未来・第174号


            未来第174号目次(2015年4月16日発行)

 1面  3・29成田市内
     「農地は農民にとって命」
     全国に三里塚を訴える

      大阪市をなくすな
     特別区設置にNO

     労働法制改悪反対
     5月、連続行動    

 2面  国は工事を中止せず
     翁長知事支持83%
     沖縄 辺野古

     投稿
     郵政ユニオン春闘スト      

 3面  労働者の時間を際限なく奪う
     新たな労働時間法制許すな
     ―「高度プロフェッショナル制度」の正体(下)
     森川 数馬      

     関電前事後弾圧
     器物損壊は無罪確定
     公務執行妨害無罪めざし上告

 4面  改憲発議・国民投票の「2年間」にふみだす
     改憲阻止・安倍打倒の憲法闘争へ(上)
     岸本 耕志

 5面  読者からの投稿
     国家の統制からの「表現の自由」
     ナイン シャルリー・エブドー!      

     読者からの投稿
     自衛隊の「海外で邦人救出の能力発揮」をさぐる安倍首相

     読者からの投稿
     選挙結果をどう理解すべきか

 6面  地権者の同意ないまま
     除染廃棄物の貯蔵・搬入開始(下)
     請戸 耕一      

     (本の紹介)
     古儀君男著(岩波ブックレット 520円+税)
     『火山と原発』から学ぶ
     2015年2月刊

       

3・29 成田市内
「農地は農民にとって命」
全国に三里塚を訴える

「農地は命」と訴える市東孝雄さん
(3月29日成田市内)

3月29日、三里塚芝山連合空港反対同盟が主催する全国総決起集会が成田市内で開催され920人が集まった。会場は、成田駅近くの栗山公園(旧成田市営グラウンド)だ。 正午からフリートークがおこなわれ10人が発言。
本集会は12時半から始まり、司会は木内敦子さん。冒頭、主催者あいさつは反対同盟事務局長の北原鉱治さん。「今日ここで全国集会が開かれることは大変意義がある。われわれの国は、今どこに向かっているのだろうか。未来をつくるのは私たちだ。廃港にむけて闘おう」と、右翼街宣車の騒音妨害に負けず、力強くあいさつ。
続いて連帯のあいさつ。動労水戸、動労千葉に続き、関西新空港反対住民を代表して、今年で95歳になるという山本善偉さんが登壇。「今まさに70年前の時代にもどってきている。沖縄と連帯して絶対に戦争をさせないという闘いを続けたい」と決意を表明した。

福島・沖縄・三里塚をひとつに

集会の第1部は、全国の闘う仲間から。
福島からは反原発をたたかう佐藤幸子さんの熱いアピール。
辺野古新基地建設阻止をたたかう沖縄からは、安次富浩さん。「今、沖縄はボーリング調査に抗議し、海ではカヌー、陸では作業車に対し体を張って阻止する闘いが続いている。オール沖縄の連帯をもって翁長知事を支え、安倍政権と真っ向から対立している。沖縄と三里塚、そして福島の闘い、連携してこの世の中を変えていきましょう。」
経産省前テントひろばから正清太一さん、川内原発再稼働阻止の現場から小川正治さんが発言。
最後に地元成田から小川さんが立ち「空港による騒音が成田市民の健康に深刻な被害をもたらしている。県や成田市など地方自治体はそこに住む住民の暮らしと命を守るのが本来の業務。空港会社の利益のために住民を犠牲にすることは許されない。市東さんの農地とりあげは直ちに止めるよう要求する」と訴えた。

農地裁判控訴審闘争勝利へ

第2部は、司会を伊藤信晴さんに交代。
裁判を闘う市東孝雄さんは、「控訴審の抜き打ち結審は不当だ。耕作権裁判も、また始まる。空港会社は偽造文書の提出を拒否している。絶対に負けるわけにはいかない。全国に私を守る会をつくっていただき、本当に心強く思っている。沖縄では民意が反映されない基地建設、成田は住民無視の空港建設、福島は復興してもいないのに原発事故処理が終わったかのような報道。決して認められない。農地は私にとって命です。みなさんの力を借りて天神峰で有機農業を続けたい。よろしくお願いします」とアピール。
顧問弁護団、市東さんの農地取り上げに反対する会、全国農民会議からも裁判の不当性や農地を守る闘いに連帯する声が寄せられた。
連帯労組関西地区生コン支部の西山直洋さんは「今あそこにいる公安警察たちが、企業に営業をかけ、組合に何かされてませんか、困っていませんか、などと聞いて回っている(会場爆笑)。しかし、われわれは負けません。負けるのは安倍だ」と語った。
反対同盟からの提起は萩原富夫さん。「この地で集会をやってみて、本当にすがすがしい。われわれの農地を奪って空港をつくり、利益をむさぼる。住民の騒音被害をかえりみない。空港のためなら何をやってもいい。そういう裁判、成田市役所、千葉県のあり方、このすべてとわれわれは闘っている。来年もここで多くの成田市民に参加を呼びかけ、集会を開きたい。そしてこの秋にはフェンスで囲まれた私の農地で全国総決起集会を開く。結集をよろしくお願いします。デモでは市民の皆さんに市東さんのこと、空港のことを訴え、ともに闘おうと呼びかけることを提起します」と発言した。
集会後のデモは、成田山新勝寺周辺から市役所をまわる成田駅界隈のコース。途中、降りはじめた雨の中を市民の注目をあび、元気よくデモ行進した。(藤沢)

大阪市をなくすな
特別区設置にNO

「大阪市をなくすな」と元気よく御堂筋をパレード(3月28日 大阪市)
秘密保護法廃止・ロックアクションでも「大阪市をなくすな」と訴えた(4月6日 大阪市)

3月28日、維新・橋下の都構想に反対する御堂筋市民大パレードがおこなわれ1000人が参加した。
午後1時、中之島公園において、「えらいこっちゃ! 大阪市がなくなるで! 緊急市民行動」集会がひらかれた。主催は、〈民意の声〉〈大阪市がなくなるで! えらいこっちゃの会〉の2市民団体。
橋下・維新に反対するさまざまな市民団体、個人、大阪市議会野党会派の議員などが、「都構想」なるもののインチキをあばき、5月17日の住民投票にはかならず行って意思表示をしようと訴えた。
棄権は危険。「都構想」は、大阪市を解体し、5つの特別区に再編。自主財源は75%が府に吸い上げられ、4分の1に激減。巨大開発ありきで、市民の生活はいっそう苦しくなる。大阪市が解体されたら、元には戻せない、などの発言が続いた。
集会後、難波までパレードをおこない、道行く人々にアピールした。
次回は、5月10日(日)午後1時半、扇町公園で開催。

労働法制改悪反対
5月、連続行動

安倍政権は4月3日、8時間労働制をなくす法案(「高度プロシェショナル制度」など)を閣議決定し、国会に提出した。今国会成立、来年4月の施行を狙っている。要綱を審議した労働政策審議会でも「認められない」との異例の意見がつけられるなど大問題法案だ。多くの労働組合、労働者、学者から「残業代ゼロ法」「過労死促進法」との批判や抗議を押し切って、政府が強行したものである。
この後、労働者派遣法改悪(正規雇用ゼロ)、解雇金銭解決法案の提出も用意されている。この法改悪には「裁量労働制」「フレックスタイム」の拡大も盛り込まれている。これらを成立させれば、働く環境がガラリと変わる。「長時間労働抑制措置」「新たな労働制度」(NHK)、「多様な働き方」(アベノミクス成長戦略)なる言い方で、資本による無限の労働者搾取に扉をひらくものであり、断じて許されない。
8時間労働をもとめた労働者と社会の200年の歴史を逆転させる攻撃である。メーデーを前にしたこの攻撃に、働く者の怒りの声を叩きつけよう。連休明けには本格審議が始まり、労働運動勢力の総結集で成立を断固阻止しよう。
日本労働弁護団は4月3日の閣議決定後、院内で抗議集会を開催。5月14日に東京・日比谷野音で大集会が開かれる。大阪では5月21日、エル・シアターで緊急集会をおこなう。

生活時間と安定雇用 〜許すな! 雇用破壊〜
 5・14ACTION
と き:5月14日(木)午後6時半 
ところ:日比谷野外音楽堂
主 催:日比谷野音5・14アクション実行委員会(日本労働弁護団、過労死弁護団全国 連絡会議、ブラック企業対策プロジェクト、派遣労働ネットワーク、かえせ★生 活時間プロジェクト)





反対!! 『定額働かせホーダイ』5・21緊急集会
と き:5月21日(木)午後6時半〜8時半
ところ:エル・シアター(大阪府立労働センター・2F)
共 催:在阪法律家8団体





2面

国は工事を中止せず
翁長知事支持83%
沖縄 辺野古

キャンプ・シュワヴゲート前に連日座り込む市民
(4月6日 名護市)

市民が連日抗議

3月28日、林芳正農林水産相は、翁長知事の辺野古新基地建設の作業停止指示を一時的に無効にする意志を固めたことを明らかにした。ゲート前では市民150人が抗議の声をあげた。海上でも抗議船とカヌーが工事の中止を訴えた。
30日、林芳正農林水産相は沖縄防衛局の「知事の指示」取り消しの主張を認め、翁長知事の「作業停止指示」の効力を停止した。政府の茶番に怒った市民150人はゲート前で激しい抗議行動を展開した。海上では抗議船とカヌー隊が海上保安庁の巡視船に拘束されながらも抗議の声を上げつづけた。

ゲート前で不当逮捕

31日、早朝6時より120人がゲート前に結集し抗議集会を開始した。その後も座り込みの人数は増え150人に膨れ上がり車道まではみ出した。危機にかられた機動隊は8時前に座り込みの市民に襲いかかり、ごぼう抜きを始めた。激しいもみあいが続く中、男性が不当逮捕された。
男性は名護署に移送されたが、ゲート前の市民100人はただちに名護署に抗議行動に行った。残った人はゲート前で林芳正農林水産相を糾弾した。

名護署前で座り込み

4月2日、不当逮捕された男性の奪還に向けて、名護署への連日の抗議行動が展開された。午前9時には150人が名護署前で座り込みの抗議行動をおこなった。午後0時半、男性は釈放された。「仲間が戻ったぞ」と大きな拍手が沸き起こった。

「ガンバレ! オナガ」

5日、翁長知事と菅官房長官が那覇市内のホテルで会談。午前8時半、県庁前広場は1500人の市民で埋め尽くされた。その後ホテル周辺へ移動。翁長知事の車を迎えるべく沿道を埋めた。
知事の車が来ると「ガンバレ、ガンバレ、オナガ」のコールが響き渡った。東京から参加した40代の女性は「翁長さんガンバレと必死に訴える沖縄県民の姿を見て涙が出てきた」と語った。一方キャンプ・シュワブ前では80人の市民が会談の時間に合わせ「翁長さんガンバレ」とエールを送った。

3日間の議員総行動

6日、辺野古新基地建設に反対する県選出の野党国会議員や県議会与党などでつくる「止めよう辺野古新基地建設実行委員会」の議員は、6日から3日間ゲート前で座り込む「議員総行動」を始めた。国会議員はじめ超党派の県内各地の市町村議会議員100人が結集。午前7時より市民も含め200人が集会を開始した。各議員は新基地建設阻止に向けた取り組みや決意を表明した。議員団は7日50人、8日50人と連続決起した。

海保が抗議船に衝突

一方、海上では、知事と政府の会談後も連日作業が続けられている。抗議船とカヌー隊は連日の抗議行動に決起。6日、午後2時半ころ抗議船に海保の巡視船が衝突する事故が起こった。巡視船が抗議船の左後方にぶつかった。抗議船は左後方の船体と操舵室ドアのガラスを破損した。市民にケガはなかったがガラスの破片をかぶるなどした。

「翁長支持」が83%

沖縄タイムス社は3〜5日、菅義偉官房長官の来県に伴い県民への世論調査をおこなった。岩礁破砕許可の取り消しなどを検討している翁長知事の姿勢を「支持する」と答えた人は83%に上り、「支持しない」の13・4%を大きく上回った。
5月17日には那覇市内で1万人集会が開催される。

投稿
郵政ユニオン春闘スト

垂水郵便局前でのストライキ決行集会
(3月16日神戸市)

全国24カ所でストライキ

3月16日、全国の郵政職場24カ所で、郵政ユニオンの労働者がストライキを打ち抜きました。関西合同労組はこのたたかいに連帯し、神戸市垂水郵便局前でのストライキ決行集会に参加しました。
垂水郵便局では14:45から18:45まで4時間のストライキ。早めに垂水局前に着くと、すでにスト集会の準備がおこなわれていて、地域の住民に対する、ストへの理解と協力を呼びかけるビラが撒かれていました。あとで聞いた話では地域の人たちからの激励もあったそうです。
垂水局では10人の労働者がストに入りますが、そのほとんどが非正規職ということでした。ストライキ突入を前にした14:30、垂水分会が所属する郵政ユニオン神戸東播支部書記長による司会で集会が始まりました。支部長のあいさつ、郵政ユニオン中央執行部による春闘交渉の経過報告などがおこなわれました。14:45を過ぎてストライキに入った労働者がついに合流しました。

命の重さが違うのか

最初に、期間雇用社員(非正規職)で労働契約法20条裁判(注)の原告でもある労働者からのアピール。
「私は裁判で、正社員にして欲しいと訴えているのではない。同じ仕事をし、責任も同じように負いながら、なぜこんなに差があるのか。その答えを求めて提訴しているのです。この3月、正社員には臨時の手当が支給されるが、同じように仕事をし成果を上げてきた私たち期間雇用社員にはなぜ何もないのか。その理由をぜひとも聞かせてほしい。また、以前私の連れ合いの父親が亡くなったとき、私は無給の休みしか取れなかった。しかし正社員なら違うでしょう。正社員と期間雇用社員では命の重さも違うのか」と、期間雇用社員が不当に扱われてることへの怒りをあらわに、このストライキでたたかって改善を迫るアピールでした。

黙っていたら変わらない

次に分会代表からのあいさつ。この間、垂水郵便局では、集荷業務を担当する期間雇用社員の賃金(時給)が不当に低く抑えられていたということがわかり、14人の仲間に、5年さかのぼって1500万円を超える未払い賃金を支払わせるという勝利があったと報告。黙っていたら何も変わらない。このひどい非正規職への差別をなくすたたかいを、みんなで全力で取り組んでいく、そうした決意が表明されました。

韓国からも

ストライキ集会には70人が集まり、各地でたたかう労働組合が連帯を表明しました。韓国から駆けつけたソウル衣料労働組合の仲間は、4月24日から30日まで、国民ゼネストを構えていることを報告する一方で、日本が改憲し、侵略へと突き進むのではないかと危機感を持っていることを話しました。そして日本のそういう状況の中で、「誰かたたかわなければ日本に希望はありません。会社や権力者が、パワハラや弾圧で労働者の生活や、家庭まで簡単につぶすことができる国には希望はありません。現場で働く者が自分の権利をたたかって勝ち取る国ならば、憲法改悪や原発再稼働も絶対できないと思います。みなさんのたたかいは人類のたたかいだと思う。がんばって下さい」と檄が発せられました。

半分が非正規

郵政職場は、グループ全体で40万人を超える労働者のうち、19万人以上、半数近くが非正規雇用労働者ということです。郵便局の現場では、その数字以上に非正規職が主に業務を担っているといっても過言ではない状況にあります。
しかし、正社員と期間雇用社員(ほとんどが時給制)といわれる非正規職では待遇が全く違います。期間雇用社員は年収では正社員の2分の1、ひどい場合は3分の1。正社員にあるさまざまな手当や休暇もないとのことです。仕事内容は全く同じで、時には非正規職のほうが業務に精通しているということで正社員を「指導」することもあるそうです。それでも非正規はあくまで非正規ということで差別的待遇に置かれています。

ストライキも裁判も

この中で郵政ユニオンは一貫して「正社員との均等待遇を」、「希望者を正社員に」と求めており、そのひとつの取り組みとして、労働契約法20条を根拠とした裁判もたたかわれています。
この裁判の原告は西日本で9人いますが、うち3人がこの垂水郵便局の仲間です。分会代表のあいさつでありましたが、1500万円の未払い賃金を勝ちとったことなどは、非正規職の労働者が不当な差別を受けていることにたいして、親身になって話を聞いたり、おかしいことは納得いくまで会社と交渉してきた結果としての成果だったのではないでしょうか。 そのような日頃の取り組みの上に、今回全国でも唯一、半日4時間、業務をストップさせるたたかいができるまでに分会の力も大きなものになっているのだと思います。
ストライキ集会で郵政ユニオン他支部からのアピールにもありましたが、このストライキはまさに実際に非正規職がいなければ業務がまわらないことを示すことで、郵便局において非正規職も主力であることを会社にあらためて認識させるとともに、労働者自身がそういう自覚を一層強くするたたかいだったと思いました。山下 健二 (関西合同労組組合員)

(注)正社員と同じ仕事をしているにもかかわらず、手当や休暇など労働条件に差をつけられているのは納得できないと、12人(東日本3人、西日本9人)の郵政期間雇用社員が格差是正を求めて、2014年に起こした裁判。

3面

労働者の時間を際限なく奪う
新たな労働時間法制許すな
―「高度プロフェッショナル制度」の正体(下)
森川 数馬

年収400万円が本音

対象労働者に関して「年収1075万円以上」という高賃金の労働者に絞られるというイメージが振りまかれている。国会でもそのような答弁がおこなわれている。これもデタラメである。要綱にはそんなことは書かれていない。書かれているのは「平均年収の3倍の額」「水準として厚生労働省令で定める額以上」である。その「年収基準」は省令でどうにでも変えられるのである。
まず、年収が高いという理由でこういう働き方を労働者にさせていいのかという問題がある。そもそも、労基法において法定労働時間、法定休日、休憩及び深夜割増賃金に関する規制を置いているのは、資本の支配下・「従属」下にある労働者の健康的かつ文化的な最低限度の生活を保障するためには、労働時間を一定水準以下に抑制し、適切な休息と余暇を確保することが必要不可欠と考えられているからである。つまり資本の暴走に歯止めをかけなければダメなのだ。
次に問題なのは、「対象労働者には法定労働時間等の規制を及ぼす必要がない」との考え方に立っていることだ。その根拠は全く明らかでない。仕事の量と期限は使用者が定めるものであり、かつ命じられた業務について諾否の自由を有しない労働者である以上、法定労働時間などの規制によって過重労働の危険から当該労働者を守る必要があることは明白である。
分科会では、経営側は「社員が働きやすいと思える環境を整える選択肢がひとつ増える」(経団連・鈴木重也労働法制本部統括)と述べて、対象となる労働者の限定をしてない。そもそもこの案の原点である「経団連2005年提言」では「年収400万」とされていた。これは正規雇用者のほぼ平均年収。経営者の頭の中ではすべての労働者が対象とされているのである。じっさいにアメリカでは「週給455ドル」(月収22万円程度)が要件となっている。

過労死などが激増

「高度プロフェッショナル制度」の導入により過労死(自殺)などが確実に増加する。長時間労働の末に脳・心臓疾患や精神疾患を発症し労災を請求する件数は年間2千件を超えている。労災認定された過労死・過労自殺は1998年度では52件だったものが、この間100件台が続き、2013年度では196件と4倍に増えているのである。その裏には多くの未認定の申請がある。
このような事態を背景に、昨年の国会では家族の声に押され、議員立法によって「過労死等防止対策推進法」が成立し、国の責務を明記したが、調査・研究を定めただけのもので不十分である。過労死問題は現在進行中の問題なのである。

使用者責任なし

「高度プロフェッショナル制度」が実現すれば、資本は、36協定による上限規制を受けず、対象労働者を無制限に労働させることが法律上可能となる。さらに、資本にとっては、対象労働者にどれほど長時間労働を強いても割増賃金を支払う義務がないことから、労働時間を一定以下に抑制しなければならないとする経済的な動機づけも全く存在しなくなる。
前述のように「対象労働者」の限定は事実上ないに等しいことを考えれば、労働者に長時間労働を強いることを抑制するための現行法の仕組みはことごとく取り払われることになる。使用者には、労働者の命と健康を守る安全配慮義務がある。しかし、新制度では、労災の過労死認定基準である毎月80時間以上の時間外労働を命じても合法となり、対象者が働きすぎで過労死しても、使用者の責任を問えないことになってしまう。

正月、祝日、有休なし

報告書では、労使委員会における決議により「長時間労働防止措置」を講じることを要件としている。要項で、「措置」の例として、@労働者ごとに始業から24時間を経過するまでに省令で定める時間以上の休息時間を与えること、A健康管理時間(事業場内に所在していた時間と事業場外で業務に従事した労働時間との合計)が1カ月または3カ月について省令で定める時間を超えない範囲とすること、B4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104日以上の休日を確保することを示している。
しかしながら、このような措置も、過労死などの増加に対して有効な歯止めとはなりえない。仮に労使委員会が@ないしBのうちいずれかの制度を実際に当該事業場における「長時間労働防止措置」として決議したとしても、それらの制度が労基法上の根拠を持たなければ、使用者が当該措置を取らない場合でも、罰則の適用を受けることがない。労働基準監督官が労基法違反として是正指導も送検もなしえない。すなわちこうした措置は、長時間労働に対する抑制手段としての実効性が認められないということになる。
「年間104日の休日確保」とは、単純計算すればに「週休2日」ということである。盆、正月、祝日(15日)でも休むことがままならず、有給休暇もとれないということである。ワタミでも年間休日数は107日、ユニクロでは120日以上である。こういうダーティー企業以下の水準だ。また@の休息時間や、Aの健康管理時間は、いずれも省令で定めることとなっている。法律には書かないということなのである。インターバル時間(1日当たりの休息期間)の世界水準は11時間である。労政審の労働条件分科会では労働者側が量的制限、休憩時間の明記を求めたが採用されなかった。
また、報告書の「健康管理時間」(前述)が一定水準を超えた労働者について、医師による面接指導の対象とする旨が提案されている。健康を害するおそれがあるほどの長時間労働が不可避であることを認めるようなものだ。長時間労働を抑制する現行法の仕組みがことごとく取り払われる一方、それに代わる実効性ある規制は何ら含まれていないことから、過労死などを激増させる結果となることは明らかである。 これは「労働者が人たるに値する生活を営む」(労基法1条1項)という労基法の精神を根本から破壊するものである。このような法律を作らせてはならない。

「違法」の承認を迫る

「対象労働者本人の同意」を要件として労基法の規制を除外する暴挙。制度を適用するに当たって、「対象労働者の同意」を要件とし、「これにより、希望しない労働者に制度が適用されないようにする」としている。
しかしながら、実際の労働の現場においては、労資の力関係には歴然たる差異があり、労働者は資本に従属せざるを得ない。資本から制度適用を求められた労働者がこれを拒否することは現実には不可能である。しかし、成果主義賃金体系のもとでは、労働者が新制度の適用を断ったら、賃金は上がらず、昇進もできなくなる。採用時に労働条件として提示されれば、それに合意しなければ就職もできない。
すなわち、制度の適用を「希望」しない労働者にも、事実上、制度の適用が強制される結果となるのである。そもそも本人合意の要件だけでは労働者は守れないから、労働法で一律に規制するようになっているのだ。「労働者本人の同意」を条件として労基法上の一般的規制を除外する規定を創設することは、労基法13条の強行法規性を否定するものであり、その根拠となる憲法27条2項に反する行為である。

フレックス制改悪

今回の法改正ではフレックスタイム制の「清算期間」の上限を1カ月から3カ月に延長。企画業務型裁量労働制の対象業務に「事業運営企画、立案調査及び分析をおこない、その成果を活用して裁量的にPDCA(注)を回す業務」「課題解決型提案営業」の追加を盛り込んだ。
この面からも8時間労働制を突き崩すそうとしている。清算期間が長くなると資本が使い勝手のいいときに、集中的に働かせ、用のないときに休ませるようになる。

歴史的反撃へ

新制度法案は4月3日、国会に提出された。早急な反撃が求められる。2007年WE(ホワイトカラーエグゼンプション)を粉砕したたたかい以上の取り組みが必要である。ナショナルセンターを超え、労組、組織、団体をこえた共闘で取組みを強めよう。15春闘、5・1メーデーの重要課題である。5月の全国的連続的な労働法制改悪反対の行動にたちあがり、新制度を粉砕しよう。

(注)PDCA
@目標を設定し、それを具体的な行動計画に落とし込む、
A組織構造と役割を決めて人員を配置し、組織構成員の動機づけを図りながら、具体的な行動を指揮・命令する、
B途中で成果を測定・評価する、
C必要に応じて修正を加える。

(前号の説明)
 ディーリング業務
 不特定多数の顧客を相手として、みずからが当事者となって、営業として既発債の売買を行うこと(前号下から3段、左から8行目に既出)(おわり)

関電前事後弾圧
器物損壊は無罪確定
公務執行妨害無罪めざし上告

3月9日大阪高裁で一部逆転無罪判決の出た2012年10・5関電前事後弾圧事件(11・16逮捕、松田さん)で、器物損壊は完全なデッチあげだったため大阪高検は上告を断念し、2週間後の3月24日に無罪が確定した。
このため被告・弁護団は刑事補償請求・裁判費用補償請求の闘いと、最高裁での無罪獲得に向けた闘いを開始した。

影山証言はウソが確定

判決文は、護送用の警察車両のアンダーミラーを「もぎり取った」とする器物損壊罪について、当日の警備責任者=影山正樹天満署警備課長補佐の「1分間グリグリ回し、手前に引き、もぎり取った」という証言を全面的に退け、犯罪の証明がないとした。またミラーは大きな力を加えなくてもはずれ、さらに軸受け部分のひび割れがない事は検察が証明する必要があるとし、検察側の反論の余地のない完敗であった。このためこれを最高裁で覆すことは無理と大阪高検が判断し、上告しなかったと考えられる。
この無罪確定により、当日の大阪府警警備部公安3課や天満署影山らの一連の行動は、関電前の脱原発運動を犯罪視し、警察の介入で事件を作り出し、逮捕・起訴を狙ったものであったことが明白となった。裁判でも犯罪を作り出すため、警察官が共謀しウソの証言をおこなったことも明らかとなった。
また「アンダーミラーが外れた」ことで、現場で「確保」が叫ばれ松田さんは逮捕されかかったのであり、公務執行妨害は後から付け足したものだ。器物損壊という前提事項が無罪となった以上、公務執行妨害罪も存在しない。最高裁で完全無罪をかちとろう。

4面

改憲発議・国民投票の「2年間」にふみだす
改憲阻止・安倍打倒の憲法闘争へ(上)
岸本 耕志

T 国民投票までの「2年間」

安倍首相と自民党が「改憲ロードマップ」を策定

イスラム国問題での責任追及を回避した安倍首相は、2月4日に自民党憲法改正推進本部の船田元と会談し、来年の参議院選挙後に憲法改正のための国会発議・国民投票をおこなう意向を公表した。7日の自民党「憲法改正ロードマップ」原案では、今国会中に最初に取り組む改憲項目の絞り込みをおこない、秋には改憲項目を選定し、来年通常国会に改憲原案を提出。来夏の参議院選挙で3分の2の議席を獲得すれば、秋の臨時国会では衆参両院で改憲を発議し、2017年に国民投票をおこなうとした。
これまで安倍首相は、06年の首相就任時から憲法改悪を最大の政治課題としてきた。そのため「(現)憲法の精神を教育の場で実現する」とした教育基本法を06年に改悪し、また改憲のための国民投票法を制定した。自民党は野党時代の2012年4月に「自民党憲法改正草案」を決定し、第二次安倍政権はこの草案での改憲を基本にした。まず憲法改正規定を緩和する96条の先行改憲を狙ったが、「裏口入学」の改憲は保守派にも批判され、支持率低下で断念した。
つぎが、集団的自衛権行使容認を閣議決定し、法案整備をおこなう解釈改憲である。昨年5月に私的諮問機関=安保法制懇の報告を受け、7月1日には閣議決定を強行した。この法案整備は秋の通常国会では消費税問題などで先送りした。12月解散で与党が「圧勝」したものの、4月統一地方選前の焦点化を避け、5月連休明けの法整備審議開始の前に、改憲発議・国民投票をスケジュール化したのだ。
最初の環境権などは、敷居を低くして本丸の9条改憲をめざすステップにすぎない。こうして「経済好調の本格政権」で「戦後レジームからの脱却」をかかげ、祖父=岸信介以来の悲願である「自主憲法の制定」へつき進む安倍政権との、「改憲阻止の2年間の闘い」が始まった。

国民投票法の問題性

2007年5月に改憲の具体的手続きを定める国民投票法が制定された。投票年齢を18歳に下げ、改正は一括でなく条文ごとに賛否を問い、投票率に関係なく有効投票の過半数で成立とする。選挙期間は発議から60日〜180日後と、最短2ケ月で改憲可能だ。公務員、とりわけ教職員にはさまざまな制限があり、外国人は参加させず、違反者には懲役・罰金を科す。マスコミは規制対象外だが、今日のマスコミに公平な憲法論議を期待すべくもない。国民投票法それ自体が反対運動を抑制できる構造にある。さらに「改憲気運」を高めるために、選挙権を18歳に引き下げる法案が今国会に提出される。安倍政権は2年後の国民投票へのロードマップを走りはじめた。

来夏参院選で3分の2議席をねらう

来年の参議院選が重大である。現在衆議院では自公与党で3分の2を確保しているが、参議院では3分の2に足りない。その際、橋下徹の大阪維新を与党に引き込む案もあるが、まず自公与党での3分の2に全力をあげてくる。今春から来夏にかけてのあらゆる闘いを通じて、3分の1以上の改憲反対派議員を確保しなくてはならない。

U 安倍の改憲攻撃と自民党憲法改正草案

世界で孤立する日本帝国主義

安倍はなぜ憲法改悪を急ぐのか。それは祖父=岸信介ができなかった憲法改革・自主憲法制定を孫=安倍晋三が成し遂げる個人的野望もある。がしかし最大の理由は、今回の「イスラム国人質事件」のように、グローバル資本の競争・争闘や、「対テロ戦争」という世界情勢のもとで、「戦争ができる国家」が日本帝国主義にとって火急の課題であることだ。海外市場・勢力圏に活路を求める日本の資本家階級は、「世界で一番自由に資本が活動できる国」をめざし、「地球儀を俯瞰する外交」と称し武器・原発などをトップセールスする安倍政権を強力に後押ししている。「空白の20年」以降、小泉時代を除き混迷を続ける政治に失望し、旧来の自民党をこえ官邸の一元的主導で政策をおし進める安倍を全面的に支持してきた。アルジェリア日揮事件やイスラム国人質事件、中東・ウクライナ・欧州・東アジア情勢などに直面し、軍事力が背景にないかぎりグローバルな争闘戦に勝ちぬけないことを痛感しているからだ。
安倍政権は資本家階級の支持を背景に、軍事的には日米同盟に依拠しながら、複雑なアジア・中東情勢にたいし、独自の軍事的プレゼンスの必要性に危機感を持つ極右勢力をも背景としている。安倍の悲願の靖国参拝=対中国・韓国緊張策にオバマが「失望」を表明しても、多数の国会議員が靖国神社に参拝した。中心人物は「失望表明に失望した」とまで言った。このような偏狭なナショナリズムに依拠する極右集団が台頭し、草の根改憲運動を展開している。
これらの勢力に依拠して安倍政権は、秘密保護法制定、武器輸出三原則解体、日本版NSC設置、集団的自衛権行使容認閣議決定と、次々と安保防衛政策をエスカレートしている。「農協解体」をはじめ旧来の自民党支持基盤の反動的再編もおし進め、挙国一致体制をめざす。その通過点としても改憲国民投票を設定しているのである。

前近代的国家観丸出しの自民党憲法改正草案

2012年4月、自民党は「自民党憲法改正草案」を策定した。野党時代に礒崎陽輔(自民党改憲本部事務局長)らが作ったこの改憲案こそ、危機にたつ日帝支配階級が示す国家像に他ならない。それは近代法体系とはあいいれない、敗戦直後にマッカーサーに一蹴された「松本案」と変わらない代物だ。
前文に「日本国は天皇を元首に戴く国家」をうたい、102条では「全ての国民は、この憲法を尊重」と、立憲主義を否定する。礒崎らには立憲主義という概念すらない。基本的人権は「公益及び公の秩序に反してはならない」と大日本帝国憲法を受けつぎ、国民主権・平和主義・基本的人権の尊重という憲法の3原則を否定する。さらに「国防軍と軍事法廷」を持つとし、戒厳令が可能な緊急事態権を首相に与える、国民主権から国家主義・国民統制国家へ転換する体系である。ここまで劣化・堕落した政治の人格的体現者が安倍晋三なのである。

V「現状打破」の安倍改憲うち破る改憲阻止闘争を

アベノミクスの破綻や政治とカネの問題など安倍政治の危機は深まるが、2018年末の衆議院任期まで改憲攻撃は止まらない。安倍改憲攻撃は、戦争国家を作るための現状打破の攻撃で、改めてこれと対決する広大な戦線が必要だ。その中で、後退し続けた戦後平和運動・左翼運動の諸問題を課題化し、憲法の中にこめられた基本的人権・平和的生存権を取り戻す共同戦線を再構築していこう。

戦後革命の敗北と憲法制定問題

戦前日本のアジア侵略戦争は、1945年のポツダム宣言受諾で終了した。西欧諸国ではレジスタンスなどの敗戦促進の抵抗闘争が戦後の政治過程に繋がるが、日本では弾圧を受けたが、この種の闘いは無かった。日本共産党は5大改革=民主化を進める米軍を解放軍とし、「深甚なる感謝の念」を表明した。戦争に協力した社会民主勢力は自己も含め戦争犯罪を追及できなかった。
戦後の飢餓・貧困の中で労働組合が次々と結成されるが、明治の自由民権運動のように新しい社会を作る構想=憲法を示すことはなかった。逆に政治危機=革命のチャンスには「憲法よりメシ」と、政治指導部が政治と経済の課題を分断した。延命した天皇制は米軍権力と結びつき、沖縄を基地の島として売りわたした。
この過程で制定された憲法は、「もう戦争はコリゴリ」という国民の気運と合致し違和感なく受け入れられたが、天皇制を存続させ、在日に参政権を与えず、労働者階級が血を流して作ったものでないことも、戦後70年の人民の側からの一つの総括である。

自衛隊の創設・存続と、沖縄基地固定化

国民主権・平和主義・基本的人権の尊重をうたった憲法は、再びの戦争=朝鮮戦争のさなか反戦闘争の高揚と挫折、サンフランシスコ講和条約・日米安保締結・自衛隊創設で決定的変質=解釈改憲がおこなわれた。以降自衛隊は65年間存在し、5兆円の予算を持つ最新鋭の「軍隊」となる。この軍隊の解体と人民の側への獲得は重大な課題だ。自衛隊を違憲とし(それ自身は正しいが)敵対視するあまり、「自衛隊員=戦争勢力」「税金泥棒」という自衛隊=憲法観では、改憲阻止闘争の発展にはならないだろう。
今一つの問題は9条存続の傍らで、沖縄に在日米軍基地の75%を押しつけたことだ。72年返還で「平和憲法=基地のない島」を熱望したが、9条をもつこの国は沖縄に米軍基地を押しつける構造的差別を強制した。今沖縄人民が新たな基地を拒否し体を張っているとき、これに連帯する憲法闘争が問われている。

平和的生存権拡大の積極的憲法闘争を

もともと憲法は血を流してかち取った権利を章典として書き込む面を持つ(イギリスなど)が、戦後階級闘争はこの意識が希薄であった。わずかに25条の健康で文化的な生活を営む権利を一定実質化させた。しかし、労働権・団結権、基本的人権の尊重、平和的生存権は十分に駆使しなかった。そのため8時間労働制や「整理解雇の4要件」という権利章典がいま侵されつつある。賃金には女性差別が強固に存在し、「男女雇用機会均等」の名で、格差・貧困が拡大し、次世代に受けつがれている。
2011年3・11福島原発事故は戦後史最大の平和的生存権の侵害だが、4年後の今日、安倍政権は福島事故など無かったかのように再稼働へ進んでいる。2014年5・21福井地裁は「企業の利益より、自然を守り暮らすことが国富」とする画期的判決をだしたが、これを脱原発闘争・改憲阻止闘争に活かしきれない弱さが、これまでの社会運動にあったのではないか。
この弱点をついて安倍政権は集団的自衛権行使容認というクーデターを昨年7月1日におこない、今年5月から安保法制整備の国会論議で、「先に派兵、その中で死者」をだし、「戦争をする国」へ憲法を作り変えようとしている。
集団的自衛権行使・自衛隊派兵阻止と平和的生存権行使の新たな憲法闘争を作り出していこう。(つづく)

5面

読者からの投稿
国家の統制からの「表現の自由」
ナイン シャルリー・エブドー!

シャルリー・エブドー誌をめぐって、表現の自由なるものを使った異常なまでの動きがとくにフランスと日本で目立っている。それにかかわるシャルリー・エブドーをめぐる速見氏の議論(本紙2月19日、170号)は、やや多義的な面があるとはいえ、そこにおける表現の自由という概念の取り扱いについては賛成したい。表現の自由は、あくまで国家権力からの自由であるからである。

表現の自由とは

英語でいえばbe free from something、ドイツ語でいうとvon etwas frei seinなのであって、自由には本来的に「?からの」という限定がついており、そこからfreedom ないし Freiheitなる概念が抽象されたのである。同じことは表現の自由についても言え、something ないしetwasが国家なのである。それは自由の歴史をみれば明らかである。すなわち、この自由、広くいえば自由権の創設者・ブルジョワジーと、その論客たちは彼らの財産を、思想を、表現を当時の国家の暴力から守り、国家とたたかうためにこの概念をつくり出した(日本やドイツのブルジョワジーは、その名誉を担うものではない)のであるからだ。
現在のわれわれ(帝国主義下に生きる人民である、われわれ)にとって、表現の自由とは帝国主義の打倒を表現する自由であり、この表現に対して制約を加えようとしたり弾圧を試みようとする国家権力を許さず、これとたたかうことに他ならない。この観点からすれ、シャルリー・エブドーのムスリム人民を愚弄する表現を、表現の自由でもって擁護することは、まったく筋ちがいだ。このような表現を帝国主義権力が弾圧したりするはずがないからである。ましてやこの種の表現をムスリム人民の怒りから擁護するために表現の自由をつかうことは、白いものを黒いというに等しい。なぜならば表現の自由のこの用法は、ムスリム人民の怒りを国家権力の暴力と同等視することになるからである。

ニューヨーク・タイムズ

シャルリー・エブドーの漫画を掲載しなかったニューヨーク・タイムズの編集長バケットは、ドイツの週刊誌『シュピーゲル』の記者の質問に対してキリスト教的黄金律(あなたにとって不快なことを他人になすことなかれ!)の立場から切りかえしている。
シュピーゲル:諷刺漫画を載せることが連帯のしるしではなかったでしょうか。もしあなたが表現の自由を擁護されるのであれば、あなたは自由な社会においては無作法な表現すら公表を許されるというこの権利の内容を自らのものとしなければならなかったのではありませんか。
バケット:ニューヨーク・タイムズ編集長としての、私の第1の課題は読者に奉仕することです。そして私たちの読者の大きな部分は、預言者モハンメドについての諷刺によって侮辱されたと感じるであろう人たちです。私が気にかけている読者たちはIS信奉者ではなく、ブルックリンに住み、家庭を持つ信仰心厚い人々です。もし私たちがこの読者たちを忘れるならば、私たちは大きな間違いをおかすことになるでしょう。私にとっては、私たちが同様の漫画を他宗教について描き、載せるのかという問いも決定的でした。私たちはそれをしないでしょう。私がイエスについてこの種の漫画を公表しないとすれば、なぜモハンメドについてのそれを掲載しなければならないのでしょうか。(シュピーゲル 2015年6週号)これらを読んで、こうした人たちとも連帯しながらシャルリー・エブドー的なもの(日本ではザイトクのヘイト・スピーチなどがそれだ)を、白を黒というに等しい手法で擁護する動きとたたかっていかねばならないと思う。(江井 三郎)

自衛隊の「海外で邦人救出の能力発揮」をさぐる安倍首相

日本人人質事件に関して、私見を述べる。
安倍晋三首相が底なしの暗部を垣間見せた瞬間がある。最悪の結末を迎えることになった日本人人質事件においてだ。
1月17日からの数日間、安倍首相と岸田外相は中東4カ国とフランスで、イスラム国批判を繰り広げ、多額のテロ対策費を拠出することを明らかにした。訪問国のヨルダンは米軍とともにイスラム国空爆に参加している対テロ戦争の最前線国家だ。二人がイスラム国に捕まって、身代金を要求されていることを知った上での言動だった。
安倍首相は1月27日の衆院本会議の答弁で、「リスクを恐れるあまり、テロリストの脅かしに屈すると、周辺国への人道支援は出来なくなる」と述べている。安倍首相のいう人道支援金には、「勢力を拡大するイスラム教スンニ派過激組織『イスラム国』対策も盛り込んでいる」(1月18日「産経新聞」)と、明白にテロ対策費が含まれている。しかし、このテロ対策費は、外務省が示す人道支援の四原則、人道原則・公平原則・中立原則・独立原則に違反している。安倍首相がイスラム国を挑発したと言われてもしかたがない。
1月27日「朝日新聞」に安倍首相の本音を見ることが出来る。
「『海外で邦人が危害にあったとき、現在自衛隊が持てる能力を十分に生かせない』。首相は25日のNHK討論番組で安保法制の必要性を訴える際にこう語った。首相が安保法制とイスラム国による邦人人質事件をからめるような言及をしたことに与党内からは困惑の声があがる」
昨年、閣議で集団的自衛権の行使容認を取り付けることを最優先課題としていた安倍首相のなり振りかまわない様子を、大橋巨泉は次のように語っている。「5月15日、安倍首相は記者会見で集団的自衛権の説明をした。紙芝居のような話をした。その内容たるや大ウソやすり替えに満ち、見ていて気持ちが悪くなった。率直な感想は、この人は本当に悪い人柄である。日本人の乗った米国の船を(日本の自衛隊が)防御出来ない、これを指しながら首相は言う。『紛争国から逃れようとしているお父さんやお母さん、お祖父さんやお婆さん、子どもたち、彼らが乗る船を今わたしたちは守ることが出来ないのです』。この紙芝居のようなことはまず起こらない。それをお祖父さんから孫まで登場させて感情に訴える首相の姿にはいっぺんの知性も感じられなかった」(『週刊現代』6月7日号)
安倍首相、岸田外相の一連の言動は、余りにも軽はずみではなかったか。それどころか安倍首相は日本人が人質になるのを待っていた、という疑念さえ浮かび上がる。一国の首相として、安倍首相にはその言動に透明性が求められる。安倍首相はこれらの疑念に対して釈明すべきだ。マスコミ労働者は特定秘密保護法の障壁を乗り越えて真実を報道すべきである。(兵庫 高村良三)

選挙結果をどう理解すべきか

昨年の衆議院選挙で自民党が圧勝したことについて、つぎのようなコメントを目にした。
「議会制民主主義の選挙とは、圧政者を誰にするかを決めるものに過ぎない。労働者は、そのような選挙などには関心を持たず、もっと他の土俵で勝負している。(直接行動による叛乱、ということか?)圧倒的多数の労働者大衆は、だから棄権したのだ。」
多分、レーニンの『国家と革命』あたりを念頭に置いたものと思う。そのように考えている同志も多いのではないか。
しかし、安倍にしてもヒトラーにしても、議会制民主主義などというものを本音ではどこまで信じて選挙に力を入れているのか。選挙など、権力を取るためのほんの方便・便宜に過ぎないと見ていることは間違いない。
そんな中で「選挙は欺瞞だ」と言い張るのは、自ら権力を取る道を狭めるものだ。
革命的な意識に基づいて選挙を棄権している圧倒的な大衆などいるわけがない。棄権する大衆は、決して選挙は欺瞞であるからという理由で積極的行動として棄権しているのではない。ただ単に政治、社会、他人に対して関心がないだけだ。
権力は必死になって大衆が政治、社会に対して無関心になることを追求する。娯楽を与え、マスコミで事実を隠蔽する。多くの大衆は政治に対して無関心になり、選挙に行かない。権力こそが、大衆が棄権してくれることを喜んでいる。それを、棄権は安倍に対する反対の表れと喜ぶべきか?
選挙で、自民党が「圧勝」する現実を、独りよがりに都合よく解釈し、それを深刻な否定的現実として受け止める気概を持たないならば、永遠に権力の獲得などありえない、と思う。(佐藤 和夫)

6面

地権者の同意ないまま
除染廃棄物の貯蔵・搬入開始(下)
請戸 耕一

地権者同士のつながりへ

―町としては受け入れを表明しています。

志賀:残念だよね。だって、12回にわたって説明会をやって、賛成意見を吐いた人は、ほとんどいなかったわけでしょ。
本当はね、地権者で会議を持って、そこで、何回も議論して結論を見出すというのがいいんだろうけど。集まるということは非常に大事なんだよね。でも、みんな、散り散りバラバラに避難している状態だから、なかなか難しいんだな。
だけど、みんなの意見を総合すると、やっぱりね、息子の代では無理でも、孫やひ孫の代には帰れるのではないかって思っているわけだよ。ふるさと、生まれた家をぶん投げてきたけども。孫、ひ孫の代になって、あの恐ろしい放射能がなくなってよかったという時代が必ず来るよ。まあ何十年かかるかわかんないけど、いつかかならず帰れると。
それなのに、除染廃棄物が山ほど積まれたら、ものすごい量だからね。で、大気汚染や地下水汚染でダメになって行くでしょう。で、最終処分場ができたとしてそこに持ち出しても、地下水の汚染なんかは何百年と続くんでしょう。水が汚れてしまったら、結局、住めなくなるんだよ。
双葉町の人も、大熊町の人も、そこで生まれた人にとっては、みんなそういう気持ちなんだな。

「中間」「30年以内」という欺瞞

―国は、「30年以内に県外に持ち出す」としています。

志賀:そもそも、なぜ二つも施設をつくる必要があるんだろうね。なぜ最初から一つに絞らないんだと。膨大な無駄でないか。施設を二つ作って、運び込んで、また持ち出してと、もう膨大なお金がかかる。国はそれほど豊かではないでしょ。最初から最終処分場を見つけてつくったらいいわけでしょ。その方が、金もかからないわけだから。
それに、「30年以内に県外に持ち出す」というけど、今できないんだとすれば、30年後の孫、ひ孫の代になったら、なおさらできないんでないの?

―国は「30年以内」という約束を守るでしょうか

志賀:例えば地上権の話ね。われわれは、いつか必ず帰れるって思っているから、土地は売らないで所有権は住民に残したいのよ。これは当然でしょ。だから、国が国有化したいといっても、われわれ地権者は、地上権だけは残して、国に対して貸すということを考えているわけだよ。
だけど、新聞〔福島民報3/3付〕を読んでたら、「地上権」ということで、「土地の所有権は住民に残す。ただ、地権者の承諾がなくても登記や譲渡、転売ができるため、借り主(ここでは国)には土地賃借権(ここでは地権者)よりも一段強い権利がある」と。
私らには全く理解できないんだけど、つまり、「30年以内って言ってたけどやっぱりダメだったので、しばらく置いときます」と国が言いだしたとき、「返しなさい」と言っても、地上権の方が強いということでしょ。いや驚きだね。
それから、中間貯蔵施設に貯蔵されたものを、焼却できるものは焼却して、振り分けて、産業復興に再利用できるものは利用するとか言ってるよね(※)。「30年以内に持ち出す」という話が、いつの間にか、こういう風に使えるんだって話になっちゃってるんだよ。
こうしてみると、やっぱり、どう考えても、国のやり方って言うのはなんか、われわれにとっては納得いかないね、納得がいかないんだよ。

※環境省 2014年10月28日 衆院環境委員会

福島第一原発の排気塔が、大字郡山からは真近に見える
原発事故前の志賀さんの自宅。6代、250年の歴史が積み重ねられている

―そもそも、「中間貯蔵」とか「30年以内」というのが欺瞞だという思いがあります。

志賀:そういうことだよ。私らも、ただただ反対しているわけじゃないんだよ。自分の町に汚染廃棄物を持ち込まれるのがいやだということだけを言ってるんじゃない。国も、県も、大熊・双葉の両町も、みんながいい方向になればと思ってるんだ。だけどね、納得できる話を国がしてくれないんだから。

国民全体で分かち合う

―説明会でもふるさとへの思い、ふるさとを失う苦しみを切々と訴えていました。

志賀:ご先祖がここで生きていこうと決めてから、毎日毎日、筋肉労働で、荒地を興して、寝る間も惜しんで、汗みどろになって、代々、少しずつ水田を広げていった。
私の代ではコメと施設園芸だね。コメは、本当においしいから、人気だったよ。それでもコメだけでは生活を支えることができないんで、パイプハウスで野菜もつくって。夫婦ふたりで本当によく働いたよ。
そうやって、先祖代々励んで、築き上げてきたものなんだ。だからご先祖がそうやって築いた財産を、そんなに簡単にはいかないんだよ。

―先祖代々の土地への思いを誰も踏みにじることはできないと思います。しかし、国は、そういう思いを汲もうとしません。

志賀:そうだね、残念ながら。
「福島県を復旧・復興しなくちゃなんない。元のきれいな福島県にしなければならない」。そりゃその通りだ。だけどそう言いながら、なぜ大熊、双葉に廃棄物を持ってくるの。そしたらこの2町村は永久に復旧・復興できないじゃないのって言っているんだよ。
で、大量の廃棄物を1カ所にまとめるから、山のようになるわけだよ。それを同じ国民で、小さく分け合って、持ち合えばということも、言っているんだよ。ちっちゃく分け合って、持っていればいいじゃないの。

―全国民で負担を分かち合って、解決すべき問題ではないかと。

志賀:そういうことだよ。
ところがね、例えばこういう話があるんだね。仮仮置き場(※)の契約延長を巡る話だけど。地主さんは、「3年契約じゃなかったのか」って言うわけ。たしかにそういう契約だったからね。で、その町の町長さんが地主さんに詫びてるんだけど、その町長さんがどういう風に話したかというと、「双葉町、大熊町の方々が…」って。なんですか、地権者の所為にしているのよ、地権者の所為に。われわれ、別に反対、反対って言ってるわけでもなく、そもそも話し合いもできていないのに、「地権者との交渉が難航して進まない」んだと。
これは、ほんとに私ら、腹は立てたくなくても、腹立っちゃうよ。

※誤字ではない。仮置き場のさらに前の段階

―同じ被災者同士が分断され対立させられていますね。そして、一番責任のある東京電力や、一番泥を被らなければいけない国が逃げてしまっています。汚染廃棄物をどうするのかという問題を、大熊町、双葉町の人たちに押しつけるのではなくて、国民全員が当事者となって考える必要がある。言い換えれば、現状は国民の大多数にとって他人事になってしまっている。国はそれをいいことに、大熊町、双葉町に押しつけようとしている。「それはおかしいのではないですか」ということを訴えられていると思いました。

志賀:そう、そう、その通りだね。同じ国民で小さく分け合ってと言ったのは、そういうことを言いたかったんだ。
私ら地権者がどういう気持ちでいるかってことを、国の人にも、国民の皆さんにも、本当にわかってほしいんだ。
(おわり)

(本の紹介)
古儀君男著(岩波ブックレット 520円+税)
『火山と原発』から学ぶ
2015年2月刊

3月19日、九州電力は7月上旬に川内原発1号機の発電を始め、再稼働させ、7月中旬に100%出力し、8月中に営業運転に入ると発表した。
この過程で『火山と原発』から川内原発の危険性を学んだ。

カルデラに囲まれている

川内原発を取り囲むように、加久藤・小林、姶良、阿多のカルデラがあり、これまでに3回は川内原発周辺に火砕流が到達している。
その外側には、世界一の阿蘇カルデラと7300年前に噴火した鬼界カルデラがある。そのときの総噴火量は170立方キロメートルで、九州南部は50〜100センチ、四国も20センチの火山灰で蔽われ、九州は無人化し、900年間森は再生しなかった。

噴火予知はできない

しかし九州電力は、@噴火は起こらない、Aモニタリングで事前にキャッチ出来る、B運転を停止し、燃料体を搬出できるから安全だ、と主張し再稼働しようとしている。
火山噴火予知連絡会の会長(藤井敏嗣さん)も前会長(中田節也さん)も九電の主張(安全神話)を批判しており、「現在の火山学の水準では、超巨大噴火の予知は困難である」というのは火山学者の共通認識である。
阿蘇は9万年前、鬼界は7300年前、加久藤・小林は32万年前、阿多は11万年前、姶良は3万年前に噴火しており、そろそろ巨大噴火が起きてもおかしくない状況にある。

噴火が起きたら

巨大噴火が起きた場合、火砕流の温度は600度もあり、流走速度は時速数10キロから200キロにもなる。原発を直撃すればひとたまりもなく、直撃しなくても、火山噴火後は無人のまま放置され、原発事故後の処理が出来ず、地震や津波以上の問題を抱えている。
実際に、原発にはどんな問題が起きるのか。@取水口や給水管に火山灰や泥がつまり、冷却の給水が困難になり、A空中の火山灰が電気機器やコンピューターに侵入し、誤作動を起こし、B降灰15センチでディーゼル発電機の燃料運搬路を確保できなくなるなどがある。
巨大噴火による被害は100年で回復できても、原発があれば永久に回復不可能となる。川内原発再稼働の愚を犯してはならない。(高岡)