未来・第161号


            未来第161号目次(2014年10月2日発行)

 1面  辺野古新基地
     安倍の強権発動許すな
     工事阻止し知事選勝利を

      成田空港
     10・8農地裁判 −10・12現地集会へ
     無謀極まる第3滑走路

 2面  京都・大阪2団体が共催 9・19 大阪
     沖縄・反戦の闘争陣形拡大を

     9・20辺野古連帯行動
     東京・大阪で集会・デモ

     地域生活を阻害する 65歳・住宅問題
     9・10 怒りネット 厚労省交渉

 3面  シリーズ 新成長戦略批B
     激しく進む教育破壊(上)
     教育再生実行会議と大学イノベーション      

 4面  視座
     「慰安婦」・ヘイト・入管・代用監獄
     日本の人権侵害に国連が勧告

     大阪市議会に抗議

     投稿
     JR西日本セクハラ裁判
     報告集会とパンフ発行

 5面  書評
     関東大震災朝鮮人虐殺は今に連なる
     『九月、東京の路上で』      

     世界の目
     独 カーステン・ゲアミス記者は
     内閣改造をどう見たか

     連載第4回 中年派遣労働者日記
     深夜のデパート8000円
     大浜 清

     シネマ案内
     舞台は88年のチリ
     ピノチェト倒した「ノー」派

 6面  投稿
     福島の旅からA
     なかなか、理解されないでしょうね

             

辺野古新基地
安倍の強権発動許すな
工事阻止し知事選勝利を

辺野古浜をうめつくした5500人の大集会
(9月20日)

海保の暴力許すな

辺野古新基地建設阻止闘争は、「キャンプ・シュワブ」ゲート前の座り込みと海上での抗議行動が連日闘われている。海上でのカヌー隊への弾圧は激しさを増している。海上保安庁(海保)は拘束時に暴力を振るっている。報道機関や抗議団のカメラが向けられていない時は、容赦ない暴力で襲いかかってくる。『海保がカヌー隊へ暴行をふるう瞬間』の写真を撮りネットで流したところ、全国から多くの反応があり、辺野古に支援者が次々と駆けつけている。
9月13日、カヌー隊はスパッド台船の移動に合わせ抗議行動に決起した。カヌーはこのかん最大の27艇が出撃した。海保はカヌー隊がフロート(浮き具)に接近すると、フロートの外であるにもかかわらず「300m以内に近づくな」と恫喝し、次々とカヌー隊に襲いかかった。この攻防でカヌー隊9人が拘束され、カヌー13艇が押収された。隊員は数時間後解放されたが、カヌーは翌日まで返されなかった。
9月15日、沖縄防衛局は「浅瀬でのボーリング調査」を終了したとして、スパッド台船の解体を始めた。16日にかけ、2台の台船が浮き桟橋に移動し、解体された。今後、水深の深いところ9地点のボーリング調査に入り、大型のスパッド台船が導入される。台風16号の影響で9月24日現在、台船の導入はなく、工事はおこなわれていない。

V字型滑走路計画とキャンプシュワブ基地の拡張工事計画

菅の視察に抗議

9月17日、菅義偉官房長官が辺野古を空から視察した。菅官房長官は辺野古新基地建設の是非に「過去の問題」と開き直り、沖縄県知事選での争点化を避けようと躍起になっている。菅の空からの視察にたいして、辺野古浜では150人の市民が、海草で浜に「NO BASE」の大文字を書き、待ち受けた。海上では、カヌー16艇がカヌーで「NO」の文字をつくり抗議した。12時半頃、菅のヘリは上空を2度旋回し5分ほどで飛び去った。浜と海から「菅帰れ」のコールがこだました。

辺野古に5500人

9月20日、「みんなで行こう、辺野古へ。止めよう新基地建設9・20県民大行動」が辺野古の浜でひらかれた。8月23日のキャンプシュワブゲート前の集会に続き2回目の県民集会だ。前回を上回る5500人が集まった。集会には県外からの参加者も多く、大型バス70台以上が辺野古周辺を埋め尽くした。集会が始まる前から辺野古漁港は人で埋め尽くされ、浜は立錐の余地がなく、堤防も人で見えなくなった。子ども連れの参加者も多く、子どもはきれいな辺野古の海ではしゃいでいた。集会では国会議員のほか、翁長雄志那覇市長、稲嶺進名護市長、山城博治沖縄平和運動センター議長、安次富浩ヘリ基地反対協共同代表や学生代表などが発言。鳩山由紀夫元首相も紹介された。

翁長市長が発言

翁長那覇市長は辺野古での大集会に参加するのは初めてで、「あらためて辺野古の海を埋め立てさせてはいけない。絶対に阻止しよう」と訴えた。稲嶺名護市長は「辺野古の浜では毎年ハーリーをやっている。正月初日の出には自分も毎年拝みに来ている。計画ではこの浜も作業ヤードにされ埋められてしまう」と危機感を訴え、「オール沖縄で、ウチナーンチュのアイデンティティーを示そう」と声を張り上げた。山城博治さんは「抗議行動に多くのカンパや差し入れが届けられ、大きな力が広がっている。県民の力で必ず止めよう」と呼びかけた。安次富浩さんは「8・23より多くの人が集まり、完全に勝てると確信を持った」、「名護市議選で稲嶺与党が過半数を取った。知事選で仲井真を引きずりおろす」と宣言した。
集会終了後、人の列が漁港からバス待ち合いまで続き、さながらデモ行進のようだ。参加者のどの顔も生き生きしていた。(2面に関連記事)

成田空港
10・8農地裁判 −10・12現地集会へ
無謀極まる第3滑走路

三里塚反対同盟から、10・8市東さんの農地裁判(農地法・行政訴訟)の控訴審闘争(第3回口頭弁論、東京高裁)と10・12全国総決起闘争(三里塚現地)への結集が呼びかけられている。
今回の控訴審闘争は、裁判長の交代の中で迎える。あるいはこの農地裁判と一対の耕作権裁判(千葉地裁で審理中)におけるNAA(成田空港会社)の証拠隠滅(市東さん農地の旧地主からの買収過程における書類偽造など)と千葉地裁の文書提出命令が確定(8月下旬)するなかでの裁判だ。最重要の「証拠」の信ぴょう性が揺らいでいるのであり、徹底審理・慎重審理の必要性はいよいよ明らかだ。
農地明渡し請求の棄却を求める3万人署名(9月18日現在15455筆)をさらに推し進め、10・8控訴審闘争に参加しよう。
10・12全国闘争は、この市東さんの農地裁判勝利を何としても勝ち取るとともに、とりわけ急浮上した国交省の「成田空港の機能強化」と称する第3滑走路計画、B暫定滑走路の延伸(3500m化)、24時間空港化など、どこまでも地元農民を無視した無謀な計画との闘いだ。

「空港機能強化策」

第3滑走路計画などは、6月6日、羽田・成田両空港(首都圏空港)の発着枠の拡大案として公表された。マスコミの多くは羽田空港の「都市上空の飛行解禁」に焦点を当てて報道しているが、成田空港については「高速離脱誘導路整備」、「夜間飛行制限の緩和」=24時間空港化、そして第3滑走路計画と現B滑走路の3500m化である。2020年東京オリンピックをはさんで、2030年頃までを展望する、国交省の首都圏空港拡張の中長期計画だ。
成田空港の現在の発着枠は27〜30万回/年、13年度の運航実績は22万回(12年度までは18〜19万回で推移)、周辺地域住民の反対の声を押し切っての発着枠拡大と格安航空LCC積極的導入、東京オリンピックキャンペーンによって、急拡大の様相を見せている。国交省は、20年に34万回に、さらに30年までに第3滑走路とB滑走路延伸で発着枠を拡大するとしている(ただし発着枠の拡大に、実際の航空需要が伴うかどうかは別問題)。
第3滑走路の具体的プランは明らかにされていないが、おおよそ別掲図のように考えられる(「三里塚救援運動NO・6」より転載)。B滑走路に平行して東側数百m、ちょうど萩原富夫さん宅と畑の西側あるいは東側辺りと見られる。「総工費1200億円、工期4年」としていることから、国交省は具体的検討に入っていると考えられる。10月9日には周辺9市町協議会に説明、協議に入るという。
予定地とされる地域は家屋も多く、昔ながらの田園風景が残る一帯で、激甚騒音地域も含めて一千軒をこえる立ち退き、地域の丸ごとの消滅、農地強奪問題が起きる。この「報告書」には、家屋・農地の取り上げ、地域社会・農村破壊への言及はなく、「内陸空港の特殊性」として「騒音対策のあり方の検討」に触れているだけだ。
またB滑走路南側延伸も、天神峰・東峰地域の消滅を前提として成り立つものである。国・国交省は用地問題を無視・抹殺して、空港建設に突き進もうとしている。「国策」に異を唱える者は、暴力的・強制的、あらゆる手立てを用いて押しつぶすということだ。地域と農業に生きる人々の思いや暮らしを顧みることのない姿勢は、空港建設閣議決定から48年、何ひとつ変わることはない。
国交省・NAAは、市東さんの農地取り上げを強行し、一気に成田空港の24時間化、B滑走路延伸、そして第3滑走路建設をもくろんでいる。
10・8農地裁判闘争と一体の闘いとして、10・12三里塚現地全国闘争に結集しよう。

2面

京都・大阪2団体が共催 9・19 大阪
沖縄・反戦の闘争陣形拡大を

高作正博さん

「9・19戦争する国づくり、米軍基地建設を許さない!」が大阪市内でひらかれ、140人が参加した。この集会は、例年、秋に反戦集会をおこなっている「反戦・反貧困・反差別共同行動(きょうと)」と「戦争あかん!基地いらん! 関西のつどい実行委員会」による2団体共催で開かれた。

高作正博さんが講演

高作さんは現在、関西大学法学部教授。講演は、「『法』の理論と『軍』の理論?私たちは平和国家の破壊を許すのか?」と題しておこなわれた。
まず、辺野古の現状を紹介。キャンプシュワブゲート前攻防と8月14日から激しさを増す海上阻止行動、これまでのたたかいの経緯を紹介するとともに、「基地負担の軽減」ではないこと、そして「本質的な問題点は何か」と問題提起した。
沖縄で今も語られ続ける沖縄戦の教訓=基地や軍隊は住民を決して守らないこと、被害者にも加害者にもならないという基地撤去のたたかい、そのたたかいを押しつぶそうとする県内移設。しかし、そもそも「県内移設」の論理は成立しない。沖縄基地の「抑止力」論のデタラメさ、沖縄は基地経済に依存しているというウソ、世界情勢の「現実」からの沖縄基地必要論は、沖縄の現実を無視するものであり、「現実主義」自体が一つのイデオロギー、その行き着く先は戦争への道。さらに辺野古移設強行の意味するものが、民主主義の破壊であり、軍事の論理が「法治主義」を押し流し、「平和」を破壊するものであり、絶対に許してはならない。
最後に、「分断」させられる民意として、沖縄の「県外移設」の要求は、本土のたたかいの弱さが「県外移設」や「独立論」を語らせるほどに追い込んでしまっている。この責任をとっていかなければならないと語った(写真は講演する高作さん)。

闘争陣形の拡大を

講演に続いて、主催2団体から、京都は代表世話人の仲尾宏さん、大阪は事務局長の垣沼陽輔さんが、各集会への参加要請とたたかいへの決意を表明した。
続いてアピールが3団体からそれぞれ、〈米軍Xバンドレーダー基地反対・京都連絡会〉大湾宗則さん、〈秘密保護法廃止! ロックアクション〉服部良一さん、〈辺野古に基地を絶対つくらせない大阪行動〉陣内恒治さんが発言した。
本集会は、例年秋の大きなたたかいを開催していた2団体がひとつながりのたたかいとして、もっと大きく陣形を広げていこうという趣旨で開催された。沖縄ではこれでもかというくらい厳しい攻撃にたいして、不屈のたたかいが繰り広げられている。問われているのは本土でのたたかいだ。米軍新基地建設を絶対に許さない、基地建設を実際に止める、これまでにないたたかいが必要だ。本土で主体的な力強い沖縄闘争を創りあげていこう。(大阪 N)

9・20辺野古連帯行動
東京・大阪で集会・デモ

「東京から声を上げよう」と宮下公園に650人が集まる(9月20日 東京)
9・20大阪同時アクション。11団体が呼びかけ、中之島で集会。

沖縄の9・20県民大行動に連帯したたたかいが全国各地で取り組まれた。東京・渋谷の宮下公園でおこなわれた「辺野古に基地は造らせない! 東京から声を上げよう! 集会とデモ」には650人が参加。
また大阪市内では、〈STOP! 辺野古新基地建設! 大阪アクション〉の主催で「沖縄の『みんなで行こう辺野古へ。止めよう新基地建設 9・20県民大行動』に連帯しよう 9・20大阪同時アクション」がおこなわれた。沖縄と同時刻開催の午後2時に開始され、150人が参加した。
集会後は、参加者全員で大阪駅近くまでデモ行進に出発した。
沖縄の9・20県民大行動に連帯したたたかいが全国各地で取り組まれた。東京・渋谷の宮下公園でおこなわれた「辺野古に基地は造らせない! 東京から声を上げよう! 集会とデモ」には650人が参加。
また大阪市内では、〈STOP! 辺野古新基地建設! 大阪アクション〉の主催で「沖縄の『みんなで行こう辺野古へ。止めよう新基地建設 9・20県民大行動』に連帯しよう 9・20大阪同時アクション」がおこなわれた。沖縄と同時刻開催の午後2時に開始され、150人が参加した。
集会後は、参加者全員で大阪駅近くまでデモ行進に出発した。

地域生活を阻害する 65歳・住宅問題
9・10 怒りネット 厚労省交渉

65歳問題について

「怒っているぞ! 障害者切り捨て・全国ネットワーク」(怒りネット)は9月10日、国会議員会館で65歳問題、住宅扶助費問題などで厚労省と交渉した。
障がい者が65歳(特定疾病の場合は40歳)になると、介護保険が優先適用される。これは障がい者自立支援法で決まっていたことだが総合支援法にも引き継がれた。障がい者団体の関係者が参加して作られた「障害者総合福祉法」の骨格提言や違憲訴訟の和解条項では、この介護保険の優先適応は不当であるとされ、見直しがおこなわれることになっていた。ところが法が変わるとき、この条項がそのまま引き継がれた。そのための矛盾が各地で起き、違憲訴訟も始まっている。障がい者は65歳になると障がい者ではなく高齢者として扱われるようになる。ところが介護保険は障害者総合支援法より介助の保障時間が少なく、地域自立生活が維持できなくなる。身体障がい者の場合、施設に入らざるを得なくなり不自由な暮らしを強いられる。精神障がい者では生活の質が大きく下がることになる。さらに1割の自己負担が生じる。
怒りネットは、いくつかの自治体で起こっている具体例を取り上げ、厚労省に質した。厚労省の態度は具体的なケースは自治体が決めることだから関知しないというものだった。厚労省は「今年3月の主管課長会議で、64歳から65歳になるにあたり、介護時間の増減があることは考えにくいと伝えてある。また、介護保険を適用していただき、足りないところは横だし上乗せをしていただくという考え方を申しあげている。」「法には書いていない具体的な支給要件を決めるのは自治体であり、自治体の責任でおこなっていただく。厚労省は口出しできない」と言う。無責任極まりない。
精神障がい者の場合、障がいがいくら重度でも介護保険の制度の中では認定が軽く出るので、要支援1になるか非該当(自立)になることが多い。要支援1では介助時間がそれまでより大きく削られる。また、A市では非該当になると総合支援法が継続して適用される。ところがその時、要支援1の時間数を「目安」としてしまう。具体的には、64歳まで総合支援法で月に14時間や20時間の家事援助を受けていた人が、月に9時間にまで大幅に削られる。65歳になったら障がいの状態が良くなるわけでもないのに、介助時間を削られるのは矛盾だ。
また、介護保険が適用された場合には1割の自己負担の問題が生じるが、決して少ない額ではない。それでなくても少ない障がい年金で生活しているのに、自己負担の問題は死活問題だ。ところが、当日交渉に出席した厚労省の社会援護局・障害福祉課は「それは介護保険を担当する老健局の管轄」と、役所主義丸出しの対応だ。
交渉を仲介した国会議員の秘書は、「今日出されたいくつかの自治体で起こっていることは、氷山の一角に過ぎないと思われる。厚労省として全国調査を行うべきである」と要求した。

生活保護住宅扶助

財務省は生活保護の住宅扶助の上限額と一般低所得世帯の家賃の平均額を比べて住宅扶助費の引き下げを求める一方、今年6月24日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2014について」で、来年度には住宅扶助費や冬季加算を引き下げる方向を打ち出した。この一般低所得世帯の平均と生活保護世帯の上限を比較するというのは統計学的にはあり得ない乱暴な議論だ。平均と上限を比較すること自体がありえない計算方法だ。 重度障がい者にとって住宅扶助費は車いすで生活することを保障していない。重度障がい者は一般世帯の1・3倍の住宅扶助費が出ているが、それでは少なすぎる。そもそも車いすを利用していると、部屋を借りること自体を断られることが多いし、改造するとなるとまた難題になる。それでも借りられたとしても「家賃が高すぎるからダメだ」と福祉課が言うことが多い。そのために、住宅扶助額より高い部分を家賃契約せずに共益費として契約したりする。また介助者が泊まるための部屋が必要だったり、介助者のために駅から近いことが必要で家賃は高くなる。いずれにせよ住宅扶助上限額を超えた金額は生活扶助費からの持ち出しになる。その金額は多い場合、数万円にもなる。生活扶助費は最低生活の保障のはずなのにおかしなことだ。住宅扶助費の引き下げは追い打ちをかける。
厚労省は、「7月から8月にかけて、生活保護世帯の住宅を訪問して調査をおこない、この調査の結果を集計している。このデータを含めて、社会保障審議会の生活保護基準部会で検討してもらう。この調査には、車いす利用者の世帯の項目もある」と言う。あたかもこの調査ですべてがわかると言いたいようだが、実際の調査項目は、これですべてがわかるといえる代物ではなく、実際の調査ではさらに荒いことしか調べられていない。
生活保護世帯に対して、厚労省は健康で文化的な住宅を保障すべきだが、「そのような住宅の基準を持っているわけではない」と言う。障がい者が地域自立生活を営むために健康で文化的な生活に必要な部屋の広さと設備、駅からの距離などを積み上げて、必要な家賃の金額を算出するという計算方法が原則となるべきだ。さらなる働きかけを進めたい。(高見 元博)

3面

シリーズ 新成長戦略批B
激しく進む教育破壊(上)
教育再生実行会議と大学イノベーション

第186通常国会において、安倍政権は、第1次政権当時の挫折という負い目もバネに、「戦争のできる国」作りに向けた法改正などを矢継ぎ早に進めた。
憲法改正の手続きを確定させる改正国民投票法が6月13日成立。20日に公布、施行された。明文改憲のための国民投票をとにかく動かせるようにするものだ。昨年12月臨時国会での特定秘密保護法の強行可決を受け、運用をチェックする「情報監視審査会」を両院に新設する改正国会法という、国会を政府の秘密保全体制に組み込む秘密会設置法も、わずか2日間の審議で衆院を通過させた。外交と安全保障政策の初の包括指針「国家安全保障戦略」に続いて、武器輸出管理に関する新3原則を閣議決定した。教育委員会制度を見直して、自治体首長の権限を強化する改正地方教育行政法を成立させた。農業の大規模化や企業参入を推進し、交付金対象農家を半減以下に絞り込むなど、家族経営と地域営農をいっそう困難に追い込む農業破壊の農政「改革」2法案も6月13日可決成立した。
国会閉会後も、憲法解釈見直しによる集団的自衛権行使容認の閣議決定を強行した。
なかでも教育「改革」は加速している。教委制度見直しだけでなく、改定教科書検定基準の告示、新全国学力テスト実施要項の公表、尖閣(釣魚台)・竹島(独島)問題を明記する学習指導要領解説改定などが相次ぐ。評価をともなう道徳の教科化、高校日本史の必修化、「改正教育基本法の精神を生かす」とする教育再生法案の提出などに向けた動きが強まっている。

T 矢継ぎ早の提言 ―教育再生実行会議

第2回教育再生実行会議であいさつする安倍

戦争国家へ暴走する安倍政権は、誕生間もない2012年12月26日には内閣基本方針を閣議決定、@経済の再生、A外交・安全保障の再生、B教育の再生、C暮らしの再生を掲げた。教育を経済、安保と並ぶ国家戦略として位置づけた。
はやくも2013年1月15日には私的諮問機関「教育再生実行会議」を設置、2月には第1次提言をおこなっている。
主な内容は、第1次提言では、「いじめ問題」を口実にし、「道徳を新たな枠組みによって教科化し、人間性に深く迫る教育を行う」、「社会総がかりでいじめに対峙していくための法律の制定」、「学校、家庭、地域、全ての関係者が一丸となって、いじめに向き合う責任のある体制を築く」、「いじめられている子を守り抜き、いじめている子には毅然として適切な指導を行う」、「体罰禁止の徹底と、子どもの意欲を引き出し、成長を促す部活動指導ガイドラインの策定」などが打ち出されている。
「道徳の教科化」を図り、新しい法律を制定する。学校、家庭、地域、すべての関係者が一丸となるというような形で、政治が影響力を行使できる体制を作っていく、という。
教育委員会との関係を扱った第2次提言では、「地方教育行政の権限と責任を明確にし、全国どこでも責任ある体制を築く―首長が任免を行う教育長が、地方公共団体の教育行政の責任者として教育事務を行うよう現行制度を見直す」「責任ある教育が行われるよう、国、都道府県、市町村の役割を明確にし、権限の見直しを行う―学習指導要領や学級編制の標準等について、…各地方公共団体がそれぞれの創意工夫によって、特色ある教育を十分展開できるようにする」、「地方教育行政や学校運営に対し、地域住民の意向を適切に反映する―コミュニティ・スクールや学校支援地域本部等の設置」などが掲げられている。 地方教育行政の権限を明確にする、市長が任免をおこなう教育長が地方教育団体の教育行政の責任者として教育事務をおこなうよう見直すということで、教育長あるいは教育委員会を通じて、地方自治体の首長が教育に関与・介入できるような体制を作っていく。「責任ある教育が行われるよう」ということで、国は都道府県、市町村の役割を明確にし、国もこれに関与できるようにする。学習指導要領や学級編制のあり方についても自治体の首長が「特色ある教育を十分展開できるようにする」ということで、これについても権限を与えることになる。
大学教育についての第3次提言は、「グローバル化に対応した教育環境づくり―徹底した国際化を断行し、世界に伍して競う大学の教育環境、日本人留学生を12万人に倍増、初等中等教育段階からグローバル化に対応した教育、特区制度の活用などによりグローバル化に的確に対応」「社会を牽引するイノベーション創出のための教育・研究環境づくり」などを内容としている。
これは「グローバル化への対応」ということで、特にイノベーションを重視している。国際的な競争に打ち勝てるような新しい産業を興(おこ)せる技術開発のための大学教育をめざすという。
第4次提言は、現在の大学入試センター試験に代わり、複数回受けられる「達成度テスト」の導入を柱としている。従来の一発勝負の入試を見直し「人物本位」の選抜をめざすという。実際の導入は5、6年先になる見通しだという。
第5次提言「今後の学制等の在り方について」の柱は、@5歳児の就学前教育について、義務教育化を検討・「小中一貫教育学校(仮称)」を制度化・小中学校の区分を4―3―2や5―4などと設定できるようにする。A @の学制改革に応じて、小中や中高など複数学校種で指導可能な教科ごとの教員免許状を創設・採用前か後に学校現場で適性を厳格に評価する「教師インターン制度(仮称)」を導入。B教育を「未来への投資」として位置づけ、資源配分の重点を高齢者から若者に大胆に移行・国、地方自治体、産業界、教育界の代表などによる「教育サミット(仮称)」を開催など。雇用の流動化を見越して「職業人として自立した人材を育成していく」(4月の会合での安倍首相発言)ことは、アベノミクスの「第3の矢」として成長戦略を描く上でも不可欠だとして、新しい学校種として「実践的な職業教育を行う高等教育機関」の創設を盛り込んだ。

U 国家戦略としての大学イノベーション

2013年3月15日には、「人材力強化のための教育戦略」(下村文科大臣提出資料)、4月8日「教育再生実行本部 成長戦略に資するグローバル人材育成部会提言」(遠藤議員提出資料)が提出されている。「グローバル人材育成のための3本の矢」として、@英語教育の抜本的改革、Aイノベーションを生む理数教育の刷新、B国家戦略としてのICT教育があげられ、「グローバル人材育成のための1兆円の集中投資」や「グローバル人材育成推進法(仮称)の制定」などもあげられている。

(注) ICTとは、情報通信技術のこと。ICT機器にはコンピュータのほか、プロジェクター、電子黒板、デジタルカメラ、インターネット、テレビ会議システム等がある。

教育再生実行会議の第3次提言で大学(教育)政策は、新たな成長戦略とされた。グローバル人材育成として、海外大学の教育ユニット誘致・国際化を断行するスーパーグローバル大学の設置などにより、今後10年で世界大学ランキングトップ100に10校以上のランクインをめざすなどとしている。日本人留学生を12万人に倍増する、初等中等教育段階からのグローバル化に対応した教育の実現などもあげている。イノベーション人材として、10年から20年後を見据えた理工系人材育成戦略の策定、「産学官円卓会議」の設置、大学発ベンチャー支援ファンドなどへの国立大学による出資、初等中等教育段階の理数教育強化などを提案した。
この提言は2013年6月の「日本再興戦略―JAPAN is BACK」に盛り込まれ、国家戦略とされた。「大学、大学院、専門学校等が産業界と協同して、高度な人材や中核的な人材の育成等を行うオーダーメード型の職業教育プログラムを新たに開発、実施」、「国立大学について、産業競争力強化の観点から、グローバル化による世界トップレベルの教育の実現、産学連携、イノベーション人材育成、若手・外国人研究者の活用拡大等を目指す」、「産業界との対話を進め、今年度内に、教育の充実と質保証や理工系人材の確保を内容とする理工系人材育成戦略を作成」するなどとしている。
大学はグローバル資本のための人材養成機関であり、グローバル資本のための研究開発機関であり、しかもトップダウン型経営方式による一種の企業体になってしまう。

「自治と自由」の剥奪

安倍内閣による大変な「改革」の波が大学教育の現場まで飲み込もうとしている。日本の大学教育が受けるダメージは大きい。学生の自治活動が破壊されて久しい。学問の自由、大学の自治も破壊され、死語になりつつある。死滅しようとしている日本の大学が、これで最後的に崩壊してしまう危機にさらされている。
学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律が2014年6月20日に参議院本会議で可決、6月27日に公布された。施行期日は、2015年4月1日。
現行学校教育法第93条の「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」という規定を破棄し、教授会を「学長が決定するにあたり」「意見を述べる」だけの諮問機関に変質させる。さらに、「意見を述べる事項」を「学生の入学、卒業及び課程の修了」と「学位の授与」に限定し、その他、教育研究費の配分、教員の業績評価・教員採用などの人事、学部長の選任、カリキュラムの編成や学部・学科の設置・廃止などについては、「教育研究に関する重要事項で、学長が教授会の意見を聴く必要があると認めるもの」(第93条関係)として学長の裁量に一切を委ね、教育・研究活動における教授会の権限を根こそぎ奪うものとなっている。
(つづく)
(井上 弘美)

教育再生実行会議の提言
(第1次提言)
 「いじめの問題等への対応について」
 (2013年2月26日)
(第2次提言)
 「教育委員会制度等の在り方について」
 (2013年4月15日)
(第3次提言)
 「これからの大学教育等の有り方について」
 (2013年5月28日)
  (第4次提言)
   「高等学校教育と大学教育の接続・大学入学 者選抜の在り方について」
   (2013年10月31日)
(第5次提言)
 「今後の学制等の在り方について」
 (2014年7月3日)



4面

視座
「慰安婦」・ヘイト・入管・代用監獄
日本の人権侵害に国連が勧告
速見賢三

7月24日、国連自由権規約委員会は、日本の「市民的及び政治的権利に関する国際規約」履行に関する第6回定期報告を審査した最終見解を発表した。そこでは日本における人権侵害が多方面にわたって指摘され、是正を求める数多くの勧告がだされた。
しかし、日本政府は「自由権委員会の勧告には法的拘束力が無い」などと言って無視しようとしている。国連の行動をすべて正当化することはできないが、人権問題においては、普遍的な人権概念を打ち立て、国連人権条約を確立しており、自由権規約委員会の勧告や指摘を無視することは人権の否定につながる。そのような態度は、戦前の国際連盟において批判を浴びた日本が、ついには国際連盟を脱退し、ナチス・ドイツなどと連合して第2次世界戦争にいきついた大日本帝国の態度と同じである。
さて、自由権規約委員会では、どのような勧告や指摘がなされたのであろうか。

日本軍「慰安婦」

一つは、日本軍「慰安婦」問題だ。日本政府は、「強制連行の事実は確認できないが、甘言、強圧による等、本人達の意思に反してなされ、河野談話は継承する」と発言する一方、「慰安婦を性奴隷と呼ぶのは相応しくない」と繰り返した。この発言に、日米のグループが一斉に拍手し、会議の終了後に1人の委員を取り囲んで吊るし上げる事態も発生した。
ロドリー議長はこうした行為を厳しく断罪し、「本人達の意思に反して」と言いつつ、「強制連行されたのではない」という矛盾を指摘し、「『慰安婦』に対して日本軍がおこなった性奴隷あるいはその他の人権侵害に対するすべての申し立ては、効果的かつ独立、公平に捜査され、加害者は訴追され、有罪であるとわかれば処罰すること」「被害者とその家族への完全な被害回復措置」「すべての証拠の公開」「公式な謝罪を表明すること及び締約国の責任の公的認知」「被害者を侮辱あるいは事件を否定するすべての企みへの非難のためあらゆる措置をとるべきこと」が勧告されたのだ。
ところがその後、吉田清治証言は誤りだったとする朝日新聞の検証記事を口実に、産経新聞や読売新聞、週刊誌などが「慰安婦」問題は虚偽、日本こそ被害者などという洪水のようなキャンペーンを繰り返している。それは、日本政府の責任を認めずに女性の人権をさらに踏みにじる行為として、全世界から非難を浴びるものでしかない。

ヘイトスピーチ

「韓国人を殺せ」などと叫ぶデモが全国で350件も起きていることが委員会で報告された。日本政府は、特定の人や集団への名誉毀損や脅迫にあたる場合には民事責任と刑事責任を問うことができるが、一般的なヘイトスピーチに関しては啓発活動に取り組んでいるという答弁しかしなかった。
これについて委員会では、ヘイトスピーチによって生じるジェノサイドの差し迫った危険は考慮に入れるべきと指摘し、「差別・敵意・暴力の扇動となる人種的優越や憎悪を唱える宣伝のすべてを禁止すべき」「人種主義者の攻撃を防止し、加害者とされる者が徹底的に捜査され、起訴され、有罪判決を受けた場合は適切な制裁をもって処罰される」ことが勧告されたのだ。
ところが自民党は8月28日に、「ヘイトスピーチ対策等に関する検討プロジェクトチーム」の初会合を開いたが、ヘイトスピーチ規制に名を借りて、国会周辺でも街宣を禁止すべきだと、政府に反対する活動を禁止しようと言いだした。

技能実習制度

技能実習制度をめぐっては、技能実習生の多くが、最低賃金以下で働かされ、多くの事業場が労働法制を守らずに不当な扱いをおこなっていることは、奴隷制と強制労働に値すると指摘され、「事業場への立ち入り調査の回数を増やし、独立した苦情申し立て機能を設置し、労働搾取の人身売買その他労働法違反事案を効果的に調査し、起訴し、制裁を科すべきである」と、抜本的見直しが求められた。
にもかかわらず、安倍政権はさらに技能実習制度を「使い捨ての労働力」として拡充しようとしている。

難民・入管収容所

この問題をめぐっては、「2010年に1人の死を生じさせた退去強制手続きの中の虐待ケース」などに懸念が表明され、「退去強制の過程で移民が虐待にさらされないような措置」「保護を求めている人が危険が待ち受けている地域に送還されない」「執行停止を伴った独立した異議手続きの保障」「収容が最短の適切な期間」「裁判所に訴えを提起できることを保障」することなどが勧告された。

代用監獄と死刑制度

代用監獄の問題をめぐっては、30年前から問題が指摘されているにもかかわらず、改善がなされていないことが厳しく指摘された。さらに取り調べの録画が義務化されるのはわずかでしかなく、弁護士も立ち会えないことが批判された。そうした捜査方法が、強引な自白を強要しているのは学術的調査でも明らかと指摘された。代用監獄の廃止か、さもなくば弁護士の立会い、完全なビデオ録画のシステムの確立などが勧告された。
死刑制度と死刑確定者への処遇が取り上げられ、特に袴田さんが長期の死刑囚として独居拘禁され、精神の健康を害した例が取り上げられ批判された。そして死刑制度について、死刑囚への独居処遇を廃止すること、弁護士との秘密の面会を確保すること、再審や恩赦請求に執行停止がないことへの懸念の表明などがなされ、死刑の廃止を目指すことが勧告された。

その他の数多くの勧告

自由権規約委員会では、この他にも多くのテーマで議論が交わされ、多くの勧告が出されている。
ジェンダー問題については、女性に離婚後6カ月の再婚を禁止し、男性と女性で異なる婚姻最低年齢を設けている差別条項の改革を勧告された。
性暴力やDVをめぐっては、強かん罪や性犯罪がいまだに親告罪であることが批判された。 性的マイノリティについては、自治体が運営する公営住宅から同性カップルが実質的に排除されている差別規定が批判され、すべての差別を禁止する包括的な反差別法の採択が勧告された。
精神病院については、多くの精神「障害者」が、長期間にわたって自らの権利侵害への異議申し立てをおこなう法的救済手段もなしに、非自発的に入院を強いられていることに懸念が表明された。強制入院は最後の手段として、本人を守り他害を避けるために必要最小にとどめることなどが勧告された。
秘密保護法にたいしては、秘密の指定には厳格な定義が必要であり、制約が最小限度でなければならず、ジャーナリストや人権活動家の公益のための活動は処罰の対象から除外されるべきと勧告された。
福島原発事故をめぐっては、国際基準である年間1ミリシーベルトの20倍もの汚染地域に帰還政策が取られており、高度に汚染された地域に帰還する選択肢しなかい状況に懸念が表明された。

人権を踏みにじる日本

国連自由権規約委員会で出された多くの勧告は、国際社会が現在の日本社会を根本から「人権を軽視し踏みにじる社会」と認識しているということだ。それは、安倍政権の根本姿勢が国際社会からそう見られていることを表している。
特に、死刑制度、「慰安婦」問題、技能実習生、代用監獄の4つのテーマについては、1年以内に再度検討し、情報提供することが求められたのだ。
国際社会は、日本が民主主義と人権を尊重する社会になるのかどうかを注視している。安倍政権の姿勢を根本から改めさせるような、日本におけるわれわれの取り組みが求められている。

大阪市議会に抗議


9月9日、大阪市議会は「『慰安婦問題』に関する適切な対応を求める意見書」を大阪維新の会と自民党による賛成多数で可決した。
これに対して、日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワークがよびかけた抗議文に、わずか4日間で154団体が賛同。19日に大阪市議会に対して抗議、申入れ行動をおこなった。午後4時半から市役所前で50人が抗議行動(写真)。5時から市議会への抗議文提出。その後、市役所前で報告会をおこなった。

投稿
JR西日本セクハラ裁判
報告集会とパンフ発行


「閉ざされた扉を開けるまで」8・31JR西日本セクハラ裁判報告集会(主催/森崎里美さんを支える会)が尼崎市でおこなわれ75人が参加した(写真)
冒頭、里美さんのたたかいの「報告集活用事業」が、多数の応募の中から第1回藤枝澪子基金助成事業の1つに選ばれたことが報告された。
弁護団の池田直樹弁護士は、日本政府が批准したばかりの「障害者権利条約」を紹介しながら、今後私たちが政府に何を求めて行くべきかについて話された。島尾恵理弁護士は、日本におけるセクハラ裁判について、最初の福岡セクハラ裁判などいくつかの裁判例を挙げながら、これまでの到達点の紹介とともに、まだまだ変革が必要な点を指摘した。
「DPI女性障害者ネットワーク」の藤原久美子さんは、失明された自身の体験をとおして、障がい女性の抱える生きづらさ(複合差別の問題)について話された。里美さんは、なぜ裁判をしたか、それは自分の話を聞いてもらいたかったからと語り、周囲に合わせようとして、自分の気持ちを抑え込んでしまいがちな障がい者のおかれている現状について訴えた。
国鉄臨職争議をたたかった和田弘子さんからの激励発言、京都市で障がい者支援の条例実現に活動された女性からの発言などがあり、里美さんの元気な返答で大いに盛り上がった。 なお「JR西日本のセクハラ解雇と闘う! 里美さんと仲間の記録『閉ざされた扉を開けるまで』」をご希望の方は「森崎里美さんを支える会」http://satomi-heart.cocolog-nifty.com/までご連絡ください。 (兵庫T)

5面

書評
関東大震災朝鮮人虐殺は今に連なる
『九月、東京の路上で』

関東大震災91年目を前にして出版された本である。本紙159号に掲載された雑賀一喜さんの寄稿「なぜ普通の日本人が朝鮮人を大虐殺したのか」で詳しく紹介されているが、著者は関東大震災時の朝鮮人虐殺と昨今の在日特権を許さない市民の会(在特会)による差別排外主義に焦点をあてている。
朝鮮人虐殺事件に関する証言や記事を丁寧に取り上げ、9月1日まで生きていた朝鮮人が不本意な死を迎える状況を伝えている。その上で、著者は「虐殺はなぜ起こったのか」と問い、回答を与えている。
著者は「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸に毒を入れている」などの流言がどこで、なぜ発生したのかは、90年以上を経た今に至っても、はっきりしていないと言い、虐殺の背景として、「1910年植民地支配に由来する朝鮮人蔑視と1919年3・1独立運動に対する恐怖心」を挙げている。
1919年3・1独立運動後、日本の新聞は毎日のように「不逞鮮人の陰謀」をかき立て、大衆の中に差別と恐怖の観念が形成され、関東大震災での朝鮮人虐殺につながった。そして、行政(警察)や軍が流言を確認もしないで、むしろお墨付きを与えることによって、自警団による虐殺を後押ししたとしている。
そして最後に、著者は2000年代に顕著になってきたレイシズム(人種差別)がインターネットで増幅していることを憂えている。2000年石原都知事(当時)が「今日の東京を見ますと、不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している。・・・こういう状況で、すごく大きな災害が起きたときには大きな騒擾事件すらですね想定される、そういう現状であります」と発言した。
マスコミは「三国人」という言葉の差別性を取り上げたが、肝心の「災害時の騒擾事件の想定」の危険性についてはほとんど触れていない。
行政の長としての石原の発言は、行政(警察官僚など)の中には石原のような思考が残存しており、災害時の朝鮮人虐殺は過去のことではなく、今日的現実性を示している。それは政府(警察、軍)が、関東大震災時の朝鮮人虐殺については調査もせず、謝罪もせず、従って真摯な反省も総括もしていないことによってもたらされているのである。 極右政治家が排外主義・レイシズムをけしかけ、メディアが展開・拡散し、誰もが排外主義・レイシズムを疑問に思わない状況が生まれつつある。そして新大久保(東京)や鶴橋(大阪)の路地で「朝鮮人を皆殺しにせよ」「コリアンタウンを焼き尽くせ」と叫ぶ在特会の跋扈をもたらしている。
このように、1919年3・1独立運動から関東大震災までの民衆の意識状況に酷似しているが、一方で、「日本の軍隊・警察・流言蜚語を信じた民衆によって、多くの韓国・朝鮮人が殺害された」と明記した追悼碑を建てる人々がおり、新大久保や鶴橋のレイシストに対してカウンターデモで迎え撃つ人々がいる。
私たちはこの良心の人々と共に最先頭に立たねばならない。91年目の記念日をむかえて、『九月、東京の路上で』の一読をお勧めする。 (S)
(2014年3月刊/出版社 ころから1800円)

世界の目
独 カーステン・ゲアミス記者は
内閣改造をどう見たか

9月3日、安倍改造内閣が発足した。今回の内閣改造を海外のメディアはどのように評価しているであろうか。紹介するのはドイツ紙『フランクフルター・アルゲマイネ』のカーステン・ゲアミス記者の記事である。(以下敬称略)
ゲアミスは、今回の内閣改造によって18人の閣僚のうち女性5人が登用されたことを「いまや安倍は少なくとも内閣レベルで、彼によって掲げられた2020年までに全指導的ポストの約30%を女性が占めるという目標に近接した」とやや皮肉を交えて評価する。しかし彼は、改造内閣発足時の記者会見で安倍が「この一歩が日本社会を変化させるであろう」と語ったことにたいしては醒めた視線で眺めている。彼にとっては、新女性閣僚の目玉である小渕優子も「安倍の新たなアイドル、新経産相も日本の古い政治的エスタブリッシュメントに属している」と冷ややかである。そして山谷えり子(国家公安委員長)、高市早苗(総務大臣)、松島みどり(法務大臣)、有村治子(女性活躍担当大臣)ら「彼に任命された女性たちこそ、極めて保守的な女性像、家庭像の持ち主であるにもかかわらず、安倍は自信を持って、「日本の社会を変えると表明した」その欺瞞性をズバリと指摘している。
ゲアミスが今回の内閣改造で注目するのは「安倍の権力を確実にするという目標にとってとりわけても有効であった」という点である。彼は安倍政権が現在50%前後という高支持率を維持してはいるが、その支持率の土台となっている「アベノミクスに対する疑念が増大」しており、その原因が「多くの日本の家計にとって実質所得の落ち込みが、かつてないほど大きくなっている」と指摘する。同時に安倍政権下で公然と推し進められる「歴史の修正と国家主義の賞揚」に対する批判が、安倍に強力な打撃を与えていると評価している。
安倍にとっての危惧は、こうした状況に乗じて、ライバルである石破茂が「権力闘争において、直ちに安倍に挑戦するのではないか」ということであったが、この石破を自民党幹事長からひきずり降ろし、政権内部の脇役に追いやることにまんまと成功したのである。
ゲアミスに言わせれば「安倍政権においては、首都東京への一極集中を終わらせ、地方の経済陥没を阻止すると示唆するものはほとんどない」のであり、石破に割り振られた「地方創生担当大臣」なるものは典型的な閑職にすぎないのである。
また自民党の新幹事長となった前自民党総裁・谷垣禎一については「自らの権力への志向を安倍によってくじかれたにもかかわらず、常に自民党の忠実な一兵卒であり続けた」と辛辣な人物評価を下している。(H)

連載第4回 中年派遣労働者日記
深夜のデパート8000円
大浜 清

しばらく忙しくて(と言うのも変だが)派遣労働に行けていなかったが、事情があって稼がなくてはならず、深夜労働に通っている。デパートの催し物会場の変更作業だ。
お馴染みの梅田のデパートの上層階には催し物の階がある。そこでは1週間あるいは10日ごとの間隔で服飾・宝飾品・ブランド・食品などあらゆる分野の「特売会場」がある。それを設営し、終わったら撤去して新しい品物を設置できるよう、レイアウトの変更、パーテーション(仕切り板)の移動を1から10までするのは実はデパートの労働者ではなく、ほぼ全て派遣労働者だ。デパートの労働者がするのは商品の陳列だけ。そしてこの移動作業はほとんどが深夜に行われる。夜の閉店後から夜明けまではデパートの中を派遣労働者が占領することになる。
年齢層は10代から私のような50代後期、いやいや60代後期の人まで実に幅広い。夕食後、デパートの裏口付近に数十人が集合する。開始時間になると、4トントラックから荷物を降ろす係り、エレベータに乗ったままそれを上層階に届ける係り、エレベーターから設置位置まで運ぶ係り、ワゴンや陳列台、冷蔵ケースなどを組立て完成させて設置する係りに分かれて、深夜のデパートで6時間〜10時間ほど立ちっぱなし、歩きっぱなしの労働に従事するから楽ではない。しかし、怪我する危険は少ないから、私は嫌がらずに行く。運搬も大部分はキャスターがついたワゴンを押して行くのだからハードな体力は不要。しかし、若者は意外と来ないので、見回すと「ご同輩」が多く、苦笑してしまう。若者諸君、ぜひやりなさい、デパートの深夜労働、なかなか悪くないし、それで8千円以上は得られるから…。
10回ほど行くと、要領も理解するし、輩のような元請け社員の顔と名前を覚えるから対処しやすくなるのだ。コツは以前にも述べたように、なるべく人と衝突しないように心がけながらも、絡むタイプ、労基法・労働安全衛生法をわきまえない奴や、パワハラ男にはニコニコ対応をしつつ、下がりすぎないこと。オイ! とか怒鳴っていたのが、敬語使いになるよう仕向ける事である。「快的な職場環境」は求めるだけではやってきてくれない。自分で作るものなのだ。(つづく)

シネマ案内
舞台は88年のチリ
ピノチェト倒した「ノー」派

1988年のチリが物語の舞台である。73年の軍事クーデター以来、15年間にわたって軍事独裁を敷いてきたアウグスト・ピノチェトは、国際的な圧力を受けて自身の大統領任期の延長(8年)の是非を問う国民投票を実施した。このときテレビ局が毎日15分づつを信任派(「シー」)と不信任派(「ノー」)の宣伝に無償で解放することになった。 映画は、ピノチェト軍事独裁に終止符をうつ重要な転機となった27日間にわたる「ノー」派のテレビ放送をとおしたプロパガンダがどのようにつくられたのかを描く。監督はチリの若手であるパブロ・ラライン。主人公の若き広告マン、レネ・サアベドラを演じるのはメキシコ出身のガエル・ガルシア・ベルナル。チェ・ゲバラの青春時代を描いた『モーターサイクル・ダイアリー』(04年)で主役のゲバラ役を演じた俳優である。
映画の最初のほうで、主人公レネは、「ノー」派の指導者たちに「本当に国民投票に勝利する気があるのか」と尋ねる。指導者たちのほとんどは勝てると思っていなかったのだ。しかしレネは、勝利のための宣伝戦略を練りはじめる。そして本業であるテレビCMの手法を駆使して番組のコンセプトを打ち出していく。
レネは、「長い軍政の下でうちひしがれてしまったチリの民衆」という皮相な見解には与しない。固い決意を胸に秘めたレネが、スケートボードに乗ってサンティアゴの街を静かに滑っていく姿が印象的だ。
現在、劇場公開中。詳しくは「映画『NO』」で検索。(K)

6面

投稿
福島の旅からA
なかなか、理解されないでしょうね

Nさんのシイタケを測定中。郡山市の市民測定所にて(2014年6月)

諸般の事情から行けなかった福島に、ようやく行くことができた。搭乗便が福島空港に近づくと、雲の切れ間からゆったり広がる農村風景が見える。バス、鉄道を乗り継ぎ郡山、福島、相馬、南相馬、浪江と移動する途中の景色もそうだった。私の知る中国地方は山、また山である。福島は、広い農業地帯という風景だった。神田香織さんが、「福島は米も野菜も果物もおいしいところだった」といっていたのを思い出した。水戸巌さんの著書に「もし原発事故が起こったら、まっさきに農業が破壊される」とある。「広々とした、この農村地域に放射性物質が飛び散った」と痛感させられた。

相馬郡の牧場で

南相馬市に入り、海岸線に案内してもらった。津波が襲った沿岸部は田圃や空き地に雑草が繁り、耕作されていない。
学校ごと避難したO中学校を訪問。(前号に同行者の投稿があり、省略)。そのあと、相馬郡の牧場を訪ねた。父親のころから苦労を重ね開拓。麦作などから酪農専業になった。牛舎には乳牛が50頭ほど。柵からのぞくと、牛たちがにゅっと近寄ってくる。
相馬郡は第1原発から50q圏。「除染が遅れ、昨年まで牧草の栽培ができなかった。除染というのも変な話。ここら辺は削るのではなく『天地返えし』という表土の引っくり返しをやっている」とのこと。いまは、輸入の牧草を使っている。やっと昨年夏に播種。この春に刈り取り、ラップして積み上げている。「私たちが子どものころ、(水戸)巌さんは、ここらへ来たとき『原発が事故を起こすと、大変なことになるんだよ』とやさしく教えていましたね。まさか、こういうことになるとは」「私ら年寄りは野菜も食べますが、息子夫婦や孫たちは地元産でない物を買って食べている。飲み水、ご飯を炊く水は水道水じゃなく、ペットボトルですよ」。
牧草の検査は大丈夫でも、かき集めるときに汚染が混ざるかもしれない。輸入物から自前の牧草に戻るのは嬉しいが、本当に大丈夫か不安があるという。こういう不安と怒りを、どこにぶっつけたらいいのか。搾ったばかりの、おいしい牛乳をいただき辞去した。

避難指示解除準備地域

いったん南相馬に戻り、第1原発の北の浪江町に家があるSさんに地元を案内してもらった。普通は入れないが、住民は「許可証」を渡されており、その車に同乗すれば私たちも入ることができる。「避難指示解除準備地域」という何とも重苦しい、やりきれない名前がつけられている。
線量計を貸してもらう。線量計には「県教組」のラベルが貼ってあった。国道を南下し浪江に近づくと、左手海側の原野(元は田畑だったのだろう)には、津波に運ばれた何台もの車が横転したまま。放射線値の高いところは手がつけられないままなのだと。車内での数値が0・1マイクロシーベルト/h(μSv/h、以下単位略)から徐々に上昇し始める。チェックポイントでガードマンに許可証を提示。許可証は「避難解除」にむけ、家の片づけ作業など入町のため発行されている。浪江町に入ったところで車内0・18。
いったん人がいなくなった町、家々は荒れていた。許可証は昼間だけ。「避難解除準備」といいながら、夜間に滞在、泊まることはできない。たまに車やパトカーが走っているが、帰っている人は見当たらなかった。人がいない、音のない町だった。
JR浪江駅前は、アスファルトの間から草が伸びていた。駅前にマイクロバスが2台、移動できないままに放置されている。駅前、車外0・86。駅のそばに震災直前に完成し、一度も使われなかった立派な町立体育館がある。自転車置き場、草むらは1・06まで上昇。移動のため車内に戻ると0・46。
Sさん宅。お父さんが丹精されていたという庭は、荒れ放題。台所は地震で食器などが散乱、避難したときのままの状態だ。「避難解除準備」といっても、誰も戻れると思っていないから片づける気にもならない、とSさんは言う。庭は線量が高く1・37。一度除染、少しよくなってまたこの数字。木苺の実が赤くなっていたが、食べるのはためらわれた。人がいなくなり、庭に鶯がきて鳴いている。
浪江中学校に行く。グラウンドは草茫々、倒れたサッカーゴール、2・91。自転車置き場に自転車が数十台倒れている。生徒たちが元気に出入りしたであろう通用口の靴箱の周りに、上履きが散乱していた。傍の側溝は驚くほどの線量、7・0から9・0(0・9ではない)あった。本来なら即刻退避しなければならない数値である。5日間で年間「がまん値」である1ミリシーベルトに達する。しかし、高いといっても急性放射能症に至る数値ではない。妙な話、ウーンこれは高いとは思うが、「すぐに退避しなければ」という実感はない。それが放射線というものであろう。
「現在3時になりました。立ち入りは4時までです。退出の準備をしてください」と町の広報放送が鳴った。「こういう状態であることが、とくに県外の人たちにはなかなか理解されないでしょうね」と、Sさん。

人影が見えないJR浪江駅前(2014年6月)

お母さん達のスペース

翌日は若いアラサー世代の女性、Nさんを訪問。彼女は郡山でイベント会社に勤めていて被災。千葉、東京に避難し、しばらく大手広告会社で働いた。政府広告や海外事業の仕事もあった。「被災地で復興に迷走しながら、政府はこんな無駄なお金を使うのか」と、退社。福島のために何かできないか。20代の女性たちと「福島を知ってもらうアイデア商品」などを製作販売している。こういう状況にも、肩肘を張っていない。繊細、しかし弱くない。気概を感じた。同行者と「われわれは、あまり融通は利かなかったなぁ」と話し合う。「私たちは、ゲバルト・デモの世代ですから」というと、彼女は「そのころ生まれていたら、私もやっていたでしょうね」と自然体で返された。
Nさんに案内され、郡山の「お母さんたちのスペース」を訪ねた。食品測定もおこなっており、彼女はたまたま貰った椎茸が「おいしそう、食べたい。念のため測定してもらう」と袋に詰める。月曜日だったが、スペースでは数人のお母さんたちが集まり測定作業や資料を整理中。子どもたちも遊んでいた。「ホットスポット・ファインダー」という、線量計とノートパソコンを結合し持って歩くだけで数秒ごと、数メートルおきに路上の線量が測定できる機器がある。マップに記入された市内の線量を見せてもらい、その高さにびっくり。市役所前の通り、0・5〜0・3という数字がズラッーと並ぶ。お母さんたちは、「こういうところで、きょうも少年野球大会があるんですよ」と表情を曇らせた。
郡山市は原発から約60qだが、数値が高い。地震の被害はほとんどなく、見た目にはふつうの町並み、暮らしがある。Nさんも「母親は郡山におり、その辺でとれた野菜をふつうに食べていますよ」と複雑な表情だった。椎茸の結果は「非検出」。「嬉しい、帰って食べます」。
後日談になるが、水戸巌さんの『原発は滅びゆく恐竜である』(注)出版にかかわる会があり、水戸さんの後輩として一緒に原発周辺の放射線値を測定してきた人が参加していた。ほとんど自前で福島の調査をおこなっているとのこと。会場から「除染の効果は。避難する方がいいのか」という、深刻な質問が出た。「うーん。難しい。答えにくい」「事故が起こる前に考えなければ。原発事故、汚染は起こってからでは遅い。消すことができない」と口籠もった。水戸さんの本に「原発の危険を知るのに必要なのは、知識ではなく論理」とある。Nさんの表情を思い出しながら、聞いた。
2泊3日の駆け巡りだったが、少しは分かって帰ることができただろうか。(博)
(おわり) 
 

(注)講演集『原発は滅びゆく恐竜である』
(水戸巌、緑風出版/ 2014年3月)