首相の基調演説(抜粋)2021年9月

 日本国前内閣総理大臣の安倍晋三です。UPF(天宙平和連合)の主催のもと…およそ150カ国の国家首脳、国会議員、宗教指導者が集う希望前進大会で…トランプ大統領とともに演説する機会を頂いたことを光栄に思います。(中略)
 朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子総裁をはじめ、皆様に敬意を表します。(中略)
 台湾海峡の平和と安定の維持、そして朝鮮半島の平和的統一の実現を成し遂げるためには、とてつもない情熱を持ったリーダーシップが必要です。この希望前進大会が大きな力を与えてくれると確信します。

(シネマ案内)
『ドンバス』
監督:セルゲイ・ロズニツァ 2018年

ドンバス地域では、2014年からウクライナ政府と「分離(独立)」派による二重権力状態にあり、内戦が続いていた。ふたつの勢力が対立し、殺戮を繰り返してきた。今日の事態は、この延長線上にある。では、2014〜15年にドンバス地域で何が起きていたのか。これがこの映画のテーマである。
2014年、ウクライナ東部地域で「分離」派が武装蜂起して「独立」を宣言した。こうして、ドネツク州南部地域に「ドネツク人民共和国」ができ、ルガンスク州東部に「ルガンスク人民共和国」がうまれた。2022年2月、プーチンはこれらの国を承認するとして、ロシアによるウクライナ侵略戦争が始まった。
現在、ウクライナのドンバス地域では、はげしい戦闘がおこなわれている。プーチンの思惑は、これらの「独立国」をそれぞれの州全体にまで拡大することにある。「分離」派は、ここに「ノヴォロシア」連邦[注]を構想している。これはウクライナ政府側からすれば侵略にほかならない。
まず、セルゲイ・ロズニツァ監督のプロフィールを紹介しておこう。ベラルーシに生まれ、ウクライナ育ち。ロシアで映画を学び、映画製作をおこなってきた。2012年にドイツへ移住している。ソ連邦時代に撮られた記録フィルムを編集しなおして、スターリン主義体制を批判している。
ロズニツァは、現在のウクライナ戦争にたいしてロシアの蛮行を弾劾し、中立的な立場をとるヨーロッパ映画アカデミーを批判している。また、ロシア映画の排斥を決めたウクライナの映画団体にたいしても批判している。彼はロシア国内で戦争に反対する声にも耳を傾けるべきだと主張している。
映画は、13のエピソードから成り立っている。暗くて湿った地下シェルターに避難している市民たち。一般市民の車を巻き上げ、さらに金を要求する「分離」派の警察など。印象に残るのは次のエピソードだ。親ロシア側勢力がウクライナの老義勇兵を捕まえて、市街の電柱にくくりつけ、さらし者にしている。市民たちは「金を幾らもらったのだ」「誰から言われた」と彼をののしり、袋叩きにする。この言葉は日本でもよく耳にする。
この映画は実話にもとづいているが、記録映像ではない。すべてのシーンは俳優によって演じられたものだ。しかし、この区別は意味をなさない。映画を見る側がどのように判断するのか、これが問われているのだ。
今日、おびただしいフェイク・ニュースが「ドキュメンタリー」として作り出されている。しかし、現実の一部分を切り取った映像は必ずしも真実をあらわしているわけではない。かえって創作のほうが真実を伝えることがある。
このように、映画は「分離」派の蛮行を批判する内容になっている。どれもが暗い。人と人が対立し、怒り、憎しみあっている。しかし、映画はウクライナ政府=善、「分離」派=悪として描いているわけではない。人間はいかにして、このようになるのか。その「国」の存在が不正義だからではないのか。植民地主義にもとづく大国的ナショナリズムが原因ではないのか。映画はこのように告発している。
日本でも、ロシア人が差別され、ロシア料理店が嫌がらせを受けている。ロシア国内でも自国の戦争に反対している人びとがいるのだ。新たな反戦運動のあり方が問われている。ロシアによるウクライナ侵略戦争をどのように受け止め、行動すべきなのか、あらためて考えさせられる映画だった。
[注]18世紀にロシア帝国が征服した黒海の北岸部地域をさす地域名。「新しいロシア」という意味。
(鹿田研三)

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