新型コロナ
解雇とめろ、現金支給今すぐ
国・都 五輪にこだわり、対策怠る
「緊急事態」反対!東京・新宿アルタ前で市民団体が抗議行動(8日) |
4月7日夕、安倍晋三首相は東京・埼玉・千葉・神奈川、大阪・兵庫、福岡の1都1府5県を対象に新型インフルエンザ特措法に基づく緊急事態宣言を発令した。期間は5月6日までの1カ月間だが、何度でも延長できる。基本的人権を制限する「宣言」については本紙でくり返し批判してきたが、「緊急経済対策」も問題だらけだ。
首都封鎖あおった小池都知事
政府や東京都は、3月24日に東京オリンピックの開催延期を決定するまで、コロナ対策よりも五輪開催を優先させていた。東京都における感染者の急増は、PCR検査を意図的に抑制してきた結果である。検査を申し込んでも拒否されたという例がいまだに後を絶たない。「五輪優先、人命軽視」で必要な対策を怠ってきた責任は重い。小池都知事は、五輪延期が確定的となった3月23日の記者会見で突然、「オーバーシュート(爆発的感染拡大)になりかねない」「ロックダウン(首都封鎖)の可能性」もあると危機をあおり、スーパーなどでの買い占めを引き起こした。都知事として余りにも無責任な言動である。 緊急事態宣言は4月8日午前0時から発効したが、小池都知事のいう「ロックダウン」などの強制力を持つものではない。法的背景を持った「自粛の要請」であって、罰則規定はない。「自粛」しても金銭的補償が伴うものではなければ、すでに売り上げが激減している商店や飲食店の関係者に「野垂れ死ね」というに等しい。また非正規雇用労働者の雇い止めや解雇が増えている。テレワーク(在宅勤務)が可能な会社は限られており、中小零細の町工場などは倒産の危機が迫っている。学校休校のため仕事を休まざるをえない人たちは収入の道が閉ざさされている。
直ちに現金支給を
今必要なのはこうした人々に直ちに現金給付をおこなうことである。政府は7日の臨時閣議で、事業規模108・2兆円の緊急経済対策を決定した。安倍は「世界的にも最大級」と胸を張ったが、その中身はまったく現状に見合っていない。108兆円の中には、昨年末に決めた経済対策やすでに発表済みの感染対策で、まだ実施されていない分21・8兆円や、納税や社会保険料支払いの猶予分26兆円分が含まれている。「世界最大級」のための大幅な水増しだ。
また新型コロナ収束後におこなうキャンペーンの事業費に1兆6794億円、「反転攻勢に備えた観光基盤の整備」に158億1000万円、インバウンド回復のための「海外に向けた大規模プロモーション」に96億2400万円などをあわせて、1兆7000億円を計上する。他方で緊急を要する「人工呼吸器の確保」には265億円、「検査体制の確保」には49億円、あわせて314億円しか計上されていない。人びとの明日の命にかかわる事業費が、収束後におこなわれる事業費の6分の1以下とは、いったいどういうことだ。
「緊急対策の目玉」という個人事業主に最大100万円、資本金10億円以下の中小企業に最大200万円の現金を給付する「持続化給付金」の予算は2兆3176億円。1世帯あたり30万円を支給する「生活支援臨時給付金」は予算4兆0206億円。あわせて計約6兆円すぎない。しかもこれらは対象を絞り込みすぎて、必要な人に行き渡らない可能性が高い。
1日の参院決算委員会で、麻生財務相はリーマン・ショック後の2009年に実施した定額給付金に触れて「何に使ったか誰も覚えていない。(国民に)受けなかった。二度と同じ失敗はしたくない」と現金一律給付に否定的な見解を述べた。定額給付金が「受けなかった」のは、1人当たり1万2000円(若年者と高齢者は2万円)と額が少なすぎたからだ。すでに世界各国では現金給付を開始している。スペインでは休業補償として、原則賃金の100%を支払うことになっており、貧困層を対象に5万円程度の所得補償制度を導入し、将来的にベーシックインカム(基本所得補償)を展望している。韓国では約8万5000円、香港では14万円を支給している。
例えば日本に住む全住民に一律10万円を支給した場合、その事業費は12・5兆円であり、実施可能な数字である。政府は命を救うための施策を直ちにおこなえ。
不合理な同調圧力
3月27日、大阪市内で開かれた集会で講演した評論家の小倉利丸さんは、多くの人々が自分が感染しているのかどうかを知り得ない状況がはらむ危険性を次のように指摘した。
「新型コロナ陽性か陰性かがわからない状態では、『正しい』選択を選べない。このように態度選択の前提となる情報が得られないなかで、行政や資本の指示に同調することを半ば強制されるという不合理な状況を私たちは受けさせられているのだ」。このような状況を利用して政府は緊急事態宣言を発令し、国家により強大な権限を与えようとしていることを軽視してならない。これを改憲への地ならしと位置づけていることはあきらかだ。
森友学園事件 疑惑発覚から4年
会場禁止をはねのけ集会
大阪府豊中市
「佐川元理財局長に国会にきてもらおう」と訴える木村真・豊中市議(3月28日 豊中市内) |
3月28日、森友学園問題の地元、大阪府豊中市で「森友学園問題追及 怒りのデモ 4年め集会」がひらかれた。主催は「森友学園」疑獄を許すな! 実行委員会。集会は窓を全開し、参加者が間隔をあけて座るかたちで開かれた。冒頭、主催者あいさつで、集会会場をめぐる豊中市との攻防が以下のとおり報告された。
昨年12月27日、私は今日の集会会場としてこの「豊中市中央公民館」を予約した。ところが、3月9日、豊中市が電話で「公民館は使えません」と。そういうこともあろうかと、会場近くの豊島公園を借りて集会デモをやろうとしたら、「豊島公園も貸さない」 と3月10日に伝えてきた。その公園は、学校が休校で毎日子どもがいっぱい遊んでいる。なぜ私たちに貸せないのか。それで16日に裁判を起こした。提訴の翌日、公園課に交渉に行くと職員は「もう公園使えますよ」と、一夜で撤回した。
佐川氏の再喚問を
特別報告の後、「森友学園問題」を考える会・木村真さん(豊中市議)が講演した。
木村さんは「2年前、近畿財務局職員の赤木俊夫さんが公文書書き換えを強制されて、自死に追い込まれた。佐川理財局長(当時)は『刑事訴追の恐れ』を理由に国会での証言を拒否した。しかし、不起訴が確定したので、いまさら『刑事訴追の恐れ』は証言拒否の理由にならない。もう一回、佐川理財局長(当時)に国会に来てもらおうという趣旨で署名を集めている。近いうちに国会に持って行く。抗議街宣もおこなう」
「赤木さんの手記が公表されても、麻生や安倍は『再調査しない』と開き直っている。公務員が自分の判断でこのような大規模な改ざんはできないし、しない。改ざんを命じた者がいるはずだ」
「とにもかくにも教育勅語を賛美するような森友学園小学校の開校を阻止したことは事実。2012年の2月26日(平成の2・26事件と言われる)に、維新と安倍が大阪市内で会合を持ち、意気投合。いきなり公立学校で、そのような教育をやるのは無理。そこで私立から始めようと。それが森友学園小学校。もしこれが開校してしまったら、閉校に追い込むのは簡単ではない。そういう意味で開校させなかったことは成功だった」と話した。
2面
コロナ感染拡大 維新政治が命奪う
感染症対策の要を統廃合
剛田 力
在日アメリカ大使館は4月3日、日本に滞在するアメリカ国民にたいして帰国を促す注意情報を掲載した。その中で、英語版のみ「日本政府が検査を広範には実施しないと決めたことで、罹患した人の割合を正確に把握するのが困難になっている。今後感染が急速に拡大すれば、日本の医療保険システムがどのように機能するのか、予測するのは難しい」と警戒を喚起した。
実際、各医療機関をたらい回しにされたうえ重篤となったケースや、検査が受けられないケースが多発した。当初は一部の地方衛生研究所などでしか検査できず、処理能力は最大でも1日1500件程度だった。医師が必要と判断したのに保健所が断るケースもあった。このため国は3月6日から保険適用とし、保健所を介さず医師の判断で検査できるようにし、民間検査機関の参入もあって、菅官房長官が、「9000件までは可能な体制をしっかり整えた」と強調するまでになった。だが、実際の検査数は「直近1週間で平均1日1000件程度だ」。今月6日になってようやく、1日2万件の処理能力に倍増することを政府は宣言したが、「いまさら」の感は否めない。
崩された検査体制
日本医師会は3月18日の段階で、新型コロナウイルスの感染が疑われる患者の検査について、医師からの依頼を保健所に拒否されるなど不適切な事例が、26都道府県で計290件あったことを明らかにした。2月26日〜3月16日に各都道府県の医師会から寄せられた報告を集計した結果、大阪府47件、神奈川県41件、東京都36件、兵庫県27件など都市部に多かった。現在もこの状態は続いている。
保健所の職員が疲弊している。保健所は、クラスターの感染経路を追跡し、濃厚接触者を特定することで感染拡大に歯止めをかける重要な役割がある。その保健所が十分機能していない。都道府県や政令指定都市、中核市などが運営する保健所は1992年には全国852カ所に設置されていた。現在は行革の一環などでこの30年で300カ所以上減り、全国に469カ所(支所をのぞく)になっている。予算や人員も抑えられ、新型コロナウイルスの感染拡大への対応が難しくなっている。肝心の保健所や連携して検査をおこなう地方衛生研究所の規模・態勢が「行財政改革」の名の下に大幅に削減されており、全国的な検査に対応しうる体制が崩されてきた。
大阪の統合・民営化
中でも新自由主義の先兵となってきた大阪は悲惨だ。大阪府や大阪市は保健所や衛生研究所を「無駄なもの」と見なして統合・民営化してしまった。
その結果、例えば2月18日の「第5回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議」によると2月17日の相談件数は、府の相談窓口「242人」、府管轄の保健所「267人」、政令中核市「221人」で、検査実施数「6件」、700人超が相談していて6件しか検査されていない。検査数は3月3日に101人と初めて100人を超え、4月7日には387人と過去最高となった。それでも総数は5000人に達していなかった。
大阪維新の会は、大阪市立環境科学研究所(以下、環科研)と大阪府立公衆衛生研究所(以下、公衛研)を「二重行政のムダ」とやり玉に挙げ、市民や議会の反対の声を押し切って地方独立行政法人化による民営化を強行した。現在は地方独立行政法人大阪安全基盤研究所となっている。環科研も公衛研も、「地方衛生研究所(地衞研)」と呼ばれる行政機関で、すべての都道府県・政令指定都市に設置が求められている。現在、全国で80カ所にある。
地衞研の機能低下
地衞研では、新型インフルエンザやデング熱、結核などの感染症、О―157などの食中毒、農薬混入、危険ドラッグ、放射能、水道水の質など、市民の健康にかかわる検査、調査や研究をおこなっている。新たな感染症や食中毒などの遺伝子解析をふくめ、保健所がおこなう疫学調査(疑わしい患者の権力行使による検査など)を一体で担い、政策判断の根拠をつくる健康危機管理対応がメインの機能だ。新型インフルエンザのときも、大量検体をさばくのに必要な試薬、休日出勤などの人件費などは直営だから速やかに予算流用できた。
すでに府と市の研究所は、全国平均より少ない人員で、ここ数年、欠員の人員補充さえなく、機能低下が深刻化していた。それに追い打ちをかけて統合・民営化を強行したのだ。感染症対策は、個人のプライバシーに踏み込んだ調査や隔離措置など公権力の行使を伴っておこなわれるものであり、独立行政法人の職員にどこまでできるのか権限は不明確だ。感染症法では実地の疫学調査は公務員しかできないと定められ、こうした点から他の自治体で独法化した例はない。
警鐘は鳴らされていた
〈環科研・公衛研を守ろう@大阪〉の人たちは2017年4月の独法化を前にした大阪府の予算案を見て次のように警鐘を鳴らしていた。
「平常時の想定でしか予算査定されていないのです。こんなのお話になりません! 健康危機事象発生時(新型インフルエンザでなくても、これまでも数年おきに起きてきたノロ集団発生や、麻疹流行、雪印食中毒事件、冷凍ギョーザ事件などなど)では、大量の検査にあたることになるため、試薬等の予算もすぐになくなり、行政からの追加措置が迅速にあることで対応できていました。また、緊急時の検査等は、深夜までの時間外勤務や、土日の対応もあります。人件費も通常では対応できません。こんな事象は、数年おきにあるのです。しかし、予算はあくまで平常時ベースしか査定されていません。すぐに予算不足になるような予算組んで、どうするんですか? ここ、一番大事なところ。予算不足で、市長・知事の責任が果たせるんですか?? 予算不足で対応できませんとならない保証は別にあるんですか」
危惧していたことが現実となってしまった。検査数が増えてきたことも単純に喜んではいられない。リストラされた体制で大阪安全基盤研究所の労働者たちは、どんなに過酷な環境の下でたたかっていることか。
維新政治を終わらせよう
橋下は「僕が今更言うのもおかしいところですが、大阪府知事時代、大阪市長時代に徹底的な改革を断行し、有事の今、現場を疲弊させているところがあると思います。保健所、府立市立病院など。そこは、お手数をおかけしますが見直しをよろしくお願いします」とツイートした。さらに「平時のときの改革の方向性は間違っていたとは思っていません。ただし、有事の際の切り替えプランを用意していなかったことは考えが足りませんでした」と居直っている。
吉村はトリアージという言葉まで持ち出した。トリアージとは戦場で「何もしないと死亡することが予測されるが、その場の医療能力と全傷病者状態により、救命行為(搬送も含めて)をおこなうことが、結果として全体の不利益になると判断される傷病者」は見殺しにするというものだ。
住民の生命と健康を守る根幹である厚生行政、公衆衛生機関をコスト削減の対象としてきたことが、感染症の危機にまともに対応できない大阪を作り出してしまった。命を奪われないためには、維新政治を終わらせなければならない。検査数が増えたことも単純に喜んではいられない。
私の一言
辺野古工事こそ、不要不急!
『未来』の直撃インタビューにあった沖縄・富樫守さんから、時々「メール通信」が届く。先日分には、こうあった。
「世界中、日本中がコロナウイルスで困っているときも、辺野古の工事は続いています。(沖縄はまだ少ないけど)徐々に増えており、米軍人にも陽性者が出た。彼らは街にも出る、基地外にも住む。接触経路は軍機密です。私は1週間ほど風邪をひき、辺野古行きを断念した。情けなくもあり、現場も心配だった。私たちも高齢、できるなら休みたいけど、現場は密閉ではないし、声をかけあって出かけている。工事が続く以上、抗議行動をおこないますよ。」
安倍首相が不要不急の外出や行動をやめるよう述べ、7日に「緊急事態宣言」となった。この人の言葉や表情は、いつ見ても真剣さや緊張感がない。宣言の記者会見も、そうだった。またも「やっている感」「モリ、カケ、サクラ疑惑から逃げられた安堵感」と見えたのは、考えすぎか。
PCR検査を、なかなかおこなわない。知り合いのドクターに聞くと「発熱の原因はさまざま。早く原因を調べ適切な治療が必要。37・5℃の発熱に4日間自宅待機では、他の病気でも時機を失する。そこからやっと保健所、医療センターへ。それも、差し戻されることがある」と話した。感染が明らかになったタレントが言っていた。「PCR検査をあちこちに、頼んでも、頼んでもしてもらえなかった。」
休業補償や生活補填も明らかでないままの緊急事態宣言である。私の娘たちそれぞれの会社も、宣言で休業や在宅勤務、時短勤務になるらしいが、7日は朝から製品発注などのキャンセル電話が鳴りっぱなしだったという。彼女らは、「基本給は出るが業績手当などアウト」「昇給と夏のボーナスは吹っ飛んだな」と。飲食業やフリーランス、非正規、契約社員はもちろん、休業補償がどうなるのか。内容、手続き、実効も不明、難解のままである。
「不要不急」というのであれば、1兆円近い工事費、10年以上の工期予定、大浦湾の軟弱地盤など見通しの立たない辺野古の工事こそ、不要不急の最たるものではないか。直ちに工事を中断、中止するべきだ。1兆円はコロナ対策に使え。ちなみに稼働中の原発もすぐに停止し、核燃料をプールに移しておくべきだ。
富樫さんは、「やっぱり安倍政権を倒さなければね」「ぐすよー(皆さんよ)負けてぃないびらんど!(負けてなりませんよ)」と、翁長前知事の言葉を紹介していた。(俊)
3面
連載 命をみつめて見えてきたものJ
新型コロナ感染症に寄せて
有野 まるこ
ウイルス・細菌とは
長崎大熱帯医学研究所・山本太郎教授は新型コロナについて「感染拡大のスピードと犠牲者をできるだけ抑えながら共存するしかない」と主張している。感染症とはウイルスや細菌などの病原体が体に侵入して発症する病気だが、そもそも生物と非生物の間に存在するウイルス、微生物の一群である細菌とはどんな存在なのか。
微生物について、山本教授の『抗生物質と人間』(岩波新書・2017年発行)から紹介する。微生物は人類誕生のはるか前から地球上に存在していた。宇宙は138億年前、地球は46億年前、原始生命は40億年前、細菌は38億年前、多細胞生物は10億年前に誕生した。人類の歴史はわずか500万年、現生人類は20万年前に生まれた。一部が定住をはじめたのが1万年ほど前。
地球は依然として微生物に満ちあふれた惑星であり、微生物は、それ以外の動植物を数においても、量においてもしのいでいる。微生物の総重量は地球上の動植物の総重量より重いという計算もある。人類は「微生物の惑星における小さなシミのようなものかもしれない…」(なんて言葉も出てきてホッコリ)。人は微生物の力をえながら進化し、免疫系を強化してきた。体内には100兆個を超える細菌(ヒト由来の細胞の3倍)が常在する。「私」はその細菌との相互作用を通して生理機構や免疫を作動させ、「私」を形づくる。自らの身体内に複雑で精巧な微生物との生態系を有している。―この著書は、抗生物質による、そのかく乱が人類集団全体にとって大きな損失を何世代にわたってもたらす可能性があると強く警告する書である。「私たちヒトは、微生物との複雑な混合物以外の何物でもないのかもしれない。そうした『私』が、同じように複雑なマクロ(自然)の生態系に守られて生きている(生かされている)。それがヒトの存在…とすれば、私たちに残されている道は一つしかない。共生である。ヒト以外が消えた世界で、ヒトは決して決して生きていけないことは確かなのだから。」(そのまま引用)
一方ウイルスについて、生物学者の福岡伸一教授は「高等生物の遺伝子の一部が外部に飛び出したもの」「もともと私たちのものだった」と言う。そしてウイルスが進化を加速する存在だったから温存されてきた、それゆえ根絶や撲滅はできない、受け入れ、動的平衡を生きていくしかないと述べている(4月3日付朝日新聞文化・文芸欄参照)。また4月6日付朝日新聞記事は、「ウイルス共生の歴史」を最新の知見、調査研究報告を引きながら簡潔にまとめている。ウイルスの数や多様性は驚異的。北大西洋で採取した海水を調べると、プランクトンなどの細胞の中に842種類のRNAウイルスがいたという。ウイルスは生命の進化に深く寄与してきた。ウイルスはしばしば宿主に遺伝子を渡しているが多くの場合、宿主に何もおこらない。病気の原因となるのはごくわずからしいなど。
感染症と文明社会
山本教授の話に戻る。彼は感染症と「ヒト社会の在りよう」の関係について、歴史を深くふり返り、論考を重ねてきた。以下、最近の新聞・雑誌の記事などから一部を紹介する。感染症が社会に定着するには、数十万人規模の都市が成立することが必要だった。それはたかだか数千年前のこと。パンデミック(感染症の汎世界的流行)の歴史は浅く、文明がゆりかごとなってきた。14世紀のペスト、16世紀南北米大陸でみられた数々の感染症、1918年から足かけ3年流行したスペイン風邪など。当時の人口と死者を比べると被害の大きさはすさまじい。エイズやハンセン病、結核などもパンデミックだが、至る時間単位は異なる。パンデミックを性格づけるのは「ヒト社会のあり方」。ハンセン病は中世ヨーロッパの十字軍や民族移動によってもたらされた。結核は18世紀産業革命が引き起こした環境悪化が広げた。スペイン風邪は第1次世界大戦時、兵士や軍需物資が船でアメリカからヨーロッパに運ばれ、船内、兵舎、塹壕などの劣悪な環境と人々の疲弊で拡大し、世界を席巻した。犠牲者5000万とも1億人とも推計され戦死者数を上回る。日本でも数十万人が死亡。エイズは植民地主義と近代医学がパンデミックをもたらした。
いまだアフリカを中心に流行中のエボラ出血熱、今回の新型コロナも例外ではない。人の往来で格段に狭くなった世界。野生動物の生態系への人間のとめどない進出。温暖化による野生動物の生息域の縮小。これらが新たな感染症の流行と拡大をもたらした。
さらに、感染症は社会の枠組みを一変させてきた。例えばペストは封建制からルネサンス、その後の強力な主権国家、アメリカ・アフリカ大陸への侵略、植民地化へと社会をかえた。南北アメリカ大陸は、16世紀ヨーロッパの侵略によって拡大した感染症で人口の8割以上を失い、それがスペインによる植民地化を許す要因ともなった。
新型コロナ対策と今後について山本教授は、正確な予測はできないが、感染防止策は「弱毒化効果も期待できる」とし、「集団内で一定以上の割合の人が免疫を獲得すれば流行は終わる。今めざすべきことは、被害を最小限に抑えつつ、私たち人類が集団としての免疫を獲得すること」と述べている。(強毒化の可能性も否定していない) さらに、「(ウイルスの)被害それ自体よりも『感染症が広がっている』という情報自体が政治経済や日常生活に大きな影響を与えている」と、「従来とは異なる現代的変化」を指摘している。
共生の社会へ
4月7日、安倍首相は緊急事態宣言を出した。事態を「コロナとの戦争」と描き、治療薬とワクチン開発が最大の武器だと訴えている。しかし感染しても発症しない、軽いまま治る、重症化したが治った、そんな人が圧倒的に多い。自分の免疫力で治癒しているのだ。もともと肺炎は死因第3位。2016年には12万人が亡くなっている。新型コロナ肺炎の死者数とは比較にならない。だから放置していいと主張しているのではない。扇情的に発せられる数字や情報に動揺せず冷静に見ようということ。健康を守る必須条件は食事(栄養)と睡眠、運動、人と人との交わり、ストレスの解消だ。そのためには安定した収入と住まい、ホッとできる時空間が必要だ。普段からそれを脅かされている人たちはどれほど多いか。十分な生活保障なしで進む、移動・接触制限による感染リスク低減という「戦略」は社会的弱者(今や多数派)から職と生活を奪い追い詰める。家庭という密室での「密集」を生み、虐待・DVは急増、食事を摂れない子どもたちが泣いている。医療や介護、学童保育や行政現場の労働者はヘトヘトだ。現政策が生み出す犠牲、将来にわたる影響、自殺も含む死者はコロナ被害を上回るに違いない。コロナではなく、安倍政権の愚策と強権が命と将来を奪っていく。
緊急事態宣言は要らない。重点を置くべきは、高齢者や病者への感染と重症化の防止、院内や施設内感染の防止、そのための検査態勢の拡充、感染症対応の居場所と医療体制の整備、その人手の確保と生活保障だ。学校や保育所の一斉休み等ではなく、工夫と配慮をこらした柔軟な対応で子どもの権利と居場所を守る必要がある。
いずれにせよ、「集団としての免疫獲得」が必要なのだ。微生物・ウイルスとの共生の歴史をみつめ、人間による「絶滅戦争」がいかに地球全体の生態系をかく乱し、人間の存在を危うくしてきたのかを知ろう。安倍独裁化に抗しながら、新型コロナ後を見据えよう。「共生の社会」「金より命」の社会を描き、未来に残したい。
賃金・家賃・医療の補償を
4月6日 大阪市に申し入れ
安倍政権は必要な検査も、医療措置もまともにおこなわず、生活補償もしないまま、ただ「何々をするな、自粛だ」と叫んでいる。7日にはついに「緊急事態宣言」を発した。
安倍の無為無策で仕事を失った派遣社員やフリーランス、労働組合が集まり、大阪市に申し入れた。
3月31日、大阪市役所前で一日座り込みとマイクアピール。仕事や家を失いそうな当事者や労働組合が発言し、約50人が参加した。
「コロナ被害は、私一人の問題ではありません。問題を広く共有していくために、直接行動として市役所前で座り込むことを思い立ちました。黙っていたら生きられません。困っている人全員の救済措置がなされるまで続けます」。市民からはかなりの反応があった。その後、大阪市危機管理室に申し入れ。
続く4月6日、2回目の申入れがおこなわれ、その前後に大阪市役所前で市民にアピール(写真上)。
企業が休業したら、「企業の自己都合による休業」にあたり、企業は労働者に賃金の6割を支払う」義務がある。ところが、緊急事態宣言が出たもとでの休業は、企業に賃金補償の義務はなくなる。法的には「企業の自己都合による休業」ではないからだ。つまり、緊急事態宣言のもとでは、「働くな。しかし賃金は1円も補償しない」という状態に労働者が捨て置かれる。しかも、今回の緊急事態宣言は、安倍改憲(緊急事態条項の導入)への地ならしとして、「惨事便乗型」「ショックドクトリン型」の政治としておこなわれている。このことへの怒りがアピールされた。
仕事を失った労働者らは「3月末の家賃が支払えない」、「自粛を求める前に補償せよ」と次々とマイクを握り悲痛な発言。
午後1時半から4時半まで3時間にわたる大阪市への申入れ&交渉をおこなった。大阪市からは「危機管理室」「政策企画室」など6人が対応。こちらは約30人が参加し、参加者が廊下にあふれた。前回の申入れへの回答と、今回追加の申入れをおこなった。
大阪市危機管理室に申し入れた要請書の内容は、「生活保障、家賃の免除、債務利子の免除、元本の返済猶予、家のないものには公共住宅を開放する。現在借家・借地している者の追い出しを禁止する。世帯に必要な一定範囲の水光熱費、通信費は免除する。電車・バスを無償化。新型コロナウイルス感染症が拡大している状況化では住民税、固定資産税、都市計画税、自動車保有税、国保料、健康保険料、年金の基礎年金部分などの各種社会保険料を免除。医療費・介護費を無償化。虐待やDV・ハラスメントなどから逃げだすためには公共の場所が不可欠であり、家庭に居られない、居づらい人が、家から逃げ出せる場所の確保を公共施設を開放しておこなう」など。
4面
津久井やまゆり園事件
「障害者」解放運動は、どう闘うべきか(上)
関東「障害者」解放委員会 町田幸男
3月16日、横浜地裁は、植松聖被告に死刑判決を言い渡し、弁護側は控訴したが、本人がこれを取り下げ死刑が確定した。彼は2016年7月26日に、神奈川県相模原市にある津久井やまゆり園で、「障害者」19人を刺殺し、24人に刺し傷を負わせた。職員5人を拘束し、そのうち2人に負傷を負わせた。
植松は、なぜ確信犯に
植松がまだ津久井やまゆり園の職員だった同年2月15日、衆議院議長あての手紙の中で、「私の目標は重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です。…障害者は不幸を作ることしかできません」として、安倍政権の指示の下で自らが勤める社会福祉法人施設の「障害者」を殺害する計画を提示した。この手紙は、本当は安倍首相にもって行きたかったのだが、警備体制を見て近づけなかった、と言っている。彼はこの考えを誇示し、同園を辞めることになるのだが、警察と相模原市の判断で精神科病院に措置入院させられる。彼としては、安倍政権に提案した結果が措置入院となったことに憤慨し、自らが「障害者」」を殺すことを、この入院中に決意する。計画を実行し、自首し逮捕され、今年1月8日から始まった裁判の中でも一貫して、「障害者」抹殺の正当性を主張し続けた。 なぜ彼は、このような確信犯となったのか。
衆院議長あての手紙
3月16日の判決では、その一つの要因を、「本件施設での勤務経験」と指摘している。上述の衆議院議長あての手紙では、「障害者は人間としてではなく、動物として生活を過ごしております。車イスに一生縛られている気の毒な利用者も多く存在し、保護者が絶縁状態にあることも珍しくありません」と書いた。今年2月17日の法廷でも、職員が「人間として扱えなくなるのではないかと命令口調。人に接する口調ではない。人として扱ってはいないな、と思った。流動食は、流し込むようにしていた。人に食事を与える様子ではない。」(『福祉労働』166号)と述べている。
津久井やまゆり園園長やこの園を指定管理するかながわ共同会理事長は、記者の質問に対して、こうした虐待的な事実を否定する。だが1月10日に神奈川県知事の意向で発足させた「津久井やまゆり園利用者支援検証委員会」は、検証の途中経過として、25件の身体拘束の疑いがある事例があることを指摘している。昨年6月12日にNHKは、「長年、車いすに拘束されて」いた松田智子さんの事例を紹介し、「長年の拘束の影響か、足腰や背中の柔軟性が失われていることがわかりました」と報じている。彼女は、別の法人のグループホームに移り、歩いて生活しているのだ。そして植松は、園の職員として、言うことを聞かない利用者に対しては、「暴れた時は押さえつけるだけですから」(『開けられたパンドラの箱』)という感覚をもってしまったのだった。
また植松は、裁判の中で、小学校低学年の時に、「障害者はいらない」という趣旨の作文を書いていたことも明らかとなった。同級生と1学年下のクラスにも「障害児」がいた。朝日新聞は、「4〜5年生のころには、障害児の送り迎えのため、学校に来る母親の姿を見て『親が疲れ切っていて大変だ』と思っていた」とも書いている。「中学の時には、年下の障害児に階段から突き落とされた友人が前歯を折る出来事があった。『ダメなやつ』。被告はその障害児の腹部を殴ったという」(神奈川新聞)とも報じている。
「世界情勢」があとおし
3月16日の判決では、「被告人の重度障害者に関する考え」が作られた原因について、もう一つ、「関心を持った世界情勢」と記載している。これは、アメリカのトランプがメキシコ国境に壁を作るなどという排外主義を語りながら、大統領に当選したことを言っている。それまで言ってはいけない、やってはいけないとする主張が歓迎された、と思ったのだ。だから、自分も思っていることを実行すれば歓迎されると考えたのだ。そして、「イスラム国」の報道を見て、「金がないから、その奪い合いで戦争が起こる。だから、金のかかる『障害者』を殺すことが解決となる」と考えたと言う。
ここまでくると、その考え方には相当な飛躍があるように思われる。しかし、彼が事件を起こしたころの社会の状況と彼個人が陥っていたのっぴきならない事情を合わせて考えると、そのような発想に至ることが分かってくる。それは、一部の良心的な識者が述べているような「深い熟考」と言った類いではない。それだけに恐ろしいのだが。
「障害者」の 生活を否定
以前から「社会保障費が国家財政を圧迫している」といった論調が政府から流されていたが、2015年11月、茨城県教育委員会の長谷川智恵子委員から「障害者には予算も人手もかかるから、出生前診断によって始末するべき」との趣旨の発言がおこなわれた。2016年になると、曽野綾子が「老人世代を人為的に始末しなければならなくなる」と『週刊ポスト』に寄稿し、続けて麻生財務大臣が、高齢者のいのちを軽視する発言を何度もおこなっている。
植松個人は、小学校教師の父親にあこがれ、大学の教育学部に入学するが、脱法ドラッグを始めるなどしており、教員になることを諦めている。また大学時代に入れ墨をし、自らその彫師になろうともするが、これも挫折する。卒業後、運送関係の仕事をするが、これも「仕事がきつい」として辞める。こうした過程で、親子げんかが激しくおこなわれたことが伝えられており、親子は別居することになる。
そんな経過を経て、彼は家の近所にある津久井やまゆり園に就職した。2014年の12月31日、職場で彼の入れ墨が発覚する。園の管理者は、暴力団とのかかわりを心配し解雇も考えるが、弁護士に止められ、植松と月1回の面接をするようになる。この中で植松は、新たな挫折の危機感を持ったのではないだろうか。そして、自分の挫折を作り出す職場だけでなく、「障害者」を生活させるその状況そのものを否定する発想に行きついてしまったのではないだろうか。
他方、彼があこがれる世界は、自分を取り巻く現状とはまったく異なるところにあった。『リテラ』の記事によると、「容疑者がツイッターでフォローしていた有名人を見てみると、安倍晋三、百田尚樹、橋下徹…極右政治家、文化人がずらりと並んでいる」と報じている。(つづく)
木村和夫同志を追悼する
もっと共に闘いたかった
金子 治
2020年2月15日、木村和夫同志が10年余にわたる闘病生活のなか肺炎で亡くなりました。享年71歳でした。突然の訃報で、こんな形で別れが来るのなら、もう一度ゆっくり話したかったと悔やまれてなりません。
私が木村同志と初めて会ったのは、中核派が70年7・7自己批判をへて荒木裁判闘争に取り組みはじめた頃でした。当時私は盲学校の学生でした。木村同志は1967年に東大に入学、その夏にマル学同へのオルグを受け、すでに『経哲草稿』や『ドイツイデオロギー』を読了していて待っていたかのように加盟に応じ、仲間を大変驚かせたそうです。 そして学生戦線から入管戦線に移籍し、1971年春、革共同の「障害者」解放戦線の担当者として党の荒木裁判闘争への決起の先頭に立ちました。
当時脳性まひ者の荒木義昭さんは、テレビの修理技術を身につけ車の運転もでき、府中運転免許試験場に16回も受験申請をしたにもかかわらず道路交通法88条「欠格条項」を盾に拒否され、やむなく無免許運転をおこなったことで逮捕され裁判闘争がたたかわれていました。その間に6万4000キロもの距離を無事故で運転しており、荒木さんの不屈のたたかいは私をはじめ多くの「障害者」に衝撃を与え全国から圧倒的な「障害者」が駆けつけました。
その一部は71年の渋谷・日比谷暴動闘争に車いすの部隊で決起し、72年9月10日には関東「障害者」解放委員会を結成しました。その後も親による「障害者」殺しが裁判になった高根隆三さん虐殺糾弾闘争や、施設で死んだ「障害者」の脳を研究材料にした東京都神経科学総合研究所への突入闘争などがたたかわれてきました。そうした革命的「障害者」解放闘争の創成期に党として責任をとり担ってくれた木村さんに心から敬意を表すとともに感謝したいと思います。
二重対峙・対カクマル戦が激しくなるなかで、1973年7月には関東障解委の事務所をカクマルが襲撃し、翌日の高根裁判のために泊まり込んでいた「障害者」とともにこれを撃退したということもありました。同年9月対カクマル戦のための組織改編により、木村同志は非公然活動に移り久しく会うことはなくなってしまいました。
2002年に再会したのは約30年ぶりでした。木村同志は反軍戦線に着任し以来6年間『反軍通信』の編集に参加し活動しました。安田派との分裂に際しては天田書記長グループの党破壊活動に対して毅然として立ち向かいました。しかし2009年以降体調を崩し入退院をくりかえす闘病生活を送りました。2019年12月15日、入院。そして帰らぬ人となりました。
生涯を革命家として貫いた信念の人でした。物静かで芯のあるこころ優しい姿が思い出されます。もう会えないのは残念ですが、あなたのたたかいは今も引き継がれ「障害者」解放闘争は激しく燃えあがっています。
ふりかえれば短い期間でした。もっと長く同じ現場で共にたたかいたかった。そのことが惜しまれてなりません。これからもわれわれのたたかいを見つめていてください!
(短信)
●未払い賃金請求時効、労基法3年・民法5年
未払い残業代請求など時効2年だったのが、「当面3年とする」との改正労働基準法が参院本会議で成立した。4月1日施行。3年に遡及できるのは22年4月以降となる。改正民法で請求できる期間が5年になるのに合わせた改正。未払い賃金請求権時効が、民法は5年、労基法の規定は3年となる。民法より労基法の規定が短く、論理的には不整合。企業が、賃金台帳に記録を保存する事務負担を配慮した形である。(3月27日)
5面
ユニオンネットが春季行動
コロナ情勢に機敏に対応
3月24日 大阪
3月24日、おおさかユニオンネットワークの春季大阪行動がたたかわれた。午前中、全港湾大阪支部の争議行動としてガスケミカル物流(泉大津・組合退職強要)と、樽本機工(西区・懲戒解雇・セクハラ)がおこなわれ、午後は大阪市役所への「安心できる介護を! 懇談会」(ケアワーカーズユニオン、港合同、連帯労組関西ゼネラル支部などで構成、関西合同労組参加)と、なかまユニオン学校教職員支部の対市申し入れ行動がとりくまれた(写真上)。介護関係では介護切り捨て、労働者処遇改善、コロナでのサービス停止をするな、「緊急支援チーム」をつくれなどを訴えた。教職員関係では学校法人YMCA検証指導責任、「日の丸・君が代」斉唱通知問題を申し入れた。
14時過ぎから「労働組合つぶしの大弾圧を許さない実行委」による大阪府警前抗議行動、教育合同の府教委への講師雇用継続要求座り込み闘争に合流、同時行動として介護問題(市と同内容)での大阪府への申し入れ。その後、LIA労組―なかまユニオンの東リ(伊丹・旧東洋リノリユーム、東証1部上場企業)の偽装請負違法派遣、職場復帰求め、夕方に終了。80人近い仲間が7職場、7争議の闘いをやり抜いた。
解雇争議、セクハラ、組合つぶし攻撃、介護問題、教育労働者、非正規雇用労働者・外国人労働者・偽装請負労働者への差別的扱い、労働三権破壊の大弾圧と現状に対応した充実し豊富なたたかいだった。争議行動や、介護問題、反弾圧闘争は全労働者の最前線の闘いであり、多くの労働者の支援が必要だ。コロナ情勢にも対応した、ユニオンネットの仲間たちの行動に学ぶべきことは多く、20春闘の重要な行動だった。
なお、「安心できる介護を! 懇談会」は「介護・福祉総がかり行動」とともに、3月31日、大阪労働局に同様の内容と新型コロナ問題にともなう労働条件問題で申し入れをおこなった。
(関西合同労組・石田)
投稿
反ヘイト運動を地域から
東京 前田一郎
それぞれの地域で反ヘイトをたたかっている各地域からの報告を中心とした「地域からつくる反ヘイト運動 2・29シンポジウム」(主催:差別・排外主義に反対する連絡会)が東京でもたれた。
まず、「ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク」「反差別相模原市民ネットワーク」「東京都総合防災訓練に反対する荒川―墨田―山谷&足立実行委」「ヘイトスピーチ許さない・練馬」の4団体からの報告を受けた。
差別禁止条例
在日コリアンの集住地区がある川崎では、地域で執拗に繰り返されるヘイトデモ・街宣・集会を止めさせる各種の取り組みが、罰金規定も含んだ「差別禁止条例」の制定を実現させた。
相模原では、「在日特権を許さない市民の会」の後継団体「日本第一党」が、2019年の統一地方選で立候補。これに対して「落選運動」で議会進出を阻止するたたかいに取り組んだ。
墨田は関東大震災時に朝鮮人虐殺がおこなわれた地区。最近は毎年9月1日におこなわれている朝鮮人犠牲者追悼式に対してレイシストがこれを潰そうという策動を仕掛けてきている。台風の時に野宿者を避難所から排除するというような事件もあり、災害時の排外主義をどのように撃ち返していくかという問題意識がたたかいの原動力になっている。
地域の取り組み
練馬では、「日本第一党」が区役所本庁舎内に会場を借りて講演会をおこない、抗議する市民に対して警察が出動して主催者を守るという事態からたたかいが始まった。区に対して実効性のあるヘイト対策の実施を要求している。
それぞれの地域で課題や運動に違いはあるが、行政や議会に反ヘイトの取り組みを働きかけていることが共通してる。ヘイトをやめさせる実効性のある制度を作るめに、行政・議会への働きかけを課題としている。
一方、市民とのつながりを作ることを大きな課題にし、集会や学習会を積み重ねている。また、現場のカウンター行動がヘイトを抑えたことがヘイトデモの減少につながったという指摘や、カウンターをきっかけにして運動体ができた地域もあるなど、ヘイト現場でのたたかいが重要であることが理解できた。両者が合わさり各地域で「社会的包囲網」が構築されていったことをリアルに認識することができた。
そして安倍政権とどう対峙していくかという点。戦前の植民地支配を清算していないことが現在のヘイトの原因であること、ネット・テレビを通じて排外主義が拡散されていることなどが指摘され、政府の政策全体を撃っていくことの重要性がそれぞれから指摘された。
シンポジウムの後、朝鮮学校無償化連絡会、渋谷で野宿者運動をおこなっている方、右翼団体による朝鮮人犠牲者追悼式典破壊の攻撃とたたかう方による連帯アピールで、国家による民族差別・歴史清算問題・地域における住民監視の問題と重層的な課題が浮かび上がり、集会を終えた。
コロナウイルスによる「自粛ムード」の中だったが64人が参加した。
関電の原発マネー不正還流
大阪地検は捜査おこなえ
3月26日
3月26日、大阪地検に対して「起訴を求める地検前行動」がおこなわれ、その後、申入れがおこなわれた(写真右)。主催は〈関電の原発マネー不正還流を告発する会〉。
昨年12月13日と今年1月31日に合計3371人の連名で大阪地検に「関電の原発マネー不正還流を告発する告発状」を提出したが、大阪地検はいまだ正式に受理せず、捜査を開始していない。
午後1時、地検前でアピールを開始。冒頭、告発する会・事務局の宮下正一さんがこの間の経過報告をおこない、「第三者委員会の報告で、役員報酬の減額を秘密裏に補填してきたこと、さらに元副社長の豊松氏に対して、追徴課税分を関電が補填して上乗せ支給していたことが明らかになった。第三者委員会は強制力を持たず、その調査には限界がある。大阪地検は告発を受理し、捜査権を発動することを強く求めたい」と述べた。
加納弁護士から発言の後、代表3人(宮下さん、加納弁護士、市民)が、大阪地検に入り、申し入れをおこなった。その間、地検前では、3人に連帯して、リレートークがおこなわれ、口々に、第三者委員会の報告で新たに明らかになったことにたいする怒りを表明し、大阪地検がただちに捜査権を発動することを要求した。
申し入れの報告を受け、最後に事務局が「第三者委員会の報告で明らかにされた事実にもとづいて追加告発をおこなうことを検討している。そのときはまた協力をお願いしたい」と訴えた。
6面
(シネマ案内)
不条理の向こうの希望
『パラサイト 半地下の家族』
ポン・ジュノ監督 2019年 韓国映画
タイトルにある「半地下」とは、居室の半分以上が地下に隠れている住居。低く水はけが悪い。下水管の関係で食卓よりも便器の位置が高い。目の高さに辛うじて窓があり、路地の喧騒を見上げるまなざしになる。そこにキム一家という4人家族が暮らす。事業で失敗を重ねた父、かつてスポーツ選手として活躍した母、大学入試に何度も失敗している息子と娘。その4人とも失業中だ。
半地下とは対照的な高台の豪邸がある。大都市ソウルの喧騒から隔てられ、閑静で瀟洒な空間をほしいままにしている。ここに暮らすのは、IT長者のパク一家。イケメンでスマートにビジネスをこなすパク社長、外見もその感性もセレブそのものの妻、そういう家庭で育つ高校生の娘と幼い息子。現代の都市エリート層が描く理想的な家族像だ。
「パラサイト」とは、直訳すれば、寄生生物。転じて、他者に依存して生活する者を指す。半地下のキム一家4人が偽計を使って、家庭教師、運転手、家政婦という形でIT長者パク家の生活の中に潜り込む。さながら、半地下のキム一家がIT長者のパク一家にパラサイトするかのように。
さらに、半地下にたいして地下があった。高台の豪邸には、南北対立の遺物である地下シェルターがあった。そして、そこにも住人がいた。前任の家政婦が、事業に失敗して借金取りから逃げている夫を、地下室にかくまっていた。そのことは現在の家主パク一家も知らない。
高台のIT長者、半地下の失業者、地下シェルターの住人という、一見、出会いそうにない三階層が、高台の豪邸を舞台に接近し、確執する、という形で物語が展開する。しかも、同じ下層である半地下の家族と地下に潜む住人とが、団結するどころか、互いに、パラサイトの座をめぐって死闘を演じる。それは、残酷だが、非情な現実でもある。
階層上昇の幻想
格差社会を題材にした映画といえばその通りだ。ただその描き方が秀逸だ。
まず、半地下のキム一家。映画は、下層の人びとを、ただ悲惨な存在とは描いていない。むしろ、生きる力において、したたかで狡猾かつ大胆だ。運転手や家庭教師を偽装すれば、本職以上にこなす。人の心に付け込む才能も抜群。ネット検索で得たにわか専門知識もまことしやかに語る。書類の偽造も完璧。いやこれだけの才覚をもってすれば、半地下での失業状態から抜け出せるのでは、とさえ思える。しかし、そういう力があるからといって、現実の格差社会は、階層の上昇を許さない。いや、逆に、成功者と羨望される人びとの知識や能力といったものが、実は、その程度のものでしかないという皮肉でもある。
IT長者のパク一家。金持ちだからといって、悪人として描かれていない。むしろ善人で、世間知らずで、お人よし。だから、半地下の一家の狡猾な仕掛けに、面白いように、はめられていく。他方でまた、一見、理想的で幸福そうに見える家族像が、空虚なものでしかないこともわかってくる。それだけではない。善人だが格差に無自覚なパク一家の言動や行為が、半地下の一家の気持ちを踏みにじっていく。そして、パク社長は、半地下の一家が、一線を越えて近づいてくるとき、階層的な拒絶感を示す。
地下シェルターの住人。この最下層の存在の描かれ方もアイロニカルだ。地下シェルターに隠れ住む生活が長くなり、もはや外での暮らしの記憶も薄れ、外に出るという希望も持たなくなっている。そして、転倒しているが、IT長者のパク社長にたいして、地下でひそかに「リスペクト!」と敬礼を繰り返している。南北対立の遺物である核シェルターといい、そこに置かれている品々といい、さながら、朴正煕を権威主義的に崇拝する一群の人びとを見るようだ。
「臭い」というメタファー
パク一家が、半地下のキム一家に異臭を感じる。それは、下水管より下にあるような半地下の住居がもたらすカビ臭さかもしれない。しかし、それだけの意味ではない。階層的な関係において、「くさい」「臭う」とは、異質なアイデンティティーを持つものを差別・排除する言葉だ。
そして、「臭い」の問題が、半地下の一家にも、IT長者の一家にも、それぞれの階層を自覚させ、対立させ、果ては、半地下の一家の父が、パク社長に刃を向ける引き金となる。
大雨で、半地下の住居とその一帯の地域が激しく浸水し、半地下の一家は体育館に避難を余儀なくされる。
しかし、高台の豪邸には被害は全くない。被害がないだけでなく、大雨が被害をもたらしていることを想像することもない。パク社長の妻は、大雨があがった翌日、PM2・5が一掃され、ソウルの空がきれいになったことを喜び、被災している半地下の一家を、息子の誕生会の準備にせきたてる。お人よしで世間知らずに見えているうちはそのセレブな外見も気にならないが、その感性を目の当たりにすると、醜悪になる。
他方で、大雨の最中の半地下の住居。浸水によって、水洗トイレから汚水が激しく逆流し噴出していた。その噴出を何とか抑えようと、半地下の一家の娘がトイレのフタの上に座っていた。吹き上がる汚水を浴びながら。しかし、彼女は悠然とタバコをふかしている。その姿が、美しく力強い。
「計画があるんだ」
このセリフは、全編を通して、半地下の家族の口から繰り返し語られる。この映画のキーワードかもしれない。
「計画があるんだ」と父が語るとき、それは、階層上昇のための計画という意味だが、真顔でそういうほど、うそっぽく聞こえる。事実、計画などありはしない。いや、格差社会の根本的な仕組みをそのままにして、その中で、どんなにあがこうが、たとえ才能があっても、そこから脱出できないという不条理さを、この言葉は示している。
実際、大雨の浸水で体育館に避難して一夜を過ごしているとき、半地下の父は、息子に、「計画を立てても、計画通りになんか行かない」といい、だから「無計画がいい。最初から無計画なら失敗はない。計画がないんだから」と語る。
そして、ラストに近づいて、半地下の息子が独白する。「お父さん、根本的な計画を立てました」と。その計画とは…?
大雨の翌日の誕生会での殺人事件の果てに、追われる身となった父は、地下シェルターの住人に代わって、そこに身を隠す。半地下から上昇を試みて、様々な「無計画な計画」を試みた挙げ句、上昇どころか、一番下の地下にいた。
その父を救い出すための壮大な計画が、息子の独白として語られ、いつしか、その計画が成就するかのようなシーンになる。
その「根本的な計画」とは、息子が事業を起こして成功し、高台の豪邸を丸ごと購入したその日に、父が地下シェルターの階段を上がってきて、息子や妻と再会する…。
「私(ポン・ジュノ監督)は常に観客の期待をひっくり返そうと全力を尽くしていますし、本作でもそれが成功していることを願っています」(『ファッションプレス』インタビュー)
観客は、残酷と不条理の連続に、救いのラストを期待している。きっとハリウッド的な大団円が用意されている…。そう思うのもつかの間、シーンは、疲れ果てて、あの半地下の住居で倒れ込むように寝込んだ息子の姿に戻る。「根本的な計画」はただの夢だった。
観客は、息子とともに、あの半地下に引き戻される。
あまりにも運命論的、あまりにも不条理。それが、監督のメッセージだろうか。
いや、そうではないだろう。〈階層を上昇する〉ということに希望などない。〈階層を上昇する〉などということへの絶望の果てに、〈全体の仕組み・構造をひっくり返す〉という希望を、自分でつかめよ≠ニ。そこに韓国の586世代、ろうそく革命を進行させている世代のメッセージを見た。
グローバリズムが世界を破壊している現代だからこそ、そのメッセージが世界の人びとに支持されたのだと思う。(請戸耕市)
(本の紹介)
『証言 沖縄スパイ戦史』を読んで
静岡・一読者
本書の著者三上智恵は、映画『沖縄スパイ戦史』の監督である。だが、この書は映画の二番煎じではない。「映画には収まらなかった30余名の証言と追跡取材で、沖縄にとどまらない国土防衛戦の本質に迫る」作品である。
少年ゲリラ兵たちの証言が、半分近くを占めている。彼らの行動や内面の動き、上官との関係が映像よりキメ細かく描かれている。上官は陸軍中野学校(スパイ養成所)出身の青年将校である。
著者は「『住民を巻き込む戦争』は、今、戦争を想定した宮古島、石垣島の自衛隊配備に繋がっている」と指摘している。
それにたいして元少年ゲリラ兵の一人は、「まだ大和魂が変わっていないんだ。魂入れ替えなきゃ大変ですよ。日本魂ではいけないと思いますよ。平和魂じゃないと。よそより偉い国にならなくていい」と語る。
さらに他の元少年ゲリラ兵に、「でも、今、隣の国が怖い。基地や軍隊は抑止力だから必要だという人が増えています」と問う。
「抑止力というのは、威嚇なんですよ。基地があると威張っているんですよ。憲法にありますよね、武力で威嚇してはいけないって」と答える。
いずれも、上陸した米軍に包囲され、生死の境で戦った人たちの、心からの言葉である。
本土決戦を覚悟した陸軍参謀本部に命じられて、中野学校が一般から徴募した国民義勇戦闘隊に戦争マニュアルを作った。そのなかで、敵を「肉弾を以て撃滅する」とか、「不逞の徒」にたいして「適切なる処置(=殺害)を執れ」と指示している。
終わりに、「『国を守る』ことと『そこに住む人を守る』ことは決して同義語ではないということを私たちは肝に銘じておかなくてはならない」「『強い軍隊がいれば守ってもらえるという旗』を掲げた泥船に、二度と再び、乗り込まないために」と訴えている。
安倍政権のPR機関と化したNHKが「国威発揚のため」と公言するオリンピックが、コロナの感染拡大で延期になった。だが、そのドサクサに紛れて、安倍政権は戒厳令発動にも等しい権限を手に入れた。
憲法改悪をめぐる攻防は、待った無しの状況を迎えようとしている。本書が多くの人びと、とりわけ若い人たちに読まれることを期待する。(集英社新書1700円+税)