農地とりあげ執行停止
請求異議裁判始まる
3・26三里塚闘争 成田へ
デモの先頭に立つ萩原富夫さん、市東孝雄さんら (2月 千葉市内) |
2月14日の審尋で「異議裁判の一審終了まで執行停止」が決定され、3月2日千葉地裁で注目の請求異議裁判が開かれた。異議裁判は、刑事事件における再審にあたる裁判で、きわめハードルが高くほとんど認められることがないという。異議裁判の開始決定は、市東孝雄さんからの農地強奪がいかに多くの社会的政治的問題を孕んでいるかを示しており、市東さん、反対同盟の「農地を守り抜く」「絶対に負けるわけにはいかない」という不屈のたたかいが引き出したものだ。
原告の主張
異議裁判では、最初に原告(市東さん)代理人弁護士3人が陳述した。@空港会社(空港公団)は、空港建設にあたっては「あらゆる意味で強制手段をとらない」「あくまで話し合いで解決」と繰り返し公約しており、市東さんからの農地取り上げ強制執行はこの信義則に反する、A本件控訴審判決は、裁判官忌避の申し立てにたいする決定のないなかで言い渡されたので、無効である、B空港会社は、農地取り上げと引き替えに「離農補償金」を提示しているが、未だこれが支払われていない。もちろん市東さんはこれを受け入れているわけではないが、千葉県知事の農地明け渡しの許可条件に明確に反する。
続いて市東さん本人が、異議裁判申し立てにあたっての陳述書を要約、耕作地の図面・写真を示し、農業・農地・農耕手段のすべてを奪い取る強制執行に「あくまでたたかいぬく」と、その決意を示した。
そして裁判長から、原告・被告双方に求釈明がおこなわれ、次回弁論を5月25日と決定、この日の裁判を終えた。
諦めることなく
報告会では、この裁判が異例ともいえる形で始まり、また形だけの1回きりの裁判ではなく違った展開を見せる可能性をもち、強制執行間近という基本情勢は変わらない厳しい状況にはあるが、これを押し返すこともできるんだということが、市東さん、反対同盟、弁護団、支援者によって確認された。
「最高裁決定で終わりではない!」――諦めることなく粘り強くたたかいぬいていこう。そのためにさらに市東さんの農地強奪問題をより多くの人たちに知らせ、たたかいの輪をひろげていくことだ。
地域社会を破壊
3・26全国闘争の課題は第1に、この市東さんの農地裁判闘争、とりわけ異議裁判闘争に勝利し、市東さんの農地を守り抜くことである。
第2に、国・NAA(成田空港会社)は昨年9月、第3滑走路計画などの「今一つの新たな空港計画」を示し、突き進もうとしている。新たな空港拡張計画は、一言で言ってとんでもない計画である。かつて成田用水問題で「芝山廃村化」などと言われたことがあるが、まさに新計画は空港周辺地域丸ごとの「廃村」計画である(4市町に及ぶ)。
「空港機能の強化策」と称するこの計画は、@3500m滑走路(第3滑走路)の新設、A現B滑走路の1000m北延伸(3度目の延伸で3500m化)、B夜間飛行制限の緩和(夜11時〜朝6時→夜1時〜朝5時)が、その骨格だ。
政府・NAA、千葉県、周辺自治体などは、2020年東京オリンピックや観光立国を旗印に「50万回発着」を掲げ、農地・居住地を奪い、騒音地獄でいのちと暮らしを奪い、周辺地域から農民・住民を追い払おうというのである。とりわけこの攻撃の導水路は、「飛行制限の緩和」と称する事実上の24時間空港化にある。これによって、周辺地域から「人の住める環境」は奪われ、無人化せざるをえない。空港との共存、共生などありえない。
3・26成田へ
計画発表後、空港周辺地域で実施されている「説明会」では、激しい反対の声があがっており、一見、1966年の空港計画当初の様相を想起させている。空港地域周辺住民と連携して、「空港機能強化策」を阻止し、農業と地域を守り抜こう。
市東さんの農地を守り抜くたたかいは正念場だ。千葉地裁とNAAにたいして、一人ひとりが声をあげ、自らの意思を態度で示そう。農業・地域社会の破壊にたいして、空港周辺地域住民とともにたたかおう。
3・26全国闘争(正午、成田市赤坂公園)に結集しよう。
安倍政治の申し子 森友学園
籠池理事長らの国会喚問を
不正と疑惑のかたまり、瑞穂の國小學院。8億も「産業廃棄物」はどこに? (3月3日 豊中市内) |
森友学園・瑞穂の國小學院の国有地不正取得事件への怒りが渦巻いている。9億円の土地を1億円余りで取得しただけでない。校舎建設をめぐって虚偽の申告で多額の補助金を得ている。
また森友学園が経営する幼稚園では、教育勅語暗唱だけでなく運動会で「安保法制国会通過よかったです。安倍首相がんばれ」と唱和させていたことも判明した。安倍昭恵首相夫人は、こうした教育に共鳴して、名誉校長に就任していたのである。
森友学園をめぐる一連の事件は、安倍首相とこれを支持する右翼団体・日本会議による国有財産の私物化の一端を明るみにした。
事件の中心人物、森友学園理事長の籠池泰典は安倍政権を支持する日本会議大阪の役員として、経営する幼稚園で、櫻井よしこ、百田尚樹、平沼赳夫、竹田恒泰、曽野綾子など名うての右派論客の講演会を繰り返していた。
「ゴミ処理」で不正
森友学園の国有地取得や校舎建設では次々と不正が明らかになっている。
最大の問題は格安の国有地取得のやり口である。「産業廃棄物」の処理費用を名目に財務省・近畿財務局、大阪航空局は9億5600万の土地を1億3400万という破格値で売却した。
ところが処理に8億円かかったとされる産業廃棄物の存在はどこにもない。学園側は「校庭に仮置きした」と言っているが、そこには番線やコンクリ片などが多少確認される程度で、「8億円分の産廃」にはほど遠い。最初から産業廃棄物など存在せず、虚偽の報告によって処理費用8億円を値引きさせた可能性が高い。
第2の不正は、当初の賃貸契約である。賃貸は国有地ではありえない。その賃料は、2015年4月には年間4200万円だったのが、同年4月に3600万円に減額。さらに1カ月後には2730万円に引き下げられた。
これは鴻池元防災担当大臣への陳情直後のことだ。
さらに校舎建設・校地整備費用を国には23億8400万円と申告する一方で、府にはその3分の1の7億5600万円と報告していた。国への申告にもとづきすでに5645万円の補助金が森友学園にわたっている。
正門付近の土を体育館北へ運んだ車(3月3日) |
認可に政治的圧力?
大阪府では、幼稚園しか設置していない学校法人に借入金がある場合、小学校設置を認めていなかったが、松井知事になって、設置を認める内容に緩和した。基準緩和後、小学校設置申請は森友学園からの1件だけだった。
また審査の過程では、委員から財務内容や教育内容をめぐって多くの否定的な意見が出された。とくに「道徳」に通常の3倍の時間をとるなどその異様な教育内容に批判が続出した。
ある委員は、もしも認可したら「新聞沙汰になる」と発言していた。その結果、保留となったものが、1カ月後には条件付き認可となった。背後で政治的な力がはたらいたのは間違いないだろう。
「疑惑の3日間」
森友学園不正事件の全容は、籠池理事長や安倍昭恵首相夫人、さらには迫田英典元財務省理財局長(安倍と同郷)らの国会喚問ぬきには判明しない。
世論調査でも8割以上が国会喚問を求めている。自民党がこれを拒否することは許されない。安倍昭恵は「首相夫人」として小学校設立の広告塔を買って出ていたのだ。
とくに2015年9月4日、国が森友学園に6200万円の補助金交付を決定した経緯を徹底的に究明する必要がある。
安倍はその前日の9月3日、迫田英典財務省理財局長(当時)と面会していた。そして翌4日には、国会で戦争法案が審議中であったのにもかかわらず、大阪入りしてテレビ局のワイドショーに出演した。
同じ日の午前中、近畿財務局9階会議室で、森友学園の小学校建設工事を請け負った設計会社、建設会社が、近畿財務局の統括管理官、大阪航空局調査係と会合をもっている。
そして翌5日、安倍昭恵が大阪市内で瑞穂の國小學院の名誉校長就任のあいさつをおこなった。
9月3日から5日までの一連の経過をみれば、森友学園の補助金交付に安倍が深々と係わっていた疑いは、ぬぐえない。(野田 章)
2面
沖縄 辺野古
山城博治さんの釈放を
那覇地裁で2000人の集会
キャンプ・シュワブゲート前で三線を演奏する稲嶺名護市長ら(3月4日) |
2月24日 辺野古・高江の抗議闘争中に公務執行妨害などの容疑で逮捕・起訴され、4カ月以上の勾留が続く沖縄平和運動センターの山城博治議長はじめ3人の釈放を求める集会(主催・同実行委員会)が那覇地裁前の城岳公園であり、2千人の市民が参加。「長期勾留は人権侵害だ」「政治弾圧をするな」と抗議の声を上げた。山内徳信さんは「山城議長らの釈放を求める4万人以上の署名を那覇地裁に提出した。釈放を勝ち取るには民衆の力しかない」と呼びかけた。集会では那覇地裁の阿部正幸所長宛に「即時釈放すべき」とする抗議文を決議した。その後決議文を提出するために共同代表らが地裁に入った。それに続いて数百人の市民が続々と庁舎玄関前に詰め寄った。詰めかけた市民は玄関前で30分間にわたり早期釈放を訴えた。
3月4日 「さんしんの日」キャンプ・シュワブゲート前でも早朝から三線の音を響かせ、沖縄の芸能文化を通して平和を訴えた。午前8時から三線が奏でられた。琉舞や若者たちの音楽など数々の出し物が披露され、市民350人が集まりにぎわった。正午の全島一斉の三線合奏に合わせ、ゲート前には三線奏者45人、笛、太鼓など5人、総計50人の奏者の演奏が響き渡った。稲嶺進名護市長も三線奏者として演奏した。また、三線演奏に合わせて「かぎや風」の踊りが披露された。しかし、三線合奏が終わった午後2時ごろ、ダンプ5台と作業車1台がゲート前に現れた。市民は徹底抗議を展開した。この攻防で男性一人が公務執行妨害容疑で不当逮捕された。(6日釈放)
一方、伊江島では「伊江島米軍演習場の機能強化に反対する集い」が伊江島補助飛行場に近い真謝区公民館であった。村内外から120人が参加。畜産農家でもある同区の平安山良尚区長は、牛の死産や流産は米軍機の騒音が原因ではないかと指摘。「住まいの近くで大変な訓練がおこなわれているのは許しがたい」と訴えた。ヘリ基地反対協共同代表の安次富浩さんは、伊江島土地闘争のリーダーに触れ「阿波根昌鴻さんに学び、辺野古でも非暴力の抵抗を続けていく」と誓った。集会では「海兵隊F35戦闘機と空軍CV22オスプレイの訓練に対応する着陸帯の拡張工事に反対」などの決議を採択した。
6日 政府が辺野古の新基地建設で海上工事を再開してから、1カ月が過ぎた。大型コンクリートブロックは、全228個のうち半数以上が投下された。政府は汚濁防止膜の設置を終えれば、大型連休明けの5月上旬にも護岸工事に着手する計画だ。政府は3月末に期限切れを迎える辺野古沿岸部の岩礁破砕許可について、名護漁協に工事に伴う補償金を払い、同漁協側が漁業権の放棄に同意したことを理由に、漁業権の存在を前提とした破砕許可を県から得る必要はないとした。3月中に県に更新申請をしないことを伝達する方向だ。
県側は、漁業権は公共財であり、知事がその設定を決定するもので、漁業権を一部放棄する変更手続きには、地元漁協の内部決定だけでなく知事の同意が必要だとして、国の岩礁破砕許可の申請義務は消えていないと主張した。
市民は、3月25日、キャンプ・シュワブゲート前で3千規模の抗議集会を開催する予定。(杉山)
「ヤマトゥから、大阪から」
2・26辺野古を闘う集い
大阪・関西で沖縄・辺野古をたたかう人々でパネルディスカッション(2月26日 大阪市内) |
2月26日、大阪市内で「ここヤマトゥから、大阪から、辺野古を闘う集い」が開催され150人が集まった。主催は「Stop! 辺野古新基地建設! 大阪アクション」。今回は沖縄からメインゲストを呼ぶのではなく、関西でたたかう仲間のパネルディスカッションがメインだった。
問題提起を三浦俊一さん(釜ヶ崎日雇労働組合)から受け、陣内恒治さん(しないさせない戦争協力関西ネットワーク)、松島洋介さん(ジュゴン保護キャンペーンセンター)、平石澄子さん(辺野古の海に基地をつくらせない神戸行動)の3人から、現場からの報告とたたかいの展望が語られた。司会及びコーディネーターは西浜楢和さん(日本キリスト教団大阪教区沖縄交流・連帯委員会)で集いは進められた。
全国から辺野古へ
三浦さんは、まず最初にこのかんの辺野古の工事強行を弾劾した。これまでの経緯をわかりやすく説明し、昨年末の「埋立承認撤回」をめぐる最高裁の判決、工事再開のキャンペーン、また北部訓練場一部返還の政府式典強行、高江・辺野古の責任者である山城博治さんの不当逮捕とその後の長期勾留、国が地元漁協を36億円の札束で屈服させ、年が明けてから名護漁協と水産庁の協議で、6億円で漁業権を放棄させた経緯など。
安倍政権のでたらめなやり方を一つひとつ丁寧に説明するとともに、普天間問題は解決ならず、「辺野古が唯一の解決策」もその理由がすでに崩壊していること。
最後に、ゲート前での座り込み行動が重要で、これまでも一人の座り込みを退去させるために30秒しかかからなかったとしても、その積み重ねで2年以上にわたって基地建設を止め続けていると提起し、全国から辺野古へ集まろうと呼びかけた。
道行く人びとに
問題提起を受けて、各パネリストからそれぞれのたたかいが報告されるとともに、機動隊の沖縄派遣にたいする関西での住民監査請求、国際自然保護連合などへの働きかけが紹介された。パネルディスカッション後には島唄・三線から元気をもらい、参加者全員がカチャーシーを踊った。
集会後はデモ行進に移り、アメリカ領事館前を通って大阪市役所前まで「辺野古新基地建設反対!」「トンブロック投下阻止!」のシュプレヒコールをあげ、道行く人びとにアピールした。
軍事挑発の米韓演習
3・5京都で学習会
3月5日、米軍Xバンドレーダー基地反対京都連絡会の主催で、米韓合同軍事演習に反対する学習会が京都市内で開かれた。前段におこなわれた山城博治さんの長期勾留を弾劾する緊急集会も合わせ80人が参加(写真右)。
米韓合同軍事演習は、野外実戦訓練であるフォールイーグル(3月1日から4月末)、図上訓練であるキーリゾルブ(3月13日から2週間)がおこなわれる。毎年実施されているこの大規模軍事演習は、一昨年は20万人規模だったのが、昨年史上最大の30万人規模の演習だった。
学習会に参加した朝鮮総連南山城支部委員長のキムスファンさんによれば「今年は米軍からの正式な発表はなく、韓国の国防省が韓国のマスコミに言ってる情報しか流れてないので、韓国の保守派が言いたい米韓が一体だということが強調されるので、本当の実態はまだわからない」、ということだった。学習会参加者は、この軍事挑発に、日本・韓国・朝鮮の人民が共同で反対していこうと確認した。
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「大国、グローバル企業」の利益追求
TPPと並ぶRCEP
TPPは頓挫したが、並行して東アジア地域包括的経済連携(RCEP=Regional Comprehensive Economic Partnership)の交渉が進んでいる。TPPは2010年3月から始まり、16年2月に署名。RCEPは13年5月第1回会合、今年2月に17回目の会合が日本(神戸市内)で開かれた。
RCEPはTPPに比べあまり知られていないが、ASEAN 10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)と6カ国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)が交渉に参加している。域内人口は約34億人(世界の約半数)、GDP約20兆ドル(同約3割)、貿易総額10兆ドル(同約3割)という広域経済圏となる。
大半の国がTPPと重なり、どちらも秘密交渉。TPPは多くの文書がリークされたが RCEPは、より秘密性が高い。
RCEPとTPPがどのように関連しているのか。多くの国がTPPの主題、しかもより酷いものをRCEPに持ち込もうとしている。オバマ政権のあとTPPは頓挫、トランプ大統領による撤退以降、各国がこれまで主張し、かけてきた政治的コストを取り戻そうとしている。TPPで大問題になったISDS(投資家VS国家紛争「解決」)条項、電子商取引のプライバシーと情報セキュリティの脅威、医薬品についてTPP同様に制限が加えられ、安価なジェネリック医薬品製造に「先進国基準」を押し付け、後発・途上国の発展を阻害、貧困層への安価な医薬品が止められる、などが懸念される。
これらメガ協定は、物品貿易(関税)に加え知的財産、サービス、投資、保険、医療など幅広い暮らしの分野に影響を与えるものとなる。TPPと同じく、それ以上に秘密裏におこなわれ、「大国、グローバル企業」の論理と利益を優先しようとする。「貿易協定という言葉が誤解を与える。医療、食品基準、公共サービスなどを縛るものと認識するべき」(ジェーン・ケルシーさん、オークランド大学教授)と、事実公開が強く求められている。(武村志郎)
〔「アジア太平洋メガ自由貿易協定の行方と私たちの未来」2月26日、神戸市内=を参照した〕
3面
高すぎる学費、サラ金化した奨学金
学生の貧困 求められる抜本改革
「市民デモHYOGO」の2月19日行動は、「学生の貧困、奨学金」問題の学習討論集会だった(写真下)。〈奨学金問題と学費を考える兵庫の会〉の佐野修吉さんが提起した。内容を以下紹介する。
下がり続ける学生の生活費
奨学金と学費の問題は、一方では学生の貧困問題である。
いまの学生生活の実態調査から見えること(参考資料:日本学生支援機構、全国大学生協等の調査)。
@生活費収入(自宅外通学)ここ10年、親からの仕送りがどんどん減っている。88年〜02年までは少しずつ増えていたが、10年から下降。
A学費は88年以降急激に増え、02年から高止まり。一方で生活費は00年から相反して減り、14年調査では70万円前後に。バイト収入に加え、それを埋めるため奨学金に。
B奨学金受給者は、96年頃まで約20%で推移(昼間部)、98年ころから増え10年以降は50%を超えたが、注目すべきは12〜14年で受給率が減り始めた。つまり「奨学金を借りると危ない」という認識が少し出始めたのか。しかし、収入のうち奨学金の占める割合は約2割、90年代後半に約75%だった仕送りは約6割に減じている。
C学生の家庭の年間収入を見ると400万円以下、700万円以下層が増加する一方、高所得層はそのまま。中低所得層がどんどん増えている。
D親がぎりぎり生活しながら仕送りしている。95〜01年、仕送り(自宅外通学)は約6割が10万円前後。その後ずっと下がり続け、11年から3割を切る。仕送り5万円以下が約10%だったのが、いま25%前後に増加。「仕送りなし」が約2%から9〜10%に。アルバイトが常態化している理由だろう。学生は貧困の上に、とても忙しい。
700円を割る1日の食費
E年間の食費調査を見ると04年は約30万円、その後は減り続け12年約25万円、14年約26〜27万円。平均値1日700円を割る。平均ということは700円以下もあると推測できる。最近、大学生協の食堂では100円朝食サービスがあるという。
これらの調査からわかること。@学生の貧困化は、2000年ころから深刻化し、リーマンショックでさらに進行。A奨学金への依存は強まったが返済の困難さから止まり始め、アルバイト収入へ向かっている。B抜本的な対策が必要であるし、それはできる。
返そうにも返せない奨学金
奨学金返済問題の現状、相談から見えてきたこと。@裁判所から督促状がくる。A相談者は「返そう」と思っている。返せない理由は、非正規や失業、病気、親が返そうとしてきたが「事業に失敗」「母子家庭になる」など。B重い延滞金、など。
本来は給付であるべき奨学金が、「日本の奨学金」=日本学生支援機構の場合(90年以前の育英会から「支援機構」に)、ローンになってしまった。当時は卒業すれば多くが「正規職」に就けた。賃金も一応上がり、相対的に返済負担率は減少する。返済不能者も少なく、実質的には免除されていた。ローン化した今は、例えば「全盲」「精神的な病気」などでは免除されず、寝たきり状態でようやく例外的に適用されるくらい。消費者金融では禁止されている「職場への督促状、電話」などが認められている。2014年に猶予制度が5年から10年に延長されたが、10年の期限がくれば無収入でも返済が求められる。傷病理由には期限はないものの、年収200万円以下の障がい者にも適用される。
60歳になっても返せない例
ある相談者の場合、実際に借りた金額は月5万円、4年間で240万円。利息が付き約310万円。20年返済で毎月1万5千円ほど。子どもが小さく働けない。夫も収入がそれほど高くない。連帯保証人である父親も、返せる収入がない。自己破産すると保証人である、おじさんへいく。父親とも自己破産し、自分たちも工面しながら、おじさんのところで毎月の返済ができるようにするしかない。しかし、こういうケースでまとまることは少ない。自己破産も難しい。保証人が親の場合はまだしも、おじ、その(子)相続人などにつながると、それもきわめて難しい。
延滞金が加わるし、少額で返していても60歳になっても奨学金が残っている。
「受益者負担」のまちがい
問題の根源は授業料の大幅値上げ、高卒求人の激減、あまりに低い公的負担など。自民党政権は、教育費は「受益者負担」とし、とくに高等教育費をどんどん削減してきた。一方で所得税、とくに法人税率を大きく下げていった経緯と重なる。市民の側にも「当面する暮らし、景気対策につながらない」という意識からか、政府の教育費支出増を是としない傾向がある。「教育、高等教育の受益者は、社会全体である」、政策的にも税制改革、例えば消費税1%分で給付型奨学金は可能という意識転換が求められている。高等教育無償化の流れは始まっている。安倍政権の改憲に乗じる策動を許さず、市民住民が教育と教育条件が整備される社会をめざすことが大切だろう。
参加者の声
「奨学金が、超悪徳サラ金化していることに腹立たしい。高所得者、大企業の減税を元の税率に戻し、税の使い方を見直すことで解決策はあるのに!」「私は何とか奨学金を受けずに卒業できた。友だち2人に1人は借りていた。社会人になって1年。わずかな貯金も通帳を見ると減っている。できるだけお金を使わず生活する」。
筆者の感想。阪神淡路大震災の貸付金を返せない人が、いまなお多いことをあらためて思った。災害生活復興資金は阪神大震災後に、貸付から給付制度にこぎつけた。阪神淡路大震災には遡及されず、新潟地震から適用。不十分さはあるが、被災者、小田実さんら市民に労組も加わり懸命の運動で給付法を実現した。
教育をどう考えるのか理念を問い直し、税制、予算編成など政策転換をおこなわせる。
「教育費無償」を盛りこみ、改憲の突破口にしようなどという自民、維新などの動きに、市民の側から教育無償化論と運動を広げることが必要だと痛感した。(博)
トランプ政権登場が意味するもの
一橋大大学院教授 鵜飼 哲さんが講演
2月12日、東京・西早稲田の日本キリスト教会館で「沖縄・韓国民衆と連帯して闘おう! 2・12集会」が開かれた。主催は戦争法廃止・安倍たおせ! 反戦実行委員会。集会では、一橋大学大学院教授・鵜飼哲さんが「トランプ政権登場が意味するもの」と題して講演した。以下、講演の骨子を紹介する。(見出しは編集委員会)
奴隷制時代の選挙制度
私が欧米から得ている情報は日本のメディアに伝えられる情報とは多少違う。一般投票で280万票少ない候補者の勝利というのは、奴隷制時代に遡る選挙制度の問題がなければありえなかった。本当は重要な問題。2000年(得票数で上回ったゴアにブッシュが勝利)の場合と比べて桁違いに差が大きい。共和党が選挙制度をいじってきたという問題。ポピュリズムという問題ではない。
選挙制度の枠組みを作ってきた人は金持ち・奴隷所有者。自分たちが選挙するためのものだった。(制度の根本を変えようにも)上院を通らないので憲法を変えられない。ウィスコンシン州のトラブル(得票数に疑義が生じ数え直し)と同じことが膨大にあった。トランプだけの問題ではない。制度改革論争再燃は必至。米国国内政治は長期的・構造的・歴史的不安定期に入った。
新政権と国際情勢
ロシアとの関係を抜きにして(トランプ当選直後の)安倍の動きは理解できない。米新政権の親ロシア・反イラン路線が中東の対立構図に何をもたらすかは不明。地球温暖化で北極海が航行可能になることが地政学的条件を変えつつある。国後・択捉をめぐる日ロ交渉の重要性もここから考える必要がある。韓国の激動は崔順実事件だけではない。韓国の民主化運動は朝鮮統一の方向を維持している。朴槿恵政権の弱体化は米日の圧力の中で起こった。
沖縄と原発
米軍は「エアシー・バトル戦略」(中国とのミサイル戦争)から「オフショア・コントロール戦略」(中国沿岸での海洋戦争)へ戦略的にシフトしている。辺野古工事再開阻止闘争に参加し、山城博治さんとその同志達の釈放要求を強化する必要がある。
福島の原発事故の際、最初に飛んできたのは仏の首相だった。日本は、結局役に立たなかった機械を売りつけられた。一昨年10月3日、仏首相M・ヴァルスは京都で「来たるべき国連改革での日本の常任理事国入りを支持する」と安倍に言った。国連常任理事国になるには自衛隊が国連の軍事活動でより大きな役割を担う必要がある。日本の反戦運動はこの軍事行動がどういう意味を持つかの分析が足りない。
憲法と共謀罪
自民党の改憲案では「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」とする憲法24条(家庭生活における個人の尊厳と両性の本質的平等)の改悪が9条と並んで最重要。24条を変えさせないキャンペーンを張り、ここと反戦運動が結びつく必要がある。
「共謀罪がなければオリンピックはできない」と安倍に言わせてはいけなかった。私たちは、東京オリンピック・パラリンピック開催とのたたかいを取り組む必要がある。
オリンピック提唱者のクーベルタンがいい人だったというのはとんでもない。植民地主義・優生思想の持ち主で、後にファシズムの信奉者になり、ベルリンオリンピックも擁護した。
(短信)
運転差し止め仮処分を申請
伊方原発
3月3日、伊方原発3号機の運転差し止めを求める仮処分を山口県の住民3人が、山口地裁岩国支部に申し立てた。
現在、国内では3基の原発が運転中で、伊方原発3号機はそのひとつ。ほかに、九州電力・川内1号機、2号機がある。
伊方原発3号機をめぐっては、すでに愛媛、広島、大分の3県で同様の仮処分申請および訴訟が進行中。これで4件めの仮処分申請となるが、どこかひとつでも仮処分決定が出れば、原発は止まる。愛媛(松山地裁)での仮処分めぐる審尋はすでに昨年11月に終結し、決定を待つのみとなっている。
4面
「自己愛性パーソナリティ障害」は犯罪の原因ではない
高見元博
相模原事件を利用した精神しょうがい者差別
2月20日、相模原事件の容疑者Uは「自己愛性パーソナリティ障害」と鑑定されたと報じられました。
A医師の意見
自己愛性パーソナリティー障害ですか。妄想や気分障害が観察されず、薬物の影響が消えると思われる期間を過ぎても、本人の主張や在り方に変化が見られなかったということですね。周囲が思う以上に本人の自己評価が高く、自分は不当な評価を受けているとの不満を抱きやすい人になります。そう言ってしまえば、それが障害なのかと思ってしまいます。Uのように自分は選ばれた人間だという思いに基づいて行動に出る場合があり、迷惑が周囲に及んでしまいます。だから、優生思想を持つかというとそれは別ものです。
なかに自己愛に地位が重なって、社会的な地位と権力がともなってしまう場合があります。(A首相やT大統領のように)自己愛傾向の強い人が社会で幅を効かすようになると厄介な人になります。私はアメリカ流になんでも障害としてしまって、治療の対象とするよりは、そういう傾向のある人くらいの表現のほうが、誤解を広げずに済むと思っています。日本語で人格障害と訳すと、その人個人の問題というニュアンスになり、原語personal disorderの、周囲との関係のなかで表面化してくるその人の行動パターンの問題というのとは、少し違ってくるように感じます。
因果関係はない
今回の鑑定の「自己愛性パーソナリティ障害」と、起こした事件の因果関係は何も立証されていません。なぜ犯行動機である差別思想を持ったのかは不明なままです。「『自己愛性パーソナリティ障害』を治せれば事件は防げた」と鑑定されたわけではないのです。「なんか『精神病者』がやった事件らしい」という雰囲気だけ煽られています。
「自己愛性パーソナリティ障害」の診断基準は【別表】の通りです。有名な指揮者のカラヤンがこれに該当するそうです。成功して社会的名声を受ける人も多いのです。優生思想を持つこととは結びつきません。「自己愛性パーソナリティ障害」者は、「普通にいる人」で、それで悩んでいる人以外は治療の対象としません。
「自己愛性パーソナリティ障害」と鑑定すること自体、犯行時には理性を失っておらず、完全責任能力があるという意味です。事件と精神しょうがいは関係ないが、何らかの病名はつけたかったというだけです。
精神医療が警察の手先に
事件の原因が精神しょうがいではないと鑑定されているにもかかわらず、事件を口実にした精神保健福祉法の改悪がほとんど議論もなく国会を通過しそうです。「精神医療を犯罪予防に使う」と明示された今回の精福法改悪、しかも警察をかませるというやり方は精神医療の根本的在り方にかかわる大改悪です。
精福法は建前上も「社会防衛が目的」へと転換されるからです。「精神医療は本人のための治療を施す」としてきたのが精福法です。医療観察法でさえ建前上は「本人のために医療を施す」とされています。
相模原事件の「検証チーム報告書」が提出され、精福法改悪案が検討された「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」(「報告書」2月8日)では、「都道府県や市町村、警察、精神科医療関係者が地域で定期的に協議する場を設置することにより、相互理解を図っていくことが必要」と、警察と精神医療の相互浸透が謳われています。
「改正案」批判
2月28日、「精神保健福祉法改正案」が閣議決定されました。厚労省文書の「精福法改正案の概要」では「二度と同様の事件が発生しないよう、法整備をおこなう」と精神医療の目的を犯罪防止に転換すると明記されています。行政が退院後も監視を続けるための計画を作ることは強制であり、患者は拒否できません。計画に従うか否かは患者が判断しますが、拒否すれば退院を認められないかもしれないし、退院後に医療を受けられないおそれがあるから、実質的な強制です。自治体間の情報共有は強制的におこなわれ、本人は拒否できません。
「退院後支援」のために設けられる「精神障害者支援地域協議会・代表者会議」(上部組織)には警察の参加が明記され、計画作成のための「同・調整会議」(下部組織)では警察の介入は公然とは謳われていないものの、参加者の「等」に含意され、否定されていません。厚労省文書では「両会議における課題や結論を相互に反映」するとされており、この2つの会議では情報交流することになっていますから、個別の計画も警察に情報筒抜けです。「精神医療は警察の手先になる」と事実上公然と宣言されているのです。
政治犯を含む「確固たる信念を持つ者」や薬物使用の通報まで規定されています。まさに現代の治安維持法保護観察処分です。
私たちは議論をおこし、精福法改悪を止めねばなりません。
「反アパホテル」デモ
在日中国青年が抗議、日本人有志も合流
2月5日
2月5日、アパホテルにたいする抗議デモが都内でおこなわれた。同ホテルは日本軍による「南京大虐殺」を否定し、日本軍「慰安婦」の存在を否定する書籍を客室に置いている。行動は在日中国人の青年らによって呼びかけられた。
「中日民間友好委員会」が主催し、「デモに参加したことのない若い在日チャイニーズ」を中心に300人が参加するという知らせに、排外主義勢力・ヘイト団体による暴力的妨害が予想された。
この知らせに危機感を持った日本人有志が、新宿中央公園から新宿御苑に近い同ホテル周辺までの予定コースに、相当数詰めかけた。
午後3時ころ、「中日友好」「民族の尊厳を守る!」などのプラカードや横断幕を掲げてデモが出発する。100人を超えた。
排外主義勢力はデモの出発準備段階からヘイトを開始。トラメガでがなり立てたり、警察の阻止線を突破してデモに入り込もうとしはじめた。アパホテル前では排外主義勢力の相当数がデモ隊に突入してきた。
これにたいして日本人参加者は、解散地点でもしつこく撮影・妨害を続けようとする排外主義勢力と最後まで対峙し続けた。
この問題は、米国人留学生らが中国版ツイッター・微博で、「日本のアパホテルが全客室に南京大虐殺を否定する書籍を置いている」などと報告したことがきっかけで、中国と韓国で抗議の声があがった。
中国では政府が正式にアパホテルを批判したほか、観光局の指導で予約サイトがアパホテルをボイコットする動きが出ている。韓国では2月下旬におこなわれた札幌冬季アジア大会で、韓国選手団の公式宿泊所になっているアパホテルの客室に当該の書籍がおいてあることが大問題となり、大韓体育会が大会組織委員会と日本オリンピック委員会(JOC)に撤去を求める文書を送付した。
なお、いかなる政府の後ろ盾もないとするデモ主催団体はチャットなどを通じて参加者を募り、数百人が支持を表明したという。
デモの周辺には「南京大虐殺は歴史の真実」「差別主義者は帰れ!」といったプラカードを持つ日本人の姿も見られた。
中国メディアの取材にたいしデモの参加者は、デモ隊列にとびかかってくる排外主義勢力は「まるでかつて中国で罪を犯した『鬼子』のようでした」と話し、報道された。また、「日本のボランティアがデモ隊の周囲に立ち、突進してくる右翼団体の盾になってくれたことに『本当に感激した』と語っている」とも報じられた。(島田)
5面
政府に反対する市民を一網打尽
治安維持法以上の悪法=共謀罪
永嶋靖久弁護士が訴え 3月6日
3月6日、大阪市内でひらかれた「戦争あかん! ロックアクション」での永嶋靖久弁護士の発言要旨を紹介する。(文責・見出しとも本紙編集委員会)
小雨の中、大阪市役所から北上し、西梅田まで100人がデモ行進(3月6日) |
テロのテの字もない
いままで国会で3回も廃案になった共謀罪を、この国会に出すというのに、政府は法律の中身を明らかにしてきませんでしたが、ようやく2月28日、自民党と公明党にたいして、政府は法律の条文を明らかにしました。で、なぜこれまで明らかにできなかったのかよくわかりました。それは安倍総理大臣が「(今度の法案は)共謀罪と全然違う」と言い続けてきたけれども、共謀罪と全然変わらなかったからです。
法案の名前は「テロ等準備罪」と言われてきたけれども、法律を開けてみたら「テロ等準備」という言葉はおろか、テロのテの字もないという法律案だった。対象犯罪は、以前だったら676と言っていたのが277だけの重大犯罪にしぼりましたって。でも本当に重大犯罪にしぼったのか、しぼったらそれでよいかどうかという問題はありますが。前の法律(共謀罪法案)が評判悪かったのは、「便所の落書きの相談」「万引きの相談」「電車のキセルの相談」「基地の工事を止めようという相談」、労働組合が、「トコトン団交しようという相談」、これが全部犯罪になるというので、評判が悪かった。それを今度は277にしぼって、その結果上記にあげたものがはずれたのか。はずれていません。新しくでてきた法案でも、今あげたものは全部犯罪になるわけです。そこは全然変わっていません。
以前は、ただの団体でアウトだったけれど、今度の法案では、(適用を)「組織的犯罪集団」にしぼったと言っています。しかし、さきほど言った「相談」、それをしたら「組織的犯罪集団ができた」と言われてしまうから、そんなものは何のしばりにもなっていない。
準備行為をしなければ逮捕されないので大丈夫か。準備行為というのはなんのしばりもありません。〈共謀にもとづいて何かの行動をしたら、それでアウト〉ということになっているから、準備行為(をするしない)というのは何のしばりにもならないわけです。
条約とは無関係
共謀罪=テロ等準備罪をつくらないとテロ対策の条約が批准できない、そういうふうに政府は宣伝しています。このテロ対策の条約というのはパレルモ条約(「国際組織犯罪防止条約」)という名前で新聞に載っている条約ですが、これはそもそもテロ対策の条約ではありません。この条約ができてから十何年も日本は批准していません。それでなにか困ったことが起きていますか。全然困ったことはない。
外務省は、つい1月の中旬ころまで「日本はすべてのテロ対策の条約を(すでに)締結しています」と胸を張って宣伝していた。
そもそもこの条約を締結するのに700近い共謀罪をつくらないといけないと政府は言い続けてきた。それがここにきて、277でもOK、という話になりました。以前国会に共謀罪法案が出てきたときに法務副大臣をしていた河野太郎さんが3月4日のブログで、当時の法務副大臣としてきちんと調べてしゃべらなかったことを「不明を国民の皆様にお詫びします」と書いています。続けて、「外務省もうそをついていたわけではありません。対象犯罪をしぼって、もし締結できなかったら困るから水増ししていたんです」と。「水増し」とブログに書いているんです。市民の自由な言動を犯罪にしようという法律をつくるのに「水増し」、それでいいのか。
つくる理由はない
爆弾、殺人、放火、誘拐。爆弾については、すでに日本では共謀罪があります。殺人も放火も誘拐も、共謀罪はないけれども、「予備」というのがあって、何か準備したらそれだけでアウトです。
国会で総理大臣は「ビルに突っ込む目的でハイジャックを計画して、飛行機のチケットを買いに行った」あるいは「大量殺人の目的でサリンをつくる計画をして、その原料を買いに行った」、こういうのを、今の法律では取り締まることはできないけれども、共謀罪をつくったらOKよ、と言っています。共謀罪を作ったら一網打尽にできますと言っているのですが、それはいまでも(すでに既存の法律で)犯罪になっている。
政府は共謀罪がなぜ必要かということを具体的に説明できません。そもそも共謀罪が一番初めに出てきたとき2002年ですが、この時法務省は「この国には共謀罪をつくるニーズはない。条約のために要る」と言っていたわけです。条約のために必要でないことはさきほど述べたとおり。
2002年というは戦後日本で犯罪の認知件数が一番多かった年なんです。2002年をピークに犯罪はどんどん減って、去年の犯罪統計は2002年の半分。この国には共謀罪などという法律をつくる理由は全然ない。
誰が対象か
そうすると安倍総理大臣のいう「一網打尽」というのは誰が対象なのか。戦争に反対して、改憲に反対して、基地に反対して、原発に反対して、いや、反対の相談をする人間を一網打尽にしようとしているのではないでしょうか。こんな法律、その内容が本当のことがわかったら国会通らないからひた隠しにしていっぺんに通そうとしているとしか思えません。
自民党、公明党に反対の声を届けて、絶対に共謀罪を国会に提出させないようにしよう。
監視カメラで犯罪は防げない
コミュニティの力こそ「安心」のもと
2月17日 豊中集会
2月17日、豊中市内で監視カメラの設置に反対する集会が開かれた(写真)。目的は現在豊中市で、41の小学校区ごとに総計1230台の監視カメラが設置されつつあることへの反対の意思表示と、今後の運動の方向性を探るため。講演は釜ヶ崎監視カメラ訴訟をたたかってきた大川一夫弁護士。報告は監視カメラの設置に反対してきた箕面の中西とも子市議と伊丹の大津留求市議と、これから設置されようとしている豊中の木村真市議。
まず大川弁護士は、「日本におけるこのかんのカメラ設置数は、監視カメラ先進国であるイギリスをぬいて世界一の水準にある。しかもそれを一般市民が何も問題にできない深刻さがある」と提起した。具体的には「安心・安全街づくり」と称する警察・自治体・地域住民一体の「防犯カメラ」設置。これには補助金が付き、各市で1千台を設置するなど一つのビジネスチャンスになろうとしている。またコンビニのカメラはコンビニが第二交番化し、タクシーの後部座席も常に監視される。また警察のGPS捜査の横行、駅での顔認証システム、パソコンやメールなども含めて、日常行動のほとんどすべてが監視されている現状が語られた。
監視カメラ設置の動きが一気に強まったのは2015年夏の寝屋川少年少女殺害事件。しかしあの事件でも、容疑者逮捕のきっかけになったが、監視カメラは子どもの命は救えなかった。ここを見ずに、安易な「安心・安全キャンペーン」に市民が負けている。監視カメラにより失われる「プライバシー」こそ、基本的人権の骨格で、警察の濫用との粘り強いたたかいの中に、人権意識をとり戻さなくてはならない、と訴えた。
さらにこの社会の空気とたたかうには、犯罪防止という誰もが否定できないことにカメラは役立つのか、効果と負担を冷静に議論し、警察・行政を監視し、必要最小限にとどめなけらばならない。結論として西成での一つの勝利の経験から、カメラの設置には「@目的が正当、A客観的、具体的必要性、B設置状況が妥当、C設置・使用に効果があること、D使用方法が相当であること」を最低基準で強制させなくてはならないとした。
集会の最後に、状況は厳しいが、粘り強いたたかい・監視の中から警察・行政の違法やほころびを突き、監視カメラではなく、市民のコミュニティの力で「安心」できる社会をめざす必要が確認された。(久保井)
6面
被ばくから逃れ命を守る権利
3・11 6周年前に「脱被ばく」集会
3月5日、「脱被ばく」集会、「わたしたちのつながるところ」(主催:「子ども脱被ばく裁判」を支える会・西日本 関西地区実行委員会)が兵庫県尼崎市で開かれた。荒木田岳さん(福島大学准教授)の講演と避難者からの発言、集会はこの2部構成でおこなわれた(写真右)。
脱被ばくをめざす
荒木田さんは、<「脱被ばく」の目指してきたこと、目指していること>というテーマで、次のように述べた。
原発事故が起きることは3・11以前から想定されていた。1999年に「原子力災害対策特別措置法」がつくられており、原発事故の際に住民の安全を守るために国がなすべきことが、この法律に細かく書かれている。しかし、実際に福島で事故が起きたとき、この法律はなきものにされ、政府は住民を守らなかった。
3・11原発事故で、社会は崩壊したのだ。福島の住民の多くは「我々は、いったい何だったのか」と感じ、「国は住民を守らない」ことを実体験として知った。しかし、この6年間の動きは、これを解決する方向ではなく、逆に進んでいる。今、福島では、何もなかったかのように「復興」が叫ばれ、ひとびとは自由に発言できない圧力、生きづらさを感じている。
わたしは、一貫して「脱被ばく」という問題を提起してきた。「脱原発」ではなく、「脱被ばく」と言ってきた。3・11原発事故によって、「脱被ばく」の問題がこの日本で現実となったのだ。すべてのひとびとがつながり、この運動があらゆる運動と結び付くこと、このことをわたしは願っている。
避難者の声
この提起をうけて、避難者が発言した。避難者の声を紹介する。
「(福島に)残っても地獄、移っても地獄だった」「帰還を言うのであれば、事故前の放射能値にもどして」
「自分がおかしいのではないかと孤立していた」「避難して、共感してくれる仲間がいたから、活動できるようになった」
「福島では声を上げづらいなかで、子ども脱被ばく裁判で声を上げてくれた。避難したからこそ言いやすい面もある。声を上げられないひとびとのためにも、避難者が発言していく必要がある」
「避難した人と福島に残った人との分断、対立はぬきがたく存在している。被ばくの加害者は誰なのか。この事を共有できれば、この分断はきっと解消できるはず」
「被ばくから逃れ、命を守る権利は誰にでも等しく与えられるべき。避難の権利は誰にでも等しく保障されなければならない」
「避難者の存在とたたかいは、裁判などにより見えている。しかし、国は見えないように扱っている。こんなことが許されていいのか。わたしは、これからも声をあげていく」
「被ばくを強要しなければやっていけない社会。この社会がおかしい。私たちは、この社会を変えていくチャンスにたっている」
政府は、避難区域外避難者にたいする住宅支援をこの3月で打ち切る方針だ。避難の権利・居住の権利を勝ち取るために、ともにたたかっていこう。(津田)
康宗憲さんの講座から A
「日朝関係―制裁と対立からの脱却」
02年平壌宣言の意義と、断絶
前号@「日朝関係の経緯」に続き、連続講座A「平壌宣言の意義と断絶」を紹介する。(文責・編集委員会)
速やかな国交正常化をめざした
2002年9月17日、日朝首脳会談で「平壌宣言」が採択された。
第1項は「お互いに国交正常化へ速やかに交渉を開始する」と表明している。
第2項では植民地支配の歴史的事実、根本問題に言及。日本政府は「痛切な反省と心からのお詫びを表明する」とした。ただし、日韓条約の前例により「補償や賠償ではなく、相互の財産および請求権放棄の基本原則で対処する」となった。これも分断の悲しさである。朝鮮側には「悪しき」、日本側には「譲れない」前例となっている。朝鮮側は速やかな国交正常化にむけ、植民地支配の精算についても日韓条約の前例に従った。具体的には国交正常化の後に、双方が経済協力の規模と内容を協議することとした。
第3項は「日本国民の生命と安全にかかわる問題」。拉致問題について朝鮮側は「日朝が不正常な関係にある中で生じた遺憾な問題」として、「二度とこのような問題が起こらない」よう約束した。
前文と第4項では、日朝関係を超えた「朝鮮半島の冷戦収束と、東北アジアに新たな平和秩序を形成する」ことを確認。日朝関係を正常化し、朝鮮半島と東北アジアに平和を形成する。それは両国の基本利益、互いの国益に合致するとした。核・ミサイルなど安全保障上の諸問題は、東北アジア諸国間の対話と信頼構築を通じて解決する。「多国間交渉の下でシステムを作っていこう」と指向した。
ぎりぎりの交渉
その当時の日朝関係下ではぎりぎりの、最高レベルの内容と思う。日本側は拉致問題にもっと明確な記述を求めたかった。朝鮮側は植民地支配について請求権放棄ではなく補償、賠償を望んだだろう。しかし、多くの外交交渉は双方の譲歩によってまとまる。
日朝国交正常化交渉が始まったのは、ソ連が崩壊し東西冷戦が「西側の勝利」で終わった91年。そういう意味で朝鮮半島の冷戦終結が求められた。その進展は遅かったが、2000年に朝鮮半島は大きく動く。5月、金正日・江沢民会談。6月、分断史上初めて南北首脳会談が開かれた。10月米朝会談、「朝鮮戦争終結へ」共同コミュニケ発表。ぎりぎり02年にピョンヤン宣言に至ったという国際政治と、時代の背景があった。
「反発」への対応
しかしクリントン・金会談は実現せず、次のブッシュ大統領は朝鮮敵視政策に転換する。小泉首相は、いっきょに日朝首脳会談で突破しようとした。私は、その決断は間違いだったとは思わないが、次にくる反発に十分対処できなければ結実しない。国内における拉致問題への反発、自民党内の反対、何よりもアメリカの牽制。ピョンヤン宣言は十分な効力を発揮できなかった。
小泉訪朝前の5月に、当時は野党だった朴槿恵が平壌に行き、金大中以上の親密な言葉を交わしている。米朝は敵対関係にあったが、金大中、廬泰愚政権によって南北関係は改善に向かい、開城工業団地が開かれた。米朝が敵対、紆余曲折しつつも関係改善への動きが続いていた。(つづく)
『展望』19号 紹介
レーニン主義「のりこえ」と憲法闘争論で活発な議論を
▼巻頭論文は、安倍施政方針批判を切り口にして共謀罪・自衛隊の南スーダン派兵・沖縄辺野古新基地建設・原発再稼働・労働法制改悪など通常国会で暴きだされた改憲・戦争国家へと向かう反動安倍政権とたたかおうと呼びかける。
▼総会報告「未来へのレジスタンス」について。具体的闘争テーマについては略して、主に情勢認識を中心に掲載されている。冒頭と反グローバリズム運動の論述に意見が出ると思う。『展望』次号に意見を掲載予定。
一言述べると、「社会的共有財産を守ろう」というのは運動的には地下鉄・市バス・水道民営化反対運動などがありうる。あるいは、政府の農民切り捨て・農業破壊にたいして、地域農業を守ろうなどで考えうる。が、他方、それが究極目的である賃労働と資本・賃金奴隷制の廃止と私有財産制度の廃止―共産主義の実現へのたたかいとどうつながっていくのかを展開していくことが問われるのではないか。この報告をベースに活発な論議を望みたい。
▼憲法審査会が稼働し、緊急事態法改憲が策動されるなか、憲法論文は、安倍政権の最大の悲願たる憲法改悪攻撃とのたたかいを理論的・路線的に武装することを訴えるものである。立憲主義すら踏みにじり、合憲と強弁して戦争法を強行した安倍政権(自公政権)に、全国で怒りが巻き起こった。憲法学者を皮切りに若者はじめ労働者人民の決起が国会・首相官邸を包囲した。その中で、人民の生きる道すなわち憲法闘争の勝利の道は、護憲や立憲主義の立場をのり超えて人民の抵抗権の実現=革命闘争としてたたかうこと、革命論としての改憲阻止闘争の中にこそあるという提起である。
▼沖縄闘争と反原発闘争は報告をもとに、それぞれ現場のたたかいを参考にしてほしい。
▼ヴァイマル憲法批評は、日本の戦後憲法と類比されるヴァイマル憲法の意義と限界をはっきりさせることで、憲法闘争の思想的前進に寄与しようというものである。
▼評者は、尾形本「50年史」を革共同の歴史的総括に真正面から取り組もうという点で評価している。レーニン主義とは辞書によれば「レーニンとレーニンの率いたボリシェビキの理論と実践の総体がレーニン主義と呼ばれる」とあり、スターリンは「レーニン主義とは、帝国主義とプロレタリア革命の時代のマルクス主義である」と規定した。我々的には一言でいえば、レーニン主義は国家・革命論、帝国主義論、組織論を3本柱としたものだった。スターリン主義の弾劾から出発した革命的左翼は、その多くが(トロツキ―主義やローザではなく)レーニン主義を標榜し、よりどころにしてきた。
しかし、この間のソ連崩壊から年月を経る中で「レーニン主義をものりこえなければ」ということがようやく実感されるところに至ったのではないか。「50年私史」は、そのための手がかりとしての意味がある。
また、尾形さんが「プロ独(プロレタリア独裁)の否定」に傾いていることを知って驚いた。ともあれ、レーニン主義ののりこえは我々のテーマのひとつであろう。(山)