未来・第264号


            未来第264号目次(2019年2月21日発行)

 1面  関生支部弾圧
     拡大する警察の異常な弾圧
     産別運動を敵視、共謀罪も

     共謀罪のリハーサル
     関西生コン事件の真実”
     1月28日 東京

 2面  郵政ユニオン
     労働契約法20条裁判控訴審
     労働者分断する高裁判決

     辺野古埋め立てをやめろ
     総務省ヒューマンチェーン
     1月30日

     拡大する警察の異常な弾圧

 3面  三里塚芝山連合空港反対同盟
     市東孝雄さん/萩原富夫さんに聞く
     持続できる闘いで、勝利をめざす      

     関西実旗開き
     三里塚、沖縄、福島つなぎ
     全国でともに闘おう     

 4面  アジアスワニー闘争から30年 中村猛さんに聞く(第3回)
     日韓連帯から見える運動の課題

     投稿
     朝鮮高校 無償化から排除
     映画、署名などで世論変えよう

 5面  寄稿 自衛隊配備で琉球弧はどうなるか(下)
     二度と繰り返すな沖縄戦”
     小多 基実夫

     あいば野演習場
     オスプレイは来るな
     2月3日 日米合同演習に抗議

     若狭の老朽原発動かすな
     2月6日 大阪・御堂筋をデモ

 6面  生きる権利を求めて
     阪神・淡路大震災から24年

     朗読劇
     『線量計が鳴る―元原発技師のモノローグ』
     福島原発事故の責任を問う

     シリーズ
     原発問題を理解するために 第3回
     火力を止めても余る電力
     江田 恵

       

関生支部弾圧
拡大する警察の異常な弾圧
産別運動を敵視、共謀罪も

2月5日早朝5時、滋賀県警組織犯罪対策課は全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(全日建関生支部)の組合員の自宅十数カ所を捜索し、組合員12人を逮捕、さらに勾留中の組合役員3人を再逮捕した。なお逮捕状は16人に出されていたが、うち1人は労災療養中のために逮捕状が執行されなかった。逮捕された12人は滋賀県警の大津署、高島署、長浜署などに分散留置された。

今回の弾圧によって昨年7月から続く、関生支部にたいする弾圧の逮捕者はのべ55人にのぼった。容疑は昨年の弾圧と同じ滋賀県内の、倉庫建設工事におけるゼネコンの法令違反を告発する街頭宣伝活動(会社前ビラまき、宣伝10〜20分程度)を「恐喝未遂」とするものである。「ダンプの車検証のステッカーが見えない」、「建設業の許可証もない」などの法令違反を指摘し、会社の前で10〜20分ほど抗議のビラをまいたことが、「嫌がらせ」、「会社中傷行為を繰り返した」というのだ。組合活動や争議では当たり前のことだ。昨年の弾圧は違法工事の現場における抗議行動を対象としたが、今回はさらにエスカレートして宣伝活動を「恐喝未遂」として、ビラまきをしただけの組合員を逮捕したのだ。 2月7日、大津地裁の公判でゼネコン関係者は、「関生の関係者が会社近くの路上でビラをまくのを見て、通行人を装って自分も1枚受け取った」「スピーカーの音もよく聞こえなかった」「警察への被害届も出していない」と証言した。つまり、「犯罪の事実」がまったくないにもかかわらず、裁判所は警察に言われるがままに逮捕状を発行し、警察による不当な逮捕が強行されたのである。

警察が脱退を強要

また滋賀県警の警察官らが、今回逮捕した組合員の家族に対して、「職場(組合)の人や弁護士と話をしても、警察のことを悪く言うだけだから、連絡をとるな」と脅していたことが明らかになっている。警察がゼネコンとグルになって、組合脱退を強要する不当労働行為をしているのだ。裁判のなかでも県警がゼネコンに「組合が来たら隠れて映像撮影、警察との連携」を指示していた事が明らかになっている。

史上最大の労働弾圧

このような常軌を逸した弾圧が関生支部にたいして集中的に加えられていることに、怒りと危機感が広がっている。2月8日、東京で開かれた関生弾圧緊急報告集会(全日建主催)では「労働組合運動にかけられた『共謀罪』弾圧そのもの」「全力で反撃を」という発言が続いた。海渡雄一弁護士は、2月1日の大阪地裁第1回公判を傍聴したことを報告し、「違法行為に対し法令順守を求めたことが『軽微な不備に因縁をつける行為』で恐喝未遂とされ、ストライキで生コン車を止めたことが『立ちふさがる行為』で威力業務妨害とされている」と弾圧の異常性を強調。日本労働弁護団元会長の宮里邦雄弁護士は「これはもはや、平成労働運動史上最大の弾圧事件だ。組合つぶしに警察が動いている。異常かつ極めて悪質な弾圧だ」と弾劾した。

犯罪の事実がない

2月1日、大阪地方裁判所の大法廷で宇部三菱大阪港SS事件の公判がはじまった。2017年12月におこなわれたストライキを「威力業務妨害」として弾圧した事件だ。 検察官が起訴状朗読で威力業務妨害の事実として示したのは「立ちはだかりなど」というものに過ぎず、ストライキやスト破りへの抗議で労働組合法第1条2項の刑事免責の範囲をこえる威力(暴力)を行使したという事実を示すことができなかった。起訴状では犯罪事実が示されなかったのである。

「私たちは無実だ」

この日出廷した8人の組合員は次々と「憲法違反の組合弾圧で私たちは無実だ」と意見陳述。生コン業界の労働条件改善のために取り組んだ産業別運動の歴史を説き明かし、「協同組合と連携することがなぜ犯罪なのか」、「『暴力』行為はない。憲法と労組法で保障された正当な組合活動であり、無罪だ」と訴えた。 検察官の冒頭陳述はさらにずさん極まりないものであった。証拠のない事実を主張しようとしたため、8カ所にわたって冒頭陳述から削除された。さらに、「被告」とされたN組合員の「犯罪」を主張しなかったため、すぐさま弁護人が追及。結局、検察官は冒頭陳述を書き直すことになった。「起訴ありき」で事件をデッチ上げたことは明らかだ。 この日の公判には東京、名古屋からも法廷に駆けつけ、裁判所への申し入れと記者会見をおこなった。裁判後の報告集会では、関生弾圧は「共謀罪のもっている危険性が見事に発揮された事件」であり、「共謀罪適用の始まり」と指摘する発言が続いた。また、フォーラム平和・人権・環境、全日本港湾労働組合、全国一般労働組合全国協議会、全国コミュニティ・ユニオン連合会、全日本建設運輸連帯労働組合の5団体が大阪地方裁判所長に対し申し入れをした。勾留中の関生支部役員らに対する接見禁止の即時解除、速やかな保釈、憲法28条および労組法1条2項に基づく公正裁判をおこない無罪判決をというものだ。(2面につづく)

ストライキが犯罪か!
労働組合つぶしの大弾圧を許さない3・10集会

とき:3月10日(日) 午後2時〜4時
ところ:大阪市立西区民センター
内容:弁護団報告/被弾圧者からのメッセージ/アピール・熊沢誠さん(労働研究家)など
主催:労働組合つぶしの大弾圧を許さな い実行委員会



共謀罪のリハーサル
関西生コン事件の真実”
1月28日 東京

発言する海渡雄一弁護士。左は太田健義弁護士(1月28日)

1月28日、衆議院第二議員会館で「関西生コン事件の真実 共謀罪法のリハーサル弾圧を許さない!」集会が開かれ70人を超える人が参加した。主催は、共謀罪廃止のための連絡会。以下、主な発言を紹介する。

【有田芳生参院議員】

共謀罪の予行演習のような弾圧がされているのにマスコミが全く報じない。レイシストたちを尖兵にして不当な弾圧の呼び水にするのが日本の現状だ。職業としてのレイシストが関生に襲いかかった。いっしょに世論を盛り上げ、安倍一強を倒すたたかいと結合しよう。

【関西生コン弁護団・太田健義弁護士】

昨年7月から10月まで約20日おきに次々と逮捕者が出ている。滋賀の「湖東生コン協組事件」では違法な仕事にたいするコンプライアンス啓蒙活動を「些細な違法行為に対する嫌がらせ」とされた。コンプライアンス啓蒙活動については別の事件では違法ではないという判決が出ている。

【全日建書記長・小谷野毅さん】

生コンを安売りすると手抜きが起こる。阪神大震災で阪神高速も山陽新幹線も倒れた。生コンに加水したからだ。安売りさせない、ということで35年間続いてきた。自分たちの雇用条件も守るが、業界の違法行為は許さない。1994年に大阪広域生コン協会ができてほとんど100%の業者が入る協会になった。(製品を)運ぶ運転手はその下請けの運送会社。運賃を上げてくれという要求をし、そのために(生コン業者を守るための)協力もしてきた。企業主たちはポルシェに乗っていながら「運賃を上げない」と言ってきた。(一昨年)の12月のストに対して「威力業務妨害」、協同組合による不正の摘発に対して「恐喝未遂」と言ってきた。憲法28条(労働3権)がないがしろにされている。 1

2面

郵政ユニオン
労働契約法20条裁判控訴審
労働者分断する高裁判決

判決前、大阪高裁前で街頭宣伝(1月24日)

郵政産業労働者ユニオン(以下郵政ユニオン)の組合員が労働条件の格差是正を求めて訴えた裁判の二審判決が1月24日、大阪高裁(第6民事部、中本敏嗣裁判長)であった。今回の高裁判決は、一審判決に比べて前進したといえる内容と不当な部分がある。得手勝手な判断基準が持ち出されているため、勝訴した部分、認められた損害賠償の総額が一審を上回った点を強調する報道があった一方、「非正規社員を分断」「困惑」と見出しを付けた記事もあった。当の原告と弁護団は、判決後の報告集会で、困惑というよりも憤りを隠さなかった。

判決内容

裁判では、正社員、非正社員(6カ月の期間雇用、時給制契約社員)の間の労働条件の相違(各種手当、休暇の有無)が労働契約法20条違反であること、その認定によって正社員と同等の地位にあることを確認させ、これまでの差額賃金と損害賠償を求めた。2018年2月、一審大阪地裁判決では住居手当、年末年始勤務手当、扶養手当が非正社員に付与されないことについて労契法20条上の不合理と認定した。 今回の大阪高裁判決では住居手当に関しては一審と同じように認め、年末年始勤務手当と一審で判断されなかった夏期・冬期の有給休暇、有給の病気休暇について、勤続5年超との条件付きで付与されていないのは不合理と認定した。年間3日ずつある夏期冬期の有給休暇と有給の病気休暇の不付与が不合理とされたことは、大きい前進である。特に病休が無給であることは死活的な問題であり、自身の経験からこの点を最も大きく評価する仲間も少なくない。祝日給が一部認められたことも前進である。 しかし一審で画期的と評価された扶養手当は認められず、最も大きな手当である夏期年末手当(一時金)についても引き続き認められなかった。さらに正社員と同じ地位確認についても認められなかった。高裁判決で認められたのは、不合理とした手当、休暇の損害賠償額約433万円(総額)。額では一審判決が認めた損賠額約304万円を上回った。

 

問題点は何か

もともと会社、日本郵便(株)は、労働条件の格差を正当化する根拠として正社員=有為な人材として、その長期的確保を図る必要性から待遇を厚くしている≠ニいう「長期雇用のインセンティブ論」を一貫して主張してきた。一審証人尋問で会社側証人(管理者)は、その主張をゴリ押しするために非正規職がいかに怠惰で無責任であるかのような許しがたいでたらめな証言もした。 実態は明らかに違う。原告自身がすでに10年、20年以上契約を更新し続けている労働者であり、ともに働く正社員の仲間が非正規雇用労働者こそが業務を中心的に担ってきた≠ニの証言もおこなってきた。昨年12月13日、同じ裁判の東京高裁判決では、「長期雇用のインセンティブ論」を裁判所も採用せず、東京地裁判決を前進させた。 ところが今回の大阪高裁判決は、この「長期雇用のインセンティブ論」を展開し、一審が認めた扶養手当の不付与の不合理性を否定した。その部分を要約すると扶養手当は家族手当という生活手当の一種。長期雇用システムの中で家族構成、生活状況の変化による生活費の負担増を前提に、その生活費を会社が負担することで会社に貢献してもらうためのもの。たいして非正社員は短期雇用が前提でその支給趣旨に沿わない。家族構成、生活状況の変化により生活費の負担増はあり得るが、基本的には転職などによる収入増加で対応することを想定≠ネどと、怒りなしには読めない内容である。 さらに非正社員でも5年を超えて働いている労働者とそうでない労働者とを分け、5年以下の雇用期間の労働者には今回不合理と認められた手当、休暇について「付与されなくても不合理ではない」としている。その主張は会社側もしていないし、労契法20条にもない。にもかかわらず持ち出された「5年」という判断基準は全くの想定外であり、直後は困惑しつつも「労働者を分断する以外のものではない」と怒りがかき立てられた。一時金の格差については、正社員は非正社員の2倍、3倍から最もひどい場合は6倍以上もの差があることを具体的に示して、その不合理性を立証してきたが、これも一切触れられず一審判決内容の引用で済まされた。

19春闘をどう闘うか

裁判はさらに最高裁で争われる。一方で、高裁で以上のように認められた権利について日本郵便に認めさせる行動が問われる。昨年春闘で会社は、本裁判を逆手に取るように一般職の労働条件引き下げを強行してきた。 JP労組は躊躇なく会社提案を飲み、それと引き換えの非正規のわずかな「権利拡大」を謳いあげた。しかし、そのような裏切り行為を糾弾する声もあがっている。今春闘でさらに扶養手当削減にむけて会社、JP労組が一体となって突き進もうとしている中、その足元で心ある労働者が立ち上がろうとしている。19春闘をいかにたたかいぬくか。現場でのたたかい、実践が裁判所の判断をも左右させる。(浅田洋二)

辺野古埋め立てをやめろ
総務省ヒューマンチェーン
1月30日

1月30日、「総務省前ヒューマンチェーン 〜美ら海の埋め立ては違法!〜」が取り組まれ、400人を超える市民が声をあげた(写真上)。主催は、「止めよう! 辺野古埋立て」国会包囲実行委員会。前段として、3862筆にのぼる団体署名を提出する予定だったが、総務省は「公正・中立な立場」を理由に取次ぎを拒否した。 リレートークで発言者は口々に、「公正・中立」とは市民の声を聞かないことなのかと弾劾。公的に表明した以上に汚染されている土砂投入を認めていること、軟弱地盤問題で完成までに13年以上・予算2倍が予想されていること、なども問題視された。 昨年8月沖縄県は、辺野古新基地建設に伴う埋め立て承認を撤回した。それにたいして、沖縄防衛局が、石井啓一国土交通相に対して行政不服審査法に基づく不服審査請求を10月17日におこない、同時に、裁決が出るまで撤回の効力を失わせる執行停止を申し立てた。私人の権利救済を目的とした制度を行政権力が利用するなどいうことが許されるのか。そもそも行審法は国等の機関への適用を禁止している。にもかかわらず、国交省は10月30日に執行停止を決定。 沖縄県はこれを違法として、総務省管轄の国・地方係争処理委員会に審査を申し出ている。委員会は2月に結論を出すと見込まれている。 揺るがずたたかい続けている沖縄に連帯し、安倍政権もろとも新基地建設を打ち砕こう。

拡大する警察の異常な弾圧

1面からつづく
滋賀県警は「関生を削る、本気でやる」と発言している。これは権力中枢の決断である。その決断が、滋賀と大阪を舞台とした歴史を画する労働組合弾圧に、警察、検察、裁判所の三者をまるごと突進させている。これは憲法28条と労働組合法の存亡をかけたたたかいである。所属する労働組合や政治団体のちがいをこえて、関生弾圧粉砕のたたかいへの合流を訴えたい。関生支部が挑戦し、物質化してきたのは、企業の壁をこえた労働組合の力によって、産業構造を内側から変革することで新自由主義に立ち向かおうとする、労働運動の新たな挑戦である。これを国家権力は「反社会的な活動」とみなし、「共謀罪」を適用してたたきつぶそうとしているのである。権力のねらいはあらゆる社会運動を「組織犯罪」として取り締まりの対象にすることだ。それは思想・信条・表現・集会・結社の自由の禁圧を意味する。この弾圧の重大性を社会問題化し、広範な反撃を組織して、権力のねらいを打ち砕かなくてはならない。まさに「総がかり」のたたかう陣型とたたかう戦術の形成が求められている。3月10日には「ストライキが犯罪か!労働組合つぶしの大弾圧を許さない3・10集会」が大阪市内で開かれる。集会では熊沢誠さん(労働研究家・甲南大名誉教授)がアピールする。労働界、市民運動、法曹界などの総結集と総反撃の出発点にしよう。(森川数馬)

【関生弾圧にかんする本】
『ストライキしたら逮捕されまくったけど それってどうなの?〈労働組合なのに…〉』(連帯ユニオン/編 小谷野毅・葛西映子・里見和夫・永嶋靖久/著 旬報社2019年刊 1200円+税)
【関生弾圧に関する情報】
裁判の日程、行動の予定、賛同とカンパなどはフェイスブック「労働組合つぶしの大弾圧を許さない実行委員会」

3面

三里塚芝山連合空港反対同盟
市東孝雄さん/萩原富夫さんに聞く
持続できる闘いで、勝利をめざす

萩原富夫さん(左)と市東孝雄さん(右)

 1994年10月11日、「成田空港問題円卓会議」で国と空港公団(現成田空港会社)は、「今後あらゆる意味で強制的手段は取らない」と約束した。ところが今、国と空港会社はその社会的公約を破棄して市東孝雄さんの農地を農地法によって強制的に取り上げようとしている。昨年12月20日、千葉地裁高瀬裁判長は、「強制執行は権利濫用」とする市東さんの訴えを棄却した。(インタビューは1月14日、聞き手は本紙編集委員会)

 ――昨年12月20日、請求異議裁判で千葉地裁は市東さんの農地に対する強制執行を認める不当判決を出しました

市東孝雄さん 判決では、成田空港会社がシンポジウムや円卓会議で「あらゆる意味で強制手段は執られてはならない。話し合いで解決する」ということを認めていたことを、「最高裁の確定判決前のことだから関係ない」といって、切って捨てました。それだったら、なぜ小泉英政さんや加P勉さんを証人として認めたのかってことですよね。

萩原富夫さん そうですね、高瀬裁判長は学者証人まで認めて話を聞いていたわけだから、少しは判決文の中でこちらの主張も認めるのではないかという期待もあったのですが、「やっぱりそうか」という感じですね。内容的には完全にこちらが勝っていた裁判ですから、本当に許しがたい判決ですが、改めて実力で闘うしかないと思いましたね。しかし2年間、裁判闘争をやりきったことで、実際に執行を止めてきたわけですから、その成果は十分にあったと思います。
市東 いろいろ勉強にもなりましたね。請求異議審というものがあって、最高裁で判決が出ても2年間たたかってこられたというのは、大きな意味があると思いますね。忙しい中、大勢の人に傍聴に来てもらいましたし。しかし裁判の判決はひとつの通過点にすぎないといいますか、裁判所に期待しているわけではないですから、われわれは。そういう意味で、次に向かって進むという考え方ですね。
萩原 国の側からすれば、空港問題を解決するということは、反対運動をなくしてしまう以外にないわけでしょう。朝日新聞はそういう立場で記事を書いていますよ。反対闘争を続けていることが悪い事であるかのようにね。
市東 世間に対して真実を明らかにしてくれればいいんだけどね。新聞記者も成田空港をめぐるたたかいのことなんて全然知りませんからね。
萩原 そのへんはこちらのほうから、空港機能強化問題とあわせて訴えていくことだと思います。機能強化問題はいろんな問題点を抱えています。にもかかわらず、住民が納得しないまま進めようとしている。確かに以前と違って、説明会は「丁寧」にやっていますが、住民の声は一切聞かないという姿勢はなにひとつ変わっていない。
市東 「説明会」と銘打っているけど、自分たちで決めたことを報告しているだけなんですよ。「みなさんの意見を聞かせてください」というのではまったくない。決定を伝えているだけです。

一斉行動に手応え

萩原 本当に許しがたいことです。そこでわれわれがきっぱりと反対の立場で「それはだめだ」と言い切っていることが、住民にも勇気を与えていますし、「声をあげなければ」という機運を生み出しています。市東さんの請求異議裁判の署名や要望書に協力してくれる人がたくさんいました。それを考えると地域の中に入って宣伝活動や一斉行動を展開してきて良かったなと思います。やっぱりこれが力になったんだと確信したところがありますね。
市東 一斉行動をやり始めて6年目になりますかね。それで地域の人もいろんなことがわかってきたんじゃないでしょうか。今までは「国がやることだから」と賛成していたところが、「やっぱり、自分たちの生活はこれからどうなるんだろうか」と考えてみるとか、そういう変化がでてきましたよね。だから最初は「同盟ニュース」も「入れなくていい」というのもあったけど、最近は「楽しみにしているよ」という人も出てきています。
萩原 第3滑走路建設の反対運動のなかから、本当に止めるためにはどうすればいいのか、反対同盟みたいに絶対反対で続けていかなければいけないんだという人が、何人かでてきましたね。私たちとしてはそうした住民の気持ちを聞きながら、運動を進めていきたいと思います。
市東 実際問題、オリンピックが終わった後、果たして第3滑走路は必要なのかと思いますよ。10年先の経済がどうなるかわからないでしょう。「韓国の仁川空港に負けてはだめだ」とかいってますけど、成田はとっくに負けてるんですよ。目を覚ましてくれといいたいよ。そもそもこんな緑の素晴らしいところに空港を作ったのが間違ってるんです。
萩原 本当にそうです。農業にとっては最高の環境です。災害も少ないですし。
市東 空港なんて作らなければ、千葉県は農業産出額で全国3位くらいなれるのに、いつも4位。知事の森田なんかは「千葉の農業を向上させる」とかいってますけど、空港を拡張すれば農業は廃れますよ。コンクリートで農業ができますか。
萩原 「空港がもっと発展すれば、住民も潤う」というような論理を持ち出しますけどね。そんなことはまったくないということは、住民が一番わかっている面でもあるんですよ。まあ潤っているのは、土建屋さんとイオンと成田山くらいです。

「お金か命か」

市東 これからは「お金か命か」という問題がすごく大きいと思いますね。私の場合でも「農業をやめて1億8000万円もらえば、死ぬまでそのカネで暮らせるだろう」なんて、とんでもない話でね。
萩原 大金をもらった人は、バンバン使っちゃうでしょう。家を建てたり、車を買ったりして、あっという間になくなっちゃう。
市東 だって、お金をいくらもらっても未来がないんだもんね。やっぱり地道にやっている方がいい。ここは騒音の問題とかあるけど、今のところは生活できてますからね。そこでこんないい野菜ができているわけですから。そうやって毎日が充実していれば、それが一番だと思います。

 ――権力にとってみれば、市東さんの「お金よりも命だ」という生き方が許せないんでしょうね

市東 向こうは「しょせんは個人農家だから、国家権力を持ってガーンとやればすぐにつぶせる」と思ってたんでしょう。それができなかった。なんでつぶせなかったのか。それが同盟の力なんでしょうね。

 ――最後に、今年の抱負をお聞かせください

萩原 請求異議裁判の判決は、ひとつの節目に過ぎません。たたかいはこれからも、延々と続くと思っています。市東さんの決意もゆるぎありません。私は、これからも市東さんと一緒にたたかい続けるという考えですが、万が一、市東さんの農地を一部でも取られるようなことがあったら、それは絶対に許せないことです。しかし、それを乗り越えてやっていけるようなたたかい方を考えています。とにかくここで生きていくことが大事です。今後も変わらずにたたかい続けるということが同盟の基本的な考え方です。不当判決が出たわけですから、運動としては緊張感もって臨まなければなりませんが、これが「最後の決戦」というわけではない。なにがあろうと闘い続けるという腹でいますので、それができるようにしっかりと足元を固めていきたい。そのためにも市東さんの農業をしっかりと支えていかなければなりません。やはり農地を荒らすようなことがないように、援農の呼びかけもしましたが、そのようにして、闘争を続けられるようにしていきたいという気持ちです。
市東 私の決意はいつも変わりません。今まで通りのたたかい方を続けます。沖縄のたたかいもそうですけど、あきらめずに、地道にやることが大事だと思います。そうやって全国の人たちとのつながりを広げながら、反対同盟はますます、声高らかに前進します。そのことを全国のみなさんにぜひ伝えたいですね。3月31日には、成田市内で全国総決起集会を開きます。ぜひご参加をお願いします。

 ――持続することこそが勝利の道だということですね。市東さん、萩原さんのゆるぎないお気持ちがよくわかりました。どうもありがとうございました

関西実旗開き
三里塚、沖縄、福島つなぎ
全国でともに闘おう

最後は全員で肩をくみ反対同盟の歌を斉唱(1月20日)

19年新春、三里塚関西実行委員会「旗開き」が1月20日、神戸市内で開かれた。三里塚空港反対同盟から萩原富夫さん、部落解放同盟全国連、若狭の原発を考える会からあいさつがあった。 萩原さんは、「請求異議審判決は、市東さん側の請求を全て棄却し、空港会社と国の論理で農地を強制的に奪うことを認める、とんでもない判決。私たちは屈しない。2年間の裁判闘争で生み出した成果を、さらに成長させる。ふるさとと暮らしを奪う第3滑走路をとめよう。40年たっても、『騒音に係る環境基準』も達成していない。わずか60%だ。そんなことでいいのか。安倍改憲阻止、沖縄辺野古新基地反対、福島と連帯してたたかう」と述べた。 関西実事務局・松原康彦さんは、「市東さんの農地に国家権力が手をかけることを許さない。それに抗する運動を、どのように作り出すか。農業、漁業を切り捨て巨大金融資本に売り渡そうとする安倍政権に立ち向かう、『土、農地は私の命』という根底的な市東さんの闘いがある。沖縄、福島、全国で形は違え共有されている。今年も、ともにたたかいぬこう」と提起した。

三里塚学習会
とき:2月25日(月) 午後6時半〜8時半
ところ:エルおおさか南館72
主催:三里塚決戦勝利関西実行委員会

3・31全国総決起集会
とき:3月31日(日) 正午
集会後、成田市街地をデモ行進
ところ:成田市赤坂公園

4面

アジアスワニー闘争から30年 中村猛さんに聞く(第3回)
日韓連帯から見える運動の課題

第3回では、30年後の今日から振り返って、アジアスワニー闘争を契機とする日韓連帯の運動によってつかまれたもの、そして、そこから見えてくる日本の労働運動の課題について聞いた。お話は「日本の運動には主語がない」という指摘から、天皇制問題にまで及ぶ。

あまり関心なかった

僕がアジアスワニー闘争にかかわる10年も20年も前から、日韓連帯闘争というのは大阪でずっと追求されてきたし、アジアスワニー闘争から新たな展開になって、それから30年たって現在も進行形であり発展途上だと思う。 しかしまた、やはり、労働者同士の連帯という意味で、アジアスワニー闘争は時代を画するものがあった。80年代が経済的にも大きな変化の時期で、日本の企業がアジアに出ていくという流れの中で、アジアスワニー闘争、あるいは三労組の闘争(韓国TND労組、スミダ電機、スワニー)が焦点になった。 僕は、当初、日韓連帯にはあまり関心をもっていなかった。在日の団体だとか、日朝に関心を持っている人たちがやることであって、現場で労働者を組織して、労働条件の改善のたたかいをやっていると自負している私にとっては、当時あまり関心がなった。僕なんかが感じていたのは、日韓連帯の運動というのは、自治労など中心でやっていたんだけど、職場でその人たちが職場でもがんがんやっているというイメージがなかった。 でも、それは、僕の意識の中にも、根強く、差別意識みたいなものがあったのだと思う。運動において、韓国の方が日本より進んでいるということは、なんか認めたくない。それは、いまでも運動の中にまだ残っていると思う。

韓国・ソウルの東大門の橋の上にある全泰壱烈士像(2017年10月14日 本紙撮影)

「主語が見えない」

ところで、最近、ある組合の学習会で、「日本の運動には、主語が見えないんだよね」ということを言った。例に挙げたのが、「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」という有名な原爆慰霊碑の碑文。 「〈過ちは繰り返さない〉といっているこの主語は誰なのか?」といういうことが、建立当時から論争になって、結局、多くの人が「人類が主語ではないか」となった。しかしそういう中で、広島のある中学生が「これは私だと思う」と。 僕は、これが正解だと思う。 この話をしたのは組合の学習会だったので、今組合が抱えている問題を解決するのは誰なのかということだよね。それが「私」ではなくて、そういうことは執行部が考えることであったり、他の優れた指導者が考えることであったり、ひどいときは政治が考えろということになってしまったり。 つまり、「われわれは―」とか、「労働者階級は―」とか、スローガン的なことはいろいろ言うけど、「自分はこうする」「あなたはどうなのか」「あなたは何をするのか」というところだね。そういう主語が、日本の労働運動で一番欠けているなとずっと感じてきた。  また別の話だけど、全港湾の若い労働者と話していて、「全港湾の中で大衆路線ということを何回も聞くんだけど、いまだによくわからない」と言うんだね。 日本の組織的な労働運動では、スローガンとか方針を組織の上の方で決めて、それを下に降ろしていく形になっているけど、本来、「私」がやるということが大衆路線だよね。 そういう意味で、アジアスワニー闘争を契機として始まった日韓連帯の運動は、私と私、私たちという意味で、日本の労働運動に欠けている問題を、こういう形で触れ合うことでつかみとっていく過程でもあったといえるかもしれない。実際にやってみると、「私」というのが広がる。要するに友達がどんどん増えるに連れて、運動も広がっていく。

討論する民主主義

現場から出てくる新しい提案を、組織の中で生かしていくというのは、かなり難しいテーマだよね。若い人を育てるというのも同じ。若い人を育てると言いながら、ちょっと斬新なことをいうと、「お前はまだよくわかってない」とか言って抑え込んでしまう。それで若い人は嫌になっちゃっているところもあると思う。 今の労働組合の幹部たち、とくに僕らに近い世代は、自分たちがすごい頑張ってきて、賃金も上げてきたし、高度成長も支えてきたという自負、成功体験をもっている。だけど、なぜ自分たちがうまくいったのかということを、ちゃんと分析できているのかなと思ったりする。そういう人たちは、新しいやり方、新しい冒険をするような歳ではないので、こういう厳しい時代には守旧派になってしまう。 若い人は否応なく時代を反映しているからね。今の時代に生きて生活して空気を吸っているわけだから。だから、彼らの感覚を生かさなければ、運動は広がらないよ。

政治の話が日常に

韓国でも同じようなことが問題になっている。僕が韓国に初めて行ったときに会った活動家は、当時20代、30代。その人たちが今は50代、60代。 彼らもいま悩んでいる。世代交代をいかに進めるかと。日本よりはるかに若い人を育てているなあという気はするけど、韓国なりに悩みはあるし、昔は活動家の供給源であった学生運動がなくなっているとか、市民運動との連携が薄れて来たとかもある。 だけど、韓国の運動を支えているものは何かということを冷静に分析してみると、学生運動や市民運動もあるけど、それこそ、飯を食いながら政治の話をする日常生活というところから、ずっと積みあがっているものがあると思うんだよね。 アジアスワニーの話でしたけど、初対面で、しかも労働運動の経験もだいぶん違う相手に、いきなり率直な意見をぶつけてくるようなところだね。討論を激しくやってもぜんぜんへっちゃら。そういう民主主義が、社会の空気とか文化のようなものとしてあって、韓国の運動の一番基底をなしているんだと思う。だから、政治や経済の状況次第で運動の浮沈はあるけど、必要なときにそういう議論が起こって、「私」がやるという運動が沸き起こってくる。 ろうそく革命の背景には、そういう民主主義というか、市井の文化のようなものが大きくあったんだと思う。

天皇の戦争責任

日本はどうなのか。日本人には無理なのか。いや同じ人間である以上、そんなはずはないんだけど。空気を読むだとか、忖度だとか、他人任せにするといった雰囲気を、今の支配勢力が日本という国をコントロールする上で、最大限に利用しているよね。 そこで少し唐突で個人的な見解だけど、天皇制の問題が大いに関係していると思う。 敗戦の時点で、天皇が戦争責任をとらなかったことによって、その後、誰も何の責任もとらなくていいことなってしまった。戦時中の「お国のため」という集団催眠状態にたいする、主体の反省がないんだ。それがそのまま来てしまっているから、中国・韓国・朝鮮とこれから仲よくしようにも、「前にやったことを一回反省してくれよ」という切なる声をいっさい無視して。それで「未来志向の関係」だけを言っても、そんなものができるはずがない。日本人は、その壁を越えられていないんだ。アジア全体の発展にとっても、日本の「反省しない国」というのは大問題だよ。 それは個人のレベルにおいても表れている。つまり、天皇が戦争責任を取らない、あるいは天皇に責任を取らせられなかったことが、民衆自身も、加害を反省できないし、反省する主体になれていない。しかも、それがアメリカの戦略として周到におこなわれたわけだ。 だから、はっきりいって僕は、現憲法はおかしいと思う。少なくとも1条から8条は認めない。民主主義だとか平等だとか言いながら、天皇は特権階級だよ。そういう特権階級の存在を憲法の一番最初に置いている。 「日本の運動には主語がない」という話だったけど、日本と韓国の運動の双方に関わって見えてきたことがそういう問題だったし、日本の運動も、この際、このような問題を考えていく必要があるのではないだろうかと思うんだ。(おわり)

投稿
朝鮮高校 無償化から排除
映画、署名などで世論変えよう

2月2日、「東京朝鮮高校生の裁判を支援する会」年次総会と、「最高裁勝利をめざして! 朝鮮学校の子どもたちに笑顔を!〜子どもたちの声にどう応えるか〜 東京朝鮮高校生無償化裁判2・2集会」が開かれ、350人超が集まった。 総会では、〈「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対する連絡会〉共同代表の長谷川和男さんが発言。「朝鮮半島情勢の変化・国連権利条約の勧告などにも関わらず、昨年東京高裁は反動判決を出し、今年は最高裁でのたたかいとなった。最高裁の一発回答に勝つためには、世論を変える以外にない。各地で学習会・映画会・署名活動などを粘り強くおこない、社会を変えよう」とよびかけた。 つづいて開かれた集会では〈裁判を支援する会〉共同代表で一橋大学名誉教授の田中宏さんが発言。田中さんは、「1963年に千円札が伊藤博文に代わった時、東南アジアの留学生から『戦後は終ったと言うが、韓国の民衆の恨みを買って殺された人物をお札に使って日本人は何も言わない。残酷だし薄気味悪い』と言われた。伊藤博文殺害の翌日、大学教員から『屈するな』と訓辞があり、日本の侵略主義の根深さを思い知った。朝鮮学校の無償化からの排除は、朝鮮を地球上から消そうとすることであり、それを常に頭に置いておかなければならない。朝鮮の思想・文化・言葉・名前一切を奪った奴隷状態を回復させるには、朝鮮学校の存在は当然のことである。にもかかわらず、日本は48年、阪神教育闘争を徹底弾圧した。65年、国連が最初に作った条約は『人種差別撤廃条約』である。植民地主義とアパルトヘイトとのたたかいが今こそ必要と確認した。韓国の市民運動が無償化問題に強く取り組み金曜行動を日本と同時刻におこなっている。朝鮮学校無償化を求める声は、いまや世界各国に広がっている」と話した。 その後、「子どもの権利条約委員会」に訴えてきたオモニ会からの熱烈な訴えがあった。(牧仁)

を支えているのか
大阪で講演

5面

寄稿 自衛隊配備で琉球弧はどうなるか(下)
二度と繰り返すな沖縄戦”
小多 基実夫

日中間の島嶼戦争
住民混在の戦場に

もしも日中間での島嶼局地戦争が勃発した場合を想定してみよう。双方の目的は相手方の戦争継続を不可能化させることが目的となる。攻撃の目標となるのは宮古島の軍事基地だけにとどまらない。島外との交通が遮断されて食料をはじめあらゆる補給が止められるのは確実である。空港・港・橋・道路・発電所…すべてのインフラが破壊の対象となる。そうなれば住民の生活は一切成り立たなくなる。自衛隊の戦争計画では住民の避難態勢はまったく考慮されていない。その結果どうなるか。かつての沖縄戦のように戦場に住民が混在した戦争とならざるを得ない。 一方、「自己完結」を旨とする自衛隊は、保良に計画されている弾薬庫のように、自らの戦争継続のために食料・燃料・武器・弾薬の備蓄は十分に考慮されている。自衛隊は戦時に、高速双胴船「なっちゃんワールド」や高速フェリー「はくおう」などを動員する態勢をとっているが、これらの使用目的は戦闘車両をはじめ、もっぱら軍事輸送に限定されている。民間人や民需物資の輸送は予定されていない。 宮古島市民は、「自衛隊の基地建設と運用によって唯一の水源である地下水が汚染されるようなことになれば二度と回復は不可能で人の住めない島になってしまう」と危機感を募らせている。しかし自衛隊の配備は、島全体を戦場にして陣地戦をやり抜くというものである。そこに民間人が住んでいることなどまったく意に介していない。そのような自衛隊が、市民の飲料水の汚染に配慮するとは到底思えない。

警備部隊の銃口は
誰に向けられるか

そのような宮古島に真っ先に配備されるのが「警備部隊」である。その数は宮古島に配備される自衛隊の半分以上を占める。本年度内の配備が完了する警備部隊とはいったいどういう部隊なのか。 奄美大島、石垣島などにも配備される警備部隊とは、治安出動をも主要な任務とする歩兵部隊(普通科)のことである。 ミサイルやレーダーの部隊が船舶や航空機を標的とするのに対し、人間を標的として戦う歩兵部隊である。その日々の警備は、「敵」との接触を想定しておこなわれるものである。小さな島で住民の生活圏内に基地をつくって、いったい誰に銃口を向け、誰から基地を守るというのであろうか。

石垣島が対中国
封じ込め拠点に

台湾と宮古島の間にある石垣島にも警備部隊、地対艦ミサイル部隊、地対空ミサイル部隊の配備計画が進められている。計画では12式地対艦の射程を300キロに伸ばした改良型が配備され、人員は500〜600人を予定してる。宮古島と石垣島を第1列島線内に中国軍を封じ込める2大拠点とする計画である。想定される住民の被害はここ石垣島でも同じである。 同配備をめぐって石垣市では住民投票実施への運動が進んでいる。この動きに挑戦するかのように防衛省沖縄防衛局は「3月1日に駐屯地建設着工」を発表した。これまた法の裏をかく姑息で卑劣な手法である。 県環境影響評価(アセスメント)条例の適用対象から逃れるために、同地区予定地46ヘクタール(用地造成面積29ヘクタール)の内のわずか0・5ヘクタールを形ばかりに着手するのである。 石垣島は港湾も拡張されてきた。自衛隊はくり返し、近畿や中部地方にある空自の第4高射群からPAC3 地対空ミサイルを移動展開させている。港湾拡張は、いざという時には巨大な増援部隊がここに押し寄せて来ることを前提にしているのは明らかだ。 

【与那国島】 

2016年3月28日、陸自の沿岸監視隊(160人)が発足。部隊に不釣り合いな大きな保管庫や隊舎をもつ。有事の大規模増員を想定しているのだろう。空自那覇基地第4移動警戒隊傘下の移動警戒隊の配備も予定されている。基地はすでに完成し、部隊は始動しているが、住民の反対の意思は強固である。

【馬毛島】

鹿児島県西之表市の馬毛島でも自衛隊基地化が進められている。米空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)いわゆるタッチ・アンド・ゴーの移転である。これは佐世保の空母準母港化に連動の可能性が大きい。加えて空母化された「いずも」の艦載機となるF35Bの地上基地および訓練基地化として日米共同基地化が疑われる。戦時には九州の築城や新田原をはじめ、全国の航空団(戦闘機部隊)の前線配備基地と化すことは明らかである。

【奄美大島】

宮古島、石垣島と同様の警備部隊(歩兵部隊)、地対艦ミサイル部隊、地対空ミサイル部隊の配備が進められている。

【沖縄島】 

    

沖縄島では空自の圧倒的な強化が進んでいる。那覇基地の海上埋め立て拡張と滑走路の増設。南西航空混成団の南西航空方面隊への昇格。航空隊から第9航空団へ増強。F15戦闘機の2倍化。E2C早期警戒機4機を配備する警戒航空隊。与那国島に隷下の部隊が設置する移動警戒隊の発足。 陸自では混成団の旅団への昇格と増強が2010年になされた。さらに在沖縄米海兵隊のキャンプ・演習場等の共同使用とそれをテコとした日米軍事一体化が進められている。

反対運動を孤立さ
せず軍事化阻止へ

防衛省は琉球弧への自衛隊配備をあるときは地域振興策のように言い、あるときは外国軍の侵入から市民を守り安心・安全に寄与するものであるかのように、地元住民にたいして説明してきた。しかしこれまで述べたことから明らかなように、自衛隊の目的は、琉球弧(南西諸島)一体を戦場とする局地戦争を想定した軍事拠点化である。そこでは自衛隊が配備される島の住民の生活や安心・安全などは一切考慮されていない。 過疎地の人口対策、災害時の協力、わずかばかりの雇用の確保などと引き換えに、島を戦場として売り渡すことになりかねない。それが自衛隊配備の本当の姿なのだ。 自衛隊配備と果敢にたたかっている地元有志の反対運動を孤立させてはならない。この状況を全国に知らせ、琉球弧の軍事化を現段階で絶対にくい止めなければならない。(おわり)

あいば野演習場
オスプレイは来るな
2月3日 日米合同演習に抗議

2月3日、「2019日米合同軍事演習反対! 2・3あいば野集会」が滋賀県高島市内で開かれ250人が参加(写真上)。主催は、〈平和フォーラム関西ブロック〉と〈2019あいば野に平和を!近畿ネットワーク〉。 高島市にある陸上自衛隊あいば野演習場では昨年11月、81ミリ迫撃砲誤射により、国道沿いに駐車していた民間車両の損傷事故を発生させている。地元を中心に実弾訓練中止を求める声が高まっている中で、今度は2月4日から15日にかけて「陸上自衛隊と米海兵隊による日米合同軍事演習」が強行される。 抗議集会には、沖縄からオール沖縄会議事務局長の山本隆司さんがかけつけ、「オスプレイはアメリカ国内では航空法があり訓練できない。そのため日米地位協定がある日本で(日本の法的規制をうけず)訓練している。日本の主権は回復してない(占領状態のままだ)」と、沖縄の現実を踏まえて説明した。集会後、雨をついて、市内をデモ行進した。

若狭の老朽原発動かすな
2月6日 大阪・御堂筋をデモ

2月6日、〈戦争あかん! ロックアクション〉主催の「新春初・御堂筋デモ」が大阪市内でおこなわれた(写真左上)。 デモに先立つ集会で、 服部良一さん(元衆院議員)は沖縄の情勢について語った。辺野古の海底がマヨネーズ状のため、埋め立ての設計変更をしなければならない。建設費用が数倍にもなる。もう防衛省は辺野古から撤退し新基地建設を断念すべきと訴えた。 若狭の原発を考える会・木原壯林さんは、老朽原発再稼働を止めようと訴えた。使用済み核燃料の捨て場は今もなく、脱原発、反原発の大衆運動のために安全対策費が膨大になり、老朽原発は廃炉に追い込まれている。54基あった稼働可能な商用原発は今や33基だ。脱原発、反原発の大衆運動は国内だけでなく世界的にも広がり、原発製作費を高騰させ、最近では日立がイギリスでの原発建設計画を凍結した。安倍政権の原発輸出はすべて頓挫した。原発は経済的にも破綻している。関電は、45年超えにもなろうとする高浜1、2号と美浜3号機を再稼働させようとしている。高浜は今年9月から来年にかけて再稼働予定だったが、半年から9カ月遅れることになった。一昨年のクレーン倒壊事故による工事の遅れや使用済み燃料プールの耐震化工事が理由である。工事計画を立てる能力もなくトラブル続きの関電に老朽原発を安全に運転できるはずがない。老朽原発の稼働を阻止しなければならない。 最後に琉球遺骨返還請求訴訟の経過と支援要請があり、デモに出発した。(池内慶子)

6面

生きる権利を求めて
阪神・淡路大震災から24年

川口さんの歌に合わせて肩をくんで盛りあがった(1月13日)

1月13日、神戸市長田区で24周年の〈生きる権利を求めて〉阪神淡路大震災集会が開かれ、120人が参加した。主催者から長谷川正夫さん(被災地雇用と生活要求者組合代表)があいさつ。生きる権利を求め「反失業」を掲げたたかってきた24年の団結の大切さを訴え、被災地の「原点」である企業組合の継続・再建の決意を述べた。 震災以来、毎年参加してきた粟原富夫さん(神戸市議・新社会党)は、地震そのものは数10秒だったが災害は今も続いている、「借上げ」復興住宅からの追い出しと被災者を被告にする裁判で、国と自治体の責任を追及し続けると話し、被災者生活再建や震災アスベストの問題など「今なお闘い続ける集会が1・17市役所前と、ここにある」と連帯を表明した。震災直後から支援に駆けつけた全国金属機械労働組合港合同から南労会支部の石原英次副委員長。「徴収あって介護なし」と悪化しつづける介護保険制度の対市・対厚労省交渉・闘争へ支援を訴えた。連帯ユニオン関西生コン支部の荒川勝彦執行委員は、17年暮れのストライキで威力業務妨害をでっちあげ、40名以上の不当逮捕、弾圧を受けている。「事件」は作られる、働く権利を守るため、反弾圧への全国の支援に運動で返していくと決意を述べた。 森松明希子さん(東日本大震災避難者の会Thanks&Dream代表)が、「原発事故と私たちの人権、原発賠償関西訴訟で訴えていること」と題して講演した。森松さんは「命を大切にする社会であるのか問い続けるこの集会と自分の思いは同じ」と話した。 『住むこと 生きること 追い出すこと』の著者、市川英恵さんは「健康権が国連の社会権規約にうたわれ、日本も批准している。健康を害するリスクあれば国はしてはいけないとあるのに、行政・国は被災者を借上げ住宅から追い出そうとしている」と訴えた。 震災時、神戸市のケースワーカーとして被災者に対応していた高橋秀典さんは、「区役所前の関西合同労組の労働相談テントをよく憶えている。神戸市は国に圧力をかけられ、避難所にいる困窮者へ生活保護を認めようとしなかった。実態調査・不服審査請求・裁判をやり受理させた。そういう市民派として市議をめざす」と。 震災以来23年もの間、延べ3万6500戸、700回の「週末ボランティア」として被災者の声に耳を傾けてきた東條健司さんは、市民デモHYОGОの毎週「木曜行動」と、土曜日の辺野古行動、改憲阻止・野党共闘のデモや集会に参加。「必死のパッチ。安倍を倒そう」ときっぱり述べた。 企業組合の仲間は、「支援へのお返しが中途半端で心が痛む。森松さんの話に心打たれた。生きる、働く権利を求め頑張る」と表明。シューズは「闘う歌手」川口真由美さんにも愛用してもらっている。川口さんは、『人間の歌』『真実は沈まない』『ぺんぺん草』などを熱唱、最後は参加者そろって踊りだした。 関西合同労組・佐々木伸良執行委員長が「生きる権利・働く権利求めて24年間闘ってきた意義をしっかり確認したい」とまとめた。 集会後の交流会には約30人が参加。被災地の仲間が、「24年間たたかって、多くの人とつながり、森松さんの声は国連まで届いた」。たたかいは細く小さいかもしれないが、つながれば遠くまで大勢に広がる。「根っこは、つながる」。(葛西幹郎)

朗読劇
『線量計が鳴る―元原発技師のモノローグ』
福島原発事故の責任を問う

12月6日、朗読劇『線量計が鳴る』を奈良市内で観た。この作品は、ある古老の原発配管技師が福島第一原発事故について語る、ひとり語りの朗読劇だ。脚本と主演は中村敦夫さん。主人公の個人名は劇の中では出てこないが、台本では、中村さんは彼の名前を〈おこりんぼう〉と名付けている。原発事故に怒っているからだ。古老の怒りは中村さんの怒りでもある。300席の会場が満杯になっていた。 中村さんは新劇の俳優から出発し、1972年、テレビドラマ「木枯紋次郎」がヒットし有名になった。その後、ニュースキャスターをやり、1998年に参議院議員に当選し、国会議員を一期おこなっている。 『線量計が鳴る』は1幕4場から構成される。〈第1場〉は原発労働者として経験した話。主人公の〈おこりんぼう〉氏は、福島第一原発で配管工として働いていた。彼は原発内部のずさんな工事にたえきれず、原子力安全委員会に内部告発をした。これがきっかけで、彼は会社から首を宣告され、しかたなく、余生を飯館村で有機農業を営もうと考えた。このとき、福島第一原発で事故が起きた。 〈第2場〉は福島原発事故の体験談。事故をおこした東電と国は、けっして責任を取ろうとしない。あまりにも無責任な国の対応に怒りをぶつける。〈第3場〉はチェルノブイリ原発を見学した話。 〈第4場〉は原発技術者である古老が原発とは何なのかを論じる。 ETV特集「反骨〜中村敦夫の福島」のなかで、中村さんは「原発事故の責任があいまいにされている。責任者をさがしだして、責任をとらせることが必要だ。そうしなければ、社会のけじめがつかない。責任をあいまいにして、そのまま放置してしまうことは、社会にとってきわめて不健全なことだ」と語る。 中村さんはこの劇を2016年春から演じはじめた。終演後のあいさつでは、「奈良公演で52回目となる。ありがたいことに、会場はいつも満杯。みなさんが原発事故と政府の対応に怒っているからだ。事故は風化したように言われるが、けっしてそんなことはない」「人間は公憤、義憤をもって生きることが大切。老人にとって、これが健康によい。皆さん、怒りをもって、行動してください」と呼びかけた。 中村さんが若き頃の新劇界は、ブレヒトの提案する新しい演劇理論にもとづいて、社会の不条理をもたらす構造を分析し、社会のオピニオン・リーダーの役割をはたそうとしてきた。『線量計が鳴る』はこの延長線上にある。中村さんは「劇をみて帰るだけではなく、ともに声をあげ、行動してほしい」と語った。(鹿田研三)

シリーズ
原発問題を理解するために 第3回
火力を止めても余る電力
江田 恵

「電力不足と安定供給」を口実に原発の再稼働を推し進める九州電力は、昨年9月7日「電力の安定供給維持のため、やむを得ず(太陽光発電などの)出力制御を行なうことになります」とする「お知らせ」をウェブサイトに掲載しました。しかし、これは強引な原発の再稼働が要因であることは明白です。 送電網では、需要と供給の量をほぼ同じに保つ必要があります。これが崩れると本来は一定に保つべき周波数が低下したり上昇したりするため機器が壊れる可能性が高く、それを回避するために連鎖的に停電が起こる可能性があります。昨年9月6日未明の地震直後に北海道で起きた大停電がその一例です。 日本国内で最も太陽光発電の導入が進んでいる九州電力エリアでは、昨年5月、エリア内の電力需要に対する太陽光発電からの受電量の割合が81%に達しました。5月3日午後1時時点での需要は743万キロワットでした。にもかかわらず、その1カ月ほど後の6月に玄海原発4号機、8月には定期検査入りしていた川内原発2号機を再稼働し、現時点で九州では原発4基が稼働、出力は4基合わせて約430万キロワットに及んでいます。 そして優先給電ルールに基づき、これまで実施されてこなかった九州本土でのバイオマス発電、太陽光発電、風力発電に対しての出力抑制が実施される可能性があると発表したのです。 電力は足りないどころか余っており、原発に頼らずに電力需要をまかなえるまでになっています。太陽光発電を始めとする再生可能エネルギーへの転換は、世界中で急速に広まっています。電力需要からは、原発はもはや必要ないと言っても過言ではないのが世界の趨勢です。しかし、九電だけでなく中国電力なども同様に出力抑制の可能性を示唆しています。(つづく)