未来・第327号


            未来第327号目次(2021年10月7日発行)

 1面  安倍・麻生が支える岸田 自民党総裁に
     中国・アジア敵視と強権手法

     遺骨土砂を基地建設に使うな
     全国の自治体で意見書あがる

 2面  NUG国連大使の信任を
     東京と神戸で集会・デモ
     9月12日

     関生弾圧裁判の公正な判決求める
     9月21日 大阪高裁に要請行動

     ウィシュマさん死亡事件の真相究明
     「ビデオを全面開示せよ」全国一斉行動

 3面  老朽原発稼働延長阻止運動
     反戦・反核運動の戦略的柱

     8・30伊方原発広島裁判 口頭弁論
     原発を止め きれいな瀬戸内海を

 4面  菅政権―5つの悪業(2)日本学術会議任命拒否
     関学大・芦名定道教授が講演
     強権政治うち破る地域の力を

     菅政権―5つの悪業(3)運動つぶしの重要土地利用規制法
     「ファクション」から生まれた土地利用規制法
     築紫 健

 5面  自公政権打倒へ奮闘する大阪、兵庫の予定候補者
     大阪9区 大椿ゆうこさん
     広い選挙区かけまわる

     大阪5区 大石あきこさん
     維新の天敵、衆院選へ

     兵庫8区 つじ恵さん
     公明党の牙城に挑戦

 6面  経産省テント10周年 武藤類子さんの訴え
     フクシマは終わっていない
     東野 遼

 7面  マルクスの反差別解放理論、またはマルクスの労働者革命実現論(中)
     高見 元博

 8面  生活保護裁判
     大阪高裁、実質審理へ            

     マルクス『資本論』に学ぶ(2)
     利子生み資本とは何か(下)
     松崎五郎

     (シネマ案内)
     「大地と白い雲」
     (監督:王瑞 2019年 中国)

           

安倍・麻生が支える岸田 自民党総裁に
中国・アジア敵視と強権手法

9月19日、国会をとりまく人びと

9月29日投開票がおこなわれた自民党総裁選で、岸田文雄元外相が新総裁に選ばれた。総裁選の背後では3Aと言われる、安倍・麻生・甘利らが暗躍し、岸田が会長の「宏池会=リベラル」を安倍改憲路線に引きこみ、世代交代の河野新自由主義改革派を粉砕した。9年に及ぶ安倍・菅路線を今後も継承し、軍事大国化、中国・アジアを敵視する岸田政権との対決を強め、自公政権を打倒していこう。

9・19 6周年国会前で集会

9月19日、国会正門前で『戦争法強行からまる6年! 戦争法廃止! 立憲主義の回復! いのちと暮らしを守れ! 自公政権退陣! 総選挙勝利! 9・19行動』が開かれ、千人が参加した。〈戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会〉と〈安倍9条改憲NO! 全国市民アクション〉の共催。
菱山南帆子さんが主催者あいさつで、「9月3日、菅総理が政権を投げ出すと表明。安倍氏が投げ出してからたった1年」「自民党総裁選に4人立つが、誰を選んでも最悪の結末。本物の政権交替を」「(コロナ禍で)救える命を救えなかったのは政治の失敗。菅政権の責任は重い」「市民と野党の共闘は、戦争法強行採決の教訓で共闘が生まれた。政策合意で一つに固まって勝利しよう」

3党議員が発言

立憲民主党・菅直人衆院議員は、「6年前の今日は法制局が死んだ日。積み上げてきた憲法判断をひっくり返した」「総選挙こそ国民の出番。いよいよ政権交代を」
日本共産党・田村智子参院議員は、「今日は6年前に安保法制が成立した日。共産党が『安保法制反対の一点で共闘を作ろう』と決議した」「この6年間、市民の力に押されながら共闘に励み、9月8日、市民連合と4野党との政策合意がなされた」「(共産党への)デマ発言した人は撤回・謝罪に追い込まれた」
社会民主党・福島瑞穂参院議員がビデオメッセージで、「今、防衛費は5兆円。全国の自治体で辺野古の埋め立てに遺骨の入った土を使うなとの意見書が上がっている。自衛隊は南西諸島への配備をやめない」

学者らも発言

立憲デモクラシーの会・石川健治東大教授は「『立場を超えた(議論の)前提が崩された』として立憲デモクラシーの会が作られた。対立する意見を闘わせる土俵が崩されている。共有すべきルールが壊されている危機感で、もっと運動を広げたい」
安全保障関連法に反対する学者の会・高山佳奈子京大教授は、「壊されている政治を元に戻したい。いろんな意見を持ち寄るのが民主主義。それを助けるのが学者」「(第2次安倍政権発足までは)官僚が機能していた。(この間)有能な人がクビに。本来の統治機能がなくなっている」
 元SEALDs RYUKYU・元山仁士郎さんは、「安保法制施行から5年半、最大限情報開示すると約束されていたが守られていない。(南西諸島・琉球弧への自衛隊配備等で)目の前に不安を抱えている人と共に声を上げよう」
 安保関連法に反対するママの会・高岡直子医師は、「コロナ訪問診療では15分以内に投薬等をする。在宅静養だけで250人亡くなった。PCR検査を拡大し、(感染者の)早期発見が基本。目の前に溺れる人がいるのに助けない政府は潰れる」
最後に市民連合事務局・福山真劫さんが、「政策協定で柱としての6項目と(具体的な)20の政策で合意した。政権交代したらこれをやるという内容」と結んだ。

遺骨土砂を基地建設に使うな
全国の自治体で意見書あがる

沖縄防衛局は、辺野古新基地建設のために、糸満市摩文仁地域で土砂を採取しようとしている。この地域はアジア太平洋戦争で戦場となり、多くの遺骨が埋もれている。76年の歳月がたち、死者の人骨はそのまま白骨化して土砂に混在する状況。政府は、この遺骨を含む土砂を埋め立てに使うという。これは戦没者と遺族にたいする冒涜だ。
沖縄南部では、かつての沖縄戦で住民を巻き込んで、はげしい地上戦がおこなわれた。「鉄の暴風」と呼ばれるアメリカ軍の艦砲射撃が住民をおそった。その死者は24万人におよぶ。沖縄県15万人、沖縄県外7・7万人、アメリカ1・4万人、朝鮮464人、これらの人びとが亡くなっている(2021年度「平和の礎」刻銘者)。
この沖縄戦には、全国各地域から兵士が派兵された。北海道(1万8百人)、福岡県(4千人)、東京都(3千5百人)、兵庫県(3千2百人)、愛知県(3千人)、鹿児島県(2千9百人)、三重県(2千7百人)、京都府(2千5百人)、大阪府(2千3百人)など死者はすべての都道府県から出ている。
かつて、日本の支配者は天皇制国家体制を守るために沖縄戦をおこなった。また再び、沖縄県民の意志を無視して、日本政府は辺野古に新基地を建設しようとしている。
遺骨を含む土砂を埋め立てに使用することに反対する意見書が、全国の府県で次々と可決されている。具志堅隆松さん(沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表)は、他の自治体にも意見書を可決するよう要請している。今年3月22日に沖縄県那覇市で議決されて以降、別表のように、全国各地で意見書が可決されている。これは沖縄の問題ではなく、全国の問題だ。沖縄防衛局による「埋め立て用土砂採取計画」を撤回させよう。私たちの居住地域で、意見書の採択運動をまきおこそう。

〈遺骨を含む土砂を使わないように求める意見書を可決した議会〉

(日付は議決した日)
●沖縄県 3月22日 那覇市議会
3月25日 名護市議会
3月26日 八重瀬町議会
3月26日 与那原町議会
4月14日 石垣市議会
4月15日 沖縄県議会
4月22日 久米島町議会
4月22日 渡名喜村議会
5月20日 豊見城市議会
6月10日 伊是名村議会
6月17日 伊江村議会
6月17日 大宜味村議会
6月18日 浦添市議会
6月18日 粟国村議会
6月18日 今帰仁村議会
6月18日 国頭村議会
6月29日 うるま市議会
●沖縄県以外
6月21日 金沢市議会
6月22日 茨木市議会
6月25日 小金井市議会
6月25日 長野市議会
6月28日 上尾市議会
6月28日 吹田市議会
6月29日 尾道市議会
7月2日 奈良県議会
7月6日 河南町議会
9月15日 大阪市議会
(9月15日現在)



2面

NUG国連大使の信任を
東京と神戸で集会・デモ
9月12日

9月12日、神戸市内でミャンマークーデター抗議集会が開催された。9月7日に民主派の戦闘開始宣言が出されたこともあって、ミャンマーの青年たちがこれまでより多く参加し、全体で130人を超えていた。
今回の集会の目的は、9月14日から開始された第76回国連総会に出席するミャンマー国連大使を軍政の人物ではなく、国民に選ばれた国民統一政府(NUG)から任命された現職のチョーモートゥン国連大使をあらためて信任することを国連と日本政府に求めることである。

民主派が掲げているプラカード

クーデターに抗議した国連大使

チョーモートゥン国連大使は、クーデター直後の2月26日、国連総会でクーデターを直ちに終わらせ、罪のない人たちへの弾圧をやめ、国家権力を国民に取り戻し、民主主義を回復するため、国際社会からのさらに強力な行動が必要だと訴えた。総会ではこの演説に拍手喝采が起き、アメリカの国連大使リンダ・トーマス=グリーンフィールド氏も勇気ある発言だと賞賛したという(2月28日BBC)。しかし、直後に国軍から解任攻撃を受けた同氏は3月1日、国連に書簡を提出し「任期は続いている。民主的な政府に違法なクーデターを仕掛けた加害者は、わが国の大統領の合法的権限を取り消すことはできない」と訴えた。米国務省報道官は「チョーモートゥン氏が職にとどまっている」という認識を示したという(3月3日、時事通信)。
ミャンマーの国連での一般討論演説に対し、米国と中国は「水面下の交渉で国軍側による演説を認めないことで合意」し(9月16日、毎日)、「少なくとも11月までチョーモートゥン氏を国連大使として据え置く」(9月16日、朝日)としたと伝えられている。クーデターから8カ月が経過し、国際情勢は厳しい局面に。国連大使の職にとどまるチョーモートゥン氏を国連の正式な大使として信任させることは死活的である。

神戸と東京で集会

神戸では〈ミャンマーの人たちとつながる会〉代表の中村大蔵さんが「同じアジア人としてミャンマーの今の現状を認めるわけにはいかない。国軍に抗して闘っているミャンマーの人たちを心から支援していきたい。国軍を支援する日本政府の姿勢は改めるべきであり、ミャンマーへの支援を広げたい」と訴えた。集会後、三宮までの往復デモがおこなわれた。
東京では、2000人が国連大学で集会。デモ終了後、再度国連大学前に集合し、チョーモートゥン氏を国連大使として正式に承認することなどを強く求める書簡を国連事務総長、前任の第75回国連総会議長、新任の第76回国連総会議長らと、すべての国連大使宛の書簡を国連機関である国連大学の担当者に手渡した。国連総会は1年間の新会期に入った。さらに闘いを強め、民主派現職のチョーモートゥン氏を国連大使として信任させるために闘おう。(三船二郎)

関生弾圧裁判の公正な判決求める
9月21日 大阪高裁に要請行動

大阪高裁前で抗議行動(9月21日)

9月21日、全日建関西生コン支部弾圧裁判の公正な判決を求める大阪高裁への第1次要請行動がおこなわれた。全日建運輸連帯労組の小谷野毅書記長は「今回は団体署名の提出である。1467団体からの署名を大阪高裁第6刑事部に提出した。個人署名はすでに3万筆を超えている。次回第2次要請行動は10月5日、第3次は10月20日である。いずれも正午に大阪高裁前に集まり、午後から提出行動となる。刑事第6部には加茂生コン事件が継続している。労働基本権にふまえた判断をおこなうよう、書記官に提出した」と報告があった。

東京からのあいさつ

要請行動に先立って、裁判所の正門前で集会がおこなわれた。
藤本泰成さん(平和フォーラム共同代表)、佐高信さんがあいさつをした。藤本さんは「関生支部への大阪地裁の不当判決は絶対許せない。大阪高裁は、企業を横断した産業別労働運動の意義をしっかりと理解し、多くの労働者が血を流してかちとってきた労働基本権に基づく判決を出してもらいたい。組合員の生活向上のためならストライキも辞さず闘い、働く者の安全のために声をあげる当たり前の労働運動が日本には本当に少なくなった。原則を貫く労働運動は日本社会を変える可能性を秘めている。労働組合がよみがえることなくして日本社会は変わることはない。ともに闘おう」と訴えた。
佐高信さんは「裁判所がこういう不当判決を下すというのは裁判所が労働組合運動というものをまったく理解していない証拠だ。475兆円もの巨額の内部留保の影で、非正規雇用がはびこり、日本経済はおかしくなっている。新自由主義の本場である大阪で、こんな判決を出す大阪の裁判所は新自由主義とほとんど同罪である。労働法は私法を超える社会法である。経営者と対等ではない労働者が集まって労働組合をつくる、これが社会法としての労働法だ。裁判所は教科書を一から勉強しなおせ」と怒りを込めて訴えた。

現場で闘う

全港湾大阪支部、大阪全労協、武庫川ユニオンの力のこもったあいさつにつづいて関生支部が発言。武洋一書記長は「労働組合は集団であり、威力だ。威力のない労働組合には存在価値なんかない。だから威力をもって集団で抗議する。それが労働組合法では刑事免責になっている。大阪高裁では公正な判断をしてもらいたい。最高裁にいこうとも、現場で闘う。我々はこれをやりぬいていく」と決意表明した。

将来の労働者のために闘う

西山直洋執行委員は「私の勾留理由開示公判で、裁判官は『すみません。労働法のことは私はまったく知らないので今後勉強させてもらいます』という発言をした。こんなことを言う裁判官が大阪地裁にはびこっている。こういう現状を私たちは労働運動で転換させていかなくてはならない。将来の労働者と労働組合のために大阪高裁では徹底的に争っていく」と表明した。

関生弾圧を許すな

関生弾圧は我々全体にかけられた攻撃である。大阪高裁での闘いに勝利しよう。

ウィシュマさん死亡事件の真相究明
「ビデオを全面開示せよ」全国一斉行動

ビデオの「全面開示」かかげデモ

今年3月、名古屋入管でスリランカ人・ウィシュマさんが死亡した事件についての真相究明及び再発防止のため、「ビデオの全面開示」を求める全国一斉行動が9月25日、大阪・京都・名古屋・東京・北海道・仙台・群馬・高知でおこなわれた。主催は、〈ウィシュマさん事件の真相究明を求める学生・市民の会〉。大阪では、中之島公園に80人が参加して集会がおこなわれ、西梅田公園までサイレントでデモ行進。
集会では、冒頭、TRY(外国人労働者・難民と共に歩む会)メンバーの学生が発言。「ウィシュマさんの妹・ワヨミさんは、入管に『本当のことを公表してほしい。真相を明らかにして誤りを認めてほしい』と訴えている。私たちには、ご遺族の意志をうけて必ず真相を究明する責任がある。日本社会に生きる者として、入管という国家権力が人の命を見殺しにすることは許せません」。
次に〈Save Immigrants Osaka〉から「私たちは、大阪入管前の抗議アクション、面会、仮放免者への支援などをおこなっている。僕らの声で変えられる社会であると信じている。入管行政は外国人の問題だけではなくて、この国に住む全ての人の問題で、国のあり様の問題だ。間違ったことを謝罪させ責任をとってもらう」。
〈WITH(旧名・西日本入管センターを考える会)〉からは「被収容者への面会は、時間があれば誰にでもできる。今回ウィシュマさんの事件で多くのメディアが報道し、市民の厳しい目が入管体制に向けられた。今後この関心をどれだけ維持し、行動し続けられるかで、日本国憲法・前文をもつこの国の本気度がはかられる」。
入管での面会活動をしてきた男性は「収容は、建前では一時的な身柄拘束だが、実際は、帰国に追い込むための、いじめ、虐待、拷問だ。帰りたくなるような処遇をしろといってるわけです。そういう状況で長く収容されて心身を病んでいく。ウィシュマさんもそうであったと思います。『医療体制が不十分、人権意識が足りなかった』という話ではなくて、入管庁自体が、いじめ倒して帰せと指示をだした中で起こっている。殺人ですから責任を追及しなきゃいけない。そのためには、ビデオで何が起こっていたのか明らかにすることがかかせない」と鋭く訴えた。
最後に、ウィシュマさんの遺族・ワヨミさんからのメッセージでは「日本の皆さん、ウィシュマの死に関する全ての責任を入管がとるまで、この事件のビデオを全て開示するまで、最後まで私たちに心を寄せて下さい」と訴えた。(花本 香)

3面

老朽原発稼働延長阻止運動
反戦・反核運動の戦略的柱

毎月第3金曜日に首相官邸前で開かれる、脱原発金曜行動(写真は9月17日)

東京電力福島第一原発事故ののち、規制庁が新規制基準を公表してから、初めての40年超え美浜3号機をめぐり、福井、京都、滋賀の住民9人が、6月21日、運転禁止仮処分の申し立てをおこなった。
新規制基準の40年規定を自ら覆す規制庁の延期許可の根拠が、例外規定で20年延長を一回だけ認めるというもので、それに乗じて、関電社長は経営者として、高浜・大飯・美浜の3原発の稼働は不可避、建て替えも考えると平然と言い放った。
まず、40年という期間は、規制庁が限界としたもので、福島第一原発事故の発生年数から割り出したもの。美浜3号機は、2004年8月9日、二次冷却系の復水系配管が突然破裂し、噴出した高圧高熱の蒸気を浴びた作業員11人が大やけどをし、うち5人が亡くなった。
 のちに、三菱重工製の蒸気発生器は、カリフォルニア州のサンオノフレ原発で大事故を起こしており、米国規制委員会は、神戸工場まで査察に入り、設計ミスと断じ、カリフォルニア州も稼働を事故後、認可しなかった。
買い手のエディソン社は、経営的メリットがなにもないと、廃炉を決定し、もう一つの他社の州唯一の原発も市民運動により、廃炉に追い込まれた。
 結局、カリフォルニア州は、原発経営がされない原発ゼロの州として、再生可能エネルギーなどを推奨するモデル州となっている。 地震学やプレートテクトニクス学の貧困だった時代に設計された若狭の原発銀座は、民間の住宅建設の耐震強度すら満たしていない。
 元裁判長・樋口英明さんは、「危険という言葉は、事故の確率の高さと事故の被害の大きさのふたつの角度から見なければならない。東電福島第一のような未曽有の回復不能な破滅をもたらす事故という歴史的事実は、危険度を天秤にかけるなどということはありえない論理のレヴェルにある。関東一円の壊滅をまぬかれたのは、偶然の積み重ねにすぎない。専門的技術的な論拠や判断は、決して、真に科学的なものではなく、それは、地震という現象についても予測不能。地震学は、追求する過程にあるだけ。原発装置の耐震性も、関西電力は、自動車や新築住宅のような耐震実験などは不可能。原発敷地内では、地震強度は危険なものにはならないというご都合主義を暴露している。(こうした論理は、神の国の聖戦には、敗北はありえないという言説に酷似している。無謬の国家主義との野合――筆者)。若狭の地層は、3大プレートが、折り重なり、活断層が縦横に偏在している、本来、設置条件を満たすことのできない場所。たとえていえば、40年前の設計の飛行機に、乗れますか?」ということで、今回の若狭の老朽原発の稼働差止、仮処分申し立てでは、アドバイザーとして参加している。
 美浜3号機はすでに稼働されてしまっているので、可及的すみやかに、審理を進行してほしいということで、総じて、提訴理由は、地震災害に対応できていず、避難問題もいいかげんであるということで、基本的に地域住民の人格権を棄損している、という主張。
 7月中に第1回の審尋を開きたかったが、関電が反論の準備ができていないと抵抗した。裁判長の進行指揮で、第1回審尋を10月4日「一般論と地震」、第2回は、11月1日「避難計画と老朽問題」を趣旨として反論すると関電側は渋々の裁判所牛歩戦術。
 特重施設完成期限が、美浜3号機の場合、10月25日。関電の発表では、同機の特重施設完成=運用開始は、来年22年の9月という。この間、3号機は稼働停止となる。
 また関電は、23年末までに使用済核燃料中間貯蔵候補地を提示することができなければ、「40年超え原発は停止する」と森本社長が公言している。
 この12月5日に開催される「老朽原発このまま廃炉! 大集会inおおさか」への万余のひとびとの結集力によって、関電の原発経営の息の根をとめよう。(南方史郎)

8・30伊方原発広島裁判 口頭弁論
原発を止め?きれいな瀬戸内海を

広島地方裁判所で8月30日、伊方原発運転差止広島裁判本訴の第24回口頭弁論が取り組まれました。
午後1時30分、広島地裁前で原告団、応援団らの代表による記録撮影がおこなわれました。第8陣原告39人が新たに裁判に加わり、新原告の代表が裁判所に提訴をおこないました(写真左)。

周防大島住民が意見陳述

午後2時半から口頭弁論が始まり、弁護団から、(33)「SA(シビアアクシデント)対策補充」、(37)「基準地震動650ガルの過小評価」、(38)「沿岸活断層」の各準備書面が提出されました。続いて山口県の周防大島在住の山本幸造さんが原告意見陳述をおこないました。
山本さんは、大学から定年退職までの自らの畜産一筋の経歴を述べた後、自身も人生観、社会観が一変したという2011年3月の福島第一原発事故と、畜産農家が牛舎に「原発さえなければ」と書き遺して自死したことが全国の畜産農家に与えた衝撃を述べました。さらに広島での反核運動参加から伊方原発広島裁判の原告になった経緯を述べ「原発を止め、放射能のない安心して暮らせる環境、きれいな瀬戸内海を守る」と決意を表明しました。

弁護士会館で記者会見・報告会

法廷終了後は、広島弁護士会館で午後3時から記者会見・報告会がリモートで開催され、弁護団から準備書面の解説、原告意見陳述の再現、伊方原発広島裁判の『「黒い雨」広島高裁判決から私たちが学ぶもの』というパンフレットの解説と質疑応答などがおこなわれました。

次回期日(本訴)は11月10日

四国電力は、今年10月26日を原子炉起動予定とする計画を国に提出していましたが、6月になってこの予定を2週間前倒しにして9月18日から21日にかけて核燃料を原子炉に入れる作業をおこない原子炉を起動させた後、10月17日には送電を再開し、11月12日には営業運転を再開する予定だと発表しています。
伊方原発運転差止広島裁判の新規仮処分においては、7月21日の第5回審尋の場で、弁護団からの要望を裁判長が受け入れ、9月8日に予定されていた第6回審尋期日を急遽取りやめ、8月31日を双方の書面提出期限とすることで審尋を終結しました。
新規仮処分申請にたいする広島地裁の決定日は、裁判所が2週間程度前には通知をすると予想されるので、新規仮処分の決定日は近いと思われます。
伊方原発広島裁判本訴の次回第25回口頭弁論期日は11月10日に予定されています。愛媛、広島、山口、大分の伊方包囲網の力で再稼働を阻止しましよう。

4面

新自由主義と強権政治の継続許すな


菅政権―5つの悪業(2)日本学術会議任命拒否

関学大・芦名定道教授が講演
強権政治うち破る地域の力を

宝塚教会で開かれた定例学習会(8月21日)

8月21日宝塚宗教者市民平和会議が主催する講演会が宝塚教会であった。講師は昨年、日本学術会議の任命を拒否された関西学院大学神学部の芦名定道教授で、本人の話が聞けるので興味深く参加した。
まず芦名さんは、「日本学術会議の任命を拒否された6人は、安保法制や特定秘密保護法、共謀罪法などの安倍政権下の政策に異議を唱えた人物だから問題視されたのではないか、と指摘されている。これはある程度は当たっているが、問題の核心はそこにあるのだろうか」と言われた。改めて菅政権下で起った日本学術会議問題から、私たちが直面する問題状況を明らかにし、宗教者や市民として何が問われているのか考えることにしたいと思う。 一つは日本学術会議問題と軍事研究についてだ。そもそも日本学術会議がどんな問題意識・意図をもって設立され、これまで何をおこなってきたかに注目する必要がある。「軍事的安全保障に関する声明」幹事会は、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を、また1967年には同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発した。背景には、科学コミュニティーの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった。 
芦名定道さん
こうして2回にわたり軍事研究への道を拒否したが、この学術会議の姿勢に対する路線変更を求める動きが続いており、今回の任命拒否となった。これに対して、日本学術会議は自らは改革案を対峙して、現在まで6人の任命を求める姿勢を崩していない。
次は、学問の自由あるいは信教の自由について話された。学問の自由は、それだけで成立しているのではなく、他のすべての自由と連動している。封建社会の農民は基本的人権の多くを認められていなかった。信教の自由が侵されるとき他の自由も侵されるだろう。
続いて宗教者・市民の役割では、聖書の「地の塩・世の光」がキリスト教の存在意義であるとして、これはキリスト教以外にも共有できる。分かりやすく言えば、自覚する者が率先して模範的な役割を果たし、平和憲法と民主主義に価値を見い出す市民と共有できる役割だ、と話された。
終わりに、ネットワークを広げること、地域・市民とのつながり地域運動として、ミュニシパリズム(地域主義・自治体主義)を日本でも、と訴えた。これは地域の自治的な合意形成をめざす立場、公営とコモンの価値を中心に置くことで、例えば水道の再公営化やバルセロナ・イン・コモンなどが語られた。
芦名さんの話は冷静な中に固い信念があることがよく分かりました。貴重な講演で、広く共有していただきたい。(大北建三)

菅政権―5つの悪業(3)運動つぶしの重要土地利用規制法

「ファクション」から生まれた土地利用規制法
築紫 健

不要な信号機?

車の往来がほとんどない交差点なのに、いつの間にか信号機が設置されていた。どの方向からも車の来る気配はないが、赤信号が切り替わるのを辛抱強く待たなければならない。そのときふと疑問に思う。「一体なぜこんなところに信号機が設置されたのか」。今年6月に成立した法律は、まさにこの信号機のようなものではないだろうか。
やたら長い名称なので、1度だけ明記すると「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」である。軍事基地や生活インフラ施設等の周囲1キロの区域、そして対馬や八重山諸島などの国境離島を想定したもので、指定エリアの土地と建物を調査し、利用規制する巨大な権限と権力を、内閣総理大臣に白紙に近い状態で与える法律である。国会審議では様々な疑問や批判が出されたが、政府はまともな答弁をおこなわず、国会閉会日の6月16日午前2時半、自民・公明・日本維新の会・国民民主の賛成、立憲民主・日本共産党の反対で、怒号が飛び交うなか成立した。
報道では「土地規制法」と略称されるが、「重要施設等周辺住民監視法」と呼んだり、戦前の「要塞地帯法」の現代版と解したりする識者もおり、基本的人権の制限や監視を許す法律になりうることに警鐘をならしている。私もその点に同意する。だがここではそれと同じくらい要注意の点を指摘したい。
実は同じ時期に似通った名前の法案が日本維新の会から提出された。これも長い名称だが、「国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制等に関する法律案」である。先の法案と混同しているネット記事も散見されるが、別物である。だが2つを読み比べると、今回成立した法律からは読み取りにくい「国家安全保障上重要な」が急所に見えてくる。なぜならば、市民の基本的人権を制限し、内閣総理大臣に巨大な権力を委任する唯一の根拠は、「国家の安全を守ること」しか見当たらないからである。実際に衆議院本会議の冒頭の趣旨説明で小此木八郎国務大臣(当時)は「我が国の安全保障等に寄与」することが法案の目的だと明言している。それゆえ私権の制限に加えて、国家安全保障の確保という大義の2つをセットで考える必要がある。

虚実ないまぜの土地利用規制法

どういうことか。すでに様々な批判や疑問が投げかけられているが、ここでは特に次の2点を確認しておきたい。
第1に、立法事実の有無である。政府が根拠に掲げた買収例は、2008年10月に産経新聞が報じた航空自衛隊千歳基地周辺の中国資本による森林買収、そして同じく産経新聞が報じた海上自衛隊対馬防備隊周辺の韓国資本によるリゾートホテル購入の2つだ。外国資本の土地買収への懸念が地域と国民に拡がっているため、法案が必要だと政府および与党は強調した。だが防衛省の調査では、全国の基地隣接地の約6万筆のうち外国資本と思われる土地所有はわずか7筆だった。また土地規制を求める「意見書」を提出した地方自治体は、全国千八百近くあるうちの、わずか16件だった。しかも買収例の現場である苫小牧市と対馬市は意見書を提出した16件のなかに含まれないことが審議で判明した。
ここで注意したいのは、立法「事実」が不明瞭で脆弱なのはもちろんだが、かといってまったくの嘘でもないことだ。「7筆」「16件」は数としては少ないが、法案賛成派からすれば「少数でも事例がある」「今後さらに広がる」「だから未然防止で法律が必要」と主張しうる。とはいえ、「2つの買収例」「7筆」「16件」を「全国の多くの自治体や国民が不安を感じている」と答弁するのはあきらかに誇張であり、恣意的な解釈である。まるで1つの町の信号機のない交差点で交通事故が起こった事例から、全国の交差点に信号機を設置せよ、というのと同じ論理である。
第2に、重要施設の機能を阻害する行為(機能阻害行為)の定義がまったくないことは深刻な欠陥である。「未然防止」という言い分を百歩譲って受け止めたとする。だとしたらどのような行為が機能阻害に該当するかはせめて明示化すべきだろう。さもなければ政府が危険とみなした行為はすべて監視と処罰の対象になってしまう。この点はさすがに与党も質疑で指摘しているが、小此木大臣は「本法律施行後に閣議決定する基本方針で例示する」と繰り返すばかりだった。戦前の要塞地帯法ですら機能阻害行為は例示されたのだが、この法律は白紙に近い状態で政府に委ねてしまったのである。(つづく)

※ファクション=ファクトとフィクションを結合した造語

5面

自公政権打倒へ奮闘する大阪、兵庫の予定候補者
大阪9区 大椿ゆうこさん
広い選挙区かけまわる

阪急石橋阪大駅西で街頭宣伝(9月24日、池田市)

広い選挙区を今日は茨木、明日は池田と精力的に訴えて回る社民党の大椿ゆうこさん。福祉関係の大学を卒業後、教育関係職場などで働いていた就職氷河期世代。雇い止めにあい組合の委員長になり、さらに政治を変えようと前回の参議院選に出馬。今回は衆議院選大阪9区から挑戦だ。
 7月4日には茨木市で総決起集会。悪質維新と自民の現職がいる9区で挑戦する大椿さんの応援に府下各地から府議、茨木市議などの議員や労働組合役員、市民運動の仲間など150人が集まった。その後、阪急茨木市駅前に事務所をかまえ、名前と顔を覚えてもらおうと懸命だ。
府下全域から支援の自治体議員が(7月4日、茨木市)
 9月24日(金)は、阪急宝塚線の石橋阪大前駅で街頭宣伝。駅前は細いアーケードの商店街が残る旧能勢街道の交通の要衝。駅西の赤い橋のたもとでマイクを握る。大椿さんは「労働者の切り捨てを許さない! 愛と連帯」のチラシを手に、非正規の問題や、野党共闘の目玉=消費税の問題を訴える。コロナ禍の景気縮小のなか、大企業は儲けを増やし内部留保は475兆円。消費税は3年間ゼロにし企業の内部留保に課税すれば、生活危機突破の財源になると力説。
 筆者が大椿さんを初めて知ったのは2018年秋の関生弾圧反対集会。労組の委員長としてこの弾圧は許せないと発言。その後出獄した武委員長に真っ先に会いレポート。激しい闘いの渦中の数年だ。しかし厳しさの中にも自然体で闘う姿に、大きな期待が寄せられている。どんどん応援に駆けつけよう。

連絡先:茨木市永代町5-116 ソシオ1-1(阪急茨木市駅前 ソシオビル1階)
最寄駅:阪急茨木市駅 徒歩2分
電話番号:072-648-7846

大阪5区 大石あきこさん
維新の天敵、衆院選へ

大型プロジェクターを使って街頭宣伝する大石あきこさん(9月26日、大阪市東淀川区)

橋下大阪府知事(当時)の訓示に抗議の声を上げた府職員として知られる大石あきこさん。2年半前の府議選に大阪の下町十三のある淀川区から無所属で挑戦し、今回はれいわ新選組から衆院選に。大阪5区は東淀川、淀川、西淀川、此花という淀川沿岸の公明党の牙城。
 9月26日は、東淀川区・淡路で街頭宣伝。淡路周辺は阪急電車の高架化工事と駅前再開発のまっ只中で、駅前商店街が分断。東口の2つのアーケードの間で、大型プロジェクターを使って山本太郎型の街頭宣伝。駅からくる人のチラシの受け取りはそこそこ良い。大石さんはれいわニューディールをはじめとする財政出動の話と、自民党総裁選批判を「だれがなっても同じ」とはげしく批判。後半は聴衆からの質問を受けながら進める。
 スタッフも聴衆も若い。その一人は、「結構追っかけてます。福祉関係の職場。年は51歳」という。風体は40歳くらいに見えた(スニーカー履き)が、就職氷河期のはしりの世代なのだろう。質問は「コロナ対策3カ月20万円支給」に対して、財源は大丈夫か。そこは待ってましたとばかりに全面展開。
今後も週1回は大型プロジェクターで街宣し、SNSで発信するという。大石さんと若者たちの奮闘に期待。 連絡先:oishiakiko2018@gmail.com

兵庫8区 つじ恵さん
公明党の牙城に挑戦

壇上に勢揃いしたポスターボランティア=チーム兵庫の仲間たち(9月20日、尼崎市内)

9月20日兵庫県尼崎市で、れいわ新選組の旋風が吹き荒れた。
昼は阪神尼崎駅北の広場で、山本太郎代表がソーシャルディスタンス街宣。れいわ新選組は今次衆議院選を前に、れいわニューディール=「何があっても心配するな、そんな国をあなたと作りたい」「コロナ封じ込め、3カ月毎月20万円を全国民に給付」のマニフェストを発表。山本太郎代表はその説明を連日実施。9月20日は、つじ恵元衆議院議員を予定候補とする兵庫8区(尼崎)で実施。14時から開会だがそれまでにどんどん人が集まってくる。街頭記者会見は菅が退陣表明した9月3日のJR尼崎駅前の時よりも多くの人が集まり、最盛時180人。予定は1時間だったが、どこかの首相と違い最後まで質問に答えていると2時間を超え、16時過ぎにやっと終了した。
 18時15分からは、アルカイックホール・オクトという尼崎で2番目に大きな集会場での「つじ恵の抱負を聞く集い」。開場の17時45分前から続々と参加者がかけつけ、休日の夜というのに230人が参加した。
 開会あいさつは田中淳司尼崎市会議員。つづいて元尼崎医師会長で、今回つじ恵後援会会長に就任した高原周治さん(高原小児科クリニック院長)が会長あいさつ。つづいて阿部知子衆議院議員(立憲民主党)などのメッセージと来賓紹介のあと、応援スピーチが「森友追及」で知られる木村真豊中市議から始まり、れいわ新選組兵庫応援団の10人が壇上に勢ぞろい。その後尼崎市民が応援アピール、つじ恵後援会学生部の大学生3人がアピールと続いた。
阪神尼崎駅前での山本太郎代表のソーシャルディスタンス街宣に多数が参加(9月20日、尼崎市内)

 19時半過ぎ山本太郎れいわ新選組代表が登壇。今回の衆議院選を闘う決意とともに、会場からの質問に答えて、老朽原発を動かすことの危険性や、障害児教育の問題についても的確に応答。参加者はその訴えに共感し、大いに意気が上がった。もう一つのメインはつじ恵予定候補の抱負。これまで大阪府下の選挙区で2期衆議院議員として活動してきたが、今回尼崎を選挙区として選んだ理由をまず表明。そしてれいわ新選組が今回の衆議院選で5議席を取るなら、活発な国会活動を展開しこの国の政治を変えることができ、その次の総選挙で山本太郎を首班とする政権交代につながると力説。
 最後に事務局からボランティアの力で勝利するための行動方針が提起され、「頑張ろう」で集会を終えた。終了後は記念撮影や、ポスター・チラシの持ち帰りが活発におこなわれ、用意した2千部の「れいわマニフェスト」がなくなった。

6面

経産省テント10周年 武藤類子さんの訴え
フクシマは終わっていない
東野 遼

2011年9月11日、脱原発の闘いを進める人々が、経済産業省敷地内に闘いの拠点としてテントを立てた。それから10年、闘いは継続され、この9月11日に「丸10年『脱原発テントひろば』大集会〜フクシマは終ってない、今の福島を伝える〜」が開かれた。約250人が集まった。経産省敷地内に張られたテントは、2016年8月21日に強制撤去されたが、経産省前では毎日座り込みが続けられている。各曜日の担当者の発言があり、座り込み体制への参加が呼びかけられた。
鎌田慧さん、河合弘之弁護士、落合恵子さん、たんぽぽ舎の山崎久隆さん、菅直人議員など多くの発言があった。福島の黒田節子さんと武藤類子さんから今の福島を伝える発言がおこなわれた。ここでは、武藤さんの発言内容を以下紹介する。

経産省前で十周年集会(2021年9月11日)

原発構内で起こっていること

東京電力は、福島第一原発の廃炉に向けた30年〜40年のロードマップを発表しているが、廃炉の最終形も決まっておらず、廃炉のための法律も作られていない。そもそも、現場の放射線量の減衰が必要なのだが、これにどのくらいかかるのかが問題だ。そして、原発の中で何が起きたのか、そして、何が起こり続けているのか、今も未解明であることを指摘した。つい最近、原子炉格納容器のふたの内側に、燃料デブリ並みの汚染源があることがわかった。廃炉作業の見直しに直結する。過酷事故が起こった場合に備えて用意されているはずの配管が根元で途切れていたという不良設計も、わかったのは今年に入ってからだ。そして今年2月13日に発生した余震の後、燃料デブリを冷やしている水位が下がっていることも明らかになった。どこかで漏れ出しているということだ。
東電の安全に対する姿勢は、今でもずさんなままだ。上述の余震で、壊れた地震計を放置したままであったことが明らかになった。また、放射能汚染水を処理するALPSの排気用フィルターが25カ所中24カ所で壊れていたことも、つい最近明らかになった。
そんな中で、現在、収束作業に当たる作業員は一日約4千人、過酷な被ばく労働が続けられている。死亡事故は21件起こっており、けがや熱中症も多数発生している。一般人の原発見学がおこなわれているが、見学台の放射線量50〜100マイクロSv/hの状態だ。高校生の見学もおこなわれているのだが、安全が確保されているとは言えない。

避難者の問題

2012年から徐々に始まった避難解除は、その土地における年間に受ける放射線量が20ミリシーベルト以下という理不尽な基準でおこなわれている。避難解除とともに賠償や住宅支援が打ち切られ、大変な自助努力で生活が再建できた人もいるが、望まぬ帰還をした人や経済的、精神的に追い詰められ困窮している避難者もいる。
国や福島県は、避難者の実態を把握しようとしてこなかった。その中で、公営住宅の追い出しのため、裁判に訴えられたり、2倍の家賃が請求されたり、親族に通知や訪問がおこなわれたりということが起こっている。これは、原発事故被害者が避難の権利を持つ避難民であるという社会の認識や法律がないために起こっている事態だ。

汚染水について

原発サイト内に貯留されたALPS処理汚染水は125万トン。2015年に国と東電が「処理水は関係者の理解なしには、いかなる処分もおこなわない」と約束していた。ところが2021年4月、政府は、一方的に海洋放出を決定してしまった。福島県漁連をはじめ農林業、観光業なども断固反対している。福島県の自治体議会の7割が反対や慎重議論の意見書を出している。ALPSでは、トリチウム(放射線の半減期12年)は除去できず、他の放射性物質も完全には除去できない。
「トリチウムほかの放射性物質に対する経産省、環境省、東電の宣伝の在り方がとてもひどいと思っています。例えば、一般市民や議員、高校生などに、トリチウムが出すベータ線を測れない測定器で、汚染水を測定して、安全を語るなど、とても欺瞞的な方法を用いています。」

汚染土について

除染によつて集められた汚染した土は中間貯蔵施設への搬入が続いているが、2045年までに福島県外に搬出することが、法律で決まっている。環境省は少しでも量を減らすために、汚染された土を再生資材として再利用しようとしている。
「二本松市や南相馬市などで実証事業が計画されましたが、住民の反対で中止された場所もあります。現在は、飯舘村への実証事業がおこなわれています。はじめは、汚染土に覆土しての花などの栽培でしたが、現在は、キュウリやキャベツなどの野菜栽培になり、いつの間にか覆土なしでおこなわれています。」

木質バイオマス発電所について

福島県の再生エネルギー事業の一環として、複数の木質バイオマス発電所が建設されている。森林の除染も兼ねると謳われているが、汚染された木を燃やして発電することの危険性がある。二酸化炭素排出はもちろんだが、汚染された灰の拡散が起こる。
「現在、田村市大越町の市民が裁判に訴え、福島地裁で審理がおこなわれています。また、飯舘村のバイオマス発電所の建設を受注した株主には、東電や関連会社が入っています。」

健康被害

事故当時18歳以下の子どもたちを対象とした県民健康調査甲状腺検査は、現在までにがんとがんの疑いが260人(良性1人を含む)だが、評価部会では「被ばくの影響は考えにくい」としている。「検査の縮小論も繰り返し出てきます。県民健康調査の目的には『原発事故を踏まえ福島の子どもたちの健康を長期的に見守る』とあります。いわき市の市民団体のアンケート調査では80%、〈3・11甲状腺がん子ども基金〉の甲状腺がん当事者対象のアンケートでは90%が学校での検診を続けてほしい、との結果が出ています。今後も検査は続けるべきだと思います。」
「小児甲状腺がん以外の健康被害は、まったく調査されていません。大人の甲状腺がんや悪性リンパ腫、白血病、がん、脳出血などを、身近で耳にします。」そして、黒い雨裁判との連携も提起されている。
精神的な被害として、鬱、PTSDも多くみられると報告されている。福島県の災害関連死は昨年段階で、2313人、自死118人、災害復興住宅での孤独死155人(自死を含む)。

若者や子どもたちをめぐる状況

除染が終了しても、多くの地域は事故前の放射線量には戻ってない。事故によって拡散された放射性物質が環境にあり続ける中で、子どもたちは成長していかざるを得ない。大人は放射能への正確な知識と情報を伝えるべきだが、放射能の危険や事故による被害の実態、事故の責任など最も必要とされる情報が抜け落ちている。「東日本大震災・原発災害伝承館、福島県環境創造センター交流棟(コミュタン福島)などの伝承施設でも、放射線副読本などの資料でも、学生に向けた講座・イベントでも、復興や未来志向だけが強調され、事故の被害や責任を振り返ることをさせていません。そして、国際教育研究拠点の建設や移住事業をおこなって、若者を福島に集めようとしています」

放射線防護の意識と対策の後退

「ここまでお話してきたあらゆる問題を通して、放射線防護の基準や対策は、住民の意識を緩める方向に向いているように思われます。広告代理店が作る宣伝により『拡散された放射能は大したことはなく、大丈夫なんだ』という空気を作り、住民の意識を操作しているように感じます。事故直後から内閣府、各省庁、規制委員会、福島県、自治体が電通や博報堂に様々な事業を発注しています。広告代理店ならではの心に入り込むコピーが作られています。・・・メディアなども巻き込みながら、なぜこんなことに莫大なお金をかけてやるのか。やはり、原子力産業の復興と存続を執拗に狙う人々がいるのではないか、と思います」

イノベーション・コースト構想について

福島県復興加速化計画の一環にあるこの事業には、莫大な復興予算が投じられている。福島県浜通りには、事故前にはなかった多くの大規模施設が建設されている。例えば、ロボットテストフィールド、水素エネルギー研究フィールド、各地の道の駅など。
「復興予算の使われ方が、これで良いのか、と思います。避難者や再生できない中小企業・産業などに使われるべきではないでしょうか。そして、どんどんできる大きな施設の今後の維持費は、復興予算が切れた後、どうなっていくのでしょうか。現に、郡山市に建設された医療機器の開発センターなどは、すでに大きな赤字となっています。」
「被災地にこれから作られる国際教育研究拠点ですが、産・官・学・民が連携して、廃炉や汚染などを研究する巨大な研究都市が計画されています。アメリカのハンフォード核貯蔵所周辺の復興をモデルとし、すでに、いわき市の学生が、元東電福島復興本社代表の石崎芳行氏に引率されてハンフォードを訪問したりもしています。・・・原子力関連産業の台頭と支配が再び被災地域に起こるのではないか、と危惧します。」

責任追及

2度と同じ悲劇が起きないように、同じ困難に遭う人がいないように原発事故が起きた原因、背景などをもっと突き詰め、これからの環境保護に対する人の意識や社会の変革を目指す必要がある。気候変動やコロナなどを生き抜くためにも。
「損害賠償、行政、刑事、株主代表、メーカー、原発差し止めなど、多くの裁判が開かれてきました。これらが互いに連携し、良い判決を導き出して行くことがとても必要だと思います。11月2日には、東京高裁で、東電刑事裁判の控訴審が始まります。変わらぬご支援をよろしくお願いします。」

7面

マルクスの反差別解放理論、またはマルクスの労働者革命実現論(中)
高見 元博

マルクスにおける階級形成論

マルクスは労働者革命の実現のためには、労働者階級内部の敵対的関係を止揚しないといけないと考えていた。その実現方法はどのようなものだったか。

1870・1・1『総評議会からラテン系スイス連合評議会へ』(全集16巻)

「アイルランドの〜現在の強制された合併(すなわちアイルランドの隷属)を、できるなら自由で平等な連邦に、必要なら完全な分離に変えることが、イギリス労働者階級の解放の前提条件である。」と書かれている。
「イギリスがヨーロッパの地主制度と資本主義の堡塁であるとすれば、アイルランドこそは、公的イギリスに対して大きな打撃を与えうるただ一つの地点である。第一に、アイルランドはイギリスの地主制度の堡塁である。それがアイルランドで崩壊すればイギリスでも崩壊することになろう。〜そこの人民がイギリスの人民よりも革命的であり、激怒しているからである。この両国のあいだの強制された合併がなくなったとたんに、〜社会革命がアイルランドで爆発するであろう。〜イギリスのプロレタリアートは、アイルランドにおけるイギリス人地主の権力を維持することによって、彼らをイギリスそのものにおいても難攻不落にしている。」
「第二に、イギリスのブルジョワジーは、アイルランド人の貧困を利用して、貧しいアイルランド人の強制移住によってイギリスにおける労働者階級の状態を低下させたばかりか、プロレタリアートを2つの敵対する陣営に引き裂いた。ケルト系労働者(アイルランド人)の革命的焔は、アングロ-サクソン系労働者(イギリス人)の堅実ではあるが鈍重な性質とは結びつかず、それどころか逆に、イギリスのあらゆる大工業中心地では、アイルランドのプロレタリアとイギリスのプロレタリアのあいだに深刻な対立がある。イギリスの粗野な労働者はアイルランド人を、賃金と生活水準を低下させる競争者として憎んでいる。また、これに対して民族的反感と宗教上の反感をいだいている。・・・。このイギリス自体におけるプロレタリア間の対立は、ブルジョワジーによって人為的にはぐくまれ、維持されている。ブルジョワジーは、この分裂がその権力の維持の真の秘訣であることを知っているのだ。」
「古代ローマがとほうもない大規模で示したことが、今日のイギリスでもくり返されている。他の民族を隷属させる民族は、自分自身の鉄鎖を鍛えるのである。だから、アイルランド問題に対する国際協会の立場は極めて計画的である。その第一になすべきことはイギリスで社会革命をすすめることである。そのためには、アイルランドで大きな打撃を加えなければならない。このアイルランドの(政治犯の)大赦にかんする総評議会の決議は、現在の強制された合併(すなわちアイルランドの隷属)を、できるなら自由で平等な連邦に、必要なら完全な分離に変えることが、イギリス労働者階級の解放の前提条件であることを主張する諸決議を、みちびきだす役をするだけである。」

1869年12月10日『マルクスからエンゲルスへ』(32巻)

「僕が長いあいだ考えてきたことだが、可能なのは、アイルランドの体制をイギリスの労働者階級の興隆によってくつがえす、ということなのだ。僕は絶えずこの見解を、『ニューヨーク・トリビューン』紙上で主張してきた。
より深い研究によって、僕は今ではその反対のことを確信するようになっている。イギリスの労働者階級は、それがアイルランドから免れないうちは、決してなにごとも達成しはしないだろう。槓杆(こうかん・梃子のこと)はアイルランドに据えられなければならない。そうすれば、アイルランド問題は社会運動一般にとって非常に重要なのだ。」

1869年11月29日『マルクスからルートヴィッヒ・クーゲルマンへ』

「私がますます確信を深めていること――そしてイングランド労働者階級にこの確信をたたきこみたいだけのことなのです――、それはイングランド労働者階級がこのイングランドでなにか決定的なことをなしうるためには、アイルランドについての政策を思いきってはっきりと支配階級の政策から分離し、さらにアイルランド人と共同してことを進めるにとどまらず、1801年に結成された合併を解体し、これに変わって自由な連邦という関係を樹立するために主導権を握るようにさえしなければならないのです。
これはアイルランドにたいする同情ということではなく、イングランド・プロレタリアートの利害にもとづいた要求として進めなければならないのです。そうしないならば、イングランド人民はいつまでも支配階級の思うままに引き回されることになる。なぜならばイングランド人民は支配階級と手を組んでアイルランドに対抗するほかなくなるからです。イングランド自体での運動は、イングランド自体でも労働者階級のかなりの部分をアイルランド人が占めている以上、彼らとのあつれきのためにすべて半身不随のままになっています。」

1870・4・9『マルクスからジークフリート・マイヤーおよびアウグスト・フォークト(在ニューヨーク)へ』(ロンドン)

「1870年1月1日に総評議会は、僕が〜書いた、秘密の回状〜を出しましたが、これは労働者階級の解放にたいする、アイルランド民族闘争の関係、またしたがって、国際労働者協会がアイルランド問題にたいしてとるべき立場にかんするものでした。〜簡単にその決定的な点をあげておきます。」
「イングランド人ブルジョワジーはいまのアイルランド経済にもっとはるかに重大な利害関係をもっている。アイルランドは、〜たえずその過剰人口をイングランドの労働市場に供給し、それによってイングランドの労働者階級の賃金および物質的、精神的地位をおしさげている。
そして最も重要なことは! イングランドの産業、商業の中心地ではどこでも、ひとつの労働者階級がいまや二つの敵対する陣営に分裂している。イングランド人プロレタリアとアイルランド人プロレタリアだ。普通のイングランド人労働者はアイルランド人労働者を、生活水準をおしさげる競争相手として憎んでいる。イングランド人労働者はアイルランド人労働者にたいし、自分は支配する側の国民のひとりであるという意識をもってのぞみ、そのために、イングランド貴族や資本家がアイルランドにたいして向ける道具に使われ、それによって自分自身にのしかかっている彼らの支配を固めることになっている。イングランド人労働者はアイルランド人労働者にたいして、宗教的、社会的、また民族的な偏見を抱いている。その関係は、合衆国のかつての奴隷所有諸州でのプア・ホワイトと黒人の関係とほぼ同じだ。アイルランド人はまたイングランド人にしっぺ返しをする。アイルランド人はイングランド人労働者を、アイルランドにおけるイングランド人支配の共犯であり、またばかな道具でもあると考えている。」
この敵対関係こそ、イギリス労働者階級が組織されていても無力であることの秘密なのだ。これが資本家階級の権力維持の秘密なのだ。彼らはこのことを十分に意識している。」
「ロンドンの中央評議会の特殊な任務は、アイルランドの民族的解放がイングランド労働者階級にとって、抽象的な正義とか人道主義的感情の問題ではなくて、彼ら自身の社会的解放の第一条件であるという意識を、イングランド労働者階級の心のうちに呼びさますことだ。」
(横線は原文では傍点)

マルクスはイングランドのプロレタリアートとアイルランド人との対立の止揚を、イギリス政府のアイルランド人政治犯(フェニアン党員)に対する獄中での弾圧――残虐な虐待と拷問により少なくとも20人以上の死者と精神錯乱者を強制していた――に対してイングランドのプロレタリアートが闘い「大赦」を要求することと、諸国にこの弾圧の事実を知らせることを通して実現しようとしていた。
マルクスはイングランドのプロレタリアートが差別意識をまったく乗りこえられていない結果として、プロレタリアート内を含む被差別人民・被抑圧民族人民から全く信頼されていない現実をまず乗りこえることが必要だと提起した。マルクスは国際プロレタリアート人民(労働者階級と被差別・被抑圧人民の総体)は、単一の敵である国内的な――国際的な――ブルジョワジーとの闘争に勝利するには、まず破壊されている団結をとりもどす必要があると考えた。(つづく)

8面

生活保護裁判
大阪高裁、実質審理へ

雨の中引き下げアカン」の横断幕をかかげ行動する仲間たち(9月14日、大阪)

国の意見陳述からスタート

9月14日午前、生活保護裁判の控訴審第1回弁論が大阪高裁で始まった。控訴審は書類審査だけで初回弁論で結審し事実調べをしないことが多いが、本件では事実調べ、さらには証人尋問も予定されているという。名古屋高裁の控訴審は書類審査で終わる予定だったが、大阪地裁の勝利判決が伝わり、名古屋高裁も急きょ事実調べをおこなうことになった。大阪での勝利が大きな影響を与えた。
控訴審の今後は、来年の3・4月迄には双方の主張が出尽くし、その後は証人尋問となり、5月か6月には判決となる可能性が高い。実質審理をおこなうことになったのは、原告や弁護団、支援の闘いと、大阪高裁(山田明裁判長)が生活保護基準引き下げ違憲訴訟の重大性を認識しているがゆえと思われる。
弁論は一審で敗訴した国の意見陳述から始まった。控訴審で国が主張するのを初めて聞いたという弁護士が多かった。なぜなら、ほとんどの行政裁判では国の勝訴で、今回は国が敗訴だから国の主張から始まった。

驚くべき主張

国は、「一審の大阪地裁判決は厚生労働大臣の判断の具体的内容に入り込みすぎている。裁判所は厚生労働大臣の判断の内容に入り込むな」という驚くべき主張をしてきた。国は、なぜこういう主張をしてきたのか。保護基準引き下げの根拠は物価下落であるが、国はその計算において必要な品目を抜き、不必要な品目を加えて計算しているからだ。国は、下げ幅が大きくなるような計算をし、物価を所管している総務省の数値の2倍以上に物価が下落したとする計算をしたことを認めている。裁判所が厚生労働大臣の判断の内容に具体的に踏み込むと、引き下げの内幕とそのでたらめさが白日の下に明らかになるからである。

1時間半におよぶ審理

原告代表として小寺アイ子さんが意見陳述。裁判官に語りかけるように訴えた。小寺さんは「引き下げられた今の基準では『健康で文化的な最低限の生活』ができない」「心にゆとりがもてるようになるために裁判闘争を闘っている」「2013年の引き下げ前に戻してほしい。原判決を維持するだけでなく損害賠償も考えてほしい」。
次に、小久保哲郎弁護士と大阪大学大学院の非常勤講師でもある伊藤建弁護士が弁護団の主張をパワーポイントを使っておこなった。伊藤弁護士は「4・78%もの引き下げをした厚生労働大臣の判断は生活保護法が求める要保護者の実際の需要の減少に基づいているのかどうか」が司法審査の対象であって、裁判所はそこに具体的に切り込み判断すべきであると説明した。物価の大幅下落は厚生労働大臣がでっち上げたものだ。そんなものが裁量権の範囲内であるはずがない。焦点はここに絞られてきている。

報告会

引き下げアカン! 大阪の会の原告代表である山内一茂さんは「やっと裁判らしい裁判に出会えた。伊藤弁護士の弁論に胸が熱くなった。これなら勝てる。勝たなくてはならない。がんばりましょう」と勝利への決意を述べた。次回は来年1月27日だ。
11月5日に金沢地裁で、12月16日には神戸地裁で判決が出される。決して楽観はできない。だからこそ今回、大阪高裁が実質審理に踏み切ったことはきわめて大きい。
コロナ禍は女性、非正規雇用労働者、中小零細事業者等を直撃している。自助努力でコロナ禍を乗り越えられるはずがない。生活保護基準引き下げ違憲訴訟の闘いは、コロナ禍で苦しむすべての人たちとともにこの社会を変える闘いと表裏一体である。

マルクス『資本論』に学ぶ(2)
利子生み資本とは何か(下)
松崎五郎

〈解説・意見〉承前

宇野弘蔵氏の誤り

E 宇野弘蔵は、マルクスが明らかにした利子生み資本論をことごとく否定しています。 @の貨幣の3規定では、マルクスが「流通手段・貨幣資本・架空の貨幣資本」としているのを、宇野は「流通手段・資金・貨幣資本」としています。架空=必要ないを否定し資本を擁護したかったのでしょう。Bの貨幣資本は産業資本の循環の内か外かでは、マルクスは明確に外部と言っているのに、宇野は内部だと主張しています。これも、外部=必要ないを否定したかったのでしょう。Cの利子が利潤を超えるのは、労賃が高くなって利潤が減るからだと宇野は主張していますが、それは過剰生産に陥り利潤そのものが減小し利子率が高騰したからだというマルクスの論理を否定するものです。
総じて、宇野弘蔵の主張は、マルクスの説を否定しブルジョア的考えを、というか資本の存在を是とするものです。いまだ宇野の説が正しいと思っている人は、考え直してほしいと思います。
わが革共同(中核派)に宇野説を持ち込んだのは清水丈夫です。おそらく、共産党=スターリン主義を否定するための権威が必要だったのでしょう。70年頃、学生戦線を中心に宇野の『経済原論』を読まねばという雰囲気が蔓延していました。そう言うなら『資本論』を読もうとなぜ言わないのかと、当時疑問に思っていました。この疑問に私自身答えが出せたのは30年後です。『資本論』理解では共産党も宇野もどちらも誤っていると判明したからです。

貨幣資本はいらない

F 結論として言えることは、(貸付)貨幣資本は、架空の貨幣資本はもちろんのこと、まったく生産活動にとっては要らないということです。それ以上に、機能資本・産業資本から無慈悲に利子を取って倒産に追い込むのですから、なくさねばならないのです。(おわり)

(シネマ案内)
「大地と白い雲」
(監督:王瑞 2019年 中国)

 原作は漠月(内モンゴル出身)の「羊飼いの女」。中国東北部のフルンボイルの草原は、内モンゴル自治区北東部、モンゴルとロシアとの国境地帯に広がる。厳しい自然条件ではあるが、かつて遊牧民たちは草原を移動しながら馬と共に生きてきた。
この草原の中に、ぽつり一軒家が建っている。物語はここから始まる。一組の若い夫婦が、羊飼いをしながら生計をたてている。夫のチョクトは、青い空に浮かぶ白い雲を見上げ、都市での生活を夢想。チョクトは毎日の単調な生活ではなく、もっと広い世界を体験したいと思っている。しかし、妻のサロールがこれに反対。サロールは草原の生活をこよなく愛し、たとえ不便であってもここで生きていく決意だ。お互いに相手を大切に想いつつも、この点で夫婦の思いは食い違い、いつもぎくしゃくしている。
 今日、遊牧民の生活は、近代化のなかで急速に変化。チョクトが小さかった頃には、一家は遊牧をしながら草原を移動。今では、遊牧民が定住化。誰のものでもなかった草原は、鉄線で囲い込まれ、個人の所有に。移動の主流はバイク、四輪駆動車に。スマホも広がっている。
 たしかに生活は便利になりつつあるが、遊牧民の生活様式はおおきく変わってしまった。馬に乗って大地を駆けめぐり、放牧場のなかで「馬追い」をすることもなくなった。チョクトは外の新しい世界に夢をもっている。それは遊牧民の生活が押しとどめようもなく変えられることへの苛立ちでもあるのだ。
 「一帯一路」構想のなかで、この地域はますます開発が進み、地下資源が開発され草原の中で風力発電機がまわっている。草原に高速道路が建設され、高層ビルと高層住宅、都市化の波が押し寄せてきている。
 このような急速な生活様式の変化、文化的な価値観の変化にたいして、遊牧民たちはその対応にとまどっているように思える。そのなかで、この物語は遊牧生活を続けていきたい妻のサロールに想いをよせて描かれているが、映画ではサロールの心はじゅうぶんに語りきれていない。ここは不満が残るところだ。
 中国の近代化政策のひずみは少数民族におおきな犠牲を強いている。そもそも内モンゴルと外モンゴルに分けられていること自体がモンゴル民族にたいする分断政策なのだ。内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区、チベット自治区。この少数民族がどのように解放されるのか、ここに中国人民の未来がある。厳しい精神状況のなかにおかれつつも、内モンゴル自治区に住みつづけるモンゴル人民の想いに耳を傾け、未来世界をさぐっていきたい。(鹿田研三)