未来・第177号


            未来第177号目次(2015年6月4日発行)

 1面  新基地はつくらせない
     沖縄県民大会に3万5千人

      「大阪都構想」を粉砕
     安倍改憲プランに打撃

     怒りの国会包囲
     沖縄新基地反対で1万5千     

 2面  寄稿
     関西大学法学部教授 高作 正博
     動き出した戦争法案(上)
     「武力行使」を目的とする海外派兵へ

 3面  争点
     沖縄基地が中東出撃拠点
     自衛隊の海外派兵を許すな(下)
     三船 二郎      

 4面  労働法制改悪2法案阻止へ
     オールユニオン 怒りの国会デモ

     大阪市をなくすな!
     市民ボランティア奮闘記(1)
     矢敷 撤

     「介護は公費でまかなえ」
     介護保険問題で学習会

 5面   直撃インタビュー 第27弾
     卒業式で、職務に忠実でも処分
     教員としての信念貫く
     大阪府立支援学校教員 奥野 泰孝 さん      

 6面  「虚偽自白はこうしてつくられる」
     石川一雄さんを招き集い
     4・25 尼崎      

     狭山再審を訴え神戸で座り込み

     高浜原発を動かすな
     仮処分決定 地元で報告集会

       

新基地はつくらせない
沖縄県民大会に3万5千人

「沖縄をないがしろにするな」沖縄セルラースタジアムを3万5千人が埋めた(5月7日 那覇市)


5月15日、第38回平和行進の出発式が名護市瀬嵩の浜でおこなわれた。県内外から労働者1200人が参加した。辺野古新基地建設が進む大浦湾が見渡せ、目の前にはフロートが張り巡らされている。
抗議船とカヌー隊が海上抗議行動をおこなうなか、「辺野古ブルーがんばれ」のエール交換のもと集会が開催された。沖縄平和運動センター大城悟事務局長の「全国の声が基地建設を止めている。頑張ろう」の決意のもと、キャンプ・シュワブゲート前までデモ行進。ゲート前では座り込みの市民と合流。

オールジャパンで

17日、那覇市の沖縄セルラースタジアム那覇で「戦後70年 止めよう辺野古新基地建設! 沖縄県民大会」が3万5千人の参加のもと開催された。11時の開場前から、辺野古の海をイメージした青いシャツやタオルなどを身に着けた市民が続々と結集してくる。開場と同時に次々と席が埋まっていく。すごい熱気だ。アトラクションがおこなわれ、12時頃、壇上に「辺野古ブルー」のカヌー隊と船長、そしてゲート前で連日座り込みを続ける市民が登壇すると大きな拍手が送られた。
開始1時前には外野の芝生席も満員になった。大会開始。辺野古基金共同代表の呉屋守將さんが「辺野古基金が2億1150万円集まった」と報告すると大きな拍手が起こった。さらに、「そのうちの7割が本土から寄せられている」と言うと更なる拍手と指笛が鳴り響いた。
稲嶺進名護市長は「わたしたちは黙っていたらいけない。オールジャパンの思いが共鳴してきている。世界中に仲間が増えている。知事と共同歩調で必ず辺野古を止める」と決意を述べた。
安次富浩ヘリ基地反対協共同代表は「沖縄の基地は私たちが撤去させる。日本政府には任せられない。沖縄の未来は私たちが決める」と訴えた。映画監督のオリバー・ストーンさんからのメッセージが紹介された。鳥越俊太郎さんは「沖縄のこのような大会が、東京でも北海道でも九州でもおこなわれることを望んでいる」と全国へのメッセージを送った。

翁長知事とともに

翁長知事の登壇に会場は異常な熱気に包まれた。翁長知事は「辺野古に基地は造らせないとの公約の実現に向け、あらゆる手法を用いて全力で取り組んでいく。皆さま方にあらためて決意する」と宣言した。そして、「安倍総理、菅官房長官が『普天間の危険性除去は辺野古建設が唯一の解決策だ』と述べたが、辺野古新基地の建設を阻止することが普天間基地を解決する唯一の政策だ」と述べた。
さらに「沖縄は自ら基地を提供したことは一度もない。普天間飛行場もそれ以外の基地も戦後、県民が収容所に収容されている間に接収され、また、居住場所をはじめ、銃剣とブルドーザーで強制接収され基地建設がなされた」とし、現在、政府が進めている辺野古基地建設作業が「海の上での銃剣とブルドーザー」であることを強調した。
最後に、辺野古新基地建設を強行する政府に、しまくとぅば(島言葉)で「沖縄人をないがしろにしてはいけませんよ」と結んだ。翁長知事の発言が終わると参加者は立ち上がって拍手を送った。壇上で翁長知事と登壇者が固い握手を交わす。すると更なる拍手がわきあがり、しばらくは鳴りやまなかった。最後に全員が手をつなぎ「頑張ろう」を三唱した。

「大阪都構想」を粉砕
安倍改憲プランに打撃

「大阪市をなくすな」5月10日の市民デモ

「大阪市廃止・五分割」の是非を問う5月17日投開票の住民投票は、賛成約69万票、反対約70万票(投票率67%)で否決された。7年間におよぶ橋下政治はついに終焉のときを迎えた。橋下は、あらゆる反対意見をデマと断じつつ公権力を使って弾圧し、ウソで固めたプロパガンダを繰り返した。
テレビは4億円を投じた維新の会に支配され、コマーシャルだけでなく、番組のコメントも賛成派の論者が仕切った。橋下にとって今回の住民投票は、その政策の合理性を説得したり論争する機会ではなく、反対派を撃退して白黒決着をつける機会だった。市民に分断を持ち込み対立を煽った。
橋下の信者たちはより頑迷になり、「理屈やないで」という態度に凝り固まった。彼らにとって反対派は説得と合意ではなく、拒絶と憎悪の対象でしかなかった。住民投票を支配したのは、住民自治や地方行政と相容れない、感情の対立であった。住民投票が終わった今でも「老人世代のせいで負けた」「生活保護受給者や貧乏人が反対したせいだ」などとレッテルを貼っている。
これにたいし、市内いたるところで市民が自発的に立ち上がり、連携し、創意工夫し、エネルギッシュにたたかった。そして大きな勝利をつかみとった。
4年前の大阪市長選挙で橋下は75万票をとり、52万票の現職平松を破った(投票率61%)。3年半で橋下賛成票は6万票減らし、反対票は18万票増やした。この逆転を生み出した力にこそ注目しなければならない。
このたたかいは安倍の改憲プランを押し返す力になっている。巻き返しを許さず、橋下政治の命脈を断ち切ろう。(4面に関連記事)

怒りの国会包囲
沖縄新基地反対で1万5千

「集団自衛権法制化阻止!」国会前で座り込みが始まった(5月15日)
多彩な人々が集まって成功したヒューマンチェーン。沖縄上京団も参加した(5月24日 国会前)

5月24日、辺野古新基地建設に反対する国会包囲ヒューマン チェーンがおこなわれ、1万5千人が参加した。主催は「5・24首都圏アクションヒューマンチェーン」実行委員会。参加者全員で国会を取り囲み、国会正門前、議員会館前、首相官邸前、国会図書館の4つのエリアでそれぞれ集会がおこなわれた。この日は、翌日の政府への申し入れのために上京した稲嶺進名護市長やヘリ基地反対協共同代表の安次富浩さんをはじめ、大勢の沖縄上京団も参加した。
連合沖縄の山城さんは「普天間基地の危険性の除去と辺野古新基地阻止のたたかいは決して矛盾しない。憲法9条を破壊し、労働者派遣法改悪など反動政策を進める安倍政権と対決していかなければならない。辺野古新基地建設を阻止することは、安倍政権の反動政策に歯止めをかける第一歩になる」とアピール。
安次富さんは「17日の県民大会には、3万5千人が集まったということだが、会場の外をあわせると5万人が集まったと報告を受けている。これは、27日から訪米する翁長知事や稲嶺市長らへの大きなバックアップになる。安倍政権はまさに、植民地主義者の顔をして、与那国への自衛隊配備など、沖縄を再び戦場にしようと画策している。普天間は即時閉鎖、辺野古に基地は作らせない。これが沖縄の気持ちだ。これを共有して欲しい。沖縄の未来は、沖縄に住む私たちが決めるのであって、永田町や霞ヶ関の住民に私たちの将来を委ねるつもりはない。沖縄の未来と日本の将来をともに作り上げよう」と力強く訴えた。このほか沖縄県議や国会議員などの発言があり、3時過ぎからヒューマンチェーンを実行。沖縄と本土人民の怒りで、国会は完全に包囲された。

2面

寄稿
関西大学法学部教授 高作 正博
動き出した戦争法案(上)
「武力行使」を目的とする海外派兵へ

解釈改憲によるクーデタ

安倍政権による安保法制、戦争法案が閣議決定され国会に提出された。昨年7月1日、集団的自衛権行使を容認する閣議決定は「切れ目のない安全保障法制整備」という名目だった。「切れ目のない」という言葉がキーワード。解釈改憲というクーデタに等しい。
同時に進行したのが特定秘密保護法。政府にたいする異論の排除、辺野古での暴力による市民排除による基地建設などが進行している。異論排除ということでは、もう異常な事態である。例えば、国会で首相がヤジを飛ばした事件である。国会では首相は議員の質問に答えるのが当たり前。ところが答弁ではなくヤジである。メディアはこれを軽視し、たいしてとり上げることもしていない。国会による民主的統制が機能していないのである。
憲法学者・宮沢俊義氏の文献に「5・15事件以来、立憲主義は議会権力の衰微によって特色づけられる。かような方向に変遷しつつあることを、わが国の政治がファシズム化していると説く人が少なくない。…立憲主義は危機に立っている」(要旨)とある。この著書は1968年の発行だが、引用は1937年の一文だ。あの「5・15事件」のころと現在とがまったく重なっているのではと強く危惧する。こういう事態を私たちがいかに転換できるのか、それともできないのか。その分かれ道にきている。


解釈改憲の完成へ

解釈改憲の完成ともいえる日米安保ガイドラインが4月27日に改定された。国会に法案すら提出していない内容を勝手にアメリカと約束し、それを国会も私たちも後から目にすることになった。順番が逆である。あえて言えば、憲法をかえなければできないことを平気でおこなっている。
そこで一番に重要な問題となるのは「平時から利用可能な同盟調整メカニズム」だ。戦争がおこっていない段階で、日常的に日米同盟の関係が進行することが合意されている。その完成形が今回の法案である。この法案はどうしても阻止しなければならないだろう。
実際の法案は11本、非常に「難しい」内容となっている。@国際平和支援法(新法)、A重要影響事態法、B船舶検査活動法改正、CPKO法、D武力攻撃事態対処法、E自衛隊法、F米軍行動関連措置法、G特定公共施設利用法、H海上輸送規制法、I捕虜取り扱い法、J国家安全保障会議(NSC)設置法。
@は新法、A以下は改正となる。これらにより海外派兵の恒久化、集団的自衛権の行使容認、外国軍支援、日本周辺という地理的制約の撤廃、駆け付け警護、存立危機事態に武力行使、グレーゾーン事態で武器使用、閣議決定前にNSCで判断等々が可能になる。
様々な「事態」が設定される。例えば国際平和共同対処事態、重要影響事態、集団的自衛権を行使する場合には存立危機事態、あるいは戦争が起こっていない段階はグレーゾーン事態と呼ばれる。これらは、憲法にとっては重大事態だ。まさに憲法危機事態といわなければならない。

外国軍隊の武力行使への関与 ―「一体化論」の見直し

この項では焦点を2つに絞ってみる。1つは、自衛隊はどこでやるのかという後方支援の問題と、何をするのかという武器使用などの問題。2つは日本の安全について、いわゆる集団的自衛権にかかわる問題。
まず昨年の7・1閣議決定で何が変えられたのか。「一体化論」が大きく変更された。一体化論とは分かりにくいが、「日本に対する武力攻撃はなく、しかも自衛隊は直接武力行使をしていない場合でも他国が武力を行使しているところに自衛隊がかかわる」こと。 このかかわり方が密接であればあるほど、自衛隊の行動と他国軍隊の行動が「一体化」する。自衛隊が戦闘に参加していなくても、「関与の密接性」から自衛隊の行動は違憲とされるという考え方だ。
これが従来の見解で、「外国軍隊の行動と自衛隊が一体化してはならない」という立場が貫かれていた。「一体化」のもっとも重要な指標は場所、地域になる。従来の周辺事態法では自衛隊の活動は「周辺、後方」に限られるとされていた。イラク特措法やテロ対策特措法の審議では「戦闘地域、非戦闘地域」という言葉が使われた。
つまり自衛隊は、後方か非戦闘地域までしか行けないとされていた。前線、戦闘地域に行くのは「一体化」となり、「そこへは行ってはいけない。行けば憲法違反になるおそれが強い」というのが政府見解だった。
これが7・1閣議決定で次のように変更される。「他国が現に戦闘行為をおこなっている現場ではない場所まで範囲を拡大できる」「現に戦闘行為をおこなっている現場となる場合は、活動を休止中断する」。少々分かりにくい表現であるが、「現在、弾が飛んでいないところまでは行ける」。実際には「前線、戦闘地域まで行ける」という見解に変えられた。これが「一体化」論の見直しだ。当然、自衛隊が戦闘行動に「巻き込まれる」危険性が大きくなる。

「武力の行使」と「武器の使用」―「駆け付け警護」・「任務遂行」の解禁

もう1つは「武力の行使」と「武器の使用」の問題だ。「武力の行使」は、憲法9条第1項で禁止されている。したがって従来の政府見解は、「自衛隊は武器を持って海外に行くが、もし武器を使用する場合は『武力の行使』ではなく、『武器の使用』。したがって合憲である」と説明していた。定義のポイントは、相手が「国家またはそれに準じる組織」の場合は「武力の行使」。そうではない「テロ集団、強盗団・犯罪集団」などの場合は、武力行使ではなく「武器使用」ということになる。これは相手方の条件。これは相手方の条件。
対する自衛隊側の条件は「組織的・計画的な戦闘行為」かどうかがポイントになる。上官の命令などがあれば「武力行使」となり憲法違反だ。ところが隊員個々の判断であれば組織的行為ではなく、憲法に抵触しないという判断だった。
では、これまでは何ができて、何ができなかったのか。自衛隊が武器を使う場合、4類型ある。@自己保存型(隊員個々人が自分の身を守る、組織としてではない)、A武器等防護(持っている武器を奪われるなどの場合、武器を守るために武器を使用)、この2つは基本的に合憲とされていた。そして「武力の行使」になるのでやらないとされてきたのが、B任務遂行のための武器使用(@Aをこえる任務遂行)だ。ただし、治安出動(治安維持のため)については例外的な事例として認められていた。また海賊対処法においても、海賊に対処するための武器使用として限定的に認めていた。これは「身を守る」をこえているが、相手が国家ではない武装集団というぎりぎりの線だ。このように任務遂行型というのは、従来はきわめて限定的にしか認められていなかった。
これが7・1で大きく転換される。1つは、PKOなどで派遣される場合も「任務遂行のための武器使用」を認める。もう1つはC駆け付け警護。これは、すでに外国の軍隊が戦闘をおこなっているところに自衛隊が駆け付け、いっしょに戦うという考え方。必然的に武器使用が想定される。他国の軍隊、民間人を保護するために武器を使用するものである。「任務遂行型」と「駆け付け警護型」という武器使用の拡大、解禁が盛り込まれたのである。
問題点を整理すると、これまで自衛隊はアフガニスタン本土やバクダッド周辺などの「前線には行けない」という考え方だったものが、「前線にも深く入り込む」というものへと変えられようとしている。そうなれば「戦闘行動に巻き込まれる」ことが容易に想定される。
もう1つは武器使用権限の拡大。現在は、国家に対して自衛隊が戦闘をおこなうことは憲法違反である。しかし、撃ってきた相手が国家か犯罪集団か見極めるのは困難だ。もし相手が国家でないなら「撃て」、国家なら「待て」という判断が現場に強いられるのだが、あくまで「相手が国家ではないだろう」という前提で法案づくりがおこなわれているのではないか。あえて現実と乖離した法案をつくろうとしている点が問題である。(つづく)

3面

争点
沖縄基地が中東出撃拠点
自衛隊の海外派兵を許すな(下)
三船 二郎

V 中東侵略を深める日本帝国主義

血を流す戦争へ

1991年の湾岸戦争のとき、海部政権は自衛隊を派遣することができず、かわりに莫大な戦費を供出するほかなかった。以後、日本帝国主義は戦地に自衛隊を派兵するための策動を始めた。
2003年のイラク戦争では小泉政権の下、イラク・サマワに自衛隊を初めて派遣した。 そして湾岸戦争から24年を経過した今、安倍政権はこれまでできなかった「血を流す戦争」に踏み切ろうとしているのである。

イラク戦争と在日米軍

在日米軍はアメリカが地球規模で展開する重大な軍事力の一つである。イラク戦争のとき、横須賀から巡航ミサイル・トマホークを搭載した艦艇や空母キティホーク、三沢基地からは戦闘機と兵士、沖縄からは海兵隊が出撃した。
空母キティホーク艦載機の出撃回数は5375回にのぼり、200〜900キロ爆弾をイラクに投下した。
三沢基地から第35戦闘航空団のF16戦闘機と米兵500〜600人、嘉手納基地から第18航空団のF15戦闘機と米兵500人、地上戦の中心である海兵隊は沖縄から5千人余が派兵され、派兵総数は約1万人にのぼった(『終わらないイラク戦争』勉誠出版)。

第31海兵遠征部隊

沖縄・海兵隊の中核的な部隊は第31海兵遠征部隊(31MEU)である。イラク戦争のとき、この部隊全体がイラクに移された。同部隊はクウェートで訓練を受けた後、イラクに移送されファルージャ攻撃に参加した。この経過は『沖縄基地とイラク戦争』(岩波ブックレット)で元宜野湾市長の伊波洋一氏が述べている通りである。海兵隊はまさにムスリム民衆を殺戮する血ぬられた軍隊そのものである。

ヘリ墜落後も派兵

2004年8月、米軍普天間基地の大型ヘリコプターCH53Dが訓練中に沖縄国際大学に墜落した。原因は回転翼のボルトを固定するピンが装着されていなかったという信じがたいミスだった。整備を担当した米兵はイラクにヘリを送るため徹夜でフラフラだったという。事故は起こるべくして起きたのである。しかし、重大事故にも関わらず、事故後も出撃命令をうけていた2200人の海兵隊と普天間の26機のヘリが強襲揚陸艦エセックスでイラクに向かった。

ジャパンマネーで虐殺

日本は実質的にイラク戦費(約7千億ドル)の半分強を負担していた。
「2003年3月から翌年夏まで、日本は約35兆円という、空前の規模のドル買い市場介入を行い、米国債を購入した。つまり、イラク戦争の戦費=約7千億ドル(約58兆円)の半分以上を日本が貸し出した」(前掲書)のである。
1991年の湾岸戦争のときの日本の戦費負担は90億ドル(9千億円)だから、その規模は巨額である。
日本の中東侵略は従来とは質を異にし始めている。昨年5月12日、イスラエル・ネタニヤフ首相が来日し、防衛協力を含む「日本・イスラエル間の新たな包括的パートナーシップの構築に関する共同声明」を出した。これは「準軍事同盟」である。日本がイスラエルと共に中東民衆の敵になるということである。
中東・北アフリカには日本から多くの企業が進出している。2013年1月、アルジェリアの巨大石油プラントが武装集団に襲撃され、日揮の労働者が死亡した事件はまだ記憶に新しい。
2015年2月、安倍政権の後押しを得て日本の経済団体が民間軍事会社の護衛車両に守られてイラク等に経済進出の提案をおこなっている。
日本は、石油だけでなく、中東でのあらゆる領域での進出を安倍政権の下、路線的に踏み切っているというべきである。

加担から殺戮へ

イラクやアフガニスタンでのアメリカの敗北が示していることはアメリカの国力の低下である。アメリカはその補完を日本にさせて世界支配、中東支配をおこなおうとしている。
安倍政権はそのための戦争法案を今国会で成立させようとしている。これはアメリカの血ぬられた同盟軍として、中東の民衆の抑圧者として日本が登場するということである。われわれは中東の民衆、ムスリム民衆への抑圧、殺戮を一切拒否し、日本とアメリカの侵略戦争を敗北させるためにあらゆる闘いを巻き起こしていかなければならない。

W 辺野古新基地建設の意味

中東、アジア侵略の一大複合基地へ

辺野古新基地の原型は50年近く前から米軍が計画してきたものである。沖縄公文書館に保管されている「海軍施設マスタープラン」には1966年、米海軍の依頼を受けた米設計会社が作成した計画書がある。同書によれば「エンタープライズ級の空母が停泊可能」で「陸海空作戦の中心となる」一大複合軍事基地が辺野古に計画されていた。
アメリカはイスラム国壊滅のために、アジア、中東への侵略のために50年前の計画通り、辺野古を含む沖縄本島北部に一大複合軍事基地を作ろうとしているのである。

海兵隊の一大拠点へ

海兵隊は沖縄本島各地に点在している。そのため、海兵隊を軍港があるホワイトビーチに集め、そこから強襲揚陸艦に乗せて出撃している。もし、辺野古に後述する強襲揚陸艦ボノム・リシャール(全長257m)が接岸できるようになれば、点在している米海兵隊を辺野古新基地に集中させ、そこから一気に輸送することができるようになる。それだけではない。米軍北部訓練場に隣接する東村高江や伊江島の訓練場とあわせて沖縄本島北部は海兵隊の一大拠点に変ぼうする。高江地区にはオスプレイ訓練用の6つのヘリパッドが建設予定であり、伊江島の35%を占める米軍基地=訓練場にはオスプレイを搭載できる強襲揚陸艦ボノム・リシャールと同じ大きさに書かれた模擬甲板が描かれている。

接岸する強襲揚陸艦

2012年12月に沖縄防衛局が沖縄県に提出した環境影響評価書には船が接岸できるようにするため約200mの護岸工事をすると記載されていた。しかし、その3カ月後、防衛局が県に提出した埋め立て申請書では突然、271・8mという数字に変更されていた。これは佐世保を母港とする強襲揚陸艦ボノム・リシャールを接岸させるためである。
米軍資料によれば、ボノム・リシャールは12本のロープで係留されている。1番のロープから12番のロープまで測るとぴったり271・8mなのだ。これを暴いたのは真喜志好一氏である。 この問題に関して今年3月17日、国会で質問があった。同日夜のテレビ番組はこれを特集し、真喜志好一氏のコメントを報道した。ボノム・リシャールは強襲揚陸艦とされているが全長257mにもなる巨大な空母そのものである。ちなみに第二次世界大戦のときの米主力空母の全長は247mだからそれよりも大きい。同氏によれば、辺野古に海兵隊やオスプレイを満載した強襲揚陸艦ボノム・リシャールが接岸できるようになれば、米軍の基地機能は一気に強化され、陸、海、空がそろった一大複合軍事基地となる。

自衛隊が共同使用

辺野古新基地は自衛隊も共同使用するとされている。3月25日、強襲揚陸艦ボノム・リシャールと同型の実質的な航空母艦「いずも」(全長248m)が就航した。日米の思惑は辺野古新基地に「いずも」が接岸し、米海兵隊や弾薬、オスプレイ等を満載して戦場に向かうことである。
西日本新聞は2月3日、「陸上自衛隊が昨年、中東を模した米国の砂漠地帯の演習場で対テロ戦闘訓練をしていた」ことを報道した。自衛隊の中東派兵は完全に具体化しているのである。

X われわれはどう闘うべきか

帝国主義国の労働者階級人民の課題は自国帝国主義打倒のために闘うことであるが、そのためにも、家族を殺戮されながらも不屈に闘い続けているぼう大なムスリム民衆、パレスチナ、中東の民衆と連帯していくことが必要である。
具体的には、安倍政権がおこなっている戦争犯罪を徹底的にあばいていくことである。日本は決して中立などではなく、民衆殺戮の担い手になっていこうとしている現実を暴露し、安倍の進める戦争への賛否をするどく問い、戦争反対勢力をしっかりつくっていくことである。

沖縄闘争の重要性

辺野古新基地建設は前述した通り、イラク戦争の比ではないよりすさまじい侵略の一大拠点作りである。イスラム国をはじめとする中東の民衆、ムスリム民衆を殺戮していくための一大基地であり、沖縄にさらなる犠牲を強いる基地である。辺野古新基地建設阻止と連帯して本土での沖縄闘争を取り組んでいくことが日本の労働者階級に死活的に求められている。
4月5日、翁長知事と菅官房長官との会談がおこなわれたが、翁長知事の指摘について我々はあらためてとらえ返していくことが必要である。沖縄に基地を強制することは「日本の国の政治の堕落」と弾劾する翁長知事の言葉はわれわれにも突き刺さっている。

戦争と改憲を許すな

この闘いはきわめて広範な闘いになる。国・資本と闘うあらゆる闘いと連帯し、戦争と改憲を許さない闘いをつくりだそう。
辺野古に基地を作らせないたたかい、労働法制、社会保障解体とのたたかい、戦争をあおるメディアとのたたかい、排外主義をあおるものとの闘い、戦争を賛美する教科書を採択させない闘い、原発再稼働を許さない闘い、フクシマと結ぶ闘い等々、たたかうあらゆる人たちと連帯していくことが核心である。
日本の労働者階級人民は全世界の闘う民衆と連帯し、戦争をする以外生きられない国と資本こそ死すべきであると宣言し、自国帝国主義の敗北のために闘おう。革命的祖国敗北主義こそプロレタリア国際主義の実践的な立場である。(おわり)

4面

労働法制改悪2法案阻止へ
オールユニオン 怒りの国会デモ

「雇用破壊を許すな」ナショナルセンターの壁を超えて2500人が参加(5月14日 都内)

5月14日、「取り戻そう★生活時間と安定雇用〜許すな! 雇用破壊 5・14ACTION」が東京・日比谷野外音楽堂でおこなわれ、2500人が参加した。参加組合は連合、全労連、全労協など、ナショナルセンターの壁を超えた「オールユニオン」の結集となった。主催は、実行委員会(日本労働弁護団、過労死弁護団全国連絡会議、ブラック企業対策プロジェクト、派遣労働ネットワーク、かえせ★生活時間プロジェクト)。
会場には三重県からバスで参加した「ユニオンみえ」、ストを闘った東部労組のメトロの非正規雇用女性労働者、神奈川シティユニオン外国人労働者など、各地の労働組合や労働弁護団の旗が翻った。
集会では、日本労働弁護団の鵜飼良昭会長が「こんなひどい法案は許してはいけない。必ず廃案に」とあいさつ。同弁護団常任幹事の棗一郎弁護士が情勢報告をおこない、「この結集で悪法は倒せる。派遣法、労働時間法制の次には解雇の自由化が控えている。まず派遣法を阻止し安倍政権の野望をつぶそう」と訴えた(※注)
各団体からの訴えでは「かえせ★生活時間プロジェクト」の圷由美子弁護士。過労死弁護団全国連絡会議の川人博弁護士は「過労死等防止対策推進法が成立したが、労基法改正案は過労死防止どころか過労死を促進させるものだ」と指摘。全労協の金澤壽議長、全労連の小田川義和議長、連合の高橋睦子副事務局長がそろって連帯あいさつ。廃案への決意を述べた。
全国過労死を考える家族の会の寺西笑子代表は「夫は年間4千時間も働き、長時間労働とパワハラで過労自死した。ひどい会社が放置されている。残業代ゼロより過労死ゼロ。労基法改正案は廃案に」と訴えた。
最後に「派遣法、労働時間法制の改悪阻止、労働時間の上限規制、勤務間インターバル規制実現」のアピールを採択し、国会請願デモに出た。議員面会所前では民主党、社民党、日本共産党、「生活の党と山本太郎となかまたち」が請願を受けた。この闘いは、当日の安保法制閣議決定阻止を訴える国会行動が官邸前などでおこなわれている中での共同行動となった。

全労働者が対象に

安倍政権は「世界で一番企業が活動しやすい国を作る」として、今国会に重要法案(成長戦略の柱)として2つの労働法改悪案を上程している。正規雇用労働者を不安定な派遣労働に置き換えることが可能となる「労働者派遣法」改悪と、8時間の労働時間規制を取り払う「労働基準法」改悪である。このあとに「解雇の金銭解決制度」の導入を用意している。とんでもない雇用と労働条件の破壊攻撃だ。
とりわけ労基法「改正」でねらう「高度プロフェッショナル制度」は「時間ではなく成果に応じて賃金を決める制度だ」などとし、一部マスコミも「成果に応じた賃金制度」などと報道しているが、法案のどこにもそんなことは書かれてない。書いてあるのは、「労働時間規制の適用除外となり、残業代は支払われない」ということだけ。残業代の支払い義務がなくなれば、労働者は次つぎと仕事を命じられる。この8時間規制の撤廃によって労働基準監督署による監督行政がなくなり、企業のしたい放題の暴走を許すことになる。
「対象は一部の労働者だけ」といわれているが、やがて全ての労働者に及ぶことは派遣法の経緯を見れば明白。塩崎厚労相は、経団連朝食会で「経団連が早速(対象労働者の年収基準の)1075万円を下げるんだと言ったもんだから、質問がむちゃくちゃきましたよ」と述べ、「それはぐっと我慢していただいてとりあえず通すことで合意をしてくれるとありがたい」と言っている。ねらいは労働者全体なのである。

労働分野の憲法改悪

産業競争力会議などで竹中平蔵(派遣会社パソナ会長)はこの法案を「風景を変える」と呼んでいる。アメリカでは適用労働者約2553万人以上。ファーストフード店長やレジうち労働者も対象になっており、大きな社会問題となっている。
この攻撃は日本の労働分野における憲法改悪でもある。憲法では個人の尊厳(13条)、平等(14条)、生存権(25条)、労働権(27条)が明記されており、そのもとで労働基準法が定められている。その第1条が「労働条件は労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすものでなければならない」。「この基準は最低であるから、労働条件を低下させてはならない」。これを破壊しようとする攻撃を阻止する闘いが力強く開始された。(労働者通信員M)

(※注)日本労働弁護団は1月、「あるべき労働時間法制の骨格(第1次試案)」を発表。「量的上限規制1日10時間、1週48時間とし、年間の残業時間は220時間」「勤務と勤務の間に連続11時間以上の休息時間を付与する勤務間インターバル」。

大阪市をなくすな!
市民ボランティア奮闘記(1)
矢敷 撤

5月17日に当然ながら否決された「大阪市特別区設置住民投票」。
維新の会が憲法改悪をもにらみつつ、まずは関西の制覇を図ったのが今回の住民投票であった。単なる「税金の無駄使いストップ」ではなく、すべてを橋下のもとに支配するための戦略だった。
「改革してくれそうな橋下さん」という幻想で市民を取り込みながら、公務員労働者へのやっかみを煽り、教育の右寄り支配、部落解放運動への締め付け、在日朝鮮人に対する迫害を全国に先駆けてやってきたのだ。社会的に差別されている人たちを血祭りに上げることで人気を博そうとするあざとい根性。
橋下の持ち味は「敵を作り出す」ことである。その手口がヒットラーにそっくりだ。

大同団結

しかし市民はいつまでもだまされない。自民、民主・社民、共産の大同団結は橋下自身が生み出したと言えるだろう。
私がボランティアとして参加した事務所では、脱原発・反戦を旨とする活動家が多数出入りしていた。そんな彼らが、原発推進で「中国けしからん」を信条とする御用労組の幹部連と仲睦まじく活動する姿が見られた。
各政党の取り組みを紹介しよう。民主党は自治体選挙前半戦での大惨敗に打ちひしがれるゆとりもなく、組織と落選議員・候補が取り組んだ。否応なしに行動(街宣・ポスティング・電話作戦)が入り、ちょうど良い政治的リハビリになったかも知れない。とはいえ地域によっては「大阪市廃止反対」のポスターなどの行動に取り組まなかった所もある(そんなことだから議席を失うのだ)。
自民党は街宣、時局演説会にかなりの力を費やして取り組んだ。「業界押さえ」まではしていないと思われる。
共産党は毎日、そして投票当日まで根こそぎ動員をかけていた。例えば天王寺の駅などは巨大なゾーンであるが、本番2週間目ぐらいからほとんどすべての出入り口で部隊が張り付いてガンガンやっていた。(つづく)

「介護は公費でまかなえ」
介護保険問題で学習会

「雇用破壊を許すな」ナショナルセンターの壁を超えて2500人が参加(5月14日 都内)

5月22日、大阪市内で「介護事業者も職員も 利用者・家族も これではやっていけない! 介護保険重要学習会」が開かれた(写真)。100人を超える参加者で会場は満員。過半は介護関係者だ。
主催は「労働運動の再生をめざす懇談会」。個別企業の枠内での労使関係を越えて、業種別・産業別に労働者を組織し、その主導の下に中小零細の事業主も巻き込んで、巨大資本や国・行政による支配を打ち破る産業政策を実現していこうと、複数の労働組合が呼びかけた団体である。
学習会では、介護労働者と事業者が連携して国・行政に要求を突きつけていく中に現状打破の道があると核心的提起がなされた。まさにタイムリーな企画だった。
講師は「介護保険料に怒る一揆の会」事務局長の日下部雅喜さん。介護保険を担当する現役の地方公務員でもある。
介護保険制度の仕組みと根本的問題点に触れながら、介護保険法大改悪と介護報酬大幅引下げ問題を中心に話をした。他の業種で働く労働者にとっても大いに問題意識と怒りをかき立てられる内容だった。以下、講演の概要を紹介する。

10年間改悪の始まり

「団塊の世代」が75才になるのが2025年。今回の改悪はそこに至る制度大改悪の始まり。
従来の介護保険サービスは、@要介護認定(要支援1〜2、要介護1〜5)を受ければサービスが利用できる。A要介護1〜5の人は特別養護老人ホームなど施設に入所申込できる。B利用料は所得に関係なく1割。C非課税世帯は施設の食費・部屋代の補助(補足給付)がある。

今回、全てを改悪

@要支援への訪問介護とデイサービスが保険給付から外された。2年以内に市町村事業に移行させ、無資格者・ボランティアによる安上がりサービスへ置き換える。しかし、対応できるとする市町村は未だ1割。A要介護1、2の人を原則「特養に入所できない」とした。申込者のうちの34%をしめる。B所得に応じて利用料2割負担を導入。C低所得者でも預貯金などがあれば補足給付をしない。BCは大きな負担増となる。

事業所の整理縮小

介護報酬は介護サービスの公定価格。今回、基本報酬部分を大幅に引下げ。事業所の整理縮小をねらい、特養・小規模デイサービス等がねらい撃ちに。良心的事業者ほど打撃。22%を高齢者の保険料で賄う介護保険制度は給付と負担が連動する。ここに根本的な問題がある。
日下部さんは「保険料はやめて公費で賄うべき」ときっぱりと語り、市町村や政府に対する具体的要求案や過去の成果も紹介され、参加者にとって、大いに激励される内容だった。
後半は4人の労働者が行政交渉や人権侵害との闘いを報告。最後に全港湾大阪支部・山元委員長がまとめを提起した。
詳しくは日下部雅喜著『介護保険は詐欺である』(三一書房刊 1300円+税)。

5面

直撃インタビュー 第27弾
卒業式で、職務に忠実でも処分
教員としての信念貫く
大阪府立支援学校教員 奥野 泰孝 さん

大阪府教育委員会は府立支援学校に勤務する奥野泰孝さんに対し、卒業式で座っていたことを理由に5月1日戒告処分を発令した。これは大阪府職員基本条例施行後、2回目の処分にあたる。同条例では、3回同一職務命令に違反すれば免職となる。旧「橋下知事・中原教育長体制」下での恐怖支配・パワーハラスメントそのものであり、絶対に認められない。とくに今回の卒業式は、車いすを利用する卒業生の介助のために隣で座っていたことを「職務命令違反」とする前代未聞のもの。処分を不当とし、裁判と人事委員会で争う奥野さんを支援しよう。(インタビューは3月下旬。見出し、文責は本紙編集委員会)

―3月6日の卒業式に至る過程を聞かせてください
今年の卒業式には特別の思いがありました。「君が代」斉唱は出来ないという以前に、3年間担任をしてきて、今年の卒業生担任として最後の授業で何ができるのかとの思いです。例年、管理職は「不起立の奥野は式場から外せ」ですが、今年は学年主任でもあり難しい。私も最後まで見届けたい思いでした。それもあり、卒業式を「君が代」問題に切り縮める論議はあまりしなかったと思う。「国歌斉唱」時に立たないために教員をしているわけではない。3年間見守ってきた子どもに対して何ができるか、です。管理職も忙しく「国歌斉唱時に起立」の職務命令は式の1週間前でしたが、これには「クリスチャンとして歌えない」、「戦争や差別の問題や立てない子がいる支援学校で全員立たせる必要はない」と反対しました。

―裁判・人事委員会で、「支援学校(養護学校)の卒業式」への理解を促しています
式の進行は普通学校とあまり変わりませんが、肢体不自由や発達「障害」や知的「障害」の生徒がいるので当然違いがあります。障がいの重い生徒の横に教員が座り、介助しながら約1時間の行事に出ます。最初の「始めます」から、起立、「国歌」斉唱、ついで校歌を歌い着席し、40人一人ひとりに高等部の責任者の准校長が卒業証書を渡します。在校生の贈る言葉をうけ、旅立ちの言葉を一言づつ繋いでいく。緊張の連続でも本人はがんばり、親は見守り、教員は助けます。
式終了後はスクールバスで帰りますが、廊下の両側に在校生が花道を作り、先輩に花を渡します。こうして卒業の自覚と社会でがんばる決意を固めます。どこでもある風景ですが、支援学校ではより原点的な形でおこなわれます。

―処分理由には、「厳粛な式を乱した」ということが含まれているようですが
子どもたちにとって卒業式・儀式はもっと短くていいと思います。さまざまな「障害」があり、発達度合いが異なる子を一堂に集めて一律の式をおこなうのには無理があります。「厳粛」は地域や共同体で一定必要かもしれませんが、強制はなじまない。社会の一員ですが、違う身体状況があり、一律に求めることはなじみません。一見不規則な行動・発言も、彼ら彼女らの生き方で、「健常者」もそれを理解する相互関係が必要です。卒業式でも、「自分の子は規律正しくしているのに、他に式を乱す子がいて許せない」と思う保護者はいません。「障害」や薬のせいで、こっくりこっくり寝ている子がいたり、興奮して大声を出す子がいてもいい。それを式場外に出すことはありえない。筋書き通りいかないのが式であり人生です。鋳型にはめ、管理するのが「教育」だとしたら、机に縛り付けるしかなくなる。それは教育でもなんでもない。

―それをふまえて、「職務命令」は出されているのでしょうか
支援学校の場合は車いすの生徒に教員がついてよい。これまでの管理職の指示は、「一時も目が離せない時以外は、国歌斉唱時には立つように」で、「できないなら管理職に事前に言え」です。生徒との関係で「発作が起きそうなので座っていた」ことで認められたケースがあります。今年の私の教え子は、毎日発作がある生徒だった。途中で興奮しすぎないようにし、発作が起こる可能性を低くした。気分的にもちょうどいい状態で立ち、介助歩行で卒業証書を受け取りに行った。それ以外は「座ったままの卒業式」を認めるように管理職に言いました。

―結局どうなりましたか
式当日、管理職は何も言ってこなかった。前日には「立ってください」と言われたが、返答は求められなかった。知人が前日、府教委に行き指導主事に聞くと、「発作を起こしかねない生徒の横で座ることはあり得る」との回答でした。具体的に奥野の学校の状況を伝えると、指導主事は「学校の管理職に言っておく」と答え、その後学校の管理職に電話をしたようです。私は自分の考えが聞き入れられたのだろうと思いました。
担任として卒業生とともに式に出て、生徒を介助し無事卒業させるように職務を全うする。もしそれでも処分が出るなら仕方ないとの思いもありました。実際子どもは拍手の中で興奮していた。彼が興奮しないように、雰囲気の落差が及ばないようにした。そして発作を起こさず、介助歩行で卒業証書を受け取りに行った。
前年私は式場外だったので、その生徒のことを教頭に頼んだ。教頭が横に立ち、人の谷間に座っている彼は、「国歌」斉唱につぐ校歌の時に発作を起こした。それを言うと「横で立っていたら発作を起こす証拠を出せ」と准校長は言う。「去年そうだった」と言うと、准校長は「違う要因かもしれない」と。
いい卒業式でした
式後、昼食をとりながら「いい卒業式やったな」と同僚と話していると、校内放送で管理職から呼び出しがあった。そして「座っていたのを現認しました。顛末書を書いて下さい」と。
顛末書を出さないと不利になるかもしれないので、「立たなかった理由と事実」を書こうと思いました。准校長は教育委員会に行っていて、そこから電話で私に「ヒアリングを府教委でする」と言ってきた。
その日(卒業式当日)の午後、私はまず上申書を読んでほしいと求めた。月曜日に准校長が「拒否なのか」と言うので、「拒否ではない、延期を」と言った。「ヒアリングの職務命令は出ている。拒否するのか」と言うので、「待ってくれ」と言い、翌日に上申書を提出し、午後に大阪府教育委員会に行き、准校長に出したのと同じ上申書を、処分発動部署の教職員人事課に出した。つぎに支援教育課に行き、「式前日の指導主事の、『車いすの生徒の介助の場合、座っていることもある』により私は座っていたのに、どうして処分前提の事情聴取をするのか」と問うた。12日に准校長から「事情聴取で弁護士の同席は認められない。事情聴取の日程を追って伝える」と言われた。ちょうど中原教育長の辞職記者会見でゴタゴタしている時でした。あと1回で免職の恐れ
生徒が発作をおこすかもしれないから、私は担任として横に座って介助していた。そして生徒はがんばって発作も起こさず、卒業証書を受け取れた。これで懲戒処分になるなら教育活動はできない。すでに2つの処分を受けていて、人事委員会・裁判を争っている。職員基本条例では、3回同じ職務命令に違反すると免職になる。前2回の処分のうち1つは、条例以前で戒告。裁判をしているのは2013年の減給処分。今回処分が出れば「君が代不起立」の同一職務命令違反が2つとなり、あと1回の職務命令違反で免職となる。教育委員会は、私が式や秩序を「乱している」ように言うが、処分する側がむちゃくちゃです。

―大阪の教育を橋下・維新が更に悪くしました
橋下前知事と中原前教育長のもとで、大阪の教育は本当におかしくなった。人にものを考えさせなくする。忙しくし経済的なゆとりもなくす。おかしくても考えるゆとりを与えず支配する。発端は橋下知事以前の評価育成システムですが、10年近くの中で教員が評価に縛られるようになった。管理職も教育全体のことではなく、教員の管理だけを考え、生徒や教員の方でなく教育委員会の方を向いて、自分の評価ばかり気にする。
教員には、「生徒は頑張れば成績が上がる」とする考えがあり、それが教員自身の評価にも重なる構図になった。校長会が教育委員会にたいして意見を言えない。意見を持つ校長もいるが、大阪の教育を直そうとする人が少ない。教頭も大変で、自ら降格を求める人もいる。民間校長も失敗でした。学校は企業マネージメントでは運営できない。しかしそれを市長と知事と財界が求める。この中で、大阪の教育はガタガタになり、教員採用試験の応募者が激減した。

―この過程で被処分者たちの「グループZAZA」が生れました
2012年3月27日に多数が処分を受け、「君が代強制ホットライン」を通じてそれまで知らなかった人がつながった。その際キャラクターとグループ名を決めることになり、「グループZAZA」が生れ、被処分者が増え、拡大していった。考えも組合も違うが交渉は一緒にやる。運営の仕方、論議の仕方も違います。2011年の「3・11福島原発事故」以降これまでと違う社会運動が始まり、同年6月には大阪府「国旗国歌条例」ができ、ここで運動体となった。中心テーマは「君が代」不起立処分問題だが、橋下・維新の攻撃と闘う人との連携や、放射線副読本、子どもの貧困などもつながってくると思う。

―今後の教育活動の抱負と「夢」は何ですか
今は処分攻撃で切羽詰った闘いをしているが、自分にとって必要な闘いと思っている。家族には怒られるかもしれないが、いろんな人との出会いは面白い。3年間裁判もしながら、抽象的か具体的かはともかく、美術の教員の一つの表現活動かもしれないとも思っている。また、ひょっとしたら子どもや同僚にも、種を播けているのかもしれない。走りながら考え、考えを整理し、自覚的に取りくめたらと思う。
ZAZAには指揮者もリーダーもいない。私には「こういう未来を」というものを具体的には言えないが、社会は暗くても明るい生き方はできると思う。今の社会は子どもを利用して生きる社会だと思う。また学校教育は戦争への道にも進む。経済競争の中で使い捨ての労働者を作り出し、橋下維新の下では校長はマネージメントを強いられる。学校がガタガタになったのは、社会の経済優先に、文句を言わず組合も働きかけをしなかったからではないか。いいことも悪いことも自虐的に言う橋下・維新の方が身近に感じてられているのではと思います。
守りながら闘うのではなく、じたばた闘いながら、結果的に生き方、権利を守れたらと思います。

おくの・やすたか
1957年生まれ。大阪府立支援学校教員。それまでの20数年間、府立高校などで美術を担当。クリスチャン。
2012年「君が代」不起立で戒告処分。2013年、大阪府職員基本条例下で減給処分。2015年3月卒業式をめぐり、5月1日に「あと1回の職務命令違反で免職」警告書付の戒告処分を受ける。

6面

「虚偽自白はこうしてつくられる」
石川一雄さんを招き集い
4・25 尼崎

集中して聞き入る会場あふれる250人の参加者

4月25日、兵庫県尼崎市内で〈狭山事件の再審を実現しよう市民のつどいin関西〉が開かれた。よびかけは〈FACEBOOK狭山事件の再審を実現しよう〉ほか関西で狭山事件の再審に取り組む住民団体ら。関西各地からの参加者で会場は満杯になった。
司会は〈狭山事件の再審を求める釜ケ崎住民の会〉。まず、部落解放同盟狭山中央闘争本部元事務局長の西岡智さんのメッセージが紹介され、つづいて、浜田寿美男・奈良女子大名誉教授が「虚偽自白はこうしてつくられる」と題して講演した。浜田さんは昨年、狭山事件の取り調べ録音テープ(2010年に50年ぶりに証拠開示されたもの)を鑑定している。

録音テープを調べよ

浜田さんは数多くの冤罪事件で「虚偽自白」の鑑定をおこなってきた経験を踏まえ、「『虚偽自白』は一般に『拷問や誘導によってつくられる』と考えられがちだが、そこに落とし穴がある。あからさまな拷問がなければ『自白』に任意性が認められ、有力な証拠とされてしまうからだ。『虚偽自白』は、孤立に置かれた被疑者が『取調官と一緒に犯行ストーリーを考える』といった『自白的関係』によってつくられる」と話した。
虚偽自白には、必ず「無知(被疑者が実は犯行を知らない)の暴露」がある。それでも多くの冤罪事件で裁判所はそれを見抜けなかった。「取り調べの可視化」を実現しなければならない所以だが、他方、「自分こそ心理の専門家だ」と思いこみ、悪しき判例を踏襲し続けている裁判所にも重い責任がある。裁判所は狭山事件の取り調べ録音テープの事実調べに踏み込み、鑑定人を招致すべきだ。

司法の誤謬を追及

続いて、石川一雄さん、早智子さんが大きな拍手で迎えられ登壇。
石川さんは「浜田先生の講演で『一審で自白を維持してしまった』というところを、痛恨の思いで聞いた」と述べ、「自己責で陥ちた涙は過去なれど、司法の誤謬を厳しく追及」との歌を詠み上げた。そして「私はあらゆる差別との闘いに人生を捧げたい。畳の上では死にたくない。闘いの現場で死にたい。もし無罪が叶ったなら、ひとつだけ、夜間中学に行きたい。必ず一番をとって皆さんに報告したい」と話した。
早智子さんは「今日は(10年前に)JR尼崎事故が起きた日ですが、あの事故も根っこは狭山と同じ」ときりだし、狭山再審の現状について「皆さんの闘いが、前例がないと言われた証拠リストの開示をおこなわせた」と報告。狭山再審をみんなの力を集めて実現しようと訴えた。

再審の実現を

部落解放同盟兵庫県連合会からの花束贈呈のあと、「一人から始める再審支援」と題して、〈FACEBOOK狭山事件の再審を実現しよう〉管理人のノジマミカさんが、東京高裁前での石川さんとの出会いから支援に関わるまで、そして毎回の三者協議に向けて東京高裁前で取り組まれているアピール行動での石川一雄さん、早智子さん、支援者のとりくみなどを写真で紹介し、会場は笑いと涙に包まれた。
石川一雄さんの52年にもおよぶ部落差別による冤罪との闘いが、こんなにも多くの人々の心を揺さぶり続けていることを目の当たりにし、再審実現のために力をあわせて闘うことを誓った。(兵庫S)

狭山再審を訴え神戸で座り込み

5月17日、〈狭山再審を求める市民の会・こうべ〉の第3回座り込み行動がおこなわれた(写真左)。強い日差しが照りつける中、「狭山再審」の横断幕が張られたテントには、終日、通りかかりの多くの市民らが署名に立ち寄った。この日は、神戸市内で沖縄県民大会に連帯する同時デモがおこなわれ、その解散地点が座り込みのテント前。座り込みに参加していた神戸市議の粟原富夫さんが「沖縄差別、部落差別を許さず、手を携えて闘っていこう」と訴え。

高浜原発を動かすな
仮処分決定 地元で報告集会

仮処分の解説をする鹿島弁護士
(5月24日 福井県高浜町)

5月24日、「高浜原発運転差止め命令仮処分裁判・高浜町報告集会」が〈若狭の原発を考える会〉主催でひらかれ、地元高浜町をはじめ、若狭一帯、京阪神から50人が参加した。この決定を受けて、何としても高浜原発の再稼働をストップさせようという熱気あふれる集会として勝ち取られた。

原発事故は不可避

集会では〈福井から原発を止める裁判の会〉原告団・前事務局長の松田正さんが報告。昨年5月21日、大飯原発3・4号機の運転差止めを命じた樋口判決を受けて、差し迫る高浜原発の再稼働を止めるために仮処分申請を検討してきた。昨年11月28日の大津地裁で「早急に再稼働が容認されるとは考えにくい」という奇妙な理由で申し立てが却下されたことを受けて、原発立地の地で再稼働をストップするために仮処分を申請することを決め、わずか1週間でみかん箱3箱分の資料を作成。12月5日福井地裁に申し立てをおこなった。
松田さんは福井県の原子力防災予算関係や、原子力規制庁『安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって』を使いながら、原発とは「事故を想定しない限り存在しえない代物」であり、「原発を動かすことなどもってのほか」と原告としてたたかう決意を語った。

「万が一の危険」

原告弁護団の鹿島啓一弁護士は、パワーポイントを使って、樋口判決の意義とそれをさらに進化させた高浜仮処分決定について詳しく述べた。
従来の原発訴訟における判断枠組みは、被告(国、行政、電力会社など)が、安全基準の合理性、安全基準への適合性を立証すれば、一応安全と認めるというもの。原告が、それでも危険だというなら、「原告側で危険性を立証せよ」としてきた。
これにたいして樋口判決では、「生命を守り生活を維持する利益という根源的な権利が極めて広範に奪われるという事態を招く具体的危険性が万が一にでもあれば、その差止めが認められるのは当然」として大飯原発の運転差止めを命じたのだ。
今回の高浜差止め仮処分決定では、基準地震動を越えた5事例をあげ、基準地震動以下の地震によっても外部電源・主給水喪失が起こりうるとした。また使用済み核燃料が格納容器の外に存在することなどから「万が一の危険」としながらも、「現実的で切迫した危険」を認定しており、極めて論理的、堅実な決定であることを明らかにした。
その上で今後の展開についてもふれ、異議審では、そもそも原発は差別構造なしに存在しないことなどを全面的に明らかにしてたたかいぬき、勝利したいと訴えた。

電力消費地のたたかい

この集会に先立つ5月20日、福井地裁で大飯原発3、4号機差止め仮処分の審尋と高浜差止め仮処分決定に対する関電が申し立てた異議審の第一回審尋がおこなわれた。 関電が申し立てていた仮処分決定の「執行停止」は、2日前の18日に却下された。福井地裁での異議審は、最高裁事務総局が送り込んだとされる林潤裁判長のもとでおこなわれる。審尋の日程は9月3日、10月8日、11月13日。関電や、政府・最高裁の圧力をはねのけ何としても高浜原発の再稼働をとめよう。若狭現地と電力消費地=京阪神におけるたたかいを強めよう。