未来・第193号


            未来第193号目次(2016年2月4日発行)

 1面  「許せない」高浜原発再稼働
     現地と関電本店で連日抗議

      辺野古レポート
     ブロック積み上げ 搬入阻止
     目に余る警察の暴行・暴言

 2面  戦争法は廃止だ
     国会前に5800人
     1月19日 東 京

     憲法改悪を阻もう
     週5日 2千万署名活動
     1月19日 神 戸

     辺野古を埋立てるな
     1月24日 新宿で緊急デモ

     住民無視の再稼働やめろ
     1・27 関電包囲全国行動

     被災地の経験を交流
     阪神大震災21周年で集会

 3面  書評
     自衛隊派兵、駆けつけ警護の先は
     デイビッド・フィンケル著
     古屋美登里訳
     『帰還兵はなぜ自殺するのか』
     (亜紀書房 2015年2月刊)      

     50年目の三里塚闘争
     市東さん迎え関実旗開き      

 4面  投稿
     女性への人権侵害と「女性活用」
     ―在欧武官・栗田2等陸佐のブログ問題
     元自衛官 田中一郎

     相談するだけで逮捕・処罰
     治安維持法以上の悪法=共謀罪

 5面  寄稿
     戦後70年と〈天皇〉への意見を受けて
     新たな〈戦前〉情況を迎えてもう一度〈天皇〉を問い直そう
     隠岐 芳樹      

 6面  論考
     被ばくとガン(第1回)
     福島第一原発の現場から
     請戸 耕一      

             

「許せない」高浜原発再稼働
現地と関電本店で連日抗議

「再稼働反対!」と高浜原発前で抗議
(右上方が原発建屋 1月24日)

関電本店包囲行動に700人が参加。全国から抗議に駆けつけた(2面に記事 1月27日大阪市内)

1月29日夕方、関西電力は高浜原発3号機を再稼働した。3号機は運転開始からすでに30年が経過していることや、プルトニウムを混合したMOX燃料を使用していることなどからその危険性が指摘されてきた。3号機で採用されている加圧水型原子炉は、事故時には格納容器が爆発して放射性物質がすべて外界に放出される可能性が高い。住民の命を無視した再稼働の強行は断じて許されない。

1月24日、福井県高浜町で、関西電力高浜原発3・4号機の再稼働に反対する行動がとりくまれた。主催は、高浜原発再稼働を許さない! 1・24全国集会実行委員会。
正午、原発近くの展望所に集まった450人は、同所で抗議集会をひらき、原発北ゲートまでデモ行進。北ゲートで、原発に抗議・申し入れをおこなった。

原発は停められる

集会で、実行委員会の木原壯林さんは、「高浜原発のような老朽原発が安全でないことは、昨年8月に川内原発が再稼働したが、その2週間後に重大事故につながりかねない細管破損をおこしたことからも明らか。加圧水型で、しかもMOX燃料を使う高浜原発3・4号機は、特に危険。ここには4基の原発がある。1基が事故を起こせば、高放射線で近づけない。その結果、4基全部が重大事故につながる。汚染水は、日本海の場合、(閉鎖水域のため)太平洋岸と比べていっそう深刻。再稼働を簡単に許せば、政府・電力会社は、老朽原発の稼働だけでなく、新設・増設もたくらむだろう。自然災害は止めることはできない。しかし、原発は人が動かしているから停めることができる。断固として、原発全廃をたたかい取ろう」と訴えた。

原発の電気は要らない

ゲート前での抗議行動を終え、バスなどで高浜町文化会館に移動。午後2時から同会館ホールでひらかれた集会に、北は青森県から南は鹿児島県まで全国から600人が集まった。 主催者あいさつの後、13団体がアピールした。 中嶌哲演さん(原子力発電に反対する福井県民会議)は、「もうこれ以上、若狭と関西が原発の電力でつながるのでなくて、美しい若狭の海、その海の幸、海水浴が自由にでき、内陸部にはすぐれた文化、歴史の伝統をかかえた若狭地域と都市部(関西・中京圏)の関係を結んでいきたい。第二のフクシマが起こってしまえば、立地地元も消費地元も、もろともに被害地元になってしまう。そうなる前にぜひ再稼働を止める運動を若狭と消費圏の人々が、むすび合ってつくり、未然に防ぎたい。」と発言。
高浜町民の東山幸弘さんは「(高浜3・4号機を動かしてはならないという福井地裁)樋口決定をひっくりかえした林潤裁判長を公開の裁判に出させる本裁判をおこすことを決めた。『3・11』5年目の日に提訴するので、原告を募集中。傍観者が原発を支える。消費者が『原発の電気は要らない』と言わなければ、原発は止められない。」と語った。
再稼働阻止全国ネットワークの柳田真さんは「3年前の大飯闘争に比べて運動が前進している。連帯するたたかいが全国に広がっている。東京でも関電東京支社にたいして抗議行動を続けている」。

重要免震棟がない

福島県大熊町の町議・木幡ますみさん(大熊町の明日を考える女性たちの会)は「福島では被災者は引っ越しを何回も余儀なくされている。高浜原発は重要免震棟がないというが、福島第一原発の作業員に聞いたら、それは考えられない、と言っていた」と発言。
伊方原発50キロ圏内住民有志の会・堀内美鈴さんは、「伊方原発がある伊方町のとなりの八幡浜市では、原発の再稼働を住民の意思で決めようということで(1万筆以上の)住民投票を求める署名が集まった。地元は同意していません。地元同意というのはウソ。28日の八幡浜市議会で住民投票について審議される。」と報告。
集会は、最後に決議文を採択し、デモ行進にうつった。デモは町内を練り歩き、JR若狭高浜駅まで行進した。「私は村八分にされても再稼働反対だ」と声をかける町民もいた。(2面に関連記事)

辺野古レポート
ブロック積み上げ 搬入阻止
目に余る警察の暴行・暴言

ゲート前に積み上げたコンクリートブロックの上に座り込む(1月27日 名護市内)

早朝の攻防が激化

1月14日、初めての木曜総行動のこの日、キャンプ・シュワブゲート前には早朝6時より市民が結集した。その数は水曜日を上回る380人に達した。宜野湾選挙戦の中、連日にわたる多くの市民の結集に防衛局は、焦りをにじませる。午前7時半頃、機動隊100人が市民に襲いかかりごぼう抜きを始めた。市民は機動隊を押し返し、あたりは騒然となる。1人がケガをし、救急搬送された。
15日、機動隊は早朝から市民を排除し、30台の工事車両などを基地内に入れた。午後4時過ぎ基地内から、作業を終えた工事車両などが出てきた。怒りに燃えた市民は工事車両を取り囲む。車で阻止しようとした市民が、「警察の停止命令に従わずに車を発進させた」として公務執行妨害で不当逮捕された。
16日、この日も早朝から工事車両が基地内に入った。阻止しようとした市民1人がケガをして救急搬送された。この日は3回にわたって工事車両が基地内に入った。座り込みの人数が少なくなる午後をねらって入ったのだ。市民の怒りが膨らんでいく。海上でも連日の抗議が繰り返され、海上保安官の拘束にもめげず頑張っている。
20日、水曜総行動に市民300人が参加。連日の工事車両搬入に、怒りの座り込み。午後1時過ぎ、座り込みの数が少なくなると工事車両3台が基地に入った。
21日、木曜総行動に市民350人が参加。この日も午後1時頃、機動隊150人が市民たちをごぼう抜きにし、工事車両2台を基地に入れた。機動隊の容赦ない暴力と、暴言に市民の怒りは頂点に。

ブロック上で座り込み

23日、第1ゲート前にコンクリートブロック400個が市民によって積み上げられた。機動隊は何事が起ったのかあぜんとしている。機動隊はゲート前に来た工事車両を基地に入れるためにブロックを取り除きにかかるが、すぐにはできない。やっと1台の工事車両を入れた。機動隊が排除しても、市民たちは再びブロックを積み始め、3回にわたって攻防が繰り返された。何度排除されようとも、ブロックはゲート前を占拠した。
26日、コンクリートブロックは500個に増えた。機動隊はブロックを取り除こうとするが、市民たちはブロックにしがみつき抵抗した。男性1人が公務執行妨害で不当逮捕された。
27日、水曜総行動に市民400人が参加。ブロックの上に乗って座り込み。機動隊は基地内から様子をうかがうだけで手出しができない。市民たちは「あらゆる手段で辺野古新基地建設を阻止するぞ」と拳を突き上げた。(杉山)

2面

戦争法は廃止だ
国会前に5800人
1月19日 東 京

毎月19日に取り組まれている、戦争法案廃案をめざす総がかり行動の取り組み。1月19日は国会前でおこなわれ5800人が参加した(写真)。発言した国会議員は廃止法案を提出する意向を表明。日弁連から違憲訴訟を全国で準備中と報告された。また7月参院選をにらんで、「政権交代が一番早い解決手段」の発言も。一方で「野党共闘が進んでいない」「投票対象がない」という現状を指摘する声もあがった。
また「緊急事態条項」を切り口とした安倍政権の改憲への動きや、日本会議が改憲署名を始めたことなどが危機感をもって訴えられた。さらに沖縄の辺野古新基地建設問題や貧困問題への取り組みの重要性が確認された。参加者は、これまで以上に運動を広げ、戦争法廃止までたたかう意志を固めた。

憲法改悪を阻もう
週5日 2千万署名活動
1月19日 神 戸

「アベ政治を許さない市民デモKOBE」が、1月19日、神戸市内でおこなわれ150人が参加した(写真)。「市民デモKOBE」(36団体)は、昨年末からは、週5日間、神戸市の中心街・三宮で2000万人署名を実施。この日で街頭署名が2500筆を超えた。
集会では戦争をさせない1000人委員会・ひょうご代表の坂本三郎さん(部落解放同盟兵庫県連委員長)が、「戦争法廃止へ手をつないでがんばろう」と訴えた。続いて3・21落合恵子講演集会実行委員会の立川重則さん(神戸市原爆被害者の会会長)、北上哲仁さん(川西市議会議員)、芦屋「九条の会」事務局長から、それぞれ戦争法廃止と憲法改悪阻止に向けた発言をうけた。
発言の最後はミナセン(みんなで選挙に行こう)兵庫の結成に向けたアピールが「ママの会兵庫」から。
今年最初の「アベ政治を許さない!」の声は、神戸の中心地で大きくこだました。次回2月19日の行動も、神戸市役所北側の花時計前でおこなわれる。(TEN)

辺野古を埋立てるな
1月24日 新宿で緊急デモ

大きなジュゴンのマスコットを先頭に新宿をデモ
(1月24日)

1月24日、「辺野古の海を埋め立てるな!1・24新宿緊急デモ」が都内の新宿アルタ前広場でおこなわれ、650人が参加した。デモ出発前の集会では、名護市キャンプ・シュワブゲート前の座り込み参加者、一坪反戦地主会関東ブロックなどがアピールをおこなった。一坪反戦地主会は「在日米軍基地の74%が沖縄に集中している。『米軍基地は沖縄に押し付けておけばよい』というのが安倍政権のやり方だ。東京から、日本から、沖縄の民意を踏みにじるなという声を上げていこう」と訴えた。

住民無視の再稼働やめろ
1・27 関電包囲全国行動

1月27日、大阪市の関西電力本店前で、「高浜原発再稼働を許さない!関電包囲全国行動」がおこなわれ、全国から700人が集まった。〈原子力発電に反対する福井県民会議〉がよびかけた実行委員会が主催。
午後4時から8時過ぎまで関電本店は「高浜再稼働するな」の大きな抗議の声に包まれた。

国策としての再稼働

元衆院議員の服部良一さんは、「福島の事故は収束していない。毎日毎日400トンの地下水が原子炉建屋に流れ込んで汚染水を作っている。炉心の状態もわからない。10万人以上の人たちが避難をしている。安全神話に浸かってきた電力会社に原発を再稼働する資格はない。関電は津波対策に1千億円つぎこんだと言っているが、それで安全というわけではない。日本には約48トンのプルトニウムがある。高浜3号機はMOX燃料を使う。だから、高浜再稼働は、高浜だけの問題ではない。国策としての核燃料サイクルを維持するための再稼働だ。もんじゅは破綻した。もんじゅを廃炉にし、核燃料サイクルをストップさせ、脱原発、脱原子力の社会を作ろう。」と訴えた。

合意枠組みを認めない

主催者あいさつで、中嶌哲演さん(写真左)は「福島原発震災の5年後のいまも、18万人をこえる被害者たちは、被ばくの不安におびえ、暮らしや故郷を奪われたまま。にもかかわらず、原子力ムラや原子力行政は、フクシマなどなかったかのように再稼働へ向けてひたすら暴走している。しかし、再稼働反対の国民世論は現在も過半数をしめている。わたしたちはもはや、国策民営の原発推進側が一方的に設定した『立地地元』のみに再稼働合意を認める枠組み自体を、けっして容認するわけにはいかない。」と発言。
若狭の原発を考える会・木原壯林さんは、「明日、明後日のことについて。ひとつはゲート前闘争。24日から、高浜原発近くでテントを張って泊まり込み、毎日ゲート前闘争をやっている。もうひとつは、数グループにわかれて高浜町、おおい町のすべての集落を巡って、太鼓を叩きながら、チラシを配っている。そういう行動が、次の原発新設を許さないとか、40年越え老朽原発を動かさせない力になる。明日、明後日、現地に集まろう」とよびかけた。

県民の命を売った知事

最後に発言した福井県民会議の宮下正一さんは、「福井県知事は再稼働について、県民に一切説明しない。国に説明を求めない。これは、北陸新幹線を3年早くつけるということ(取引)としか考えられない。新幹線と引き替えに、県民の命を売った。許されない。嶺南(福井県西南部)に原発が集中しているが、ここの住民の5割を超す人たちが原発に反対している。私たちの思いを全く無視して再稼働されようとしている。なんとしても再稼働をやめさせる」と怒りを込めた。

被災地の経験を交流
阪神大震災21周年で集会

1月17日、阪神淡路大震災の被災地は21年目をむかえた。神戸市長田区で開かれた「生きる権利、要求かかげ〜21周年被災地集会」に、地元神戸をはじめ東京・名古屋・四国や、宝塚・高槻の保養キャンプ、富田町病院を守る会、連帯労組関生支部の仲間たち約140人が参加した。
雇用と生活要求者組合代表の長谷川正夫さんは、「福島を訪れると、5年たってもまったく放置された風景がある。21年前の私たちと重なる。黙っていれば被災者は切り捨てられる。経験を交流したい」とあいさつ。
粟原富夫・神戸市議は「被災者不在、上から目線、箱物『復興』の典型が新長田再開発だ。高齢の被災者を借り上げ復興住宅から三度追い出そうとする。行政の21年間の無作為を全国に発信する」と、借り上げ住宅からの追い出し反対に支援を訴えた。また全国金属機械労組港合同の中村吉政委員長が決意と連帯を表明した。

苦しみは福島で最後に

福島から、いわき湯本温泉の老舗・古滝屋16代目の里見喜生さんが福島の現状を報告。里見さんは「自分の生まれ育った町が無人の町になったことを想像できますか。昨年9月に避難指示が解除された楢葉町に帰還した人はわずか5%。原発事故が人の命、生活、心と家族の繋がりをいかに破壊したか。こんな苦しみは福島で最後にしなければ」と穏やかだが、はっきりと話した。大旅館をビジネスとフィールドワークのベースとして縮小再出発。いわき市に踏みとどまって生きる道を選んだ里見さんの思いが伝わってきた。
宝塚保養キャンプからは、子どもたちの保養の意味が話された。企業組合の仲間からは「(靴の)品質は折り紙つき。微力な零細工場、1に忍耐…3、4がなくて5に忍耐。営業に協力を」。宣伝にも汗と笑い、時々喧嘩もしながら続けてきた。自ら工場を立ち上げ毎月やりくりしながら、雇用と生活を守ってきた厳しさ、苦労話は本当に切実だ。ミニ・デイサービスの報告に「どっこい生きている」という人たちの姿がある(写真)。 最後の早苗ネネさんの「さよなら戦争」は、何度聴いても心から平和を希求する気持ちを呼び起こす、静かな迫力にあふれた歌だ。一人ひとりにハイタッチしながら歌う姿が光って見えた。集会後の交流会も、ネネさん、里見さんはじめ地元長田から、遠隔地から20数人が集まり熱気ある意見交換の場になった。(関西合同労組・KI)

3面

書評
自衛隊派兵、駆けつけ警護の先は
デイビッド・フィンケル著
古屋美登里訳
『帰還兵はなぜ自殺するのか』
(亜紀書房 2015年2月刊)

『帰還兵はなぜ自殺するのか』は380ページを超えるノンフィクション・ジャーナリズムの作品である。本書の取材対象は5人の帰還兵とその家族、そしてWTB=兵士転換大隊総合施設(フォート・ライリー)、ヘイヴン・ビヘイヴィアラル・ウオーヒーロー病院(プエブロ)、復員軍人病院(トピーカ)、パスウエイホーム(カリフォルニア)のスタッフである。
じっくりと読み、帰還兵が抱える苦悩を共有する必要があるが、時間のない人は、第13章から読みはじめても差し支えないだろう(70ページ)。

PTSDとTBI

アメリカの帰還兵が置かれている状況はこうだ。「ひとつの戦争から別の戦争へと、200万人のアメリカ人がイラクとアフガニスタンの戦争に派遣された。そして帰還したいま、その大半の者は自分達は精神的にも肉体的にも健康だと述べる。…しかしその一方で、戦争から逃れられない者もいる。調査によれば、帰還兵のうち20%から30%にあたる人々が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や外傷性脳損傷(TBI)を負っている。気鬱、不安、悪夢、記憶障害、人格変化、自殺願望。どの戦争にも必ず『戦争の後』があり、イラクとアフガニスタンの戦争にも戦争の後がある。それが生み出したのは精神的な障害を負った50万人の元兵士だった。」
そして、PTSDとTBIに苦しんでいる元兵士はアフガニスタンやイラクに派兵された兵士に限らない。70年以上前の第2次世界大戦、そして1970年代のベトナム戦争からの帰還兵にも同様の症状が現れ、その後の人生をふいにしているという。 まずは、イラク、アフガニスタンに派兵されたアメリカの兵士たちの帰還後の実情を認識することからはじめたい。

兵士たちの証言

著者は「兵士たちの現在は、戦争中にしたがんばりから回復しようとがんばっている。それでエモリーは手首を噛むようになったのかも知れない。デニーノは薬を過剰に飲むようになったのかもしれない。アイアティはハーレルソンの声を永遠に聞くようになったのかもしれない。シューマンは死のいちばん近くまで行ったのかもしれない。しかし、戦争が終わって3年が経っても、彼らはいまだに戦場にいて、戦争をしている。部隊の兵士全員がそうだ」と論じている。
@アダム・シューマンの場合
「あれから2年、アダムは28歳になり、…。しかし精神は帰還した頃のままだ。頭を撃たれたエモリーが今でも彼の背中でぐったりとなり、エモリーの頭から吹き出しつづける血がいまでも彼の口の中に入り込んでいる。…お前のせいだ、お前のせいだと責める。罪悪感はいまや彼の奥深くまで浸透し、それが彼を形作っている」「眠れない。心に浮かんでくるのは俺のせいで死んだ奴らのことばかりだ」「イラクで死んでいればよかった。…罪悪感。悪い夫だ、悪い父親だ、絶望。29歳なのに90歳のような気持ちだ。不名誉だ。」
Aニック・デニーノの場合
「俺の見ている夢を女房に話したくないんだ。悪夢のことは話したくないんだ。結婚相手が人を殺す夢を見ているなんて知ってほしくない」「今も続いている最大の苦しみは罪の意識だ」「この罪はわれわれが民間人にどんな扱いをしたかに関わりがある」「あの当時、俺たちはひどい状態だった。最低の卑劣な殺人マシンだった。俺たちは彼らを憎むべき何者でもないように扱っていたんだ。人間ですらないかのように思っていた」
Bダニー・ホームズの場合
「何人位殺したの?」とシャウニーは訊いた。「ほんのわずかだ」とダニー・ホームズ。「そのことで悩んだ?」。「いいや」。「一度も?」。「ああ」。しかし彼が何度も思い出しては話したのは、幼い女の子を殺したことだった。…女の子は黒髪で、ダニーをじっと見返していて、3歳ぐらいだったことを。(注:ダニーは自死した)
Cトーソロ・アイアティの場合
「宙に吹っ飛ぶハンヴィー(写真下参照)。爆弾の衝撃。血まみれの兵士を引きずり出した。ハンヴィーが火を吹き、あっという間に炎に包まれた。みんなが車から出られたのを見てほっとした。その時、ハーレルソンの名を呼ぶ誰かの声が聞こえた。見渡すとおれに見えたのは炎と、あいつがいた運転席のところにある人の輪郭だった。…炎に包まれたハーレルソンがこう言う。『どうして俺を助けてくれなかったんだ?』その夢を数日おきに必ず見る。」

自殺防止会議

陸軍で自殺防止、ひいては精神衛生の問題が最優先事項だったことは一度もなかった。戦うことが最優先事項だった。医療における最優先事項―それは負傷兵を戦闘に戻すことだった。兵士たちは壊れつづけているのに、誰も助けを求めようとはしなかった。助けを求めることは不名誉なことだった。
ピーター・クアレリは陸軍副参謀長になって、自殺者数が増加していることを知らされ、間もなく、傷ついた戦士たちのために、月に1度の自殺防止会議を開いたが、自殺者はなおも増え続け、戦死者数を上回り、1日にひとりの割合で死んでいく。

治療について

イラク戦争(4年)とアフガニスタン(6年)で、軍隊が世話をする負傷兵は2万人にのぼり、彼らを社会復帰させるために、10億ドルをかけてアメリカ国内32カ所に近代的な医療施設を作った。「不名誉」という観念から生まれる「終わりのない罪悪感」が兵士自身を追いつめ、回復困難な状況(自殺)に突き落としているのだ。
医療施設での治療は「不名誉」「自責」の観念から逃れられず、PTSDを病んだ兵士たちを救うために、兵士たちが駆り出された戦争が「正義の戦争」であり、「名誉の負傷」であり、社会的に賞賛され、誇るべきことであると「自覚」することからはじまる。
そのために、セラピーを受け、精神的な衝撃(トラウマ)を受けた出来事に立ち戻り、その出来事を書き記すことで、それについて考えること。自分がしたことを考えられるようになるまで諦めずにつづけること。精神的な衝撃を受けた瞬間とその衝撃の後に罪悪感や羞恥心に支配される瞬間があることを学ぶ。そして納得(自己肯定)することによって治療が終わるのである。

治療の問題点

この治療は自己肯定による回復をめざしている。戦争に駆り出され、戦地に赴き、敵兵や民間人(こどもや女性)を殺し、戦友を見捨てた出発点である戦争(派兵)そのものを問うことはない。「終わりのない罪悪感」を原因とするPTSDに、戦争に不可避な殺人への罪悪感を払拭する治療である。
この治療はストレスの原因を除去することをめざしてはおらず、「戦っても傷つかない人間を増やすための」治療である。精神科医の宮地尚子さんは「米兵のPTSDの有無や危険因子は調査され、発症予防や周期回復の対策は練られるが、派兵をやめようという提案にはならない」「イラクの人たちのPTSDについては調査どころか、言及さえない」(『傷を愛せるか』)と、治療の問題点を指摘している。

日本でも始まる

2015年5月28日付の『北陸中日新聞』によれば、「インド洋やイラクに派兵された自衛隊員のうち54人が自殺した」という。「非戦闘地域」への派兵でさえも、PTSDによる睡眠障害、ストレス障害に苦しむ隊員は全体の1割から3割だという。
昨年9月19日には戦争法が強行成立し、いよいよ南スーダンPKOで駆けつけ警護が任務に加えられようとしている。まさに自衛隊員は砲弾が飛び交う戦場に立つことになり、アメリカの兵士たちと同じ状況に突き落とされようとしている。
すでに自衛隊の中からも不安の声が上がっている。昨年の戦争法反対運動を引き継ぎ、自衛隊員を戦場に送ることを止めるたたかいに立ちあがろう。(須磨 明)

50年目の三里塚闘争
市東さん迎え関実旗開き

1月24日、神戸市内で三里塚決戦勝利関西実行委員会(関実)の団結旗開きがおこなわれた。
三里塚芝山連合空反対同盟からは市東孝雄さんが参加。関実代表世話人の永井満さんが開会のあいさつ。事務局の松原康彦さんが 、昨年6月東京高裁による市東さんの農地明け渡しを命じる反動判決を、最高裁でくつがえすための緊急5万人署名の達成を訴えた。
つづいて三里塚闘争をともにたたかってきた各界の人々のあいさつをうけた。その後参加者による寸劇やウクレレの弾き語りなどを交え、最後は参加者が輪になって「反対同盟歌」を歌った(写真)。50年目を迎えた三里塚闘争の新たな発展を切りひらこうという意志をかためる旗開きとなった。

4面

投稿
女性への人権侵害と「女性活用」
―在欧武官・栗田2等陸佐のブログ問題
元自衛官 田中一郎

はじめに

政府は2015年7月15日、北大西洋条約機構(NATO)に派遣している女性自衛官・栗田千寿2等陸佐が在ベルギー日本大使館のホームページで公開しているブログの一部を、近く削除する方針を固めた。ブログは「慰安婦」を性奴隷とする国連報告書をまとめたクマラスワミ氏との会談について「光栄」とし、「とても穏やかで徳が感じられる方」と「礼賛」したとして問題視して削除したものである。

右派からの非難

ブログは15年3月に公開された。歴史認識をめぐり日本政府と相容れない立場を取るクマラスワミ氏をたたえる内容のため、自民党国防部会で「軽率だ」などの声が上がっていた。ある議員は「自衛官にも表現の自由はあるが、大使館ホームページで公開する以上、国際社会からは政府の公式文書とみられる。内容をチェックしない防衛省にも責任がある」と指摘する。
栗田2佐は、14年12月からNATO本部に勤務。自身の活動を定期的にブログで紹介している。政府が削除するのはクマラスワミ氏に関する記述があるブログのみの方向だ。クマラスワミ氏が1996(平成8)年に国連人権委員会に提出した報告書は、「慰安婦」を「性奴隷」と定義し、日本政府に法的責任の受け入れや元「慰安婦」への補償などを勧告している。朝日新聞が吉田氏の証言を引用した記事の誤報を認めたことを受け、政府は14年10月、クマラスワミ氏に報告書の一部を修正するよう求めたが、クマラスワミ氏は拒否している。

NATO派遣の経緯

(栗田2佐の)「今回の派遣は、2014年5月の安倍総理とラスムセン前NATO事務総長の首脳間の合意に基づくものです。安倍総理は、これまでに『女性の輝く社会の実現』を国内外で強調しており、この中には途上国の女性支援という面と、日本女性の社会での活躍拡大という面が含まれています。つまり、日・NATO協力の進展と、国際的課題である『女性分野』での日本女性による取り組み、という二つのニーズから実現した派遣ということになります。」(栗田2佐のブログ)
彼女は安倍政権の「女性の輝く社会の実現」の象徴としてあった。

栗田2佐の経歴

1975(昭和50)年京都市生まれ。同志社女子中高、同志社大卒業後、1997(平成9)年陸上自衛隊入隊。第5高射特科群(八戸)、第2高射特科群第336高射中隊長(松戸)、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)軍事連絡要員、統合幕僚監部防衛計画部防衛課防衛交流班などを経て、2014(平成26)年12月よりNATO勤務。(在ベルギー日本大使館ホームページから)
すなわち、制服におけるエリート中のエリートということだ。

ジェンダー課程教育

ブログで次のように書いている。「教育4日目には、あるドキュメンタリー映画を見て、性的暴力への問題認識を深めました。映像を視聴する前に、『心理戦』に詳しい将校が注意事項を述べます。『映像を見て強烈な刺激を受け、心身に何らかの反応が出ると思うが、それは自然なこと。見終わった後に、感想を言いたければ近くの人に話せばいいし、はっきり伝えられなかったら自分に起こった身体的・精神的変化について伝えてもいいし、言いたくなければ何も言わなくてもいい』。こうした教育手法にも、逐一感心してしまいます。
この映画は、紛争の影響を受けたコンゴ民主共和国における、性的暴力の実像を浮き彫りにしたものです。まず、レイプ被害者の女性たちが登場します。レイプは、時に集団でかつ残忍に行われ、被害者は身体に深い傷を受けます。緊急手術が必要な場合や、歩行や排尿も困難になる場合もあり、何カ月も起き上がれない、さらにコミュニティからは排除されて行き場もない、そのような痛ましい姿が描かれます。そしてレイプ被害者を支援する現地女性警官の活動とそのジレンマ。レイプ被害者は後を絶たず、加害者は罰せられることもなくまたレイプを続けるという現実。
レイプ加害者(レイピスト)へのインタビューも登場します。私服で銃を担ぎ、顔を隠した男たち。『今までレイプした数?数えきれないさ。』、『女房とずっと離れてるんだぜ。何が悪いっていうんだ?』、というレイピストのコメントが容赦なく映し出されます。紛争下の性的暴力は、『戦争の兵器(Weapons of War)』とも呼ばれ、レイプは時に、武装勢力内における帰属意識の確認や団結の強化にも利用されます。つまり、『俺たちの仲間だったら、お前も(敵対勢力の)住民をレイプして来い』、『1人の女性を全員でレイプすれば、仲間の絆が増す』ということです。
映画の後、私は口の渇きと動悸を感じました。同種の映像を見た経験はありましたが、この重いテーマに接する時には、必ず胸が苦しくなります。クラスメートには映画の舞台となったコンゴ民主共和国の女性軍人もおり、彼女も交えて皆で意見を交換しました。」

コメント

軍隊「慰安婦」問題に代表される先の戦争での日本の戦争犯罪(軍隊「慰安婦」問題だけではなく)の問題は、決して過去の歴史についての問題ではない。今、安倍政権が戦争態勢の確立をめざしているからこそ、必死になって過去の歴史の修正を図っているのである。事実を捻じ曲げようとするその態度を、他の帝国主義各国からさえ顰蹙を買っているのを、あえて承知の上で歴史の修正を図っている。吉田証言に問題があったとしても、クマラスワミ報告は全体としては間違っていない。それを何が何でも「反日的」と決めつける日本政府の態度には全く説得力がない。
ブログのうち、第3回(クマラスワミ氏との会食)の分だけが削除された。その他の5回分は現在のところ在ベルギー日本大使館のホームページで見ることができる。彼女は軍隊「慰安婦」の問題、クマラスワミ報告の問題について直接は何も触れてはいない。しかし、上述したジェンダー課程教育に関する感想を見れば、性暴力に関して彼女がいかなる意見を持っているかは自ずと明らかである。
安倍政権は、一方では「女性が輝く社会の創設」を唱えながら、他方で女性にたいする人権侵害についての歴史を抹殺しようとしている。今回の栗田2佐のブログ削除問題は、その矛盾を象徴的に示している。

相談するだけで逮捕・処罰
治安維持法以上の悪法=共謀罪

戦争廃止と共謀罪反対を訴えてデモをするロックアクションの参加者(1月6日 大阪市内)

1月6日、大阪市内でひらかれた「戦争あかん! ロックアクション」での永嶋靖久弁護士の発言(要旨)を紹介します。(文責・見出しとも本紙編集委員会)

昨年11月に高村自民党副総裁、谷垣幹事長らが一斉に共謀罪について言及。「パリで『テロ』が起きた」「国連条約の批准を」「5月には伊勢志摩サミット」「だから共謀罪が必要」という発言だった。
その後、石破、河野太郎、菅、安倍、順番にみんなで「共謀罪、共謀罪…」と言い出した。12月には時事通信が世論調査の結果として、「50%以上が共謀罪に賛成」、産経新聞の世論調査は「76%が賛成」している。

相談だけで処罰

「テロ」対策も国連条約も、共謀罪とは何の関係もない。新聞記事は意図的なミスリードをしている。共謀罪は労働組合の団交の相談とか、市民団体の運動だとか、はては便所の落書きとか万引きの計画まで、そういうのを処罰する法律で、「相談」を処罰する法律だ。これのどこが「テロ」対策なのか。
国連条約、正確には国境を越えた組織化された犯罪を防止する条約はもともとマフィア対策の条約であり、批准に共謀罪は要らない。
「テロ」対策のためには、重大な犯罪にかぎって共謀罪が要るのではないかと思う人がいるかもしれないが、いいか悪いかは別として、すでに日本では爆弾に関しては相談しただけで共謀罪が成立する。秘密保護法にも共謀罪がある。殺人や放火は共謀罪はないが、準備行為だけで処罰される。

集まって議論するな?!

なぜ日本の政治家たちは無理を通して共謀罪をつくりたがるのか。
共謀罪は現代の治安維持法だという批判がある。戦前の治安維持法は、国体(天皇制)の変革、私有財産制の否定、資本主義の否定といった思想を取り締まる法律だった。 共謀罪が取り締まるのは「危険な思想」ではなく「危険な相談」である。民衆が集まって議論や相談するのが危険だと、今の政治家たちは思っている。
秘密保護法は「大事なことは民衆には知らせず、政府だけでやる」という考えだ。「民衆は集まって相談なんかするな、議論するな」というのが共謀罪だ。

国会提出を阻もう

共謀罪の国会提出は絶対に許してはならない。法務大臣はくりかえし、「慎重に検討している」と言っているが、この「慎重な検討」というのは、「いつ法案を提出するか」を慎重に検討しているにすぎない。参議院選挙が終われば必ずするつもりだ。あるいはそれまでに出てくるかもしれない。
新聞記事はアドバルーンと世論操作だ。記事が出るたびに自民党と公明党に抗議を集中しよう。また共謀罪についてミスリードする記事が出れば、その都度新聞社に抗議の意見を寄せていく。そうして国会への提出を許さないという状況を作っていきたい。

5面

寄稿
戦後70年と〈天皇〉への意見を受けて
新たな〈戦前〉情況を迎えてもう一度〈天皇〉を問い直そう
隠岐 芳樹

昨年本紙に6回シリーズで掲載された「戦後70年と〈天皇〉」に対して、さまざまな反響があった。目に触れた範囲でコメントし、併せて最近の情況を踏まえつつ、シリーズで書き足りなかった点を補足して、読者の批判を仰ぎたい。

まず、シリーズ最終回で本多〈天皇制ボナパルティズム〉論を批判したことへの反論についてである。
反論の要点は第1に、戦前の日本において労働者階級と資本家階級の力が均衡していなかったとするのは正しくない。労働者階級の成長は組織率などで判断すべきではない。逆に資本家階級が十分に成長していれば、天皇など担ぐ必要はなかったのではないか。天皇制ボナパルティズム論を批判する以上は、天皇制をどう考えるかの論理(代案)を提示すべきである、というもの。
労働者階級の組織率は一つの参考例として紹介したにすぎず、そこに重点を置いてはいない。労働運動をはじめとする反体制運動の実勢と影響力、さらに指導部と一般労働者の意識水準こそ問題であると考え、2〜3の例を挙げておいた。
私は労働運動や社会主義運動の歴史に関心を抱き、文献・資料だけでなく、かなりの数にのぼる指導者や活動家、さらに一般の労働者からヒアリングをおこなった。なかには、中学生が修学旅行中の船上で左翼労働運動の指導者と言葉を交わしただけで感激して、夏休みに友人を誘って小倉から大阪のその人の家をたずねて10日間ほどマルクス主義の雑誌を読みふけり、卒業するや労働運動に身を投じるなど、戦前の左翼=マルクス主義者は絶大な影響力を持っていた。
しかしそれにもかかわらず、その運動は客観的に見て、とても資本家階級と均衡するまでの勢力を築くことができなかった。例えば、1921年、阪神地方で連続してストライキがおき、3万7000人の労働者が決起した三菱・川崎両造船所大争議を契機に、大工場では軒並みに工場委員会制度が導入された。これによって基幹産業では資本の労働者支配が確立し、それに対して労働運動の側はほとんどなすすべがないままに終始したのである。

天皇制を支配と侵略の核に
日本帝国主義が形成・発展

つぎに資本家階級が天皇を担いだのは、日本が明治維新以降、欧米列強に追いつき追い越そうと、資本主義を導入・形成・発展させていくためには人民を統合・支配し対外侵略を推進する“核”として、天皇制(イデオロギー)を利用することが最も有効であると判断したからである。
従来の天皇制論はいずれも、このような位置づけを欠いていた。本多論文は、それらを批判・止揚したものであった。
天皇制ボナパルティズム論を否定するなら代案を示せという指摘に対しては、国家体制=統治機構(戦前そして戦後=現在の)をどう規定すべきかという問題を、当面の諸課題に取組むなかで常に念頭に置きつつ、一定の時間をかけて討論し結論を導き出すのが賢明ではなかろうか。
批判の2点目は、拙稿では本多論文において天皇が階級対立を緩和する役割を果したことを具体的に示していないとしている。しかし弾圧や転向強要(戦前の場合、転向誘導が正しい―隠岐注)の口実に天皇を持ち出し、階級闘争の爆発を未然に防いだことだけを見ても明らかではないか、というもの。
およそ歴史を論じるに際して、何よりも実証性が問われる。いくつかの具体的事例を示して立論の根拠を示さなければいけない。本多論文は執筆者の組織上の地位と声望から、同盟員には肯定的姿勢で読まれたであろう。しかし、多くの労働者活動家が「なるほど、よくわかった」と十分に納得するだけの実証性に欠けていると言わざるを得ない。
批判の3点目は、拙稿が本多論文は労働者人民の内面を視野に入れていないと指摘している。これは労働者に向かって「君たちがだらしがないから支配されているのだ」と言うに等しく、支配者の論理(立場)を補強するものである、としている。
支配者の論理(この場合、天皇制)が社会の隅々にまで浸透して力を発揮するためには、支配される側の人びとに一方的に押しつけただけでは不可能である。被支配階級がそれを受け入れる精神構造―家父長専制、権威主義、排外主義、女性差別など―を有していなければ成り立たない。したがって天皇制打倒の闘いを組織するためには、労働者人民の内面を対象化してとらえ、具体的な諸課題との取組みをとおして、それを克服していく主体的努力が求められる。
批判の4点目は、拙稿が本多論文は「戦後日本の国家体制を議会制民主主義であると簡単に片付け、天皇制を不当に低く見ている」と指摘している。そうであれば組織の総力をあげた「天皇決戦」など闘えなかったし、そもそも提起されなかっただろう、というもの。
しかし「天皇決戦」なるものは、当時の政治情勢―昭和天皇の下血騒ぎをキッカケにした一大キャンペーンと、引き続く天皇代替わりのセレモニーによる世論誘導をテコに、大反動攻勢が一気に加速されようとしていた―の主体的把握にもとづくものであった。本多論文を理論的根拠に打ち出された訳ではない。
批判の5点目は、拙稿で「真性の共同体」を強調しているが、具体的イメージに欠ける。さらに「天皇制イデオロギーに打ち克つ道」を主張しているが、天皇制打倒を措定しないで、どうしてそれができるのか、という指摘である。
「真性の共同体」とは、共産主義の社会とそこにおける人間相互の関係を含意するものである。その内実は今後われわれの理論的研鑽によって豊富化していくべき課題であると言えよう。なお拙稿は「天皇制打倒」を明示的に表現していないが、シリーズ全体をとおして天皇制をなくそう(打倒、廃絶)という根本的立場が貫かれていると読み取ってもらえるものと考える。
つぎに、シリーズ全体を肯定的に受け止めている人も、「天皇制の統治形態についてあまり述べていない」と不満を述べている。そして「天皇制と官僚制が解体されて、はじめて日本人民の解放がありうる。官僚制度の研究は、革命的左翼のなかでもあまりおこなわれていないのではないか」と問題提起している。
沖縄と本土を結びつけようと頻繁に往復している友人からは、沖縄を売り渡した昭和天皇のメッセージが明らかにされて、沖縄では反天皇制運動がもりあがった。しかしその後、天皇明仁夫妻が何回も沖縄へ「慰霊」に来て、県民もソフト路線に組み込まれ、天皇制抗議活動への参加は圧倒的少数になっている、という手紙をもらった。
連れ合いの転勤で沖縄に移住した女性からは、現代の「天皇制」のイメージコントロールは成功したと言わざるを得ません。天皇の戦争責任についても、多くの人は「これほど国民に寄り添っているではないか」と反論するでしょうね、と記した感想文が寄せられた。
こうした傾向は本土ではさらに根深く、厄介な問題である。戦争法制定下で自衛隊から戦死者がでることは必至である。そのとき天皇・皇后が大きな役割を果すことになるだろう。われわれは今から、それに備える態勢を築くことが迫られている。
最後に、古代天皇制の成立過程について、独創的で精緻な研究成果を教示してくれた読者がいる。多くの国民が天皇制を支持する根拠である「万世一系」の虚偽を徹底的に暴露するために、より多くの人たちにわかりやすいかたちで発表されることを期待する。

日本軍性奴隷制の犠牲者に
「お言葉」をかけない天皇

昨年末、日韓両政府は「慰安婦」(日本軍性奴隷制)問題について「合意」に達したと発表した。犠牲者のハルモニたちは、国家による公式謝罪と国家賠償を欠いた「合意」を拒否する姿勢を明らかにし、怒りの声をあげている。
ひるがえって2000年の日本軍性奴隷制を裁く国際戦犯法廷は、女性への戦時性暴力を明確に戦争犯罪と認定し、昭和天皇をこの犯罪の中核をなす戦争犯罪人と断定した。日本軍性奴隷制は、天皇が大元帥として統帥・編成権を独占する軍隊(皇軍)が計画・立案・展開した制度である。
天皇明仁と皇后美智子は、「おやさしいお言葉」で「慰霊」と「慰問」を重ねている。しかし、この問題については一切触れようとしない。戦争政策をおしすすめる安倍晋三とともに、平和主義者・人道主義者を装う天皇・皇后の擬態を暴露し糾弾しなければならない。

6面

論考
被ばくとガン(第1回)
福島第一原発の現場から
請戸 耕一

東京電力福島第一原子力発電所の収束・廃炉作業に従事した作業員のガン発症が明らかになっている。2011年の7月から約4カ月作業に従事したAさん(現在57歳/札幌市)は膀胱ガン、胃ガン、結腸ガンを相次いで発症。また2012年10月から1年3カ月作業に従事したBさん(現在41歳/北九州市)が白血病を発症した。
Aさん、Bさんはそれぞれ労災を申請したが、Aさんは申請が認められず、今年9月、損害賠償を求める訴訟を起こしている。また、Bさんは今年10月、労災の認定を受けている。
Aさん、Bさんを含め、福島第一原発事故後の収束・廃炉作業に従事してガンを発症し、労災の申請に至ったのは8人。その内訳は認定1、不認定3、取り下げ1、審査中3となっている。(昨年10月末時点)

被ばく線量が高止まり―厚労省

厚生労働省が昨年8月、福島第一原発の安全衛生管理に関するガイドラインを示し、それに関して、「月別の平均被ばく線量は減少傾向にあるものの、被ばく線量が5ミリシーベルトを超える労働者数は横ばいであり、全労働者の被ばく線量の総計は高止まりしています」と述べている。
では、実態はどうなっているのか。東京電力作成の資料「福島第一原子力発電所作業者の被ばく線量の評価状況について」(2015年9月30日)をもとに見てみよう。
【表1】は、「2011年3月以降の累積被ばく線量」。【表2】2015年6月〜8月の月別平均と年換算の被ばく線量。(「福島第一原子力発電所作業者の被ばく線量の評価状況について」をもとに筆者が作成)
【表1】によれば、福島第一原発事故が発生した2011年3月以降の総作業者数が約4万5千人。そのうち、累積被ばく線量が10ミリシーベルトを超えている者が約1万6千人、総作業者数の3分の1以上。50ミリシーベルトを超える者も2600人、100ミリシーベルトを超える者も174人。
また、【表2】によれば、発災直後に比べれば現場の放射線量率はだいぶ下がってきているものの、最近の数値で、下請の作業員の平均の被ばく線量は年換算で7・14ミリシーベルトになる。
作業員にとってはこのような被ばくが常態化しており、「事故の直後に比べたら大したことではないのでは」という声も聞かれる。しかし、次に見る最新の知見を踏まえると深刻に受け止めるべき数値だということがわかる。

低線量・低線量率でもリスク上昇

昨年7月と10月、仏・米・英・スペインの国際的な研究チーム(以下、国際研究チーム)が、職業被ばくとガンにかんする2つの論文を発表した。
ひとつは、放射線被ばくと白血病との相関性に関するランセット論文、いまひとつは、放射線被ばくと固形ガンとの相関性に関するBMJ論文。いずれもThe International Nuclear Workers Study(INWORKS)という疫学調査を元にしている。INWORKSは原子力施設の作業員にたいして60年以上にわたっておこなわれている追跡調査。2つの論文はそのうちの約30万人の作業員のデータを統計的に解析したものだ。
2つの論文が示した新たな点を挙げてみよう。

【ランセット論文】

▽ 被ばく線量の増加に比例して、白血病を発症するリスクが上昇する。
▽ 極めて低い被ばく線量・線量率でもこの関係は成り立つ。
▽ 被ばくがない場合の白血病リスクを1とすると、被ばく線量が1ミリグレイ蓄積するごとに、白血病リスクは1・003に上昇する。
▽ 低線量の放射線によって累積する慢性的な外部被ばくと白血病リスクとの間には線量反応関係があるという強力な証拠が得られた。

【BMJ論文】

▽ 白血病以外のガン(胃、肺、肝臓など)について、被ばく線量に応じてガンによる死亡リスクが直線的に増加する。
▽ 被ばくがなくてもガンで死亡するリスクを1とすると、被ばく量が1グレイ蓄積するごとに、ガンの死亡リスクが1・48に上昇する。
▽ 100ミリグレイ以下の被ばくでも、線量に応じたリスクの増加は、高線量の被ばく(原爆被爆者の調査)と同じような傾向を示した。

一言で言えば、この研究は、国際放射線防護委員会(ICRP)などの「公式の見解」が依拠してきた土台を覆している。その点を若干解説しよう。
@「公式の見解」は、Life Span Study(LSS)と呼ばれる 広島・長崎で被爆し生存した人びとにたいする追跡調査を元にしておこなわれてきた。しかしこの調査は、被爆から5年後に生存していた人を対象にしているなど偏りがあり、また、個人の被ばく線量が正確には特定できないことなどの問題があった。
それにたいして、INWORKSは、原子力施設の作業員であり、被ばく線量が管理されており、60年以上にわたる長期のモニタリングがおこなわれている。
また、LSSの母集団が約12万人であるのにたいして、INWORKSを元にした国際研究チームでは約30万人と大きいことだ。
A「公式の見解」では、LSSは高線量の被ばくの集団であり、低線量域については〈わからない〉とし、そこから、高線量域のデータ解析において採用した理論モデルを、低線量域にも当てはめる「外挿」というやり方が取られてきた。
しかし、〈わからない〉」というのはデータがないのではない。低線量域のデータは存在している。むしろ低線量域の方が単位線量あたりの被ばくの影響は大きいという結果も出ている。ただデータのばらつきも大きい。そのために理論モデル通りにはいかない。だとすれば、高線量域の解析において採用した理論モデルはそのままでは低線量域では使えないとするべきだ。ところが、逆に、低線量域のデータの方を切り捨てて、理論モデルの方を優先するというやり方を取ってきた。このやり方には疑問が提起されてきた。 それにたいして、INWORKSに基づく国際研究チームの場合は、全作業員30万人の積算被ばく線量が20・9ミリシーベルトという低線量被ばくを直接観察することによっている。この点で信頼性がはるかに高い。
Bそして、次の点がもっとも重要な点だが、「公式の見解」は、高線量域で採用したモデルを低線量域に外挿する際に、〈低線量被ばくのリスクは高線量被ばくのリスクの2分の1に換算する〉という数字の補正をおこなっている。これは〈同じ100ミリシーベルトの被ばくでも、低線量率でじわじわと長時間にわたって被ばくする場合と、高線量率で一挙に被ばくする場合とでは、その影響は高線量率の場合の方が大きいはずだ〉という考え方にもとづいている。2分の1の根拠は動物実験や理論モデルなどから導出されたとしている。
しかしその考え方は、低線量被ばくの影響を過小評価するものという批判を受けてきた。
今回の国際研究チームの成果では、「被ばく線量の増加に比例して、白血病を発症するリスクが上昇する」「極めて低い被ばく線量・線量率でもこの関係は成り立つ」(ランセット論文)、「被ばく線量に応じてガンによる死亡リスクが直線的に増加する」「100ミリグレイ以下の被ばくでも、線量に応じたリスクの増加は、高線量の被ばく(原爆被爆者の調査)と同じような傾向を示した」(BMJ論文)。つまりICRPの「公式の見解」で採用されている〈低線量被ばくのリスクは高線量被ばくのリスクの2分の1に換算する〉というやり方は間違いであるという結果が出たのだ。

100ミリで3・8%上昇

さて「公式の見解」と国際研究チームの結果とを、具体的な数字で比較してみるとどうなるか。ガン死亡リスクで見てみよう。
まず、現在の日本の男性について(男女に差があるので男性の場合で検討する)、ガンに罹患する確率(生涯ガン罹患リスク)は62%、ガンで死亡する確率(ガン死亡リスク)は26%。これは被ばくのない場合のリスクである。
ICRPの1990年勧告、2007年勧告などの「公式の見解」では、〈ガン死亡リスクは、1シーベルト被ばくするごとに5%上乗せされる〉としてきた。
これに対して、BMJ論文では、〈被ばくがなくてもガンで死亡するリスクを1とすると、被ばく量が1グレイ蓄積するごとに、ガンの死亡リスクが1・48に上昇する〉としいる。(グレイとシーベルトは違う単位だが、便宜上、ここではシーベルトと同じとみなす)
計算過程は省くが、公式の見解のガン死亡リスクとBMJ論文のガン死亡リスクを累積100ミリシーベルトと累積1シーベルトでそれぞれ比べると、【表3】以下のようになる。
公式の見解とBMJ論文とでは、ガン死亡リスクの上乗せ分(被ばくによってリスクが上昇した分)が一桁も違う。100ミリシーベルトでは、「公式の見解」では26%が26・5%に0・5ポイントの上昇としていたが、BMJ論文では、26%が29・8%に3・8ポイントも上昇する。被ばくがなくてもガン死亡リスクが26%あるということ自体が問題だが、それが被ばくによって確実に上昇することがわかる。
こうして見ると、〈100ミリシーベルト以下の被ばくは影響がない〉〈影響はあっても他の要因に隠れてしまう〉ということが「専門家」によって流布されてきたが、全く誤った見解だったということだ。
国際研究チームによる新たな知見に踏まえると、福島第一原発の収束・廃炉作業に従事している作業員の累積被ばく線量が、白血病や固形ガンのリスクをかなりのレベルに上昇させていると見る必要がある。(つづく)