沖縄高江 ヘリパッド工事
大阪府警 住民に差別暴言
松井府知事に緊急抗議
大阪府警本部前で次々と抗議の発言が続く (10月21日 大阪市内) |
10月18日、沖縄・高江ヘリパッド基地建設に派遣され、警備と称して反対派住民を暴力的に弾圧している大阪府警機動隊からとんでもない差別暴言が飛び出した。金網の外側から抗議していた住民に対し、「触るなクソ、どこつかんどんじゃボケ、土人が!」。また別の場所では「離さんかシナ人!」。まさに聞くに堪えない、沖縄差別の暴言だ。
この差別暴言をおこなった警察官を派遣した大阪府警察本部への抗議行動を「辺野古に基地を絶対つくらせない大阪行動」のメンバーが呼びかけた。
翌日の19日、午後4時半から6時まで、緊急の呼びかけにもかかわらず大阪府警本部前には労働組合や市民、約70人が結集した。
参加した人々は「差別暴言を絶対に許さない」「高江弾圧徹底糾弾」「大阪府警は直ちに機動隊を撤収させろ」「府警本部は謝罪しろ」「逮捕した仲間を直ちに返せ」などのシュプレヒコールをあげ、大阪府警本部を徹底弾劾した。
さらに24日には、差別暴言をツイッターで擁護した松井大阪府知事に対して抗議申し入れ行動が呼びかけられ、19日に倍する約150人が参加した。
大阪府知事への申し入れでは、沖縄の歴史的背景、沖縄戦の教訓、今日まで続く沖縄への差別構造を弾劾し、松井知事の謝罪とツイッターの削除、機動隊員の即時撤収、人権に対する再教育を命じよと抗議し要求した。
その後、府警本部前に移動し、同様の抗議を府警本部長宛にも申し入れ、府警本部がこれを受けた。これまで大阪府警本部は抗議は受け付けないと敷地内に入ることも許さなかったが、今回は人数を制限したが「抗議行動参加者一同」の申し入れを受け取った。沖縄をはじめ全国で巻き起こる怒りに受け取らざるをえなかったのだ。
この差別暴言に対しては、沖縄への構造的差別を今こそ断ち切り、辺野古・高江の基地建設を絶対に阻止し、嘉手納基地をはじめすべての基地を撤去させることをもって私たちの回答としよう。問われているのは沖縄現地の闘いと一体となった「本土」でのたたかいだ。
TPPを批准させない
10月15日 東京で1万人行動
今臨時国会での批准・通過がめざされているなかで、東京芝公園で「TPPを批准させない! 10・15 SAT1万人行動」が開かれた。主催は、「TPPを批准させない! 全国共同行動」。農業・医療・司法・労組・市民団体などの広範な分野の270団体が賛同している。
プレイベントでは「政権交代を境に、自民と民進(民主)が賛成・反対の立場を入れ替えている。私たちは弄ばれている」と、既成政党に全面的に依拠するにとどまらない運動の展開が訴えられた。
集会では、市民生活がグローバル企業の食い物にされるという危機感や、低賃金の国々の人々を対象に日本が搾取を強化することへの懸念が語られた。
米大統領候補2人が共にTPPに反対するという中で、日本が強引にTPPを推進している。そこにアジア諸国からの搾取・収奪を強めようとする安倍政治の本質を見るべきだという指摘もあった。
集会後は、トラクターを先頭に5千人が銀座までデモ行進した(写真下)。
農地法裁判 最高裁が上告棄却
市東さん「ここで闘い続ける」
市東孝雄さんの行訴・農地法併合裁判において最高裁第三小法廷(大谷剛彦裁判長)は、10月25日付で上告を棄却した。三里塚芝山連合空港反対同盟は27日、記者会見を開き、弾劾声明を発表した。声明で反対同盟は「これは最高裁による強制収用宣言であり、断じて許されない暴挙である」とし、「われわれは、この決定にひるむことなく強制収用阻止へ断固として決起する」と宣言した。市東さんは「ここに残り闘い続ける」と決意表明した。
国家権力と成田空港会社による市東さんの農地の強制収用を断じて許してはならない。
暴言、不当弾圧、うず巻く怒り
10月17日 高江で山城博治さん不当逮捕
10月17日 高江の抗議行動中、山城博治沖縄平和運動センター議長が不当逮捕された(写真中央奥が山城さん)。容疑は午後3時半ごろ北部訓練場内でフェンスに設置されている有刺鉄線を切断したというもの。
山城さんは区域外の高江の県道70号線に出てきたところを準現行犯として逮捕された。護送された名護署前では数十人の市民が抗議の声を上げた。
大城悟平和運動センター事務局長は「明らかに運動に対する強い弾圧そのもので不当逮捕だ。逮捕に屈せず、現地の行動はみんなで頑張っていく」と決意を述べた。
18日 N1ゲート前で抗議している市民に大阪府警の機動隊員が「どこつかんどんじゃボケ、土人が」と差別暴言。別の大阪府警機動隊員も「シナ人」と暴言。大阪府警はガラの悪さは一番だと市民から言われている。
19日 市民220人が北部訓練場メインゲート前で抗議行動。前日の差別暴言を「警察上層部は隊員にどういった教育をしているのか。県公安委員会はこうした状態を放置してはいけない」と警察の姿勢を批判した。
一方、翁長知事は、直ちに県庁で記者団の質問に答え「『土人』という言葉は大変衝撃的だ」「言語道断で到底許されない」と強く非難した。また、警察官が発言したことに、「公務員として、表現の自由にも敬意を払いながら県民、国民の安全を守るべき人が、ああいう言葉で対処する様子に『県民に対する配慮が全くない』と感じる人は多いのではないか」と述べた。
20日 翁長知事が沖縄県警本部長と面談、抗議した。知事は、機動隊の発言は「県民の感情を逆なでし、悲しみに陥らせる厳しい言葉だ」と批判。「(こうした発言を)他の都道府県民にするのか。沖縄にだけではないのか」と不快感を示した。
山城さんが8月25日に防衛局職員にけがを負わせたとして公務執行妨害と傷害の容疑で獄中再逮捕。神奈川の男性も同容疑で不当逮捕された。
22日 工事着工から3カ月、ヘリパッド工事は、同時進行で3カ所の工事が急速に進められている。そのため、多いときは10トントラック60数台で砂利を搬入する。その時は、機動隊が4時間にわたって国道を封鎖する。これほど長時間の封鎖は7月22日以来だ。
この日、N1ゲート前の統一行動に250人が座り込み。集会では大阪府警の差別暴言に市民の怒りが爆発。また、山城博治議長らへの勾留が続いていることに早期の奪還を訴えた。砂利搬入はなかった。 (杉山)
2面
大飯原発差止め訴訟 控訴審
「基準地震動」で証人決定
名古屋高裁金沢支部に向かう原告と弁護団 (10月19日 金沢市内) |
「大飯原発3・4号機再稼働差止め訴訟」控訴審の第9回口頭弁論が10月19日、名古屋高裁金沢支部でひらかれた。前回6月の口頭弁論から3カ月ぶり。今回も傍聴抽選から数人が外れたが、事務局の采配で全員が傍聴できたようだ。前回口頭弁論では島崎邦彦さん(前原子力規制委員会委員長代理)の意見書が提出され、状況変化の兆しが見えたが、今回は島崎さんの証人尋問が決まり、さらに勝利の展望が開かれた。他方、関電側は意気消沈していた。
更新手続き
前回口頭弁論から裁判所の構成が変わったので、今日は5人の原告弁護団からレクチャーがおこなわれた。@なぜ司法は福島原発の被害を救済できなかったのか、A大飯原発基準地震動、B新規制基準は世界最高水準か、C大飯原発での津波の危険性、D原発は発電コストが低いか、というテーマだった。
レクチャーごとに傍聴席からは拍手が巻き起こった。
勝利の一里塚
次回以降の審理について、裁判所、原告弁護団、被告関電の間で激しいつばぜり合いがあった。
裁判長 基本的には審理は終結に近づきつつある。裁判所がいちばん重要視していることは大飯原発が地震に安全かどうかである。基準地震動の正確性を期したいので、証人として島崎邦彦さんを呼びたいと思っている。
原告弁護団 3人証人申請しているが、最低2人採用して欲しい。
裁判長 もうひとり採用するかどうかは島崎さんの証言を見てから考える。
関電 (原告側に)事前に詳細な尋問事項を出してほしい。
裁判長 (関電に)事前に聞きたいことを出して下さい。
関電 反対尋問の準備はする。
裁判長 正式な証人採否は次回(1/30)に決定する。
中嶌哲演 なによりも福島の原発被害の現実を重視してほしい。被害は現在進行形であり、現地の視察、被害者の証人尋問をおこなってほしい。
裁判長 次々回日程を押さえる。次回までにすべての主張を出し尽くして下さい。
大飯本審2連勝へ
島崎邦彦さんの証人尋問をおこなうための日程を来年4月24日もしくは26日と決めて、閉廷した。
閉廷後の記者会見で、弁護団は「島崎さんの証人尋問なしに勝つことはできないと思っていた。証人尋問が実現すれば、勝利に大きく近づく。しかし、必ず勝つとは言えませんが」と手応えを感じているようだった。(田端)
大津地裁決定の堅持を
高浜原発仮処分抗告審始まる
大阪高裁
関西電力高浜原発3・4号機(福井県高浜町)の運転を差し止めた大津地裁の仮処分決定を維持した異議審を不服として、関電が決定取り消しを求めて申し立てた抗告審の第1回審尋が、10月13日、大阪高裁(山下郁夫裁判長)で開かれた。審尋は非公開。
審尋終了後、「3・9大津地裁判決を堅持し、高浜原発の再稼動は許さない!」と銘打って記者会見と報告集会が中之島中央公会堂でひらかれた(写真)。
最初に井戸謙一弁護団長が審尋の概要を報告。関電は9月26日と30日さらに10月7日に合計約820ページの準備書面を出し、今日までにすべての意見を出したから本日結審すべきだと主張してきた。われわれはさらに反論が必要であり3カ月を要求したが、裁判所は12月12日までにすべての準備書面を提出すること、そのうえで12月26日には結審すると決めた。決定は通常2カ月くらいで出されるため、年度内の見通しだ、と説明した。
関電の恫喝許さぬ
申立人代表の辻義則さんが審尋でおこなった意見陳述について報告。この裁判に込めた思いを語った。
大津地裁決定は滋賀県民の琵琶湖を守りたいという思いに沿った決定だった。政府や規制委員会が進める再稼働ありきの流れにたいして警鐘を鳴らした。原子力行政は福島を忘れてはならない。決定以降、関電八木社長(当時)が「原発を動かせないことに損害賠償請求をする」と恫喝しているのは許せない、など県民の思いを届ける陳述をしたと語った。
さらに弁護団、申立て人が次々発言。
「動いているのは川内と伊方しかない。高浜は動いているのを止めた。これを守り、横に広げよう。裁判は勝つことも負けることもあるが、運動の有機的つながりで勝つ。」
「関電は、高裁に行けば勝てると踏んで早く決定を出させようとしている。また、今年4月の熊本地震のように基準地震動に相当する揺れが2度続くことが想定されていない。関電は、『原発周辺の地域では、大きな揺れに複数回襲われることは考えられない』としている。ことし8月におこなわれた高浜原発での重大事故を想定した広域避難訓練では、悪天候で、船やヘリコプターを使った避難の一部がおこなわれず実効性がないものだったが、関電は『陸路が使えず、船やヘリコプターによる避難ができない場合でも、屋内退避施設への避難対策が準備されている』とまともな反論をしていない」
福井県小浜市から来た中嶌哲演さんは、関西全体特に関電のお膝元大阪での世論と運動を盛り上げることが必要だと結んだ。
富裕者層のためのTPP
市民運動が学習会
兵庫
【兵庫】「こわすな憲法! いのちとくらし! 市民デモHYOGO」は、戦争法、原発再稼働、沖縄新基地に反対して行動を続けてきた。国会でTPPの審議が始まり、安倍政権は「強行採決も当たり前」という姿勢を隠そうともしていない。
毎月行動の10月19日は、TPPを考える学習討論集会。約70人が参加した(写真上)。AMネット事務局長の武田かおりさんが「TPP批准はいのちとくらしを脅かす。農業が問題にされるが、医療、金融などあらゆる分野に及ぶ。私たちの暮らしをアメリカに白紙委任するようなもの」と話した。
市民デモ事務局は「富裕層へ富をさらに集中する。市民デモでも訴えていこう。11月19日はTPPや憲法審査会の国会、南スーダン派兵にたいし三宮デモ、12月19日は貧困問題で学習会を企画」と提起した。
Xバンドレーダー基地撤去へ
米軍属の事故が続発
京丹後市内にある米軍レーダー基地の撤去を訴え京都市内をデモ(10月23日) |
10月23日、「米軍X バンドレーダー基地撤去! 10・23京都集会」が京都市内でひらかれ、70人が参加した。
京丹後の現地から、宇川憂う会事務局長の永井友昭さんが駆けつけ、現地の最新状況をスライドを使って説明した。
10月14日に峰山でおこった米軍属(レイセオン社)による交通事故は、一歩まちがえば大事故になっていた。
あわや大事故に
直線の府道の道路脇に停まっていた農作業用の軽トラックに、米軍属の車がかなりの速度で追突して軽トラックは大破した。たまたま誰も乗っていなかったので人身事故にはならなかったが、もし人が乗っていれば大事故になった。
米軍属は3人乗車していたが「けがはない」という。車の前輪が曲がる事故でけががないというのはあやしい。
そもそも真っ昼間の直線道路を真っ直ぐ走れないとはどういう運転をしていたのか。運転講習を受けていなかったと説明しているが、そんな人物に運転させてよいのか。
住民主体の運動を
この間、Xバンドレーダ基地をめぐって問題が続発している。基地拡張の画策、もんじゅさん(基地に隣接する寺・九品寺の愛称)の洞穴の上へのトイレの設置、陸上自衛隊福知山射撃場での実弾演習の画策などだ。京都連絡会はこれにたいして住民を主体とした運動をめざすことを確認した。
米軍実弾演習認めるな
福知山市に申し入れ
10月20日、米軍Xバンドレーダー基地反対京都連絡会は、京丹後の米軍人軍属が、陸上自衛隊福知山射撃場で実弾演習をおこなおうとしていることにたいして、福知山市に受け入れないように申し入れた(写真)。
日米地位協定によって米軍人軍属は、日米合同委員会で決まればすぐに演習ができるが、福知山市が受け入れを決めていないので事態は動いていない。
申し入れの前に、陸上自衛隊福知山駐屯地と福知山射撃場の見学をし、射撃場の周辺の家々にはビラ入れもおこない、説明会のあった室地区の区長とも面談した。
3面
10年迎えた共同行動 in 京都
戦争する国との対決 今こそ
10月16日
10月16日、第10回反戦・反貧困・反差別共同行動in京都「変えよう! 日本と世界〜改憲阻止! 安倍政治を許すな!〜」(主催 同実行委員会)が京都市の円山音楽堂で開かれた(写真下)。関西一円から600人が参加した。
集会は、仲尾宏さん(集会実行委・代表世話人)の主催者あいさつから始まった。仲尾さんは、本集会が10回目になることをふまえ、この間の行動を総括し、つぎのように提起した。「現代資本主義の危機がますます深まり、安倍政権は〈戦争をする国〉に突き進んでいる。今こそ、反戦・反貧困・反差別の共同行動を広めていこう」。
つぎに、中嶌哲演さん(原子力発電に反対する福井県民会議・代表委員)と北上田毅さん(沖縄平和市民連絡会・辺野古抗議船船長)が講演。
中嶌さんは、「原発全廃へ! 原発再稼働の動きは」という題で講演。「過疎地に原発を造ってきたことは、形をかえた侵略戦争の国内版だ。福井県は越前(80万人)と若狭(8万人)が合併してできたが、北部を中心に近代化がすすめられ、南部は置き去りにされた。ここに地域的、経済的な差別構造がある。このなかで若狭に原発が造られた」と語った。そのうえで、現局面での反原発運動の課題を2点提起。@原発立地の福井地裁での勝利判決、大津地裁で原発停止を勝ち取った闘いの意義、A原発立地地元と都市住民の闘いを結合することの重要性。「第2のフクシマを起こさせてはならない。今こそ各地で運動を盛りあげよう」と呼びかけた。
ひとりでも多く
北上田さんは、「全基地撤去へ! 沖縄の闘いは今」と題して、このかんの闘いを語った。ひとつは、辺野古埋め立てに関する9月16日の福岡高裁那覇支部判決について。「国の主張をそのまま認めたひどい判決。しかし、沖縄県民が翁長県知事を支えるかぎり、本体工事を阻止することはできる。このことに確信をもってもらいたい」と述べた。つぎに、高江の攻防について。「9月26日の所信表明演説で、安倍首相は高江のヘリパッド建設にわざわざ言及した。これ以降、沖縄防衛局や警察の対応は変わっている。防衛局は沖縄県を無視して、工事を進めている。高江の攻防は最終局面に入った。いまが勝負のとき。年内に高江の現地にひとりでも多くの人が駆けつけてもらいたい」とアピールした。
集会後、京都市内の繁華街を通り、市役所までデモをした。
今も続いている沖縄戦
芥川賞作家 目取真俊さんが講演
10月14日夜、大阪市内で「今も続いている沖縄戦―辺野古・高江」と題して、目取真俊さんの講演会が開催された。主催は関西・沖縄戦を考える会で、120人ほどの参加者で会場は一杯だった。
沖縄の芥川賞作家である目取真さんは、行動したたかう作家として辺野古新基地建設や高江ヘリパッド建設に対する抗議行動の現場に立ち、海上で拘束されたり、陸上で不当逮捕されながらも不屈にたたかい続けている。
演壇に立った目取真さんは、「私がきょう大阪へ来たのは、今一人でも多くの人が高江にいってほしいということで来ました」というアピールから始めた。そして、「ここに集まっている皆さんの中で、最近高江にいった人は手をあげてください」「まだいっていない人で無理しない範囲で高江に行ける人は一人でも多く是非行って下さい」と心底からの訴えをおこなった。
ヘリパッド建設の強行着工をめぐって攻防が激化している高江の現場から必死の思いで飛んできてアピールする目取真さんの訴えに、会場は一気に高江の緊迫した雰囲気に包まれた。
続いて目取真さんは映像を使って、高江の攻防の現状や高江周辺のヘリパッド建設計画の内容、事態の経緯などを説明した。
米軍訓練場ゲート前や工事車両の前での座り込みをはじめ、さまざまな形で阻止・抗議行動を展開する地元住民や支援する人びと。スクラムを組んで座り込んでいる人たちを引きはがしてゴボウ抜きし、羽交い締めにするなどの暴力を振るい、凶暴な弾圧をする機動隊。沖縄県警300人体制では阻止・抗議行動を押さえ込むことができないため、本土から500人の機動隊を動員したこと。
目取真さんは特に「沖縄に対する差別は関西から始まったと言ってもよい」と大阪府警のタチの悪さを強調(このことは後日、10月18日に具体的に示したのが、抗議行動をしている沖縄県民に対する「土人」という差別暴言や、それ以前にも「シナ人」という差別暴言を吐いた大阪府警の機動隊員ら)。米軍属の元兵士による若い女性の暴行・殺害事件を口実に組織された本土からの送り込みパトロール隊を抗議行動抑制に動員。……などなど。高江をめぐる攻防の生々しい映像の説明は、終始激しい怒りと闘志を呼び起こさずにはいられなかった。
沖縄差別を弾劾
さらに、目取真さんは、ヘリパッド工事強行は、1879年の琉球併合以来のヤマトによる歴史的な沖縄差別のあらわれであることを明らかにし、菅官房長官が6つのヘリパッドを年内にすべて完成させて米軍北部訓練場の一部返還を実現すると発言したことを厳しく弾劾した。
そして、国家権力の凶暴な弾圧に屈することなく、決してあきらめずに最後まで全力でたたかい抜くことが、嘉手納基地をはじめとする沖縄米軍基地の全面撤去と沖縄闘争の発展と勝利につながっていくと強調し、最後の結論として、再度高江の現地行動への決起を訴えた。
『未来』読者の皆さん。高江・辺野古に行くことが可能な人は、一刻も早く行こう、高江・辺野古に行きたくても行けない人は、カンパなど無理のない可能な範囲で支援しよう。(武島徹雄)
共謀罪は社会をどう変えるか
大阪で緊急集会開く
10月17日
10月17日、「共謀罪の国会上程を許すな!大阪緊急集会」が大阪市内でひらかれ、60人が参加した。主催は、共謀罪に反対する市民連絡会・関西。同連絡会の永嶋靖久弁護士が「共謀罪とは何か」と題して報告した。
相談しただけで罪
共謀罪は、独立処罰罪であり、法定刑が最高4年以上の既遂・未遂・予備・共謀に該当する罪が対象とされる。かりに未遂・予備が処罰されなくても、共謀自体は処罰されるというものである。
共謀罪の要件はどうなっているかとして、「準備行為」は処罰条件であっても犯罪の構成要件ではないこと、さらに「準備行為」についての共謀は不要であることを指摘し、「準備行為」がなくても、相談しただけで犯罪は成立している。
既遂を処罰するという刑法体系の原則を変えてでも、「安全」のために共謀罪が必要なのか。「処罰の究極の前倒し」や「何が犯罪か分からない」社会が安全かと問題提起した。
「条約批准」はウソ
最近、「共謀罪」推進を掲げた集会などがネット上で呼びかけられる状況があることを指摘し、共謀罪の国会上程を阻止する運動の拡大の必要性を強調した。そして、共謀罪+盗聴拡大+司法取引の導入により社会をどう変えようとしているのかと、警鐘を乱打した。
今年5月刑事訴訟法一部改正=盗聴対象犯罪の拡大(12月1日から実施)、盗聴の簡便化(2019年6月までに実施)、司法取引(18年6月までに実施)が導入される。これにより「刑事司法改革で新捜査手法と共謀罪がセットになれば、誰にたいしても、犯罪がでっち上げられかねない」(渕野貴生立命館大学教授)という。
共謀罪は、「テロ」やパレルモ条約(注)とは無関係で、社会のありふれた行為を処罰対象にする。警察にはすべての市民を対象に監視・摘発する人員も能力もないから、「現政府の敵か味方か」という選別的差別的な法執行をおこなう。
そして平沢勝栄(自民党衆院議員)の「つまるところ共謀罪の問題は、捜査当局を信用するかどうかということだ」という発言に見られるように、人民のコミュニケーションを恐れる支配階級が、恐怖と不安で民衆を物言わぬ民として統合するための手段を必要としていると指摘した。
最後に永嶋さんは、このような社会になるのを阻止するために、あらゆる人民の闘いが必要だと呼びかけた。
(注)パレルモ条約
国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約。組織的な犯罪集団への参加・共謀や犯罪収益の洗浄・司法妨害・腐敗等の処罰、対処措置などについて定める。2000年11月、国連総会で採択。日本は2000年に署名し、条約の批准はしていない。
ただちに再審を始めよ
「石川さんは無実」 街頭でアピール
【神戸】不当逮捕から53年。狭山再審を求める石川一雄さんの無実を示す重大な「万年筆」の新鑑定(前・吉備国際大学副学長、下山進博士=理工学)が弁護団から出された。狭山事件は、石川さんが有罪とされた数多くの「証拠」ことごとくが無実・無罪を証明している。
今回の「万年筆」新鑑定は、インクの科学的精査(ペーパークロマトグラフィー法)によって「万年筆そのものが被害者のものではない(証拠のねつ造)」ことを明らかにした。狭山事件の確定判決をつき崩す、決定的な新証拠である。
「狭山再審を求める会・こうべ」は10月22日、神戸・三宮の繁華街で「万年筆は偽物、証拠のねつ造だ」「検察は全証拠を開示せよ。事実調べをおこなえ。ただちに再審を開け」と街頭に立った。チラシの配布と署名をおこない、「差別裁判打ち砕こう」の歌でアピールした(写真上)。
4面
検証
福島医大 県民健康調査検討委 県小児科医会
「甲状腺がん検査縮小」の動き(下)
請戸 耕一
「患者の状況を知ってください」 家族の会がコメント
福島原発事故後に甲状腺がんになった患者本人とその親族によって結成された「3・11甲状腺がん家族の会」(注11)が、9月14日の県民健康調査検討委員会についてコメントを会のウェブサイトに公表した。患者当該やその家族の強い訴え、告発がなされている。以下に抜粋を紹介する。
「私たちは“甲状腺検査縮小”につながる見直しに反対します。甲状腺検査が縮小された場合、福島で多発している甲状腺がんと被曝との因果関係を調べる疫学調査にマイナスの影響を与えます。」
「国、福島県は現実の患者の状況をしっかりと知ってください。当会の会員の中には、手術待ちの期間中に、医師の想定以上に腫瘍が増大した子ども、再発の疑いが拭えない子ども、そして再発や転移を経験し、一生、治療と向き合わざるを得ない子どもがいます。つまり、現実に起きていることは、すべてが、決して放っておいてもいいような、いわゆる“潜在がん”ではありません。」
患者本人及び家族のコメント
10代の患者本人
私は10代の学生です。約3年前に「甲状腺がん」と宣告され、覚悟の上手術を受けました。切ってしまえば予後の良い病ですからと軽く扱われ、結果リンパ節にまで転移していました。検査「縮小」になるなんて考えられません。なぜリンパ節にまで進行したのか調べて教えてください。
事故当時10代の患者の親
私は中通り在住の「3・11甲状腺がん家族の会」の正会員です。この度の縮小の話、本当に聞いて呆れ返りました。まだ何一つ解決もしていないのに私達の子どもたちはあなた方の研究材料ではないです。もう少し冷静になってこれが自分の子どもだったらどうするか、あてはめてよく考えて下さい。
事故当時10代の患者の親
患者や家族は甲状線がんになり切除してしまえば終わりではなく、再発や転移の心配、両方切除すれば生涯薬を飲み続けなければならないことをとても不安に思っている。そんな中、検査・調査を縮小するなんてことはやめてください。まだ検査を受けていない小さな子どもたち、成人、全員が抱える不安はいつまで続くのかは不明です。原発問題もまだ解決していないところで将来、安心・安全・健全に生きていける環境や制度を考え続けて頂きたい。
事故当時10代の患者の親
検査縮小の報道を目にして、腹立たしい気持ちで一杯です。うちの子どもは、甲状腺を全摘し、リンパ節にも転移し、現在も治療中です。この先一生病気と共に生きていくのです。国は、検査縮小で、甲状腺ガンの発症率を少なくしようと考えてるのでしょうか? むしろ(検査を)拡大していかなければならないのに。うちの子どものように病気によって将来の夢が絶たれる(結婚も含めて)ような事があってはなりません。
事故当時10代の患者本人
チェルノブイリの原発事故におけるデータでは、甲状腺癌は事故から5年経ったあたりから急激に増え始めている。そのようなデータがあるのにもかかわらず、その節目である5年目になぜ検査の縮小を進めるのか。また原発事故によるデータは世界でも乏しく、福島の原発事故は世界で2例目となる。データが重要になっている今、このような検査縮小を進めることはかなり危険な行為であり、まずはしっかりとした体制で検査をおこない、手術を控えている方や手術を終えた方など、状況に合わせたサポートをおこなう体制をしっかりと作ることが優先ではないかと思います。
復興加速化と一体
甲状腺検査縮小の政治的背景には次のような事柄がある。東日本大震災と福島原発事故の復興問題を取り仕切っている自民党の復興加速化本部の額賀本部長が、今年3月に「東日本大震災から5年を迎えて」と題して公表したコメントに次のような言葉がある。
「2020年東京オリンピック・パラリンピックに際して、世界から被災地の復興状況が注目されている。輝かしい凛とした復興の姿を見せる」「目に見える復興の象徴は、福島県内各所に保管されている膨大な除染廃棄物を中間貯蔵施設へ集積すること。2020年までにこれらを完了し、きれいで安全な福島を世界中に見ていただきたい」
この線に沿って、福島では、20ミリシーベルト基準での避難指示の解除と帰還が、住民の意志や命を差し置いて、促進されている。甲状腺検査の縮小もその一環ということができる。
オリンピックということが国威発揚の国策であるとすれば、〈原発は事故が起こっても大したことはない〉〈原発事故から見事に立ち直った〉〈原発推進・被ばく容認の先頭に立つ〉という宣伝の機会として、オリンピックが位置づけられているということになる。
しかしまた、国策にとって都合の悪いことを隠蔽し、「きれい」な姿を取り繕おうとするやり方は、一層矛盾を深刻化し、おうおうにして逆効果になるものである。
(おわり)
(注11) 2016年3月12日に設立。記者会見の模様を本紙198〜200号で掲載
投稿
南スーダンPKO派兵やめろ
10月22日
10月22日、東京・市ヶ谷の防衛省へのデモがあった(写真左)。
南スーダンPKOへの派兵と駆けつけ警護などの新任務付与に対する抗議デモである。
呼びかけ・主催団体は、『直接行動(DA)』である。学生など若い人が中心になった運動で60余人の参加であった。
11月派兵から始まる南スーダンでの「駆けつけ警護」は、 内戦に積極介入して一方の戦争当事者になることを意味し、自衛官による当事国の民衆や兵士の殺害、逆に自衛官の犠牲も不可避であるといわれている。こうした中でおこなわれたこの抗議行動の意義は大きい。
何よりもこの日実施された「自衛隊記念日中央行事」を直撃したことである。
デモは、外濠公園を出て真っ直ぐ防衛省に向かい、正門前で右折、グランドヒル市ヶ谷の正面で右折し、元の外濠公園へという約1キロのコンパクトなコースであるが、このとき防衛省の慰霊碑地区(メモリアルゾーン)では安倍首相、稲田防衛大臣、遺族、高級幹部ら約400人が参列して殉職隊員31名の名簿を奉納する追悼式がおこなわれている最中であった。
隣接するグランドヒル市ヶ谷では、全国から関係者を招集し、防衛大臣が「防衛協力の団体、個人」を表彰し感謝状を授ける贈呈式の会場となっていた。
翌23日には、これらの面々が朝霞駐屯地での中央観閲式に繰り出したのであるが、これら一連の自衛隊中央行事の出鼻に叩きつけたデモとシュプレヒコールであった。
このままでは、来年の追悼式では殉職隊員に「戦死者」(事故死の名目で)が含まれることになる。11月、目前に迫った南スーダン派兵を平穏に進めさせてはならない。(小多基実夫)
5面
康宗憲さん講演から
「朝鮮半島の平和と統一」
停戦協定から平和協定へ
「中国・朝鮮脅威論に答える」という康宗憲(カン ジョンホン)さんの講演を聞く機会があった。康さんは軍事独裁政権時代、韓国留学中の1975年に「北朝鮮スパイ」の冤罪で13年に及ぶ獄中生活を余儀なくされた。自らの体験、平和と統一を願う研究と実践にもとづいてきたからであろう、理想論のようであるが実は現実にしっかりと踏まえられている。趣旨を紹介し感想を述べてみたい。(講演は90分。要旨は筆者の聞き書き。引用・文責は筆者)
「中国・朝鮮脅威論に答える」(講演要旨)
朝鮮戦争と米ソ冷戦による民族の分断。第2次大戦のあと、いまも分断されたまま。朝鮮半島の分断は、ベトナムのような「解放戦争」、東西ドイツの「経済的併合」による統一いずれも適さないだろう。どちらかの体制を崩壊させるとか、一方が一方をとり込む形は現実性がない。
お互い相手の体制を認めながら民族が和解していく道、その努力こそが求められる。停戦協定から平和協定へ、南北関係の改善、平和共存・和解協力、朝鮮半島の非核平和。それは東北アジアの緊張緩和であるし、日本の安全保障にもつながる。
日本の差別的世論
「北朝鮮はとんでもない悪者。何をするかわからない」というのが日本の世論の大方。「脅威から日本を守れ。日米同盟、軍事力の強化は当然」という風潮だ。「北のミサイル・核が、いまにも日本に届く」という宣伝に、私たちはどう答えるか。
植民地時代からの朝鮮民族にたいする蔑視意識は根強く、世代を継いで続いている。分断のもとで、それはたやすく「北」に向かう。戦後日本は植民地支配を認識しない平和憲法体制にあった。9条の一方で歴史教育の中味が問われる。アジア民衆への真摯な反省と平和への決意、自省史観が求められる。
どこかの国を敵視しやっつけるというのは、状況を悪化させることになっても解決にはつながらない。「強い軍事力が国を守り、国民の安全を約束する」というのは、武器商人の言葉であっても市民にとってはまったくの嘘。お互いが交流し、理解し合うこと以外にない。巷にあふれる常識とは違う視点が大切だ。
問題解決の糸口
なぜ彼らが核・ミサイル開発に執着するのか。アメリカに徹底して体制を破壊されたアフガン、イラク、リビアを教訓とし、何としても現体制を維持しようとするからだ。可否はともかく、米・韓・日の軍事圧迫から体制を守ることは最重要課題である。
それにしても空母や戦略爆撃機を投入した30万もの米韓軍事演習が、毎年おこなわれる必要があるのか。米・韓・日と比較にならない圧倒的経済力・軍事力の差があるからこそ、なお核開発しかない。いったん「体制を保障する」ことが、核(ミサイル)問題解決の糸口である。もちろん私は北の核保有を容認できない。しかし、米の「核先制不使用宣言」に「それはやめてくれ」と頼むような安倍政権、これではどちらが挑発しているのか。「北の核・ミサイル開発、脅威」は米朝敵対関係の「症状」であり、根本的な「原因」は朝鮮半島の「停戦のままの体制」にある。
南北平和協定を
相互の体制尊重、往来拡大・交流と協力の拡大、南北対話の再開。それには時間もかかる。市民運動の活性化、統一・平和への関心の高まりも大切。いま日本の市民のみなさんは、沖縄の新基地建設反対を一生懸命たたかっている。加えて、ぜひ「南北平和協定の締結を」という声をあげてほしい。それは沖縄の基地撤去への展望を大きく前進させる。(以上、要旨)
〔康宗憲さんの提起を理想論にしないために〕
安倍政権による戦争法の成立と、南スーダンPKO「駆け付け警護」という戦闘行為への参加についてメディアの批判はきわめて弱い。尖閣(釣魚台)をめぐる軍事対抗や北朝鮮脅威論の喧伝もひどい。一方で沖縄の新基地建設、福島原発事故へのミスリードは目に余る。
「ミサイル」(ロケット)発射や核実験が続くなか、これらをどう考えるのか。常々私自身を含め「左翼・左派」には既存核保有大国にたいし、また「対抗的」核保有にたいしても、どのように抗議、反対するのか、その声は概して強くないように思う。「社会主義祖国の防衛のため」という意識の残りとは思い過ごしであろうが、核廃絶の困難さと論理の弱さゆえか。
非は核保有大国に
もちろん非は1万5千発の核兵器・弾頭を保有し、核による脅威を世界に押し付けている米英ロ仏中他の保有国にあるが、「米日による脅威」論に有効な手立てを出せていない。それは街頭での署名やアピールの際にも痛感する。日米による「核・軍事抑止力による安保」を批判すればするほど、逆に「向こうが実験し、(ミサイルを)撃ってくるではないか」という答えが返ってくる。
世界最初の核実験、そして広島・長崎への投下から71年の今日、なお(原発も含め)核廃絶は見通せない。北朝鮮が社会主義かどうかにかかわらず、新たな核保有国となることに反対し強く抗議したい。「新たな核実験、核保有はしない」と求める民衆の声と運動で核保有大国に核兵器削減、核による抑止戦略からの転換を要求し続けなければならない。
非保有国の責任
核・安保による権益、体制擁護の連鎖を断ち切るよう、非保有国こそが率先する。NPT(核拡散防止条約)やCTBT(包括的核実験禁止条約)、国連安保理の「核実験自制決議」などがいかに不十分であり核独占を意図するものであろうと「防止、禁止、自制」が明示されることは「保有国への足かせ」となる。保有国に「核兵器・弾頭の削減」を強制し、現実に一歩すすめさせる。いずれの国も、新たな核実験はしない。そこへの力が何であるか、康宗憲さんの提起を理想論にしてはならないだろう。(三木俊二)
(シネマ案内)
精神病院を全廃したイタリア
『むかしMattoの町があった』
(2010年イタリア映画 3時間20分)
精神病院を廃止したイタリア・バザーリア改革を紹介した本『精神病院はいらない!』を読み、付録DVDの映画『むかしMattoの町があった』を見た。Mattoとはイタリア語で「狂人」の意。「Mattoの町」とは精神病院を指す。精神病院を全廃してどうしたか。トリエステの街では7つの精神医療保健センターが24時間365日体制をとり、25万人県民の精神保健にたいする全ニーズに応えるようになった。その改革のトップに立ったのが精神科医の故フランコ・バザーリアであり、バザーリアを支えたトリエステ県知事ミケーレ・ザネッティ、精神科医・看護師たち、家族や地域住民、何よりも主人公の「患者」たちだった。
キーワードは「病気は人間存在そのものの中にある」だ。それは「病気はカッコに括って当人の苦悩と対峙しろ」「病気を人の上に置くな」「人間は複雑な関係性の中で生きている。生活上の複雑さに正面から向き合って解決の道を見つける」と語られる。
理念だけでなく、政府・大学・精神科医・地域住民らの反対・攻撃・差別・弾圧などとの激しい粘り強い闘いなくして、「180号法」(通称「バザーリア法」)は実現しなかった。「就労生活協同組合」など具体的セーフティネットも精力的にとり組まれた。映画で何度もでてくる「アッセンブレア(全員集会)」は圧巻。本当の主人公である「患者」たちの人間解放に焦点があてられる。
1968年パリの5月革命はイタリア学生運動にも大きな影響を与え、社会主義者バザーリアのオルグも功を奏し、学生運動を闘った学生・医学生たちがトリエステに集まりバザーリアの改革に尽力する。バザーリアは12人の精神科医養成のために県知事ザネッティに奨学金を認めさせ、生活費を捻出。また、キリスト教民主党政権にたいしイタリア共産党が閣外協力、「180号法案」を起草するなど運動上、政治上の好条件が重なった。
『むかしMattoの町があった』は3時間の大作にもかかわらずイタリア国営放送で放映され、21%の高視聴率だった。映画には患者や元患者がエキストラで出演。ゴリツィア精神病院の院長として赴任してきたバザーリアが、檻に入れられたマルゲリータ(患者)から唾を吐きかけられるシーンから始まる。エンディングでボリス(患者)が、バザーリアに「苦悩が人をMattoにするのか。Mattoであることが苦悩を感じさせるのか」と問うと、バザーリアは「私にもわからない」と。
本を買い、グループで見てほしい。何よりも病者の方、家族の方に大きな希望と勇気を与えてくれるに違いない。(村田)
6面
論考
象徴天皇制は「メイドインUSA(押しつけ)」か
須磨 明
はじめに
昨年4月に発行された自民党の政策マンガ『ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?』のなかに、次のようなフレーズがある。
「えっ 日本の憲法にアメリカの憲法が入ってんの!?」(13頁)、「そりゃ 日本国憲法の基を作ったのがアメリカ人だからじゃよ」(15頁)、「こうして、日本国憲法は外国人の手によって、わずか8日間で英文の草案が固められた」(19頁)、「うちのルールを隣の家の人に口出しされているみたいなものじゃない」(23頁)などである。
『未来』207号の汐崎論文「象徴天皇制は『国民の総意』か」に、「(象徴天皇制の)国民の総意がいつ、どのような経緯で形成されたのか」という問いを発して、「象徴天皇制が『国民の総意に基づく』ものではなく、マッカーサーによって『押し付けられた』もの」という結論を導いている。
しかし、「押しつけ(メイドインUSA)」論を根拠にして改憲をめざしている極右らを批判せずに、「押しつけ」論を肯定的に展開することは改憲運動に棹さすことになるのではないか。
そこで、諸文献にあたって、日本国憲法の象徴天皇制成立のいきさつについて調べて見た。日本国憲法は大日本帝国憲法の改正によって生まれたが、天皇条項の改正案に3つの系統を確認することができる。
第1は国体護持。松本烝治私案、宮沢俊義甲案、佐々木惣一私案、近衛文麿私案、「憲法改正要綱」(松本試案)、自由党案、進歩党案、社会党案(国家主権)。
第2は象徴天皇制。高野岩三郎、鈴木安蔵らの「憲法研究会」案。
第3は天皇制廃止。共産党の共和国案と高野私案がある。
以下、かなり煩雑になるが、3系統の改憲草案とマッカーサー草案について概観しておきたい。
天皇元首案
1945年10月に幣原内閣のもとで、「憲法問題調査委員会(松本委員会)」が発足し、12月8日には、国体=天皇制護持を骨格とする四原則(「天皇が統治権を総攬する」など)を挙げた。2月8日に「憲法改正要綱」(松本試案)としてまとめられ、GHQに提出した。13日に「不承認」となり、18日に補充説明をしたが、相手にされず、マッカーサー草案を手交され、「憲法改正要綱」はお蔵入りとなった。
近衛文麿(国務大臣)私案は「天皇の統治権は国民に依拠する」という内容だが、この程度でさえも、松本委員会は「妥当ならず」と否定している。佐々木惣一(内大臣付御用掛)らの憲法案は「第一条 大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス、第三条 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス、第四条 天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ…」というもので、帝国憲法そのままの内容であった。
その他、自由党案(1・21)、進歩党案(2・14)はともに天皇主権論であり、社会党案(2・24)は国家主権論(統治権を分割し、一部天皇に帰属)であった。
象徴天皇・国民主権案
1945年10月には高野岩三郎、鈴木安蔵らの「憲法研究会」が発足した。12月26日に発表された「憲法草案要綱」の根本原則(統治権)では、「一 日本国ノ統治権ハ日本国民ヨリ発ス、二 天皇ハ国政ヲ親(みずか)ラセス国政ノ一切ノ最高責任者ハ内閣トス、三 天皇ハ国民ノ委任ニヨリ専(もっぱ)ラ国家的儀礼ヲ司ル(以下略)」とされている。
7人の会員のなかに反共主義者・室伏高信も入っており、天皇制廃止に向かおうとしている世論を、象徴天皇制によって中間的に固定化したいという意図も見られる。
天皇制廃止・国民主権案
1945年11月11日、共産党は「新憲法の骨子」(「主権は人民に在り」など)を発表し、翌年6月29日に、「日本人民共和国憲法草案」を発表した。前文には「天皇制はそれがどんな形をとらうとも、人民の民主主義体制とは絶対に相容れない」、第2条には「日本人民共和国の主権は人民にある」と、天皇制廃止・主権在民を掲げている。 また、高野私案(改正憲法試案要綱)は天皇制廃止、大統領制を主張している。この時期は労働運動、女性解放運動、部落解放運動、朝鮮人のたたかいが澎湃として巻き起こっており、天皇制廃止案には労働者人民の意識が反映されていると見るべきである。
マッカーサー草案
1946年2月1日に「宮沢甲案(天皇元首制)」がスクープされ、2月3日に「マッカーサー三原則」が発出された。三原則とは@天皇は国家元首の地位にある、A国権の発動たる戦争は廃止する、B日本の封建制度は廃止される、という内容だった。
その後、憲法研究会案の象徴天皇制を取り入れて、2月13日の「マッカーサー草案」(第一条 皇帝ハ国家ノ象徴ニシテ又人民ノ統一ノ象徴タルヘシ)を日本政府に提案した。
2月18日、憲法問題調査委員会(松本委員会)が「憲法改正要綱」の補充説明をおこなって、元首天皇制を固守しようとしたが、GHQに拒絶され、2月26日、マッカーサー草案を帝国憲法改正案として閣議決定した。
新憲法草案と人民
以上、憲法草案の成立過程を概観してきたが、それでは、日本の労働者人民はそれらをどのように受けとめていたのだろうか。
2月1日、憲法問題調査委員会の宮沢俊義委員による「宮沢甲案」がスクープされ、毎日新聞をはじめとして、新聞各紙は社説で「保守的・現状維持的」と批判した。当日の毎日新聞の社説を見ると、「天皇の統治権については、現行憲法と全然同じ建前をとつてゐる。即ち天皇を君主とし、…天皇が統治権を総攬すとすることにおいて、これまでと変りはないのである」と不満を述べ、否定的立場を表している。「天皇を日本国民の形式的、儀礼的の代表者と考へる意味において…天皇ならばよい」として、イギリス国王の「君臨すれども統治せざる」立場を求めている。翌2日朝刊では社会、自由、共産各党の宮沢甲案批判を載せ、世論は明らかに戦前型の天皇制を忌避していた。
3月5日に政府は「憲法改正草案要綱」を発表し、議会で審議が始まるのだが、辻村みよ子著『比較のなかの憲法論』には、当時の毎日新聞のアンケート(5・27)結果が紹介されている。「象徴天皇制賛成:85%、戦争放棄賛成:70%、天皇制廃止:11%」という結果であり、国民は象徴天皇制と戦争放棄を好意的に迎えていたのである。しかも天皇制廃止を望む声が11%にものぼり、労働者人民の意識が天皇制廃止に向かう可能性を秘めていた。
他方、日帝軍隊に占領され、植民地支配されたアジア諸国、とりわけ100万人を超える犠牲を強いられたフィリピン人民(『未来』194号参照)は天皇制(皇軍)の解体を強く要求していた。
「押しつけ」論批判を
以上見てきたとおり、象徴天皇制は憲法研究会の発案であり、「メイドインUSA」ではない。当時の毎日新聞のアンケート結果を見れば、国民の90%以上が元首天皇制を拒否し、象徴天皇制もしくは共和制を支持しており、「押しつけ」(嫌がる人に無理やり強制)ではない。
敗戦後、アジア人民からは天皇制廃絶の要求があり、アメリカの単独占領政策の模索があり、元首天皇制の生き残りを探る日本政府があり、日本労働者階級形成の途上性のなかで、象徴天皇制は妥協的に選択されたのであり、形式論に依拠して「押しつけ」とすることは誤りである。それは元首天皇制の復古をめざす改憲派の方便でしかない。
日本国憲法公布から70年を経た今日、安倍内閣は改憲を射程に入れており、天皇制、戦争放棄、基本的人権、家族制度、緊急事態条項などさまざまな争点があるが、国民全体の改憲ムードを高めるためのキーワードとして、「メイドインUSA(押しつけ)」論があり、私たちは無防備に「メイドインUSA」論を展開し、改憲派に付け入るスキを与えてはならない。