未来・第296号


            未来第296号目次(2020年6月18日発行)

 1面  人種差別反対 声あげる
     大阪・梅田を千人がデモ
     6月7日

     沖縄県議選
     デニー与党が過半数維持
     新基地反対 民意ゆるがず

     関生弾圧
     武委員長 湯浅副委員長をついに奪還
     反転攻勢”の第一歩

 2面  過半数維持、民意が評価
     普天間、辺野古が争点に

     【定点観測】(5月15日〜28日)
     安倍政権の改憲動向

     伊丹市議会
     コロナ禍で質問時間圧縮
     市民の声遠ざける暴挙

     読者の声
     医療者の奮闘で、入院ゼロに
     第2波への備え不十分
     大阪 西脇久子(医師)

 3面  再処理工場を稼働させてはならない
     ―新規制基準に「適合」を与えた原子力規制委
     津田 保夫      

     いま読みたい名著 B
     金石範『火山島』全7巻
     文藝春秋社     

 4面  〈寄稿〉
     資本主義における人口のメカニズム
     愛知連帯ユニオン 佐藤 隆

 5面  日本軍「慰安婦」問題
     30年の歴史を蹂躙させない


     水島 良

     ロックアクション有志で街宣
     コロナ禍での生活補償求める
     6日 大阪

 6面  現代中国社会の内側からA
     南海ホンダ部品のスト
     戸川 力

     連載
     命をみつめて見えてきたものN
     人間絶対化の近代科学
     有野まるこ

     原発マネー不正還流問題
     関電役員らを追加告発

       

人種差別反対 声あげる
大阪・梅田を千人がデモ
6月7日

今年5月25日、アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警察官に拘束され、その場で虐殺された。それにたいする抗議の行動が、ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)という世界的な大運動(注1)として広がっている。6日には東京・渋谷で、7日には大阪で抗議のデモがおこなわれた。

Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)をかかげて集まった人たち(7日 大阪市内)

世界のうねり

集合時間のかなり前から、大阪市中心部の中之島公園・女性像前(大阪市役所南)には、メッセージボードを持った人たちが溢れていた。おそらく千人は超えているだろう。アフリカ系アメリカ人、白人、アジア系といった滞日・在日外国人の人びと。年齢層も20代から30代が大半。日本人(と思われる人)が約2割ほど。大半の人びとが、直前のフェイスブックやツイッター上の告知で集まってきているようだった。
ここはどこの国か、こんなにたくさんの外国人がどこにいたのかと驚いた。それは、アメリカをはじめ世界で沸き起こっているブラック・ライブズ・マターの大きなうねりが、遠くの出来事ではなく、目前の事態となっているということだった。
集会・デモを取り仕切っているのも、ブラック・ライブズ・マター・KANSAIという名前で運動をしている滞日・在日外国人の人たち。日本語で話す人もいれば、英語の人も。また、日本でデモをおこなうことには、まだあまり馴れている感じではなかった。そういう人たちが、意を決して、デモをやろうとしたということだ。
デモは、中之島公園・女性像前を出発、アメリカ領事館をへて西梅田公園までの約1時間。デモのコールは、「ブラック・ライブズ・マター」「黒人の命は大切」「黒人の命を守れ」、「ノー・モア・レイシズム」「人種差別に反対」、「セイ・ハー・ネーム(彼女の名を告げよ( 注2)」など。

みんなが動き出した

アメリカ・ワシントンDC出身で滞日10年になる女性の発言を紹介する。
「こんなに集まってくれてありがとう。私たち、黒人のことを心配してくれる人が、こんなにいてくれることがうれしい。今回の事件に驚きはない。またか…と。繰り返し、繰り返しおこなわれてきたことだから。でも、今、アメリカでも、家族や友人たちが、みんな動き出している。みんなの力が集まってきている。『知ってほしい』『ダメだと言ってほしい』と」 「今日、日本の皆さんが参加してくれたことがうれしい。これまで周りの日本の友人たちに差別のことを話してきたけど、『そういうこと、分からないから』と引かれたりしてきた。この2年ぐらい、この運動をやってきて、ずっと訴えてきたけど、なかなか通じなかった。でも、今日、こんなにたくさんの人が、いっしょに声をあげてくれたことが本当にうれしい。しかし、今日で終わりではない。友だちでも、誰でも、差別はいけない。その場で『それはおかしい』と抗議しないと差別はなくならない。是非、今日からそうやってほしい」

(注1)ブラック・ライブズ・マター運動の発端は、2012年2月、フロリダ州で黒人少年のトレイボン・マーティンさんが、警察官に射殺された事件。SNSで拡散し、運動化している。
(注2)セイ・ハー・ネームは、今年3月13日、ブリアンナ・テイラーさんが警察によって射殺された事件に関して、事件と彼女の存在を訴えるという意味。

沖縄県議選
デニー与党が過半数維持
新基地反対 民意ゆるがず

6月7日投開票の沖縄県議選(定数48)では、玉城デニー知事を支える県政与党が過半数の25議席を確保。投票率は過去最低の46・96%。与党は1議席減らす厳しい選挙戦となった。玉城知事は「辺野古新基地反対の姿勢は変わらない」と強調した。(詳報は2面) 

関生弾圧
武委員長 湯浅副委員長をついに奪還
反転攻勢”の第一歩

「保釈された武委員長。となりは大椿ゆうこさん/『関西生コン弾圧事件ニュース 36号』より」

5月29日夜、連帯ユニオン関西地区生コン支部・武建一委員長が大阪拘置所から保釈奪還されたのに続き、6月1日、京都拘置所から湯川裕司副委員長が奪還された。武さんは641日、湯川さんは644日の長期勾留で、この数カ月間は拘置所内は新型コロナ感染の危機にさらされていた。
2人の最初の逮捕は2018年8月28日だった。その後、約1年間で、武委員長は6回、湯川副委員長は8回もくりかえし逮捕された。「関西生コン事件」では、関生支部の組合員と事業者がのべ89人逮捕され、71人が起訴されるという、組合活動を理由とした刑事弾圧事件としては戦後最大規模の事件である。
 「繰り返される連続逮捕、転向強要、家族攻撃など、拷問以外は戦前の特高警察による共産党弾圧と同様のやり方が関生弾圧ではおこなわれている」(関生弾圧事件弁護士)。
 今回の2人の保釈で全員の奪還が実現した。今年元旦の大阪府警包囲闘争では〈反転攻勢〉を打出し、それが反弾圧闘争のキーワードとなった。この2年余の反弾圧闘争を集約する闘争として、4月28日から1カ月間にわたる京都地裁を舞台とする奪還行動が取り組まれた(本紙294号と295号で既報)。コロナ自粛情勢の困難を突き破って、京都の仲間たちが10日間の緊急保釈要求連続行動を決断し、実行した。この決断が全国の力の結集を生み、実力でもぎり取った2人の奪還だった。
 「山が動く」と言う言葉を実感した1カ月間だった。森友学園事件で自殺した赤木俊夫さんの連れ合いの告発、900万を超えた検察庁法改悪反対のツイッターデモなどが政権をゆるがしている。こうしたうねりのなかでの奪還だ。政治の流れが変わりつつある。関生反弾圧闘争にとってこれは反撃の第一歩である。保釈条件の緩和、裁判闘争、労働委員会闘争の勝利へむけた6月のたたかいが始まった。中断していた裁判闘争も大津、京都、大阪で始まる。
 6月21日には「シンポジウム 〜今、見逃せない労働組合弾圧〜」が開かれる。コロナ情勢下で停滞した労働運動が、憲法28条を再定義し、社会的労働運動をめざす取り組みだ。独立系労働組合による労働生活相談にはリーマンショック時を上回る相談が寄せられている。労働運動の再登場は社会の要請である。(森川数馬)

6/21シンポジウム〜今、見逃せない労働組合弾圧〜
とき:6月21日(日) 午後1時半 開場
          午後2時 開会
ところ:学働館(事前申し込み先着100人)
申込先:sodan@mu-kansai.or.jp
(6/18締め切り)
パネラー:永嶋靖久(弁護士)/亀石倫子(弁護士)/竹信美恵子(ジャーナリスト)/吉田美喜雄(立命館大名誉教授)
コーディネーター:大椿ゆうこ
ライブ配信:https://youtu.be/ce_wyXDfHz8
主催:労働組合つぶしの大弾圧を許さない実行委員会



2面

過半数維持、民意が評価
普天間、辺野古が争点に

6月7日、沖縄県議会選挙(定数48)が投開票された。玉城県政与党は25議席を獲得、過半数を維持し勝利した。コロナウイルスの感染拡大の懸念から選挙活動は制約を余儀なくされ、沖縄県議会選挙も影響を受けた。投票率は過去最低の46・96%であった。
与党は前回より1議席減らした。しかし、辺野古新基地建設反対の民意は揺るがず、当選者の29人が基地建設反対を表明。与党25人、公明2人、保守系無所属2人。選挙前の県議会構成は与党26議席、野党が14議席、中立6議席だった。
玉城知事は「過半数を維持できたのは民意に一定の評価を頂いたのかと思う。議席を減らすという状況をふまえて、真摯に県政運営に当たっていきたい」と述べた。
第13回沖縄県議会選挙は、5月29日に告示され、13選挙区に64人が立候補。うるま市(定数4)、浦添市(同4)、名護市(同2)、石垣市(同2)の4選挙区は12人が無投票当選。残る9選挙区で52人が争った。
今県議選は、与党が多数を占める議会構成が維持されるか、変動するかが焦点だった。
選挙結果は玉城デニー知事の県政に直結するほか、2年後の県知事選にも大きく影響する。今選挙で主要な争点となったのは、米軍普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古新基地建設に対する是非だ。現在国は移設工事を推し進めているが、辺野古移設反対掲げる玉城デニー知事を支える与党の各候補は普天間飛行場の即時撤去や県外、国外への移設を訴えた。
一方、野党の自民党は「辺野古移設はやむを得ない」との姿勢を明確に打ち出し選挙に臨んだ。自民党が辺野古容認に言及して県議選に挑んだのは今回が初めて。(杉山)

【定点観測】(5月15日〜28日)
安倍政権の改憲動向

5月15日 安倍首相がインターネット番組に出演。櫻井よし子から、「総裁任期は、あと1年ちょっと。後継もあまり信頼できない」と意欲を問われ、「私としては、何とか成し遂げたい」と意欲を示し、「次の総裁も、しっかりチャレンジしてもらえると確信している」と述べた。昨年12月「必ずや私の手で(憲法改正を)成し遂げたい」としていた発言の実質撤回した。
5月28日 今国会初めての衆院憲法審が開かれた。昨年11月以来、半年ぶり。国民投票法について自由討議をおこなったが、自民の意向「衆院だけでも採決」どころか6月に開催できる見通しはゼロ。この日は、自民が早期採択を主張し、立民など野党は政党CM規制強化と、影響力が広がっているネット広告規制について意見が出された。
「国民投票法改正案を早急に質疑、採択し、その後にCM規制論議を」(自民・新藤議員)、「改正案の速やかな成立が国会の責任。ネット広告規制は現実的に困難。政党側が自主規制を」(公明・北側議員)、「資金量の多寡が影響を与える。フェイクニュースの流言飛語にも対応策が必要」(立民・山花議員)、「憲法改正という重大事が、AIによって意志決定される懸念がある」(無所属・山尾議員)、「政党CMを全面禁止する改正案を並行審議し、ネット広告規制のヒアリングも必要」(国民・玉木議員)、「最低投票率、CM規制に触れずに改正案成立は許されない」(共産・赤嶺議員)など。
ようやく開かれた衆院憲法審だが、野党側には「譲る必要はまったくない」という意見もあり、以後の審議はもちろん採択もありえない。国民投票法の問題点は、@テレビ、ラジオ等の広告の野放し。資金力で圧倒する側に断然有利な印象操作ができる、A最低投票率の規制なし。投票率50%なら過半数25・1%で改憲可能(無効票等を含めれば、さらに低くなる)、B9条、教育など個別項目について検察庁法改正を「束ね法案」にしたように、何でもありの可能性もある。
検察庁法改正案に、元検察トップОBらが提出した異例の意見書は、「内閣の裁量で次長検事および検事長の定年延長が可能とする内容であり、前記の閣僚会議によって黒川検事長の定年延長を決定した違法な決議を後追いで容認しようとするもの」と指摘。本来、国会の権限である法律改正を無視し、内閣が法解釈運用をおこなうなら三権分立の否定につながると厳しく批判。
新型コロナウイルス対策の「持続化給付金」を電通やパソナ、トンネル法人へ丸投げ。2次補正に予備費10兆円とした(国会での説明を避けるねらい)。安倍首相は検事長問題も、2次補正についても答弁は担当閣僚へ、これまた「丸投げ」した。
憲法第83条「国の財政を処理する権限は、国会の議決(当然、十分な質疑の上)に基づく」と明記されている。野党は「新型ウイルス対応のため臨時国会の開催」を求めたが、明言を避けた。今国会の延長要求にも(9日、衆院予算委)、「国会が決めること」と逃げた。6月17日の通常国会終了で蓋をするなら、それ自体が憲法軽視どころか、憲法違反そのものだ。

伊丹市議会
コロナ禍で質問時間圧縮
市民の声遠ざける暴挙

兵庫県伊丹市議会は2月27日に全国一斉休校が発表されるや3日間の休会に入った。理由は「教育委員会などが議会質問に答える余裕がない」だった。
ついで3月9日からの各会派の代表質問・一般質問を閉会とし、質疑応答をすべて文書でのやりとりにした。議院運営委員会では、議長と与党会派と公明党などは、伊丹市にコロナ感染が発生したことを理由に、「緊急事態、対応に意見が分かれるこの問題は議長一任」として、3月議会を文書交換で済ましてしまった。緊急事態宣言が解除された6月議会では、これらの可否が論議の対象となったが、今度は質問時間を1人50分から40分に制限する始末。
3月に審議を遅らせた隣接の尼崎市議会は、6月議会では、「密集を避けるために、定足数に差し障らない範囲で議員に退席をいただきたい」とし、質問時間も大幅に短縮し、通例3日間の議会を1日で閉会した。ここでも議長と、市長与党会派の強引な運営で決済されたという。
また「コロナ禍で議員が率先して身を切る改革を」と称して、阪神間の各市や兵庫県議会で6〜9カ月間にわたって歳費の5%削減などがおこなわれている。議員の歳費は自治体ごとに違うが、教員から伊丹市議になった人は「給料が減った」と証言。コロナ禍が公務員並みの賃金を削減する理由になるはずはない。
3月伊丹市議会では、伊丹市民病院と公立学校共済組合近畿中央病院(写真上)の統合が最終決済されることになっていた。近畿中央病院は赤字を抱えていたが、高度医療設備を備え、感染症病棟も持っていた。それを統合して合わせて800床を600床に削減する計画だったのだ。最終案が議会で決定される前にコロナ感染症が襲ったため、感染症病棟を持つ近畿中央病院を廃止して良いのか見直す意見が出てくる。それをしたくなかったから議会を開会しなかったというのが本音であろう。
コロナ禍が一段落し、第2波への備えが言われている中、厚生労働省は昨秋発表した全国の公立医療機関424病院の統廃合計画の見直しや、この10年間で全国の保健所を半減させたことの反省が迫られている。またPCR検査態勢の全面整備はこれからの課題だろう。地域医療を守るために地方自治体と地方議会の役割は大きい。審議期間や質問時間を短縮し、議員活動に制限を加えることは、市民の声を行政から遠ざける議会の自殺行為と言わねばならない。 (展)

読者の声

医療者の奮闘で、入院ゼロに
第2波への備え不十分

大阪 西脇久子(医師)

5月21日の関西3府県での緊急事態宣言解除を前後して、兵庫県では感染者が大きく減少し、その後ゼロの日が続いています。私の勤務する病院もコロナの入院患者はどんどん減り、5月末でいなくなりました。元々7床の感染者ベッドがある(全体で730床)県指定医療機関だったのですが、3月中旬から感染者がどんどん増え、それに併せて入院者が増加し、最大時は30人ほど入院患者がいました(トータル数は正確ではないが約100人くらい)。
そのため通常の感染症対応では間に合わず、他の診療科からの医師・看護師の応援態勢が築かれ、病院の1フロアーの半分(1病棟)がコロナ専門病棟になり、多くの看護師・医師が感染症病棟入りしました。感染症病棟に入るには医療用のガウンを着るなど最大の防御態勢が取られるのですが、それでも4月中旬〜5月初旬頃はいつ医療者が感染してもおかしくないほどの切迫感がありました。
また病棟を出ても基本は同じ体制で、昼食時以外ガウンを着てマスクを外すことのない日々が続きました。重症者は数人でしたが、応援態勢を取ったため他の診療科の予定手術・緊急手術とも従来の3割ほど減少し、予定手術はまだ従来の件数に戻っていません。
今一つの県指定の神戸中央市民病院では院内感染が多数出て大変だったのですが、私の勤務する病院では初期に2人の感染者が出たものの、応援態勢を組んで以降は一般入院患者も医療関係者も感染することはなく、一息ついている所です。
この過程でコロナ対応の現実的な院内マニュアルが作成され、発症・入院にあわせ随時運営体制が組めるようになっています。それでも現在も医療用ガウンが不足しています。まだマスクも十分ではないため、1人1日1枚の制限があります。
県のコロナ対応に関しては、一般の医療従事者が知ることは無く、県のおかげでマスクが増えた・コロナ手当てが増えたと思っている人はほとんどいないのでは。ちゃんと対応したよとアピールしないと気づくことはないと思います。
大阪府知事はメディア戦略に長けており、メディアを通しての一般人受けがいいのだと思います。兵庫県は感染者が大阪府の4割弱(人口は6割)で、大阪以上の対応がされたのに、官僚出身の知事のテレビでの緩急をつけない話し方は、内容が良くても、県と県民・医療従事者が頑張ったことが一般の人には伝わらないのではと思います。
一番気になるのは、私たちは頑張った意識はあるのですが、近隣の公立病院、市中のクリニック・医師会などの動きが見えてこないことです。今後ますます相互連携が重要と思うのですが、誰が責任者・司令塔なのでしょうか。また検査体制ですが、阪神間ではテントを張っての発熱外来はしたのか、保健所は大変だったのでしょうがPCR検査は増えたのか、今後の備えは十分なのかも判りません。
最後に病院全体で抗体検査をしてみて、実際どれくらいの割合の人が抗体を持っているのかが判れば、今後の医療に大いにつながるのではと思います。

3面

再処理工場を稼働させてはならない
―新規制基準に「適合」を与えた原子力規制委
津田 保夫

「六ヶ所再処理工場が新規制基準に「適合」している」。5月13日、原子力規制委員会はこんな判断を示した。安倍政権は、原発再稼動とともに老朽原発の40年超え運転をもくろみ、ますます福島第一原発事故以前の原発推進に戻している。福島原発事故をなかったことにしてはならない。安倍政権にたいして「核燃料サイクル廃止、再処理工場稼働するな」の声をあげていこう。

核燃料サイクルとは何か

1985年、青森県六ヶ所村に核燃料サイクル基地建設が決定された。それから35年がたとうとしている。ウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設センター、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、その中核施設が再処理工場だ。
再処理工場では、使用済み燃料を再処理して、プルトニウムとウランを取り出す。使用済み燃料には約1%のプルトニウムが含まれている。ウランは燃え残り≠再利用するというもの。取り出したプルトニウムは、ウランと混合してMOX燃料に加工して、無理やりに原発で消費する。これだけみれば、資源の有効利用で、よい事のように思える。じつはそうではないのだ。放射性物質の拡散とプルトニウムの保有という厄介な問題が存在している。
現在、六ヶ所村の貯蔵庫に使用済み燃料が2968トン保管されており、ほぼ満杯になっている。これ以上、六ヶ所に運び込むことができなくなっており、残った使用済み燃料は各地の原発内で貯蔵されている。このように、原発からの廃出物のことは何も考えずに、電気(利潤)をつくり出すためにだけ原発を動かしている。

再処理工場とは

再処理工場は1993年に着工し、97年に完成する予定であった。しかし、今日においても本格操業に至っていない。建設費は、計画では約7600億円であったが、すでに4倍の約2兆9000億円に膨れ上がっている。この費用は電気料金に組み込まれている。
計画では、1年間に800トンを再処理して、8トンのプルトニウムを分離することになっている。いっぽう、再処理工場は「原発1年分の放射能を1日で放出する」と言われている。住民にとって、ここが最大の問題だ。
2006年3月31日、日本原燃はアクティブ試験(試運転)を開始している。計画では、2009年2月にアクティブ試験を終了し、すぐに本格操業に移る予定であった。しかし、廃液もれなどの事故が続出。2009年以降はアクティブ試験を中断した。さらに、2011年3月に福島第一原発事故がおきた。現在、日本原電は完成時期を2021年4〜9月としている。たとえ国の新規制基準に「適合」したとしても、プラントが稼働するまでにはさまざまな課題が残されているのだ。
アクティブ試験がどうしてうまくいかなかったのか。じつは、ガラス固化工程がうまく作動しなかった。2013年に、やっと技術的な課題を克服し、安定してガラス固化作業をおこなうことができるようになった。
日本原電は事故を過小評価し、これを隠している。「アクティブ試験の延期」と発表しているが、実態はガラス固化工程のトラブルや廃液漏れなどの「事故による操業停止」なのだ。高速増殖原型炉「もんじゅ」事故の場合と変わらない。すでに10年以上も運転が中断された状態になっており、はたしてプラントが正常に動くのだろうか。また、再処理工場近くに活断層が存在することが渡辺満久氏らの研究グループによって報告されている(2008年5月)。「もう再処理工場は動かせない、閉鎖する以外にない」というのが、現場の正直な声だ。
ここで再処理工程をみていく。@使用済み燃料をぶつ切りにして、高温の硝酸に溶かし、ウラン・プルトニウム・死の灰≠フ混ざった硝酸溶液にする。Aこの硝酸溶液から死の灰≠分離する。これを600℃の高温で酸化物状態にしてガラス原料と混ぜあわせ、ステンレス容器に流し込む。これがガラス固化体だ。放射線量が低くなるまで空冷の常態で貯蔵する(30〜50年間)。その後、高レベル放射性廃棄物として、地層処分にする。Bウラン溶液から硝酸を抜きとって、酸化ウランの粉末にする。Cプルトニウム溶液はウラン溶液と1:1の割合で混合したのち硝酸を抜き取り、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)粉末にする。
このように、再処理工場は巨大な化学プラントなのだ。配管の総延長は1500キロに達する。各工程から、気体、液体、固体の状態で放射性物質が放出される。特に、クリプトン85やトリチウムが大量に放出される。また、熱濃硝酸を使用するために、金属配管が腐食し、漏液や爆発をおこしやすい。再処理工場は技術的に困難な課題をたくさんかかえているのだ。

再処理は必要なのか

「もんじゅ」が廃炉になり、すでに高速増殖炉計画は破綻している。プルトニウムの使い道はなくなった。現在、日本は約46トンのプルトニウムを保有している。プルトニウムは原爆の材料になることから、日本のプルトニウム保有が国際的に懸念されている。この批判をかわすために、日本政府は高くつくMOX燃料をわざわざ作って、プルサーマル運転と称して、プルトニウムを消費しようとしている。
現在、使用済み燃料を再処理しているのは、日本以外にフランス、ロシア、インドなどの国だ。中国はフランスの技術を導入して再処理工場を計画しているが、ドイツ、イギリスはすでに再処理工場を閉鎖した。経済的には、ワンス・スルー(直接処分)で使い捨てにするのがいちばん安くつく。アメリカはそうしている。
プルトニウムを使った発電計画は展望がなくなっている。では、いったい日本はなぜ核燃サイクル、プルトニウムの取り出しにこだわるのだろうか。日本原燃は「再処理事業が著しく困難になった場合は、使用済み燃料の施設外への搬出などの措置を講ずる」との覚書を青森県と結んでおり、再処理をやめるわけにはいかないという事情もある。国家官僚は国策の誤りを認めないという事情もあろう。しかし、根本的には戦後一貫して日本政府が抱いている核保有の夢、いつでも核武装できる準備をしておく政策にあるのだ。

核燃サイクルを廃止しよう

原発を動かせば使用済み燃料が生じる。これに含まれる高レベル放射性廃棄物はどう処分するのか。日本ではこのことが決まっていない。これが解決できないままに、原子力発電をおこなっている。ここが最大の問題なのだ。あとさき考えなければ当面は安く見える原発電気で利潤を得て、その先に起こることは無視して原発を動かしている。これは「トイレなきマンション」に住み続けているのと同じではないか。
どうも、原発を動かすことを前提にして、議論されているようだ。けっして難しい事ではない。使用済み燃料を出さないためには、原発を動かさなければよい。原発を稼働させなければ、これ以上使用済み燃料は増えない。
原子力規制委員会は、事実上、経産省の下請け機関になりさがり、原子力政策を推進している。「3・11」以前の原子力安全・保安院となにも変わらない。こんな原子力規制委員会の勝手な策動を許してはならない。東京高検の黒川弘務検事長を検事総長にすえるために、安倍政権は検察庁法を改悪しようとした。人民が批判の声をあげなければ、こういうことまでおこなう政権なのだ。民衆を愚弄する政治にたいして、異議申し立ての声をあげることが重要だ。原発と再処理工場は、われわれの生活にとっては「不要不急」な存在だ。原発も再処理工場もいらない。

いま読みたい名著 B

金石範『火山島』全7巻
文藝春秋社

1948年3月から1年余り、朝鮮半島の済州島で民衆に支えられた武装蜂起が展開されました。アメリカが南北分断の固定化を意図して、南だけの総選挙を実施しようとしたことへの抵抗でした。
このたたかいで全島民28万人のうち3万人が虐殺されました。そのため島民はもとより、命からがら日本に「密航」してきた人たちも、半世紀近くの間、固く口を閉ざして何も語ろうとしませんでした。本書によって初めて世の中に明らかにされたのです。
済州島は古来、本土の政治犯の流刑地として差別され、反骨精神の強い土地柄でした。島民は南朝鮮労働党を絶対的に支持していました。
主人公は反日感情が強く、小学5年のとき奉安殿(天皇皇后の写真を安置)に放尿し、退学処分のうえ島を追放されました。日本留学中、治安維持法で検挙され、京城(現ソウル)の刑務所に移送。1945年の「解放」後、南労党に勧誘されますが、組織の決定に絶対的服従を強いる「北」の共和国と同じニオイを感じ、入党せずシンパとして支えます。
アメリカはかつての朝鮮総督府の機構と親日派の役人を、そのまま継承しました。「北」から流れてきた反共ゴロツキ集団は、警察と一体になって済州島をアカの島とみなし、殺りくと略奪・強姦など暴虐の限りを尽くします。
南労党は投票所を破壊し選挙人名簿を奪うなどして、4月3日実施予定の選挙を不成立に終わらせました。
それに対応して敵の攻撃は一段と強化され、南労党の主力は山に立てこもりゲリラ化します。島民は子どもから老人・女性まで、さまざまな形でゲリラを支援します。蜂起の詳しい経過は本書にゆだねますが、文字通り命をかけたゲリラと民衆の躍動ぶりが胸に迫ります。
しかし最後には、アメリカの飛行機と艦砲射撃の包囲の下で、130余りの村が焼き払われ、孤立したゲリラは敗北します。この焦土作戦は、植民地朝鮮に施行された戒厳令に関する天皇の勅命が、米軍政下でも廃棄されず、適用されたものです。
島民が竹槍の先に突き刺したゲリラの首を掲げて行進させられる光景には、なんとも名状し難い気分に襲われます。
かつて京城帝国大学の日本人御用学者は、「朝鮮人は8歳にして思想家になる」と嘆きました。本書は日本と日本人を撃つ巨編です。(Q生)

4面

〈寄稿〉

資本主義における人口のメカニズム

愛知連帯ユニオン 佐藤 隆

前号で紹介した『2050年世界人口大減少』は、先進国から途上国に至る現在の出生率低下と将来の人口減少の要因と未来を見事に明らかにした。しかし、その前に、そもそも、なぜ、資本主義はわずか2百数十年で、それまでの200万年を何万倍化するスピードで人口爆発を成し遂げてきたのであろうか。このことが考察されなければならない。

資本主義時代に人口爆発はなぜ起きたのか

マルサスの誤算

人口爆発の第1の必要条件は、資本主義が何十億人という人間が生活できる財を作り出せたということである。
1798年、産業革命の最中、マルサスはその『人口の原理に関する一論』で、「人口増加に農業の発展は追いつかない」ことが貧困の原因だとして、社会政策ではなく産児制限を求めた。これはその後の農業革命が示す通り、完全に間違っていた。1950年から2010年までに人口は2倍になったが、食料生産は3倍になった。米国の農牧畜業に従事する人数は約260万人、就業人口の1・3%に過ぎないが、世界中に農産物を輸出している。後にもみるが、FAO(国連食糧農業機関)によれば、食糧の3分の1の13億トンが廃棄され、それは飢えた人の食糧の倍以上に当たる。
ところで、『人口大減少』の著者たちが指摘するように、人間は生活水準と教育水準(特に女性と児童の)が向上すると、出産率は減るのであるから、資本主義的生産力が財を十分に作り出せるようになったということだけでは、人口が爆発することにはならないはずだ。

マルクス「再生産表式」

したがって、第2に、資本主義の最大限利潤を追求する際限のない拡大再生産こそが、絶えざる人口の増大を求め、人口を爆発させた原因と考えられる。
有名なマルクス資本論の再生産表式の有機的構成の不変な拡大再生産の一例をみてみよう(資本論2巻21章)。再生産表式は、資本の流通と再生産を示すものである。

1年目
T 4000c+1000v+1000m=6000
U 1500c+750v+750m=3000
2年目
T 4400c+1100v+1100m=6600
U 1600c+800v+800m=3200

Tは生産手段の生産部門、Uは生活手段の生産部門、cは不変資本、vは可変資本・労働力、mは剰余価値を表す。1年目にT部門の生産した6000が2年目のTとUの6000cになり、1年目にU部門の生産した3000のうち労働者が1900vを消費する(余剰がない場合、残り1100は資本家の贅沢品に消費される)。
私見では、ここでvの増加は、労働者が消費する消費手段の価値の増加を表すが、同時に労働者自身の数が増加しなければならないという二重の意味がある。労働者数の増加自体はこの表式の内部では、すなわち資本によっては生産されない。

有機的構成の高度化

次にレーニン『いわゆる市場問題について』の資本の有機的構成の高度化する再生産表式を考察してみよう。有機的構成とはcとvの比率であり、一般に生産水準があがると、cはvに対して拡大するとされる。

1年目
T 4000c+1000v+1000m=6000
U 1500c+750v+750m=3000
2年目
T 4450c+1050v+1050m=6550
U 1550c+760v+760m=3070
レーニンの表式でも有機的構成が高度化しているにもかかわらず、資本が流通し拡大再生産するためには、労働力が1750から1810へ増加すること、すなわち労働者数の増加が必要となっていることがわかる。
私見では、数理的にはvが増加せず、cのみが拡大するモデルも提出できるが、現実には既存の生産手段の同質的拡大を排除した拡大再生産は不可能であり、拡大再生産には必ず、労働者の数的増大が必要となるであろう。

カミソリの均衡

数理マルクス経済学の置塩信雄は、短期的には景気循環において失業者の発生と吸引の過程があるが、長期的な再生産の「均衡蓄積軌道」では、雇用の成長率が労働人口の成長率と等しくならなければならないとしたという。(松尾匡『時代はさらに資本論再生産表式』)
ケインズ学派でも、1939年ロイ・ハロッドは、g(成長率)=s(貯蓄率)/β(資本/所得)とし「技術的にβは一定であるから成長率は貯蓄率に規定され、それは人口増加率に等しくなければならない」として「カミソリの刃の上での均衡」という理論を提唱している。これに対して、1948年エブセイ・ドーマーはβはある程度調整可能としたが、ドーマーとて経済成長に労働人口の増加が必要なことまで排除したわけではない。(トマ・ピケティ『21世紀の資本』第6章「二つのケンブリッジ」をこえて)

新植民地主義

では、その労働人口の増加はどうやってもたらされたのか。
『人口大減少』の著者たちの指摘を思い出して欲しい。「先進国は20世紀前半には「第4ステージ」(出生率が人口置換率に等しい)へ進んでいた(1904年の米国出生率は2・2)」。「発展途上国が第2ステージを抜け出せずにいたことこそが、第2次大戦後の人口爆発の理由であった」と。
これを解釈すれば、帝国主義の植民地支配を引きつぐ中心経済への周辺経済の従属(エンクルマのいう新植民地主義)が労働集約型産業の国際分業を従属国に固定化し、途上国の生活向上を押し留めたと言える。この点、ローザ・ルクセンブルグ『資本蓄積論』の「資本主義は非資本主義圏からの収奪を成立の条件する」という指摘は正しかったのだ。
だが、ブランコ・ミラノビッチ『大不平等』が指摘するように「1988年から、産業革命以後にしてはじめて各国間の不平等が縮まっている」。この1988年以降の世界経済のパワー・シフトをミラノヴィッチの視点(家計統計の解析)とは違う視点=世界のGDPシェアからみても、G7の名目GDPシェアはピークの1980年代後半の約70%から現在では既に50%を切っていてパワーシフトは明らかだ。今や、20世紀に成立した帝国主義の世界支配は崩れはじめ、それが途上国を成長の発展の軌道へと引き込んでいるのである。途上国や移民の出生率が低下しはじめた根拠はここにこそあるであろう。

幸福の基礎は経済成長か
先進国の脱成長と平等な地球

今までみてきたように、人口の増大が止まって減少するのであれば、中期的には資本主義はこれまでのような高い経済成長を続けることは不可能である。資本主義的な成長が壁にぶつかるのだ。
先にも記したが、2011年FAO(国連食糧農業機関)によれば、食糧の3分の1の13億トンが廃棄され、それは飢えた人の食糧の倍以上に当たる。2015年の世界の年間粗鋼生産能力は約23億トンだが、6・5億トンは過剰とされている。問題は生産能力の不足ではなく、生産物の分配システムの偏りではないのか。

自然の限界

資本の絶えざる拡大再生産は、地球温暖化・気候変動など自然的限界と衝突し、最早持続可能ではなくなっている。温暖化と森林の破壊は自然と人間の接触面を拡大し、工場的農業経営が種の多様性を喪失させ、さらに物と人の過剰な移動を媒介にして21世紀は再興感染症と新興感染症のパンデミックの世紀となりつつある。
人口の減少も、資本の際限のない拡大再生産が人間存在という自然の限界と衝突しつつあるとは言えないか。

地球への負荷

セルジュ・ラトゥーシュ『経済成長なき社会発展は可能か』によると、持続可能な文明様式であるための「エコロジカル・フットプリント」(生活様式が自然環境に与える負荷を地表面積で示す指標)は1人当たり1・4ヘクタールでなければならないが、現在の人類は1・8ヘクタール、すでに負荷の限界を超えているという。とりわけ、米国市民は1人当たり9・6ヘクタール、ヨーロッパは4・5ヘクタールとなっており、もし、全人類が米国と同じ生産様式を採用すれば地球6個が必要であり、ヨーロッパの水準なら地球3個が必要ということになるという。現在の先進国の生活様式・生産様式は地球全体では分かち合うことは不可能なのだ。私たちは資本主義のオルタナティブとして先進国の脱成長、エコロジカルな社会主義を考えていかなければならない。「人類の出生率の低下と高齢化、人口の漸減」という現実は、むしろ「先進国の脱成長とエコロジカルな社会主義」という理念にリアリティーを与えるのではないか。
コロナ・パンデミックの危機で、膨大な資金が途上国から引き上げられ経済危機が発生している。繰り返す内戦で疲弊してきたアフリカ大陸が安定した成長軌道に乗るのはいつであろうか。「不要不急の活動」を制限されている今、地球を平等にするためにはどうするべきなのか、真剣に考えていきたい。

5面

日本軍「慰安婦」問題
30年の歴史を蹂躙させない

正義連、尹美香氏への攻撃を「わたし たちの良心」が跳ね返さねばならない
水島 良

李容洙さんの記者会見が投げかけたもの

5月7日、韓国大邱に住む「慰安婦」被害者李容洙さんが記者会見し、「水曜集会で集められた寄付等の使途が不明である。正義記憶連帯(前挺対協)の前理事長の尹美香氏の国政進出は裏切りで間違い。水曜集会を中止して別の形ですべき」と語り、同月25日の2回目の記者会見でも基本的に同じ内容のことを述べられた。
「慰安婦」問題に関わってきた、あるいは関心を持ってきたもの、私もそのひとりだが、衝撃が走った。それから1カ月過ぎた今、李容洙さんの思いはどこかに吹っ飛んで(いるように見える)尹美香氏と正義連への非難、誹謗、中傷(ほとんどフェイク)が火山が爆発したかのような勢いで降り注いでいる。日本の報道もほとんど右へならえだ。
この問題を考えるにあたって、李容洙ハルモニは厳しい言葉で批判はしたが、いつも自らを「女性人権活動家」と名乗り、会見やインタビューでは「慰安婦」制度の犯罪性と日本政府(安倍)の責任を追及し、30年の運動を毀損してはならないとくり返し語っていることを忘れてはならない(マスコミはここを書かない)。

正義連「重く受けとめ、始めに戻って」

正義連現理事長李娜榮氏は27日の第1441回水曜デモで次のように語った。「李容洙ハルモニの深い苦痛と鬱憤、悲しみの根を、私たちみんなが重くうけとめる。これまで30年間の闘争の成果を引き継ぎ、被害者たちの苦痛が解消されずに問題解決が遅延する根本原因を自ら振り返り、再点検せよということと受け止めた」、「韓国社会に依然として聞こえなかったり、歪曲して認識されてきた植民地女性人権侵害と性暴力の歴史を、もう一度喚起する契機」として「30年前の運動を始めたまさにその時点から再び始める」と。また正義連は助成金や寄金について、公正さを期するために公的な機関での会計監査を受け直し、間違いは直ちに訂正するが私的流用など不正は一切ないと言明した。

真に謝罪すべきは誰か

30年の長きにわたってともにたたかってきた正義連と尹美香さんへの李容洙ハルモニのいらだちと不満、深い溝のようなものはどこから来たのか、どう和解の道が開かれるのかなどと、われわれが軽々しく臆測することはできない。言えることはただ一つ、謝るべきは日本政府だ。歴史の真実を否定し反省も謝罪もなく解決を遅らせ、その上に15年12月28日の「日韓合意」でもって「最終的、不可逆的に解決した」と開き直った日本政府。そしてその日本政府に責任を取らせられていないわれわれ日本人である。被害者とともに問題の根源を追及し、金学順さん、李容洙さんなどすべての韓国をはじめ世界中の被害者と正義連、その先頭で走り続けてきた尹美香さんに、膝をついてわびなければならない。

メディアの悪意に満ちた報道に抗議する

正義連・尹美香攻撃の先頭に立つのは三大保守新聞(中央、朝鮮、東亜日報)と、「反日種族主義」に代表される韓国の歴史修正主義と極右(もともとこれらの人は「「慰安婦」問題は韓国の恥とののしってきた人たち)、朴槿恵支持派等だ。「挺対協こそ韓日関係悪化の原因」であるとし、正義連、尹美香さんに「反日、反米、従北」のレッテルを貼り文在寅政権との政争に利用しようとしている。
日本でのTV、ネットの「鬼の首でも取ったかのような」取り上げ方も許せないが、「大」新聞も例外ではなく、ほとんどは自ら検証することもなく、韓国の「反・正義連」の記事をベースに、「日韓合意で解決済み」の立場から「慰安婦」問題への無理解をさらけ出し、ヘイトをあおっている。「正義連は被害者によりそっていない、利用しているだけ」などという言辞が飛び交っているが、そもそも日本のメディアや「識者」が、「慰安婦」被害者に寄り添ったことがあるのか、むしろ悪罵を投げていたではないか。日本政府に正しい要求をしたことがあるのか。無知、無恥、無自覚、傲慢としかいいようがない。

 

被害者「支援」とは?

正義連は、初めから「募金を集めて被害者に支給する団体」ではなかった。1990年、挺対協立ち上げを共にした「全国女性連帯」(全国84地域の女性団体で構成)は5月11日の声明で次のように述べている。「それは韓国政府と加害国である日本がする仕事」であり、「挺対協=正義連は(の仕事は)賠償と謝罪、正しい歴史を広報して定着させるところに目的をおいた団体」であり、「正義連30年の歴史は数十万、数百万の参与と実践で築かれた」もので、「残った問題の解決は尹美香のものではなく私たち全員のものだ」と。
(実際、挺対協は発足の初期から、被害者へ財政的・医療的支援を可能にする支援法の制定運動を展開し、93年に国内立法を導き出した。)
また尹貞玉、李効再氏ら初期挺対協立ち上げに携わった女性たち12人が、今度の事態にたいして出した声明(5月20日)の中でこうも言っている。「挺対協の財政が被害者の生活支援に全部使われていないという批判は、ハルモニたちをむしろ切なくさせるだろう」、「水曜デモはハルモニと活動家が市民らと出会う場としてあり」、「アフリカ、アジアの紛争地の女性被害者のためにともに仕事をし」、「被害者の痛みを記録して展示することも一緒にし、このすべての仕事が被害者のためのものであると考えてきた」と。被害者から人権活動家へと飛躍したハルモニたちと正義連が、戦時性暴力を人間の歴史に刻むべきだと30年の間に生み出してきたものの広さ、深さを見ていかねばならない。

日本の女性運動と「慰安婦」問題

1970〜80年代の韓国民主化闘争には多くの女性労働者、女子学生、女性知識人、さまざまな階層の女性たちが主体的担い手となっていた。それは家父長主義とそれを増幅させた独裁体制のもとで呻吟してきた女性たちが、女性問題に目覚めていく過程でもあった。「慰安婦」問題もこの中で引き出されてきたものである。尹貞玉氏らの10年にわたる地道な研究の上に90年挺身隊研究所が組織され、さまざまな立場からではあった多くの女性団体が結集して発足したのが挺身隊問題対策協議会(挺対協)である。挺対協が被害者の申告窓口を設け、その初めてのサバイバー金学順さんの申告を受けたのは、尹貞玉さんの属する教会女性連合会の事務室だったそうだ。
財政的基盤もなく、事務所を転々としながら被害者の声に耳を傾け、その要求に応えようとした挺対協の活動。日本にも被害者とともに度々訪れ、多くの日本の女たちも「慰安婦」問題に真正面から向き合うことになった。それから30年近く、「慰安婦」問題解決のための日本政府とのたたかいを韓国の被害者・活動家と共にすることを通して、また各国の運動とつながりを持つことを通して、私たちは日本の女性としてのとるべき責任、そして次世代に継承していく課題にとり組むことができたのだ。

希望をつかんで生きる

5月26日、ナヌムの家におられたハルモニが亡くなられ、韓国内の生存者は17人になった。さらにシムト(平和のウリチブ〜被害者のシェルター。金福童さん亡きあと、今は吉元玉ハルモニひとり)所長の孫英美さんが亡くなられた。16年間、表には出ないがいつもハルモニの側にいた方だ。検察のハルモニを無視しての強制捜査、連日のマスコミ等の攻撃、途切れない電話やドアベルで疲労の極致に達していたとのことだ。心が痛む。
韓国内でも正義連を守れという声は広まり、毎週の水曜デモには多くの若者が参加している。世界中からも支援と連帯のメッセージが届いている(正義連のホームページ)。
日本での運動も、これまで以上の攻撃はあるだろうが、われわれの良心をかけて新たな一歩を踏み出そう。金福童さんの晩年の言葉「希望をつかんで生きる」をモットーに。

ロックアクション有志で街宣
コロナ禍での生活補償求める
6日 大阪

6月6日ロックアクション有志による街頭宣伝が、大阪市内(南森町交差点)でおこなわれた(写真上)。コロナ指定病院で働く非正規社員が怒りのアピール。
「病院で働いているのは医師と看護師だけではない。事務、警備、滅菌などの業務があり、私たちは患者を裏から支えている。コロナは人を差別しないが、コロナ指定病院には職業差別がある。私たちは存在している。私たちにも危険手当を! いっしょに声をあげてください」。
コロナ生活補償を求めて大阪市役所前、大阪府庁前での座り込みに参加しているフリーランスの労働者は、「釜ケ崎の仲間たちが大阪市に要望書を出している。住民票がなく10万円の対象から外れている。大阪市の回答は国の基準に従ってやっているのでそれ以上はできないというもの。吉村府知事はクオカードを配ると言ったが一枚も配られていない。公務日程の8割はTV出演で会議すらやっていない。コロナ対策に財政調整基金を使わず都構想やカジノのために使うと言っている」と訴えた。
豊中市議の木村真さんは、「モリトモ・サクラは終わっていない。総理自身の公職選挙法違反で疑惑が残ったまま。一日も早く安倍をやめさせよう」と呼びかけた。

6面

現代中国社会の内側からA
南海ホンダ部品のスト
戸川 力

実習生がストライキ

中国で働き、生活して大きな事件で印象深い労働者ストライキについて報告。
2010年の南海ホンダ部品(変速機)のストライキは、実習生が中心になって開始され、SNSやインターネットなどを駆使して結束し、勝利した闘い。全国に労働者ストの波を作る先駆けとなったたたかいである。2000人の職場で1000人が2週間近く職務放棄・職場占拠のストライキを行ったのである。(佛山市は人口170万都市)隣の広州にはトヨタ、ホンダ、日産の組み立て本体工場がある。この部品工場の2週間ストライキによって1週間で生産が止まり始め、2週間目には広州の本体が完全に止まった。
中心となったのは実習生である。実習生とは専門学校等の学生(中卒・高卒対象の両方ある)で、長ければ卒業の1年以上前から実習という名目で正社員ではないが、製造現場など工場で働く不可欠の労働力となっている。企業は「労働者ではない、最低賃金を払わなくてもよい」というメリットがあり強搾取の根源となっている。また、いつでも賃下げ・解雇などができる不安定な身分である。年令も18〜20歳である。企業にとって優秀でスキルが高く、使い勝手いい労働力の大量確保というのが実習生である。ここから反乱が始まった。

賃上げ要求と勝利

掲げた要求は800元の賃上げである。この時の労働者賃金は平均1500元程度。賃上げはあるがせいぜい50〜100元である。警察権力の介入、工会の暴力介入、専門学校の教師たちの説得工作を撥ね退け2週間のストライキの末、500元(33%)の賃上げとストリーダーの解雇撤回、地区工会の謝罪を勝ち取った。実に感動的なたたかいとなり、この後、周辺の多く日系企業の労働者がストライキに立ち上がり、全国に広まった。このたたかいは約3年にわたったと思う。『人民日報』は無視したが地方新聞やネットニュースはこれを大きく取り上げ、労働者の生活と労賃は大きく改善した。「中国の賃金高騰」によるベトナム、カンボジアなどへの資本の移動はこうしておこった。

憲法改正でスト弾圧

中華人民共和国最初の憲法である54年憲法ではストライキ権が明記されていなかった。文革期の75年憲法ではじめてスト権が明記され、それは78年憲法にも引き継がれた。しかし82年憲法ではストライキは「違法扱い」へと転換した。その理由の概略は「中国は社会主義国であり労働者主体。だからストはおかしい」というのである。「違法扱い」であるため警察権力が介入する根拠となっている。ストが合法かどうかは法的には微妙な問題であり、決定打がない。通常、ストが発生すれば、その内容にもよるが、警察が介入してつぶされる。2010年ストを教訓にした中国政府はスト弾圧のために大量の警察投入体制を築いている。

工会は支配機関

この時、工会はストライキ側としては関わっていない。工会とは日本でいう労働組合に似た組織である。工会は職場・地域・区市・省・全国組織(総工会)とあり、法律では、25人以上の職場で、従業員の要望があれば、会社は認めなければならない。数年前にも、政府(地区工会)が、日系企業も作りなさいと圧力をかけた時期があったが、これは、会社が作るものではなく、従業員の自発で作るものなので、作った会社もあったし、作らなかった会社もあった。ただ、組合費を会社は賃金の2%、労働者側も地域によって違うが賃金の1%程度自動的に徴収されるので、労働者が作りたがらない場合が多い。工会のメンバーには会社の課長や部長も入っている。上納される工会費が増えるため総経理(日本の専務取締役にあたる)まで入っていることも珍しくない。工会は共産党の下部組織で、それ以外の工会=組合を作ることは認められていない。会社と労働者から集めた工会費は、その50〜60%を従業員の旅行などの福利厚生費に使っていいことになっている、それでも従業員たちは工会費が強制的徴集されることを嫌う。自分たちにメリットがない工会を作ろうとはしない。
ホンダ部品にも工会があった。ストつぶしのために門の外では警察が、門の中では上部組織の獅山鎮地区の工会幹部約100人がスト参加者に暴力をふるった。このように工会は労働者の味方ではない。ストライキ時は調停・弾圧機関としてむしろ会社側につくのだ。

連載
命をみつめて見えてきたものN
人間絶対化の近代科学
有野まるこ

明治以降の歴史の中で、多くの人々が信じて(させられて)疑わなかった常識―神話がある。文明は明治から始まった。それ以前は非科学的で、非合理な遅れた社会。欧米は進んでおりアジアは劣等で未開。近代科学は絶対で万能。科学技術の力で人間は自然を支配し、どこまでも生産力を増強できる。それが人間の幸福、人類の進歩の証しだ。社会主義の理論もおおむねこの枠組みの中で展開されてきた。
このベースにある自然観、その歴史的変遷について、高木仁三郎氏(元原子力資料情報室代表)は次のように整理している。『いま自然をどうみるか』(白水社1985年初版・98年増補新版・2011年新装版)より引用する。「そもそも、ルネサンスにおける近代精神の興りそのものが、自然(宇宙)における人間の相対化の過程にほかならなかった。そのとき、人は、アリストテレスープトレマイオス型の自己中心的な天動説モデルから、宇宙の片隅の一存在へと自己を相対化したのである。この転換においては、神と人間を中心に描かれていた中世的な自然観が音をたてて崩れ、地球と人間を広い宇宙の中に位置づけた宇宙観が、狭小な人間主義からの脱却ゆえに、人間精神を広い世界へと解放する力をもった。
ところが、その転換こそが、同時に人間理性の自然に対する優越の宣言ともなったわけで、そこから始まった新たな人間中心主義が次第に肥大化し、いま袋小路に入りこんでしまったのである。このような状況だからこそ、いま一度、ここで人間を自然の中に相対化し、私たちが自然の中で占めるべき位置を明らかにしないでは、あらゆる変革と解放の試みがおぼつかないというべきだろう。」

自然にたいする畏怖

山本義隆氏(科学史家・元東大全共闘議長)は、『近代日本一五〇年―科学技術総力戦体制の破綻』(岩波新書2018年 写真左上)の中で、中世的な自然観について、「自然に対する畏怖の念がその底辺にあったことは間違いないであろう」と述べ、そこからの脱却は17世紀の西欧における近代自然科学の誕生に始まるとしている。近代の哲学と科学は人間を自然の外に置いた、人間が外から自然を観測し、働きかけることで、自然の法則を探ろうとするのが近代科学。「人間は『上から目線で』で自然を見るようになったのだ。」「近代科学は人間が本質的と判断した部分だけを取り出して、もともと自然にはなかった理想的状態なるものを人為的に作り出し、そこに『自然の本来の法則』を探る」「その延長線上に科学技術による自然の征服という近代人の思想が登場する」と述べている。そして19世紀中期、人類は蒸気と電気の使用という、動力革命をこえるエネルギー革命を達成、資本主義は飛躍的に発展していく。(つづく)

原発マネー不正還流問題
関電役員らを追加告発

〈関電の原発マネー不正還流を告発する会〉は、6月9日、八木誠前会長ら関電元役員3名にたいして、業務上横領容疑などで追加告発をおこなった。
同会は、関西電力の役員らが多額の金品を受領した問題で、すでに昨年12月に大阪地検特捜部に告発している。今回の追加告発は、先の第3者委員会調査報告により新たに判明した事実にもとづくもの。
この日、大阪地検前には50人が集まり、12時30分から事前集会を開いた。午後1時、代表5人が地検内に入り、告発状を提出した(写真上)。その後、場所を移して記者会見をおこなった。記者会見では宮下正一さん、中嶌哲演さん、河合弘之ほか2人の弁護士が報告した。
今回の告発者は2172人。ここには第1次告発に加わっている人以外に、新たに171人が参加している。告発の要件は2点。@2011年以降、関電は電気料金を値上げした際、役員報酬を減額したが、その総額2億6000万円を裏で役員に支払っていたこと。A豊松副社長(当時)らは、金沢国税局から指摘された脱税分を修正申告していたがそれも、関電は秘密裏に補填していた。修正申告は脱税を認めたことだが、これを補填するのは社会的に許されることではない。