9・19を忘れない 戦争法廃止へ
全国各地で総がかり行動
「安倍退陣までたたかおう」降りしきる雨の中、国会前に2万3千人が集まり声を上げた(9月19日) |
戦争法(安全保障関連法)の強行成立から一年が過ぎた9月19日、全国各地400カ所を超える地域で「戦争法廃止」をかかげた行動がとりくまれた。
【東京】国会前で「強行採決から1年! 戦争法廃止! 9・19国会正門前行動」がおこなわれ、2万3千人が参加。
〈戦争をさせない1000人委員会〉の清水雅彦さん(日本体育大学教授)が「戦争法の廃止を求める署名の呼びかけ人に235人連ねた」「福岡高裁那覇支部の判決もひどい。三権分立ではない」。〈解釈で憲法9条を壊すな! 実行委員会〉の高田健さんは「戦争法が決まっても廃止を求めてたたかうと(1年前)決意した」。〈憲法共同センター〉小田川義和さんは「憲法違反の南スーダン派遣をやめろという声をもっと大きく」。
諸団体の発言
日弁連憲法問題対策本部の山岸良太さんは、「日弁連の52の単位会は全て安保関連法に反対している。全国の裁判所で違憲訴訟をやっている」「南スーダンは内戦状態。駆けつけ警護はさせてはならない」。
元自衛官(朝霞駐屯地普通科連隊)の井筒高雄さんは「今回の(安保関連)法制では自衛官の命がぞんざいに扱われている。衛生兵は自衛官3千人につき一人しかいない(諸外国と比べて極端に少ない)」「(同じ負傷をしても)米軍だったら助かる命が助からない」「南スーダンは首都のジュバまで含めて内戦になっている。邦人保護などありえない。目的は実戦経験を積むことだけ」。
〈安保法制違憲訴訟の会〉の黒岩哲彦さん(弁護士)は「(違憲の安保法制にたいして)弁護士は黙っていていいのか、と問題提起を受け、旭川から沖縄に至る全国の弁護士会から千人以上の弁護士が立ち上がった」「4月26日に2つの裁判を提起した」「(法廷で政府側証人に)何を聞いても、『答えません』としか言わない」「法廷の内と外と連帯してたたかう」。
ほかに、〈安全保障関連法に反対する学者の会〉の高山佳奈子さん(京大教授)、〈立憲デモクラシーの会〉の西谷修さん(立教大特任教授)、元シールズメンバー、〈ママの会@東京〉、〈沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック〉の石原敏幸さんが発言した。
最後に〈戦争をさせない1000人委員会〉の福山真劫さんが行動提起。「今日、この場に2万3千人が集まった。今日は、全国400カ所でたたかわれている」と報告し、『さようなら原発 さようなら戦争9・22大集会』、10・6総がかり行動実行委員会シンポジウム(東京都北区・北とぴあ)、10・19総がかり行動、10・30自衛隊南スーダン派遣反対青森現地行動にぜひ参加をと訴えた。
全国400カ所で実施
大阪で5000人共闘の枠をひろげたたかいを継続することを確認した(9月19日) |
>【大阪】大阪では、うつぼ公園で「改憲ゆるすな! 戦争法を廃止へ! 9・19おおさか総がかり集会」とデモがおこなわれ、雨をついて会場に5千人が集まった。集会決議で、「9・19を忘れない。廃止まで声を上げ続け、自衛隊の南スーダン派遣を許さない。基地のない沖縄、改憲阻止へ、いっそうの力を結集して闘う」ことを確認。
集会で野党4党(民進、共産、社民、生活)は、大阪では野党共闘は健在だ、頑張ると決意表明。
市民団体から、子どもの未来を考えるママの会@大阪、関西市民連合、安保法制に反対する学者の会、京都沖縄県人会の大湾宗則元会長の発言があった。ママの会・安居裕子さんは「子ども達のために行動をやめない」、関西市民連合・塩田潤さんは「悲観も楽観もしている暇はない。何度でも、効果的な一手」とたたかいの持続を訴えた。大湾さんは、「日米韓軍事演習がおこなわれたが、これは『集団的自衛権行使』の演習だ。その時、京丹後市にある米軍Xバンドレーダーはフル稼働した。戦争法の廃止とは、集団的自衛権の行使を阻むこと。Xバンドレーダー撤去を戦争法廃止のたたかいの課題のひとつとして取り組みたい」と発言。
集会後、難波までの市内を縦断するデモ行進で、多くの市民に訴えた。(5面にも記事)
9・11脱原発 怒りのフェスティバル
経産省前で連日座り込み
8月21日のテント強制撤去以降、経産省前では座り込みが続けられている(9月11日) |
8月21日の経産省前テント強制撤去の後、権力は二度とテントを建てさせないために「ひろば」をフェンスで囲ってしまうという無様な姿をさらしている。それとは対照的に、テントの意義を引き継ぎながらたたかい続ける人々は、「テントここにあり」という横断幕を広げてフェンスの前で連日座り込みを続けている(平日12〜18時、土日12〜16時)。
そのような情勢の中で、「脱原発9・11怒りのフェスティバル」が経産省周囲一帯で開かれた。食べ物や飲み物が振舞われながら、福島・希望の牧場の牛のオブジェを先頭にしたみこしデモ・歌・踊りとさまざまな企画がもたれた。
夕方からの本集会には600人を越える人々が参加し、経産省包囲ヒューマンチェーンが2回にわたって取り組まれた。
テントが切り開いたたたかいの地平をあらためて確認し、全原発廃炉までたたかい続ける決意を固める日となった。
市東さんの農地を守れ
最高裁に署名を提出
9月7日、三里塚芝山連合空港反対同盟は最高裁にたいする署名提出行動をおこない、80人が参加した(写真)。
沖縄から駆けつけた市東さんの農地を守る会・沖縄の会員は、「昨日、高江でたたかっている仲間が不当逮捕された。高江では、150人の住民にたいして、500人を超える機動隊が襲いかかって、米軍ヘリパッド建設を進めている」と怒りをこめて訴えた。
反対同盟の萩原富夫さんは、「昨年8月の上告以降、今年の1月、5月そしてこの9月と3回目の署名提出行動だ。本日の提出は2347筆。合わせて20539筆を提出した」と報告した。7月3日の三里塚闘争50周年の取り組みの成功を踏まえ、さらにたたかいを進める、と力あふれる決意を述べた。
市東孝雄さんは、「国策であれば何をやってもいいというのは認めることはできない。今後も農地を守ってたたかっていく」と発言した。(笠原)
2面
国会開会日 千人が抗議
TPP、共謀罪を許すな
9月26日
9月26日、臨時国会が召集された。衆議院議員会館前では千近い人達が思い思いの旗、プラカードなどを持って抗議行動をおこなった(写真)。
TPP、戦争法、憲法、海外派兵、共謀罪、天皇制、障がい者施策、野党共闘など色とりどりの主張がまじりあい、国会を取り巻いた。議事堂側は警察車両がぎっしりと並べられ、厳戒ムードをただよわせていた。
集会では国会議員があいさつ。社民党は吉田忠智党首、福島みずほ参議院議員。民進党は福山哲郎、神本美恵子参議院議員。
共産党の小池晃書記局長の「勝手に走るし、ブレーキは壊れてるし、右にしかハンドルが切れない、怖い安倍暴走車」という演説に大爆笑が広がった。
糸数慶子参議院議員から「伊波さんの参議院入りで沖縄の風会派結成」が報告され、万雷の拍手。市民団体からも各分野のアピールがおこなわれた。海渡雄一弁護士もアピール。
その後、衆議院議員会館内で「共謀罪新設を許さない院内集会」がおこなわれ、290人が参加した。海渡雄一弁護士が理路整然と共謀罪の危険性について解説。「来年の国会での成立を絶対に阻止しよう」と参加者は確信を深めた。
高裁那覇支部が反動判決
激しさ増す高江の攻防
早朝より米軍北部訓練場N1ゲート前に、250人の市民が結集。座り込んで抗議行動を続けた (21日 沖縄県東村) |
9月9日 高江のヘリパッド工事は、N1までの工事用道路が完成し、本格的にN1ヘリパッド本体の工事に着手した。沖縄防衛局はさらに、G・H地区の着工に向けて動き出した。最初の予定ではN1表からN1裏へ道路(Fルート)を造成し、農道を通りG・H地区へ機材・砂利を搬入する予定であった。しかし、市民の抗議行動により、村長が農道の通行を認めなかった。追いつめられた防衛局は空輸にふみきった。この日の午後、民間の大型特殊ヘリを投入。重機や部品などをG・H付近に設置された作業ヤードに搬入した。ヘリでの搬入は初めてである。1週間ほど空輸は続く。
13日 防衛局は、陸上自衛隊のヘリで重機を搬入。この日陸上自衛隊のCH47輸送ヘリ2機を使用し、北部演習場メインゲートからG・H地区に重機や4トントラックなどを空輸した。いかなる手段を使っても期間内に工事を完了させたいという国の焦りの表れだ。沖縄平和運動センター議長の山城博治さんは「ついに政府は禁を破った」と怒りを表した。
15日 N1地区からN1裏に続くルートの中間付近からH地区に向けた工事用モノレール敷設予定地付近まで国有林が伐採されているのが明らかになった。モノレール敷設の幅を大きく超えるエリアが伐採されている。モノレール設置をあきらめ、一度に大量の砂利を運べる10トントラックのための道路建設に舵を切ったと思われる。
16日 翁長知事による辺野古埋め立て承認取り消しをめぐり、国がおこした「不作為の違法確認訴訟」の判決が福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)で言い渡された。判決は国の請求を認め、翁長知事による承認取り消しは「違法」だとした。県は最高裁に上告する事を決めた。裁判所前の公園に集まった1500人の市民は「不当判決」だと抗議の声を上げた。
19日 高江橋での抗議行動の自粛を決めた。高江橋での阻止行動は、これまで工事車両を遅らせるための重要な拠点であった。工事車両の阻止はイコール一般車両も阻止することになり、地元住民に多大な影響を及ぼしていた。山城博治さんは「地元の人は最優先で通している。生活の邪魔にならないように努力したい」と述べた。
20日 N1地区からN1裏に続く中間地点から、H地区に続く道路の造成が進んでいることが明らかになった。防衛局はN1からH地区に向けて幅3メートル、1・5キロの工事用道路を整備すると言っている。
21日 一斉行動の日、早朝よりN1表ゲート前に250人の市民が結集。これまで一斉行動の日は、N1表、裏や高江橋などに分散しておこなっていたが、高江橋での行動などをやめ、N1表に一極集中した。山城さんはこれまでの経過を説明し、「N1表では2カ月ぶりのたたかいだ。あの日のたたかいがトラウマになっている。今日も機動隊が来ると思うが非暴力でたたかおう」と檄を飛ばした。
午前10時半ころ機動隊が国道70号線の北と南を封鎖した。N1ゲートに近づいているとの報告にみんなの緊張が高まる。全員がスクラムを組みごぼう抜きに備える。やがて機動隊300人が市民の前になだれ込んでくる。激しいごぼう抜きが始まった。市民の抗議の声があたりにこだまする。お互いの腕を組みダイインして徹底抗戦する。攻防30分、11時ごろ警察車両に先導された10トントラック10台がゲートに入る。12時ころ終了し封鎖が解除された。200人規模の集会を排除するのは2カ月ぶりだ。その後、市民は夕方の県民集会に向かった。
夕方、那覇市の県民広場でひらかれた「不当判決に抗議する! 翁長知事を支え! 辺野古新基地建設反対県民集会」(辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議主催)に1500人の市民が参加。最高裁での県勝訴に向け気勢をあげた。(杉山)
「国際条約批准のため」はウソ
共謀罪反対で緊急市民集会
大阪
8月26日、「『テロ等準備罪』政権検討、共謀罪に変えて」と朝日新聞が報じたことを受けて大阪弁護士会主催で緊急市民集会が9月23日に開催された。集会には70人が参加した。以下、概要を報告する。
集会は、立命館大学法務研究科教授の松宮孝明さんの講演と質疑応答という形でおこなわれた。
冒頭、大阪弁護士会副会長の宮ア誠司弁護士が主催者あいさつ。永嶋靖久弁護士が「共謀罪の提案に関する経緯」を報告。直ちに松宮さんの講演に入った。
条約と無関係
松宮さんは、法案提出時期に関する9月16日の報道は、「臨時国会に出さない」点より、「来年の通常国会に出す」という点に注目する必要があると強調。この間の報道は、いわゆる「観測気球」であり、通常国会に提出される法案が、今回の報道と同じものであるという保証はないことをまず押さえるべきと指摘した。
この点を踏まえて、今回報道された「法案」を先の第3次修正案(2006年6月の民主党案を丸呑みした政府最終修正案)と比較。個々の表現に変更はあるが、実質的な法的意味は全く同一である。しかも、法務省案(「組織犯罪対策法」の一部改正という形を取った法案)は、一貫して「2人以上の者が、…」として処罰条件を規定しているが、組織犯罪条約の2条(a)が「『組織的犯罪集団』とは、3人以上の者からなる組織された集団」であると定義していることとの矛盾は、何ら解消されていない。
2006年6月の最終修正案で「長期五年以上の懲役若しくは禁固の刑が定められている罪」としていたものを、「長期四年以上の懲役若しくは禁固の刑が定められている罪」として対象犯罪を拡大している。
「共謀」を「二人以上で計画」と変えているが、そもそも「共謀」は「二人以上で計画」することであり、定義を書いただけであり、実質的には変更がない。
さらに、2006年6月の最終修正案にあった逮捕・勾留の制限規定(6条3項)や濫用防止の訓示規定(6条4項)すらなくしている。
すでに、特定秘密保護法25条の共謀罪では「顕示行為(overt act)」(注)がなく、今年5月に成立した「拡大盗聴法」によってほとんどが盗聴対象にすることができる。
以上により、警察の捜査・逮捕はほとんどの行為の「共謀」にたいしておこなうことが可能になる。
具体的に考えれば、「@若い方へ 万引き集団の相談、A政治家へ 選挙要員(学生バイト等)への謝礼の相談、B弁護士へ 事務所経費の一時流用の相談、C事業者・税理士・会計士へ 商店・会社での節税相談が脱税を疑われる場合」などが挙げられる。
そもそもの、「国連条約批准のため」と政府が掲げる名目の詐欺的性質をもっと大きく広げることが必要である。「国連越境組織犯罪条約」(以下、「組織犯罪条約」)の趣旨は、本条約2条(a)「組織的犯罪集団」とは、「三人以上の者からなる組織された集団であって、直接又は間接的に金銭的利益その他の物質的利益を得るため、一定の期間継続して存在し、かつ、一又は二以上の重大な犯罪又はこの条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として協力して行動するものをいう。」と規定しているように「経済的犯罪」を対象にしたものである。そして、日本の司法(最高裁)が、「共謀共同正犯」の適用を広く判断していることを指摘した。「爆発物取締罰則」、「銃砲刀剣類所持等取締法」などの予備罪(準備罪)には、今回の法案よりも重い処罰規定があり、条約が求める「顕示行為」を伴う犯罪遂行の合意は現行法で処罰できる。法改正=共謀罪導入なしに条約は締結できる。その実例として、アメリカが、留保宣言をして条約批准をしている事例を日本の外務省がHP(2016年9月18日付)で説明している。
国会提出を阻止しよう
以上の講演を受けて言えることは、共謀罪は、現行刑法で処罰できないような「共謀者」を処罰しようとするものであり、「自由主義」「客観主義」を基本原理とする近代国家の刑法を逸脱する人民抑圧法である。この法案の国会提出はなんとしても阻止しなければならないということである。(粟倉)
(注)「顕示行為(オバートアクト)」
「計画(相談)」が、冗談ではなくて真剣なものであること、しかもその真剣さが、「計画」の実現にとって有益であるかどうかを問わないもののことであるとされている。
アメリカの共謀罪におけるオバートアクトには、次のような特徴がある。
@犯罪実行に向けての行為のうちなにか1つ立証できればよい
A共謀に加わったうちのだれか1人がその行為をすれば十分
B共謀した犯罪が実際に行われるかどうかは関係ない
Cオバートアクトに関して他のメンバーの合意は必要ない。
3面
投稿
「奨学金」という名の貧困ビジネス
有利子、延滞金で減らない元本
安倍政権下で進む武器の開発・輸出
「奨学金、ブラックバイト、経済的徴兵制」をテーマとする、大内裕和さん(中京大学教授)の話を聞いた。小さなサークルで、藤田孝典著『貧困世代〜社会監獄に閉じ込められた若者たち〜』について勉強をしており、その分野についてきちんと聞きたいと思い、参加した。
奨学金=借金地獄
大内さんは、「ブラックバイト」や奨学金問題(運動)の草分け的存在だ。2010年、愛媛大学で奨学金問題を授業ではじめたとき、これまで寝ていた学生が1人も寝ることなく熱心に講義を受けたことに衝撃を受けたという。奨学金の運営主体の「育英会」と「日本学生支援機構」(1984年に有利子化された)は根本的に違う。奨学金についての認識は育英会世代といまの若者には、信じがたいまでの世代間ギャップがあるという。団塊の世代の聴衆には、そう注意を喚起した。
いまや学生の54%が奨学金を利用し、最大2000万円の借金に苦しむ学生がおり、返済滞納者は33万人、3カ月以上の滞納額2660億円、ブラックリスト登録者は1万人。卒業しても低賃金、非正規職で返済できない人が急増。返済が滞れば年10%の延滞金がつき、しかも延滞金優先だから元本は減らない。半永久的に借金地獄から抜け出せず60歳を超え、借りた借金の5倍も返済している実態もある。
借金と結婚するのか
世界水準では「給付」(スカラシップ)が一般標準なのに、日本の奨学金は「貸与」(ローン)だ。それは学生を対象とした、銀行と債権回収専門機構の金融事業、貧困ビジネス≠ニいっていい。
結婚や子育て問題にも直面する。なぜなら学生の54%が「借りている」、双方とも返済を抱える場合もあるが、どちらかが借金を持っている確立は2分の1。2人に1人は奨学金返済者の組み合わせとなる。それで子育てができますか、と。実際に「お前は借金と結婚するのか」と親に結婚を反対されたケースがある。
授業でこの話をすると、椅子から学生が崩れ落ちたという。こんなことを放置して、少子化問題の解決などない。これほどの社会的大問題があるのか。いまや国政選挙の大争点ではないか、と大内さんは声を大にした。
ブラックバイト漬け
1969年には初年度学費が1万6千円(入学金+1万2千円の授業料)だった国立大学が、現在は81万7800円と51倍になっている(私立大学は134万円)。近年、世帯収入は年平均100万円も落ち込み、家計からの仕送りは平均40万円低下し、その結果学生の1日の生活費は2460円(1990年)から850円(2015年)に! そこからは、奨学金が奨学金の役割を果たさずに、さらにブラックバイト漬けになる条件が整う。家庭教師(塾)・コンビニ・居酒屋・アパレルでバイトリーダー、バイトマネージャー、パート店長の責任を負わされ、やめたら50万円の損害賠償訴訟されたケースもある。やめるにやめられない。自爆営業させられ、病気になり、学業をやめざるを得ない(大内さんは精神的病気には触れなかったが、藤田さんは「日本の若者の罹る病気の第1位は精神科、若者の死因の第1位も自殺である」と、日本の特異性を指摘している)。
経済的徴兵制へ
学生支援機構運営評議会委員(経済同友会・前副代表幹事)の前原金一は、「返済滞納者は、防衛省にインターンシップをやってもらいたい。防衛省は考えると言っている」としゃあしゃあと発言。それは、アメリカのような経済的徴兵制につながっていく。
質疑応答で大内さんは「この問題の解決の道を示せば、学生たちは必ず獲得できる」と答えた。しかし、学生の運動への立ち上がりの機運はどうかという質問に、「この若者たちの恐るべき貧困は、簡単に運動に立ち上がれる状況ではない。若者たちの立場に立って寄り添い、理解・協力・手を差し伸べることができるか」と、運動側の左翼の安易なあり方に釘をさすとともに、「本当にこの問題に真剣にとり組んでほしい」と訴えた。
地域ユニオンの課題
貴重な2時間だった。大内さんたちのとり組みが地方自治体を動かし、安倍政権でさえ触れざるを得ない事態にたちいたっている。地域のユニオンにとっても、死活的テーマであることを再認識させられた。
大内さんは憲法25条(注)と9条とは結び合っていると、その構造にも言及した。(村田誠)
(注)憲法25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
駆けつけ警護℃タ施するな
陸自第3師団に申し入れ
9月18日、陸上自衛隊第3師団(兵庫県伊丹市)への「武力行使反対・南スーダンからの撤退求める」申し入れ行動をおこなった。この行動は「とめよう戦争!兵庫・阪神連絡会」が、伊丹第3師団からのイラク派兵時以来デモや集会を毎月おこない、今回で138回目となった。地元の仲間、連絡会や関西合同労組などから11人が参加した(写真)。
南スーダンに派遣される陸自隊員に新任務「駆け付け警護」の命令が下される。11月から交代派遣(第11次)される青森第5普通科連隊の隊員には、そのための特別訓練がおこなわれている。11月派遣部隊の青森の隊員と家族は、不安と苦悩の中ににおかれている。申し入れ行動と隊員・家族への呼びかけは重要度を増している。
「駆け付け警護」任務は、南スーダンの人々を殺害し、隊員から戦死者を出す。安倍政権はそれを意図している。同じカンボジアPKOの自衛隊責任者であった佐藤正久・参議院議員は「戦闘に巻き込まれる事態をいかに作るか」腐心していたことを語って波紋をおこした。自衛隊の南スーダンからの撤退、武力行使拒否の声をあげよう。(笹本)
「必ず戦死者が出る」 危険なPKO新任務
憲法学者のほぼ99%が憲法違反とする安保関連法が国会で強行可決されてから9月19日で1周年。「駆け付け警護」なる言葉・概念は、PKO部隊には存在しない。戦闘現場に入り、住民やNGOを警護するというのだから戦闘そのものとなる。この用語は、自衛隊を「血を流す国軍」にするためにひねり出したものだ。アフガニスタンPKOの指揮官であった伊勢崎賢治さんは、「PKO部隊は一方の交戦主体であってせん滅戦・掃とう戦をおこなう。かならず戦死者が出る」と語る。
4面
焦点
ヘイトクライムを隠ぺいし
精神しょうがい者差別煽る安倍政権
高見元博
8月21日、神戸市内で「どう変わったの?障害者総合支援法」という学習会が開かれた。この学習会は、もともと5月に総合支援法が改訂されたことを受けたもので、かなり以前から予定されていた。その後に、相模原事件が起きて、それがメインテーマになった。事件後、関西では初めてしょうがい者が相模原事件をテーマに集会をやるということで、関心が集まった。そのため、定員30人の部屋に35人が参加。椅子がなくて「これ以上来たらどうしよう」と思う状況だった。
学習会の詳細は『ともに生きる10』に掲載している。
学習会では怒りネット全国世話人の古賀典夫さんによる、相模原事件の分かっている限りの詳細な情報によりヘイトクライムを暴き出す報告と、絶対に許せないことであり、しょうがい者は徹底的にたたかうという提起があった。
その後、参加者による熱心で多岐にわたる討論がおこなわれた。殺されたのは自分かもしれないという重度しょうがい者の声や、警察が殺された人たちの名前を出さないことで、一日も早く忘却してほしいと願っているかのようだということや、安倍政権が一切事件や犯人を批難する発言をおこなっていないことへの怒りの声、池田小事件(注1)の時のように事件の真相が全く分からないうちに犯人が死刑にされて真相が永遠に闇に葬られることが繰り返されてはならないという意見などがあった。
相模原事件 その後の動き
検証・検討チームの「中間とりまとめ」
厚労省が8月10日に設けた「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」は、9月14日、「中間とりまとめ 〜事件の検証を中心として〜」を発表した。言葉として直接そう書いてはいないが、あたかも「殺されたのはしょうがい者だが、殺したのも『お前たち』しょうがい者の仲間だろう」と言っているかのような歪んだ構図を作り出している。「精神しょうがい者がしょうがい者を殺した」と一般市民の差別的な劣情を引き出す構図だ。
警察が参加しながら、新しい情報を提供せず自らの責任も明確にしていない。また、本人を直接診ておらず、過去の記録を検証・検討して、措置入院歴だけをもって、何の根拠もなくUを精神しょうがい者だと決めつけている。Uの主張は明確であり、優生思想に基づくヘイトクライム(差別的憎悪犯罪)であることが明らかであるにもかかわらず、優生思想というはっきりした原因を一切検討していない。
「一般的に、『大麻使用による脱抑制』のみで、易怒性や興奮、『国から許可を得て障害者を刺し殺さなければならない』といった発言が生じることは考えにくい」と、普通の感覚では精神疾患とは違うのではないかと疑うべきところを、「躁うつ病などの気分障害の可能性を考え」「パーソナリティ障害等の可能性を考え」検討すべきだったと、あくまで精神疾患だと決めつけてしまうのだ。
また「心神喪失者等医療観察法」がモデルになるとし、「医療観察法に基づく処遇は実際に他害行為を行った者に対する対応である。予算面や専門人材など体制面を含め、幅広く検討していく必要があると考えられる。」「医療保護入院〜を参考に、退院後の〜患者の孤立化防止及び自立促進を図るための制度的対応を検討」すべきだと、精神しょうがい者対策で再発が防げるとしてしまう。
「措置入院中から、患者本人、家族、主治医、行政職員などによるケア会議等を開催した上で解除の判断を行うといった取組が行われている地域があり」、それを全国で導入するための「制度的な対応の検討とともに、体制面についての整理・充実、職員の専門性の向上等が課題と考えられる」とし、「今後の検討」で「入院中から措置解除後まで、患者が医療・保健・福祉・生活面での支援を継続的に受け、地域で孤立することなく安心して生活を送れるようにすることが、ひいては今回のような事件の再発を防止することにつながる」とし、「現行制度の運用面の見直しのみならず、制度的対応が必要不可欠である」という結論を導く。16日の記者会見で塩崎厚労相は精神保健福祉法改悪などの法改悪の意向を示した。
あくまで、精神しょうがい者による犯行というストーリーを押し通しているのだ。一般市民に別の優生思想を扇動して、市民が優生思想批判や政権批判に向かわないようにしているかのようだ。私たちは厚労省検討チームが、精神しょうがい者の人権を侵害する報告を出したことを断じて許さない。委員はその持つ大きな責任を自覚すべきだ。
歪んだ厚労省検討チーム
厚労省検討チーム委員の松本俊彦医師が「Uは精神しょうがい者だ」と憶測する記事をネット雑誌に続いて8月29日付の読売新聞のニュースサイトに掲載した。Uを診察した訳でもなく、「タラ・レバだ」「(私の)妄想だ」と言いながらそう言うのだ。全くでたらめな話だ。このでたらめな医者らが今後の精神しょうがい者の運命を決めるのだ。
そもそも、事件の翌日に厚労省が措置入院を問題にし、2日後の関係閣僚会議で、安倍首相が厚労省に「措置後の対応の強化で事件を収めろ」と命令したところから話は歪んでいる。
警察の失態
この事件は、「犯罪をするぞと予告していた犯人に犯行を許した」という警察と衆院議長、安倍政権の失態が本質ではないか。良し悪しは別として、今までもネットで犯罪予告をしただけで警察は逮捕してきた。それを今回はUを精神しょうがい者だと誤認し、「保護」してしまったがために逮捕できず、精神医療を保安処分として使おうとしたことから対応はこじれた。
警察がネットでの犯罪予告をした者をすぐに逮捕するのは、予防拘禁であり、戦前の治安維持法につながる。しかし今回の事件では脅迫状の中身が警察から施設に伝えられず、施設が対応を準備することができなかったという決定的な誤りがあった。仮処分などでできた対策はあったはずだ。だから安倍政権は反省して、安倍や警察が責任を取るべきではないか。
「兵庫方式」
塩崎厚労大臣は、8月21日「兵庫方式」を県境を越えて実施できるようにすると発言した。「兵庫方式」は措置患者を退院後も追跡するものだ。法的強制力がないという保安処分推進の側の立場からは「欠点」があることを考えれば、精福法・刑法の改悪や、保安処分新法の制定となるのだろう。「兵庫方式」の拡張も新法や刑法改悪も、事態の本質をごまかす政権の悪意を感じる。事件を繰り返さないことにつながらないばかりか、事件を利用して精神しょうがい者の人権を不当に侵害するものだ。
池田小事件の時には、刑法の心神喪失による免責を受けた人が起こした事件ということで、「心神喪失者等医療観察法」という悪法が制定された。今回は「措置入院になっていた人が起こした事件だから、措置後の対応の強化だ」というストーリーに沿って展開されているのだ。
そもそもUを措置入院にしたことは正しかったのか。ある精神科医は、精神科医なら誰でもそうしただろうと言う。何百人も人を殺すと言っている人を前にして、どの精神科医でも精神しょうがいを疑うというのだ。逆に言えば、それほど今の精神しょうがい概念は幅が広いということだ。DSM(注2)W作成委員長であるフランセス博士自身が、どんな人でも精神しょうがい者だと分類できてしまうという告発をしている。自分は「健常者」だと思っている人でも、精神疾患の病名をつけることができるのだ。
「健常者」につける「病名」
Uは最初躁病を疑われ、その後、二人の指定医(うち一人は資格を不正取得していた)により、それぞれ「大麻精神病・非社会的パーソナリティー障害」「妄想性障害・薬物性精神病障害」だとされた。退院時の判断は「大麻使用による精神及び行動の障害」であり、退院後の3月24日の外来受診のおりの診断書では「抑うつ状態、躁うつ病の疑い」だ。疑いを持つこと自体は誰にたいしてもできる。「大麻精神病」は大麻反応が出たからだが、すぐに消えるものだ。また「大麻精神病」では「何百人も殺す」という妄想は出ない。
「妄想性障害」
「妄想性障害」は「健常者」にたいしてもつけることができる「病名」だ。「妄想を持っている」という状態を「しょうがいだ」と言っているに過ぎない「病名」だからだ。「メルクマニュアル」という、Merck
& Co, Inc, Kenilworth, N.J, U.S.A.が提供している、「世界で最も信頼されている医学書の一つ」とうたわれている本には、「妄想性障害は、1カ月以上持続する奇異ではない妄想(誤った確信)によって特徴づけられ、統合失調症の他の症状は示さない。妄想性障害は、統合失調症の他の症状を有さず、妄想が存在するという点で統合失調症と区別される。妄想は奇異ではない傾向があるほか、跡をつけられる、毒を盛られる、病気をうつされる、遠く離れた所で愛されている、配偶者や恋人に裏切られるといった、正常でも起こりうる状況に関係していることが多い。」と書かれており、それが統合失調症患者など精神しょうがい者にではなく、「健常者」に起こることだとされている。
Uは9月20日から鑑定留置に回され、4カ月かけて診断するとされている。しかし、鑑定が中立的ではなく、しばしば権力に都合のいいストーリーを描く医者によっておこなわれることを私たちは経験してきている。
今回の事件がヘイトクライム(差別的憎悪犯罪)であることは多くの人が指摘している通りだ。その本質を隠蔽し、精神しょうがい者差別を扇動することで優生思想批判に民衆が向かわないように作為している安倍政権を許すことはできない。
(注1) 池田小事件 2001年6月、大阪府池田市の大阪教育大学附属池田小学校で発生した小学生等の殺傷事件。犯人に精神疾患の詐病歴があったことが問題になった。
(注2) DSM
アメリカ精神医学会(APA)の定めた精神障害の診断と統計マニュアル。
『ともに生きる10』の注文はhttp://ikari-net.cocolog-nifty.com/blog/にて。
優生思想に断固反対し、ヘイトクライム(差別・暴力)を許さない
「骨格提言」の完全実施を求める10・27大フォーラム
〜私たち抜きに 私たちのことを決めるな〜
と き:10月27日(木) 正午〜午後3時(開場11時)
ところ:日比谷野外音楽堂
主 催:「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会
5面
直撃インタビュー 第33弾
「ふつうの暮らし、避難の権利」を訴える(上)
森松明希子さん(原発賠償関西訴訟原告団・代表)に聞く
「ふつうの暮らし、避難の権利」を求める森松明希子さん(原発賠償関西訴訟原告団・代表)に聞いた。森松さんは3・11当時、福島県郡山市で夫、3歳、5カ月(当時)の子どもと4人で暮らし、住宅が壊れ、地域の避難所に。郡山市は第1原発から60キロ圏だが、線量は高い。5月に関西へ「帰省」したのを契機に母子避難。(9月2日、大阪市内。文責=編集委員会)
―原発事故のときは、どういう状況だったのでしょうか
私は、郡山市です。避難所にいたとき、やむなく子どもたちに水道水を飲ませました。いま思うと悔やまれてならないのですが、他にないのだから苦渋の決断でした。毎日どうするかということに明け暮れ、ほんとうに事故の様子や危険はわからなかった。5月の連休に知り合いを頼って関西に一時避難したとき、福島の外からテレビや新聞を見て「ああ、福島はこんなんだ」とわかり、避難を決断する契機になりました。
同時に、福島の状況について全国にはあまり知らされていないんだなあとも思いました。当時、どこどこは線量が高い、ホットスポットがあるとセンセーショナルに話題になりました。だけど数値を聞いても、それ自体は誰も痛くも痒くもない。毎日の暮らし、どんな心配があるか伝わっていない。というより、隠されている感じでした。実際に、郡山はめっちゃ線量が高いけど見た目はまったく普通の暮らし…。
なにもなかったの?
あのとき5年後のことは考えてもみなかったですね。当時は「シーベルトって何?」というような…。当然ですよね。みんなが専門の勉強をする、数値計算ができるというよりも、放射線被曝とは何かという根本が大事だと思います。広島・長崎の被爆者が身をもって証言されているように、晩発性の放射線障害、ガンや白血病、その長いスパン、2世、3世への心配などに苦しんできた。せめて被曝ということを注意し、放射線からの避難を促すのは当たり前のことじゃないですか。
最初のころは、当然そういう方向になると思っていました。でも、どんどん「大丈夫」「何もなかった」かのようにされてしまった。「放射線の危険性」を言うと、風評被害を煽るかのように扱われます。
―自主避難、母子避難、いまの健康問題についてお聞きします
11年5月から当時3歳と5カ月の2児といっしょに、夫を郡山において「自主避難」しました。子どもたちは8歳、5歳になりました。子どもたちの毎日には、お父さんがいません。父親も子どもが「今日ハイハイした、初めて話せた。歩いた」ということを見ることがないのです。
ほんとうは「自主」避難ではありませんが、強制避難区域外ですから単なる引越し扱いです。保育園の入園など、あらゆる行政手続の壁にぶつかりました。
総務省が避難者登録を把握しているだけでも「避難民」は10万人近いのです。だけど実数はどこも正確には調べていません、調べようともしない。「引越し、定住」とし、避難民という言葉を消し去ろうとしているとしか思えません。本来は国や行政が現状、現実をきちんと調べ対応、支援をするべきでしょう。何のツテもなく遠くの知らない地方に逃げるなど、ふつうはできませんよ。私は関西出身だったから、かろうじて大阪へ避難することできました。特別に知識があり能力があったからではありません。
県民健康調査は、当時18歳未満だった子どもたちに2年に1回通知があり、甲状腺エコー検査を受けることができます。それも福島県内の30市町村あまりに限定、「無理に受けなくてもいい」という縮小傾向です。なぜか後向き。いま2順目ですが、うちはまだ1回です。
「基準値」を緩める
地域としては線量が低いところでも、食べ物などは流通するのにね。避難している人は、もういいとか。あまり問題にすると「不安を煽るな」と小児医学会などが言う。そんなことあるかいな〜話が逆でしょ。調べてもどれだけわかるか、わからないかもしれない。だから曖昧でいいというのは本末転倒です。できるだけ精査するべきでしょう。戦後混乱期の広島、長崎は大変だったと思いますが、いまはやろうと思えば行政もしっかりし、コンピュータ管理もできる時代です。つごうのいい住民管理はやるけど、こういうことには後ろ向きとは、調べたくないとしか思えません。
いまガンは一般にも多い病気です。そこへ、いつの間にか年間「許容量」を変え基準値を緩める。勝手に数値を決め「大丈夫」かのように装う。こんなことを言うとすぐに被害妄想だと非難されますが、規制基準を年間100ミリシーベルトに、そして1ミリの規制を20ミリにする。100ミリにたいし20ミリですから、何となく大丈夫という雰囲気になってしまいますよ。
―5年が過ぎて、何を思われていますか
これだけ災害大国なのに、5年が過ぎても対応は遅々としている。放射線被曝検査、必要な検診や治療についても、それこそ広島・長崎の悲惨な体験があるのだから、そこに学ぶという姿勢はないのでしょうか。やればできるはずです。広島・長崎の被爆認定をめぐっても線引きや分断があったと聞いています。権力側はそういう負の部分だけ継承しようとしているのではないか、と勘ぐりたくなります。
先日、福島での裁判に行ってきました。いちばん大きな訴訟団です。国や東電側はかならず「風評に惑わされているんじゃないですか」「あなたは、いま住んでいますね」「最初に出た人たちも戻っていますよ」と言いよるんですよ。みなさん、けっこう線量の高い地域におられる。あまり気にしないようにしているのかなと思うと、それは違う。その日の裁判では保育園の元園長先生、3・11のとき2人目がお腹に、その後3人目ができたという若いお母さんたちが、「私たちも避難できるなら、したいですよ。だけど生活がここにあるし、強制でもない。仕事はどうするのか。簡単に家族そろって遠くに引っ越せない」と口々に話しました。事故直後は近県の親戚や知人を頼って一時避難した。でも、いつまでもお世話になれない。戻らざるを得ないじゃないですか。
「避難して引け目を感じなくてもいいんだ。みんな同じ思いじゃないの」と思いました。とはいえ、やっぱり地元にいる人は言いづらい。福島にいる人たちが、より苦しんでいる。引け目を感じる余裕があるくらいなら、私はもっとどんどん発信しなければ…。(つづく)
【解説】「3・11」以前の日本の基準は、年間1ミリシーベトが上限。それを年間20ミリシーベルトまで「安全」とした。「3・11」以前の放射線を扱う作業員の被ばく限度が5年間累計で最大100ミリシーベルトであったが、その後、最大250ミリシーベルトに引き上げられた。
〔もりまつ・あきこ〕
1973年生まれ。結婚後、福島県郡山市に在住中に東日本大震災、福島第一原発の事故に遭う。当時3歳、5カ月の2児とともに2011年5月から大阪市へ母子避難。非常勤の時間職員として働きながら子育て中。「避難の権利、原子力災害への恒久的救済」を求め集団提訴した原発賠償関西訴訟原告団・代表。「避難した人、とどまる人、帰還する人、すべてが有する基本的人権」を訴え、原発災害の根本問題を問い精力的に活動する。東日本大震災避難者の会Thanks
& Dream代表。
戦争法と一年のたたかい
市民デモHYOGO≠ェ発足
岡野八代さんの講演に集中する参加者 (9月19日 神戸) |
昨年の戦争法強行可決から1年目の9月19日、神戸市内で同志社大教授・岡野八代さんと、沖縄の建築家・真喜志好一さんを迎えて集会・デモがおこなわれた。
岡野さんは自民党改憲草案は全編問題ありであるが、その核心は「明治憲法にも劣る慶安のお触書」(樋口陽一東大名誉教授)であるとし、近代立憲主義以前の絶対王政時代の思想であることを指摘した。
人類のたたかいの中で生まれた人権=個人の尊厳を守ることと、憲法9条の戦争放棄=平和的生存権は繋がっている。これを日々破壊するこのアベ政治とたたかうなかに、民主主義を実現していく道があるとした。
ついで主催の〈アベ政治を許さない市民デモKOBE〉の高橋秀典さんから、毎月デモや100回の街頭署名、参院選の総括が報告された。そして「改憲勢力が3分の2」のなか、改憲発議を許さず、いのちと暮らしを守る新たな運動のネットワークがよびかけられた。
後半は真喜志さんが、96年のSACO合意以降の運動の経緯と、辺野古・高江の日々のたたかいを映像を交えて報告。SACO合意は米軍基地の縮小ではなく、古くなった米軍基地を整理し、新たに最新鋭の巨大軍事基地を辺野古につくるものと暴露。また高江のヘリパッド建設は、北部訓練場を再編しオスプレイ用の新ヘリパッドをつくるために、不要になった海兵隊訓練場を「一部返還」するというもので、縮小ではないことも明らかにした。
市民の会の西信夫さん(元ベ平連神戸)は、沖縄に仲間を派遣するための基金を呼びかけた。この間何度も沖縄に仲間を派遣しており、この行動をさらに広げるために100万円の基金を作る画期的な呼びかけだ。
また自衛隊の南スーダンからの撤兵を求める決議が、自衛隊イラク派兵直前の2004年11月から第3師団に申し入れ行動をおこなっている梶原義行さんから提案された。
最後に、今後のネットワークの名称は、「こわすな憲法! いのちと暮らし! 市民デモHYOGO」案が220人の投票の過半数で決まったことが報告された。
集会後は小雨にけむる神戸市内を、元町から三宮までデモ行進。
兵庫県下ではこの日、姫路・明石・尼崎・伊丹などでも集会や行動、各地で街頭宣伝もあり、安倍政権の戦争法の発動と憲法改悪の動きに多くの人が反対の意志を表明した。
6面
生活保護引き下げ違憲訴訟 第6回口頭弁論を傍聴して
社会保障解体と闘う労働運動を
裁判が始まる前、大阪・淀屋橋で宣伝活動をおこなう(9月9日) |
9月9日、生活保護基準引き下げ違憲訴訟第6回口頭弁論が大阪地裁大法廷でおこなわれた。今回も傍聴は抽選となり傍聴席は満杯になった。
原告の意見陳述
今回の原告の意見陳述は岸和田市在住のAさんがおこなった。Aさんは「稼働能力の活用」をめぐって争い、勝利した岸和田裁判の原告でもある。Aさんは中卒で運転免許がなく、妻が膝の持病のため立ち仕事ができないため、いくら仕事を探しても就職先が見つからず、所持金が数百円になり生活保護を申請したが、岸和田市は申請書さえ渡さず5回にわたって申請を拒絶した。
その理由はAさんが30代、妻が40代なので「探せば仕事はあるはずだ」「稼働能力を活用していない」というものだった。岸和田市は、Aさんに食費どころか交通費もないことがわかっていながら、「大阪市に行けば仕事が見つかる」として申請を拒絶していたのである。
2009年7月、大阪地裁はAさんの主張を認め、岸和田市は6度目の申請を受理し、Aさん夫妻の生存権がようやく認められた。
Aさんはこのときの苦しい思いを語った。日雇いや登録型の派遣の仕事、さらには雇い止めを何回も経験し、夫婦で100円ショップの小麦粉とキャベツで飢えをしのいでいた。絶望から自殺も考えたことがあるという。保護基準引き下げ違憲訴訟は生活保護利用者の命が文字通りかかっていると訴えるAさんの発言には迫力があり、裁判官も聞き入っていた。
弁護団の意見陳述
つづいて憲法論の主張がおこなわれた。国の主張は「厚生労働大臣の判断の幅は広いので引き下げには問題ない」「専門家の意見など聞かなくてもよい」というものである。富田弁護人はこういう国の主張の誤りを原告や傍聴者にもわかりやすく説明した。
厚労省が数値を操作
口頭弁論終了後の報告会では北海道新聞のスクープが報告された。厚労省の保護基準部会が最低限必要なものとして出した数値を、今回の引き下げにあたって、勝手に操作し、2分の1にしていたことが明らかになったのである。こんなデタラメはない。
切り捨てを許すな
国や大阪市をはじめ生活保護行政の悪質化が目立ち始めている。生存権を認めるのではなく「面倒みてやっているんや」という思想がまん延している。「生活できなくなったのは本人の責任や」というのである。こんなことを許してはならない。
労働者はいつでも失業の危機と背中合わせである。労働法制と社会保障の解体攻撃の中で、Aさんのようにどんなに努力しても仕事にすらつけない事態が日本社会に充満しはじめている。あきらめるのではなく力をあわせ、あくどい攻撃を押し返していくことが問われている。
生存権めぐる闘い
すべての人たちに影響する前代未聞の生活保護基準の引き下げにたいして、現在、全国27都道府県で900人を超える生活保護利用者が原告として違憲訴訟に立ち上がっている。この「いのちの砦」を守るための違憲訴訟を幅広い全国的な運動にしていくための「支援の会」(仮称)が11月7日、衆議院第1議員会館大会議室で開催される予定である。社会保障解体攻撃とたたかうことは労働運動の正面課題である。
次回口頭弁論は11月30日(水)午後3時。多くの人たちの傍聴を訴えたい。(矢田)
「『21世紀の貧困と国家改造』を読んで」に答える
森川数馬
『未来』199号と200号の2回に分けて掲載された「21世紀の貧困と国家改造 安倍政権の一億総活躍社会」にたいして、206号5面に掲載された「〈読者からの手紙〉森川数馬『21世紀の貧困と国家改造』を読んで」を含め、いくつかの異論や意見が寄せられました。これまで筆者が『未来』や『展望』に表した問題提起にコメントや批判が少なかったので、うれしいことだと受けとめています。筆者としての意見表明が必要と思い以下、記します。
森川論文で投げかけていること
拙論は労働運動の領域についての、私の運動人生(60年後半反戦青年委員会運動から)の過去と現在の実践・実在をもとにしたものです。問題意識は@総評労働運動をこえる可能性を確かに提示した〈反戦青年委員会〉運動は何故終わったのか、A現代資本主義(金融資本による新自由主義・グローバリゼーション)の社会〈破滅〉に何をもって対抗し、変わる社会のあり方を提示できるのか。〈労働運動領域〉はどうあるのか、B労働運動を論じるときの宿痾である固定観念の打破です。
それを私は「可塑性」と表現しました(『展望』12号所収「問われる労働運動の再構築―社会運動的労働運動へ―」)。「労働者」規定の可塑性も含んで使います。C安倍政権の独特の「労働政策」を暴きどうたたかうか。こういう視座から苦闘する労働者・民衆の力の一助になればと評論、現場報告を『未来』などに発表してきました。『未来』196号では「格差・貧困を打破する最低賃金闘争」という小論も書いています。この本筋での論議を強く望みます。
新しい「哲学」について
このことについて批判があいついでいるので以下コメントさせていただきます。ひとつは安易な使用、丁寧な説明もなしに使ったとの批判は受けとめます。哲学とは、私などの労働者メンバーでは「人生、世界と事物の根源のあり方と原理」がぴったりの感覚です。カント、スピノザも読みますが、初期マルクスの諸文献がその雰囲気にあうのではと思います。概念確定しながら振り回していないと思います。この言葉を使ったのはスベトラーナ・アレクシエービッチ(チェルノブイリの祈り』ベラルーシのノーベル賞作家)の言葉に触れたからです(今年4月15日朝日新聞の訪日インタビュー)。彼女はチェルノブイリの民衆が「教会に駆け込んだ」(教会は閉鎖をといた)現実に、「科学もマルクス・レーニン主義も答えを与えなかった」「自然との関係をどう築くのか。新しい哲学が必要なのです」と述べたことに感化されてです。「哲学」という言葉を生きる軸として提示した思いです。私はいま起っている反新自由主義運動の模索と理念を「新しい哲学」(「」つけています)と表現したのです。
ナチス政策を取り上げたことについて
このことについても批判がよせられました。内容に踏み込んだものではないのは残念ですが、この原稿での問題意識について以下述べたいと思います。
安倍の内政・経済政策批判は重要ポイントでどこも成功していないとつくづく感じていました。それへの対抗戦略と思想が必要とずっと考えてきました。安倍は「積極的労働政策」にうって出ることで打開しようとしている。それが安倍政権の「一億総活躍社会」「働き方改革」です。そこにナチス的手法を見ることができる。
資本主義の危機と民衆の反乱にナチスがとった政策は「攻撃的」労働政策で、労働組合を破壊したあと新秩序「ドイツ労働戦線」(経営と労働者の強制加入、2000万人を組織)をつくり、国民労働秩序法(1934年1月)によって指導者原理と業績主義(経営は指導者、その他の全ての民衆は労働者=従者)をもって国家による信託官制度による賃金・年金制度で資本主義の危機を突破しようとしたのです。
その道はナチスがそうであったように社会の破滅をもたらすだけです。このような攻撃に警鐘を鳴らすには「ナチス的手法」を論じるのが有効ではないかと考えて使用したものです。問われていることは新自由主義・資本主義の終焉であり、それにかわる99%による新たな主体宣言と社会の建設の開始であり、「指導者」「従者」概念、「成長」神話からの脱却なのです。
自戒を含めた呼びかけ
投稿では「新自由主義を哲学と位置づけられている」「用法が完全な間違い」「この問題がある種深刻な問題を含意」とまでいい、「対カクマル」戦(私は「」付で使用)まで引き付けています。展開は不明瞭ですが―これは論理に無理があるように思います。
「完全な間違い」とまで言い切る議論はあるのだろうか? こういう論難をこととした旧来の「革共同・新左翼」の悪しきあり方を脱することを願いたい。このような論難を議論といいなす風潮をやめにしたいと、自戒も含めてよびかけたいと思います。
まず@「対カクマル」戦を「黒田哲学批判で終えた」という認識は事実だろうか?事実は「持続不可能」、疲弊した現実を5月ガイド転換(労働運動転換)でごまかしたというのが真実と私は総括しています。
A新自由主義について。わたしは「哲学」とはいっていませんが、対抗運動を「新たな哲学」と言ったのでそうとられたことはあると思いますが、新自由主義は資本の運動の「政策思想」とは言っていいとは思います。
そのことが「深刻な問題」で今回の森川論文の論述がどの点が、どのような「事実」や「問題」を引き起こすのか明示してない点で理解が進みません。それが明示されてこそ議論は発展すると思うのですが…。