未来・第199号


            未来第199号目次(2016年5月19日発行)

 1面  5・3憲法集会 全国で行動
     東京5万 大阪2万 署名1200万

     熊本大地震下の伊方原発
     「再稼働させるな」2800人

 2面  格差を許すな・戦争法は廃止
     第87回 中之島メーデー闘われる

     JR尼崎事故から11年
     過酷な労働と続く事故

     5・3憲法集会
     全国で行動(1面より)

 3面  特集 安倍政権を斬る@ 関西大教授 高作 正博
     「みっともない政権」の改憲論      

     (本の紹介)
     立憲主義とは何か
     樋口陽一 小林 節 「憲法改正」の真実(集英社新書)

 4面  特集 安倍政権を斬るA 元自衛官 小多 基実夫
     最前線化する南西諸島
     進む自衛隊の対中国シフト

 5面   特集 安倍政権を斬るB 森川 数馬
     21世紀の貧困と国家改造(上)
     安倍政権の一億総活躍社会      

 6面  特集 安倍政権を斬るC 若狭の原発を考える会 木原 壯林
     新規制基準で安全は確保できない      

     関電はびわ湖を汚すな!
     びわ湖一周デモにのべ700人      

 7面  被害者不在の「合意」は解決ではない
     4・16 大阪で国連勧告報告集会

     刑訴法改悪は冤罪の温床
     4・14 院内集会と国会デモ

     ふつうに生きて くらしたい
     4・21 日比谷で3000人が集会

 8面  ルポ
     甲状腺がんの患者・家族が声をあげた
     ―「家族の会」を結成(中)
     請戸 耕一

       

5・3憲法集会 全国で行動
東京5万 大阪2万 署名1200万

【東京】

3日、東京臨海広域防災公園で5・3憲法集会が開かれ、5万人が集まった。12時から、きたがわてつさん、古謝美佐子さんらによるプレコンサートがおこなわれたが、その間にも続々と人が集まり、広い会場を埋めつくしていった。
午後1時から、制服向上委員会の斎藤優里彩さんの司会で始まった集会では、高田健さんの開会あいさつに続いて、森谷結真さん・白鳥亜美さん(第17代高校生平和大使)、菅原文子さん(農業生産法人役員・辺野古基金共同代表)、むのたけじさん(ジャーナリスト)、浅倉むつ子さん(市民連合・早稲田大学大学院法務研究科教授)からアピールがおこなわれた。

新しい歴史の始まり

今年、101歳になるむのたけじさんは「私ども新聞にたずさわり、国民に真実を伝え道を正すべき人間が何もできなかった。これはなぜなのか。戦争を始めてしまったら、止めようがないということです」「この会場には若い力が燃え上がっています。いたるところで女性たちが立ち上がっています。新しい歴史が始まっています」「戦争を殺さなければ、現代の人類に生きる資格はない。その覚悟でがんばりましょう」と訴えた。
カンパアピール、政党あいさつに続いてリレートーク。発言者は、奥田愛基さん(SEALDs)、市川斉さん(シャンティ国際ボランティア会)、青木初子さん(沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)、片岡遼平さん(原子力資料情報室)、家平悟さん(障がい者、患者9条の会)、朝鮮高校生徒、纐纈美千世さん(日本消費者連盟)、糀谷陽子さん(子どもと教科書全国ネット21)、嶋ア量さん(日本労働弁護団)、竹内三輪さん(しんぐるまざーず・ふぉーらむ)。

憲法は私たちの言葉

「戦争法の最前線に沖縄はあります。戦争法廃止と新基地建設阻止を皆さんと勝ち取っていきたい」(青木初子さん)
「安倍政権に変わり、在日朝鮮人、韓国人にたいするヘイトスピーチは増え続けています。2010年、日本政府は高校無償化から朝鮮学校だけを排除しました」「朝鮮が、核実験をした、ミサイルを打ち上げたと報道があるたび、ヘイトスピーチが強まります。私たちは、日本政府の非人道的な差別に負けることなく、強く生きていきます」(朝鮮高校生)
「憲法に書かれている言葉は、大昔の人たちの言葉でもないし、もう終わった言葉でもありません。これは、紛れもなく、私たちの言葉なのです」(奥田愛基さん)。
最後に、戦争させない1000人委員会の福山真劫さんが行動提起。戦争法廃止署名が1200万筆を超えたと報告され、会場から大きな歓声が上がった。その後、二つのコースに分かれてデモ行進。改憲反対と戦争法の廃止を訴えた。

【大阪】

戦争法を廃止へ!

大阪の憲法集会に2万人が参加(3日)

3日、大阪・扇町公園で「憲法こわすな! 戦争法を廃止へ! 平和といのちと人権を!」をかかげて、おおさか総がかり行動がおこなわれ、2万人が参加した。主催は実行委員会。
集会の前段で、コーラスうたごえや川口真由美さんらの『ケサラ』のコーラスが会場に響き渡った。午後1時半から始まった集会では、最初に大阪弁護士会会長の山口健一さんがあいさつ。
続いて、民進党のおだち源幸さん、共産党のわたなべ結さん、社民党の服部良一さん、生活の渡辺義彦さんらがそれぞれ政党を代表して発言。
シールズ関西、安保法制に反対するママの会、高校1年生、ティーンズソウル、憲法学者の会、大阪宗教者9条の会がアピールをおこなった。
集会の最後に5・3大阪総がかり行動集会宣言案が読み上げられた。「多くの市民・国民が声をあげれば、戦争法を廃止させることは可能です。主権者は私たちです。日本を戦争する国にさせてはなりません」という宣言案を参加者の大きな拍手で確認した。その後、3方向に分かれてデモ行進をおこなった。(2面へつづく)

熊本大地震下の伊方原発
「再稼働させるな」2800人

4月23日、松山市城山公園・やすらぎ広場で、「伊方原発再稼働を許さない4・23〜in松山」が〈伊方原発をとめる会〉の主催で開かれ、地元愛媛をはじめ中四国・九州・全国から2800人が参加した(写真)
今回の熊本を襲った連続的な大地震は、あらためて日本において繰り返し大地震が頻発しているという現状と、そのなかで進められている「原発推進という国策」、「企業の営利優先」という問題を突き出した。
安倍政権と原子力規制委員会、電力会社は、今回の熊本大地震の影響を大きく受けたであろう鹿児島・川内原発を「動いているから問題ない」として、止めることもなく稼働し続け、中央構造線に沿って立地する伊方原発についても原発再稼働前の最終点検を進め、この7月にも再稼働を強行しようとしている。
住民の安全を無視し、原発推進を進める安倍政権と原子力規制委員会、電力会社に対する怒りにもえた行動として勝ち取られた。

避難などできない

主催者を代表して〈伊方原発をとめる会〉事務局長の草薙順一さんが開会あいさつ。つづいて、講談師の神田香織さんが登壇、「チェルノブイリ・福島の叫び」のさわりを熱く語った。
事務局からの報告、伊方原発をとめる弁護団からの報告に続いて、共産党と社民党の国会議員から発言があり、メッセージ紹介があった。
〈住民投票を実現する八幡浜市民の会〉から遠藤綾さんと斉間淳子さんが登壇。八幡浜で短期間に9999人の住民投票を求める署名が集まったが、市議会がその思いをふみにじり9対6で否決したことを報告、住民投票への協力のお礼を述べた。
長年、佐多岬に通じる国道197号線のトンネル工事に従事してきた伊方町在住の大塚和義さん(85)が登壇。長年の経験に基づいて、避難経路である197号線が地震に対していかにもろいかを語り、「避難などできない」と断言した。
集会の締めくくりとして「原発再稼働ゆるさん!!」のプラカードアピールを集会参加者全員でおこなった。その後、二つのコースに分かれ、市内デモに出発した。四国電力原子力本部前を通るコースではひときわ大きな「再稼働反対」「四電は伊方を動かすな」のコールが上がった。
四国電力は、7月にも伊方原発3号機の再稼働を狙っている。熊本大地震(今なお継続している!)を受けても原発を動かそうとする安倍政権と原子力規制委員会、電力会社・四国電力に怒りを燃え上がらせ、伊方原発再稼働を阻止しよう。

(お知らせ)

『未来』次号は6月2日(木)発行です。6月以降は、通常通り第1、第3木曜日発行です。



2面

格差を許すな・戦争法は廃止
第87回 中之島メーデー闘われる

中之島メーデーは午前10時から剣先ひろばで開催され、五月晴れの好天のなか大阪各地から約800人をこえる仲間たちが集まり、大阪市役所〜関西電力〜西梅田公園までデモがおこなわれた。会場中央には「万国の労働者団結せよ! 中之島メーデー」の真っ赤なメーデー旗。左右には「格差を許すな! 競争ではなく共生の社会を実現しよう!」「沖縄・辺野古新基地阻止! すべての米軍基地を撤去しよう!」の垂れ幕がかかっている。集会に先立ち「関生太鼓」が会場全体の雰囲気を盛り上げた。

安倍打倒の決意

集会では最初主催者挨拶として大阪全労協議長福田さんが130年前のシカゴ労働者の8時間労働を求めたたたかいの精神をよみがえらせ、労働法制・悪化する労働現場でのたたかいを訴え、熊本大地震被災にふれ、原発とめろ、戦争法廃止へのたたかいを提起。大阪労働者弁護団の中島代表幹事、しないさせない戦争協力関西ネットの中北代表からの特別アピール。来賓として自治体議員紹介、夏の参議院選挙をたたかう野党各党からのあいさつを受けた。それぞれから安倍政権の打倒が訴えられた。
音楽ライブとして「まーちゃんバンド」が『風人(かじぴとぅ)=自然と共に生きる人、思いやりを持つ人』をコンセプトに、命や自然の大切さ、沖縄からのメッセージを「夢咲きほこれ」「琉球の風」など4曲の演奏で沖縄から「世界にとどけ」と反戦を訴え、会場全体が呼応する。

労働者のアピール

そして今回のメインでもあった争議・闘争アピールがJAL不当解雇争議団から「職場復帰までたたかう」との訴えを最初に、参加労組から当該が次々と登壇して報告し、その勝利へ決意を固めた。郵政ユニオンの19万人に及ぶ非正規雇用労働者の均等待遇を求めた全国ストライキ、「フェアな生活できる賃金」を求める外国人労働者のたたかい、悪質なセクハラとたたかうマリーマーブル(神戸)など各職場から。
全日建連帯労組からは新たな産別支部(医療介護・清掃など)「関西クラフト支部」の結成も報告された。全港湾大阪支部の山元委員長が5・3憲法集会(扇町公園)への2万決起の檄。閉会のあいさつを連帯関生支部武副委員長がおこない「労働者は戦争を止める」と締めくくった。
また、連帯メッセージが全大阪労連、日比谷、京都、小名浜、郡山、静岡中部、たたかうヒロシマから例年のように届いた。安倍政権の打倒なくしてわれわれ労働者の未来はない、政権の打倒なくしては日本の未来も、沖縄の未来もないを共通の意志として、メーデー宣言し市内デモに。「最低賃金1500円実現!」のシュプレヒコール、関電前では「原発止めろ!」のひときわ高い声が響いた。

全国・全世界で

市内・関西圏では港地域メーデー、若者たちが参加した釜ヶ崎メーデー、京都、尼崎で戦闘的メーデーがたたかわれた。日比谷メーデーでは7800人が「安倍のやり方に現場は怒っている!」「アベノミクス失敗で安倍政権は“戦争・独裁”を強めてくるはず。それを止めて政治状況を変えるには、市民運動と労働運動の協力しかない!」と訴えた。
労働法の改悪反対を掲げフランスなど世界で戦闘的にたたかわれた。
(労働通信員 M)

JR尼崎事故から11年
過酷な労働と続く事故

4月17日尼崎市内において、「2016年 ノーモアJR尼崎事故 生命と安全を守る4・17集会」が開かれ80人が参加した(写真)

JRの責任追及

集会の基調をJR現場の国労組合員がおこなった。「05年4月25日福知山線の脱線転覆事故は107人の死者と562人の負傷者を出し、今なお多くの遺族・被害者に心の傷を負わせている。この事故はJR西日本の企業体質が原因。小さなミスでも個人責任が追及され、会社への服従を強いる労務管理。十分な休養もとれない勤務実態と要員不足。その根源は国鉄分割・民営化にある」。
「現場では安全軽視と合理化施策に反対してきた。遺族は、歴代のJR西日本社長を裁判に訴え、なぜ事故が起きたのかという原因と企業の責任を追及してきた。
ノーモアJR尼崎事故・命と安全を守る集会を、事故の教訓を決して忘れず、首切り・民営化・規制緩和にたいする多くの労働者のたたかいに強く連帯し、共にたたかいに立ち上がる決意を持ちあう集会にしていきましょう」と提起した。

人員削減と合理化

記念講演を元国労の役員・東京中部全労協議長の青柳義則さんがおこなった。青柳さんは「JR東日本、北海道で考えられない重大事故が多発している。事故の原因はJRの現場を管理部門と保安部門にわけ、保安部門を“丸投げ”で外注化し安全を軽視していること。人減らし合理化がすすみ、技術継承がとだえている。昨年4月12日に発生した山手線の電化柱倒壊事故も、事故現場を確認にいったJR幹部が危険と判断できないという状況だ。駅・営業部門でも合理化がすすみ、ホーム事故がおこっている。命と安全を守る取り組みを全国でつくりだしていこう」と訴えた。
JR尼崎事故遺族から「事故の風化を許さないためにも事故現場の保存を求める。そして、2度と事故を起こさないために『企業の責任を問える組織罰』を実現していきたい。4月に立ち上げる」と報告した。

新自由主義と規制緩和

全日建と全港湾の労働者は、1月15日の15人の死者を出した軽井沢スキーバス横転事故にふれ、長距離バス・トラック労働者の実態を報告した。「規制緩和による事業の免許制から許可制へ、運賃の自由化、競争激化、運輸労働者の過酷な勤務が原因」と訴えた。
またJAL不当解雇撤回争議団が支援を呼びかけ、JR西日本の労働者はJR契約社員、関連労働者の労働条件改善とその組織化、JR北海道の赤字ローカル線廃止反対をオール北海道で取り組んでいると報告し、集会を終えた。

命より金儲け

このあと集会参加者は、事故現場までデモをおこない献花した。
資本主義が行き詰る中で、新自由主義へと舵を切った日本の支配階級は労働組合の破壊、規制緩和をとおして国鉄資産を食い物にし、人の命より金儲けを優先させた。その結果が尼崎事故だ。
この11年、尼崎事故につづく大きな事故がくりかえしおこっている。今年7月に、国政選挙がおこなわれる。「選挙ぎらい」をのりこえて反転攻勢を切り開いていこう。(国労組合員 T)

5・3憲法集会
全国で行動(1面より)

【京都】

3日、「生かそう憲法 守ろう9条 明日を決めるのは私たち 戦争法廃止! 安倍政権を許さない 5・3憲法集会in京都」(主催 憲法9条京都の会・京都96条の会)が円山野外音楽堂で開かれ、参加者は3千人を超えた。今回、京都の憲法集会では初めて6つの政党が来賓として参加し、あいさつをおこなった。
社会民主党京都府連合代表の桂川悟さん、新社会党京都府本部委員長の池内光宏さん、生活の党京都府第4区総支部支部長で元衆議院議員の豊田潤多郎さん、日本共産党京都府委員会で衆議院議員の穀田恵二さん、緑の党グリーンズジャパン京都府本部運営委員の多々納眞弓さん、民進党京都府総支部連合会会長代行で 参議院議員の福山哲郎さんがそれぞれあいさつ。壇上で6人が手を取り合ってエールを交換(写真)
講演は、京都大学人文科学研究所教授の山室信一さん。テーマは「憲法9条の新たな使命〜戦う立憲民主主義へ〜」。 集会後、四条河原町を通って市役所前までデモをおこなった。

【兵庫】

3日、兵庫では今まで別々におこなわれていた憲法集会が、「戦争させない、9条壊すな!」5・3兵庫憲法集会として共同して開かれた。市民団体、戦争をさせない1000人委員会・ひょうご、憲法改悪ストップ兵庫県共同センターが呼びかけ、5・3総がかり行動県実行委員会として主催し、神戸・東遊園地には約1万人が集まった。実行委員会の羽柴修弁護士は「昨年9月の戦争法強行以降も、『忘れない』という行動が強まった。きょうは賛同400団体をこえた。次は参議院選へ」と報告。水岡俊一・参議院議員と金田峰生・予定候補が発言。司会の小山乃里子さんは「野党で2議席を」と訴えた。
メインスピーカー、秋葉忠利・元広島市長は「9条をはじめ日本の憲法は世界の指針になる」と話し、終了後デモに出た(写真)

【広島】

3日「平和といのちと人権を〜5・3ヒロシマ憲法集会」が集会実行委員会の主催で開かれ、約2千人が広島市中区のハノーバー庭園に集まった。戦争をさせないヒロシマ1000人委員会の佐古正明さん、広島県9条の会ネットワークの石口俊一弁護士のあいさつ。メインスピーカーの落合恵子さんは、「今日の雨にも負けず、安倍にも負けず頑張りましょう」と呼びかけ、栗原貞子さんの『産ましめんかな』などを朗読。「この地に思いを馳せる政治家がいるか。平和憲法を壊してはならない」と訴えた。

3面

特集 安倍政権を斬る@ 関西大教授 高作 正博
「みっともない政権」の改憲論

序 進行中のクーデタ

安倍内閣によって統治される日本では、重要な法原則が危機に瀕した状態にある。@「解釈改憲」のクーデタと「安保法」制定による「立憲主義」の破壊、A法律の趣旨を逸脱して辺野古新基地建設を強行しようとした「法治主義」の破壊、B民意を無視した原発再稼働や新基地建設、表現の自由・報道の自由にたいする介入がもたらす民主主義の破壊、C国家の政策に反対する市民の監視・排除・統制による自由主義の破壊である。
クーデタを正当化するための企てが改憲であるとすれば、この流れを止めなければ、私たちはクーデタを黙認したことになってしまう。本稿では、日本国憲法を「みっともない憲法」と呼ぶ首相が提示するであろう改憲論の問題点を検討する。様々な原則を破壊する「みっともない政権」が、どんなに「みっともない改憲案」を提示しているのかを明らかにしたい。

1 「緊急事態条項」は必要か

緊急事態とは、有事・戦争、内乱、恐慌、大規模自然災害など、平時の統治機構では対処できない状態を表す概念であり、国家緊急権とは、そのような状況にあって国家の存立を維持するために、国家権力が憲法秩序を一時的に停止し、非常措置をとる権限をいう。従って、緊急事態は、「社会現象」と「自然現象」を区別しない点に特徴を有し、また、国家緊急権は、@「法」の停止とA執行権・行政権の拡大を本質とする。

濫用の危険性

一般に、国家緊急権の明文化については、次の点を考慮にいれる必要がある。@まず、その危険性が指摘されなければならない。国家の存続のためのやむを得ない措置として、その必要性が指摘されることがあるが、劇薬の効果が強すぎて通常の国家状態の回復が困難になるのではないか。
また、A国家緊急権の主体は、緊急事態かどうかまで判断する権限を有する。緊急事態を決定できるとすれば、権力の集中を自らの判断で実現できることとなり、国家緊急権の制度化は、濫用の危険性が大きすぎる点に課題を抱えている。
さらに、Bその危険性をできる限り除去しようとして厳格な手続的・時間的制約を設けることが考えられるが、要件を厳しくすればするほど使い勝手の悪い制度となり、かえって法制度を超える超実定法的な権力行使を誘発する。

「ほととぎすの卵」

日本では、次の点も留意すべきである。@既に様々な法律が整備され、災害対策などに当たっては法律を着実に実施することこそが重要である。災害の混乱に乗じて緊急事態条項のための改憲を主張することなど、あってはならない言動である。
また、A1928年に、治安維持法「改正」案が議会で廃案になった後、政府は、「緊急勅令」により法案の制定を強行した(高見勝利「憲法を踏みにじる権力と憲法を守る力の相克」長谷部恭男・杉田敦編『安保法制の何が問題か』〔岩波書店、2015〕80頁以下)。国家緊急権を濫用した歴史を無視すべきではない。
さらに、B自民党の改憲草案に盛り込まれた条項では、手続的制約も時間的制約も機能しない(国会の「事後」承認も可、期限の延長可)。この条項が、民主主義の中から独裁への途を切り開く「ほととぎすの卵」になってしまうことを回避すべきである(宮沢俊義『法律学における学説』〔有斐閣、1968〕151頁以下参照)。

国会正門前をうめるデモ(15年8月30日)

2 自民党・改憲草案の狙い

緊急事態条項以外にも、自民党の改憲案には深刻な問題が内在する。まず、自民党「日本国憲法改正草案」(2012年4月27日)は、憲法上の基本原則の大変革を目論む点で大きな特徴を有する。@国家権力を制約する憲法から国民を義務付ける憲法への大転換を含む点で、立憲主義を廃棄するものである(国旗・国歌の尊重義務〔第3条第2項〕、憲法尊重義務〔第102条第1項〕)。
また、A憲法第9条の平和主義の精神を根底から覆す内容である(「自衛権」の明文化〔第9条第2項〕、国防軍の創設〔第9条の2〕、内閣総理大臣による統括〔第72条第3項〕、国防軍における審判所の設置〔第9条の2第5項〕)。
さらに、B個人・人権の尊重より「公益及び公の秩序」の優位へと人権保障が大幅に後退する内容となっている(「個人」の尊重から「人」の尊重へ〔第13条〕、「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」へ)。社会保障でも、家族ないし女性に育児・介護などの押しつけが強行されうるものとなる(「自己責任」化)。

改憲ではなく法整備を

また、改憲案からは、権力者の・権力者による・権力者のための改憲案という性質が浮かび上がってくる。@批判されてきた自らの政策を正当化するための改憲案が盛り込まれている点である(選挙権を「日本国籍を有する成年者」に限定〔第15条第3項〕、政教分離原則の例外を明記〔第20条第3項〕、公務員の労働基本権の制約を明記〔第28条第2項〕)。
また、A憲法に盛り込む必要性のない条項を挿入することで、有権者・主権者の支持を得ようとする意図も透けて見える(個人情報の不当取得の禁止〔第19条の2〕、環境保全の義務、在外国民の保護、犯罪被害者等の保護〔第25条の2、3、4〕、教育環境の整備に努める国の義務〔第26条第3項〕など)。
後者の項目を迅速に進めたいのであれば、今すぐ法律を整備すれば可能である。従来、政権担当者が、人権保障や市民の保護に積極的だったかどうかはともかく、改憲論に逃げ込むのではなく、やるべきことは法律による対処を考えるべきであろう。

結 「民主主義のジレンマ」を超えて

ナチス政権によって、民主主義の中から「民主主義の破壊者」が登場する危険性を痛感したドイツは、戦後、「自由で民主的な基本秩序」を破壊する思想・政党を認めないとする原則を採用した(「戦う民主制」)。
日本は、不十分な民主主義下での「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」た(日本国憲法前文第1項)。従って、私たちは、「人権に対してたたかうべきではなく、どこまでも人権によってたたかわなくてはならない」(宮沢・前掲173頁)。
「安保法」反対の活動を通じて、「観客」から「デモ」へと成長を遂げた私たちは、さらに、自らの民意が多数を占めるよう、表現の自由、集会・結社の自由、選挙権などの「人権によってたたかう」べきである。「デモ」から「投票」へ! そのために私たちは、ここにいる!

(本の紹介)
立憲主義とは何か
樋口陽一 小林 節 「憲法改正」の真実(集英社新書)

崖っぷち

立憲主義をマスコミが大きく取り上げはじめたのは、礒崎陽輔・自民党憲法改正推進本部事務局長の「立憲主義など芦部先生から習っていない」というツイートからか。
恥ずかしながら、それまで「立憲主義」についてまともに知らなかった。立憲主義の理解が難しいのは、「憲法で縛られるべき権力が、絶対君主制でなく『国民主権』で見えなくされている」からだと。「ビリケン(非立憲)寺内!」とはやされた大正時代の方が、はるかに立憲主義が認知されていたとの指摘に眼からウロコ。民主選挙で選ばれた議員、まして首相自らが「私が首相なのだから」何をしても許される―国会で議論もはじまってないのに、アメリカに集団的自衛権を約束するなど―とする。立憲主義は、まさに崖っぷちにある。
世界一民主的なワイマール憲法下のドイツが、独裁ナチスを「民主的に」生み出した。戦争とアウシュビッツを止められなかった。民主主義が立憲主義を破壊した歴史から学ぶことを、声を大にして言わねばならない。麻生財務大臣は「ある日気がついたらワイマール憲法がナチス憲法に変わっていた。あの手口に学んだらどうか」と言った。「自由の敵に自由を与えてはいけない」とドイツは、この血の教訓を法制度に生かしている。いま日本はこの瀬戸際にいる。

憲法13条の「個人」

自民党改憲草案で「個人が人と変わった」理由が、いま一つわからなかった。「憲法に個人主義が持ち込まれたせいで社会的連帯が失われた」(自民党)というのが理由。どうも「人として尊重」(草案)というのは犬や猫と違う「人」以上のものではなく、「共同体の束縛から解放された、自由な個人を主体とする個人の権利」を尊重するということとは天と地の開きがあることがわかった。
片山さつきはハッキリと「天賦人権論を採るのは止めようというのが私たち(自民党)の基本的考え方」と明言している。自民党草案は「人類普遍の原理」(前文)を全面的に消した。

企業のための改憲

草案では、現行憲法の「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」と言い換えているが、1カ所だけこの制約が消えているところがある。それが憲法学者が「経済的領域における基本権」と呼んでいる第22条の1項(居住・移転、職業選択等の自由)だ。「世界で一番企業活動しやすい国」めざす安倍が、ここだけは制約をとっぱらっているのだ。
〈護憲派の泰斗VS改憲派の重鎮〉プロレス並みの帯だが、なかなか読み応えのある改憲論議だ。いろいろ学ぶことが多い。(田村)

4面

特集 安倍政権を斬るA 元自衛官 小多 基実夫
最前線化する南西諸島
進む自衛隊の対中国シフト

現在自衛隊は、南西諸島全域を「戦場」として設定し、中国にたいして戦争を準備する体制を進めています。「いままでは南西諸島が『空白地帯』だったが、これからは自衛隊がきちんと防衛しなければならない」という理屈です。

南西諸島連なるレーダー基地群

1972年の沖縄「復帰」以降、自衛隊は、沖縄本島の他に、沖永良部島、久米島、宮古島に航空自衛隊のレーダー基地を置いています。もともとこれらのレーダー基地は、戦後に米軍がつくったものです。
自衛隊はこれらレーダー基地群を「警戒管制」と防御的な命名をしていますが、その役割は航空機を監視し、その情報を迎撃部隊に伝えて要撃管制をすることです。その他に「敵地への」爆撃に航空機を誘導する任務も持っています。
これらに対応するのは今回2倍の40機体制に増強された那覇基地の空自のF15戦闘機です。自衛隊のレーダーやミサイル、戦闘機が守っているのは、沖縄の場合、米軍の嘉手納基地なのです。
ところがこのたび、宮古島に自衛隊が地下司令部をつくろうとしています。当然、ここが大きな攻撃目標になるわけですから、これを守るためのレーダー基地を、まず与那国島につくろうということになっているのです。今回は陸自ですが駐屯地内に空自用のレーダー陣地もあらかじめ準備しているようです。今後はおそらく与那国島に限らず、あちこちの島にレーダー基地をつくることになるでしょう。

南西諸島全図

宮古島司令部の役割

それではなぜ、宮古島に自衛隊が司令部をつくろうとしているのかということですが、沖縄本島から西南の地域で大きな島は、宮古島・石垣島・西表島しかありません。宮古島は平坦な地形なので基地に適しています。
また宮古島のすぐ近くにある下地島に空港があります。この下地島空港にはほとんど使われていない3千メートル滑走路があります。また宮古島と伊良部島は立派な橋で繋がりましたが、この伊良部島と下地島空港はほぼ一体のものです。
こうしてみると、自衛隊は宮古島〜石垣島(八重山諸島)を沖縄島に続くもう一つの拠点にしようしていることはあきらかです。つまり宮古海峡を沖縄島と宮古島の両方から攻めて中国艦船と飛行機をやっつける。そういう態勢のための宮古島の地下司令部と下地島空港軍事化なのです。それはこの地域(沖縄島、宮古、八重山)を「戦場」として想定しているからであって、「空白地帯」うんぬんという話ではありません。
一部の人は「自衛隊が来ることによって人口減少問題が解消する」というようなことを言っているようですが、そんなのんきな話ではありません。また、「いつかは戦争に使われる」というようなそんな遠い将来の話でもありません。だから自衛隊も急いでいるのです。
下地島空港はすでに完成した空港です。自衛隊あるいは米軍をこの空港に配備するとしたら、新たに土地を収用する必要がありません。軍事施設を造るための土地は十分にあります。隊舎はどうか。これもすでにできあがったものがあります。もともと全日空や日本航空が訓練のために使っていた宿泊設備が、いまは空っぽになっているのです。沖縄県はこの空港機能の維持のための財政負担が大変らしいのですが、そこに衆院議員の下地幹郎とその一派が自衛隊や米軍を誘致して「戦争成金」を画策しています。
このように、きわめて短期間で宮古諸島に軍事拠点ができてしまう状態にあります。今の自衛隊配備のなかでは下地島空港のことはおくびにも出していません。それはすでに空港としては完成しているからなのです。この空港に手を付けないということはまずありえません。

航空自衛隊宮古島分屯基地

石垣島にミサイル部隊

石垣島自衛隊配備推進協議会という推進派の人たちが配っている資料を見ると、「住民の命と平和な暮らしを守ります」と書いてあります。この資料はおそらく防衛庁がつくったのだと思いますが、それではどのような部隊が来るのかというと「警備部隊」「地対艦誘導弾部隊」「地対空誘導弾部隊」などがあがっています。「警備部隊は災害派遣で役に立ちます」などということが書かれています。
ところで「地対艦誘導弾」というのはミサイルです。地上から艦船を撃ちます。対象は軍艦に限りません。敵の補給を絶つために、漁船から商船まであらゆる船舶をねらいます。資料では「他国艦艇の島嶼部に対する侵攻を可能な限り洋上において阻止し、海上優勢を確保する」と書いています。「他国の軍艦」とは書いていません。
もう一つ「地対空誘導弾」とは、PAC―2やPAC―3など地上から空をねらうミサイルのことです。資料では「誘導弾の発射訓練は八重山ではできません」とわざわざ書いています。これは本当です。
自衛隊のミサイル部隊は、国内では実射訓練をおこなったことがありません。私は、「ナイキ」という2段式ロケットの部隊にいましたが、ミサイルを射撃するとブースターという1段目のロケットが上空で切り離されて巨大な鋼鉄の残骸となって落下してきます。大変危険なものです。年に1回、アメリカ・ニューメキシコの砂漠まで行って撃っていました。そこには世界中のミサイル部隊が来ていました。日本と同様にドイツや韓国にもミサイルを発射できるような広大な演習場がないからです。だから国内の演習では実射出来ないのです。
しかし、実際に戦争になったら近隣住民の被害など構わず発射します。戦争のために配備しているわけですから当然です。ただ「あまりに危険だから平時には撃たない」というだけの話なのです。
また5〜600人規模の自衛隊部隊の配備を、あたかも大企業の誘致に匹敵するかのように言っています。しかし、その5〜600人を現地で採用することはありえません。沖縄の人が自衛隊に就職すると、みんなヤマトに連れて行かれます。
離島の台風被害にたいして、自衛隊が役に立つというようなことも言われていますが、ご承知のように、自衛隊は救助や災害派遣のための特別な訓練はやっていません。これはどこの国の軍隊も同じです。できるのはスコップでの雪かきや、軍手でがれき撤去など、人海戦術で誰でもやれることだけです。

那覇基地強化の意図

今度、航空自衛隊の那覇基地に「警戒航空隊」が発足します。E2Cという大きなレーダーを積んだ早期警戒機が4機配備されます。それから、ベトナム戦争末期から使われていた旧式のF4ファントム戦闘機を最新型のF15に入れ替えたかと思ったら、さらにそれを2倍化の40機体制に増強。また那覇基地の滑走路のコンクリートを分厚くして補強しています。これは燃料を満載した空中給油機を那覇空港を拠点にして展開させるためです。またこうした部隊の増強に伴って、滑走路新設のための埋立をやっています。
このように那覇基地がものすごく巨大化しています。
さらにPAC―2ミサイルをPAC―3に更新しています。PAC―2は飛行機を迎撃するためのものです。飛行機の前でミサイルを自爆させて、弾幕をつくります。そこにジェット機が突っ込むと破片に当ってだいたい墜落します。
PAC―3は弾道ミサイルを破壊するためのものです。PAC―2の4分の1くらいの太さです。PAC―3には爆弾を積んでいません。直接、弾道弾にぶつけるのです。弾道弾は、破片が当ったくらいではなんともありません。そこでPAC―3ミサイル本体をピンポイントでぶつけようというわけです。しかし飛行機とは比較にならない小さな標的が、また比較にならない猛烈な速度で突っ込んでくる。したがって迎撃はまず無理だと思われますが、それでもPAC―3を配備するということは、そこが敵の弾道弾の標的になると予測しているからです。繰り返しになりますが、沖縄を戦場にすることを前提にしているのです。

与那国島

住民を巻き添えに

また陸上自衛隊も部隊の入れ替わりはありますが、キャンプハンセンなどで海兵隊と常時演習をおこなっています。総じて沖縄は陸海空自衛隊の前線化しています。
先ほども触れましたが、宮古島、石垣島、与那国島の3島に配備される「警備部隊」とは地上戦をやる部隊です。戦争になれば飛行場の取り合いになります。飛行場と司令部を守るための「警備部隊」です。
これらの離島で地上戦になったとき、住民は避難できるのか。その点に関して自衛隊は「それは非常に困難です」と平気で言っています。つまり、かつての沖縄戦のように住民が逃げ惑うなかで戦争をやるという構えなのです。それから陸上自衛隊のヘリコプター部隊も配備するようです。オスプレイを導入する可能性もあります。
最後になりますが、これまでの国内の自衛隊基地はすべて米軍基地を引き継いだものでしたが、3月28日開設された陸上自衛隊与那国駐屯地は、自衛隊が初めて自前でつくった国内の基地です。自衛隊の前身、警察予備隊が発足してから66年にして初めてのことです。どこまで沖縄を踏みにじるのか。これも南西諸島が最前線化していることを象徴する事態ではないかと思います。
こうしたことを全国に知らしめて、高江―辺野古基地反対闘争とならんで全国的な運動にしていかなければならないと思います。

5面

特集 安倍政権を斬るB 森川 数馬
21世紀の貧困と国家改造(上)
安倍政権の一億総活躍社会

破産必至の「新・三本の矢」

「一億総活躍社会」は、安倍首相が自民党総裁に無投票で再選された昨年9月24日の記者会見において「新・三本の矢」とともに出された。今年1月の施政方針演説においては第3次安倍政権の骨格をなす方針と位置づけられた。
昨年9月の記者会見で安倍は「アベノミクスは第2ステージへ移る。めざすは『一億総活躍社会』だ。少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口一億人を維持する」と述べた。この大方針の実現のための「新・三本の矢」であり、それに対応した3つの「目標」である。 安倍の発言を整理すると以下のようになる。
@「希望を生み出す強い経済」―GDP600兆円
現在は約500兆円の名目国内総生産(GDP)を2020年頃までに戦後最大の600兆円に引き上げる。IT・ロボットなど、生産性を高めるための投資や規制改革の推進。非正規社員と正社員の賃金格差をなくす「同一労働同一賃金」を実現し、個人消費を底上げする。この成長実現によって税収を増やし、以下の政策の原資を稼ぐ。
A「夢をつむぐ子育て支援」―希望出生率1・8。
第2の矢は、保育所を増やしたり、「子育て支援」。今の出生率は1・4程度だが、これを20年代半ばに「希望出生率(国民の希望がかなった場合の出生率)1・8」に高めることを目標とする。
B「安心につながる社会保障」―介護離職ゼロ
年間10万人を超えるという「介護離職者」を20年代初頭にゼロにする。特別養護老人ホーム(特養)の増設など、介護の受け皿づくりを急ぐ。また人手不足が深刻な介護労働の人材を確保するため、その処遇を改善する。
安倍政権は、この「新・三本の矢」の一部を「緊急対策」として15年度補正予算と16年度当初予算に盛り込んだ。5月には、中長期の「ニッポン一億総活躍プラン」をまとめる。この内容は1月の施政方針でも安倍は述べている。
この5〜6月には、低年金者などへの支援金3万円の支給(補正予算で総額3900億円)を実施しようとしている。野党やマスコミからは「7月参院選目当てのバラマキ」「政府による選挙民の買収」と批判を浴びている。
政策全体についても、多くの識者から「いずれの目標も実現のハードルは高い」と指摘されており、経済界からは「ありえない数値」(小林喜光経済同友会代表幹事)と酷評されている。
保育・介護の現場からも「20年初頭に25万人が不足する介護人材の確保が前提」「平均より月11万円も少ない賃金のアップを」という批判が出されている。
15年実績で499兆円の名目GDPを2020年までに600兆円へ引き上げるためには毎年3%超の成長が必要となる。この数字は過去20年間で一度も達成できてない。第2次安倍政権による過去最大規模の金融緩和と財政出動によって、大企業は最高益をあげたと言われるが、13〜15年の名目成長率は1・6%にすぎない。実質でみると過去3年で平均0・6%程度であり、到底「デフレ脱出」などということはできない。四半期単位ではゼロあるはマイナス成長となった期が複数ある。直近では15年第4四半期(10〜12月)がマイナス成長となっており、どう考えても年率3%は実現不可能である。
「希望」「夢」「安心」という言葉だけが乱舞するアベノミクスによって、民衆の希望と夢と安心が奪われ続けている。「新・三本の矢」は、思いつきで打ち出したという性格が強く、政策として練られたものではない。多くのエコノミストが「(第1次「三本の矢」の)低迷の検証と成長の道筋を明らかにすべきだ」と言わざるをえない酷いしろものなのである。
このように最初からその破綻性が明白なものを政策化して強行すれば、必ず社会的破局をもたらす。端的にいえば「同一労働同一賃金」のもと、労働力不足を大量の低賃金労働者で補う社会の出現であり、「ワーキングプア(働く貧困)」の加速化である。それは民衆が「安倍政治からの脱却」を強烈に意識する転機となるだろう。すなわち新自由主義グローバリゼーションとのたたかいの中から生みだされる現代資本主義に対する根底的な批判の登場であり、新自由主義にかわる「新たな哲学」の創出である。そこから安倍政治にかわる「政治・社会」が創造される。

「政権交代の力学」の逆転

「一億総活躍社会」政策の具体論に入る前に、その政治的性格をつかむ必要がある。多くの識者やマスコミが「実現不可能」「デタラメ」というようなものがどうして出てきたのかということだ。そこに、安倍政権の暴走と破産の過程が如実にしめされている。
「一億総活躍社会」とは安倍「成長戦略」の第二版である。政権発足時に打ち出した「三本の矢」=アベノミクス(デフレ脱出策)の破産を糊塗するために打ち出されたものにすぎない。また、昨年9月の戦争法強行可決の直後に打ち出されたことが重要なポイントである。
アベノミクスは安倍政権の土台をなしている。これが生みだす「経済成長」「好景気」という空気と民主党政権時代への批判で高支持率を確保し、改憲をとおしてアメリカと並ぶグローバル国家への改造に進む。これがグローバル資本が安倍政権に託したミッション(使命)なのである。
それは民主党政権を誕生させた力学の転覆である。先の政権交代の根底には以下のような政治力学が動いたのであろう。
日本は90年代初頭のバブル崩壊によって長期にわたる低成長時代に突入した。その過程で、新自由主義が政治・経済・社会のなかで急進展した。それは03年イラク戦争への自衛隊派兵に象徴される日米軍事同盟の強化と同時に進行した。これらを強力に推進した小泉政権は、戦後憲法体制を土台から破壊していた。実質的な改憲状態の出現である。
しかし08年リーマンショックの爆発と「派遣村」の出現は、それまでに鬱積していた構造改革路線への民衆の怒りの起爆剤となった。それと沖縄の新基地建設反対闘争などが結合して、09年の政権交代が実現したのである。
当時民主党が掲げたスローガンは「生活が第一」である。それは当時の日本社会の改憲状態への批判と憲法体制の再構築をしめす路線でもあった。それが民心をつかんだのである。政権交代を実現した力学とは、民衆の新自由主義政策にたいする怒りと不安であり、世界に拡大する戦争とそれに呼応した改憲攻撃にたいする危機感であった。安倍政権の使命はこの「政権交代の力学」を逆転させることにあった。

ナチス的手法

12年末に登場した第2次安倍政権が掲げたのが「日本を、取り戻す。」というキャッチフレーズである。その内容は第1次安倍政権の「戦後レジームからの脱却」と同じである。また安倍は祖父である岸信介に自己を重ね合わせ、自民党のエートス(持続的な気風)を体現しているかのように演出しているところも安倍政権の特徴である。
これと一体で「デフレ脱出」を掲げた経済政策を大きく打ち出した。それが「日本再興戦略―JAPAN is BACK」(2013年)である。「世界で一番企業が活躍しやすい国」と改憲によって戦争のできる国になることが安倍の描く日本社会像である。
そして今や、「イノベーション型の経済成長」「一億総活躍、そうした新しい経済社会システムを創る挑戦」(1月施政方針)をかかげて、7月参院選挙で「3分の2」を獲得し改憲へ進もうとしているのだ。
かつてヒトラーが「ベルサイユ体制打破」を打ち出し、「『民族共同体』の情緒概念をもって『絆』を創りだそうとしただけではなく、経済的社会的実利を提供し、多くの人びとを体制の受益者、積極的担い手とする一種の『合意的独裁』をめざした」(石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』)ことと安倍政権への40%台の支持率の共通性をみることができるのではないだろうか。その後、ナチス・ドイツは第2次世界大戦とホロコーストへ向かっていった。

15年安保と安倍政権

「一億総活躍社会」は昨年の政治過程の産物である。
安倍政治の基調は「立憲主義の否定」である。昨年安倍政権がおこなった、安全保障関連法=戦争法の成立は、実質的な改憲への着手という一種の「クーデタ」の強行であった。これにたいして日本の民衆は〈15年安保闘争〉という歴史的なたたかいに立ち上がった。クーデタが〈民衆の反乱〉を生み出し、それが継続・深化している。それが08年派遣村以来の反貧困運動や「3・11」後の反原発運動と共鳴しながら新自由主義的グローバリゼーションに対抗し、資本主義にかわる新たな世界のイメージを創出しつつある。
そうした中でアベノミクスの失敗と破産が明確になっている。年明けの2週間連続の株価暴落。国会を揺るがした「保育園落ちた 日本死ね!!!」というネットへの投稿。アベノミクス破綻の兆候はすでに昨年夏までにあらわれていた。ほとんどの労働者は「トリクルダウン効果」を実感できず、その実質賃金は低下を続けていた。
ダーティ企業が社会問題化し、『下流老人』という本がベストセラーになるほど、子ども、若者、学生、女性など各層、各世代に広がる「貧困」。まさに20年にわたる新自由主義グローバリゼーションの進展が生みだした「21世紀の貧困」そのものである。
それは「人口減少」=労働力を再生産できないところまで資本主義の危機を進行させている。
このような文脈の中で、昨年9月、うちだされたのが「一億総活躍社会」である。担当大臣に側近の加藤勝信をすえ、10月29日、主要閣僚、経団連会長、日本総研理事長などでつくる「国民会議」を発足させた。すでに7回の会議を重ね、8回の意見交換会などをおこない、非正規若者労働者、介護労働者との懇談会もおこなっている。この5月には「ニッポン一億総活躍プラン」を策定するといわれている。政権としての命運をかけているといっていい。(つづく)

6面

特集 安倍政権を斬るC 若狭の原発を考える会 木原 壯林
新規制基準で安全は確保できない

熊本大地震発生後の4月18日、原子力規制委員会は、九州電力川内原発1、2号機について「今の段階で安全上問題はない」(田中俊一委員長)とした。19日には、四国電力伊方原発3号機の審査を終了し、四国電力は7月下旬にも再稼働しようとしている。また2月24日には運転開始から40年を超える関西電力高浜原発1、2号機の新規制基準適合を了承した。このように再稼働をつぎつぎと認めている規制委審査の問題点について、「若狭の原発を考える会」の木原壯林さんから詳しく話を聞いた。

新規制基準の「目玉」といわれているのは、@「過酷事故も起きうる」ことを前提にした安全対策の導入、Aフィルター付ベント(排気)装置の設置、B移動式電源車や全電源喪失時に原子炉を冷却する注水車の装備などだ。じつはこれらは国際原子力機関(IAEA)が各国に対策を求めていたものばかりだ。
ところが、日本の規制当局は「過酷事故は起こらない」という「安全神話」のもとに対策を怠ってきた。当然やるべきことを福島原発事故が起こるまでやっていなかったことこそ大問題だ。

「適合」できるように作られた新規制基準

新規制基準の問題点として以下の9点をあげたい。

(1)福島原発事故の原因を深く追及していない

福島原発事故の事故炉内部は高放射線のため、その詳細はわからない。真の事故原因は不明のままだ。事故の原因は無数に考えられ、およそ現代の科学では制御できない。今まで「原発は完全に安全」と言ってきた同じ人物たちが根拠もなく「今度こそ安全」と言っているだけだ。

(2)実現が困難なことは要求しない

まずあげられるのは、立地審査指針を廃止したことである。
立地審査指針とは、@重大な事故の発生を仮定しても、周辺の公衆に放射線障害を与えないこと、A重大事故を超えるような、技術的見地からは起こるとは考えられない事故の発生を仮想しても、周辺に著しい放射線障害を与えないこと、というものだ。
福島原発事故の結果を指針に反映させると、非居住区域を大きく拡大しなければならなくなる。しかし住民の立ち退きは現実的ではない。すると原発の廃止しかなくなるのだが、立地審査指針のほうを廃止して、原発を存続させる道を選んだ。
また炉心溶融で溶け落ちた核燃料を受け止めるコアキャッチャーや、航空機落下に備えた二重ドームなど、海外の新型原子炉では標準装備されている設備についても設置不要としている。理由は、設置には多額の費用と時間を要するからだ。
原子炉施設の周辺施設・機器の耐震基準も改定していない。福島第一原発事故では、水位計の機能喪失がメルトダウンの判断を困難にしたが、そのことがまったく教訓化されていない。 さらに加圧水型原子炉(PWR)では、重要事故対策設備やフィルター付ベント装置の設置を5年間猶予するなど、規制基準を満たしていない施設でも「適合」となる。

(3)都合のよいデータを採用しても適合

例えば、炉心溶融時の水素の爆轟(注)防止という必須事項でも次のようなことがおこなわれている。
高浜3・4号機の審査書は、炉心溶融やコンクリート相互作用による水素発生量の不確かさの度合いを、同規模の川内1・2号機の審査書に比べて大幅に小さくしている。高浜原発の審査書では、炉心溶融やコンクリート相互作用による水素発生量の不確かさの影響を考慮したケースで格納容器内の水素濃度の最大値を約12・3%と計算しており、水素爆轟防止の判断基準の13%以下を満たしたことになっている。ところが川内原発の審査書と同じ評価をすれば、水素濃度の最大値は約14・8%となり、明らかに基準を超えている。

(4)非科学的な事故対策でも容認

格納容器が破損して空気中に放射性物質が飛散したときの対策として放水設備を用意するという。しかし放水で放射性物質の拡散を防げるのはほんの一部でしかない。放水した水は放射性物質とともに海に流れ込んでいく。汚染水流出にたいしては、吸着剤やシルト(沈泥)フェンスを用意するというが、これらでは効果がないことは福島第一原発事故で明らかになっている。まさに「子どもだまし」の対策と言わざるをえない。

(5)規制委の審査はずさんかつ手抜き

規制委は、原子炉施設やその立地条件にかんして、事業者による評価をそのまま受け入れている。規制委によるチェックや独自調査はほとんどない。重大事故のシナリオも事業者が策定する。そこでは地震による配管破断はほとんど考慮されておらず、したがってその対策も講じられていない。
地震対策についていえば、原発立地表層の活断層の有無が再稼働の大きな判断基準とされているが、大地震のほとんどは地中数十キロを震源としている。これらは「未知の深層活断層」と呼ばれており、その探査は不可能である。
川内原発の審査書では、火山噴火をモニタリングで予知し、原子炉から核燃料を引き抜いて安全な状態を確保できるという申請書を認めている。核燃料の引き抜きをおこなえるだけの時間的余裕をもって地震や噴火の予知をおこなうのは不可能であると、専門家が指摘しているにもかかわらずである。
また規制委員会は電力会社にたいしてストレステスト(耐性評価テスト)を義務付けている。これはコンピューター解析によるものだが、想定外の原因が多い原発事故を、人間が作成する計算プログラムよって解析するのは限界がある。
コンピュータ解析は、前提条件とデータの質に強く依存する。現代科学は原発事故にかんして、実証された完全な条件やデータを持ち合わせていない。したがって、原発を稼働したいという解析者=電力会社の意図が結果に大きく反映されるのである。

(6)設置方針の審査をおこなうだけで、それが実行されるかどうかの検証はなし

適合審査に実効性を持たせるためには、設置変更許可だけでは不十分である。詳細設計の内容を含めた具体的かつ詳細な工事計画の認可および設備を安全に運転・保守するための保安規定の認可が一体でおこなわれなければならない。

(7)新基準は、人間の能力の限界を現実的に検討していない

原発事故は秒単位で進行し、瞬時に重大事態になる。事故の現状を把握しながら、その対処法を考える時間的余裕はない。
新基準でも、「冷却剤喪失事故+全交流電源喪失(ECCS注入失敗+格納容器スプレイ注水失敗)」というもっとも過酷なケースでは、原子炉圧力容器破損までの時間的余裕は1・5時間しかないとしている。
格納容器破損を防止するためには、この短い時間内で、代替非常用発電機の起動、炉心溶融の確認、代替格納容器スプレイの操作などを人間の手によっておこなわなければならない。福島原発事故、スリーマイル島事故、チェルノブイリ事故では、事態の認識に長時間を要している。不規則事態における人間能力や人為的ミスなどの要素を現実的にきびしく検討すべきだ。

(8)防災計画と住民避難計画は審査の対象外

規制委は防災・避難計画を周辺自治体に丸投げしている。自治体は、よそで作られた既存のパターンにそって計画を作成しているため、当該自治体の地理的・人的特殊性がほとんど考慮されていない。とくに避難弱者対策の視点が欠けている。まるで「数日のピクニック」にでも出かけるような計画になっている。
過酷事故では住民が永久に故郷を失うという危機感がない。また避難地域は100キロ圏を超える広域におよぶという認識がない。

(9)パブリックコメントの取り方に問題

パブコメの募集期間はわずか1カ月間。しかも「科学的・技術的」部分に限って募集している。専門家でも原子力のような広範な知識を要する分野にかんするコメントを1カ月で出すのは不可能である。そのことを見越して、非科学的な審査書をつくってパブコメを求めている。これは悪質なアリバイ作りだ。
原発再稼働は住民の生命・財産にかかわる問題である。再稼働の是非、防災・避難計画もふくめて議論すべきであるが、それにかんする意見は受け付けていない。
それでも川内原発では1万7800通、高浜原発で3600通の意見が寄せられたが、これをわずか20数日で分類・整理し、枝葉末節だけを取り入れて、基本的な部分は無視した。
以上述べてきたことから明らかなとおり、原子力規制委員会の審査とは、電力会社にたいして、コスト的にも時間的にも可能な範囲で原発の施設と体制を変える計画(発電用原子炉設置変更許可申請書)を出させて、それを短期間で審査して許可を与えるものだ。 まさしく国民をだまして原発を再稼働させるための「審査」である。

(注)爆轟(ばくごう) 気体の急速な熱膨張の速度が音速を超え衝撃波を伴いながら燃焼する現象。

関電はびわ湖を汚すな!
びわ湖一周デモにのべ700人

4日から8日まで、「関電はびわ湖を汚すな! 原発全廃! びわ湖1周デモ」が、脱原発市民ウォークや、さいなら原発びわ湖ネットワークなど滋賀県内の市民団体の呼びかけで催され、5日間でのべ700人が参加した(写真)
1日目は、JR大津駅前に約200人が集まり実行委員長の田中徹さんがあいさつ。〈若狭の原発を考える会〉木原壯林さんが若狭の原発をめぐる最新情勢を説明。大津地裁前では、デモ隊が高浜3、4号機運転差し止めの決定を下した地裁の英断に感謝のエールを送る一幕も。
2日目は約100人がJR野洲駅から安土城跡へ。城内の名刹、總見寺の住職がカンパと激励。
3日目、約60人が車13台に分乗して、米原市、長浜市、高島市への申し入れ、さらに雨の中、市街地を練り歩いた。彦根駅では、井戸謙一弁護士と元愛荘町長の村西俊雄さんが激励に。
4日目は、JR高島駅から約70人が参加。白鬚神社を通り、近江舞子、志賀、蓬莱、和邇へ。高島駅では、滋賀県議の清水さんと高島市議の山内さんが激励。白鬚神社では梅辻宮司が激励。
最終日は、堅田駅に約100人が集合。雄琴、坂本と歩き、大津京駅から三井寺へ。そのあと大津市の教育会館で総括集会。5日間で1万枚のビラをまき、5月9日には滋賀県庁への申し入れをおこなった。

7面

被害者不在の「合意」は解決ではない
4・16 大阪で国連勧告報告集会

4月16日、大阪市内において、「被害者不在の日韓『合意』は解決ではない 日本政府は国連勧告を受け、被害者の人権回復を!」と題する集会が開催された。日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワークと日本軍「慰安婦」問題解決全国行動の共催。
昨年12月28日、日韓両政府は外相会談をおこない、日本軍「慰安婦」問題について、「最終的かつ不可逆に解決されることを確認」と発表した。しかし被害者は、「被害者を無視した合意は許されない」と声をあげて訴えてきた。こうしたなかで今年3月、国連人権機関は立て続けに勧告を出した。この国連人権機関の舞台で活動してきた全国行動共同代表の渡辺美奈さんの講演がおこなわれた。

まだ、終わってない

渡辺さんは最初に、熊本地震という辛いニュースもあったが、今週はいいニュースもあった。韓国の選挙で朴槿恵の強権的政治にたいして有権者がNOを突きつけた。被害者不在の解決は解決ではないと言ってきた勢力が過半数を占めた、と話した。 そのうえで、これまで国連では「慰安婦」問題にたいしてさまざまな機関から勧告が出されてきたと話し、国連の各種機関についての説明がおこなわれ、今回勧告を出した女性差別撤廃委員会についても説明した。
日本は1985年に女性差別撤廃条約に加盟したが、それをきちんとおこなっているのかを審査するのがこの委員会。日本はこれまで4回審査を受け、早くから勧告が出されている。
94年に日本の性的搾取が取り上げられた。「慰安婦」問題をめぐっては95年に国民基金ができ、これで日本政府はきちんと取り組んでいると主張してきた。その結果、02年から03年頃は、国連でも「慰安婦」問題はもう終わった問題という雰囲気であり関心は失われた時期だったという。

安倍の暴言

しかし09年に安倍が、「狭義の強制連行は無かった」と言い始めたことで状況は変わった。
この安倍の暴言を受けてNGOが出した情報をもとに、15年8月3日に女性差別撤廃委員会は、@強制連行を示す証拠は無かったというがどうか、Aアジア女性基金の対象外の国々の「慰安婦」に補償措置を講じ加害者を訴追する意思があるかどうか、B「慰安婦」問題を教科書に復活させる意思があるかどうかという質問を日本政府に送った。
今年1月29日に日本政府が出した回答は、@軍や官憲による強制連行は確認できなかった、Aアジア女性基金の対象外となる国々の「慰安婦」に補償措置を講ずる意思はない、B日本は国定教科書制度を取っていないため答える立場にない、というものだった。

最終所見(勧告)

これを受けて今年2月から委員会での審議が始まり、日本政府にきびしい質問が加えられた。
それにたいして杉山外務審議官は、「日本が女性差別撤廃条約に加盟したのは1985年であり、それ以前に生じた『慰安婦』問題は遡及して適用されることはない」「90年代に事実調査をおこなったが強制連行を確認できるものはなく、吉田清治証言を朝日新聞が取り上げた結果であり、想像の産物」「性奴隷の表現は事実に反する」「2国間の条約などで法的には解決済み」と言い放った。 3月7日、女性差別撤廃委員会の最終所見(勧告)がくだされた。
そこでは、12月28日の日韓合意に留意しつつも、日本が人種差別撤廃委員会や自由権規約委員会、拷問禁止委員会、社会権規約委員会、国連人権理事会など他の国連人権機関から出されている勧告を実施せず、「慰安婦」問題は85年以前に起こった問題で委員会の権限外とする主張、さらに日韓合意は被害者中心のアプローチをしていないこと、韓国以外の「慰安婦」被害者に責務を果たしていないこと、教科書の記述を削除したことなどを遺憾とした。

日本の主張は否定

3月11日、国連人権理事会特別手続きの報告者が見解を発表した。
そこでは、「『慰安婦』という言葉は日本帝国軍により拉致され性奴隷にされたアジア数カ国からの多数の少女や女性をさす」「日韓合意はサバイバー(注)の要求を満たしていない」「日本政府と軍の責任を認める曖昧でない公式な謝罪や十分な被害回復こそが被害者を保護し支える」「サバイバーの長きにわたる正義へのたたかいを象徴する像を撤去することに深く懸念する」「被害者はこの合意準備のなかで相談されなかった。相当な苦痛を与えている」と日本政府を厳しく指弾した。

変えるのは誰か

韓国では選挙で野党が勝ったが韓国メディアも「合意はどうなるのか」ばかり。あらゆるメディアが「慰安婦」問題を蒸し返すなと主張している。「蒸し返させてきた」のはハルモニのたたかいの結果だ。
かつて尹貞玉さん(韓国挺身隊問題対策協議会名誉共同代表)は、「あなたたちは向き合うチャンスを与えられている」と指摘された。今私たちはチャンスを与えられている。今回の国連の勧告は重要だがツールに過ぎない。国連が日本を変えることはできない。変えるのは日本自身の力だと話した。
(速見 賢三)

(注)サバイバー:生存者、生き残った人々、遺族、逆境に負けない人々の意

刑訴法改悪は冤罪の温床
4・14 院内集会と国会デモ

300人の国会デモ

冤罪の温床となる司法取引などを盛り込んだ刑事訴訟法の改悪、警察による無制限の盗聴に道を開く盗聴法改悪など、刑訴法等関連法案の参議院での審議が始まった。4月14日、これに反対する自由法曹団、国際法律家協会など、法曹5団体の呼びかけで、国会デモと院内集会がおこなわれた。
デモには、小雨の降る中300人が集まり、日比谷公園から国会までデモ行進をおこなった(写真)。その後、参議院会館に移り院内集会が開催された。

法案の問題点

集会では、基調報告に続いて、小池振一郎弁護士から「今市の殺人事件判決(注)に見る今法案の問題点」と題する報告がおこなわれた。小池さんは「検察が明らかにしているだけで80時間のビデオがある。そのほんの一部を法廷に提出している。さらに、あらかじめ徹底的に屈服させた後に、『自白』を開始した時点から録画は開始されている」などの問題点を具体的に明らかにした上で、「そもそも、取調べ中心主義というのが問題。たとえ、例外なき(取調べの)完全可視化が実現したとしても、何一つ問題は解決しない」「警察、検察のつごうのよいところだけを可視化すればよいとする今回の法案は明らかな改悪だ」と厳しく指摘した。

1カ月半全力で

続いて、関東学院大名誉教授の足立昌勝さん、盗聴被害者の元共産党国際部長の緒方靖夫さん、布川事件冤罪被害者の桜井昌司さんなどから発言がおこなわれた。発言者は、口々に、「刑訴法関連法案を必ず廃案にしよう」「情況は流動的だ。あと1カ月半全力でたたかおう」と決意を述べた。

(注)2005年、栃木県今市市(現日光市)でおきた少女誘拐殺害事件。裁判員裁判では、客観的証拠がないなかで、自白の信用性が争点となり、取調べの様子を記録したビデオの一部が7時間にわたり法廷で流された。結果、有罪判決が下された。

ふつうに生きて くらしたい
4・21 日比谷で3000人が集会

障害者総合支援法の3年後見直し法案が、3月1日に閣議決定、国会に上程された。非常に危険な状況の下、私たち〈10・27しょうがいしゃ大フォーラム〉も加わった実行委主催のこの集会には、全国から3千人が日比谷野音に集まった(写真)
集会では基本合意の実現を求める訴えが、元原告と弁護団からおこなわれた。
情勢報告をおこなった〈障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会〉の藤井克徳世話人は次のように訴えた。

介護保険優先の固定化

総合支援法を見直す政府案をたった3時間の審議で通してしまおうとしている。「基本合意」が危ない。骨格提言を消し去ってしまおうとするかのような動きが強まっている。
では評価の基準、物差しは何か。4点ある。
@違憲訴訟和解の基本合意文書に沿っているか、A骨格提言に沿っているか、B総合支援法附則9項目に沿っているか、C65歳問題、介護保険優先原則を廃止するか。
この4点すべてに背を向けている。際立つのは高額負担の軽減、つまり介護保険に移行した人の負担軽減。一見よく見えるが、「介護保険優先原則」が固定化される。
65歳以下を含めた介護保険との統合準備法だ。移行する介護保険は2割負担の全体化、利用抑制される。破綻する介護保険というどろ船に載せられようとしている。
生活保護基準が切り下げられる。政府は高齢者、しょうがいしゃ、こども、生活困窮者を効率性、利用の抑制の下に統合しようとしている。
しょうがいしゃの厳しい状況が調査で明らかになった。年収122万円の貧困線以下のしょうがいしゃが8割を超える。一般は16%。40代の家族同居のしょうがいしゃは7割、一般は17%。
精神しょうがいしゃの社会的入院、知的しょうがいしゃの社会的入所問題に着手すべきだ。65歳の誕生日を泣かせるな。
来賓の精神科医・香山リカさん、社民党・民進党・共産党・山本太郎の各議員からあいさつがあった。
しょうがい関連分野からの訴えとして、全日本ろうあ連盟、ピープルファースト、病棟転換型居住系施設について考える会、生保引き下げ訴訟原告の方などから身につまされる発言があった。
この集会では、元障がい者制度改革推進会議総合福祉部会長の佐藤久夫さんの発言が、骨格提言から今に至る経過をわかりやすく、また熱い思いと怒りをこめて語っており、印象に残った。
集会後、参加者は、社会保障解体の中軸にある財務省をとおり、国会にいたるデモに移った。法律の施行が2018年4月で、その間に関連する悪法、政省令をさらに積み上げる突破口としてあるこの3年後見直し法を許すことはできない。(東京 下川)

8面

ルポ
甲状腺がんの患者・家族が声をあげた
―「家族の会」を結成(中)
請戸 耕一

東京電力福島原発事故後の県民健康調査で小児甲状腺がんと診断された5人の子どもとその親(5家族7人)が、「311甲状腺がん家族の会」を結成した。
3月12日、都内でおこなわれた記者会見には、患者の父親2人がインターネット中継で福島から訴えた(前回紹介)。記者会見では、同会の世話人である河合弘之(弁護士)、千葉親子(ちかこ/元会津坂下町議)、牛山元美(医師)の三氏が会の設立の趣旨について報告した。今回は牛山医師の発言を紹介したい。牛山医師は神奈川県内の病院で内科医として勤務。福島県内などで健康相談会に参加、また福島県内の病院で当直支援をおこなっている。

U 腫瘍の大きさと転移の事実、再発の可能性―牛山医師

「甲状腺がんは進行も遅く、命に関わることのない悪性度の低いがんだ」と言われていました。しかし、それは中年以降の女性に見られる甲状腺がんの話です。福島原発事故以前、小児甲状腺がんは非常に稀でした。
チェルノブイリ原発事故後に増えたとされる小児甲状腺がんは、腫瘍が小さくても、リンパ節や肺に転移を起こしやすく、進行しやすいと言われています。
今回ほとんどの方を手術された福島県立医大の報告を見ると、手術を受けた方の90%以上は、腫瘍の大きさが手術適応(手術をするべきかどうかを判断する)基準を超えていたり、小さくてもリンパ節転移や肺転移を起こしていたり、甲状腺の外に広がりを見せて進行したもので、すぐ手術をしてよかったという症例だったということでした。
このような事実からすると、甲状腺がんが多数見つかっていることについて、「検診をした所為だ」「スクリーニング効果だ」「過剰診断だ」という意見は、事実にそぐわないと思います。

自分を責める患者たち

では、なぜこれだけ多くの甲状腺がんが福島の子どもたちに見つかったのか。それはまだまったく解明されていません。放射線の影響かどうかも、県の検討委員会の中でさえ意見の相違があり、「影響とは考えにくい」とか、「影響を否定するものではない」と、非常にあいまいな表現をされています。
患者さんやご家族は、今回診断された甲状腺がんがなぜ起こったのか、とても悩んでおられます。患者さんのお母様は「あの頃の食事が悪かったんだ」「放射能汚染を気にせず食べさせたから」「外で遊ばせたから」、子どもは「自転車で通学したのがいけなかった」と、あるいは「遺伝的なものなのか」とか。みなさん、自分がいけなかったのかと悩んでいます。

セカンド・オピニオン

実は手術を受けてそのあとに再発された方も複数おられます。再手術の前に、治療方法についてセカンド・オピニオンを希望される方も当然いらっしゃるわけですが、福島県内では、県立医大に行くようにと言われて、相談に応じてくれる医療機関もほとんどなく、セカンド・オピニオンの実現が困難な状態です。よりよい医療を受けたいという、患者や親の当然の願いを実現させたいと思っております。
担当医師とのコミュニケーションもうまく取れていない。それをうまく取れるようにもっていっていただきたいと思っております。
甲状腺がんについて、忌憚のない意見の交換や適切な情報を共有して、できるだけ不安を取り除きたいと思っています。

―県立医大のやり方は、患者を置き去りにしている感じがしますが

県立医大からは、あまりにも情報が出てきません。では患者さんには心のケアとかをされているのかと思っていましたが、ご家族からお話を伺うと、決してそうではない。いろんな問題点があると思います。家族会で改善していければと思います。

―一般には「甲状腺がんは取ってしまえば大丈夫」といわれていますが、再発とか、後遺症とかがあるのでしょうか

県立医大の手術では、ほとんどが片側の甲状腺しか取っていません。もう片方は残してあるわけです。そうすると薬を飲まないで済むのですね。でも、残っている方の甲状腺に多くは再発があります。すでに再発している方や再発が疑われている方がいます。
ベラルーシでも、片方だけ取って、結局、もう片方も取らなくてはならなくなったという方がたくさんいたと聞いています。それは再発しているからです。
そして手術をされたときは、だいたいは喉に違和感があったり、物を飲み込みにくいとか、声がかすれるということが多く出てきます。
再発は、断端(だんたん/切った端)からではなくて、切り取った部位とは離れたところから出ていると聞いています。
乳腺や甲状腺の場合、最初にがんが出た時点で、どこからがんが出てもおかしくないのです。それは遺伝子の異常が起きているからと言われています。だから組織を残しておくとまたそこからがんが出てくる可能性があるわけです。甲状腺も最初から全部取った方が安全は安全ですけど、それでは傷が大きくなったり、後遺症を残しやすいので半分は残しておきたい。だけどチェルノブイリの例では、半分残した人が続々と再発して、結局、2回目の手術を余儀なくされて傷も大きくなった。そこは医者として非常に難しいところです。
では今の環境でなぜ再発が起こっているのか。今の生活の中で新たに放射性ヨウ素によって甲状腺にがんが発生するような条件にはない。セシウムなど他の放射性物質の問題はありますが。とにかく最初に被ばくした時点で、遺伝子レベルで変化が起きている。それがひとつ、またひとつと時間をずらして出てくれば、最初は片方を取ったけれども、また片方に出てくるという形で再発するのだと思います。

―県立医大は「予後(病後の経過)がいい」と説明していますが、それは違うということですか

いや、(必ずしもそうではなく)チェルノブイリの場合もそうなのですけど、例えば肺への転移の場合、放射性ヨウ素を使った放射線治療をするのですが、それでがんが抑えられ、消えていきます。だから、リンパ腺や肺に転移していると言うと、普通のがんであれば非常に重篤で末期の状態ということになりますが、放射線(由来の甲状腺がん)の場合、そうではないと言われています。
そこが、「甲状腺がんは楽な、安全な、安心ながん」と言われるところなのですが、しかしがんはがんなのです。放置しておけば命に関わるものになるし、チェルノブイリでも死者は出ています。「安全で放っておいてもいいがん」ではありません。
何よりも10代の子どもががんだと言われるショックを考えてみてください。

―とくに福島県内の医者の協力はどうでしょうか

福島の中で、同じように憂えている医者たちはいます。
ただそういう方たちは、県民健康調査の委託医という資格をとっていて、実際に県立医大の先生方といっしょに検診をされています。そういう方が発言すると、ご自身がやっている仕事がやりにくくなったり、県立医大との信頼関係が難しくなるということで、残念ながら福島の医者の方たちは名前を出すことができません。ただ仲間ですので相談をし合っています。(つづく)