高浜3、4号機 運転差し止め
大津地裁 稼働原発停止の画期的決定
滋賀県の住民29人が、関西電力高浜原発3・4号機の運転差し止めの仮処分を申し立てていた件で、3月9日、大津地裁(山本善彦裁判長)は、この訴えを認め、「高浜原発3号機、4号機は運転してはならない」と決定した。この決定を受け関電は、すでに再稼働していた3号機を翌10日、停止させた。
再稼働3日後に事故で緊急停止したままの4号機は、仮に原因が判明し、問題が解決したと関電が主張しても、この決定により、運転再開はできない。関電が仮処分決定にたいして「執行停止」を求め、それが認められるか、異議審(大津地裁)で、覆さないかぎり、3・4号機は動かせない。再稼働を強行した高浜3・4号機は再稼働前の状態に逆戻りした。「3・11」から5年たったが、問題は何一つ解決していない。放射能被害は拡大し続けている。すべての原発を、二度と稼働させないためにいっそう声をあげていこう。
現地で再稼働反対を訴え
高浜原発北ゲートまでデモ行進(2月26日高浜町) |
関電本店に抗議
再稼働強行の前日、2月25日には、「2・25関電本店前『再稼働阻止』全国行動」がおこなわれ、全国から300人が集まり、大阪市の関電本店前で抗議の声をあげた。午後4時から第1部、6時から第2部がおこなわれ、福井県をはじめ、首都圏、鹿児島などからかけつけた人々が発言。関西各地からも怒りの声が続いた。
主催者あいさつで、木原壯林さんは、「4号機は2月20日に汚染水漏れのトラブルに見舞われたにもかかわらず、明日再稼働すると報道されている。それだけではない。原子力規制委員会は40年を超える超老朽原発である高浜原発1号機、2号機まで、国民だましの新規制基準で、昨日、『適合』の判断を示した。人類の手に負えない原発を再稼働させてはならない。使用済み核燃料の処理方法や長期にわたる安全な保管法はない。」
〈原子力発電に反対する福井県民会議〉岡山巧さん(敦賀市の西誓寺住職)は、「再稼働は原子力技術を輸出するための販売促進策だ。経済規模拡大のため、金儲けのためなら何をしてもよいのか。沈黙して放置しておくと(原発は安全だという)ウソが本当として見なされてしまう。」と警鐘を鳴らした。
ゲート前で緊急闘争
2月26日、〈高浜原発4号機再稼働阻止! 緊急行動実行委員会〉がよびかけた緊急闘争には、地元福井県をはじめ、関西一円、全国から人々が集まった。高浜原発先の音海地区の駐車場で抗議集会が開かれ、地元高浜町の住民や、福井県民、再稼働阻止全国ネットワーク、ストップ再稼働! 3・11鹿児島集会実行委員会などの発言を受けたのち、高浜原発ゲート前に向けてデモ。ゲート前は再稼働を進める関西電力にたいする怒りのアピール、シュプレヒコールや太鼓などが響き渡った。午後5時、ひときわ大きなシュプレヒコールが響き渡るなかで、住民の反対や不安の声を無視して、関電は高浜原発4号機を再稼働させた。
解説
老朽原発はなぜ危険なのか
木原壯林さん(若狭の原発を考える会)に聞く
老朽原発がとりわけ危険であることは、川内原発1号機が、再稼働(2015年8月11日)の10日後に早速、復水器冷却細管破損を起こし、高浜原発4号機が、再稼働準備中の2月20日、1次冷却系脱塩塔周辺で水漏れを起こしたことからも明らかだ。
いずれも、重大事故に繋がりかねない深刻なトラブルだった。高浜4号機は2月29日、発電機と送電設備を接続した途端に警報が鳴り響き、原子炉が緊急停止した。関電が命運をかけたはずの再稼働はトラブル続きである。それは緊張感を持って施設を点検保守する体制が関電にはないことを示している。
大事故の危険性
川内原発1号機は、昨年8月20日、タービンを回した後、水蒸気を水に戻すために海水を流す復水器内のチタン細管(直径25ミリの肉薄細管)5本が破損した。同細管は、長期にわたって高温の海水に接触してきたもので、とくに溶接部において腐蝕が進んでいることは容易に予測された。このような細管は3系統約8万本あり、他の細管の破損も危惧される。
また、この細管破損によって2次冷却水系に塩分が混入すれば、脱塩装置が設置されているとはいっても、残留の塩によって、185〜255℃の高温になる2次系の熱交換器(蒸気発生器)の1万本以上ある伝熱細管(インコネル:ニッケル―クロム合金)の腐食が加速されることが予測される。
伝熱細管が、腐蝕・破損すれば、150気圧の1次冷却水が噴出し(=冷却剤喪失)、大事故(メルトダウン)に至る可能性が大きい。
高浜4号機の緊急停止
2月20日15時42分頃、高浜4号機の一次冷却材系統の昇温に向け、化学体積制御系統の水をほう素熱再生系統に通水したところ、「一次系床ドレン注意」警報が発信した。4号機の原子炉補助建屋の脱塩塔室前の床面に水溜り(約2メートル×約4メートル×約1ミリ:約8リットル)が発見された。放射能量は約1・4×10の4乗ベクレルだ。
この水溜り以外にも、床面に漏れた水が原子炉補助建屋サンプ等に回収されたものもある。これらを全て合わせると約34リットルになる。その放射能量は約6×10の4乗ベクレルだ。
関電は、水溜りの推定放射能量である約1・4×10の4乗ベクレルは、国のトラブル事象の基準値3・7×10の6乗ベクレルに比べ、200分の1以下と発表した。
22日になって、「弁のボルトの締め付け不備が原因」と発表した。たるみ切った検査だったことや、そもそも検査しにくい構造であることは明らかだ。
一方、29日14時、多くの報道関係者が詰めかける中、高浜4号機の発電、送電のスイッチを入れた途端に、発電機、変圧器に異常電流を検知し、原子炉が緊急停止した。
老朽原発の問題点
@高温、高放射線にさらされた配管等の腐食(とくに、溶接部)は深刻だ。電気配線の老朽化も問題がある。Aコンピュータ制御や機器測定をしているが、コンピュータや計測機器は建設時とは全く異なっている。原子炉の大部分はそのままにして、これらの部分のみ交換したからだ。B建設時には適当とされたが、現在の基準では不適当と考えられる部分は多数ある。すべてが見直され、改善されているとは言えない。例えば、基準地震動の過小評価。安全系と一般系のケーブルの分離敷設の不徹底など。C建設当時の記録(図面など)が散逸している可能性があり、メンテナンスに支障をきたしている。D建設当時を知っている技術者はほとんどいないので、非常時や事故時の対応が難しい。Eとくに、ウラン燃料対応の老朽原発でMOX燃料を使用することは炉の構造上問題がある。
2面
50年目に突入した三里塚闘争
生活とたたかいを一つに
昨年6月12日、東京高裁は市東孝雄さんの農地をめぐる農地法・行政訴訟において、まったく不当な判決を下した。現在上告・審理中のこの裁判は、いつ最終判決が下されてもおかしくない緊迫した状況にある。またこの裁判と一対で、NAA(成田空港会社)が市東さんの耕作地の一部を「不法耕作地」などという言いがかりをつけ「明渡し」を求める耕作権裁判(千葉地裁)は、昨年6月に再開され、重大な局面を迎えている。「不法耕作を立証する」唯一の証拠が偽造されたものであることが明らかになり、NAA(成田空港会社)は裁判所による関係証拠の「提出命令」にもかかわらず、今もその提出を拒否し続けている。市東さんと弁護団は再開後の4回にわたる審理で、改めて農地取り上げの違憲・違法を全面的に明らかにした。いま千葉地裁の厳しい判断が待たれる状況にある(次回審理は4月25日)。
この市東さんの2つの農地裁判と並んで、昨年来、第3滑走路問題が行政レベルでも動き出した。新たな農地強奪と激甚騒音地域の無制限の拡大計画である。国、NAA、千葉県、周辺自治体で構成する「四者協議会」が発足、地域の利権団体が跋扈し、24時間空港化、B滑走路の再々北延長(3500m化)と併せて、地域を無人化し廃村化する計画を具体化させようとしている。「東京オリンピック」と「観光立国」という2枚看板の「国策」を押し立てての推進攻撃である。
50年目に突入した三里塚闘争は、この2つの大テーマとのたたかいだ。
萩原富夫さん |
農地は命
反対同盟は、萩原進事務局次長の逝去後、農地裁判の当該である市東さん、そして萩原富夫さんを中心とする新たな体制のもとで、この間のたたかいを展開してきた。東京・霞が関に打って出るたたかい(一昨年3月)。昨年3月の建設当初以来の成田市内(現地以外)での全国闘争の開催。成田空港周辺地域への定期的継続的な宣伝活動なども試み、本年50年目の新たなたたかいに突入している。
反対同盟のたたかいは、第一に50年に及ぶ空港建設・拡張攻撃、「国策」攻撃との不屈のたたかいの歴史を踏まえ、「農地は命」「三里塚の地で農業に生きる」ことを貫き通すたたかいであり、「生活と闘争」を一体化させたたたかいである。このたたかいを土台として、第二に、激甚騒音下にある住民、空港周辺地域住民と結ぶたたかいを、市東さんの農地裁判の署名活動などを通して模索・実践している。これは第3滑走路などをめぐるたたかいの行方を決するテーマでもある。第三に、沖縄・福島はじめ全国の「国策」とたたかう人々との連帯を強化し、また新安保・戦争法、TPPをはじめとする安倍政権の戦争政治、極反動を撃つたたかいの一翼を担っている。
このたたかいを全国の支援は全力で支え抜こう。反対同盟と共に、第一を中心に据えた3つのたたかいを一体的に粘り強く推し進め、「過激派」キャンペーンをはね返し、新たなたたかいへの展望を切り開こう。
5万人署名の達成を
当面する具体的取り組みとして、市東さんの農地裁判の傍聴闘争への参加(耕作権裁判・千葉地裁)。そして農地法・行政訴訟を審理する最高裁への抗議・要請行動としての5万人署名活動に取り組もう。5万人署名活動は、市東さんの農地を守り、新たな三里塚闘争を切り開き、たたかいの輪を拡げる最大の武器である。
2・29耕作権裁判の報告会で、萩原富夫さんは50周年を迎える三里塚闘争についての基本的な考えを明らかにした。
萩原さんは、@三里塚闘争、市東さんの農地を守るたたかいをもっともっと多くの人たちに拡げていかねばならない。Aそのために三里塚闘争分裂の問題を乗り越え、脱却する。自分たちから全力で突破する道を探る。その上で、B7月3日の50周年集会を「三里塚のキャンペーンをはる」企画とする。福島菊次郎さんの三里塚写真展と組み合わせておこない、注目を集めたい。C実行委員会形式で、主体的に関わってくれる人なら誰とでも一緒に企画を練り上げていきたい、と提起した。
3・27全国集会へ
三里塚50周年の新たなたたかいを切り開く第一弾として3月27日、成田市赤坂公園(成田ニュータウン内)で全国闘争が開催される。そして7月3日、50周年集会が東京で開かれる。2つの集会を成功させ、各地で三里塚50周年企画をくりひろげよう。(岩谷)
辺野古レポート
新基地建設工事止まる
警戒ゆるめず行動を継続
工事中断の報にわく座り込みの市民(4日、キャンプシュワブ・ゲート前)) |
稲嶺市長が証言
2月29日、辺野古代執行訴訟第5回弁論が開かれ結審した。「根本案」「暫定案」の二つの和解案について結論は出ず、県側は「根本案」に応じない方針を明らかにした。
裁判が始まる前、公園で1500人の市民が集会を開き、口頭弁論に向かう稲嶺進名護市長を「ススム」コールで激励した。稲嶺市長は「地方自治の点から、沖縄でどれだけひどいことがおこなわれているか、裁判官もきっとわかってくれるはずだ」と決意を表明し、市民の激励に応えた。
高裁での裁判はこの日で結審し、4月13日を判決日に指定。多見谷裁判長は、協議で修正した「暫定案」(埋立工事を中止して双方が問題を再協議する)を新たに示した。
3月1日、ゲート前には早朝より市民が結集。工事車両は午前7時、9時、午後1時半と3度にわたり基地に入った。市民は、その都度、機動隊にごぼう抜きされた。
2日、水曜行動。市民200人が結集。車両の搬入はなかった。
3日、木曜行動。市民250人が結集。午後2時頃、車両4台が搬入された。海上では台船に向かい、抗議船2隻とカヌー12艇で抗議行動。
4日、この日3月4日は「さんしんの日」で沖縄では三線演奏がおこなわれる。ゲート前には、昨年より多い37人が三線を奏で、平和を訴えた。正午、ゲート前はじめ、全島一斉に三線が奏でられた。
工事中断の報にわく
ゲート前での三線演奏が終わった12時半ころ、司会より「政府が和解案を受け入れ、工事が中断される」と報告。突然の朗報に200人の市民から歓声があがる。カチャーシーを踊り、喜びを爆発させる。抱き合う者、涙を流し手を取り合う者。ゲート前で2年近く座り込みを続けてきた市民は「運動の成果だ」と評価する一方、安倍首相が会見で「辺野古が唯一」と重ねて表明したことにたいし、「政府の懐柔策だ」「新基地建設計画が断念されるまで運動は続ける」という声が上がった。
午後3時頃、座り込みを続けるゲート前に、「辺野古工事中断へ」の号外が配られると、喜びは実感となった。号外を手に笑顔がはじけた。
5日、ゲート前に市民100人が結集。稲嶺進名護市長も駆けつけた。市長は「先行きはまだ不明だ。気を緩めることなく行動していこう」とあいさつ。市民からは「辺野古が移設先という政府の姿勢は変わっていない。現場での行動は続ける」と決意が表明された。そして、全員が「新基地建設阻止行動を継続するぞ」と拳を突き上げた。
工事中断により、車両の搬入はなくなった。海上での作業もなくなった。にもかかわらず、第1ゲートの前には警察車両3台が横付けされたままである。機動隊はゲートの中から様子をうかがい、警視庁機動隊の撤収もない。海上では浮き具はそのままで制限区域に張りめぐらされている。コンクリートブロックを積んだ台船もそのままだ。海上行動隊は「今後も国の動きには警戒が必要」と海上行動の継続を決意した。(杉山)
史上最大の米韓合同演習
北朝鮮を挑発
史上最大規模の米韓合同演習が朝鮮半島で始まった。米韓合同軍事演習「キーリゾルブ」(3・7〜3・18、指揮系統訓練中心)、米韓合同野外機動訓練「フォールイーグル」(3・7〜4・30、韓国各地)は、例年規模の1・5倍(韓国軍)、2倍(米軍)で、韓国軍約30万人、米軍約1万7000人を動員。代表的な先制攻撃戦力である原子力空母、B52戦略爆撃機、B2ステルス戦略爆撃機が参加。
訓練内容は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する先制攻撃と体制崩壊まで狙った「作戦計画 5015」にもとづくもので、北朝鮮指導部に対する「斬首作戦」の演習、中朝・朝ロの国境地域を含む北朝鮮最後方の奥深くまで占領する作戦演習などを実施する。まさに、北朝鮮の体制転覆と占領、吸収統一を狙った軍事演習であり、限りない戦争挑発だ。
朝鮮民主主義人民共和国の国防委員会は7日、「米国とその追従勢力の核戦争挑発に全面対応するための総攻勢に入る」との声明を出した。
韓国では、民主労総など37団体が「朝鮮半島に核戦争の危機を呼び、 東北アジアにおける対決を激化させる、韓米合同軍事演習キーリゾルブ・フォールイーグルは直ちに中断せよ!」の共同声明を出した。
3面
言論統制の高市「電波停止」発言
自民党、右翼と一体の攻撃
2月8日の衆院予算委員会で、高市総務大臣は「放送事業者が自律的に放送法を守ることが基本だ」「放送事業者が極端なことをして、行政指導してもまったく改善しない場合、…(罰則適用=電波停止の)可能性が全くないとは言えない」と答えた。高市はホームページでも「不幸にも『極端なケース』が生じてしまった場合のリスクにたいする法的な備えは必要だと考えています」と書いている。
放送法4条には「政治的に公平であること」「報道は事実を曲げないですること」と規定し、電波法76条には放送法に違反した場合、総務相は一定期間の電波停止命令ができると定めている。
もちろん、放送法の目的には「放送による表現の自由を確保すること」と書かれているが、放送局の監督権が政府から独立しておらず、総務相が担当しているので、公平かどうかの判断は政府がおこなうことになっている。
あいつぐ報道統制
2001年1月30日に放送したETV特集「戦争をどう裁くか」の第2夜「問われる戦時性暴力」で、女性国際戦犯法廷(主催:VAWW―NETジャパン)が扱われた。「慰安婦」など日本軍の戦時犯罪の責任は昭和天皇および日本国家にあるとして提訴され、2000年12月12日、「天皇裕仁及び日本国を、強姦及び性奴隷制度について、人道に対する罪で有罪」との判決を言いわたした。
この番組が放映される直前に、当時の経済産業相・中川昭一と内閣官房副長官・安倍晋三がNHK上層部に圧力を加えて、番組内容を改変させた。当時のNHK番組制作局の長井暁チーフプロデューサーによる「政治介入をうけた」という証言や永田浩三プロデューサーによる「安倍が放送総局長を呼び出し、『ただでは済まないぞ、勘ぐれ』と言った」という証言がある。
最近も、自民党は各放送局に選挙報道での公平中立を求める文書を送ったり、番組内容についてテレビ朝日とNHKの幹部を呼びつけて事情聴取するなど、頻繁に介入している。昨年11月には『読売新聞』『産経新聞』に掲載された意見広告は、TBS系報道番組の岸井成格キャスターをやり玉に挙げて、その後降板に追い込んだ。さらにテレビ朝日系「報道ステーション」の古舘伊知郎キャスター、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターも降板が決まった。
TBSが特集番組
高市総務大臣による「電波停止」発言を受けて、2月29日、現場に立つキャスターの有志が「電波停止発言は憲法、放送法の精神に反している」という声明を発表した。3月5日には、TBS系の報道番組で特集が組まれ、下記のような内容で反撃が始まっている。
番組は、1950年成立の放送法の提案理由「放送番組につきましては、第1条に放送による表現の自由を根本原則として掲げまして、政府は放送番組にたいする検閲、監督などは一切おこなわないのでございます」を取り上げて示した。
さらに、1948年に逓信省が作成した放送法質疑応答録案中の「本法の必要性(本法制定の理由)は、放送は情報及び教育の手段並びに国民文化の媒体として至大な影響があるので、放送をいかなる政党、政府、いかなる政府の団体、個人からも支配されない自由独立なものとしなければならない」。
さらに踏み込んで「憲法には表現の自由を保障しており、また放送番組に政府が干渉すると、放送が政府の御用機関となり、国民の思想の自由な発展を阻害し、戦争中のような恐るべき結果を生ずる。健全な民主主義の発展のためには、どうしても放送番組を自由にしなければならない」という部分を強調した(3月5日放映)。
諸外国はどう見るか
では今回の事態は外国人ジャーナリストから見てどうか。国際新聞編集者協会のジョン・イヤーラッド理事長はインタビューに、「あの発言はニュースメディアにたいする警告だったと考える。ニュースメディアの仕事に大臣が口を出していいはずがありません。テレビ局に警告することで、取材内容をコントロールしようとしています。(アメリカでは)政府が出て来て、メディアにたいして特定のルールを守らなければ電波を止める可能性があるといった話は聞いたことがありません」「トランプ氏の取り上げ方に高市大臣の理屈を当てはめると、アメリカのすべてのメディアは閉鎖されることになります。高市大臣は事実上メディアに自己検閲を求めている。言論の自由を脅かしており、非常に残念です」と答えている(3月5日放映)。
番組は高市総務大臣の非を完膚なきまでに明らかにした。
戦争翼賛社会を許さず
2月13日付『読売新聞』掲載の意見広告は、「ストップ“テレビの全体主義”」と大書し、メディアに「政治的公平」を求めるかのように装って、政府を批判するメディアにかみついている。スポンサーは、「放送法順守を求める視聴者の会」とあり、呼びかけ人には、すぎやまこういち(作曲家)、渡部昇一(上智大名誉教授)、渡辺利夫(拓殖大学学事顧問)など極右論客が並ぶ。
今や、メディアは政府内からもその外側からも独立性を脅かされ、政府に恭順の証を求められている。それは2018年度から「道徳」を正規の教科として扱い、体制順応型の人格を形成する教育=洗脳と一体になって進行している。政府は情報と教育を支配することによって、戦争翼賛型の社会を作り上げようとしているのだ。
私たちはこのような野望に屈せず、言論戦に立ちあがっていかねばならない。(田端登美雄)
ロックアクション 孫崎さんら講演
緊張拡大させる日本外交
6日、大阪市西区の学働館・関生で学習講演会「日本の外交、これでええの?」が開かれ、元外交官・孫崎享さんと韓国・慶熙大学校国際大学教授のエマニュエル・パストリッチさんが講演した。主催は〈戦争あかん! ロックアクション〉。〈東アジア青年交流プロジェクト〉の共催。講演後、質疑応答が活発におこなわれた(写真)。エマニュエル・パストリッチさんは韓国語、中国語、日本語が堪能で現在は韓国在住のアメリカ人。講演と質疑応答は日本語でおこなわれた。
元衆院議員・服部良一さんの主催者あいさつのあと、孫崎享さんが60分の講演をおこなった。続いてエマニュエル・パストリッチさんが韓国での活動や自身の考えを述べた。
日米開戦時と酷似
孫崎さんは、今の日本が日米開戦時の状況によく似ていると指摘。ウソや詭弁で国民をだまし、軍事費を増やして生活を圧迫していること。マスコミが政府のウソや詭弁を検証せず、そのまま拡散していること。国民はこのウソや詭弁を安易に信じこみ、政策を容認していること。そして政府は反対者を弾圧し、排除していることなどだ。
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の「ミサイル」を撃ち落とすのは不可能なのに、毎年1000〜1500億円の研究費を使っている。なんの役にも立たないことに税金を使っている。軍事費が増大すれば民衆の生活が苦しくなる。戦争中は軍事費が国家予算に占める割合が最終的に8割にまでなった。生活が苦しくなれば人は憎しみを他者に向ける。
北朝鮮や中国を敵視するように世論が作られているが、それについて孫崎さんはこう話した。
どんな国でも他国を攻撃をするときはメリットとデメリットを考える。北朝鮮に日本を攻撃するメリットはない。現在北朝鮮は日本を攻撃していないということを私たちは理解するべきである。唯一、北朝鮮が日本に攻撃をしかけるとしたら、日本が北朝鮮に攻撃する側に回ったときである。日本は、「軍事的にあなたの国を変えることはしない」と相手に確信を持たせることが大事だ。
米は日本を守らない
また米国が「尖閣」問題にかんして日本側につくことはないことを安保条約に基づいて説明した。安保条約には「日本国施政下への武力攻撃には自国憲法に従い行動」と書いてある。米国憲法では交戦権は議会が決定する。議会が否定すれば米軍が出てくることはない。「尖閣」問題にかんしてはどちらの側にもつかないと1996年以降米国は何度も態度を明らかにしている。そのうえ2005年の2プラス2(日米安全保障協議委員会)では、離島防衛は日本側の責任となっている。
エマニュエル・パストリッチさんはアジアインスティチュートの所長でもある。アジアインスティチュートは教育、国際関係、気候変化などに関連した政策討論において、次世代の学生達の参加を勧め、青少年、高校生から大学生まで幅広い世代と共に活動している。
パストリッチさんはそうした活動に学生が参加することの重要性と、政策の立案に際しては若い人の立場から見ることの必要性を強調し若い学生が新しい将来、政策をつくるべきだと述べた。
また、現在進行している右傾化については、どこも同じ状況だが、希望があれば右傾化は防げると述べ、多くの人が真実をつかんで隣人と共有していくしかないと答えた。
なお講演会の動画はインターネットで公開されている。講演会のタイトルで検索できる。(N)
4面
大阪市教委
育鵬社教科書不正疑惑
フジ住宅会長がアンケートを指示
育鵬社の利害関係者である高尾委員を「罷免または教育採択事務から外す」よう<大阪の会>が市教委に要求(昨年7月30日大阪市役所での団体交渉) |
2016年度から大阪市の市立中学校で使う教科書について、昨年8月に大阪市教育委員会は育鵬社版(歴史、公民)を用いることを決めた。この決定をめぐって重大な不正疑惑が浮かびあがっている。「子どもたちに渡すな! あぶない教科書 大阪の会」が、今年2月10日付で〈フジ住宅(株)が育鵬社教科書の採択運動をし、大阪市教育委員会の審議に反映させた件につき、真相を究明し責任を明らかにする陳情書〉を提出し、23日に大阪市議会はこの陳情書を採択した。
このかん、市民のねばり強いたたかいによって疑惑が解明されつつある。ひとつはフジ住宅のヘイトハラスメント裁判において、大量の証拠資料が開示されたこと(フジ住宅ヘイトハラスメント裁判については本紙194号参照)。もうひとつは「大阪の会」が市民アンケート1153枚を開示請求して手に入れたこと。ここから次のようなことが明らかになった。事実関係を時系列で見ていく。
フジサンケイグループ
大阪市は、昨年の教科書採択に至る4年間、橋下徹市長と与党・大阪維新の会のもとで育鵬社版教科書を採用するための準備を着々とおこなってきた。教育委員の多数決で採択を決定するために教育委員を入れ替え、8あった採択地区を全市で1つに統合した。とくに教育委員の高尾元久は育鵬社と同じフジサンケイグループの元幹部であり、日本教育再生機構(=育鵬社)の機関紙『教育再生』に記事を書いている人物だ。大阪市はこの事実を知りながら、育鵬社の利害関係者である高尾を教育委員に入れているのだ。
昨年5月、育鵬社教科書事業部の関係者が、フジ住宅の今井光郎会長(今井会長は日本教育再生機構の設立発起人)に「大阪市については教科書展示場にて数多く教科書アンケートを記入していただければ、育鵬社に採択される可能性が高くなる」と告知。この育鵬社関係者が言う「大阪市の教科書採択はアンケートが決め手となる」という情報は、だれが、どこで決めたのだろうか。また、この関係者はどのようにして知り得たのだろうか。
6月、今井会長は、この情報をもとに社員にたいして教科書展示場に行くように指示した。社員は勤務時間中に会社の車で展示会場にいき、アンケートに記入した。パート社員には時間給を支払っている。また、今井会長はアンケート用紙を持ち帰らせ、社内で例文を示して社員にアンケートを書かせている。
8月5日、大阪市教育委員会は採択会議の冒頭で「アンケートの集約では育鵬社の採択賛成が約7割(779件)、反対が約3割(374件)であった」という趣旨の報告をおこなっている。このようにして、大森不二雄教育委員長は育鵬社の教科書が有利なように誘導し、教育委員の多数決で育鵬社版採用を決定した。
不審なアンケート
今年2月23日、大森教育委員長は市議会の教育子ども委員会で「公正かつ適正に採択した。アンケートの数は重視しておらず、採択の決め手ではない」「組織的動員はあったかもしれない」と答弁している。大阪市教育委員会は責任のがれをしている。アンケートを大量に持ち帰ることを可能にし、氏名・住所を記入しなくてもよい方式にしたことなど、明らかにアンケートのやり方に問題がある。誰がこういうやり方を決めたのか。このことによって、大阪市外在住者からも大量のアンケートが得られること、同一人物が重複して投函すること、他人が書いたアンケート用紙を投函することを可能にしたのだ。
情報公開から得られた1153枚のアンケートから、アンケートの実態をもう少しくわしく見ておく。投函されたアンケートは大阪市外在住者のものが異常に多く(41%)、そのうち84%が育鵬社教科書に肯定的なものだった。さらに、同一人物が同一文面で書いている実態があきらかになった。一人で4枚以上書いて投函したと思われる事例が28件以上あり、そのうち一人で10枚以上書いたと思われるものが7件あった。ひとりで24件提出している者もいた。これらを総計すれば600件余りになるという。育鵬社版教科書に賛成した779件の大部分が、この不正なアンケートであったことになる。このようにして、アンケートは大阪市と育鵬社・日本教育再生機構、フジ住宅の共同作業によって作りだされていった。
やつらを通すな
安倍政権は「戦争をする国」作りに邁進(まいしん)している。これと一体に、橋下・維新は地方からこの挙国一致体制づくりをしている。日本会議などの民間団体が草の根で動いている。1930年代のドイツで、ナチスがやったのと同じやり方ではないか。こういう勢力にたいして、「民主主義をまもれ」と叫ぶだけでは無力だ。「やつらを通すな!(ノー・パサラン!)」のスローガンで、彼らのどす黒い思惑を人民の力でたたきつぶす必要がある。
一連のたたかいによって、育鵬社教科書の採択での不正疑惑にたいする重大な反撃が開始された。これはなによりも「フジ住宅ヘイトハラスメント裁判」のたたかい、「大阪の会」のたたかいが切り開いた地平だ。育鵬社教科書不正採択の責任は、大阪市教育委員会にある。大阪市民に事実を暴露して、大阪市教育委員会の責任のがれを許さず、さらにたたかいをつくりだそう。(津田)
(シネマ案内)
スペイン内戦下の「沈黙の叫び」
『スリーピング・ボイス』(2011年/スペイン)
この映画の主人公は、スペイン内戦の激戦地であり共和国派の拠点であったコルドバから来た若い姉と妹である。また、姉の子の物語でもある。
1936年2月、スペインの民衆、共和国派は、総選挙で人民戦線政権を成立させた。1931年以来のスペイン革命の勝利である。これにたいして7月18日、フランコがモロッコ駐留軍などを率いて、スペイン本土へ上陸。革命に恐怖する軍部・地主・旧貴族・カトリック教会が、フランコの後ろ盾になる。共和国派の労働党、労働組合は、武装民兵を組織。スペイン海軍の巡洋艦「ハイメT世」の水兵が蜂起し、艦を占拠。民兵とともにたたかった。
ドイツ、イタリア、ポルトガルがフランコ支援のため、武器供与、陸軍・空軍を派遣。共和国派の制圧地域への空爆や機銃掃射を行ない、内戦は世界大戦規模の戦争となった。米、英、仏などから、労働組合員、アナーキスト、市民がそれぞれの信念のもとに、スペインにわたり、人民戦線とともにたたかった。スターリンもまた、ソ連一国の利害のために党員、兵士、武器を送り込んだ。1939年、人民戦線派がフランコ派に敗北。戦闘は終結した。
この映画は、独裁体制の構築、抵抗勢力の根絶を宣言するフランコの「私がスペインをまもる」という演説の音声で始まる。監獄に囚われた女性たちの姿が浮かびあがる。ある者は人民戦線戦士の母。ある者は無実の農婦。文字が読めない者。若い妊婦がいる。
銃殺の夜。一斉射撃の音。とどめの銃声に女性たちはたまらず叫ぶ。声を合わせて歌う。
この映画は、一冊の本『La Voz Dormida(「沈黙の叫び」)』に拠って作られた。著者は女性。「昔、住んでいた近くに、フランコ時代の女性刑務所があったと知った」「私たちの親たちは、『沈黙の世代』」「親たちが語る歴史の中には隠された部分も多く、学校の授業でもわからなかった」「こんなに長い年月がたった後も、人は怖れて、口を開こうとはしない。でもまだ遅くはない」「たたかいに敗れ、沈黙を強いられながらも、たたかい続けた女性たち」。本の出版後、2003年に著者は死んだ。だが、ひとりの芸術家が彼女との約束をまもり、2011年、スペインでこの映画を完成させた。
スペインの内戦というが、人民戦線側で2万5千人、フランコ側で1万7千人の死者は、あまりにもむごい。反フランコ勢力内部でのイデオロギーや利害の対立は、ときに市街戦にまで発展した。また、スターリンを批判する者は「トロツキスト派、危険分子」として射殺された。都市も農村も殺戮の場となった。民衆は、生活の場でも家族・友人のあいだでも、「反フランコ派かどうか」で引き裂かれた。1975年、フランコの死後も人々は沈黙を強いられた。
映画の中の銃声と主人公の叫び、エンディングの言葉が、今も私の頭から離れない。忘れたくない。この映画は、今春、神戸、京都で上映予定である(イラストは、映画1シーン)。(あ)
安倍政治を許さない3月3日全国一斉行動
東京・新宿地下通路のスタンデイング(3月3日) |
5面
主張
改憲への衝動強める安倍
沖縄・原発・改憲阻止闘争を
強権政治を加速
安倍政権の高支持率が続いている。それに乗じて安倍は、「緊急事態条項新設」、「9条2項改正」改憲、「安倍政権の任期中の改憲」とその言動をエスカレートさせている。
この1〜2月、安倍は、高浜原発再稼働の強行、高市総務相の「電波停止発言」とその強権ぶりを加速した。「再度の消費税先送り」で「国民に信を問う」と称して、衆議院解散・7月ダブル選をもねらっている。原発再稼働で「国民の生命」を危険にさらし、報道機関への統制を強め、「知る権利」を脅かし、政権の都合で国会解散を決める。何ごとにおいても「最高権力者が決める」とうそぶく安倍の手法は、憲法を無視した「ナチスの手口」にほかならない。
安倍と拮抗する闘いへ
なぜこのような安倍の「横暴」と「独裁」がまかりとおるのか。年頭からの円高・株安の進行でアベノミクスの破綻が明らかであるにもかかわらず、前途に対する不安や閉塞感が、かえって「この道しかない」という安倍の強権的政治手法への支持につながっている。
昨年夏に支持率が低下したのは、安倍政権にたいして、国会や全国での戦争法反対のたたかいがまき起こったからだ。
安倍は決して「無敵」なのではない。辺野古新基地建設反対の翁長知事と沖縄県民の不屈のたたかいの前に、埋立工事中止の「和解」をせざるをえなかった。また、4月電力自由化前に電力資本を救済するため高浜原発を再稼働させたが、大津地裁が稼働中の原発を停止させる画期的な命令を下した。ついに司法が待ったをかけた。この背景にある一連の人民のたたかいと抵抗が、9ポイントの支持率低下となったのだ(毎日新聞3月7日)。
「愛国と信仰」
安倍政治に対抗するためには、安倍が打ち出す政策・攻撃が旧来の自民党とはまったく違うことを見なければならない。日本は1997年の橋本内閣の6大改革から新自由主義的構造改革路線に明確に転換した。それを本格的に推し進めたのが小泉政権である。規制緩和・構造改革は農業、医療・福祉、教育などを含む社会の全分野におよび、旧来の自民党の「富の再分配システム」を解体した。
しかしその結果生みだされた格差・貧困の拡大と地方の疲弊にたいする民衆の怒りは09年の政権交代へとつながった。
野党時代の自民党は、「村山談話」を否定する歴史修正主義グループなどを集結させ、戦後民主主義を全否定する「自民党憲法改正草案」を作成した。日本会議(右翼団体と神社本庁など宗教勢力の結合体)はいまや自民党を支持する最大の保守系団体となっており、日本会議国会議員懇談会所属の閣僚は安倍政権の多数を占める。
世界的な経済の行き詰まりと「対テロ戦争」が続く中で、欧米諸国でも宗教団体を支持母体としながらナショナリズムと排外主義を煽る政治潮流が跋扈している。安倍政権もその例外ではない。
他方「1億総活躍社会」(「最低賃金1000円」「同一労働同一賃金」「介護離職ゼロ」など)をかかげて、政権の力で失業をなくし社会的な公平が実現できるかのように装い、反対勢力・リベラルの無力をつきだし一掃をねらう。これが安倍政権の正体である。
改憲阻止の大運動を
安倍政権を追い詰めるのは、対抗・拮抗する人民の運動以外ない。人民のたたかいを解体しない限り、支配のほころびは各所で起こる。辺野古埋立工事中止と、高浜原発運転停止の大津地裁決定はそのことを示した。
7月参議院選が迫るなか、2月21日、国会を2万8千人で包囲した辺野古新基地建設反対のたたかいを転機に「野党共闘」にも進展が見られた。
こうした人民のたたかいは昨年の戦争法反対闘争以来継続し、安倍の改憲攻撃とたちむかおうとしている。このたたかいの発展の中に「野党共闘」も参院選勝利もある。今こそ安倍改憲を撃つ大運動を。(岸本)
読書
世界を変える唯一の手段は世界を説明することだ
クラウス・コルドン 著 酒寄 進一 訳『ベルリン1919』
(理論社 1984年刊 現在品切れ)
著者、クラウス・コルドンはドイツの児童文学作家。1943年 ベルリンのプレンツラウアーベルク生まれ。東ドイツに育つ。父は戦死し、母親の手で育てられた。 1956年、母親とも死別し孤児となり児童福祉施設等で育つ。さまざまな仕事に従事した後、高校を卒業、市民大学で経済を学び、貿易商となる。
この頃から執筆を始め、インド、インドネシア、北アフリカに赴いた経験は彼の後の作品にも生かされている。 1972年、ブルガリアを経由して西側への亡命を試みるが失敗し、ホーエンシェーンハウゼン収容所(ベルリン)に約1年間勾留される。1973年、政治犯解放政策により釈放され、西ドイツ国民となる。
1977年から作家として活動を開始する。1980年、『モンスーンあるいは白いトラ』(理論社)発表。 代表作には、ドイツ3月革命から第二次世界大戦終結後までのベルリンを、労働者一家の子どもたちの視点から描いた、ベルリン3部作(『ベルリン1919』、『ベルリン1933』、『ベルリン1945』、いずれも理論社が翻訳を出版)がある。
ベルリン1919
『ベルリン1919』(原題は『赤い水兵あるいはある忘れられた冬』)の一節を紹介する。
「昨日までデモをしていた人たちはいったいどこへいったのだろう? ヘレの質問に父さんはなかなか答えなかった。『そうだな、世の中には三種類の人間がいるんだ。ひとつはおもしろければそれでいいという連中だ。彼らはいっしょに行進し、いざとなれば人を殺しもする。だがそういう連中は少数だ。ふたつ目のグループはもうすこし数が多い。つまり、なにが起こっているか理解しない連中さ。殺人者の本性を見抜けず、喝采を送る人たちだ。だがこのグループも、数はそんなに多くない。一番数が多いのは第三のグループだ。いわゆるイエスマンだよ。なにが起こっているかちゃんとわかっているのに、我が身大事で、口をつぐむ連中だ。この連中が一番やっかいなんだ』」
私が驚いたのは、図書館ではこの本が児童図書の区画に置かれていることだ。私の偏見かもしれないが現在の日本で、このような「児童図書」が出版されたのは見たことがない。
最近では若者向けの「図書館戦争」という小説が結構な売れ行きで映画化もされたが、クラウス・コルドンの著作との相違に愕然とさせられる。ベルリン3部作はどれも600ページ程度とかなり重厚だが児童を念頭に書かれた容易な文体なので読みやすい。しかし、内容は決して軽薄ではない。
変える唯一の手段
コルドンの講演会のチラシに、コルドン自身の言葉ではないがこんな言葉が載っていた。たぶん、コルドンの思いがこもっていたのだろう。
「世界を変える唯一の手段は、世界を説明することだ。」(リオン・フォイヒトヴァンガー、ドイツ系ユダヤ人作家)
この言葉について、私は特に強調したいことは、「唯一の手段」という部分だ。
1960年代末にあれほど高揚した新左翼運動が、それから40年以上にもわたってこれほどまでに衰退したかに見える状況に陥った原因は何だったのだろうか? 権力のマスコミ支配や弾圧の問題はあっただろう。しかし弾圧は言いわけにはならない。本質的な原因は、われわれがこの言葉の意味を理解しなかったからではないだろうか?
タリバンの幹部、アドナン・ラシードはノーベル平和賞を受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイに次のような手紙を送った。「戦争では言葉はいかなる兵器よりも破壊的だと知っておかねばならない。」
われわれは戦後の平和な世界で生きてきたがゆえに、暴力の本質を理解することができなかったのではなかろうか。思想あっての暴力、共同性あっての暴力なのに。見かけ倒しの「武装闘争」を自己目的化し、暴力の本質、共同性を見失い、結局は破産しかけたのではないだろうか?
本書は、1984年に理論社から出版されたが現在は品切れのようだ。しかし、たいていの図書館にはクラウスの代表作は児童図書として置かれている。比較的容易に読むことができるはずである。「世界を変える唯一の手段は、世界を説明することだ。」という意味について共に考え、われわれが世界を説明しよう。(元自衛官・山田和夫)
6面
争点
格差・貧困を打破する最低賃金闘争
16春闘で〜「1500円」実現を
T 歴史的な格差と貧困がおおう世界と日本
世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)をまえに国際NGOオックスファムは今年の報告書を1月18日に発表した。
それによると2015年に世界でもっとも裕福な上位62人の資産合計が、世界人口の恵まれない下から半分(36億人)の資産合計とほぼ同じ。上位62人の資産合計は1兆7600億ドル(約206兆円)でこの5年間で44%増えた。一方経済的貧困の下半分の人は41%資産を減らした。この結果下位半分の資産額は2010年には上位388人に相当し、14年には80人、15年には62人と格差が年々拡大している。
世界銀行統計によると、1日当たり1・25ドル未満で生活している貧困層は2008年時点で12億9千万人(発展途上国の人口の22%に相当)と推定されている。この数は1981年の19億4千万人に比べると減少してきているが、OECD諸国など先進国で貧困層と富裕層の格差が広がっていることを今回のオックスファム報告は示している。
日本人の6人に1人が「貧困層」
経済規模で世界第3位の日本。厚生労働省が2014年7月にまとめた国民生活基礎調査によると、等価可処分所得の中央値の半分の額に当たる貧困線(2012年は122万円)に満たない世帯の割合を示す相対的貧困率は16・1%だった。これらの世帯で暮らす18歳未満の子どもを対象にした子どもの貧困率も16・3%となり、ともに過去最悪を更新した。
これは、日本人の約6人に1人が相対的な貧困層に分類されることを意味する。この調査で生活意識が「苦しい」とした世帯は59・9%だった。貧困率が過去最悪を更新したのは、「子育て世帯の所得が減少」と「母子世帯が増加する中で働く母親の多くが給与水準の低い非正規雇用」が原因と厚労省は指摘している。
OECD諸国で4番目に高い貧困率
日本の貧困率は、国際比較で見ても高い。OECDの統計によれば、2000年代半ばの時点でOECD加盟30カ国のうち、相対的貧困率が最も高かったのはメキシコ(約18・5%)、2番目がトルコ(約17・5%)、3番目が米国(約17%)で、4番目に日本(約15%)が続いた。さらに、母子・父子世帯に限ってみれば日本の貧困率は54・6%で、これは世界第1位の低水準となる。これらが女性の貧困や若者たちの奨学金問題の根底にある。
日本の貧困問題は、新自由主義政策が本格化する1990年代のリストラや非正規雇用の増大による格差拡大で深刻化した。とくにリーマンショック直後の「派遣切り」で社会問題化し、自民党政権を大きく揺さぶった。それがその後の政権交代の大きな引き金ともなった。日本の相対的貧困率は、00年代中ごろから一貫して上昇傾向にあり、OECD平均を上回っている。
4年連続で実質賃金が下落
厚生労働省が2月8日発表した2015年の毎月勤労統計(速報)によると、物価の伸びを超えて賃金が上がっているかどうかを示す実質賃金指数が前年を0・9%下回り、4年連続でマイナスになった。
名目賃金も0・1%にとどまったのは、賃金水準が低いパートの全労働者にしめる割合が30・46%と前年より0・64ポイント高まり、平均賃金を押しさげたためだ。一時金を中心とする「特別に支払われた給与」も0・8%減の5万4558円で、3年ぶりに減少に転じた。実質賃金は昨年7月以降いったんプラスに転じたが、11月から再びマイナスとなり、12月(速報)も0・1%減だった。
厚生労働省「毎月勤労統計調査」でみると、1997年の民間の平均賃金は446万円(月平均37万1670円)であったが、2015年には377万円(月平均31万3856円)と70万円近くも減少している。昨年11月4日に厚生労働省が発表した、「就業形態の多様化に関する総合実態調査」でパートや派遣など「非正社員」が占める割合が、初めて全体の40%に達したのだ。
とくに女性では非正規雇用が半数以上を占めている。年収200万円以下のいわゆるワーキングプア人口は2014年1139万人で過去最高。安倍政権発足後50万人も増加した。ワーキングプアが1千万人を超える事態は9年間連続している。
以上の低賃金、格差・貧困問題は現代資本主義の構造的な問題であり、社会的大問題となって突き出されている。オックスファムも「最低賃金の引上げ、男女の賃金格差是正、税制の見直し」を訴えた。こういうなかで安倍政権はトリクルダウン論(企業の業績が上がれば賃金もあがる)のアベノミクスを進めてきたが、当然のごとくその「好循環」は訪れず、格差と貧困がひろがっている。
U 世界にひろがる最低賃金引上げの闘い
昨年12月13日東京、全国で若者たちが「最低賃金1500円に」を掲げてデモに立ち上がった。また、昨年の戦争法案とたたかった若者たちも合流し一つの社会運動となろうとしている。16春闘の中で「社会的賃金闘争」として最低賃金闘争がうちだされている。「最低賃金1500円」の新たな最賃闘争の取組みが求められている。
現在の地域別最低賃金は全国平均798円。最高の東京で907円。最低県は沖縄、宮崎、高知、鳥取の693円。全国平均で月150時間就労の場合、月額11万9700円。最低県では10万3950円である。これでは到底生活できない。親と同居してようやく生きていける程度だ。最低賃金はこのかん上昇したといわれているが、引き上げ率は2%台で、消費税率の3%アップさえも補えていない。
最低賃金法にうたわれた「労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争確保に資する」という目的には到底及ばない。労基法第1条は「労働条件は労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすものでなければならない」とうたっている。これらが踏みにじられ、平然と無視されている。にもかかわらず「ストライキ」も「暴動」もない日本の現状をどうするのか。その点でアメリカの最賃闘争には学ぶべきものがある。
アメリカの最賃闘争
『世界』2月号に掲載されたアメリカの最低賃金闘争(高須裕彦「15ドルを求めてたたかう」)を紹介しよう。
昨年4月15日、「ファストフード世界同時アクション」が声を上げた。アメリカでは230都市で行動があり、ニューヨークでは約1000人の労働者が立ち上がった。そのスローガンは最低賃金15ドル(約1780円)への引上げである。11月10日には全米270都市へとたたかいは広がった。アメリカの各市では最低賃金の引上げが相次いでいる。サンフランシスコ、シアトル、ロサンゼルスの西海岸各市は最低賃金を15ドルに段階的に上げていくことを決めた。
現行の連邦最低賃金は7・25ドル(870円)。15ドルはこの2倍の要求だ。連邦議会にオバマの指示で10・10ドル案が出されているが共和党の反対で成立のめどはたっていない。アメリカでは州が連邦最低賃金を上回る最賃を定めることができ、29の州とワシントンDCで実施されている。コロラド州など6州では消費者物価上昇率、生計費変動に連動して最賃が引き上げられる。最低賃金を今後数年で引上げる予定の州も3州ある。
反貧困運動の蓄積
こうした取組みが前進した背景にはこの間の反貧困・最賃闘争の積み上げがある。1994年、ボルチモアの教会のリーダーたちは生活賃金条例(リビングウェッジ)制定運動に取り組む中で、市の業務委託先で働く労働者の賃金にたいして「4人家族の貧困線を満たせる時給を支払わなければならない」とする条例制定を要求し、成立させた。これが各都市に広がり、いまでは130都市以上で生活賃金条例が制定されている。ここから最低賃金の取組みが広がっていった。
2012年10月、ウォルマートの各店舗で労働者たちがストライキに突入した。「全米食品商業労組」(UFCW)がキャンペーン組織として立ち上げた「私たちのウォルマート」に「会員」としてウォルマートの労働者たちを組織し、コミュニティの支援を受けながら一斉ストライキに突入、各店舗前で抗議集会を開いた。続いて11月にはニューヨークのファストフード労働者もキャンペーン組織「15ドルを求めてたたかう」をつくり、立ち上がった。いずれも時給15ドルを求め、節目節目で統一ストライキでたたかっている。
当事者たちのスト
その特徴は、労働組合が組織した職場でのストライキではなく、社会的キャンペーンとしてのストライキ行動にある。労働組合の結成が企業の店舗閉鎖や解雇などの組合つぶしを招き、それを打破できなかったことを教訓化したものだ。
団交権を有する労働組合(アメリカではおおまか過半数組織化の合法労組に与えられる)のない企業や店舗で労働者が同時にストライキに突入する。地域からの支援を受けて抗議行動を展開する。こうした波状的な行動の中で、当事者が顔を出して、自分たちの境遇を語ることによって、具体的事実として格差と貧困を、どんな人たちが最低賃金レベルで働いているのかを、人々の目に焼き付けた。これが最賃の議論に火をつけていった。ウォルマートは15年4月から時給を9ドルに、16年2月に10ドルにひきあげることを決定した。マクドナルドは全店舗の10%を占める直営店の時給を15年7月1日から約10ドルに引き上げた。
こうしたストライキにはさまざまな低賃金労働者、在宅介護労働者、保育労働者、洗車労働者、小売労働者、契約教育労働者などまさに最賃の当事者が合流している。
社会的労働運動の姿
共和党が知事と議会を押さえているアラスカ、アーカンソー、ネブラスカ、サウスダコダの4州で住民投票によって最低賃金が引き上げられた。アメリカ国内での議論の盛り上がりをよく示している。低賃金労働者、若者たち、非正規労働者自身が参加し、さまざまな社会運動、市民運動、NGOとも連携して世論をかえていくたたかい方は大いに参考になる。アメリカの最賃闘争は現代資本主義の圧制を打ち砕き、新たな共同体を形成する社会的労働運動の姿を示している。
最低賃金の引上げは日本の労働運動にとって、格差と貧困を打破するための喫緊の課題だ。全国一律最賃と最賃の引上げ、産業別最賃の拡充(介護、保育など)と引き上げは重要な課題である。(森川 数馬)