未来・第242号


            未来第242号目次(2018年3月15日発行)

 1面  大飯原発の再稼働をやめろ
     福井、京都、滋賀で一斉行動
     2月26〜27日

     空港拡張反対 農地を守ろう
     4・1成田全国闘争に結集を

     名護市辺野古
     新基地予定地に活断層
     沖縄防衛局の調査で判明

 2面  改憲と原発再稼働許さない
     ロックアクションが御堂筋デモ
     6日 大阪

     投稿
     安倍9条改憲を阻止するために
     地域のなかに入り込もう
     静岡 一読者

     ピースおおさか裁判 逆転勝訴
     橋下・維新の欺瞞明らかに

 3面  寄稿
     関西合同労働組合執行委員長 石田勝啓
     過労死の合法化を許すな
     “定額・働かせ放題”推進法を葬れ      

 4面  投稿
     しょうがい者解放=安倍政権打倒 B 高見元博
     保安処分の導入をねらう

     被害者踏みにじる「日韓合意」
     「慰安婦」問題解決へ全国行動
     3月2日

 5面  投稿
     リニア新幹線が水を奪う
     大阪の学習会に参加して
     大阪市 菅原健太

     本の紹介
     失敗を認め、未来につなぐ
     重信房子 『りんごの木の下であなたを産もうと決めた』

     解説
     成田「空港機能強化案」
     焦点は激甚騒音問題

 6面  長期連載―変革構想の研究 第6回
     エンゲルスの体系とマルクス主義
     1848年革命と共産主義者同盟 D
     請戸 耕市

       

大飯原発の再稼働をやめろ
福井、京都、滋賀で一斉行動
2月26〜27日

福井県美浜町の関西電力原子力事業本部にデモ(2月26日)

関西電力の大飯原発再稼働を目前に、2月25日、26日の両日、原発が集中する福井県若狭湾岸一帯で大規模な一斉チラシ配りがおこなわれ、5万枚のチラシが各戸に届けられた。 この行動は、福井県内の反原発運動団体を網羅するオール福井反原発連絡会や若狭の原発を考える会、ふるさとを守る高浜・おおいの会が呼びかけた〈大飯原発うごかすな! 実行委員会〉が主催した。  25日は、地元福井をはじめ京阪神や滋賀、東京などから120人が参加し、約30グループを編成した。そして京都府舞鶴市、福井県高浜町、おおい町、小浜市、若狭町、美浜町、敦賀市、さらに滋賀県高島市を訪問。「大飯原発うごかすな! 原発に頼らない社会をつくろう」と題したチラシを1軒1軒に配布した。 原発反対を呼びかける各種のぼり、旗を掲げ、ハンドマイクで訴えながら各戸にチラシを配布していくと、「いつも読ませてもらっています。」「本当にそうですね。原発はいらない」「事故があったらここらは被害を受けるだけ」と住民の熱い思いがあちこちから返って来て、参加者を勇気づけた。 並行して正午から、敦賀市にある原子力規制庁の出先機関にたいして「再稼働をしないよう」申し入れ行動がおこなわれた。 翌26日午前中も引き続いて、一斉チラシ配りがおこなわれ、午後からは、全参加者が美浜町役場近くに集まり、関西電力原子力事業本部にむけてデモ行進をした。若狭湾岸一帯にある関電の高浜、大飯、美浜原発を統括している原子力事業本部にたいして「大飯原発再稼働反対」「大飯原発うごかすな」の怒りの声をたたきつけた。 原子力事業本部の先にある美浜駅でデモ終了後、全体で同本部に向かい、大飯原発再稼働をしないよう申し入れをおこなった。 申し入れ後、事業本部玄関前で報告がおこなわれ、〈若狭の原発を考える会〉木原壯林さんが、2日間の行動のまとめと、「関電は3月13日にも大飯原発3号機を動かそうとしている。絶対に許せない。断固とした現地行動に立ち上がろう」と訴えた。 3月中旬にも予想される、関西電力大飯原発3号機の再稼働をなんとしても私たちの手で止めよう。大飯原発に迫る、再稼働反対の現地緊急闘争に立ち上がろう。

空港拡張反対 農地を守ろう
4・1成田全国闘争に結集を

反対同盟が強制執行請求の不許可を求める署名を千葉地裁に提出(3月8日)

市東さんの農地強制収用をめぐる闘争(請求異議裁判)は、最大の攻防のときを迎えている。第3滑走路などの「空港機能強化案」をめぐっては、周辺住民の激甚騒音・生活破壊への不安と怒りの拡大のなかで、国・国交省、成田空港会社(NAA)、千葉県知事、周辺9市町首長による四者協議会が合意・決定への動きを加速している。(5面に解説) 4・1成田全国闘争は、空港予定地内、周辺地域住民のいのちと暮らし、今後をかけた重要なたたかいであり、結節点的状況のなかで開催される。市東さんはじめ反対同盟の心意気・決意を、全国の仲間と共有するたたかいだ。 請求異議裁判(千葉地裁)は、市東さんの農地法裁判における農地取り上げを是とする確定判決を実質的に覆し、強制執行を止めさせるための裁判だ。 昨年11月の第4回裁判において、高瀬裁判長は一気に早期結審・判決へとかじを切ろうとしたが、弁護団・傍聴団一体となった抗議でこれをはね返した。NAAは市東さんや弁護団にはもちろん、裁判所の求釈明にさえ何一つ答えていない。 3月8日の第5回裁判は、弁護団から強制執行の不当性についての弁論がおこなわれた。そのうえで、高瀬裁判長は、証人・証言について2回の裁判でおこなうとした。5月24日に小泉英政さん、加瀬勉さん、6月28日に市東孝雄さん、萩原富夫さん。しかし弁護団がさらに証言を求める3人の学者ほかについては「保留」(事実上の拒否)し、その後の裁判期日を、7月17日と指定した。この日を最終弁論期日とし結審しようとしている。 市東さん・反対同盟、弁護団は、徹底審理と証人・証言の採用を求め、農地強制収用執行の不当性・不法性を徹底的に明らかにしていく予定だ。 市東さんの農地裁判・請求異議裁判は、この数カ月が最大の正念場である。市東さんと心を一つにし、強制執行を絶対阻止する決意で4・1全国闘争に結集し、裁判闘争を全力でたたかい抜こう。 市東さんの農地を守ろう! 第3滑走路粉砕! 安倍政権打倒! 4・1全国総決起集会 とき:4月1日(日) 正午 ところ:成田市栗山公園 主催:三里塚芝山連合空港反対同盟

名護市辺野古
新基地予定地に活断層
沖縄防衛局の調査で判明

2月26日 名護市辺野古では新基地建設のための護岸工事が進行している。この日キャンプ・シュワブゲートから316台の工事車両が入った。名護市長選が終わってから、300台を超える工事車両の搬入が何回も確認されている。 市民は機動隊にごぼう抜きにされながら、ひるむことなく抗議の声を上げ続けている。海上行動隊は、カヌーと抗議船で連日抗議行動を展開。 3月3日 キャンプ・シュワブゲート前で、毎月第1土曜日におこなわれる抗議集会に300人の市民が参加。この日は大雨のなかであったが多くの市民が辺野古新基地建設阻止を訴えた。集会ではオール沖縄会議の高里鈴代共同代表や県議などがあいさつ。高里さんは「基地を造らせないためにみんなで頑張っていこう」と呼びかけた。この日、工事車両の搬入はなかった。また伊江島の「伊江島米軍演習場の拡張工事とF35Bステルス戦闘機訓練計画に反対する集い」(主催・わびあいの里)に150人が参加。 4日 「さんしんの日」。キャンプ・シュワブゲート前では、三線、箏、笛の奏者約20人が演奏。演奏に合わせ琉舞も披露された(写真)。沿道には県内外から200人が参加。司会の伊波義安さんは「三線はウチナーンチュの心のふるさと。沖縄の文化を謳歌しながら、心を一つにして基地建設阻止のたたかいを続けていこう」と訴えた。 6日 キャンプ・シュワブゲートより工事車両329台が搬入される。護岸工事は「K2護岸」(222m)がほぼ完成しつつある。 沖縄防衛局が名護市辺野古の新基地予定地で実施した地質調査の報告書に、埋め立て予定地近くの陸地を走る辺野古、楚久断層とみられる2本の断層について、「活断層の疑いがある線構造に分類されている」と明記していることがわかった。また「C1護岸」(大浦湾側の深海部)付近の地質が「非常に緩い、柔らかい堆積物」とし、「構造的安定、地盤の沈下か液状化の検討をおこなうことが必須」だと指摘している。 政府はこれまで活断層の存在を「認識していない」としてきたが、安全性の面で辺野古新基地計画が問題を抱えていることが明らかになった。この報告書は、北上田毅氏が情報公開請求で入手した。(杉山)

2面

改憲と原発再稼働許さない
ロックアクションが御堂筋デモ
6日 大阪

3月6日、大阪市内で「戦争あかん! ロックアクション」集会とデモがおこなわれた(写真)。 集会では、まず、大阪府茨木市議会議員の山下けいきさんが主催者あいさつをおこない、「安倍9条改憲NO! 憲法を生かす全国統一署名(3000万署名)」に頑張って取り組む意欲を示した。 続いて服部良一さんがこの3月末に廃止される種子法について語った。種子法が廃止されると、種子の値段がおそらく10倍以上に跳ね上がるのではないか、そして遺伝子組み換え食品や特定の農薬、そういったものと種子とがセットで販売されていく。日本の農家がモンサント社から米や麦の種を買わないと農業がやっていけない事態になることが懸念される。安倍政権はアメリカを中心とする多国籍企業のために規制緩和を進めていると訴えた。 〈若狭の原発を考える会〉木原壮林さんは、脱原発、反原発について発言。安倍政権は2030年までにベースロード電源として原発電力を20〜22%まで増加させようとしている。それは原発の製造と輸出によって原発産業に暴利を与えるためであり、戦争になって石油や天然ガスの輸入が途絶えた時のため、基盤電源を原発で確保するためである。また、核兵器の原料プルトニウムを製造するためである。原発の再稼働は、巨大資本に奉仕する国づくり、戦争できる国づくりの一環としておこなわれていると語り、国の原発政策の本質をついた。 そして昨年10月15日に関電包囲全国集会と御堂筋デモ、12月3日の福井県おおい町現地全国集会と町内デモをそれぞれ600人、500人の規模でおこなった。また2月25、262日の「若狭湾岸一帯一斉チラシ配り」をやりぬき現地闘争に住民からの温かい声援があり、原発立地であっても脱原発、反原発の声が多数であると報告した。最後に3月中旬といわれる大飯原発3号機再稼働にたいする行動をいくつか提起し、原発事故から7年になる今年を原発全廃元年にしたいと語った。(池内慶子)

投稿
安倍9条改憲を阻止するために
地域のなかに入り込もう
静岡 一読者

日本の左翼(反体制運動)の側はほとんど(基本的に)受動的で、こちらから攻撃を仕掛けるという姿勢に欠けていると思います。基本的に劣勢(少数派)という力関係の必然的産物かもしれませんが、逆にそれであればこそ先制的姿勢が求められるのではないでしょうか? 戦争においてもゲリラは先制的ですよね。 国民投票(改憲のための)を想定した場合、彼らがカネを惜しげもなく注ぎ込み、マスメディアなどを総動員することだけは、だれにも想像がつくことですが、もう一つ“地域社会”における大衆動員工作を考えておく必要があると思います。これには歴史的前例があります。 1931年の「満州事変」に先立って、前年末から「事変」直前までの数カ月、陸軍の各師団が管轄下の各地域で、1866回も小学校の講堂などで住民を集めて講演会を開き、165万5000人を集め、満州侵略の必要性をアピールし、大成功を収めました。参加者は軍人(師団司令部の将校)の話を聞いて感動し、会場を出るとき(入場したときにくらべ)生々とした表情だったそうです。 この話は石堂清倫の体験(見聞)と偕行会(陸軍将校の親睦機関)の機関紙『偕行会記事』(戦後は『偕行』と改称)に掲載されていることで、一般の歴史関係書はナゼかほとんど言及していません。そのときの将校の話は、いうまでもなく排外主義・独善主義丸出しのデマゴギーにもとづくものですが、問題はそうした軍部の大衆工作に対して左翼(といっても日本共産党はすでに壊滅に近い状態でした)が全く無対応だったことです。 開戦(満州事変)に当たり、軍部は果して国民の支持を得られるか否かが内心では不安だったが、“事変”が起きるや国民が「熱狂的(ママ)に支持」してくれたのでホッと安心したそうです。 これと関連して――3・15および4・16の弾圧で日本共産党の幹部を根こそぎ検挙した司法当局は、裁判に備えて猛勉をしたのですが、「満州事変」勃発をうけて反対運動がほとんど大衆的に展開されなかった(想定外!)ことに着目し、それは共産党指導部がナショナリズムを克服していないことに起因しているのではないかと判断し、そこを切り口にして論争を挑み、転向を誘導し、例の佐野・鍋山をはじめとする一連の転向をひきだしたのです。(彼らはほとんど拷問らしい拷問を受けていません!〈拷問による転向〉というのが一般に流布されていますがそれは共産党系歴史学者=御用学者のタメにするデマです。もっとも、そのあとの時代には拷問が全面的に行なわれていますが) 日本の左翼はナゼか伝統的に地域社会(というか、ごく普通の一般の人たち)にたいして働きかけることに消極的です。1931年当時と、さまざまな情報伝達ツールが開発され一般化している現在とでは、事情は大いに異なることは言うまでもありませんが、本質的構造は変化していないと思います。 仲間うちや、シンパや、街頭の不特定多数の通行人に呼びかけるだけの(失礼!)宣伝に終始するのではなく、上記のことを基本に据えた活動のあり方を模索する必要があると思います。関電の原発反対行動で、現地の路地裏にまで入って活動していることなど『未来』の記事で知り、力強く感じてはおりますが――。

ピースおおさか裁判 逆転勝訴
橋下・維新の欺瞞明らかに

3月4日、「ピースおおさか裁判闘争・報告集会」(主催:ピースおおさかの危機を考える会・ピースおおさかリニューアル裁判を支える会)が、大阪市内でおこなわれた(写真左)。2015年1月、竹本昇さんはピースおおさかのリニューアルに関する情報公開を求めたが、公開されなかった。この裁判は、竹本さんがその不当性を訴え、情報公開をもとめたもの。 地裁判決ではことごとく敗訴したが、控訴審において大阪市にたいする判決(昨年9月1日)と大阪府にたいする判決(昨年11月30日)で逆転勝訴した。今年2月16日、公益財団にたいする判決があったが、これは残念ながら敗訴した。 「ピースおおさか」が作られる経緯を振り返っておく。1972年、「大阪大空襲体験を語る会」の市民運動がはじまった。この運動をバネに、1981年に大阪府「平和祈念戦争資料室」が開設された。さまざまな改革を経て、1991年に大阪府と大阪市が出資する公益財団法人「大阪国際平和センター(ピースおおさか)」が、現在の大阪城公園内に開館された。この設置理念では、日本の加害責任についても言及している。公益財団といっても、大阪府と大阪市が造った施設だ。

裁判勝利の意義

集会では大前治弁護士が<大阪高裁での逆転勝訴―その意義と課題>と題して、勝訴の意義を語った。その後、斉藤日出治さん(元・大阪産業大学教授)が<ピース改悪リニューアル裁判闘争の歴史的意義>というテーマで講演した。最後に、竹本昇さんが「(仮)設置理念のピースを取り戻す会」を立ち上げるアピールをおこなった。 大前弁護士は、大阪市と大阪府にたいして勝訴し、行政の違法性を明らかにしたことの重要性を強調した。「リニューアルを強行した張本人は、当時大阪市長だった橋下徹だ。リニューアルの内容を市民に知られたくないから、その内容を隠したのだ。こういう大阪維新の政治が司法の手によって断罪された。大阪維新がいう『身を切る改革・情報公開』の欺瞞性が明らかになった」と述べた。

植民地主義の克服を

斉藤さんは講演で「戦争を終わらせる決断は、人民の力によっておこなわれたものではない。日米支配者間の妥協によって、日本の戦後は天皇制(国体)を護持する体制であり、戦後憲法と日米安保体制があった。護憲では、市民の側が植民地主義を克服したことにはならない。市民自身の手によって改悪リニューアルを改めさせる行動は、これを克服するたたかいの一環なのだ」と述べた。 日本会議が牛耳る安倍政権。安倍政権を倒すたたかいにとっても、この控訴審勝利の意義は大きい。(津田保夫)

3面

寄稿
関西合同労働組合執行委員長 石田勝啓
過労死の合法化を許すな
“定額・働かせ放題”推進法を葬れ

「裁量労働制で働く人の労働時間は、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」という安倍首相の国会答弁(1月29日衆院予算委)をきっかけに、厚労省のデータねつ造問題の追及が始まった。 安倍政権が目玉とする働き方改革推進法案が労働者を「定額・働かせ放題」にするものであることが暴かれたのだ。さらに共謀罪法、安保関連法、森友・加計問題における安倍の国政私物化、独裁的国会運営など、政権の屋台骨を揺るがす大問題に発展しつつある。 国会での野党の追及や、〈過労死を考える家族の会〉による厚労省への申し入れ(2月23日)、最低賃金の引き上げなどを求める若者グループ〈エキタス〉が呼びかけた1000人のデモ(2月25日)など激しい抗議行動が巻き起こっている。 安倍政権は2月28日深夜、ついに「裁量労働制拡大」について法案から削除すると発表せざるを得なかった。しかし、法案の柱である「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」や残業時間の上限規制、労働契約法20条削除などはそのまま残っている。〈過労死を考える家族の会〉は「裁量労働制の切り離しで済むものではない。高プロや上限規制も白紙撤回するべきだ。高プロはスーパー裁量労働制、残業代ゼロの最たるもの」(3月1日)ときびしく批判し、法案廃案へ追及の手を緩めていない。

ねつ造データを元に裁量労働制拡大ねらう

安倍首相が答弁の根拠としたデータは、2013年の「労働時間等総合実態調査」(厚労省)である。一般労働者への質問は、1日の「最長の残業時間」を聞いて、それに8時間を足して9時間37分とする一方、裁量労働制で働く人には単に1日の「平均的労働時間」を聞いて9時間16分とした。およそ比較することのできないデータである。 しかも加藤勝信厚労相が「なくなった」と答弁した直後に、厚労省地下倉庫から出てきた資料では400件近い不正な数値が見つかっている。データねつ造の疑いが濃厚だ。こうした事態が明らかになるにつれ、 「ここまでやるのか」という人びとの怒りが渦巻き、2月25日には東京で呼びかけられた緊急抗議デモには1000人が集まった。 他方、厚労省が別途に労働政策研究・研修機構(JILPT=厚生労働省所管の独立行政法人)に依頼した調査では(14年5月報告書)、企画業務型裁量労働制の労働時間が194・4時間だったのにたいし、一般の労働者は186・7時間と、全く逆の結果が出ている。そのため厚労省は、労働政策審議会(労政審)に後者のJILPTの報告書は提出しなかった。労政審はねつ造の疑いのある資料のみを検討して「裁量労働拡大と高プロ制度」を「おおむね妥当」と判断したのである。不正なデータに基づく労政審の判断は無効だ。当然、法案も白紙撤回すべきである。

財界の要請で打ち出した日本再興戦略

そもそも、〈裁量労働制の拡大適用〉を含む労働法制改悪の議論は、2013年6月14日、安倍内閣が経済財政諮問会議や産業競争力会議での議論を経て閣議決定した日本再興戦略(骨太方針)に盛り込まれたものである。そこでは「企画業務型裁量労働制をはじめ、労働時間法制について早急に実態把握調査・分析を実施し、本年秋から労政審で検討開始する」と発表された。 裁量労働制の拡大政策は、ことの始まりから財界の強い要請によるものでありで、デフレ脱却、安倍「成長戦略、生産性回復」のための柱に位置づけられていた。まさに「働かせ方改革」だったのだ。 労働生産性は労働による成果(付加価値)を労働投入量(時間当たりの労働量)で割ることで導き出される。付加価値の量が変わらなくても、労働者の見かけ上の労働時間を短くすれば、生産性の絶対値を上げることができる。裁量労働制の拡大であり、残業代ゼロ法案はそのためのものだ。16年の日本再興戦略には、何度も廃案になった「残業代ゼロ法案」が「高度プロフェッショナル制度」と名称を変えて復活した。 日本の時間当たり労働生産性は 46・0 ドルで、経済協力開発機構(OECD)加盟 35カ国中20位。この危機的な現状を打開することが安倍内閣の最重要課題になっていたのだ。首相官邸が一連の不正なデータ作成に関与していたことは明白である。 裁量労働制とは、「みなし労働時間」で賃金が決められる制度である。「みなし労働時間」が8時間と決められていれば、実際に10時間働いたとしても8時間分の賃金しか支払われない。2時間分の残業代は支払わなくていいというものだ。また、労働時間管理について経営側にほとんど義務がなく「定額・働かせ放題」と批判されている。

裁量労働で自殺増加

裁量労働制で過労と労災認定された数は、2011年3人、12年15人、13年15人、14年15人、15年11人、16年2人。うち、亡くなった(自殺未遂も含む)人は12年4人、13年2人、14年2人、15年5人と増加傾向にある。絶対数が少ないのは、厚労省が裁量労働制による過労死を調査し始めたのが昨年17年からだからだ。 野村不動産では、裁量労働を違法適用されていた営業の労働者が過労自殺(16年9月)し、労災認定されていたことが明らかとなった(3月5日朝刊)。今回は見送られたが、もしも裁量労働制が企画業務型の営業職へ拡大されると、この男性のような過労自殺のケースは労災が適用されず自己責任扱いにされてしまう。これが安倍流「働き方改革」の実態、本質である。

8時間労働制を解体する「働き方改革推進法」

裁量労働制拡大が法案から外されるからといって、「働き方改革推進法」を認めてよいわけではない。この法案は8つの労働法改悪案を一括提案するもので、特にスーパー裁量労働といわれる「高度プロフェッショナル制度」(労基法改悪)が成立すれば、その被害は恐るべきものとなる。 他の法案も見てみよう。 @残業時間を月100時間上限「規制」とする労基法改悪案が提出される。これは厚労省の過労死認定基準の80時間/月を超えている。過労死を合法とし、さらに促進するものだ。医師によれば、月40時間残業で体調に変調をきたすとされている。電通で過労自殺した高橋まつりさんのお母さんは、「娘の死を無駄にするのか」と怒りの声を上げている。 「眠りたい以外の感情を失った」「死にたいと思いながら、こんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るだろうか」(高橋まつりさんのツイート)。亡くなる前、まつりさんの1カ月の残業は105時間だった。このような悲劇を、これからも労働者に強制するというのか。 A「残業代ゼロ法案反対」の世論により、何度も廃案となった法案が「高度プロフェッショナル制度」と名称を変えて提出される。フレックスタイム制の拡大とセットで「残業代ゼロ」を合法とし、『8時間労働制』の解体を狙っている。 安倍のいう「労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革」とは、労働者が100年以上かけて実現してきた8時間労働制を解体し、労働者を19世紀の「工場法」時代に引き戻そうとするものだ。見過ごせないのは、最大労組の連合執行部が、この法案を容認した事実だ。その後の抗議行動によって撤回してはいるが、心してかからねばならない。 B安倍のいう「同一労働・同一賃金」はまったくのペテンである。このかん、差別待遇禁止をうたった労働契約法20条を根拠にした裁判で画期的な差別是正判決が出ている。長澤運輸事件の一審判決、郵政事件における17年9月東京地裁判決や18年2月の大阪地裁判決などである。この流れを止めるため、労働契約法から20条を削除し、「(待遇差別の)合理的理由」の判断のハードルが低く、差別待遇の固定化につながる「パート労働法」に解消しようとしている。 C雇用対策法の名称、目的から「雇用」を消し「労働対策法」に変え、「多様な働き方」「生産性向上」を加え「非雇用型ワーク」と称する「請負」や副業を拡大し、労働法の網にかからない雇用形態を拡大しようとしている。安倍は「岩盤規制をドリルで壊す」と言っていたが、まさに戦後労働法制の破壊そのものだ。 野党6党の国会対策委員長は2月19日、国会内で会談し、安倍政権が今国会への提出をめざす「働き方改革関連法案」の提出をとりやめるよう政府に求める方針で一致した。一方で 野党や労働組合、法曹界の一部には「(法案には)いい面もある」という意見が根強くある。また、連合幹部が安倍政権と「高プロ制度」で政・労・使合意に踏み込んだ経過がある。 法案実現を強く求めている財界3団体(日本商工会議所、経団連、経済同友会)からは、失望や遺憾の声があいついだ。残った高プロ制、残業時間上限規制法案を、何としても実現しようとするのはまちがいない。 「人殺し法案」「こんな法案を許してはならない」と全国を回って廃案を訴えている過労死家族の会とともに、総がかりのたたかいで法案の提出を断念させよう。このたたかいは、安倍政治を打ち砕く決定的な一歩を切り開くだろう。憲法9条改憲反対のたたかいとともに、安倍政権の国政私物化、国会の独裁的運営を阻止しよう。

4面

投稿
しょうがい者解放=安倍政権打倒 B 高見元博
保安処分の導入をねらう

U、全ての人に影響が及ぶ精神保健福祉法改悪

@ 改憲攻撃と一体の人権侵害

私は「措置入院」にされたことはありません。関西では警察ルートでの強制入院というケースが多い「措置入院」にされる人は限られています。東京圏では精神科救急で入院する人の多くが不当にも「措置入院」にされてていることとは事情が違います。では今回の「措置入院後の役人・警察の付きまとい」という精神保健福祉法改悪は私には関係ないのでしょうか。 精神しょうがい者の仲間が不利益処分されるという意味でひとごとではありません。それだけではありません。先行実施されている兵庫県方式では、地域で入院歴がない精神しょうがい者をはじめ、精神科にかかっていない人さえも対象にすると言っています。これでは精神しょうがい者ばかりではなく、単に「変人扱い」されている「健常者」も不利益処分の対象になってしまいます。 旧ソ連で反政府的と見なされた人が精神病院に入れられたり、アメリカやフランスでムスリムが何の根拠もなく予防拘禁されたりしています。それらは戦前日本の治安維持法に基づく予防拘禁制度と同様の保安処分です。反政府的と見なされた人を保安処分にすることが、この精神保健福祉法改悪で可能になるおそれがあるのです。 この改悪案の国会審議で政府は「グレーゾーン事例」として、精神しょうがい者ではないが「確固たる信念を持って犯罪を企画する者への対応」を協議の対象にすると言っています。「確固たる信念を持って」という表現は左翼活動家を連想させるものです。 今や戦争挑発と戦争準備・明文改憲攻撃が進む「新たな戦前」の時代です。戦前は治安維持法などによる一部を対象とした人権侵害から始まり、戦中には一般の人でも思っていることを口にできない暗黒社会に行きつきました。いまはじまっている精神保健福祉法改悪はまさに「新たな戦前」に進む攻撃です。 日本の左翼の弱点は天皇制と差別問題だと言われます。民衆が「金正恩は何をするか分からないアブナイやつだ」という差別観にとらわれているなかで、「朝鮮民主主義人民共和国が日本を先制攻撃する可能性などない。戦争危機をあおっているのは米日だ」と明確に主張できている左翼はどれほどいるでしょうか。 「健常者」が「これは精神しょうがい者のことだから自分とは関係ない」と見過ごしていたら、自分たちへの人権侵害を許すことになります。

A どのような法改悪か

ではどのような法改悪なのか見ていきましょう。先行して実施されている兵庫方式を見ていきます。 兵庫県では法律改悪とは関係なく現行法のなかで精神しょうがい者の地域監視網を作っています。政府はそれをモデルにして法改悪を進めています。兵庫方式では2016年度で74人が対象になりました。その内訳は警察官通報などによる措置入院37人、医療保護という家族の意志による強制入院が7人、本人の意思による任意入院が8人、入院していない人が22人です。この入院していない人には過去に入院歴がある人もない人も両方含まれています。また本人は病気だと思っていないから精神医療にかかっていない人まで含まれています。 この74人を選ぶのは保健所の内部会議の合議です。何か客観的な基準があるわけではないそうです。診断基準も関係ありません。医師が対象者を選ぶわけではないからです。何か基準はこうだと書いたものがあるわけでもありません。保健所の判断が全てです。これでは恣意的な適用を防げません。 選ばれた74人には地域移行支援と称した行政や精神病院による追跡監視がおこなわれます。一応任意だということになっていますが、保健所が「支援だ」と言ってしつこくつきまとってくるのを拒否できるのは相当意志が強い人だけです。 74人の内の5%おおよそ4人には警察が監視に入っています。それ以外の人でも、その個人情報が警察に渡らないという制度的な保証は全くありません。国の制度の「代表者会議」にあたる「精神障害者地域支援協議会」の構成員には警察官が入っており、個人情報を警察が入手可能になっています。 たとえこの監視が「善意」でおこなわれたとしても、それは医療にあってはならないとされている「パターナリズム(父権的強制)」という強制になります。そこに警察が関与し、「悪意」が加われば、まさに保安処分そのものです。兵庫県方式で処分した後は、自宅を病室に見立て、地域を病院に見立てる「地域包括ケアシステム」につなぐそうです。まさに地域丸ごとの精神病院化です。

B 法改悪の狙い

このように現行法下の兵庫県方式でかなりのことができています。2017年度中に現行法でできることを示した「ガイドライン」が厚労省から出されます。それに屋上屋を架する法改悪案が出てくるのはなぜか。 端的に言えば、警察優位の体制を作るためです。兵庫県障がい福祉課によれば、兵庫県方式では、警察が「全件の情報をよこせ」と要求しても保健所行政が「警察は地域を守るのが仕事であって、精神しょうがい者の支援者ではない」という理由で拒否しているそうです。これまでも、精神科医にたいして公安警察がしつこく「患者の情報をよこせ」と要求しても、医者の守秘義務を盾にして拒否しているという実態があります。そうした力関係の逆転を狙っているのです。 法で(全体的な調整機関と位置付けられる)「代表者会議」に警察が入ることになれば警察の権限は大幅に拡大され、警察優位の体制にしやすくなります。日弁連が17年11月15日付意見書で批判しているように「代表者会議」に警察が入るのは「精神しょうがい者は犯罪を行う側であるという前提」に立ったものであり、犯罪予防や再犯防止といった保安処分的な運用につながります。 また国は兵庫県方式が「精神保健福祉法23条通報(注)に関する検討等を行っていて、関係機関による顔の見える関係をつくって連携を強化している」ことを理由に、それを手本とした法律案を作っています。この23条通報にかんしては全国で統一した基準があればよいのであり、地域ごとに警察と医療機関が協議すべきではありません。 また「本人が警察の参加を拒否した場合の警察における情報の廃棄も確約されておらず、結局は、警察と医療者の『顔の見える関係』を作ることによって、非公式な個人情報の共有につながるとの懸念を払拭できない」(日弁連意見書)のです。 なにがなんでも警察を入れたいというのが国の本音です。兵庫県方式ではできていないことを可能にする。すなわち行政や医師よりも警察を優位に立たせ、医者や保健師の守秘義務を突破するのが狙いです。まさしく保安処分制度の導入です。 この改悪案をすすめる一方で厚労省は、精神科特例といって精神科病棟の医師定員が一般病棟の3分の1でいいという制度を温存しています。さらに厚労省はこの4月から指定病院にたいする通院患者数を倍にする、すなわち医師定員を半分にするという改悪をするのです。精神しょうがい者へのいかなる人権侵害も許してはなりません。(つづく)

(注)精神保健福祉法23条 精神障害者またはその疑いのある者を知つた者は、誰でも、その者について指定医の診察および必要な保護を都道府県知事に申請することができる。

被害者踏みにじる「日韓合意」
「慰安婦」問題解決へ全国行動
3月2日

3月2日、日本軍「慰安婦」問題解決を求める全国行動「声明」を広げる全国アクション(関西集会)が、大阪市内でおこなわれた。 集会は日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワークと日本軍「慰安婦」問題解決全国行動の共催。中野敏男さん(東京外国語大学名誉教授)が〈「終わらせる合意」に抗して―継続する「慰安婦」問題の意味を考える〉というテーマで講演をした。中野さんの講演は、継続する植民地主義を克服する視点から、日本軍「慰安婦」問題をまとめ、日本人民の課題を提起するものであった。 中野さんの講演は5章構成で、要旨は以下のとおり。 日韓の政府間「合意」(2015年12月28日)は、被害者の意見は反映されておらず、政府の立場から決着させようとするものであった。事実認定については「河野談話」よりも後退しており、加害者の責任があいまいになっている。 2017年12月27日、文在寅大統領直属の作業部会による検証結果が発表された。ここで「韓国政府は被害者の意見を十分に集約せず、主に政府の立場から決着させた。被害者が受け入れない限り、政府間で「慰安婦」問題の『最終的・不可逆的な解決』を宣言しても問題再燃はさけられない」と述べている。文在寅政権の立場ははっきりしている。日本政府は、今回こそ「完全かつ最終的」に終わらせたかったのだ。この間、日本政府の対応はひどい。日本のマス・メディアもこれに呼応しており、世論も扇動されている。 1991年に金学順さんが名乗り出たことにより、日本軍「慰安婦」が世間の耳目を集めることになった。その後、被害者自身の自発的な告発が発せられ、日本の世論を動かした。「生きている間に語りたかった」という被害当事者の思い。この叫びをきっちりと受け止めなければならない。 鹿内信隆(フジサンケイグループ会議議長)は、慰安所の開設をあけすけに語っている。中曽根康弘(元・首相)も「慰安所をつくってやったこともある」と自慢げに語っている。こういう人物が戦後も何ら反省することなく、支配体制の要職をしめているのだ。金学順さんが名乗り出るまで、「慰安婦」問題が明らかにされなかった。これは戦後日本支配がこのような構造になっているからだ。 岸信介は偽「満州国」支配の責任者、吉田茂は中国侵略の推進者であった。岸信介の孫が安倍晋三、吉田茂の孫が麻生太郎。戦前と戦後は、このようにして継続している。 被害当事者の意志を反映していない2015年の政府間「合意」で問題は解決しないし、これで解決させてはならない。韓国民衆のたたかいが朴槿恵を打倒したように、日本の人民のたたかいによって、これを解決する必要がある。われわれは平和と人権の世界を作るために、未来への責任を負っているのだ。(鎌田慎吾)

5面

投稿
リニア新幹線が水を奪う
大阪の学習会に参加して
大阪市 菅原健太

自民党は一昨年夏の参院選の選挙公約で、リニア中央新幹線の大阪への延伸前倒しや整備新幹線の建設などのため、官民合わせて“5年で30兆円の資金を財政投融資する”と宣言していた。すでに約3兆円が鉄道建設・運輸施設整備支援機構を通じてJR東海に貸し出されている。当初リニア中央新幹線の建設はJRが自己資金でおこなうことになっていた。しかし安倍首相は、自分のブレーンであるJR東海の葛西敬之名誉会長がすすめるリニアにあっさり3兆円をポンと出している。リニアは巨大な「アベ友」利権になっている。 投入した公的資金は返ってくるあてもない。2013年9月にJR東海の山田佳臣社長(当時)が記者会見で「(リニアは)絶対にペイしない」と公言した赤字必至の事業なのだ。 リニア建設には、南アルプスの巨大トンネルによる大井川の水量減少、大量に発生する建設残土など環境への影響も懸念されている。ルート予定地には中央構造線などの断層があり、巨大地震が発生した場合のリスクもある。高圧送電線がもたらす電磁波や消費電力の問題もある。

各地の水が消えた

全国リニア市民ネット・大阪はリニア計画に反対し、地道に街頭宣伝や勉強会を積み上げてきた。2月17日には12回目の勉強会がおこなわれた。講師の橋本淳司氏は「水ジャーナリスト」として水問題の起きている現場、解決方法を調査しメディアで発信してきた。 テーマは「土地と水の恵みを忘れた日本人〜リニア新幹線、外国資本の土地買収、水道民営化を語る〜」。実験線で起きている水問題から話し始めた。 山梨県笛吹市の実験線周辺では、水が音を立てて流れる場所がある。トンネル工事が水脈にぶつかる。バイパスをつくって排出する。御坂町の水源天川は枯渇した。御坂町上黒駒若宮地区では簡易水道が枯渇した。秋山カントリークラブ、王の入トンネル、笹子トンネルなどで大量に出水した。地域の水の総量は変わらないので、水のなかった場所から出水するということは、これまで水があった場所から水が消えている。 リニア計画とは何か。第1期工事は東京―名古屋間286q(約8割が地下トンネル)、5兆4300億円かけて2027年に完成するというもの。同区間を40分で走るという。 第2期工事はさらに3兆6000億円かけて大阪まで延長する。全長は440q、東京からの所要時間は1時間7分、2045年に完成するという。 JR東海は「東海道新幹線の輸送能力が限界。老朽化対策として代替路線が必要。大地震発生時の代替交通手段。移動時間の大幅な短縮が必要」などをリニア建設の理由としてあげている。 しかし新幹線の年平均座席利用率は55〜66%にすぎない。老朽化には若返り工事で対応できる。リニアのルートは日本第1級の断層地帯。短時間移動が必要な人は多くないし、リニアでなくともエアロトレインなど高速移動手段はある。

問題だらけの工事

問題点は山積み。1qあたりの建設費は206億円で新幹線の2〜3倍もする。「絶対にペイしない」(前出)。南アルプスは活断層も10前後あり、地滑りや崩落の頻発地帯、地震の心配がある。時速506q、無人運転、トンネル内走行など技術的な安全性は確保されるのか。南アルプスのトンネルは地上まで最長1400メートル、階段などでの避難は非現実的だし、出られても特に冬は豪雪。 環境面への配慮が著しく薄い。計画に生態系保存の視点はない。消費電力、残土、水、電磁波、騒音など。残土は長野県区間50qで950万立方メートル(JR東海発表)、南アルプスを横断する部分52qで約1000万立方メートル発生する。今どこに運んでいるのか、これからどうするのかわかっていない。 JRは鉱山の位置も把握していない。重金属を含む有害土壌や水の処分、安全性確認ができていない。静岡県では、南アルプス横断トンネルのため、赤石発電所木賊取水せき上流で毎秒2・03トン流水量が減少した。毎秒2・03トンは下流域の島田、掛川など7市約63万人の水利権量になる。お茶栽培への影響も心配される。 橋本氏は、リニアとは成長の夢だけを追いかける単純なプロジェクト、高度成長の残滓にすぎない、と強調した。さらに地表水は「公の水」だが地下水には明確な決まりがない。土地を所有すると、その下の地下水は自由にくみ上げられる。このため外国資本の土地買収が水資源買収につながると危惧される、と水資源保全への注意を促した。最後に経産省=官邸が主導して水道法を改定し上下水道や公共施設の運営権を売却する策動を、21兆円の国民の資産を売り払い外資系企業を含む特定企業や投資家の利益の源泉にしようとしている、と指摘した。

本の紹介
失敗を認め、未来につなぐ
重信房子 『りんごの木の下であなたを産もうと決めた』

この本は著者重信房子が実娘メイの日本国籍を取得するために法務局宛てに書いた上申書である。上申書は、著者がメイの出生届を提出した2000年12月26日から書き始められ、法務省戸籍係が著者が勾留されていた警視庁に真実出生の有無を確認するために接見に赴いた2001年3月1日まで、警視庁の留置場のなかで書き続けられた。 少し長くなるが、本書から引用する。

「68年世代」とは、ベトナム反戦に連帯して、各地で自国の政府の帝国主義的管理支配に対して闘ったニューレフトの人々の、欧州での呼称です。(中略)日本の「68年世代」も、(世界と)共通の想い、共通の憤激を持って、ベトナム反戦、王子野戦病院反対、防衛庁突入、学費値上げ反対、沖縄―佐世保問題などで闘いました。アメリカのベトナムへの侵略に反対し、社会正義を求め、公正な市民社会を求め、闘ったのです。日本の私たちの失敗は、当時ごくわずかの人しか、社会運動に―人民の中に帰らなかったことです。 そして「軍事」や「武装」による解決を万能薬として求めるという焦りや、稚拙さから、現実に立ち向かう術を、物や技術に求めたのです。武装蜂起することがすべての目的になってしまいました。戦術が目的になって、人々の心を縛りました。その結果、「武装」とか「軍事」とか言わないことは日和見主義だとされるような時代をつくります。これらはブンド(第2次)という組織自体が内包し、赤軍派によって拡大した間違った「攻撃型階級闘争論」によって、日本の左翼運動全体に影響を与えました。連合赤軍の誤りも、赤軍派のこうした誤りの結果と言えます。 (中略)でその敗北が、元気のない日本をつくっているように思えます。『68年世代』が復権し、あなたたちと、歴史を楽しく語れる時が必ず来ると信じています。 母さんたちの世代は、運動の高揚に図に乗りすぎ、人々の社会を変えようという力に真実を求めず、自分たちがどう闘うかに夢中でした。 (中略)外因のせいにしながら、敗北と失敗を、それとして認めずに、思いだけが水膨れのように膨れていきました。そうしたことを、当時を振り返りながら反省し、70年代後半に闘いを転換しました。『自分を変えることなしに、世の中は変え得ない!』この言葉が私達自身の70年代の教訓となって、今も私たちに『粋がり』を戒めさせます」。 彼女の言葉は、むしろ私たちについて語っているのではないかと思う。「戦術」が「目的」になっていく。「暴力の復権」だけが強調され、福祉などの事柄は改良主義、日和見主義であるとする。いまだに、自分たちが失敗したことを認めようとしない。権力の破防法弾圧に敗因を求めて平然とし、自己の過ちについて疑おうとしない。そうではない。運動は弾圧によってつぶされはしない。自らの過ちゆえに、大衆から見放されつぶれていくのだ。自らの過ちを顧みない者に、未来はない。目的は社会を変えることだ。そのためには大衆の中に入らなければならない。 (幻冬舎2001年刊1500円・税別)(田中和夫)

解説
成田「空港機能強化案」
焦点は激甚騒音問題

成田空港の「空港機能強化案」は、2016年9月「年間発着枠を現在の30万回から50万回に拡大する」ための案として出された。その骨格は、@第3滑走路(C滑走路、3500m)の新設、A暫定B滑走路の北再々々延伸による3500m化、B飛行時間制限を現行の「午後11時〜翌日午前6時」(7時間)から「午前1時〜5時」(4時間)に短縮するというプランである。 第3滑走路建設は、空港を新たにもう一つ造るのに等しい計画である。それは農地を奪い、農業を破壊し、数千人の住民を滑走路予定地とその周辺から追い出すというとんでもない計画である。飛行制限の4時間化は、「制限時間の緩和」などという次元の話ではない。事実上の24時間空港化であり、周辺住民のいのち、生活・暮らしを根源から破壊する。白紙撤回以外にない代物だ。 焦点となっているのは、騒音・激甚騒音問題である。周辺住民の強い反対のなかで、国と成田空港会社(NAA)は2度にわたって見直し案を提示。この3月中にも4者協議会を開催し、最終決定に持ち込もうとしている。 激甚騒音などへの不安から周辺地域、とりわけA・C滑走路に挟まれた地域(芝山町)、A・C滑走路の延長上に市街地を含む市全域が騒音下に入る横芝光町には、何枚もの第3滑走路反対の立看板が立てられ、地域住民の強い反対の意思が示されている。地域住民の「これ以上の騒音はがまんできない。生まれ育った地域に住み続けたいだけなのに」(芝山)、「睡眠時間を空港の都合に合わせるのか」(横芝光町)と怒りが伝えられる(千葉日報記事より)。また3月4日、反対同盟は相川芝山町長の「会場使用拒否」をはね返し、芝山町役場までのデモを決行した。 「機能強化案」とのたたかいは、いよいよこれからだ。計画案の白紙撤回を勝ちとろう。「4者協議会」の開催、「機能強化案」決定を許さず、地元住民のいのちと暮らしを守ろう。4・1成田全国闘争に全力で結集しよう。

6面

長期連載―変革構想の研究 第6回
エンゲルスの体系とマルクス主義
1848年革命と共産主義者同盟 D
請戸 耕市

前回は『宣言』の〈階級闘争の二極化→革命〉というシェーマ(図式、枠組み)について、48年革命の現実の展開に照らして、ズレを指摘した。ここでいったん視点を変えて、マルクスとエンゲルスの理論の大枠を概観し、再び問題に戻ることとしたい。 通説では〈マルクスとエンゲルスは一体〉とされるが、両者の理論の形成史を見たとき、初期の『宣言』に至る道においても、また後期の『宣言』以降の歩みにおいても〈一体〉ではなかった(注21)。『宣言』は、そういう異なった歩みのなかで、両者がもっとも接近し交錯した地点ないし公約数だったと見た方がいいだろう。(このことは、両者が同志的な絆で結ばれていたこと、また、マルクスが、エンゲルスの『国民経済学批判大綱』〔以下、『大綱』〕や『イギリスにおける労働者階級の状態』〔以下、『状態』〕などを称賛し吸収していたことと矛盾しない)。

『大綱』と『状態』

ではマルクスとエンゲルスの理論を対照してみよう。まずエンゲルスから。 1842年に渡英したエンゲルスは、労働者階級の現実を目の当たりにして、その根本問題を洞察し、解決の方途を革命に求めていく。その考えを『大綱』(1844年)、『状態』(1845年)として世に訴えた。『状態』では次のような視角を提示した。 「プロレタリアートは、小中間階級の破滅が進行することによって、少数者の手中への資本の集中が迅速に発展することによって幾何級数的に増大し、やがて少数の百万長者を例外とする全国民を構成するにいたるであろう。だが、こうした発展の途上で、プロレタリアートが、現存の社会権力を打倒することがいかに容易であるか、ということをさとる一つの段階がやってくるであろう。そしてそのときには、革命がつづいておこるのだ」 階級闘争の二極化から革命を展望する歴史観・革命論の輪郭が出ている。これが『宣言』にも反映され、さらにエンゲルスの終生の基調として貫かれていく。 さらに、後期の『反デューリング論』(以下『反デ論』1876〜78年)では、階級闘争の論理を理論的に支えるものとして、歴史的運動の一般理論としての「唯物史観」、その資本主義社会への適用としての「経済学」、その核心としての「剰余価値論」というエンゲルスの体系を確立した。そして、資本主義の基本矛盾を、〈多数の労働者による社会的=集団的な生産と、その生産物を個々の資本家が取得するという矛盾〉ととらえた。この矛盾が@ 階級対立、A 生産における工場内での組織性と社会全体での無政府性、B 恐慌の爆発として現れるとした。こうした把握から、階級闘争を通して国家権力を掌握し、〈取得〉の性格を〈社会的〉に転換することをもって、矛盾を解決するとした。エンゲルスの確立した体系はおおむねこういう組み立てだった。 エンゲルスの体系は、第2インター、第3インターの活動家たちに受容され、「マルクス主義」として普及していく。 例えば、カウツキー起草のドイツ社会民主党「エルフルト綱領」(注22 1891年)は、中間階級の分解と階級対立の激化、資本主義的生産の無政府性と恐慌の長期化という論理を柱としているが、これは、エンゲルスの基調をよく反映している。 また、レーニンは、『反デ論』について、「彼ら(マルクスとエンゲルス)の見解がもっとも明瞭に、くわしく述べられている」「『共産党宣言』と同じように意識を持つ労働者のだれもが必ず手もとにおかなければならない書物」(注23) と推奨している。

「唯物史観」と「経済学」

ではエンゲルスの体系はマルクスの理論と同じか? 例えば、「唯物史観」という用語は実はマルクスにはない。これは、マルクスが『経済学批判』「序言」(1859年)で述べた「私の研究にとっての導きの糸〔Leitfaden〕として役立った一般的結論」の内容を、エンゲルスがその「書評」(1859年)のなかで「唯物史観」という造語で解説・定式化して以来、エンゲルスのキー概念となったものである。(なお、Leitfadenは「手引」と訳す方が一般的(注24)。マルクスにとって“研究の手引”にすぎなかったものが、エンゲルスによって、歴史的運動の一般理論に格上げされた。これが、後世の多大な誤解と不毛な論争の原因となった。 「唯物史観」の適用としての「経済学」という点も違う。まずマルクスは「経済学」ではなく「経済学批判」である。さらに「経済学批判」を外から規定する歴史観はマルクスにはない。また「剰余価値論」は重要だが「経済学批判」の核心とはいえない。そして、「資本主義の基本矛盾」に関して、生産が〈集団的〉であれば〈社会的〉とする理解は誤りであり、〈取得が資本家的〉なのは〈生産が資本家的〉だからであって、この「基本矛盾」理解は全く誤りである。

「経済学批判」

ではマルクスの「経済学批判」とは何か? 「国民経済学」では前提化されている貨幣・資本・賃労働などの経済学的な範疇(カテゴリー)にたいする批判である。それらを〈すべての社会関係が労働から発生(注25)する〉という観点から把握し直すことである。このことを通して資本主義の社会システム(注26)においては、〈労働する諸個人(注27)の実在的な連関〉が、その疎外態である〈物象(注28)の連関〉に転倒して統一されており、そのことが諸個人の意識において覆い隠されている。その〈実在の連関〉の姿を把握することである。そして、資本主義の社会システムが、「疎外された労働」という本質的な矛盾を持ち、本質的な矛盾ゆえに存立し、また有限であり、このシステムのうちに、新たな社会システム、つまりアソシエーション(注29)が潜在していることを明らかにすることであった。

「疎外された労働」

両者の違いは多々指摘できるがその核心は何か?ここでは2点だけ挙げる。 ひとつは、経済学批判の「批判」という方法である。〈事物を、固定的孤立的に捉える分析的な方法〉(悟性的把握、近代知の方法)にたいして、〈分析的な方法〉を包摂しつつ、〈事物に内在する矛盾を捉え、その矛盾を不断に形態化しながら運動する能動的な存在として把握する方法〉〔概念的把握(注30)〕である。マルクスはこの方法を、理論活動の初期にヘーゲルから批判的に継承し、この方法の確立によって、近代知の枠組みを超えられると確信していた。この方法をもって〈物象の連関〉と〈実在の連関〉を把握し『資本論』に結実させた。 エンゲルスにはこの意味での「批判」という方法がない。いやエンゲルスだけでなく、あまたの革命家・理論家たちも近代知の枠から自由ではなかった。〈マルクスは難しい。エンゲルスは分かりやすい〉と言われる、その〈難しさ〉〈平易さ〉の問題も、近代知の枠を超えるか否かに関わる問題だった。まさにこの方法において近代知とその超克とが分岐し、マルクスの理論の画歴史性もそこにあったのだが、「マルクス主義」として整理されるなかで再び近代知の枠内に引き戻されてしまったのである。 今一つは、「疎外された労働」である。要するに「賃労働」であるが、マルクスは、〈労働が、労働する諸個人自身の活動ではなく、資本が設定した目的を実現する活動であり、主体である労働する諸個人が自然と自己とを意識的に制御する活動ではなく、他者である資本によって命令・指揮される活動になっているという主客転倒の状態〉(注31)として捉え、資本主義社会の苦痛の源泉であり、資本主義社会の根源的な矛盾として把握した。(なお、「疎外された」とは、「疎外されない」状態が理論的に前提されているのではない。自然と人間との存在論的な関係と、現実の賃労働の対比から導出されている)。これは、労働を疎外と疎外の止揚としてとらえるヘーゲルの労働観を批判的に継承して、『資本論』において体系的に深化されたものである。 エンゲルスにおいては「疎外された労働」の把握がない。そして「マルクス主義」では、「疎外」の概念は〈未熟なマルクス〉として切り捨てられてきた。 そして、この2点に関して希薄なのが『宣言』の特徴でもあった。

「マルクス主義」

「マルクス主義とはマルクスの諸見解と諸学説の体系である」(注32 レーニン)。通説ではこうだったが、上で見たように「マルクス主義」とはエンゲルスによって体系化されたものであり、そこにはマルクスの理論の核心が継承されていないということを再認識する必要がある。上で〈発生〉〈物象〉など、なじみの薄い用語について注をつけた。いずれもマルクスのキー概念であるが、「疎外された労働」と同様に、「マルクス主義」では無視ないし等閑視されてきたことがなじみの薄さの背景にある。  以上に踏まえて改めて階級闘争論について次回に検討したい。(つづく)

(注21)保住敏彦「エンゲルスの理論活動の意義と問題」(1995年)、大石高久『マルクス全体像の解明』(1997年) (注22)廣松渉・片岡啓治編『マルクス・エンゲルスの革命論』(1982年) (注23)「マルクス主義の三つの源泉と三つの構成部分」(1913年)『レーニン全集』第19巻 (注24)「Glosbe多言語オンライン辞書」 (注25)〈発生〉とは、同一形態にとどまる社会や社会的実体が、不断に自己産出の運動を繰り返していること。歴史継起的・時系列的な移行や生成ではない点が重要。〈批判〉という方法と密接不可分。『剰余価値学説史』 (注26)社会を日々産出している根源的主体である〈労働する個人〉と、その疎外態である〈物象的主体〉(→注27)とを矛盾的に統一した〈システム〉として、社会を把握する。『要綱』  (注27) マルクスは、社会や歴史のベースに「諸個人」を置いて考えた。諸個人の歴史的生成を説き、近代社会での市民および階級としての諸個人のあり方を分析し、諸個人のアソーシエイトした力によって個人の解放を構想した。『ドイデ』『要綱』 (注28)〈物象〉とは商品・貨幣・資本など、資本主義の社会システムの能動的な主体。根源的主体である〈労働する諸個人〉の自己疎外形態。〈労働する諸個人〉が根源的な主体であるのに、主客が転倒して、〈物象〉が主体となっている。『資本論』 (注29)マルクスは、資本主義社会が産み落とす新しい社会を〈アソシエーション〉と呼んだ。当時の英仏の社会主義者から引き継いだ用語。〈アソーシエイト〉とは意識的自覚的に結びついたの意。 (注30)『ヘーゲル国法論批判』『要綱』  (注31)『経哲』『要綱』『資本論』  (注32)「カール・マルクス」(1918年)『レーニン全集』第21巻