未来・第290号


            未来第290号目次(2020年3月19日発行)

 1面  コロナ対策で私権を制限
     「緊急事態宣言」許さない

     伊方差止広島裁判
     被爆二世が訴え
     放射能への恐怖と不安

     伊方3号機運転差し止め
     新たに仮処分申請 広島・愛媛

     3・11から9年
     事故は人災、東電は責任を
     「復興」による隠ぺいに抗議

     福島県が避難者を訴える
     住宅支援の打ち切りで

 2面  成田空港
     今も続く農地取り上げ
     反対派農民 市東孝雄さん 思いを語る

     一斉休校 緊急事態
     しわ寄せは弱者に集中
     「梅田解放区」で訴え

     小雨地域の「黒い雨」被爆者
     手帳給付を求める訴訟結審

 3面  〈検証〉新型コロナウイルス 佐藤 隆
     新たな感染症と現代社会      

     原発のない社会つくろう
     滋賀県大津市で集会
     3月7日     

 4面  資本主義の終わりをどう生きるか
     『隠された奴隷制』の植村邦彦さんが講演

     読者の声
     朝鮮学校差別をなくそう
     一度学校の実態を見にきて
     大阪 絹川依子

     世紀の愚策 全国一斉休校
     兵庫 池田恵介

     #MeToo
     長い助走を経てうねりに

 5面  書評
     日本の社会運動に反省を強いる
     衝撃の『写真集 キャンドル革命』
     大庭 伸介

     〈連載〉まっちゃん、これでええかな(最終回)
     命を分ける社会はいかん
     脳性まひ者の生活と健康を考える会
     元関西青い芝の会連合会会長 古井正代さん

     連載
     命をみつめて見えてきたものH
     金もうけのための医療
     有野 まるこ

 6面  学知の植民地主義
     琉球遺骨返還裁判 松島泰勝さんが陳述

     投稿
     つながりをちからに
     あきらめず狭山再審実現を
     2月24日 第4回市民のつどいin関西

       

コロナ対策で私権を制限
「緊急事態宣言」許さない

コロナウイルス対策に名をかりた緊急事態を許すな!首相官邸前で抗議集会(3月11日 東京)

安倍政権は13日、新型インフルエンザ特措法の対象に新型コロナウイルスを加える改定案を参議院で可決・成立させた。安倍首相の目的は特措法の「緊急事態宣言」を出すことである。これは都道府県知事を通して「移動の自由」「経済活動の自由」「言論・集会の自由」など憲法が保障する重要な権利を制限するものである。
緊急事態宣言の効力は最長2年と定められているが、1年ごとに手続きを経れば何度でも延長が可能になる。国会承認が不要なため、事実上憲法停止の独裁政治に歯止めをかけられない仕組みになっている。余りにも問題が多いため、民主党政権下の2012年に特措法が成立して以降は、一度も発動されたことがない。
これを安倍は新型コロナの感染拡大に便乗して発動しようとしているのだ。

PCR検査を抑制

安倍政権の新型コロナ対策の問題点は、ウイルス感染を発見するPCR検査を意図的に抑制していることだ。感染症対策の基本は感染者を早期発見することだが、それをやっていないのだ。
それは他国と日本のPCR検査数を比較すれば一目瞭然だ。8日時点で韓国は、18万1384件、イタリアは4万2062件。これにたいして日本は、12日時点で9376件に過ぎず、桁違いに少ない。厚労省は「1日6000件の検査能力がある」と公表しており、6日からPCR検査が保険適用となったが、検査能力の大半が機能していない。 なぜか。「検査を依頼することができる」医師が全国860カ所の医療機関に設けられた「帰国者・接触者外来」の医師に限られているからだ。しかもこの「帰国者・接触者外来」がどこにあるかは明らかにされていない。そのため検査を受けたい人は、保健所の「帰国者・接触者相談センター」に電話して紹介してもらうしかない。
検査態勢の抜本的な見直しが急務になっているときに、安倍政権は不祥事から逃げ回ることに必死だ。そのあげくに何の法的根拠もなく「全国の小・中・高校の一斉休校」や「中国・韓国からの入国制限」などを乱発し、社会的なダメージを拡大している。
そして今度は「緊急事態宣言」を出して、あわよくば自民党改憲案の突破口にしようとしている。そこには新型感染症から人びとの命を守ろうという姿勢はかけらも見られない。 11日の首相官邸抗議行動では「授業は休みになったが、卒業式で『君が代』だけが続けられている」と怒りの声が上がった。

伊方差止広島裁判
被爆二世が訴え
放射能への恐怖と不安

伊方原発運転差止広島裁判の18回弁論が3月4日、広島地裁で行なわれた。新型コロナウイルス感染拡大が続くなか、乗り込み行進と記者会見、報告会は中止した。
被爆二世、神奈川県在住で第6陣の原告の森川聖詩さんが意見を陳述した。森川さんは1954年生まれの被爆二世。父・定實さんは45年8月6日の広島で爆心地からわずか1km、NHK広島放送局内で被爆した。白血球の減少、十二指腸、腎臓などの内臓疾患、高血圧症などに苦しみながら、生活拠点を移した神奈川県を中心に生涯を反戦、反核の運動に尽くした。
聖詩さんは、「乳児の頃から体が弱く、原因不明の高熱で死線をさまよったと母から聞いています」「健康体の被爆二世、三世も多い一方、私のように病気がちであったり、がん、白血病、心臓病など大病で亡くなったり、この世に生を受けられなかった二世、三世が少なからずいることを見たり聞いたりしてきました」と被爆二世、三世への放射能の影響の恐怖と不安、憎しみを述べ「若者たち子どもたちに安心して暮らせる明るい未来を残したい」と、伊方原発3号機の運転差し止めを求めた。次回弁論は7月1日。

伊方3号機運転差し止め
新たに仮処分申請 広島・愛媛

新たに仮処分申請し、広島地裁へ行進(3月11日 広島)

伊方原発3号機の運転差し止を求め、新たに広島、愛媛から計7名の申立人が広島地裁に仮処分申請をおこなった。11日、申立人団・団長の広島被爆者山口裕子さん、仮処分弁護団・団長の河合弘之弁護士、支援者らが広島地裁へ行進した。(写真上、詳報次号)

3・11から9年
事故は人災、東電は責任を
「復興」による隠ぺいに抗議

東京電力本店前で避難者を先頭に抗議行動(3月11日)

福島原発事故から9年目の3月11日、「反被ばく首都圏アクション実行委員会」(脱被ばく実現ネット、たんぽぽ舎、再稼働阻止ネットワーク、黒田節子さん〈原発いらない福島の女たち〉らの呼びかけ)主催の東電前抗議行動がおこなわれた。東京電力本店前には各地から120人が集まった。
最初に福島原発事故後、関西に避難している園良太さんは「安倍政権は『子ども・被災者支援法』をこの7年間実現せずに骨抜きにしてきた。新型コロナ対応でもPCR検査の拒否や子どもの学ぶ権利をはく奪している。そして『復興五輪』の名の下で福島を切り捨てようとしている」と訴えた。たんぽぽ舎の柳田真さんは「事故後、毎月この場で行動をしてきた。世界一の大惨事を犯した東京電力が責任を何一つとっていない」。
福島から神奈川に避難している松本徳子さんは「東電の起こした事故は人災。いまだ収束していない。燃料棒は取りだせず、汚染水は垂れ流し。甲状腺ガンが増え始めている。原発事故は、『明日はわが身』」と発言。東電柏崎刈羽原発の再稼働反対の発言などが続いた。
この日福島で行動していた黒田節子さんはメッセージで「原発事故で家族離れ離れに暮らすことになった。放射能を知らずに暮らしてきた生活を誰が壊したのか。道半ばに倒れた知人・友人。大地、海、自然界におびただしい災厄。復興の名でこの事態を隠ぺいしようとしている政・財・官、マスコミを許さない」(要旨)と訴えた。

福島県が避難者を訴える
住宅支援の打ち切りで

7日、東京都千代田区の東京電力本店前で、経産省前テントひろば、たんぽぽ舎の呼びかけで第78回東電本店合同抗議〜柏崎刈羽原発再稼働するな! 汚染水止めろ! がおこなわれた。抗議行動は午後1時から2時半まで続けられ195人が参加した (写真上、右手奥が東電本店)
福島原発被害東京訴訟原告団長の鴨下祐也さんは「これまで私たちは、国、東電、東京都に住宅を打ち切るなと訴え続けてきたが、福島県が5世帯の避難者を訴えようとしている。避難者の声を無視して今月中にも提訴するつもりだ。こんなひどい訴訟を許してはならない」と訴えた。

2面

成田空港
今も続く農地取り上げ
反対派農民 市東孝雄さん 思いを語る

質問に答える市東さんと大口弁護士(3月1日 大阪市内)

3月1日、大阪市内で「三里塚のいまを語る〜今も続く成田空港建設のための農地取り上げ〜」集会が開かれ、50人が参加した。
主催者あいさつは三里塚関西実行委員会の松原康彦さん。「請求異議裁判の控訴審と、新やぐら裁判が年度内に結審されようとしている。これに対抗する集会が3月29日の三里塚全国集会だけというなかで、本集会が非常に意味のある集会となった。今日は大口弁護士から裁判の状況を、市東さんから現地報告を受ける。請求異議裁判、三里塚全国集会に一人でも多くのみなさんに駆けつけていただきたい」と発言。

狭山も正念場

連帯あいさつの最初は部落解放同盟全国連合会荒本支部の池本秀美書記長。
「部落解放をたたかう立場から連帯のあいさつをさせていただく。年度末を迎え、狭山裁判も同じような状況になっている。今年で退任する裁判長は、新たな再審の動きについては口をつぐむだろう。要求する事実調べについては何もせず、時間切れを待って新裁判長にバトンをわたすことが予想される。
また新しい裁判長にたいして一歩ずつたたかいを続けていく」。

意識低い裁判官

次に、全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部の西山直洋執行委員。
「今の裁判は本当にひどい。裁判官の意識が低すぎて話にならない。『私は労働法を知りません。今から勉強します』と平気で言う。大衆運動を背景に、そのはたらきかけによって裁判官の意識を変えていくしかない。今の社会は安倍一強。力づくで上が下を従わせる。弾圧を受けているのは、従わずにたたかっているから。委員長と副委員長が勾留されて1年半になる。これからもしんどいたたかいになるが、ともに連帯してたたかおう」と。

反原発の結集を

つづいて若狭の原発を考える会より木原壯林さん。
「福島原発事故から9年。未だ収束が見られない。溜まる一方の汚染水は太平洋へと放出されようとしている。原発事故は、農業や漁業、すべての生活基盤を奪う。にもかかわらず、政府は原発の稼働をすすめている。有事の際に石油が入らなくても電力が得られ、貯蔵されたプルトニウムで核兵器の開発が可能であるから。原発再稼働は、戦争ができる国造りの一環である。これに反対する勢力のたたかいとして、5・17老朽原発うごかすな! 大集会inおおさかが開かれる。原発に反対する勢力がまとまった初めての集会。ぜひとも参加してほしい」。

裁判は重要局面

休憩をはさんで三里塚芝山連合空港反対同盟顧問弁護団の大口昭彦弁護士より、反対同盟の裁判の状況が語られた。
「先ほどより裁判のひどさが指摘されているが、最近の東京高裁では多くの裁判が一発結審。人民のために十分な審議をおこなう場ではなく、秩序維持機関となり下がっている。今、重要局面を迎えている市東さんの請求異議審は、3月25日の証人尋問、そして27日の最終弁論をもって結審というのが高裁の意向。我々弁護団は、市東さんの土地を守るために裁判を精一杯たたかう。みなさんも人民の力を集約してたたかいぬこう」。

無農薬野菜に誇り

最後は反対同盟の市東孝雄さんの話とスライド上映。
「空港公団の約束により、土地が取り上げられることはない、ということで父の耕す農地を継いで20年。その間、空港会社がこんなにひどいことをやっているということは知らなかった。2軒の地主にせっせと地代を払っていたが、すでに土地が空港会社に買収されていたことがわかった。それはおかしい、という立場の農業委員会も成田市も、空港に関してはフリーパスの状態。空港がなければ市が運営できないから。そんな中でも私は無農薬の野菜を作ることを誇りとして、体の続く限りたたかっていく」。
スライドに映し出された市東さんの農地は空港の塀に囲まれている。騒音は厚木飛行場の10倍とか。とても人の住む状況ではない。そんな状況に追いやられても、「おかしいことはおかしい」と言い、野菜作りに誇りをもつ市東さん。会場を見わたす市東さんの笑顔に、新型コロナを吹き飛ばす力をもらった。
集会まとめは淡路空港反対同盟の安藤眞一さん。産直野菜を買って市東さん、萩原さんを支援しよう。3・29全国集会に決起しよう、と集会を締めくくった。 (安芸一夫)

※3月25日、27日の請求異議裁判はそれぞれ6月3日、7月1日に延期になりました。

一斉休校 緊急事態
しわ寄せは弱者に集中
「梅田解放区」で訴え

3月8日、安倍政権が進める新型コロナウィルス感染拡大に便乗した「緊急事態宣言」に反対する「梅田解放区」がヘップ5前で開催された(写真)。通常は隔週土曜日におこわれているが、この日は「緊急事態」で急きょ呼びかけられた。
午後2時から4時過ぎまで男女20人ほどが思い思いの訴えをおこなった。主催者の男性は、「新型コロナの中で福島原発事故の責任を問う集会の多くが中止・延期になったことに危機感を持って呼びかけた」と話した。障がい児を持つ母親は、「全国一斉休校で大変なことになっている。感染の危険性をいいながら、学童保育に通常の教室以上の密度で子どもを集めるなど整合性がない。しわ寄せは社会的弱者に来る」と訴えた。元学校事務職員の男性は、「学校の給食職員は非正規職員が多い。賃金はどうするのか。学童保育では労働時間が2倍になり、通所する子どもが2倍以上。4倍の仕事はできない。政府は現場のことが何もわかっていない」と批判した。

小雨地域の「黒い雨」被爆者
手帳給付を求める訴訟結審

2015年に提訴した「黒い雨」訴訟が1月20日、広島地裁で結審した。原爆が投下された後に、原告は、放射性物質を含んだ「黒い雨」を浴びた70代から90代の被爆者85人(うち8人は死亡)。市と県に被爆者健康手帳の交付を求めたが、「申請を却下したのは違法」など訴えた。判決は7月29日と決まった。「黒い雨」をめぐる全国初の訴訟であり、高齢になった被爆者が「国が定めた援護対象区域に妥当性がない」ことを、司法の場で明らかにしてきた。

被爆75年の7月判決

この日、原告団長の高野正明さん(81)が意見を陳述した。「私たちの被爆と健康被害による苦悩を理解し、被爆75年を迎える広島での被爆者裁判にふさわしい判決を」と訴えた。国は被爆者援護法に基づき、爆心地から市北西部にかけた「大雨地域」を、いわゆる卵型の援護対象区域に設定し、この区域内で黒い雨を浴びた住民に無料で健康診断をしている。がんや白内障など、国が定める11疾病と診断されれば手帳が交付される。 原告の被爆者は大雨地域周辺の「小雨地域」か、その外側に住んでいたとして援護の対象から外されたが、裁判では「黒い雨」を浴びた状況と健康被害を明らかにし、交付申請の却下処分を取り消し、手帳を交付することを求めている。
閉廷後、報告集会が開催された。竹森雅泰・弁護士は、判決が半年先に設定されたことに「個々の被爆状態を一つひとつ検討し判断しようということではないか。前向きに捉え判決を待つ」と述べた。原告らからは「1日も早く勝利の判決を聞きたいが、被爆75年の8月6日の直前7月29日が判決日。ぜひとも勝利判決を出してほしい」という声が相次いだ。被爆者・原告に残された時間は多くはない。訴訟の勝利に向け注目し支援したい。 被爆者・原告に残された時間は多くはない。最高齢の94歳だった原告、副団長の松本正行さんが8日、判決を待たずに亡くなった。訴訟への注目、支援が求められている。

〔解説〕

「黒い雨」とは原爆投下後、上昇気流などにより発生した雨雲から降った重油のような粘り気のある大粒の雨のこと。原爆炸裂時に巻き起った泥や埃、煤などを含む。広島市では主に北西部を中心に激しい雨が降った。雨は強い放射能を帯びており、直接に浴びた者は二次被曝が原因で、頭髪の脱毛や歯ぐきからの大量の出血、血便、急性白血病による大量の吐血など急性放射線障害をきたした。水を求めた被爆者は、有害とは知らず多くが口にした。市外から救援、救護に駆けつけた者も含め、それまで異常もなく元気だったのに死亡する者が多く出た。水は汚染され、川の魚も死んで浮き上がった。これらの地域の井戸水を飲用し、下痢をする者も非常に多かった。
これまで黒い雨の範囲は、当時の気象技師の調査などに基づき、爆心地北西部に1時間以上降った「大雨地域」(南北19キロ、東西11キロ)と、1時間未満の「小雨地域」(南北29キロ、東西15キロ)とされ、国はそれに基づき「大雨地域」に在住した被爆者にのみ健康診断や、がんなど特定疾患発病時の被爆者健康手帳の交付をおこなってきた。実際は、それよりはるかに遠い地域でも降雨が報告され、この基準に批判が多く出されていた。
近年になり、広島市が被爆者の聞き取り調査をおこない、降雨範囲が従来よりはるかに広いことが判明した。広島大学原爆放射線医科学研究所の星正治教授らによる08年から09年の調査では、爆心地から8キロ離れた「小雨地域」の土からセシウム137を検出した。
これらを受け広島市は10年度から2年かけ当日の気象状況を基に、黒い雨の降雨範囲のシミュレーションを行なうと発表した。広島市は降雨域の拡大を厚生労働省に求め、これにより被爆者の援護対象の拡大などが期待されたが、厚生労働省の有識者検討会は12年に、「降雨域を確定するのは困難」との結論を出している。 (参照:「黒い雨」訴訟を支援する会ホームページ)

3面

〈検証〉新型コロナウイルス 佐藤 隆
新たな感染症と現代社会

新型コロナウイルス感染の脅威が日本を襲っている。同時に安倍政権はこの機に乗じて新型インフルエンザ特措法を改定して「緊急事態宣言」を出し、個人の自由や権利を制限する権限を国に集中しようとしている。多くの市民集会などが中止を余儀なくされる状況の中でこの問題を検証してみた。以下、数字は概数であり、この数字も検証が必要なものであることを断っておく。

1 新型コロナウイルスの脅威

この原稿を書いている時点(3月5日)で、批判があるにせよ、最も多くの症例をトータルに分析したものは、2020年2月29日に出された「世界保健機関(WHO)調査報告書」であると思う。それによると、症状としては発熱が全体の87・9%にあり、感染後平均5〜6日で症状が現れ、80%は症状が比較的軽いという。重症のリスクのあるのは60歳を超えた持病のある人、逆にこどもの感染例は少ない。全体の致死率は3・8%、80歳を超えた感染者の致死率は21・9%。1月1日から10日までに発病した患者の致死率は17・3%となっているのに対し、2月1日以降に発病した患者の致死率は0・7%と低く、感染拡大に伴って医療水準が向上した結果だと分析している。
報道では、現在、世界では新型コロナ感染者数は約9万人で、約3000人が死亡しているとされる。WHOは危険性の高い国として、イラン・イタリア・韓国・日本の4カ国を挙げている。 呼吸器官への新たな感染症の発生は大きな脅威であることは間違いないが、これはどの程度の「脅威」なのであろうか。それは考え方によるであろうが、他の感染症と比較してみる。
現在、米国では2600万人以上がインフルエンザに感染し、死者は1万4000人に上る。日本では近年、毎年インフルエンザで3000人程度が死亡しているようだ。現時点では死者の規模では新型コロナをインフルエンザがはるかにしのぎ、致死率では0・05%とインフルエンザが新型コロナよりはるかに低い。エボラ出血熱の致死率は50%を超え、14年西アフリカの流行では、2万8512人が感染し、1万1313人が死亡したとされる(WHO)。ちなみに、ウイルスは致死率が高いほど宿主がなくなるので感染が拡大しにくくなる。
重症急性呼吸器症候群SARSの02年11月から03年7月にかけて中国南部を中心に起きたアウトブレイクでは、広東省や香港を中心に8096人が感染し、37カ国で774人が死亡した(致命率9・6%)(WHO)。新型コロナより感染者数は少なく、致死率は高い。

2 感染対策のジレンマ

感染は、接触感染・飛沫感染と一部エアロゾル感染があるという。医療機関での感染の他、中国では家庭が、日本では屋形船やスポーツジムやライブハウスなどの密閉された場所で起きたとされている。
20年2月29日「WHO調査報告書」は、中国が感染拡大を抑制した教訓として「迅速な診断と隔離」を挙げて推奨している。他方、日本政府は、「軽い風邪症状の場合は自宅待機」を促し、PCR検査を抑制している。この政府の措置には、「検査機関の医療崩壊を防止するもの」という評価と、「公になる感染者数を減らそうとしている」という二つの見方がある。
実際の医療検査機関からは、「ウォークイン(紹介状なしで来ること)で来たりする患者が増えているが、みんなが風邪をひいたとき病院に押し寄せたらどういうことが起きるか、まず医療スタッフがパンクしてしまう。もう一つは、病院が混雑すれば混雑するほど、感染リスクは高まる。これは、15年MERS(中東呼吸器症候群)のときに韓国で起こったこと。救急外来がものすごく混雑し、ひざがぶつかるか、ぶつからないかぐらいの待合室の距離の中で感染者が増えていってしまった」としている(大曲貴夫・国立国際医療研究センター)。
確かに、インフルエンザの場合では21世紀になってタミフルが保険適用になり、最近では次々抗ウイルス新薬が保険適用になっているが、死亡者数は増加している。一刻も早く治したい労働者が病院に来る機会が増え、高齢者に感染を拡大している可能性がある。 このような感染対策のジレンマは、日本がこれまで感染病に対する検査態勢・医療体制を十分に築いてこなかったことによると考えるべきと思う。

3 パンデミックとインフォデミック

WHOは今回の感染が今までと違うところは、パンデミックの危機のみならず、インフォデミック(不確かな情報の拡散)の危機があることだとしている。インターネットとソーシャルメディアが登場し、世界中の圧倒的多数が直接情報のやり取りができる時代のパンデミックである。
インフォデミックというと「トイレットペーパーや生理用品が不足する」というデマ情報を想起するが、それにとどまらないであろう。「○○で患者が発生した」というそれ自身は間違いのない加害性のない情報も、その大衆的な受け止めと行動によっては大きな問題を発生させる。医療機関への殺到と医療体制の崩壊はその一例であろう。イタリア政府当局者は「海外で発生するインフォデミックがイタリア(観光)経済を脅かしている」と発言している。
情報リテラシー(判断力)は極めて難しく、定量評価の欠けた情報が飛び交う。また、政治的経済的利害から意図的な情報操作も発信されているであろう。
中国に次いで感染者の多いイランでは宗教指導者側近や国会議員の死亡、金曜礼拝の中止が報告されている。3月3日、過密状態の刑務所で新型コロナウイルスの感染が拡大しているのを受け、受刑者5万4000人以上を一時的に釈放、イラン司法省の報道官は記者団に、新型ウイルスによる感染症COVID―19の検査で陰性が確認され、保釈金を支払った受刑者の釈放を認めたと述べた。禁錮5年以上の刑、高度の警備が必要な受刑者は釈放されない。
2月27日国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団(RSF)」は26日、イランが新型コロナウイルスに関する情報を「隠蔽しているとみられる」と指摘し、ウイルス流行についての独立した報道を同国が妨害していると批判した。英BBC(電子版)は28日、イランの病院関係者らの話として、27日までに全土で少なくとも210人が死亡したと報道(公式死亡者は当時43人)、イラン保健省の報道官はBBCが「ウソを広めている」と批判した。
現代において情報に正しく対処することは極めて困難だ。

4 エコロジカルな危機も

医療の進歩で20世紀は感染症を克服したとされる例も増えたが、21世紀は再興感染症や新たな感染症が次々誕生している。
人の国際的移動・流動性に防疫が追いついていないのではないだろうか? 同じ中国を発祥の地としながら、20年の新型コロナは02年SARSの10倍のスピードで世界に感染を拡大している。グローバリズムの下、「物の消費から体験の消費へ」とあおられる商業主義的観光の拡大は、オーバーツーリズム(観光公害)と共に感染症の危機も作り出しているとするのは言い過ぎだろうか。
近年、何度も新型感染症に襲われた韓国の「人道主義実践医師協議会」ウ・ソッキュン氏は、「環境破壊で人間が野生動物と接触する機会が多くなって、資本主義的工場式畜産業で豚や鶏などの遺伝的多様性が排除された動物でのウイルス変異が容易に起こり、急速に広がる異常な条件がそろっている。ここに移動手段の発展とでたらめな公衆防疫システムの問題が重なったことがパンデミック発生の真の原因だ」と述べている。

危機に立ちむかい運動を強化しよう

新型感染症の脅威と、それすら活用して強権的な支配を強める権力にたいして、私たちは、新たな時代状況を検証しつつ、立ち向かっていきたい。

原発のない社会つくろう
滋賀県大津市で集会
3月7日

「3・11」から9年目を迎える3月7日、滋賀県大津市内で「原発のない社会へ2020びわこ集会」がひらかれ、会場となった膳所公園に500人が集まった(写真)
集会前半は、おしどりマコ・ケンのトーク。「毎年ドイツに行って、中学校や高校で講演している。ドイツの中高生は普段からよく情報を取り、勉強している。『ナチスに学べと言った麻生は今も現役閣僚か』、『福島原発事故の原因は津波と言われているが、本当は地震が原因ではないのか』など専門的な質問でいつも時間が足りない。『最後に一人だけ』と言うと全員が手を挙げる。9歳のとき東日本大震災をテレビで見たという高校生は、当時、その悲惨な光景に目を背けようとすると、母親が後ろから、『しっかり見なさい。この現実から学ぶ必要がある』とテレビから離してくれなかったという」「ドイツでは親も教師も、子どもに現実を直視して学べと教えている。18歳までに支持政党を決めるのは当たり前。『なぜそうなのか』とたずねると『ドイツではワイマール憲法の下の選挙でナチスが政権を取った。民主主義では、市民一人一人が正確な情報を持ち、責任ある判断をすることが問われる。それが歴史の教訓だ』とある教師が教えてくれた。日本人はここがわかっていないから安倍が政権を取り、原発を推進している」。
集会後半は、井戸謙一弁護士が基調報告。嘉田由紀子参議院議員が連帯あいさつ。滋賀県知事や近江八幡市長などの連帯メッセージが紹介された。
原発事故から滋賀県内に避難している人の訴えに続いて、「5・17老朽原発うごかすな! 大集会inおおさか」への呼びかけを原子力発電に反対する福井県民会議・宮下正一さんがおこなった。 (多賀信介)

4面

資本主義の終わりをどう生きるか
『隠された奴隷制』の植村邦彦さんが講演

2月16日、関西大学教授・植村邦彦さん(写真左)の講演集会が、大阪市内でおこなわれた。植村さんは昨年、『隠された奴隷制』(集英社新書)を出版。資本主義はすでに終わりつつある。この認識のもとで、労働者はこの時代をどのように認識し、どのように生きるのかについて、外国の文献をも紹介しながら、われわれに問いかけた。
運動の側は資本主義の終わりを促進しつつ、新しい時代をどのように創りあげていくのか。このことが問われている。以下、植村邦彦さんの講演要旨を紹介する。

現代日本の状況

2000年を前後して、日本の労働者階級がおかれている情況に大きな変化がみられる。このことは過労死・過労自殺した人が残した遺書・手紙などを読んでみるとよくわかる。以前は、「労働者はみんな奴隷状態に置かれている」というように書いていた。以後は、「自分が無能力であった」という表現に変わっている。ここで、労働者は能力主義でおおわれ、自己責任論がすり込まれている。
このように、日本では2000年頃から、新自由主義の思想が労働者のなかに浸透していった。新自由主義とは、人びとの自由のためではなく、じつは企業活動の自由を追求する政治思想なのだ。

「隠された奴隷制」

マルクスは『資本論』及びその『草稿』で次のように書いている。「ローマの奴隷は鎖によって、賃金労働者は見えない糸によって、その所有者につながれている」、「労働者としての彼の存在は、彼が資本家への自分の労働能力の販売をたえず更新することにかかっている」、「ヨーロッパにおける賃金労働者の隠された奴隷制は、新世界での文句なしの奴隷制を踏み台として必要とした」。
マルクスは誰にたいして「隠された奴隷制」だと言っているのだろうか。労働者にたいしてだ。自らが奴隷の状態にあるということを労働者が認識できないようにしている。ここで、マルクスは「(労働者が)これを不公正だと判断することは、並はずれた意識が必要だ」とも言っている。
現在、日本企業の労働分配率はどこでも50%くらいだ。8時間労働だとして、労働者は4時間働けば生きていけるのであり、4時間は資本家のためにただ働きをしている。 また、現代資本主義では、つねに過剰生産・過剰資本の状態になっている。労働者は安い賃金におさえられ、物が欲しくても買えない状態におかれている。結局、資本家が利益をえるためには不生産的諸階級の消費能力にたよらざるをえない。これが資本主義的生産様式の矛盾なのだ。

現代資本主義の終焉

シュトレークは、現代資本主義の終焉を示す5つの症状をあげている。@経済成長の低迷、A少数者による独裁、B社会福祉の切り捨てと民営化、C巨大企業や政府の違法・脱法行為、D国際的な無秩序化。この指標は、日本にもあてはまる。
現在、資本主義システムは終わりつつあるというのが知識人の共通した認識になっている。「どう終わらせるのか」を議論しているのが現状なのだ。
ハートとネグリは『コモンウェルス』で、かつてのコミューン主義者のように「資本主義からサボタージュすること」の重要性を議論している。また、デヴィッド・グレーバーは「あらゆる社会システムは、現に存在するコミュニズムの基盤のうえに築かれている」と述べている。ポール・メイソンは「協同組合、信用組合、サブカルチャー経済のなかに、新しいシステムの諸要素がすでに存在している」と言っている。いっぽう、デヴィッド・ハーヴェイは「権力を取らずに世界を変えようとすることによって、ますます強大化する金融支配階級」と言い、「支配階級が行使する権力」を軽視してはいけないと警鐘を鳴らしている。
資本主義の終わりは、確実に始まっている。これは世界の終わりを意味するのではない。次に時代を担う人びとが新しい世界を創造していく時代でもあるのだ。この混乱はしばらく続くだろうが、資本の側ではなく、社会運動をする側の対応が求められている。

読者の声
朝鮮学校差別をなくそう
一度学校の実態を見にきて
大阪 絹川依子

朝鮮高校授業料無償化排除、大阪府・市の補助金カット、幼・保無償化からの外国人学校排除を許しているのは、私たち日本人の問題です。
在日朝鮮・韓国人の保護者は、府民税・市民税・消費税をきちんと払っているのに、税金で保障されるべき措置は受けていません。公立学校では税金で学習環境を整え、児童生徒の安全のためには、即対応し、予算もつけるのに、在日朝鮮人・朝鮮学校に対しては意図的に排除しています。
前文科省事務次官前川喜平さんはこれを官制ヘイト≠ニいっています。安倍が過去の侵略戦争、植民地政策の歴史的事実を認めようとしない態度、政策が、それに対する日本人の容認姿勢がヘイトをまん延させているのです。司法も児童・生徒の学習権など教育に関する判断は一切せず、国の言い分をそのまま認めて朝鮮学校の訴えを却下しました。国連からも5度の勧告を受けていても、無視し続けています。
毎週火曜日、正午から1時間、大阪府庁前で、朝鮮高校無償化適用と大阪府・市の補助金復活、幼・保無償化適用を訴えている火曜日行動も379回を数え、8年目を迎えました。
なぜ日本に朝鮮・韓国人が多く住んでいるのか。日本が1910年に朝鮮を武力で植民地にし、土地を奪い、言葉・文字・文化・魂までも奪って、日本人として戦地へ送り出し、強制動員・強制労働させて、敗戦後は、日本人ではないといって何の保証もしない。その結果として在日を余儀なくされ、民族を取り戻すための学校を建てて、今に至っているのです。GHQの弾圧や政府の差別に戦後70年抗して、民族のアイデンティティーを守り続けています。
朝鮮学校を一度見に来てください。子どもたちのありのままの姿を見てください。初めて訪れた人は、皆言います。想像していたのと全然違う。テレビで聴いていたのと全然違う。
自分の目で見て、自分で判断することが大事ですね。朝鮮学校の実態を見てください。

世紀の愚策 全国一斉休校
兵庫 池田恵介

「ホンマ、わけわからん」。

15枚の宿題プリントを作り終え、横で輪転機を回す仲間がため息。さる2月27日降ってわいたような首相の休校要請のため、金曜日の28日は遅くまで教職員打ち合わせ。とりあえずは休日中のプリントづくりと全教科のテスト返却。翌日の土曜と次の日曜は、休日返上で期末テストの採点と15日分のプリントづくり。月曜は朝から期末テスト返し。
すべてのテスト返しと宿題配布を半日でおこなうには、各教科の教員が授業1コマを4分割する。1時間目に2教科(前半25分は学活)、2時間目に4教科、3時間目に4教科、4時間目には国数社理英5教科のプリント各15枚ずつを宿題として配布。4時間目後半は教職員打ち合わせ(生徒は宿題プリントで自習)。目が回るような忙しさだ。
朝確認されたことが、昼前には大幅に変更。教育委員会からの指示文書が間に合わない。卒業式で「日の丸・君が代」に反対で着席などすると、「現場を混乱させた」とかで処分される。このたび法的根拠もなく全国数多の小中高等学校を混乱させた者への処分はいかなるものになるのであろうか。

#MeToo
長い助走を経てうねりに

アメリカのタラナ・バークさんは若い黒人女性を中心とする性暴力被害者ための活動を20年つづけてきたそうです。2006年「MeToo」という団体を設立。性暴力の被害者たちが、いつか車のバンパーに「MeToo」というステッカーをはって、連帯のメッセージを送りあえる日がきたら…と、ひたすら地道な活動を続けてきました。
期せずして17年10月、ハリウッドの大物プロデューサーであるハービー・ワインスタインの性的暴行疑惑が新聞で暴露され、女優のアリッサ・ミラノさんが、性暴力を受けた女性たちは「#MeToo」と投稿して声をあげました。数週間のうちに「#MeToo」の使用回数は1200万回、瞬く間に世界中に広がりました。著名人や聖職者の性暴力、加害行為が次々と白日のもとに引きずり出されたのです。
韓国の「#MeToo」運動の契機となったのは18年1月テレビに出演した検事の告発。その年の5月、民主労総全北本部を訪問した私は、若い男性活動家が熱心に運動しておりビラをもらいました。印象深かったです。1991年日本軍の性奴隷とされた金白順さんの証言、ハルモニたちと共にする運動、16年の地下鉄駅での女性殺害に抗議する運動などが、それに連なりました。
日本でも、15年4月に元TBSプロデューサー山口氏からレイプ被害を受けた伊藤詩織さんが、官邸援護を背景とした不起訴を不服として、17年10月民事裁判を起こし記者会見で事実を明らかにし告発しました。「#MeToo」運動に立ちあがった女性たちに対する激しいバッシングにもかかわらず、19年3月の性虐待事件の無罪判決を機に、4月11日から毎月1回のフラワーデモが始まり、12月には全国31カ所で開催。この3月8日には全国で一斉行動が。
さかのぼって89年には「御堂筋事件」と言われるレイプ事件をきっかけに「性暴力を許さない女の会」の相談や広報の活動が始まり、00年には「ポルノ・買春問題研究会」が発足しています。10年には日本で初めて、大阪の病院が性暴力被害者支援のための病院拠点型ワンストップセンター「性暴力救援センター・大阪SACHICO」を開設しています。これらはほんの一例でしょう。70年代からのキーセン観光糾弾運動をはじめ、さまざまな形で継承・蓄積されてきた女性運動によって「セクハラ」が性差別を象徴する言葉となり、法制度にも少しずつ影響を及ぼし、「NO!」の認識が社会的に広まり、それが土壌となり「#MeToo」運動のうねりにつながりました。
「#Me Too」運動の世界的うねりに至る底流には、はるかに永い有史以来の性差別・性暴力の苦しみとたたかいの歴史が流れていると思います。
(日野容子)

5面

書評
日本の社会運動に反省を強いる
衝撃の『写真集 キャンドル革命』
大庭 伸介

サブタイトルに「政権交代を生んだ韓国の市民民主主義」とあるこの書は、写真だけでなく、キャンドル革命の全過程の魂の記録集でもある。私は本書から限りない感動と勇気、そして反省の契機を与えられた。
キャンドル集会は2016年10月から17年4月まで23回開かれ、183日間に1685万2千人の民衆が参加。16年12月3日には232万人が結集した。これは1日の参加者では世界最大規模である。
この間、逮捕者・死者はゼロ! 警察に弾圧の口実を与えて敗北に終わった過去の経験に学び、暴力行為を厳しく戒めたからだ。
最低気温がマイナス11℃、体感温度マイナス17℃。厳寒のなかで地べたに座り込んだ民衆の怒りの前に、朴槿恵大統領は退陣した。
写真が本書の半分を占め、広場の状況や参加者の表情を生き生きと描いて、見る者の目をとらえて離さない。

民衆革命の実情を伝える圧巻の映像

冒頭のカラー写真から「銀河が流れているような、キャンドルで輝いた広場の歓声」が伝わってくる。「革命」を叫び、存在自体が希望を表現している中高生たちの独自集会。伝統衣装を着た少女たちが集会を祭りのように楽しみ、活力を与えている。
団体や市民が広場のあちこちで温かい飲み物などを配る。地方都市で4000人の市民が大雪にぬれながら立っている映画のような光景。雪が降ろうが雨が降ろうが、最後まで舞台の発言に耳を傾け、激励の拍手を送るソウル・光化門前広場の大群衆。
「強い思いを持つ者が勝つ、粘り強い者が勝つ」と輝く主婦の目。あどけない表情の子どもが、「朴槿恵弾劾」を書いた紙コップの上を吹く風を手でさえぎっている、などなど。映像ならではの迫力に満ちた作品の数々は、まさに圧巻である。
さらに胸を打つのは、民衆の行動と内面の高揚を綴った珠玉の言葉である。それは読む者の琴線に触れる〈革命〉の叙事詩だ。

主体の内面的変革と次世代の登場

詩人で写真家・革命家の監修者朴勞解は、次のように語っている。
「正しくない権力者が最も恐れていることは二つ。ひとつは活力に満ちた普通の人びとによる抵抗。もうひとつは、その抵抗の現場の真実と思想が書かれた1冊の本。その記録と記憶が次に訪れる革命の火花になるからさ」。
彼はさらに、「革命が偉大なのは、革命の過程で次の革命の主体をはらむということだ。キャンドル革命は、韓国社会の今後の30年を築いていく健康で正義感ある新たな主体を誕生させた」「積弊清算=i※)と自己省察≠ヘ同時進行ではないのか。外の悪いものに対しては、これじゃダメだ! と抵抗しながら、同時に私個人の暮らしの中に入り込んでいる、あの物神崇拝の根幹を直視して省察し、断念することではないのか」と語りかけている。
(※)永年にわたる政治の私物化、財閥との癒着を根絶すること。

ここに、民衆の内面の変革と政権打倒とを一体化してとらえる画期的な視点がハッキリと打ち出されている。
著者・金藝?は、壬申倭乱(豊臣秀吉の朝鮮侵略)に抗した義兵以来のさまざまな抵抗闘争で倒れた先人たちの血が、「私たちの中に流れて、キャンドル革命の勝利が成し遂げられた」と強調している。
この考え方は、日本の社会運動の悪しき伝統とも言うべき〈継承性の欠落〉の対極をなすものである。
本書はジョン・リードの『世界を揺るがした10日間』やエドガー・スノーの『中国の赤い星』に勝るとも劣らない衝撃のドキュメントである。
ひるがえって、日本の社会運動はどうか。
戦前、左翼陣営の多くの闘士が転向した。特高警察の拷問に耐えきれず、敵の軍門に降ったケースばかりでない。彼らは逮捕され長く拘禁状態におかれるなかで、初めて内省の機会に遭遇した。彼らの運動は大衆から遊離し後退の一途をたどっていた。その原因を省察して、それまでの運動のあり方に疑問を抱くようになり、自信を喪失した結果、内面の崩壊から転向した例が少なくなかった。
彼らの運動が、人間の内面を問うことをないがしろにしてきた帰結である。
今日、地域合同労組は非正規雇用労働者の相談に応じ、街宣や団交、労働委員会などをつうじて要求実現に取組んでいる。当該にとっては初めての経験であり、その過程で「人間らしく生きていく」契機をつかむことができる。当該にそのことをハッキリと意識させ、一個の人間としてどこまで成長したのか、共にたたかった立場から確認し合うことが重要である。
一人ひとりの内発性をひきだすことによって、はじめて社会の変革と人間解放をめざす運動が前進するのではないだろうか。
われわれがキャンドル革命から学ぶものは大きく、深い。(コモンズ刊。3400円)

〈連載〉まっちゃん、これでええかな(最終回)
命を分ける社会はいかん
脳性まひ者の生活と健康を考える会
元関西青い芝の会連合会会長 古井正代さん

―古井さんが子どもをお産みになった決意というようなものとかを聞かせてください

私は反対されればされるほど、燃え上がるタチでして、長女がお腹にいる時、私の相方の両親は結婚に反対しました。
まず籍を入れる言うたら古井の名字は使うなと親に言われたから、古井に急きょ変えて、すぐ籍入れた。その頃は鎌谷という名で通ってたからどっちに入れようと迷ってたんやけども。その後、子どもができるごとに結婚するのはしょうがなかったけれど、子どもはつくるなと言われたんで、ポコポコと3人産んだ!

―今日はすごい魂が震えるような思いで聞かせてもらいました。今現在、いろんな活動もされていると思うんですけど、実現したいことがあれば教えて下さい

私は、いらん命といる命を分けるような社会があったらいかん、と思ってる。健全者で生まれた人も何十年先には障害者になるかもしれないわけでしょ。その時に「あんなもん死んだ方がましや」と思とったら、自分が情けない人になるわけでしょ。障害者でも健全者でもどっちになっても、まっちゃんみたいに「おもしろおかしく生きてやろう」ということが実現できる社会めざしたら、出生前診断なんていらないものでしょ。
そういう意味で自分の中の優生思想を問いかえさなあかん。皆の心の中に「あんな障害者みたいなもんいらん」という気持ちがあるから母胎血検査や、エコー検査で異常が出たら大切な命、どの命も同じ重みのある命とは考えられないで堕ろすんでしょ。
そういうような社会はまっちゃんは喜んでないと思います。まっちゃんは自分の生きざまを見せつけることによって、どんな姿でも最後まで自分らしく生きるということが言いたかったから、あの寝巻みたいなん着て、どこでも行きよった。どこでも生きざまを語ってた。まっちゃんの気持ちをみんなで考え直して出生前診断などしない社会を受け継いでいきましょう。

―どうもありがとうございました

それではみなさん、最後にまっちゃんに「ありがと」言いましょ。これでええかな、まっちゃん! (おわり)

連載
命をみつめて見えてきたものH
金もうけのための医療
有野 まるこ

前回紹介した川竹さんは、「私を攻撃してきた人々が己の非を明らかにすることもなく言説を変えてきた」と憤慨していたが、背景の問題は医療が金もうけのための手段になっていることだ。莫大な医療費で大もうけしているのは製薬会社や医療機器メーカー、IT業界や保険会社など。それにコントロールされている医療・医学界、行政や政治権力。製薬会社と医学部・学会や厚労省との癒着は枚挙にいとまない。多くのマスメディアは彼らの利益を守るスピーカー。彼らにはガンの自然退縮という現象は認められない。そして労働・社会・自然環境の悪化や医原病による患者の大量生産はウエルカムなのだ。
なので、医療は人間の自然治癒力に目をむけた病気予防や治療法ではなく、医療費を増大させる方向ばかりに発展していく。必ずしも検診=予防=良いこととは言えない。医療と観光を成長戦略に掲げる安倍政権の下、高額の高度医療は日進月歩。「いのち輝く未来社会」と銘打つ大阪万博、維新の狙いも同じ。日本政策投資銀行(財務省所管)は、2020年時点での観光も含む市場規模を5500億円、経済波及効果を2800億円と試算。新型コロナウイルスの感染拡大で観光立国や高度医療の成長戦略がいかに危うい砂上の楼閣であるかが浮き彫りに。他方で、住民に身近で必要な中小病院や診療所が潰されていく。新しい高額の抗がん剤を保険適用する一方で、安全と効果が認められてきた薬を保険適用から外す方向。欧米では実施されているガン治療でも製薬会社が儲からないものは保険適用しない。

睡眠の大切さ

最大の病気予防は皆が幸せを感じて暮らせることではないか。2世紀も前につくられたスローガン「8時間を労働に、8時間を休息に、8時間をやりたいことに」こそ、基本の基だ。ガンの予防にも治療にも、質の良い十分な時間の睡眠は必須。寝ている間に免疫細胞が働き傷ついた細胞を修復してくれるから。私自身、一番まずかったのは睡眠軽視だった。国際的にも、日本人の睡眠時間は非常に短い。ガンの多発と短い睡眠時間は関係が深いと思う。長時間労働、パワハラやセクハラの蔓延、過酷な競争にさらされる職場では睡眠の質も量も確保できない。コンビニに代表される24時間ぶっ通しの経済活動、夜のエンタメで観光客を呼ぶ、大阪の地下鉄の深夜運行時間の延長なんて、とんでもない話だ。
私が労働者になった頃、労基法は女性に対する残業や深夜業、危険有害業務等を厳しく規制し、労働者全体の労働条件悪化の歯止めともなっていた。1986年以降の相次ぐ改悪で今や労働法制は労働者保護法とは言えない体たらくである。もしあの頃の最低労働条件が当たり前であったら今日ほどの過労死・過労自殺はもちろんのこと、ガンや医療費がここまで激増することは無かったろう。人間は夜、ゆっくり眠るもの―それが当たり前の社会に変えていこう。(つづく)

6面

学知の植民地主義
琉球遺骨返還裁判 松島泰勝さんが陳述

松島泰勝さん

2月28日、京都地方裁判所で琉球人遺骨返還訴訟の第5回弁論が開かれた。傍聴席88人の大法廷は埋めつくされ、法廷には入れない人もいた。傍聴には沖縄(琉球)はもとより、東京、名古屋、福岡などからも参加。全国的な注目と関心の高さがうかがわれた。
戦前、京都帝国大学助教授で人類学者の金関丈夫は沖縄県今帰仁村にある琉球王朝の第一尚氏の墳墓である百按司墓から遺骨を盗掘した。その遺骨は現在も京都大学に収蔵されている。その遺骨の返還を求めて、第一尚氏子孫の亀谷正子さん、玉城毅さん、衆院議員の照屋寛徳さん、彫刻家の金城実さん、龍谷大学教授の松島泰勝さんの5人が起こしたのがこの裁判である。
2018年12月の第1回の裁判以来、4回の裁判で原告がひとりずつ意見陳述をおこなってきた。今回は原告の最後となる松島泰勝さんの意見陳述である。松島さんは、琉球・石垣の生まれ。複数の著書で金関丈夫の遺骨盗掘と遺骨返還を拒否する京都大学のあり方を「学知の植民地主義」として告発、糾弾している。

琉球の植民地支配

松島さんは意見陳述で3つの視点から「学知の植民地主義」について言及した。
第1は、「琉球に対する植民地主義」である。1879年の琉球併合(併呑)は日本政府によって軍隊・警察を使っておこなわれた。沖縄県庁、沖縄県警、学校などの幹部のほとんどにはヤマトンチュ(大和人)=日本人が就任し、経済活動においても「寄留商人」と呼ばれる日本人による収奪が横行した。金関は祭祀継承者の了解を得ることなく、県庁や県警の日本人幹部や同化された琉球人研究者、教育者の「許可」や「案内」を受けて遺骨を盗掘した。金関はナチスの優生学を評価していた。

京大の戦争犯罪

第2は、「京大による戦争犯罪」である。731部隊の創設者であり部隊長であった石井四郎・陸軍軍医中将は京都帝国大学の出身であり、石井の下で京大出身の研究者たちは中国人の人体実験を組織的におこなった。植民地支配下の不平等な関係を利用して、人体実験や遺骨盗掘がおこなわれたのである。人類学者による盗掘の目的は、日本帝国主義の植民地支配と諸民族に対する統治を正当化するため、「日本民族の優位性」を証明する「科学的根拠」を得ることだった。そのため彼らは当事者や遺族・地域社会の同意を得る必要など感じていなかった。
彼らは人間を単なる研究資料として利用することしか考えていなかった。これは人間の尊厳を無視した非人道的行為であり、国際法にも国内法にも反している。

人種差別主義

第3は、「学知による人種差別主義」である。1903年、大阪で開催された内国勧業博覧会における「人類館事件」に典型的に示された帝国主義の差別的心性を人類学者や多くの一般の日本人が共有していた。
現在においても、京都大学は遺骨の返還を求める琉球人と会おうともせず、「個別の問い合せには答えない」という姿勢をとって遺骨返還を拒否している。日本人類学会は京大にたいする「要望書」で、百按司墓の琉球人遺骨は研究対象の「古人骨」であるから、遺骨を返還せずに学術調査を継続するよう求めている。このような京大や人類学会の態度こそ、帝国主義の差別的心性と体質そのものであり、植民地支配の一角である「学知の植民地主義」である。
松島さんは京大が遺骨の返還を拒否することは、琉球人の慣習、風俗とそれを担う人びとの心を踏みにじる非人道的な犯罪であると断罪した。
そして最後に、「私たちはご先祖のご遺骨を元のお墓にお戻しし、祭祀をおこなってそのマブイ(魂魄)に平安を与え、子孫と骨神とが交流するときが来るまで、京大による『学知の植民地主義』とのたたかいを絶対にやめません」と決意をあきらかし、京大が自らの過ちを真摯に反省し、今でも祭祀の対象となっている墓地に遺骨を戻すことを訴えて、意見陳述を締め括った。 (島袋純二)

投稿
つながりをちからに
あきらめず狭山再審実現を
2月24日 第4回市民のつどいin関西

集会後パレードに出発(2月24日 大阪市)

新型コロナウイルス感染問題に社会が揺れる最中、表記の集会が大阪市内で開催された。冒頭、実行委員会から、感染症問題への対応の遅れにより、告知できないままプログラムの変更をおこなったとのおわびと説明があった。それによれば、集会2日前の緊急ミーティングで林力さんの記念講演を中止、石川一雄さん、早智子さん、袴田ひで子さんのえん罪アピールのテレビ電話による中継への切り替えを要請したとのこと。
中継が果たしてうまく行くのか。見ている方もハラハラしたが、まずは浜松との中継がつながった。袴田ひで子さんの後ろに巌さんの姿が。音声はとぎれとぎれであったが、ひで子さんの満面の笑顔とむっつり顔の巌さんのお顔が見られただけで十分だ。
そして狭山から。今度は音声もバッチリだ。狭山と大阪、石川さんらと会場参加者とが互いに手を振りあう。早智子さんはブログで「会場の様子が手に取るように伝わってくる。会場の息遣いが伝わる不思議な感覚だった」と記されているが、困難を乗り越え、心が通じ合う感動の瞬間だった。狭山、浜松、大阪を結んで中継を成功させた実行委員会の若いメンバーたちに拍手を送りたい。
林力さんの代わりに、「ハンセン病問題を共に学び共に闘う全国市民の会」会長の太田明夫さん、さらに、聴衆として来場されていたハンセン病家族訴訟原告団副団長の黄光男さんが登壇し、ハンセン病差別撤廃を訴えた。
「おまえは若いから来いと言われました」と言って登壇した大崎事件再審弁護団事務局長の鴨志田祐美弁護士は、事後に次のような発信をされている。「ハンセン病差別も冤罪も『人生被害』であり、加害者は『国家権力』です。だからその加害をはねのけるのには大変なエネルギーが要る。そのためにはひとりでたたかうのではなく、弁護団も支援者も個別の事件を超えた連帯で法や制度まで変えていくことが必要だ、ということを、このようなイベントを通じてどんどん発信していけたらいいな、と思いました」。
その他、「探偵ナイトスクープ」物理の先生でおなじみの山田善春・大阪市立大学講師によるサイエンスショー、「わたし×さやまproject Tシャツ・コンテスト」表彰式、ライブなどで盛り上がった後、狭山を掲げた行進としては大阪市内では久方ぶりというパレードに出た。
中継で話す石川一雄さん、早智子さん
先頭は、集会でも圧巻のライブを行ったカオリンズ、アカリトバリのギター、アコーディオン、ボーカルに加え、スイングマサさんのサックス、古賀滋さんのアコーディオン。にぎやかにウィ・シャル・オーバーカムを演奏しながら狭山、袴田、大崎の再審を訴えた。
後日、フェイスブックに実行委員会メンバーから次のようなコメントが寄せられていた。「泣き笑いの、全力投球の、昨日の集会が終わった。すさまじい意見の対立、いつ爆発するかとひやひやした会議。半年間の思い、それぞれが本気で頭を抱え、ぐるぐると堂々巡りの会議にため息。いつもなら、一歩も引かない個性豊かなメンバーがなんとか一つの結論にたどり着いたのは、『石川無実!』『狭山再審!』、これだけだったと思う。反省点はあるけど、とにかくやり切った感に浸っている私。そして、今日は、日常の朝に戻った。一雄さんの日常は、昨日の様な毎日なんやろうなぁと、思いつつ」。
感染症問題にどう対応するか、あるいは集会やパレードをどうするかという結論以上に、ひるまず、あきらめず、一人ひとりが向き合うことの大切さ、そして石川一雄さんへの思い、狭山再審実現への深い思いがにじんだこのコメントを我々も共有し、学びたい。
狭山事件第3次再審請求審の次回三者協議は3月中旬。6月末の後藤眞理子裁判長の定年退官まで残すところあとわずか。部落差別を憎み、正義を求めるすべての人々の力を結集して、狭山事件の再審を実現しよう。(深谷耕三)