コロナ対策
緊急事態宣言は必要ない
関西大学教授 高作正博さんが批判
緊急学習会で政治家と専門家の暴走に警鐘を鳴らす、高作博関大教授(3月24日 神戸市内) |
3月24日、神戸市内で「新型コロナウイルス問題と安倍政治」と題した緊急学習会が開かれた。講師は戦争法などに反対の声を上げてきた高作正博・関西大学教授。高作さんは憲法学者として、政府の法規範を無視した一連の「コロナ対策」を次のように批判した。
法的根拠ない対応
2月24日に政府が発表した基本方針は「軽症なら自宅療養。患者の集団発生時は施設の休業やイベントの自粛」というものだが、感染症対策としては具体性がない。同月26日のスポーツ・文化イベントにたいする2週間の自粛要請も、27日発表の全国一斉休校も現場を混乱させただけだ。29日には休職中の保護者への助成金制度創設を発表したが、フリーランス・自営業者らは対象外となっていることに批判が高まり、第2弾支援策を3月10日に発表した。このような泥縄式のやりかたは、「法規範の順守」という観点からすればでたらめだ。また外国人の入国拒否が次々と発表されたが、その都度対象を拡大するなど、その運用が恣意的にすぎる。
専門家会議の問題
専門家会議は厚生労働省技官、国立感染症研究所(感染研)、慈恵医大人脈など極めて偏った構成だ。コロナウイルス対策の予算もこの人脈を通して19・8億円が流れている。医学界のごく一部の「専門家」による情報操作がおこなわれている。予算が流れている医科研、感染研、医療センター、慈恵医大は、旧日本軍との深いつながりがある。PCR検査数が増えないのは、彼らによる「情報囲い込み」がある。
専門家の知見や報告にもとづき政治家が決断・実行するが、これまで問題になった「森友、加計、桜を見る会」でウソをつき通してきた人物に、「危機のリーダーシップ」を任せられない。
危機のリーダーシップに必要なのは決断力や利己主義ではなく、利他主義。謙虚さ、他者への尊敬、他者からの信頼が不可欠だ。安倍首相はそのどれもが欠けている。国会でのヤジる姿には謙虚さのかけらもない。また、安保法制や辺野古の埋め立て強行、検事長の定年延長など、ルール無視と身勝手な法解釈がすぎる。これでは他者からの信頼を得られるはずがない。また首相の説明不足、情報不足は憶測、不安、恐怖を生じさせる。
改憲への衝動
コロナ対策にかかわる公文書の管理もデタラメだ。2月27日の全国一斉休校という重大事が議事録に一切残っていない。また1月30日、伊吹文明元衆議院議長が「憲法改正の大きな実験台」と語った事は重大だ。「新型インフルエンザ等対策法」では外出自粛、臨時医療のための土地・建物の強制使用、医薬品・食品等の保管命令違反への罰則などが可能になる。国民生活、国民経済への影響は大きい。「緊急事態宣言」は必要ない。
集会・行動の自由を
講演の最後に高作さんは、米国防省マラリア対策部門の後継機関である米疾病対策センター(CDC)を賛美する専門家たちの暴走に警鐘を鳴らした。CDCはアメリカで感染拡大を防ぐことができていない。
会場からの質問や意見に答えて、高作さんは、「世間一般に感染者が多数と言われているなかで、仮に集会参加者から感染者が出てもそこで感染したかは不明。主催者の責任ではない。体調が悪いなら参加をやめ、『密閉・密集・密接を避ける』という行動基準を守る。4月学校再開もあるわけで、休館に法的根拠のない公共施設にも『みっつの密』で使用を迫ろう」と話した。(2面・5面に関連記事)
休業・解雇に対応急げ
関西合同労組 兵庫労働局を追及
兵庫労働局(手前)と交渉(3月18日 神戸市内) |
関西合同労働組合は20春闘の一環として3月18日、兵庫労働局との交渉をおこない、新型コロナウイルス感染拡大による休業・解雇情勢にたいしどう対処するのかについて追及した。組合側は佐々木委員長ほか3人、労働局側は総務企画官、衛生専門官、賃金・職業対策課など15人が出席。
労働局側から、休業手当をおこなった企業にたいして用いた費用の助成制度(大企業2分の1、中小企業3分の2)としての雇用調整助成金の要件緩和について6点が示された。@休業の計画届の事後提出を認める(1月24日〜3月31日まで)。A生産指標「3カ月10%以上低下」が、「1カ月10%以上低下」でもよい。B3カ月の雇用量が増加していても可。C事業設置が1年未満でもよい。D雇用保険期間が6カ月未満でもよい。E過去に雇調金受給していても可、などの回答だった。
組合側は、「雇用保険は一定の期間、一定の時間働いている労働者の固有の権利である。適用事業所(1人でも雇用保険に入っている事業所)でなくても手続きをするべき。できなければ憲法、労働法に違反する差別である。本庁に伝えてもらいたいと詰めた。
特別相談窓口を
阪神大震災の際、私たちは「雇用保険未加入者の遡及加入手続き」集団申請窓口の開設を要求し、神戸職安の所長は決断した。今回、ハローワーク助成金窓口に電話を入れると、「窓口に雇用主が殺到しており、回答を待ってほしい」と、ようやく3日後に連絡してきた。もし、これから事態が進めば、全く対応不能になるだろう。特別相談窓口を局長は決断するべきだ。
6点の要件緩和も、厚労省のネットを何度も何度もクリックしないとヒットしない。新聞、テレビなどでも宣伝するべきである。安易な首切りをセーブせよと訴えた。阪神大震災では、雇用保険の受給を休業にも援用した。それについては「激甚災害法の特例適用の事態となったら、そうすると思う」と回答があった。全く、震災時の対応を学習していないのではないか。
日本労働者弁護団が、全国の労働組合・ユニオンに激励を発信した。いま、合同労組・ユニオンこそが全力で対応していきたい。(関西合同労組/石田)
関生弾圧
組合活動の自由奪った
東京地裁に国賠を提訴
記者会見する弁護団(3月17日 東京) |
「全日本建設運輸連帯労働組合(連帯ユニオン)関西地区生コン支部」への弾圧(「関西生コン事件」)では、のべ89人が逮捕。71人が起訴され、委員長と副委員長は560日以上も勾留されたままである。戦後最大規模の労働組合弾圧である。昨年12月には、日本労働法学会の代表理事経験者ら79人が、憲法28条にうたわれた労働基本権と労働組合法1条2項が明記する刑事免責を無視する不当弾圧として、警察、検察、裁判所を批判する声明を発表した。
捜査や取り調べ、逮捕、起訴、勾留、労働組合活動を禁止した保釈条件などもひどい。弾圧を受けた関生支部とその組合員が原告となり3月17日、国、滋賀県、和歌山県、京都府を相手取って総額2000万円の損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴した。提訴後の記者会見で代理人海渡雄一弁護士(写真中央)は「労働組合の活動の自由を奪おうというのが目的で、他に類例を見ない事件だ。社会的にその不当性を明らかにしたい」と述べた。また海渡弁護士は、取調べの警察官が「関生を辞めてたら、任意の事情聴取で済んだ」「関生を辞めるんだったら、ええ方法を考えたる」「組合の弁護士は組合のことしか考えないからやめたほうが良い」などと発言していたことを紹介し、違法の取調べの実態を明らかにした。
小谷野毅連帯ユニオン中央本部書記長(写真左)は「私たちは合法的な労働組合。指定暴力団の山口組を上回る規模で組合員や役員が逮捕された。関西では事実上、組合活動ができなくなっている。この事件の本質は、労働組合の壊滅作戦だ」と述べた。原告のTさんは「私は労働組合の専従職員。組合事務所が職場なのに、保釈条件に『関生支部関係者と一切接触禁止。組合事務所へも立入禁止』とある。組合員との接触は電話やメール含めて一切できない。仕事がまったくできなくて困っている」と発言。保釈後の日々を「軟禁状態だ」と訴えた。支援カンパ、タオル物販(1000円)、土曜日の大阪府警前行動(午後1時半〜)など支援の輪をひろげよう。
2面
投稿
増強する自衛隊に危機感
防衛省申し入れに参加して
小畑 武
防衛省への申し入れを前に外堀公園(東京都千代田区)で開かれた集会(3月15日) |
3月15日、大軍拡予算に反対する防衛省集会&デモがおこなわれた。主催は〈大軍拡と基地強化にNO! アクション2019〉。
防衛省への申し入れに先立って、JR市ヶ谷駅近くの外濠公園で前段集会が開かれた。沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックなど諸団体が発言した。
護衛艦「たかなみ」が2月2日に横須賀を出港し、25日からはアラビア海で行動を始めている。
中国海軍に共同対処
2月29日から3月5日までということで、関東南方からグアムに至る海域で、日本側海自の艦艇2隻=大湊の「さわぎり」と佐世保の「すずつき」と、横須賀配備の米軍イージス艦4隻が出動した。しかし10日も過ぎて、いまだに帰ってきていない。これは公表された以外の秘密訓練をやっているという事である。
米軍が公開した訓練の一部によると、「不測の事態や偶発事件に直面した時に、日米が共同対処するための訓練」=中国海軍の艦艇と遭遇した時に共同対処する訓練だ。
2月4日には、航空自衛隊が戦争法施行後最大規模のF15、F2、45機を動員して、米軍のB52戦略爆撃機の護衛飛行をおこなっている。中東の危機、朝鮮半島をにらんで、自衛隊の動きは活発化している。
3月7日には宮古島にミサイル部隊配備を強行した。われわれの知らないところでおこなわれている動きを暴露して、みんなに知らせていかなければならない。石垣島では、防衛省は石垣市の水源を含む市有地を年度内に取得して契約手続きまで済ませてしまおうと昨年からさまざまな策動をしている。
市有地の造成工事は昨年3月からすでに始まっている。反対する市民の請願にたいしては、市議会で、市有地処分案の後に請願の審議をおこなうなどとしている。「仮処分申請の結審前」の昨年12月には自民党から、これらを定めた石垣市のアセスメント基本条例自体を廃止しようとする動きさえ出ている。
それにたいして、中山義隆市長リコールのための住民投票が開始された。住民投票を実施させるためには有権者3分の1の署名が必要であり、さらに有効投票の過半数の賛成票を持ってしかリコール成立しない。
南西諸島で基地拡大
防衛省へのデモ終了後、文京区民センターに移動し、午後6時から集会がひらかれた。〈戦争のための自衛隊基地配備に反対する奄美ネット〉代表・城村典文さん(「奄美ブロック護憲平和フォーラム」事務局)が講演。
2010年に奄美大島では豪雨があり、自衛隊が救助活動をしたことから、島民の拒否反応は少ないことを利用して、自衛隊の誘致が始まった。
海上自衛隊はミサイル部隊を配備したが、そのことは2016年6月のたった1回の説明会で明らかにしただけで、それまでひた隠しにしていた。市民に自衛隊誘致の是非を問うことはいまだにおこなわれていない。
島の南部、瀬戸内地区に弾薬庫(防衛省は貯蔵地区と呼ぶ)がある。トンネル式で、1本1000平方メートルが5本あり、さらに対艦ミサイル6基が設置されている。瀬戸内弾薬庫の弾薬は、島の北部奄美駐屯地をもカバーしているのではないかと推測される。弾薬庫の大きさからして、南西諸島全域の中で大きな役割をはたすものと思われる。
2年前に自民党の元自衛官の佐藤正久参議院議員が来て、「奄美は南西諸島の兵たんの役割にしたい。南西諸島の中でも特に重要である」と講演した。
奄美駐屯地には対空ミサイル、中距離多目的ミサイルなど6基が設置されており、昨年9月には米軍との共同訓練が1週間にわたっておこなわれているが、その前に市民感情を和らげるために、自衛隊第6師団(東北)が3日間の転地訓練をした。
また奄美駐屯地では、今年1月、駐屯地から出て市民の生活圏に踏み込む、小銃を抱えた100人30キロの行軍訓練がおこなわれた。これは、昨年、私たちが「駐屯地工事差し止め」仮処分裁判の時、「訓練は駐屯地内だけでおこなう」という自衛隊側の回答であったが、それを1年もたたずに踏みにじる行為である。
最近、KC130空中給油機が上空50メートル(150メートル以下は禁止)の低空で奄美市街地を旋回し、子どもが泣く、窓ガラスが割れるなどの被害が出ている。また、オスプレイの修理や緊急タッチ・アンド・ゴーの訓練が頻発している。奄美大島最高峰の湯湾岳には、陸上自衛隊のレーダー基地を本年度中に作ろうとしている。南西諸島の偵察・通信網は、下甑島のレーダー基地・奄美のレーダー基地・沖永良部のレーダー基地・喜界島の象のおりが連携していると思われる。
苦しいたたかいの中で、何とか阻止闘争の発展を作り出していきたいという雰囲気のにじみ出た学習会だった。
「37度なら、有給で休め!?」
労働相談 ホットラインを開設
関西合同労組は、「コロナウイルス拡大・労働相談ホットライン」を開設した。相談例のいくつかを紹介する。
@金属加工職場の朝礼で、「出勤前に検温し37度あったら休んでもらう。有給休暇で休んで。取引大手もそうしている」と言われ、「おかしい。休業補償を払うべき」と異議申し立て。後日「社労士と協議して考えたい」と、事実上撤回をしたが、協議が必要。A外食産業職場で、「3月半ばまで店を休業したい」と相談。雇用調整助成金等の利用で休業補償をとアドバイス。いったんはローテーション出勤で掃除業務として賃金を出すと。しかし、時短分の保障は未解決。B小さな船会社が破産を申立てた。1カ月の未払い賃金について国の立替払い制度利用の労基署への申告。67歳での雇用保険未加入だが、65歳以前からの雇用継続であり遡及加入手続きによる高齢者一時金の手続きに入る。相談があれば、すぐに電話を。
コロナウイルス拡大・労働相談ホットライン
(関西合同労組)
電 話:078・652・8847
FAX: 078・652・8848
防衛局は私人?
またも最高裁が追認
那覇地裁では県が係争中
キャンプ・シュワブゲート前で抗議を続ける市民ら(3月23日 名護市内) |
3月2日 沖縄防衛局は、辺野古新基地建設で埋め立て予定区域への土砂投入を続けた。新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、政府が公共事業の一時中止や工期延長を認める方針を打ち出す中、工事を押し進めた。海上では「K8」「K9」護岸から土砂が工区に搬入された。海上行動隊はカヌー12艇で抗議した。キャンプ・シュワブゲート前からは153台の工事車両がゲート内に入った。
3日 本部町の塩川港と名護市安和の琉球セメント桟橋から土砂が搬出された。塩川より10トンダンプ348台、安和より647台、計995台分が運搬船に積み込まれた。安和の海上ではカヌー15艇で抗議した。
4日 「さんしんの日」は三線を奏で平和を願う大切な日であるが、新型コロナウイルスの拡大防止のため中止となった。また、シュワブゲート前での第1土曜の県民大行動も中止。第3木曜の集中行動も中止。その他、学習会や小集会も中止になった。
不当判決
16日 米軍普天間飛行場の移設に伴う、名護市辺野古の新基地建設を巡り、県による埋め立て承認撤回を取り消した国土交通省の決定(裁決)は違法だとして、県が裁決の取り消しを求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)は16日、上告審判決を26日に言い渡すことを決めた。結論を変更する際に必要な弁論が開かれないため、県敗訴とした福岡高裁那覇支部判決が確定する見通し。これに対し玉城デニー知事は「最高裁判決の内容を確認してから発表する」とコメント。玉城県政は工事を止めるために、この訴訟のほか「抗告訴訟」も起こし係争中だ。
抗議は続く
23日 沖縄防衛局はこの間、工事を自粛することなく埋め立て工区への土砂を投入している。これにたいし、市民は連日の抗議行動に決起。この日もキャンプ・シュワブゲート前で座り込み、抗議の声を上げた。海上では抗議船とカヌーで抗議行動を展開。
26日 最高裁は県側の上告を棄却。行政不服審査法を沖縄防衛局が「私人」と同じ立場で利用するという違法行為を追認した。(杉山)
3面
大阪市廃止を許さない
11月住民投票へ向け行動を
剛田 力
大阪維新の会は1月、大阪市を廃止して特別区を設置する「大阪都構想」の賛否を問う住民投票を11月1日におこなう方針を決めた。公明党もこれを受け入れる方針だ。4月の住民向け公聴会は延期となったが、予定では6月頃までに最終案を決定し、9月の大阪府議会、大阪市会で採決。住民投票で賛成多数となれば、25年1月1日、大阪市は廃止される。
綱渡りカジノ・万博
輸送計画が破産
カジノ建設のために大阪市を解体する。カジノのために万博をやる。これが大阪維新の会の成長戦略のすべてだ。万博は半年間で2800万人の来場者を見込む計画だ。多いときには1日で28万人になる。会場とされる夢洲には540億円かけて地下鉄を延伸し、入場者の40%を輸送するという。その他はシャトルバスやタクシーで補うという計画だ。
つまり来場者28万人の40%に当たる11万人を地下鉄で輸送することになる。6両編成の地下鉄の収容人員は820人。28万人を運ぶためには134本が必要だ。3分間隔の運行で1時間20本で計算すると、134本運行するためには7時間弱かかる。この計算では、地下鉄中央線の現在の利用状況を無視している。ラッシュ時の混雑を考慮に入れると、輸送計画はすでに破綻していることがわかる。
万博会場につながる道路はコンテナターミナルの稼働によって、大型トレーラーが数珠つなぎとなり、一車線を完全にふさいでいる状態だ。連絡橋を1本追加したぐらいで追いつく状況ではない。
このままでは夢洲で万博を開催するのは無理ということである。
財政破綻は必至
地下鉄以外の鉄道線はどうか。JRゆめ咲線および京阪電鉄中之島線の延伸計画は、工事費も高い。JRゆめ咲線延伸は約1700億円、京阪中之島線の延伸も中之島〜夢洲間で約3500億円かかるとみられている。距離が長いので工期も長くなる。5年後の万博開催に間に合わせるのは困難だ。万博の詳細な来場者輸送計画は国土交通省や大阪府、大阪市、民間企業などで構成する専門部会が検討中だ。日本国際博覧会協会は来年秋ごろ策定する万博基本計画に反映する方針だ。
松井・大阪市長は菅官房長官に、淀川左岸線の早期建設を要請した。ゼネコンや大銀行は喜ぶだろうが、大阪府や大阪市の財政を破綻させることは必至だ。
こうした万博計画を見れば、大阪市を解体する「大阪都構想」が、大阪市の財産を丸ごと奪うための仕組みづくりであることが一目瞭然だ。
地元経済の競争力を奪う
コンプ・サービス
IR型カジノの特徴は「コンプ・サービス」である。これは客がギャンブルで賭けた金を一定比率でポイントとして還元し、客はそのポイントでIR施設内の宿泊、飲食、娯楽、ショッピングなどを利用できるという「ポイント還元サービス」だ。
IR型カジノのビジネスモデルは「IR施設全体で集客し、その利益をカジノが刈り取る」という点にある。カジノ以外のさまざまな施設は「高収益のギャンブル」で稼ぐための集客手段なのだ。
コンプ・サービスは、集客のための「まき餌」であると同時に、ポイント還元による「メリット」感で、客に、より多くの「賭け金」を使わせるための巧妙な仕組みでもある。また客がポイントを使って宿泊、飲食、買い物などをすると、同等の金額がカジノ側から店側に支払われる。そうなるとIR周辺にもとからあった店は、不利な条件での競争を強いられることになる。
客の大半は国内
「外国人客を呼べるはずだ」と言い続けているのは、そう言わないとカジノの誘致は実現しないからだ。実際には外国人客をアテにはできないので、国内の客を相手にすることになる。結果は「国内のお金が海外に吸い出されていくだけ」ということになる。
カジノの利益率は高く、事業者はかなり巨額の投資をして建設しても5年くらいで投資を回収できる。その後は毎年40%くらいのリターンが得られる計算だ。巨額のカジノ収益に対して30%のカジノ税を課せば、地元自治体の税収は確かに増える。しかしそれは「賭博で負けた客のお金」である。その多くが地元の客なのだ。
社会的コスト
ギャンブルがもたらす「害」によって社会的コストが確実に増加する。ギャンブルで生活を破壊された人たちが保護の対象となり、結果として地域の公的負担を高める。
またカジノは人の支出行動を変えてしまう。一定の金額を納めた客に対し、カジノ側が無利子で賭け金を融資する「預託金」という制度がある。ただし融資から2カ月たつと、いきなり年間14・6%もの違約金が上乗せされる。「預託金」制度は、カジノが客にお金ではなくチップを貸す仕組みなので、カジノ側には一切の元手がかからない。チップというただのプラスチック片が、何万円という債権に変わるのだ。まさに「現代の錬金術」だ。
「都構想」は詐欺
「大阪都構想」とは、「大阪市廃止構想」である。「大阪都構想」という大がかりな詐欺に対処するベストの、そして不可欠な方法は、人びとの間違ったイメージと認識を変えることだ。
「大阪都」は公式の法律用語ではない。大阪府は「大阪府」のままなのだ。では何が変わるのか。現在の大阪市が廃止される、つまり国内から政令指定都市が一つ消滅するということである。
「大阪都構想とは大阪市の廃止だ」ということを徹底的に宣伝し、メディアに「大阪市廃止構想」という用語を採用させることが重要である。
維新の宣伝内容は、次の「四つの訴え」で巧みに構成されている。
@府と市の「二重行政」の欠点や対立を誇張。A他の自治体でもやっている子ども向け補助金などを、あたかも自分たちだけの業績のように言う。B人件費(公務員、市長、議員)の削減。 このAとBを、維新は「身を切る改革」として結合してアピールしている。
C大阪の経済成長の強調。全国の総生産に占める大阪のシェアは、10年前に維新が登場したときと同じ横ばいのままだ。大阪経済が一定の活性化した要因は、維新以前の大阪市役所が準備した再開発や文化施設等の都市整備が、大きく貢献している。
このような維新のペテンを暴き出さなくてはならない。
今すぐ市民の中へ
現状では、野党や反対運動は、大阪市消滅の危険を十分アピールできていない。
最後に11月の住民投票に向けて、直ちに実行すべきことを列挙しておきたい。
@少人数でも路地裏まで入って、市民に「大阪市がなくなる」ことを訴えよう。
A府営住宅や市営住宅が特別区営住宅になることで受ける不利益など、住民生活に直接かかわる問題をつかみだしていこう。
Bカジノ反対署名など、さまざまな団体が取り組んでいる運動を拡大しよう
Cあらゆる選挙(国政、地方を問わず)で「大阪市廃止構想」に反対する議員を生み出そう。
【定点観測】(3月13日〜26日)
安倍政権の改憲動向
3月13日 新型インフルエンザ特措法改正案が衆院で成立(14日施行)。自・公、立民・国民・社民ほか共同会派、維新が賛成し、共産、れいわ、共同会派の山尾志桜里、無所属・寺田学議員らが反対した(写真)。特措法は、@国民の生命、健康に著しく重大な被害を与える恐れ、A生活や経済に甚大な影響を及ぼす恐れなどを規定するが、その基準はあいまい。「緊急の必要があり、やむを得ない場合を除き」国会への事前報告を求める付帯決議が付けられた。付帯決議に法的拘束力はなく、内閣(総理)が一方的に「緊急事態」を宣言できる。宣言が発令されれば、都道府県知事が外出の自粛、施設の使用停止、イベント・集会等の制限、停止などを求めることができ、事実上の規制、禁止をともなう。土地、建物の収用や強制使用もできる。報道機関への「必要な指示」も含まれ、報道管制に直結する。
「基本的人権を制約できる緊急事態宣言は、法の支配を崩す『劇薬』だ。漫然と受け入れず重大性を理解する必要がある」(宇野重規・東大教授/神戸新聞14日)」。憲法13条、21条に真っ向から反し、立憲主義にもとる。改正特措法は、基本的人権、私権、私有財産≠ノまで踏み込む非常事態宣言に道を開く恐れが強く残る。阪神淡路大震災の際、真っ先に言われたのは「私有財産の補償はしない」だった。非常災害を口実にした、その反面がこれである。
緊急事態条項にくわしい永井幸寿・弁護士は、「濫用の危険性から、国家緊急権は憲法に規定しない。しかし非常事態への対処の必要から平常時から、厳重な法律の整備をしている。災害対策基本法等により、権力の集中と人権の制限について精緻に定められている。新型感染症が流行した時にどうするのか、国家緊急権が必要だという人がいる。しかし、憲法の趣旨からすればこれは法律によって対処すべき事態であり、新型インフルエンザについても整備されている」(『憲法に緊急事態条項は必要か』岩波ブックレット、16年初版)と指摘する。
自民党は、「憲法改正原案の国会発議にむけた環境を整え、衆参の憲法審査会で早期に議論を進める」との20年運動方針案を提案、了承した(2月21日)。3月8日に予定されていた自民党大会は、コロナ感染症拡大問題などにより延期に。「近く緊急事態宣言をおこなうようなことはない」(安倍首相発言)としながら成立させた改正特措法を、緊急事態条項を盛り込む改憲の導入口にさせてはならない。
3月26日 安倍政権は、緊急事態宣言へむけ政府対策本部を立ち上げると発表した。
4面
「全世代型社会保障改革」のねらい
関東「障害者」解放委員会 有田 哲
安倍政権は、昨年9月、「全世代型社会保障検討会議」を発足させ、12月には、その中間報告を発表した。この中間報告では「働き方の変化を中心に据えて、年金、医療、介護、社会保障全般にわたる改革を進める」と、その狙いが語られている。
結論から言えば、死ぬまで働け、働けなくなったら早く死ね、ということが目指されているのだ。何しろ、「病気になったとき、高齢になったとき、どのような働き方ができるか」という表現まで記載されている。他方、「若年層の就労促進」という記載もあり、教育保障の後退も懸念される。
当面、70歳まで働かせることをめざしているが、それは、これまで65歳まで高年齢者雇用安定法で定年を引き延ばしてきたやり方とは異なる。定年廃止や定年延長ということも記載されているが、子会社・関連会社への移動、再就職、個人事業主として業務委託契約とすること、雇用先の事業主がなんらかの関係を持つNPOで働く、などをあるべき方向として記述している。兼業、副業の推進とも相まって、不安定な就労をますます拡大しようとしているのだ。
健康の強制から死の強制へ
「全世代型社会保障」論議の中で、改めて、「健康寿命」の延伸が声高に叫ばれている。「健康寿命」概念は、世界保健機関(WHO)が2000年に提起したものだが、この「健康寿命」について、厚労省は、以下のように述べている。
「平均寿命と健康寿命との差は、日常生活に制限のある『不健康な期間』を意味します。平均寿命と健康寿命(日常生活に制限のない期間)の差は、平成22年(ママ)で、男性9・13年、女性12・68年となっています。
今後、平均寿命の延伸に伴い、こうした健康寿命との差が拡大すれば、医療費や介護給付費の多くを消費する期間が増大することになります。疾病予防と健康増進、介護予防などによって、平均寿命と健康寿命の差を短縮することができれば、個人の生活の質の低下を防ぐとともに、社会保障負担の軽減も期待できます。」(厚労省のホームページから)
決して寿命を延ばすことなどは言っていないのだ。これは、不調を抱えた高齢者の生を否定するばかりでなく、私たち「障害者」の生をも否定する発想である。
このような発想だから、介護保険制度は、介護を保障するものとならないのだ。厚労省の「介護保険事業状況報告の概要(2019年1月暫定版)」によれば、要介護(要支援)認定者数は656・0万人で、このうち、何らかのサービスを受けている人を合計すると560・5万人だ。認定を受けているにもかかわらず、95・5万人の人が介護を受けていない。そこに利用料の2割負担拡大などがおこなわれれば、ますます介護を受けられない人たちが増えることは明らかだ。
消極的安楽死
他方、厚労省は「消極的安楽死」の推進をおこなってきた。07年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を発表し、「消極的安楽死」のための基準を初めて公表した。その後、2回の改定を経て「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」と名前が変わっている。
法的には、12年の「社会保障制度改革推進法」(第6条3号)、13年の「社会保障改革プログラム法」(第4条5項)で、「消極的安楽死」の推進と解することのできる条文を記載した。そして、昨年の「経済財政運営と改革の基本方針2018」や同2019の中でも、政府をあげてこれを推進することを記載している。これら政府全体の方針の特徴は、社会保障の改悪を推進する方針とともに、「消極的安楽死」を推進していることだ。
政府は18年の診療報酬の改定において、30日以内に緩和ケア病棟の患者が追い出されるしくみをつくった。「さっさと死ね」という本音を露骨にあらわしている。
健康増進法
健康強制としては、02年に健康増進法を制定し、「国民の責務」として、「健康の増進に努めなければならない」とした。
そして現在、医療や介護保険のデータはもとより、妊産婦検診、幼児検診、学校保健のデータなどを総合化し、個人の一生を対象とする「パーソナル・ヘルス・レコード」を作ろうとしている。「経済財政運営と改革の基本方針2019」では、がんや難病の治療を名目にしつつ、「ゲノム情報が国内に蓄積する仕組みを整備」するとしている。こうしたデータを匿名化し、研究者や企業に提供するともしている。医療政策や医療機関間の連携もあるのだろうが、製薬産業やヘルスケア産業のもうけのために使われていくだろう。
そして、何よりも恐ろしいのは、厚労省の「健康寿命」の概念のように、病気や「障害」を持った生を否定するような形で使われること、すなわち、優生主義的目的で使われていくことだ。厚労省の「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関するワーキンググループ」の動きには、注意を要する。
他方では、残留農薬の基準を緩和し、放射線20ミリシーベルトの地域も安全という政府の姿もある。また、75歳以上の医療費の窓口負担を2割とすること、売薬などを使って自分で治療することなど、ますます保険診療を使わせない方向が中間報告にも記載されている。それでいて、健康を強調することも腹が立つ。しかし、国益主義と健康至上主義の結合の危険性については、強調しなければならない。
「生命の質」とは
「全世代型社会保障検討会議」の中では、新浪剛史(サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長、経済財政諮問会議メンバー)が「安楽死」政策について語ったことが第2回と第4回の議事録に記載されている。第2回議事録には、 「 … 私も健康寿命の延伸というのは大変重要な要素だと思います。そして、ぜひとも若い方々に、終末期医療をどうするのかという点が非常に重要であることを認識してほしいと思います。」そして、「ぜひとも若い方々がQOLを考えて」、死に方の計画書作成の手続きも含めて「終末期医療をどうするかということを、ぜひ議論をしていただきたいと思います」と主張している。
「QOL」とは、quality of lifeのことだ。こういう文脈では、「生命の質」と訳すのが通常だ。やはり、働けなくなったら早く死ね、と考えているのだろう。
中間報告においては、政府の政策に市民を順応させるための社会保障教育のことが述べられる。これは、学校、「かかりつけ医」、「かかりつけ歯科医」、「かかりつけ薬剤師」、保険者が担当するものとされている。その教育の中に、「尊厳と意思の尊重された人生の最終段階の迎え方支援」が記載されているのだ。「尊厳死、安楽死」を選ぶ方向に教育しろ、ということであろう。
いかにたたかうべきか
すでに、多くの労働者が高齢になっても働かないと生活できない状態になっている。介助・介護ヘルパーの中には、80代になっても働いている人がいる。他方、より若い世代からは絶望の声があがる。朝日新聞(19年11月2日付)の「老後レス時代がやってくる」の中では、30代後半から40代前半の非正規雇用につく単身女性たちを対象にした調査の中で、「年金だけでは施設に入ることも不可能。自分は孤独死するだろう」、「安楽死施設を開設してほしい」と言った声が記されている。引きこもり当事者の集まりの中では、「死にたいほど絶望している」、「安楽死を許可してもらいたい」との声が上がるという(『現代ビジネス』20年2月8日)。
こうした一人一人の苦しみに向き合いつつ、その当面の解決、そして、社会を変える展望を持った運動を展開することである。労働運動は、職場の人たちの生活全般、そして、一生にわたる生活を見据えた運動が必要となる。社会保障の問題に取り組んできた運動にとっては、労働現場も含めた人間の一生を対象とした発想と取り組みが必要だ。
国益を掲げて社会保障を解体しようとする権力者に対して、市民の生活といのちを大事にしない権力者は倒すべきだ、という思想がなければたたかえない。市民が平等にともに生活するために社会はあるのだ、という当たり前の主張と行動を展開する中でこそ、展望を切り開くことができるのである。
伊方3号機
運転差止め仮処分申し立て
広島・愛媛から新たに
広島、愛媛の住民7人が伊方原発3号機の運転の差し止めを求め、3月11日、新たな仮処分を申し立てた。伊方3号機をめぐっては、今年1月に広島高裁が山口の住民らの申し立てを認め、運転を認めない仮処分の決定を下し、定期検査終了後も運転が再開できない状態に追い込んでいる。四国電力は相次ぐトラブルにもかかわらず、これに異議申し立てをおこなった。
この日、申立人団・団長の山口裕子さん(広島被爆者)、弁護団長の河合弘之さんらが「核兵器反対なら原発反対は当然」と書いた横断幕を持って乗り込み行進。「被爆地ヒロシマが被曝を拒否する」との横断幕も。
その後、弁護士会館で記者会見。山口裕子さんは、「3月11日という日に大切な瀬戸内海、住民の生活、健康、生命を脅かす原発の運転を絶対に差し止めたいという強い思いで新たな仮処分を申し立てた」と、一語一語を噛み締めるように語った。女学生のとき被爆し、多くの同級生の死、生き残った自分への負い目を常に考えてきたこと。核兵器と何ら変わらない原発を「平和利用」と言うことに、ずっと怒りを覚えてきたことを話した。
河合弁護士は、「難解な科学論争ではなく、誰にもはっきりと分かる論理でたたかいたい。伊方3号機の耐震設計の基準である基準地震動650ガルは、南海トラフ巨大地震が発生した際に愛媛県が想定している伊方町の地震動1531ガルより小さく、主要メーカーの耐震設計よりもはるかに小さい」と、具体的な数字をあげながら説明した。
5面
〈検証〉新型コロナウイルス 佐藤 隆
パンデミックと世界経済危機
3月20日、新型コロナウイルス(COVID―19)による世界での死者で中国以外が中国のそれを上回り、パンデミック(世界的大流行)の様相を確定した。同時に、ニューヨーク株式市場で、ダウ平均株価の終値は1万1973・98ドルとなり、トランプが2017年1月20日に大統領に就任した際の終値(1万9827ドル)を下回って「トランプ相場」は終わりを迎えた(1月約2万8000ドル)。
世界中でポピュリストの権力者たち(トランプ、安倍、マクロン、ボリス・ジョンソン、コンテなど)がロックダウン(都市封鎖)など非常措置と海外への渡航制限を乱発し、混乱を拡大している。しかし、これらの措置が持続可能なものでないことも明らかである。他方、感染終息に向かう確固たる見通しはない。私たちは民衆の側の立場からの「出口戦略」を見出していこう。
1 新型コロナウイルスの脅威
スイスの公衆衛生学者(健康人類学者)、ジャン=ドミニック・ミシェル氏による、とても興味深い記事(3月18日)が『レイバーネット』に紹介されている。
ミシェル氏は、系統的な検査がおこなわれていない状況で死亡率は計算できないこと、COVID―19は非常に感染しやすいが死亡率はおそらく低い(中国の最新の統計0・3%以下、インフルエンザとあまり変わらない)であろうことを指摘する。そして、感染の拡散を防ぐのに最も有効な方法は、韓国のように系統的な検査を実施し、陽性の人を隔離することだと述べる(つまり、大量検査なしに住民全部を「封じ込める」のはあまり効果がない)。
問題は、コロナウイルスは重症患者を続出させることだ。既に観察されているように、他の慢性疾患(高血圧、糖尿病、心血管の病気、癌など)がある人は重症に陥りやすい。イタリア、スペイン、フランスが危機的な状況に至ったのは、初期対応が悪かったこと、PCRテストキットをすぐに製造せず、マスク・手袋など防護用品が欠乏していること、そして(ネオリベ)政策によって20年来、集中治療用のベッド数を減らしてきたからだという。1000人に対し6ベッドを保つドイツの死亡者は少ないが、イタリア2・6、スペイン2・4より少しましなフランスも00年の4ベッドから3・1に減っている。
ちなみに、OECDの20年の統計でトップは日本(7・8)、次が韓国(7・1)、3番がドイツ。ベッド数が少ない国には英国(2・1)やUSA(2・4)があるが、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、オランダなど北欧諸国はフランスより少なく、ヨーロッパで福祉国家がいかに解体されたかがわかる、としている。
2 最大の脅威は「医療崩壊」
ミシェル氏による、【別表1】を見てほしい。国によって致死率が大きく違う。韓国では1%以下だが、イタリアでは8%を超える。イタリアの感染者の80%は北部に集中、死者の平均年齢は80歳。80歳以上の治療を放棄したとの情報も飛び交う。中国・武漢市同様、オーバーシュート(感染爆発)で医療体制が崩壊したと思われる。イタリアでは近年、医療費削減で病院統合が進み、医者が海外に逃げ出していたという。2015年MERS(中東呼吸器症候群)の時は韓国でも医療崩壊を経験したが、SARS、新型インフル、MERSと何度も新型感染症に襲われた韓国は、今回、ドライブスルー方式のPCR検査など一定の感染症対策がなされているという。
【別表2】を見てほしい。日本では自動車産業の中心地・愛知県での致死率が12%とイタリアを上回る。これはPCR検査が制限されていることによって現れた数字と思われる。「致死率1%」と仮定すると、愛知県の感染者は公表数字の10倍を超える1600人と推計される。感染者は入院することになっているが、愛知県では139人の感染者で既に「入院待ち待機」が発生している。
防疫において、新自由主義がもたらした利益至上主義の医療経営がグローバリズムによる人の移動と経済活動に全く対応できていないということが問題の核心ではないか。
3 世界経済危機の開始
コロナショックで、株価が暴落、日経平均株価は1月20日の2万4000円から1万6000円台へ急落(3月21日現在)。世界で株式資産の3分の1が消滅した。各国の渡航制限でサプライチェーンが寸断され、外出禁止措置が加わって観光産業と外食産業が大打撃を受けている。北米で自動車ビックスリーが生産を停止、ボーイングなどの航空業界も深刻な経営危機に陥っている。
コロナショックが感染拡大の終息とともに終わるのかどうかは予断を許さないが、コロナショックがひとつの「引き金」に過ぎず、経済危機が08年リーマンショックからの景気回復の期間の終了を告げていることは間違いない。既に、19年10月15日、IMFは「世界経済見通し」で、世界経済の成長率は19年に3・0%、20年に3・4%になると発表していた。因みに、17年の成長率は4・8%。3・0%という数値は、リーマンショックが起きた08年(3・0%)および翌09年(マイナス0・1%)以来の低水準。ここ2年、主要先進国の産業分野では減速が続き、ブラジル、インド、中国などの新興国でも高成長の持続は可能ではなくなっていた。
先進国による金融緩和と新興国の急成長というリーマンショック後の世界経済の成長の構造が共に行き詰まっているのだ。
4 エコロジカルな危機
「人道主義実践医師協議会」ウ・ソッキュン氏は、「環境破壊で人間が野生動物と接触する機会が多くなって、資本主義的工場式畜産業で豚や鶏などの遺伝的多様性が排除された動物でのウイルス変異が容易に起こり、急速に広がる異常な条件が揃っている。ここに移動手段の発展とでたらめな公衆防疫システムの問題が重なったことがパンデミック発生の真の原因だ」と述べている。
『Big Farms Make Big Flu(大農場が大きなインフルエンザを作り出した)』の著者ロブ・ウォーレスは、今回の新型コロナウイルスを生み出したのは、工業的な農業そのものだ、多国籍企業による食のシステム、特にファクトリーファーミングがあることを指摘する。
近年、後進国では、マラリア・エイズ・結核の3大感染症で1日7000人が死亡し、マラリアだけで年間2億人を超える人々が感染していたのだ。私たちはそれを見過ごしてきた。
異変は人間にだけに起きているのではない。19年中国ではアフリカ豚熱(豚コレラ)で1億頭、20%を超える豚が死亡している。東アフリカでサバクトビバッタの大群が発生、FAO(国連食糧農業機関)によると被害は中東からインドへ拡大、2000万人が食料危機に直面している。
私たちは「エコロジカルな社会主義」「先進国の脱成長」「競争ではなく共存を」の理想を掲げ、労働者の解雇の禁止、100%の休業補償、高齢者と病弱者に十分な医療を求めて、たたかっていかなければならない。こんな時だからこそ、労働組合は大切だ。労組への弾圧に反対しよう。
6面
洞部落強制移転から百年
部落差別と天皇制で学習会
3月23日
3月23日、第32回「世直し研究会」が大阪内でおこなわれた。「奈良・洞村の強制移転から100年〜部落差別と天皇制について考える」というテーマで、三宅法雄さん(部落解放同盟全国連・大久保支部〈準〉)が講演した。三宅法雄さんの講演要旨を紹介する。
神武陵と橿原神宮
大久保はその昔、洞とよばれ畝傍山の中腹にありました。しかし、「部落民が神武天皇陵を見下ろすのはおそれ多い」として、現在の地に引きずりおろされました。「部落差別と天皇制」について考えるとき、「洞部落強制移転」をぬきにして語ることはできません。わたしはその「神武天皇陵」から直線にして100メートルのところに住んでいます。
畝傍山麓には、なんと第1代から4代まで、4つの天皇陵が存在します。そもそも、神武天皇なんていません。なぜ、存在もしない神武天皇の墓がわざわざ造られ、橿原神宮というたいそうな神社に祭られたのか。神武天皇陵と橿原神宮の創建は一体的に進められています。これは「王政復古」のもと、明治政府が新たな天皇制をつくりあげる作業の一貫でもあったのです。1889年の帝国憲法の発布と時を同じくして、橿原神宮が創建されています。
洞村住民の証言
では、洞部落強制移転についてみていきます。移転前の洞村では約200戸が暮らしていましたが、自作農は3戸だけでした。洞村には公衆浴場ができていました。また、被差別部落にはめずらしいのですが、洞村には生国魂神社という神社もありました。
208戸、1054人が強制移転させられました。これにかかわる住民の証言はあまり残されていません。戦後、1947年に住民による農地返還運動がおきていますが、「奈良日日新聞」(同年3月21日付)の記事によれば吉岡喜代松氏はつぎのように証言しています。
「封建制の強圧で祖先伝来18町歩の洞の土地を奪われたわれわれはいま3町歩の区域で何一つ耕作出来ず仮住居の憂目を見ているのです。われわれの旧地を開墾して御稜の役人等は麦、甘藷等を収穫しているのを見るにつけ返還運動必遂の念が固まるばかりです。われわれの祖先は御稜の守人であった事が史実にもあるが伝統的な守人の職をナゼわれわれから奪いそれまで無関係なもので陵守を独占するのか、この封建制打破に断固戦う決意です」。強制移転から27年しかたっていないこともあり、移転させられた住民の怒りがじかに伝わってきます。辻本正教氏が主張しているような住民による「自主的献納」ではけっしてないのです。
部落差別による強制
ここで、「洞部落強制移転」をめぐる論調の変遷を見ておきます。
1968年、鈴木良氏が雑誌『部落』に洞部落にかかわる論文をはじめて発表しました。ここで鈴木氏は強制移転論を主張しています。
1980年から88年にかけて、辻本正教氏が鈴木氏の強制移転論を否定する論考を発表します。辻本氏の主張は住民による「自主的献納」であり、「部落改善事業」であったとしています。
現在、大久保街づくり館などは高木博志氏などが主張する神苑論をとっています。これは「伊勢神宮の神苑を模範とし、畝傍山とその山麓全体の清浄な景観づくりの解明であり、被差別部落の問題のみに特化できない」として、一般地区の強制移転もあり、洞部落はその一つにすぎないというものです。
私は、逆ではないかと思います。「洞部落は部落差別によって強制移転させられたのであり、一般地区の強制移転と同様に語ることはできない」と言うべきだと思います。このように、洞部落の強制移転は差別的におこなわれたのです。
書評
第162回直木賞作品 川越宗一『熱源』
「文明」に抗う生き様
明治維新後から第二次世界大戦直後までを、樺太・サハリンに生きるアイヌらの目を通して綴る、壮大な歴史小説である。
時代による翻弄
主人公の一人・ヤヨマネクフは、1875年の樺太・千島交換条約により、生まれ故郷・樺太から北海道に移住させられ、「文明化」の名のもと、学校で日本語を教え込まれる。友人はシシラトカと千徳太郎治。千徳は和人の父とアイヌの母の間に生まれ、のちに樺太アイヌ自身による初めての著作『樺太アイヌ叢話』を書く教育者となる。
ヤヨマネクフらは、大人になり故郷・樺太に戻るが、そこはロシア人が支配する地だった。その後、日露戦争により南樺太は日本領土となり、第二次世界大戦後はソ連の支配下に。
激動の時代の中、アイヌは常に「未開民族」と見なされ、日本やロシアに翻弄されてきた。ヤヨマネクフ、シシラトカ、千徳ら実在の人物が、「文明化」の名のもと、アイデンティティーを奪われそうになりながら、自らの存在を問い、時代に抗い続けた生き様を物語は丹念に描き出していく。
「弱肉強食」
もう一人の主人公が、ポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキ。彼も実在の人物で、1887年ロシア皇帝アレクサンドル3世暗殺を謀った罪でサハリンに流刑される。この時、処刑された首謀者の中にはレーニンの兄もいた。
彼は、流刑地で樺太アイヌ、オロッコ、ギリヤークなどの人びとと交流して民俗資料を収集、樺太アイヌの女性と結婚した。ヤヨマネクフ、シシラトカ、千徳太郎治とも交流を深め、彼も、「文明化」の名のもと奪われていく、ネイティブの文化を守ろうと戦い続けた。
明治維新後、文明開化・富国強兵を推し進めた日本で、外務大臣、総理大臣を歴任した大隈重信と会ったブロニスワフ。大隈が問う。「この世界は弱肉強食である。弱肉強食の摂理の中で、我々日本人は戦った。あなたたちはどうする?」それにたいして、ブロニスワフは答える。「その摂理と戦います。弱きは食われる、競争のみが生存の手段である。そのような摂理こそが人を滅ぼすのです。だから私は人として摂理と戦います。人の世界の摂理であれば、人が変えられる」
彼もまた、帝政ロシアに故国ポーランドを奪われた者だった。民族学者であり革命家である彼は、ポーランド独立運動にも携わり、弟のユゼフ・ピウスツキは新生ポーランド共和国初代国家元首となる。
本書が示唆するテーマは「文明という名の摂理」だ。弱い者は「文明」に飲み込まれるしかないのか?「同化」するか、「滅亡」する以外、選択肢はないのか? そもそも「弱い」とは何か?
幼いヤヨマネクフが、「文明って何?」と問うと、アイヌの頭領チコビローは、「馬鹿(ママ)で弱い奴は死んでしまうっていう思い込みだろうな」と答える。
名前、言葉、風俗などそれぞれの文化を持つ人びとが、「文明という名の摂理」のもと全てを奪われる。そういう時代に抗い生きた彼らを、史実を丹念に取材し書きあげている。そういう本書は、「グローバリズムとは何か?」という問いに、「馬鹿(ママ)で弱い奴は死んでしまうっていう思い込みだろうな」と答えられる「熱源」を、今日に希求しているのではないか?
昨今の直木賞受賞作は面白い。『銀河鉄道の父』、『宝島』、そして『熱源』と、ここ3回の受賞作はいずれも粒ぞろい。一読をすすめる。(井坂治文)
連載
命をみつめて見えてきたものI
ウイルスと免疫力
有野まるこ
新型コロナをめぐる情報や知見は時々刻々更新されている。ウイルスそのものより医療や介護の崩壊、弱者を犠牲にする安倍のちぐはぐな政策と強権発動がこわい。「見えない未知の敵―ウイルス」とのたたかいは不安と恐怖をかきたて、差別、敵視や排除を強めている。そんな中、興味を引いたのが「ウイルスとの共存」という視点だ。
ひとつは、3月冒頭に開催された「新型コロナウイルスについてホリスティックドクターが語る」講座の映像(ホリスティック医学については改めて報告)。今回は竹林直紀医師(ナチュラル心療内科)の「ウイルス世界との共存のために」を紹介する。「まるで戦争中のような雰囲気。人間は見えない、わからないものに不安や恐怖心をもつ。客観的・冷静に見て自分の頭で考え判断できることが重要」と述べ、@ウイルスとは?、Aウイルスや細菌に対する人間の防御・免疫機能について、Bストレスと自律神経・睡眠と感染リスクの関係など話された。以下は要旨。
◎ウイルスの大きさと飛沫、サージカルマスクの隙間を比較すると1対30対50。感染予防のためなら、マスクは一回ごとに捨てるなど厳密な使い方が必要。手洗いは有効で大事。 ◎ウイルスは昔から地球上に存在し人間と共生してきた。ウイルスのおかげで哺乳動物として進化できた。胎盤にはウイルスの関与がある。
◎ウイルスは生物とは言い切れない。細胞膜がない。自分で栄養摂取やエネルギー生産をしない、自力で増殖できないなど「生物の3条件」を備えていない。自力で動けない。
◎ウイルスの生存戦略は、@生き物の細胞に侵入。ウイルスと細胞膜の受容体は鍵と鍵穴の関係があり、合致しないと侵入できない。A侵入したら宿主の細胞の機能をつかって自身のコピーを増やし次の宿主へ移る。
◎ウイルスの立場にたつと、宿主が死ねば生存できないので、共存できるウイルスが広がる。人間側には防御・免疫機能がある。感染や発症しない人はこれがしっかりしている。
◎まず粘膜と粘液、線毛が細菌やウイルスを排除する。いわば城の堀。堀に水が満たされていると(粘液と元気な線毛)敵は侵入できない。ちなみにタバコの煙は線毛を殺す。◎細胞侵入後は、指令や情報伝達、貪食、抗体産生し攻撃するなど、いく種類もの白血球が見事に連携プレーして敵(抗原)をやっつける。◎抗原情報を記憶して次の侵入に備える。◎これらの働きには栄養、ストレス、睡眠などが深く関わっているという研究論文は多い。ライフスタイルを変えることは重要。医療従事者の感染は過労と関係が深いなどなど。
もうひとつは長崎大熱帯医学研究所・山本太郎教授のインタビュー記事(3月11日付朝日新聞)。見出しに「感染症と社会 目指すべきは『共存』」、「ウイルス撲滅 人類の免疫力に影響及ぼす恐れ」とある。次回、紹介したい。(つづく)