沖縄・辺野古
沖縄防衛局の工事強行に
知事が作業停止を指示
3月23日、翁長雄志沖縄県知事は、名護市辺野古の新基地建設の海上での違法な工事に中止の指示を出した。沖縄防衛局が、埋め立て地域やブイゾーンをこえる領域で、海底のサンゴを破壊し続けていることに中止の指示を出し、これに従わなければ埋め立てに必要な岩礁破砕許可を取り消す意向でもある。昨年夏以降の埋め立てに向かう工事の強行に対して、県知事選・衆議院選での圧勝=辺野古新基地反対の民意確定にもかかわらず、工事を再開し大浦湾の環境を破壊し続けることに、ついに県知事が「腹をくくった」決断をしたのだ。
これに対し安倍政権の沖縄対策責任者の菅官房長官は、「日本は法治国家、この期に及んで…、粛粛と進める」を繰り返した。口先では「沖縄に寄り添い、基地負担軽減に努める」と言いながら、知事選以降政府閣僚は知事との面会を拒否している。その上に「日米同盟のため沖縄は日本全体の犠牲になれ」と言う。法治国家という前に民主主義の国ですらなく、独裁国家ではないのか。
昨年7月以降の工事だけではない。72年返還以降どれだけ忍従を強いられてきたのか。1945年の沖縄戦での犠牲。明治の琉球処分と皇民化強制。1609年の薩摩侵攻以来400年。「この期に及んでまだ日本(ヤマト)の犠牲になれ」というのか、そんな「法治国家」は願い下げだ、というのが琉球弧に住む140万人民の共通の思いではないのか。
21日に3900人の抗議集会
これに先立ち21日、名護市瀬嵩の浜で3900人が集まり工事中止を求める大集会が開かれた。昨年7月に政府が埋め立て工事に向けて海底ボーリング調査を始めてから、4回目の大規模集会だ。この場で県を代表して参加した安慶田副知事が、沖縄防衛局に作業の中断を求めても聞き入れられないことに対し「怒りを覚える。民主主義国家のやることか」と批判した。また集会には県選出の国会議員多数や稲嶺名護市長も参加し、沖縄出身の東京の大学生が、「基地はいらない、おかしいことはおかしいと言おう」と発言した。5月には万余の集会を開催することも確認された。
安倍政権の強権発動と全面対決を
3月23日の翁長知事の決断で辺野古新基地情勢は新たな段階に入った。沖縄防衛局は24日、「知事の指示」取消しを求め、農林水産省に審査を請求した。今後は法廷も含め沖縄県と安倍政権の全面激突となる。いまあらゆる手段を尽くして工事を止めないと、半永久的な大規模基地の建設が進む。4・28沖縄デーから、5・15平和行進、6・23慰霊の日に向け、沖縄連帯の行動を圧倒的に強化しよう。
安保のために米軍基地が必要と言いながら、自分の選挙区に誘致すると主張しない政治家や評論家の無責任な言動を許してはならない。強権から独裁に進む政権には「亡国に至るを知らざれば、すなわちこれ亡国」を、人民は示さなくてはならない。今こそ、工事強行、原発再稼働、憲法改悪という安倍強権政治と対決する、人民の総決起が求められている。
辺野古現地と一体で行動
「できる事を何でもやろう」
大阪
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3月21日(日)沖縄現地での闘争に呼応して「辺野古新基地建設をとめよう! 大阪同時アクション」が大阪市内で開催され、200人が参加した。呼びかけは「STOP! 辺野古新基地建設! 大阪アクション(15団体で構成)」。
キャンプ・シュワブゲート前で歌われている「We shall overcome」が山城博治さんの声(録音)で流れる中で、集会は開始された。
冒頭、沖縄現地から来阪中の海勢頭豊さんが発言。沖縄防衛局や海上保安庁による暴力的弾圧がますます激しくなる海上攻防、またゲート前では県警機動隊、民間警備員、米兵の弾圧をはねのけて闘いが続いていると報告した。
続いてこの間、辺野古現地にかけつけた3人の方から報告と決意があり、もっと多くの人が駆けつけ新基地建設工事をとめようと呼びかけた。司会からカンパの要請がおこなわれ、参加者全員で「We shall overcome」を歌い集会を盛り上げた。
沖縄から中継
次に、大阪から沖縄現地闘争に参加している方からリアルタイムで現地の様子が音声中継で報告された。名護市瀬嵩の浜に3900人が結集、翁長県知事の代理で副知事の発言があり、県三役がはじめて集会に参加したことも報告された。最後に、集会のまとめを中北龍太郎さんがおこない、アメリカ領事館前を通るデモ行進に出発した。(写真)
この日の集会は、沖縄現地での闘争に呼応して昨年8月から5回目の集会。集会内容やデモ、シュプレヒコールについても創意工夫し、激しい攻防を繰り広げる現地攻防を支え、共に闘うために呼びかけられた。辺野古新基地建設工事を止め、米軍基地撤去まで闘い抜く決意あふれる集会としてたたかいぬかれた。
この間、大阪では近畿中部防衛局への署名提出、辺野古埋め立て工事を受注した大成建設への抗議・申し入れ行動、第5管区海上保安本部(神戸市)への抗議行動をおこなっている。埋立予定地での海上阻止行動やゲート前で体を張って闘い抜いている現地に応え、関西でもできる事を何でもやり抜こう。
もはや独裁国家
官邸・国会へ連続行動
3・21〜23東京
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首相官邸前の辺野古基地建設を許さない行動 (3月23日) |
沖縄県名護市瀬嵩の浜で3月21日に3900人を集めておこなわれた沖縄県民集会に呼応して、2日後の23日、東京で、「辺野古基地建設を許さない! 3・23官邸前行動」が取り組まれた。呼びかけたのは、〈辺野古への基地建設を許さない実行委員会〉、〈沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック〉。
宗教者による抗議行動が終了時間を繰り上げてこれに合流。集まった人は300人を越えた。「昨日の反安倍行動には1万6千人が集まった。市民の安倍への怒りは頂点に達している」「もはや独裁国家」「戦争ができる国ではなく、アメリのように戦争をしながら生きる国、戦争なしでは存在できない国にしようとしている」等の声があがった。現地ゲート前からの中継で、山城博治さんは「翁長知事の工事停止要求により具体的目標をもって闘うことができる。警察・海上保安庁はどう対応するのか。沖縄の闘いはもう収まりようがない」と語った。
東京でも複数の団体が様々な取り組みをおこなっている。全国の力で辺野古新基地建設を阻止しよう。
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3月22日、「安倍政権NO!0322大行動」には日比谷〜国会周辺で1万6000人が参加した |
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3月21日、「集団的自衛権法制化阻止、安倍を倒せ!さあ行くぞ!」デモがおこなわれた |
2面
安倍政権の対話拒否に怒り
12日 海上ボーリング調査再開
2月26日、辺野古新基地建設はボーリング調査に向けてクレーン船や資材を積んだ台船がフロート内で準備にかかっている。この日沖縄県は、防衛局によって臨時制限区域に設置されたコンクリートブロックによる岩礁破壊についての調査に入った。8カ所を調査し、1カ所でコンクリートブロックによるサンゴの破壊を確認した。県はさらなる調査のために臨時制限区域内の調査を求め、防衛局に立ち入りの斡旋を要求したが、米軍は立ち入りを認めなかった。
テントの攻防
また、26日期限のキャンプ・シュワブゲート前のテント撤去について、市民はゲート前のテントを、そのまま国道を挟んで向かい側に移動して、新たに強固なテントを設置した。北部国道事務所は、その場所もダメだと言い、撤去を要求してきた。そして、国交省の指示のもと24時間の監視体制を始めた。それにたいして、沖縄総合事務局開発建設労働組合は、沖縄総合事務局長と開発建設部長に24時間監視体制の解除を求める申し入れをおこなった。
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海上でボーリング調査を強行しているスパット台船(3月13日 名護市大浦湾) |
海保の暴力
3月1日、スパット台船再設置にむけた作業が進んでいる。海上では抗議船とカヌー隊が抗議。ゲート前では100人以上が抗議。海上作業が見渡せる第3ゲートでは「ボーリング調査をやめろ」と抗議の声をあげ、海上行動隊に「辺野古ブルー頑張れ」とエールを送った。
4日、カヌー隊の女性が救急搬送される。女性は海保に拘束される際、大量の海水をかぶり、そのまま1時間半放置された。寒さで低体温症にかかり体調をくずしたのだ。ほかのメンバーも海保から拘束時に暴力をふるわれている。また、抗議の小型ゴムボートに海保の大型ゴムボートが体当たりし、市民にケガを負わせている。
12日、ボーリング調査再開。昨年9月15日に浅瀬でのボーリング調査を終了して以来、6カ月ぶりの調査再開となった。県の中断要求を無視し、市民の抗議を完全無視した。菅義偉官房長官は「準備が整ったので粛々と開始した」と述べた。安倍政権のなりふり構わぬやり方に、市民の怒りは爆発した。
海上では抗議船とカヌーがフロートに近づき激しく抗議。海保は抗議船に強引に乗り込んだり、カヌーを確保し、カヌー隊を拘束している。この攻防で女性がケガをした。
ゲート前でも
ゲート前では、ボーリング調査再開前から激しい抗議行動がおこなわれた。ゲート前に座り込んで抗議、機動隊にごぼう抜きにされるも何度も座り込んで抗議。激突すること数十分、さらに隊列を整えるため集会を開始し決意を固める。集会中の10時半ごろ調査再開が知らされると市民はゲート前に突入し座り込んだ。機動隊は隊員を増強し市民に襲いかかる。ごぼう抜きが始まり、あちこちで激突する。30分にわたり激しくもみあう。その後、急を聞きつけた市民も加わり200人が抗議の集会を開始。そして、海上作業が見渡せる第3ゲートに移動し、さらなる抗議の声をあげた。
対話を拒否する政府
翁長知事は、政府の強硬姿勢に「大変遺憾だ。あらゆる手段を駆使して辺野古に基地を造らせないという公約の実現に向けて取り組む」と決意を表明した。稲嶺名護市長は「今の知事が調査の中止を申し入れているのに、聞く耳を持たない。一体何なのか」と怒りを表した。
13日、中谷防衛相は、知事との対話について「会っても意味はない」と、対話を拒否した。ボーリング調査は台船が増えて3カ所に拡大。海上では抗議船3隻、カヌー14艇が抗議行動。ゲート前では連日の激しい抗議行動を展開。
沖縄県民と全国の力で新基地建設を阻止しよう。
高浜町議会に抗議行動
再稼働合意を弾劾
3・20
3月20日、高浜町議会は会期末のこの日に全員協議会を開き、高浜3・4号機の再稼働に町議会が合意することを決めようとしていた。高浜・大飯原発再稼働阻止ネットは、前日19日から高浜でビラを撒いた人たちと、その夜に駆けつけた人たちとが「若狭の家」で合流し、20日当日は、車3台計10人で午前8時過ぎに高浜町役場に駆けつけた。
9時からの町議会全員協議会にたいし、反対派議員を送り出したうえで、阻止ネットと反対派の高浜町民は役場周辺で抗議・宣伝活動を続けた。町議会は午前中の傍聴なしの全員協議会で、議長を除く町議会議員13人のうち、反対は1人で、12対1で再稼働に合意し、町長を呼んで町議会の意向を伝えた。
傍聴席から発言
午後の町議会には、阻止ネットの10人が傍聴に入った。町議会の冒頭に議長が、町議会がどういう経緯で再稼働に合意したのかを10分くらいかけて説明した。
説明が終わった段階で、傍聴席から阻止ネットの新開さんが、「議長、傍聴席からではありますが、2点意見を述べさせてもらいます」とことわったうえで話し始めた。職員が制止に入ったが、「1点目は町議会は再稼働に合意した以上、今後起こることに責任を取らなければならないということ、2点目は町議会は原発のない町を展望していく責任があること」を迫力をもって説明したので、町議会も職員も発言の最後まで聞いていた。
新開さんの発言終了後、阻止ネットは退席した。
講演中止の圧力に負けず1000人
3・21都構想を考える市民大集会
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中之島公会堂に集まった1000人の市民 |
3月21日「どうしよう? 大阪市がなくなったら―都構想・住民投票を考える市民大集会―」が大阪市分割解体を考える市民の会主催で開催された。中之島公会堂を埋め尽くして1000人近くが参加した。
集会はピアノの弾き語りから始まり、主催団体世話役の中野雅司さんが開会のあいさつをおこなった。「私たちは、党派、信条、性別、職業等を超えて、このとても重要な住民投票について、後世に恥ずかしくない投票率と投票結果を出すことがとても大切だと思っています」「賛成反対以前に特別区設置協定書の内容を知って、メリット、デメリットを充分に理解して、70%以上の投票率を達成したい。賛成の人も反対の人も悔いのない住民投票にしたい」と集会の主旨を述べた。
講演中止のいきさつ
そして予定されていた藤井聡京都大学大学院教授の講演が直前で中止になったことについて、大阪都構想の内容以前に言論が制限されているのではないか、藤井教授からの説明文に重要なことが書かれていると前置きして、その文書を読み上げた。また、藤井さんもビデオで参加者に「お詫びと説明」をおこなった。それによると、大阪都構想についての“7つの事実”を発表して以来、勤務している大学や在阪テレビ局に特定の公的政治勢力から圧力がかかり、また、国会で質問されるような事態にまでなっている。それで、これ以上発言の機会が奪われないよう講演をとりやめるということだった。相当の圧力がかかったのだろうと推測する。
しかし、このことを逆に考えると、藤井教授の指摘は正しいので橋下と維新の会にとって不都合なものだということだ。藤井教授の主張はネットで動画も資料も読むことができる。彼が言う“7つの事実”のうちの1つを紹介する。それは、東京の繁栄は「都」というしくみのせいではなく、「一極集中」の賜物です、というもの。
都構想と人の暮らし
続いてフリージャーナリストで大阪朝日放送「キャスト」のコメンテーターでもある吉富有治さんが登壇。本来は藤井さんと対談の予定だったんですがと前置きして、「都構想の3つのキモと結果としての人の暮らし」と題する講演を行った。キモというのは柱と読みかえても良い。長いので要点のみ。
@都市の形を変えることと経済の発展はまったくの別の論理。バブル期、大阪はいちばん恩恵を受けたがそのとき大阪都はなかった。
A二重行政解消というが同じ建物があることを二重行政とはいわない。
B維新の会は「ニアイズベター」といって、住民にやさしい基礎自治体というけれど、これは論理がおかしい。橋下市長一人で大阪市民全員の面倒を見れない、5人の首長がいたら見れるというが、これは言葉のマジック。直接市長にものをいう人はいない。実際に行政に対してものを言うときは役所の窓口か、自分が住む町の議員。これが「ニアイズベター」。大阪市が大阪府に組み込まれても大阪市民にメリットはない。
そのあと笑福亭竹林さんが落語で笑いのうちに橋下批判をチクリ、集会宣言をして閉会した。
新鮮な集会
終わってからも人が多いので、スタッフの案内に従って出口に近いところから順次退場。なにか集会なれしている私たちの集会とは少し違って、進行とかロビーに置かれたでっかいカンパ箱とか新鮮だった。これからもこういう自発的に動く人たちによって、いろんな企画が行われればいいなあと思う。(中山)
集会宣言:5月17日は、私たちの大阪市が消滅するかどうかを決めるとても大切な住民投票です。本当に難しい問題ではありますが、多様な意見を聞き、一人ひとりが、しっかりと自分の頭で考え、後を託す子々孫々のことを十分に考慮して、投票に行きましょう。周りの人に声を掛け合って、これほど重要な問題に棄権することなく、70%以上の投票率で、意思表示をしましょう!
3面
労働者の時間を際限なく奪う
新たな労働時間法制許すな(上)
森川 数馬
「“残業代ゼロ”と言われていますが、問題の本質はお金ではありません。いくらでも長時間働かせて、労働者の時間を際限なく奪うことができ、割増賃金を払う必要もなく、労働者の時間を支配できることにあります」「新制度は、日本で働く労働者の命と健康を脅かす危険なものであり、過労死を助長する“過労死推進法”です」。これは新たな労働時間法制にかんする棗一郎弁護士(日本労働弁護団常任幹事)の指摘である。本稿では、3月2日、労働政策審議会(会長 樋口美雄慶大教授)が答申した労基法等の改悪をめざす法案の要綱が示した画歴史的な攻撃の意味を明らかにし、安倍政権などのごまかし内容を批判する。
労働政策審議会は「今後の労働時間法制の在り方について」と題した報告書を取りまとめ、2月13日に厚生労働大臣に建議した。内容は「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」なる新しい制度の創設である。それを受けて同審議会の労働条件分科会と安全衛生分科会で審議がおこなわれて、17日の諮問から1カ月のスピード(26日、27日、諮問・答申日含めても4日間の審議)で答申されたものである。
「高度プロフェッショナル制度」とは、一定の要件を満たした労働者について、労基法の労働時間・休憩・休日・深夜割増賃金に関する規制をまったく適用しないこととするものである。第1次安倍政権(2007年)で労働者の「残業代ゼロだ」との怒りの中で、要綱も作られず葬られた「ホワイトカラーエグゼンプション」(ホワイトカラー労働時間規制適用免除制度)の出しなおしである。これをこの春にも閣議決定し、今国会に提出し成立させ、2016年4月に施行しようというのである。
労働者保護の根幹崩す
これは財界が2005年の「経団連提言」以来、念願にしてきたものである。安倍内閣は「日本再興戦略」(2013年6月閣議決定)の柱に「働き方改革」を位置づけ、@派遣法改悪、A労働時間法制改悪、B解雇の金銭解決を今年の課題にしている。その第1弾として8時間労働制を解体する制度の導入を仕かけてきたのだ。今回の労基法改悪には裁量労働・フレックスタイム勤務の期間規制を外す内容も含まれており、労働者を「成果」で競わせ、8時間を超えて働くことを労働慣行にしようという狙いが明確である。グローバル資本の限りない労働者搾取の欲望にこたえようというのである。
安倍は2月12日の施政方針で「戦後以来の大改革」のひとつとして「柔軟かつ多様な働き方」「労働時間に画一的な枠をはめる従来の労働制度および社会の発想を大きく改革」するために、「新たな労働時間制度を選択できるようにする」と述べている。「企業に貢献する人がいます。そういう人にとっては、労働時間規制は不要です」(大内伸哉神戸大学大学院教授2・14「朝日新聞」)―これが狙いなのだ。
世界と日本の労働者が長いたたかいと血と汗で勝ち取り、最低基準とした「8時間労働制」の大原則を打ち壊そうというのである。まさに歴史的攻撃である。労働者側も歴史的反撃を準備しなければならない。労働運動の現状は厳しいが、この「労働時間法制改悪」には統一したたたかいを組もうという機運も生まれてきている。「閣議決定・国会提出を許すな」のたたかいを国会内外で起こそう。
三者原則の破壊
まず、答申書には労働者代表(7人の総意)の反対意見(「認められない」)が添えられた。こういうことは従来はありえない異例事態である。本来労働分野の政策は政府委員(公益委員)、労働者委員、使用者委員で協議して決めるというのがILOなどで国際的に確立しているルール。だから、労働政策審議会でも三者構成で審議と答申がおこなわれてきた。労働者代表の反対意見を踏みにじり、「三者原則」を壊そうというのが安倍の独裁手法である。派遣法改悪の際にもこのやり方がとられた。今回、労基法の根本を変える重大な法案で、この独裁手法を強行した。
長時間労働の合法化
要綱には「対象業務に就かせたときは、労基法4章に定める労働時間、休憩、休日、及び深夜の割増賃金の規定は、適用しないものとする」と書かれている。「適用除外」、これが決定的になるのである。「時間ではなく成果で評価」と政府は説明するが、狙いは「8時間労働制」の「除外」が目的なのである。「残業代ゼロ法案」という批判があるが、事態はより深刻である。「残業」、「休憩」、「休日労働」という概念そのものがなくなるということなのである。適用除外には、今でも経営者に立場が近い管理職に適用される「管理監督者」があるが、深夜労働の規制はかかる。新制度はそれもなくなるので、深夜労働にも歯止めがかからなくなる。
さまざまな「健康措置」をとるといっているが、いずれもデタラメで(後述)、休憩も休日もなく、何時間働かせても罰せられないという権限を資本が手にしたいということである。最初は「対象労働者」の限定を装っているが、「8時間労働」の原則が解体され、労働時間制度の根幹が変更されるのである。それが将来どのような結果をもたらすのか。80年代に仕掛けられた本来禁止の派遣非正規低賃金労働の導入がやがて全労働者を無権利、低賃金・過労死・貧困に追いやったことをみれば明らかだ。
現行の労基法は、使用者は労働者に、休憩時間を除き1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならず(労基法32条)、かつ、原則として毎週少なくとも1日の休日を与えなければならない(労基法35条)と定めている。使用者が労働者に対してそれを超える労働(時間外労働・休日労働)を命じるためには、当該事業場の労働者の過半数を組織する労働組合等との協定(いわゆる36協定)を締結する必要があるとともに、実際に時間外労働・休日労働をした時間に応じて、割増賃金を支払わなければならない。
また、労働時間に応じて一定以上の長さの休憩時間を与えること(労基法34条)のほか、使用者が労働者にたいして深夜(午後10時から午前5時まで)に労働させた場合においては、別途、深夜割増賃金を支払うことも義務付けられている(労基法37条)。
この最低基準を定めた労基法を脱法している企業があいついでいるが、こうした脱法行為を合法化しようというのだ。この制度が創設されれば、長時間・過重労働にたいする実効性ある規制は失われ、過労死やうつ病など精神疾患の激増を招くなど、多数の労働者の生命・健康を危機にさらす結果となることは確実である。
対象労働者規定は曖昧
労政審の報告書をよく読めば、そこで提案されているのが「成果型」労働制ではないことがわかる。騙されていけない。報告書では、「高度プロフェッショナル制度」を創設する理由として、「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え」といっている。マスコミでも「成果で賃金が決まる働き方」や「成果型労働制」といった表現が使われている。また、対象労働者の想定について「金融商品開発やディーリング業務」「コンサルタント」「研究開発業務」などがあげられ、「一部の労働者に限定したもの」という印象が広がっている。こういう制度を導入するときに使われる常套手段だ。すでに各種の成果主義賃金体系や裁量労働制、フレックスタイム制の下で働く労働者は50%近くに及んでいることからも、ねらいは「成果型」労働制ではないことは明らかだ。
資本の「歯止め」外す
要綱には「高度の専門的知識を必要とし、その性質上従事してえた成果との関連性が通常高くないと認められるものとして、厚生労働省令で定める業務」とだけしか書かれていない。これはどのようにでも解釈できる。例えば、海上コンテナ輸送のドライバーの技能を「高度専門知識」ということもできる。つまり誰でも対象とされる。しかもそれを定めるのは「法律」ではなく「省令」である。厚生労働大臣の権限で発することができる省令で、実際に適切な制限が可能なのか大いに疑問がある。また、現実に、使用者が対象労働者に対して、対象業務の範囲外の業務を命じた場合に、労働者がその業務命令を拒否できるのかも定かではない。資本の暴走に歯止めがかからない。
以上から明らかなように、「成果で賃金が決まる働き方」や「成果型労働制」なる表現は誤りである。新制度のもとで対象労働者の「成果」がどのような基準・手続によって評価され、その結果が賃金とどのようにリンクされるのかといった点について、報告書や要綱では全く書かれていない。書かれているのは、労働時間規制を「適用しない」ということだけである。新制度の下での「働き方」とは、いかに長時間働いても、賃金が増加する保障はないというものである。要するに、「残業代を払わなくていい労働者」の創設に過ぎない。また報告書や政府答弁などで「(希望する労働者の)ニーズ」といわれているものが、本当にあるのかという問題がある。このような新制度の創設を正当化する立法事実はない。そして新制度に対する労働者のニーズも存在しないことは明らかだ。(つづく)
4面
地権者の同意ないまま
除染廃棄物の貯蔵・搬入開始(上)
請戸 耕一
3月13日から、福島県大熊町に設けられた保管場への除染廃棄物の搬入が開始された。当初、双葉町の保管場にも同時に搬入を開始する予定だったが、双葉町民から抗議の声があがり、開始が延期された。今後どう展開するかは予断を許さない。「保管場」はあくまでも一時的な置き場。除染廃棄物を処理・貯蔵する「中間貯蔵施設」の用地取得は、まだ全く進んでいない。地権者2300余人の同意がないからだ。福島県知事や大熊・双葉両町の首長の受け入れ表明が大きく報道されているが、肝心の地権者で同意に漕ぎ着けたのは現時点まだ2300余人中たった1人。地権者の大半が交渉にさえ入っていない状況だ。にもかかわらず、国は、除染廃棄物の搬入を開始した。
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住民説明会の場で、環境省などの官僚たちに向かって、意見を述べる志賀一雄さん〔写真中央の起立している男性〕。昨年6月1日 |
こうした中で、地権者の1人で、この地で何代も続く専業農家の志賀一雄さん(仮名)にお話を聞いた。
「国のやり方に納得がいかない」
これが志賀さんをはじめとする地権者の率直な気持ちだ。
昨年の説明会で地権者から出された要望や意見に対して、国は答えていない。それどころか、説明会以降、国からの志賀さんへの話は、電話が1回あっただけ。誠意が見えない。そして、国は「30年以内に持ち出す」と言っているが、そういう空手形でごまかそうとするやり方に、志賀さんは不信を抱いている。用地取得が進まないことを地権者のせいであるかのように世論を仕向け、被災者同士を分断するようなやり方にも憤っている。
ふるさとを汚染された上に、さらにそのふるさとを永久に奪われる苦しみ。これに対して国は向き合おうとしていない。このことを志賀さんたち地権者は訴えている。
志賀さんは、また、「国民全体で負担を分かち合って」と訴えている。中間貯蔵施設問題は、国と地権者との間だけの問題ではないはずだ。ところが、国民の大多数にとって他人事になってしまっている。国民の大多数がそういう意識であることによって、大きな被害を受けた者に、もう一度、被害を与えるような理不尽がまかり通ろうとしている。そして汚染の原因者・加害者らが、そういうことを平然と繰り返そうとしている。
除染廃棄物をどこに持っていくのかという具体的な議論に入る前に、私たちには、考えるべきことがある。
志賀さんら、双葉町、大熊町の地権者のみなさんの声に耳を傾けてほしい。
まだ何の話し合いもないのに
―13日から、一時保管場所への搬入が始まります。〔インタビューは3月7日〕
志賀:なんか堰を切ったように、どーっと行こうとしているね。国が流れをつくって、被災している私らを、抑え込もうとしているわけでしょ。
地権者は2千3百人ぐらいかな。その地権者の同意も取らずに、どうよ、このやり方。しばらく前にはね、「地権者一人ひとりにご説明に伺います」といっていたのに。
―去年の5〜6月、国による住民説明会が、また9〜10月に地権者説明会がおこなわれましたが、その後、どのように進められてきたのでしょうか?
志賀:地権者説明会のときはね、国からは、「福島県民の生活を良くするために、大熊さんと双葉さんにお世話になんなくちゃなんない。ご理解ください」ということだったね。そしてプリントを渡されてね、水田が1平米(u)なんぼ、畑がなんぼ、山林がなんぼ。いやもう、見たら、買い取りの基準がうんと低いんだ。事故前の5割って、私らにとっては半値以下だからね。
「新たに土地を見つけて、家をつくって、生活して下さいよ」と言われてもね、国の基準では、土地は買えても、家は建たないのよ。いわき市だって原町だって、ずっと高いわけ。なぜ移転先の価格を基準にしないんだって。で、土地を買ったけど家が建たないから借金するとなるけど、みんな高齢化しているから、銀行さんも貸してくれないわけでしょ。
そんなねえ、放射能がなければあの故郷に住んでいたのに、なぜそんな低い値段を踏むんだって。地権者説明会のとき、「この数字では家は建たないよ。即見直して下さい」って言ったけど、国は「帰って、検討させていただきます」とそれだけ。
―検討した結果は?
志賀:何も変わっていないね。
―地権者の方に個別の説明は?
志賀:ないね。連絡も電話が一回だけ。環境省からね。「地権者の方を訪問していますが、いろんなところに避難していて、わからない人もいて時間がかかっています」と。わかる人を先にやればいいんだよね。
「で、私のところはいつごろになりますか?」って訊いたら、「志賀さんのところは大分遅れるんですが…」と。「ああ、いいですよ。でも、できれば早くね」。
そういうやりとりがあった。それがだいぶん前の話だから。それ以降、何の連絡もなし。
住民説明会を12回に分けてやって、われわれは本気になって意見を言ったよね。でも、それがぜんぜん届いてない。これは情けないね。
―結局、説明会以降、国から何の話もないのに、13日から搬入が始まると。これは大変なことですね。
志賀:3月3日の新聞(福島民報「中間貯蔵施設」特集)には、T型施設とか、U型施設だとか、中間貯蔵施設の配置図が出てるんだよね。もう決まったことのようにね。まだ話し合いだって始まっていないのにだよ。私ら地権者は無視されてるんだよ。
それから、「一時帰宅のお墓参りは最後ですよ」ってことも新聞に書いてある。今度の3月11日が最後で、除染廃棄物の搬入が始まったら、もう墓参りもできないんだね。いやいや呆れちゃうね。こんな状態だったら騒ぐよ。
これね、相手が国だからね。これが民間の一対一の話だったら、こんなことは絶対に成り立たないでしょ。(つづく)
生存権裁判の傍聴を
4月17日、11時 大阪地裁
4月17日午前11時から大阪地裁の大法廷で保護基準引き下げ違憲訴訟の第1回口頭弁論が始まる。抽選になることが予想されるので傍聴希望者は10時30分に大阪弁護士会館1階に集まろう。
立ちあがった原告51人
一昨年、保護基準引き下げにたいして全国で1万人を超える審査請求がおこなわれ、大阪では全国最多の1784件の審査請求がおこなわれた。以来、全国で訴訟準備が進められ17の地域で訴訟が提訴されている。
今回、大阪では51人が原告として立ちあがった。年齢は32歳から80歳、男性28人、女性23人である。高齢でガンを発病し手術不能となった人も、国のあまりのやり方に憤り、原告に加わった。原告は激しい生活保護バッシングのなか、立ちあがった人たちである。
労働条件と生活保護
生活保護と日本の劣悪な労働条件とは密接に関係している。以下、昨年の審査請求時の口頭意見陳述のなかからいくつか紹介したい。
▼労災から解雇
玉掛け不十分で落ちた鉄筋が当たって右足甲と指を粉砕骨折したクレーンオペレーターのAさんは、労災が適用されたが労災補償打ち切りとなり解雇、さらに寮を追い出された。「福祉をもらうことには引け目もあり、好き好んでもらっている人間はいない。働けるのであれば働きたいけど、病気でできないので生活保護で身体を治していこうと暮している人もたくさんいるということをわかってほしい」と訴える。組合があれば、相談できるところがあれば、解雇や寮を追い出されることもなかっただろう。
▼シングルマザー
「障害者」の子どもを持ち、府営住宅に応募しても入れず、かつ派遣元からクビになり、怒りのやり場がないBさん。
賃金が安く2〜3カ所で働かざるを得ず、しかし、過労で脳梗塞になった。これ以上節約できるところはない。貧しい者には人らしく生きる権利はないのかと憤るCさん。
賃金が安いので良い条件の仕事を探したいが仕事を休んでまで面接に行けず、小さい子どもを抱えて将来の不安が消えないDさん。
▼まじめに働いても低年金
40数年小さな町工場でまじめに働いても年金は月額26000円。これ以上下げられたら生きていけないと怒るEさん。
▼働きたくても働けない
心臓病で人工弁となり求職活動をしているが仕事がない。しかし、自分のことだけでなく全体のことを考えて、最低賃金の引き上げが大切と訴えるFさん。
▼人間の尊厳を否定
1日2食、買い物も減らし、風呂も減らしている。どんな節約をしているのか分かっているのかと憤るGさん。
「障害者」の生きる権利
生活保護は「障害者」が人らしく生きていくための土台になっている。脳性マヒ1級のHさんは介助者が介助できるように風呂やトイレは別仕様の広いところが不可欠。しかし、府営・市営住宅には条件にあうところがない。決められた保護費の家賃分に上乗せして隙間風の入る古い住まいをかろうじて確保している。
しかし、保護費が切り下げられたらそれもなくなる。施設から社会へという国の方針なのに、保護費を切り下げられたらもう一度施設に戻るしかないと憤るHさん。
孤立すること
貧困の恐ろしさはお金がなくなること以上に孤立することである。新聞の購読もやめ、近所付き合いもやめていけば人は孤立する。保護費切り下げはこういう事態をぼう大に生みだす。年越し派遣村(2008年暮)の体験でも人は孤立したら絶望から死を選ぶようになる。こんな社会にしてはいけない。
社会を変える裁判
今、日本は自衛隊の海外派兵、改憲攻撃など歴史的な分岐点に来ている。こういうなか、人が人らしく生きられなく、貧しい者がますます貧しくなるような社会は変えなくてはならない。
今回勇気をもって立ちあがった51人の原告は弁護団や支援者と共に、この社会を変えようとしている。多くの方々の傍聴をお願いしたい。(矢田)
5面
盗聴の拡大と司法取引
足立昌勝さん迎え講演会
3・13大 阪
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3月13日、大阪市内で「密告奨励・盗聴拡大を阻止するために」と題する講演集会が、〈共謀罪に反対する市民連絡会・関西〉の主催で開かれた。講演は関東学院大学名誉教授の足立昌勝さん(写真)。後半は足立さんと永嶋靖久弁護士とのやりとりで問題点を深めた。
まず足立さんは、盗聴法改悪案を含む「刑訴法等一部改正案」が閣議決定されたこの日に緊急集会がおこなわれている意義を確認して、最近の諸状況として3点あげた。
一つはGPS(移動追跡装置)捜査を大阪地裁が「適法」であるとしたこと。GPS捜査適法が拡大すると車両追跡捜査が日常的となり捜査方法がまったく変わる。
二つは岐阜県美濃加茂市長汚職事件無罪判決。市長が一貫して無実を主張し、無罪となったが、贈賄側は罪を認め、有罪判決。この有罪判決の裏には、贈賄側の別のウソを隠ぺいする司法取引の可能性がある。
三つは刑訴法等一部改正案要綱の判明(3月7日)である。
その上で盗聴の拡大とGPSと司法取引(=仲間を売り罪を軽くする)導入で、これまでの捜査方法を大きく逸脱する次元に刑事司法が入ることに警鐘を乱打した。またこれまでの攻防では曲がりなりにも民主党が踏ん張ってきたが、現在の国会では全く論戦になってないことを、日弁連の問題性も含めて弾劾した。
捜査機関の焼け太り
村木事件(検察の証拠改竄)や志布志事件(警察の脅迫)という権力犯罪をうけて、法制審・新時代の刑事司法特別部会は、諮問92号で「近年の刑事司法をめぐる諸事情に鑑み、時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため、取り調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや、被疑者の取り調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など、刑事の実体法及び手続法の整備の在り方について、ご意見を承りたい。」とした。
この諮問で捜査の可視化が進み捜査方法が変わると思いきや、諮問内容を意図的に取り違えた警察・検察は、「密室捜査での冤罪を防ぐため」に、盗聴や追跡(GPS設置)や司法取引を可能とする新捜査方法を導入し、捜査機関の焼け太りへと進んできた。
そして今回の刑訴法等一部改正案要綱では、現行盗聴法政府原案からいくつかの分野で「後退」させながら、その裏で暴力団の組織的犯罪に係わるとする分野(窃盗、強盗、強盗致死傷、電子計算機使用詐欺、恐喝)では盗聴を拡大する、新たな刑事司法要綱案を提出してきた。これを認めれば、適用を暴力団から社会運動全体に拡大していくのは権力者の常である。「組織性」を問題にしている点では、現在の弾圧でいとも簡単に裁判所が「共謀」を認定している点で(関西大弾圧では現場にいただけで共謀が成立)、警察・検察・司法が同方向を向いていることが判る。今回、導入が企まれている「司法取引」は、仲間を売ったら罪を軽くする、あるいは免訴というもので、米国の司法取引とは同じではない。冤罪の温床であり、国家権力によるでっちあげが多発する。
弾圧の拡大へ
後半は、盗聴法の今後、GPS設置や顔認証カメラの問題性などについて論議された。特にGPS設置とそれを発見し外すことの問題などがリアルに語られ、これらの捜査手法は憲法35条の令状主義に違反すると弾劾された。また盗聴などは常にまず「反社会的勢力」に適用されるが、次には社会の変革を求める運動が「反社会的勢力」とされ弾圧が拡大していく。また司法取引は弁護士が同意し、売る側の弁護士と売られる側の弁護士へ発展していくもので、日弁連はダメなものはダメ、と言い切る必要がある。共謀罪は今は動いていないが、2006年共謀罪粉砕闘争の闘いが画期的で、この闘いを受け継ぐべきだなどの討論が進んだ。最後にテロ資産凍結法や、マイナンバー法の問題性などが質問・アピールのなかで確認された。
盛りだくさんの内容だったが、足立さんの判りやすい話の中で、今日の弾圧の攻防点がよくわかる集会だった。
差別・排外主義にNO
実体ある連帯のため討論集会
極右安倍政権によって、集団的自衛権の法制化などの戦争政策が強引に進められているが、そのような政治状況のなかに反レイシズム・反ヘイトを位置づけてたたかいを作ろうという趣旨で3月7日、東京都内で討論集会が開かれた。主催は差別・排外主義に反対する連絡会。
反レイシズムを主な活動課題に掲げているわけではないけれど、しかし大きな関連性を共有している運動領域の人々がパネリストとして発言した。川原栄一さん(ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク)、新孝一さん(反天皇制運動連絡会)、武市一成さん(國學院大学講師)、藤田裕喜さん(「国連・人権勧告の実現を!」実行委員会)、堀純さん(部落解放同盟練馬支部)と主催者のメンバー。
国権論への危険
戦前的な価値観で政治を右に持っていこうとする安倍政権にたいして、戦後の平和な価値観を象徴するものとして「リベラルな明仁天皇」を持ち出すことで対抗しようとする傾向や、あるいは左派系大労組の幹部だった人が、今はネット右翼になっているという実例からは、社会総体が右に大きく傾いていることがよくわかる。
そのようななかでは、大きく盛り上がる反レイシズム・反ヘイトのたたかいが一定の危うさを内包していると指摘された。たとえば、レイシストに対する「日本の恥」という抗議の言葉は、ヘイトへの怒りが道徳的国権論に絡め取られる危険がある。また、「仲良くしようぜ」のプラカードは、民族差別を考える際の日本人自らの加害者性を曖昧にするということなどだ。
これらの論点は、レイシズムやヘイトとのたたかいが、一歩間違えれば天皇制や国家という政治の枠組みに吸収されかねない危うさがあるということを指摘している。そのことへの自覚と取り組みが求められる。
実体のある連帯を
一方、別の次元からの見方も指摘されている。「(ヘイトは)日本人として恥ずかしい」という言葉は在日コリアンにとってはうれしい言葉であるし、「仲良くしようぜ」のプラカードも、激しい憎悪の現場では当事者に向けては意味のある言葉だ。また、「高校無償化からの朝鮮学校排除を考える時、やはり自分は日本人として恥ずかしいと思う」という発言もあった。
これらは、いわば現場での直感的な感情だろう。国家・天皇制・加害民族というのは、私たちが否応なしにその枠組みの中に置かれてしまっている立場性だ。そのことをきちんととらえ返して、そこから大きな方向性を作らなければいけないと思う。
他方で、レイシズムと直面している現場で、人を行動へと動かし、たたかいを形作る感情がある。
その両者をどのように整理したらいいか、そんなことを感じさせる集会だった。(T)
器物損壊は無罪
大阪高裁 公妨有罪判決
関電前事後弾圧
3月9日、「関電前弾圧(11・16事後逮捕)松田さん」の控訴審判決があり、大阪高裁第2刑事部(横田信之裁判長)は、1審有罪判決を破棄し、新たに有罪の不当判決(一部勝訴)をくだした。
1審判決は、「公務執行妨害、器物損壊」を認定し、懲役10カ月、未決算入160日、執行猶予3年であったが、この日の判決は「公務執行妨害」のみを認定、懲役6カ月、未決算入160日、執行猶予2年だった。
1カ月以上たってから逮捕
2012年10月5日、関電本店前で「原発の再稼働をやめろ」と抗議闘争がおこなわれていた際に、何もしていないAさんが「転び公妨」をでっちあげられ逮捕され、ワゴン車で連行された。その際に、現場にいた多くの参加者が、この逮捕に怒り、連行車両にかけより抗議した。抗議を振り切って、警察車両はAさんを連れ去った。
それから40日以上もたった11月16日の朝、松田さんは突然、自宅で令状逮捕された。容疑は、上記抗議行動を「公務執行妨害、器物損壊」としたもの。器物損壊とは、松田さんが警察車両に抗議していた際に、アンダーミラーにふれた瞬間ミラーがはずれたので、その場で警察官にミラーを渡したという事実を、松田さんがアンダーミラーを壊したとねつ造したものである。
「器物損壊」でっちあげを粉砕
高裁判決は、公務執行妨害について事実上1審判決を踏襲し、有罪としたものの、器物損壊については「犯罪の証明がない」と述べた。
松田さんが警察車両のアンダーミラーをもぎ取ったとする検察側主張に対して、判決は、「本件アンダーミラー自体は、本件で取り外された後、押収保管されておらず(注:警察官がその場で捨ててしまった)、本件では、それを認定する手がかりを欠いており、むしろ本件車両は平成(ママ)22年2月に購入され、相応の頻度で使用されていたと認められ、本件までの使用状況等いかんによっては、プラスチック製の軸受けが、ひび割れを生じ又は次第に形状の変化をきたして、強度が損なわれていた可能性を否定する根拠がない証拠状況となっている。」「被告人の本件アンダーミラーに対する行為(注:検察が主張する、もぎり取ったという行為)はこれを認めることができず、同行為を認定して器物損壊罪の成立を認め、また、その行為と被告人らの本件車両に対する行為とを一連のものとして包括して公務執行妨害罪の成立を認めた一番判決にはその認定過程に経験則等に照らして不合理なところがあり、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。」とし、1審判決を破棄し、あらためて、公務執行妨害のみを認定し、有罪とした。
核心点が崩れた「公務執行妨害」
高裁判決は、Aさんが連行されることに松田さんが抗議し「警察車両の前部を手で押し、その助手席側窓ガラスを手で叩いた」とした行為が公務執行妨害にあたると認定した。
こんなことで逮捕され、7カ月も勾留され、あげくに有罪判決とはとんでもないことだ。
そもそも、この件は、アンダーミラーがはずれていなければ逮捕にまで持っていけなかった事案なのだ。アンダーミラーがはずれたという事実を使って、「器物損壊、公妨」をねつ造したものである。だから、このアンダーミラー事件が無罪になったということは、そもそもこの弾圧理由の根幹が崩れたことを意味する。
ところが、あくまで有罪を維持するために「警察車両の前部を手で押し、その助手席側窓ガラスを手で叩いた」とした行為を犯罪であるとしたのだ。
こんな判決は、認められない。こんな弾圧がまかりとおるなら、市民運動のさまざまな場で、不当介入する警察官と揉みあうことは頻繁に起こっており、それらの行為はすべて逮捕=勾留=裁判=有罪になりかねないという問題をはらむ。
上告してたたかう
松田さんはこの不当判決をはねかえすべく上告した。上告審で完全無罪を勝ち取ろう。
6面
視座
止めよう「対テロ」戦争 許すな対イスラム排外主義
『現代思想』3月臨時増刊号 総特集
『シャルリ・エブド襲撃/イスラム国人質事件の衝撃』を読んで
鳥井 強右(とりい たけあき)
本書は、ムスリム人民にたいして、われわれ帝国主義足下の労働者人民がとるべき立場をつかむうえで、『未来』の読者に読んでほしい本である。
1・11反イスラムの官製デモ
1月7日に、『週刊シャルリ』誌襲撃事件が起こった。アルジェリア出身の移民2世が、編集者や警官など12人を殺害した。もう1件の事件は1月9日に起こった。マリ出身の移民2世が食品店を襲い、ユダヤ人4人を殺害した。
これにたいし、フランス全土で370万人という巨大デモが組織された。仏社会党や共産党、緑の党など左翼・環境派5団体が呼びかけ、ヴァルス首相が乗り、保守野党のサルコジ元大統領も加わり、「挙国一致」の集会・デモとなる。
参加者は、この種の暴力を生む社会はいやだという意識から参加している。しかし、仏政府はこれを「共和国行進」と名づけ、「フランスにたいする攻撃」「表現の自由にたいする攻撃」を前面に出し、反イスラム排外主義の煽りたてと、「対テロ戦争」への挙国一致を図った。仏政府は、昨年7月のイスラエルによるガザ爆撃への抗議デモを、61年アルジェリア独立支持のデモ以来、初めて禁止した。「表現の自由」にたいするダブル・スタンダードも凄まじい。
しかもデモには、ガザの虐殺者・イスラエルのネタニヤフ首相と、パレスチナのアッバス議長、さらにフランスが軍事介入したマリの傀儡大統領を呼んだ。オランド仏大統領は、このデモと一体で、空母「シャルル・ドゴール」号上で、この空母を「対テロ」戦争のためにペルシャ湾に派遣すると宣言した。
個々の参加者の思いを国家儀式化し、学校などで黙とうを強制し、1月11日を国民の記念日にした。シャルリ誌にたいする評価は大きく分裂していたにもかかわらず、政府は、シャルリ支持を意味する“Je suis Charlie”「私はシャルリ」というスローガンを、官公庁などに強制した。
シャルリ誌は、70年代に左翼・アナーキスト系誌として創刊されたが、2001年に編集長が代わってから、もっぱらイスラム教を愚弄する低俗な内容に特化する。寄稿者にもイスラエル支持のネオコン的人物が増えた。2006年のイスラエルのレバノン侵攻を支持し、パレスチナの第2次インティファーダを非難。このようなシャルリ誌を、仏政府は事件後、国家資金で援助し、3万部程度の販売部数が一挙に700万部にもなっている。
左翼と知識人の分裂と苦悩
反資本主義新党など「極左派」4団体は、「表現の自由に賛成し、神聖同盟に反対する」とするコミュニケを発表した。挙国一致で、イスラムへの敵愾心をあおること、フランスのイラクやマリ、中央アフリカへの軍事介入への正当化に抗議している。しかし「表現の自由に賛成」としてシャルリを容認した。これは、国家的排外主義に屈服していると言われても仕方がないのではないか。
本書の冒頭に掲載された5人の論考が示すように、欧米、とくにフランスの知識人は、この事件の評価をめぐって真っ二つに割れている。
バリバールは、ムスリムへの攻撃、排斥と、政府の軍事介入に反対している。そのうえで「ジハーディスト」を批判し、克服するのはムスリムの課題であって、非ムスリムの任務はイスラムへの敵意や攻撃と闘うことであるとする。
バディウは、ムスリムを敵視するシャルリを低俗な人種差別と批判し、国家がシャルリ支持のデモ呼びかけ、命令したことを断罪している。
チョムスキーは、帝国主義・シオニストこそ侵略者・虐殺者と断罪する。1999年、NATO軍がミロシェビッチ政権支持の言論を圧殺するため、セルビア国営放送局を空爆し、16人のジャーナリストを殺害したことを例示している。
ネグリは、排外主義右翼の勢力増大に歯止めをかけうるという楽観論に立って1・11デモを肯定し、「被害者」であるシャルリに連帯表明している。
ジジェクは、1・11デモを「偽善的虚偽」と呼ぶ。しかし襲撃者・「テロリスト」・「原理主義者」が米軍事施設を攻撃しないことを批判し、彼らを劣等感からからくる「イスラム―ファシズム」と批判する。
前3者は仏政府・帝国主義・対ムスリム差別に反対、シャルリには批判的、後2者には仏政府・帝国主義・イスラム排外主義への批判がない。ネグリはシャルリを「仲間(同志)」と呼び、ジジェクは「テロリスト批判」に終始する。
「言論の自由か、テロか」?
本書によれば、フランスではこのような2項対立を考える人はほとんどいない。言論の自由は法律や政府によって守ってもらうとは考えない、命を懸けて闘い取るものとして考えている。シャルリの編集者すらそうである。反対に、多くの論者が、「表現の自由」VS「信仰の自由」または「宗教の尊厳」の対立の問題と考えている。イスラム世界に分断を持ち込む可能性がある点で限界があるが、「言論の自由か、テロか」より評価できる立場であろう。
背景として、フランスでは、人種や民族にたいする差別表現は法律で規制されるが、宗教への侮辱には規制がない。反ユダヤ主義的言動は処罰されるが、イスラム教を罵倒する言動は「言論の自由」と見なされる。ムスリムの女性が公共の場所でスカーフをかぶることは禁止・逮捕されるが、キリスト教徒が十字架のネックレスを着けても処罰されない(小さく目立たないという理由で)。
国内ではシャルリを発禁にしているアラブの政治指導者や宗教指導者が「共和国デモ」に参加した。彼らは、「殺人などの犯罪行為はイスラムではない」という。しかしこれはアラブやムスリム大衆の意識とはかけ離れている。この点は、本書所収の酒井啓子の論考に詳しい。
人質事件を受けて、日本では、安倍首相を批判すると、「イスラム国を、またはテロを支持するのか」として言論を封殺する状況がつくりだされた。読売と産経は、社説でそれを主張さえした。
本書に引用されている鵜飼哲の論考では、「テロリズム」は、「政治的背景をもった暴力を犯罪のコードに転写するための」罵倒語であると言っている。これを受けて、中田考は、権力や体制に反対する民衆、とくにムスリムの暴力を「テロ」と呼び、それにたいする戦争を「テロとの戦い」として正当化することを批判している。とくに「テロリストとは一切交渉しない、要求に応じない」として、その主張の是非を議論すること自体を禁じることを批判している。
安倍首相の「対テロ」戦争への参戦の流れに棹さしてはならない。
フランス社会とムスリム
1月7日にシャルリを襲撃したクワシ兄弟、1月9日にユダヤ人商店を襲撃したクリバリーは、ともにフランスの旧植民地出身の移民2世である。
事件の背景にはフランスにおける「郊外」問題がある。フランス国内にはムスリムが600万人おり(人口の約1割)、とくにパリの20歳以下の若者の45%がムスリムと言われる。彼らは大都市周辺の郊外に住み、差別と格差・貧困に苦しんでいる。とくに移民2、3世は、就職・居住・婚姻・勉学の差別が強く、 アイデンティティの剥奪に苦しんでいる。しかるに、極右・フランス国民戦線などがこのような移民を差別、排斥する動きを強めている。
昨年5月の欧州議会選挙では、共産党系の労組CGTの組合員の4人に1人がル・ペンの国民戦線に投票したという。反イスラムの排外主義、移民排斥の凄さは、日本では想像を絶する。しかし対象が違っているだけで、日本でも在特会や安倍首相その人の排外主義は同様のひどさではないか。
おわりに
本書によれば、イスラム国や一匹狼のムスリムの襲撃事件について、「善いイスラムと悪いイスラム」を区別するとして、イスラムを分断し、批判をする傾向がある。民主主義や人権といった価値観を盾に、なで切るのだ。これは、「反テロ」戦争の流れに棹さすものではないか。普遍的な人間解放の立場、共産主義の立場は、被抑圧民族を抑圧し、虐殺している自国の帝国主義と闘うべきである。それを抜きにムスリム人民の信頼を勝ち取れない。そうでなければ、第2、第3の「人質事件」の発生は不可避だ。3月18日のチュニジア事件はその兆しと考えられる。
読者の声
エコ・ストーブで ご飯を炊いた
『未来』(169号、2月5日)に、いま話題の『里山資本主義』の書評が載りました。その中で紹介されている和田芳治さん=広島県庄原市、71歳=の講演会とエコ・ストーブづくりに参加しました。本にも写真が載っています。20リットルのペール缶を上下に繋ぎ、中に煙突を通し回りに土壌改良材を詰めただけの簡単な構造です。
でき上がったストーブにさっそく4合釜を乗せ、ご飯を炊いてみました。使ったあとの割り箸や枯れ木、枯れ枝を燃料に、わずか20分弱で炊き上がりました。燃料代はゼロ円です。この炊きたてのご飯が、電気釜で炊いたのとは食感がずいぶん違いおいしいのです。お互い仕事を手伝いあいながらつくり、同じ釜の飯を食べるという達成感も得ることができました。
〈3・11〉からまる4年。大地震、大津波の被害も甚大ながら、引き起こされた東電福島第一原発の大事故は、国策として進められてきた原発の危険を白日のもとに晒しました。アメリカは戦後世界体制を主導するために核兵器技術の転用として「平和利用」の名の下に原発を推進。日本も占領政策の延長である安保体制下で、いち早くとり入れ58基もの原発を建設しました。
4つのプレートが交叉、活断層が無数に走る火山列島でもある日本に、人間の技術で制御できない核発電を乱造し「高度経済成長」をおこなった戦後日本の社会そのものが問われました。いま安倍政権は、集団的自衛権の行使容認、海外派兵にむけた辺野古新基地建設を強行しようとしており、まるでフクシマがなかったかのように、原発を「ベースロード電源」と位置づけ再稼働へ突きすすんでいます。
今回のエコ・ストーブづくりを通じ、あらためて現在と未来のあり様を考える契機を得ました。(守村)