未来・第147号


            未来第147号目次(2014年3月6日発行)

 1面  戦争国家へ進む安倍政権
     集団的自衛権行使容認から改憲へ 

     県知事の裏切りを弾劾
     琉球新報・松元剛さんが報告

     『未来』の発行日が変わりました

 2面  派遣労働の全面自由化
     厚労省「労政審報告」を批判する

 3面  直撃インタビュー(第21弾)
     「地の基震い動くとき」
     反戦・反基地 沖縄と共に歩む 岩井健作さん      

 4面  評論
     「『格差』の戦後史―階級社会日本の履歴書」
     「労働者階級はどこから来てどこへ行くのか」(橋本健二著)を読む

 5面   ヤマトゥの差別性を問う
     石川一雄さん、山城博治さんが訴え
     奈良      

     印刷工房エイト
     和田多幸雄さんの死を悼む

     ヘイト対策進める門真市
     市民運動と自治体の連携で

     米韓が大軍事演習を開始

 6面  投稿
     間近に迫る監視社会
     「共謀罪」国会上程に反対を      

     市民の政治行動を監視
     危険な秘密保護法の正体
     大阪

       

戦争国家へ進む安倍政権
集団的自衛権 行使容認から改憲へ

毎月6日、秘密保護法の廃止を求め全国各地で実施中の「ロックアクション」(2月6日、大阪市内)

安倍政権の暴走が止まらない。衛藤首相補佐官の「対米失望」発言や本田内閣官房参与の特攻隊賛美発言などは単なる側近の失言ではない。その根底には安倍自身の唱える「戦後レジームからの脱却」がある。今通常国会ではそのために、「教育再生」と称して教育の国家統制に道を開き、集団的自衛権の解釈替えで「戦争のできる国家」づくりに歩を進めようとしている。ナショナリズムを煽り戦争国家化へ突き進む安倍政権の暴走を食い止めよう。

閣議決定で「改憲」

通常国会で最大の課題は、安倍政権による「集団的自衛権の行使」容認の閣議決定を阻止することである。安倍は閣議決定だけで「憲法の解釈替え」をおこない、9条を事実上破棄しようとしている。まさに戦争国家への転換のためのクーデターである。
安倍政権はその発足から1年を経て、その「極右・ナショナリスト」ぶりを全面化させている。安倍の政治信条である「戦後レジームからの脱却」とは、第二次世界大戦における「敗戦国としての日本」からの脱却ということである。そこには日本帝国主義による台湾・朝鮮・中国そしてアジア諸国に対する侵略戦争への反省は皆無である。安倍にとって日本が無条件で受諾した「ポツダム宣言」とは、「日本の主権を不当に侵害し、制限するもの」にすぎない。安倍は、「戦争の放棄」をかかげた戦後憲法と戦前の皇民化教育を否定した戦後の民主主義教育を、「日本をいつまでも『敗戦国』の地位に縛り付けている」桎梏として憎悪している。
「集団的自衛権の行使」容認とは「日本が奪われた交戦権を取り戻す」ということであり、教育再生とは「国家のためにいのちを捧げる若者を育成する」ということである。すなわち「二度と戦争をしない」という戦後民主主義の基調を全面的に否定し、「次の戦争では必ず勝つ」という体制への転換をめざすのが「戦後レジームからの脱却」の正体である。

ナチスと同じ手法

このかんの安倍政権の暴走ぶりに欧米諸国では、かつて「ヴェルサイユ条約体制打破」をスローガンに掲げてドイツの再軍備を強行し、第二次世界大戦の戦端を開いていったナチス・ドイツの亡霊を見て取り、不安が拡大している。またアジア諸国では戦前日本の軍部がおこなった、偽満州国のでっち上げ、中国全土への侵略戦争、対米・対アジア戦争を彷彿させるものとして危機感を強めている。
安倍の靖国参拝に対し、オバマ政権が「失望した」とコメントしたのに対し、「『失望』に失望した」と衛藤首相補佐官が表明したのは、個人的見解でも失言でもない。安倍が指名したNHK会長の籾井は、「(『慰安婦』問題にかんする)発言のどこが間違っているのか」と居直っている。こういう連中が政権の中枢に座って国家の大改造をやろうとしているのだ。

首相官邸独裁

安倍が集団的自衛権解釈替えの切り札として起用した小松内閣法制局長官が病気休養から復帰した。4月には安保法制懇の答申が出る。しかし安保法制懇は安倍の私的諮問機関にすぎない。このような会議には何ら正当性はない。
安倍の手法は「最後は選挙で選ばれた首相が判断する」として、選挙時の公約になかったことを実行するというものである。ここにはもはや議会制民主主義的な装いすらない。国会の論議も不要で、首相官邸独裁となる。1933年、ナチス・ドイツは「全権委任法」によって立法権や憲法改正権を内閣に移譲し、ヒトラーは絶大な権力を掌握することになった。安倍はこれと同じ道を歩もうとしている。

戦争国家化許すな

集団的自衛権について、これまで政府は「国家は自衛権を持つとされ、また密接な関係の国(同盟国)への武力行使を実力で阻止する権利を有するとされる。しかし憲法9条下の自衛権とは、我が国を防衛する必要最小限にとどまる」としてきた(『憲法答弁集1947〜1999』)。その後日米安保の再定義が進み、数々の周辺事態法・武力攻撃事態法などの有事法が制定されてきた。しかし「集団的自衛権の行使」については「憲法改正によって決着をつけないと、便宜的な解釈の変更は憲法への国民の信頼を損なう」とされてきた。
「集団的自衛権の行使」容認は自衛隊の武力行使にたいする歯止めを取り払い、戦争をおこなう権限を政府に与えるものであり、絶対に阻止しなければならない。
さらに安倍はこれと一体で、新防衛大綱の制定で「動的防衛力」のもと、対中国を意識した自衛隊の南西拠点化・敵前上陸訓練を進めている。武器輸出三原則を破棄し、「死の商人」=軍需産業の本格的な育成に乗り出そうとしている。
この安倍政権の暴走への反撃は遅れている。安倍政権打倒の戦闘的大衆闘争をつくりだそう。

県知事の裏切りを弾劾
琉球新報・松元剛さんが報告

琉球新報を掲げ、沖縄の現状を報告する松元剛さん(2月22日 都内)

〈オスプレイの沖縄配備に反対する首都圏ネットワーク〉主催による「沖縄の空にオスプレイはいらない2・22集会」が都内で開かれた。参加者は200人を超えた。
アメリカ国内や日本の本土においても許可されないようなオスプレイ等による危険な飛行訓練が沖縄では常態化している。オスプレイ訓練の一部を本土へ移転させているのは、地形的に沖縄ではできない実践的な訓練をおこなうことが目的であって、「沖縄の負担軽減」というのはまったくのペテンである。こうした訴えが司会者や主催者からおこなわれて集会が始まった。

沖縄は負けない

この日のメイン企画は、「琉球新報」編集局次長・松元剛さんによる「沖縄からの報告」。松元さんは沖縄自民党や仲井真県知事の裏切りについて言及。とくに仲井真知事は辺野古の埋め立てを承認したときに、「苦渋の選択」という枕詞さえ付けない全面転向であったことを弾劾した。沖縄県議会の百条委員会による公的な追及とともに、知事決定を覆すための闘いが続いていることが報告された。このかんの世論調査の結果や名護市長選挙で新基地建設反対を掲げた稲嶺進さんが当選したことなどに、「沖縄は転んでいない」ことが示されていると語った。1時間以上にわたる松元さんの報告は、沖縄の闘う新聞記者の真骨頂を示すものであった。
休憩をはさんで、横田や岩国で米軍基地との闘いを担っている人びとから報告を受け、集会を終えた。

直撃インタビュー 岩井健作さん 3面

長い日本基督教団・牧師としての生活を、この春閉じることになった岩井健作さん(80)。
その赴任地は被爆地・広島、基地の街・呉、岩国。神戸、横浜。神戸教会時代には阪神淡路大震災におそわれた。
自身は「左翼は嫌い」というが、キリスト教界からは異端、極左といわれてきた。
岩井センセイは臆することもなく、どこの地でも反戦、市民運動とともに行動し、多くの信徒、教会員のみなさんに信頼篤く、慕われた。〔聞き手=本紙編集委員会/2月10日、鎌倉市内〕

(お知らせ)
『未来』の発行日が変わりました

今号から第1・第3木曜発行

2面

派遣労働の全面自由化
厚労省「労政審報告」を批判する

一生、不安定雇用に

厚生労働省の労働政策審議会・労働力需給制度部会(部会長・鎌田耕一東洋大学教授)は1月29日、広範な労働組合の危惧や反対の声を押しきって、労働者派遣制度の改正について「報告書(案)」を取りまとめ、これを「建議」として内閣に提出した。これを受けて安倍政権は、労働者派遣法改正案を通常国会に提出し、この4月に成立させ、来年4月実施を目指している。
報告書は、@登録型派遣・製造業務派遣を禁止しないこと、A労働者派遣事業をすべて許可制とすること、B専門26業務という業務区分による期間制限を撤廃し、新たな期間制限制度にすること、C派遣労働者の処遇について「均衡」待遇を推進すること、D2012年改正法のうち「日雇派遣の原則禁止」について法改正をおこなわずに実施できるよう見直しを検討することなどを主な内容としている。

企業は今後、どんな仕事でも無期限に派遣労働者を活用できるようになる

「3年原則」の破壊

報告書は「派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限ることを原則とすることが適当」としながら、これと矛盾する「期間制限の撤廃」を入れた。重大なことである。
@現在3年となっている派遣受け入れ期間の上限を廃止し、3年ごとに働く人を入れ替えれば、企業は同じ職場で派遣を無期限に継続できるとしたのである。派遣の固定化、正社員から派遣への置き換えをより一層促進するものである。Aさらに専門26業務の区分を廃止。原則として1人の派遣労働者が同じ職場で働ける期間を3年までにする。労働組合の意見を聞けば4年目以降も別の派遣労働者を受け入れられる。「人」を次々に入れ替えれば、どんな業務でも期間を限定されることなく派遣労働を活用できる。まさに派遣労働の全面自由化である。これに解雇法制の緩和・ジョブ型限定社員が結びつくとき、日本の労働者環境は「競争入札される物品」のような大量の非正規雇用労働者(奴隷労働)に変えられていくのである。
派遣労働者は、3年ごとに職場をたらい回しにされ、スキルアップも賃金アップもなく、つねに契約解除の不安に怯え続けなければならなくなる。これは3年後の「直接雇用」が事実上破棄されるということだ。派遣労働者の直接雇用=正規社員の道が断たれるのである。
現在禁止されている港湾や警備などの業務についても派遣労働導入を狙っている。悪質ブローカーが跋扈し、労働組合が確保していた労働条件は次々と破壊されていくことになる。

安価な派遣労働を固定

第二に、派遣労働者の強い要求である「均等待遇」原則については、「均衡待遇の推進」「配慮する」というだけで、具体的な担保は何もない。
同じ仕事をする正社員と同じ水準の賃金を派遣労働者に保障する「均等」待遇という言葉は、報告書の本文にはもちろんのこと、付記においても出てこなかった。結局「均等」を「均衡」にすり替えて差別待遇を正当化したのである。派遣労働者の6割が「正社員として働きたい」と希望している。年齢・勤続年数を重ねても昇給しない賃金制度をなんとかしてほしいという派遣労働者の切実な声は無視されたのである。

日雇い派遣もOK

さらに報告書は、2012年の改正で原則禁止になった「日雇い派遣」について、例外的に認める範囲を広げる検討を始めることを明記した。また、「経済活動や雇用に大きな影響が生じるおそれがある」と言う理由で「登録型派遣・製造業務派遣を禁止せよ」という声を封殺した。
08年のリーマンショックによる「派遣切り」が社会問題となり、民主党政権下で日雇い派遣や登録型派遣、製造業派遣の規制について議論され、2012年に改正法が成立した。今回の報告書はこうした派遣労働規制の流れを完全に逆転させるものである。
派遣業者に対する規制について言及してはいる。派遣会社は、同じ職場で3年働いた人のために次の働き口を探すことを義務づけられる。人材派遣業者はすべて国の許可が必要となる。無期雇用派遣で違法な解雇がなされた場合は、労働者派遣事業の許可を取消すこともあるとしているが、実際には「注意」程度で済ませてしまうのは目に見えている。

労働法制の原理を破壊

連合の「声明」は、派遣労働を「臨時・一時的」とする「原則」は守られたというが、はたしてそうだろうか。
報告書の内容を検討してみると、@「労働力の需給調整において重要な役割を果たしている」(「基本的考え方」)と派遣労働を積極的に位置づけた上で、A3年終了原則(派遣先の直接雇用義務)と専門26業務という制約を外したのである。これは、「正社員の代替」としての派遣労働導入を規制するという基本原理の破壊である。
この間、「雇用改革」の名のもとで、労働法制を解体する攻撃がおこなわれてきた。安倍政権の「成長戦略」は「世界で一番企業が活勣しやすい国」づくりにとって「阻害要因」であり「岩盤」であるとして「労働法的規制」(労働組合法、労働基準法、など)を槍玉にあげ、集中攻撃対象にしている。そして、「派遣労働を『臨時的一時的な業務』『専門業務』『特別の雇用管理を要する業務』に限定する」という現行の規制体系を抜本的に見直し」(2013年5月規制改革会議雇用ワーキングG「報告書」)としてこの「報告書」が発表されたのである。
そもそも労働者派遣は、職安法第44条の例外として限定的に認められているに過ぎない。労働者派遣を一般化・永続化する今回の報告書の内容は、派遣労働についての「新法制定」ともいうべき全面的な大改悪である。それは現行の労働法体系を破壊する〈刃〉である。

雇用改革の正体

「雇用改革」キーワードとして使われているのが「正規・非正規の二極化の脱皮」「失業なき労働移動」「多様な働き方」である。具体的な数値目標も掲げられている。「失業期間6か月以上の者の数を今後5年間で2割減少(2012年151万人)、転職入職率(パートタイムを除く一般労働者)を今後5年間で9%(2011年7・4%)2020年の20歳〜64歳の就業率80%(2012年75%)」というのものである。このことは何をもたらすのか。
結論的に言えば、労働者を次から次へと解雇し、被解雇者には失業給付を受給するいとまもなく速やかに非正規雇用労働者に「移動」させる。「正社員の雇用責任」から資本を解放し、いつでもあのリーマンショックのときにやった「派遣切り」ができるような雇用環境を企業に提供しようというのである。

「派遣村」の再来

08年年末、日比谷公園の一角で、仕事と同時に住むところも奪われ、食事も満足に取ることができない状態で寒空に放り出された派遣労働者を支援するために、多くの労働者が駆けつけた。「年越し派遣村」に、厚生労働省も講堂を解放して対応にあたったのである。
こうした派遣労働者の実情は日本社会の矛盾を可視化し、「ワーキングプア」という、働いていても生活できないような低賃金で無権利、不安定雇用の労働者群の存在を鮮明にしたのである。これが常態化しようしている。
「派遣は簡単にクビにされる。そんな働き方が増えていいのか」。愛知県内の自動車部品工場で期間工として働くKさん(48)。2度の「派遣切り」を経験した。長野県の高校を卒業後、大手電機メーカーで正社員として8年働いたが、トラブルで退社。2001年から、派遣社員として群馬や埼玉の自動車部品工場などで働くようになった。景気の良いときは夜勤や残業も多く、月25万円ほど稼いだ。だが、電子部品工場で働いていた08年秋、リーマンショックで「来月で終わりです」と担当者に言われた。やっと見つけたクリーニング業の派遣では生活できず、週末に運送業のアルバイトをして食いつないだ。 2度目の「派遣切り」は11年3月、東日本大震災が起きた時だ。自動車部品工場で働いていたが、ほかの派遣社員130人とともに集められ、雇い止めを通告された。「経営の先行きが不透明」というのが理由。「派遣はまさに雇用の調整弁だ」と思い知った。 派遣の仕事は寮付きの場合も多い。住む場所を失う恐怖がつきまとう。今の期間工の仕事を見つけることができたが、結婚して家族をつくることは、もうあきらめたという。 「派遣は景気が悪くなれば、一斉に職と住まいを失う。また『派遣村』のようなことが起きる」

派遣法廃止へ大闘争を

安倍政権は産業競争力会議や規制改革会議などを立ち上げ、「日本再興戦略」のもと金融緩和に続く「成長戦略」をうちだした。その目玉に法人税の引き下げと労働法制の規制緩和を置いている。既に「特区」法を成立させ今国会ではこの派遣法改悪を成立させるとしている。
製造業や事務の3年派遣は増加している。2012年6月1日時点の派遣労働者は約135万人(派遣先別では、秘書や通訳など「専門26業務」は約59万人)だが、この改正はこれをピークだった08年の約202万人を超えてここ5年間で女性、高齢者、外国人労働者の導入も含め1000万人台にもっていくのが狙いである。日本の労働環境の「風景をかえる」(竹中平蔵)のである。まさに全労働者の課題であり、「国民的」な大問題である。
「世界で一番企業が活動しやすい国」のために労働者を「生け贄」にしようというのである。この大改悪は労働法の基本を破壊する、実質的な改憲攻撃でもある。労働法へのこの刃に、〈労働法決戦〉をもって派遣法大改悪案の国会上程を阻止しよう。派遺労働の全面自由化を阻止しよう。派遣法廃止を闘おう。
(森川数馬 2月27日脱稿)

3面

直撃インタビュー(第21弾)
「地の基震い動くとき」
反戦・反基地 沖縄と共に歩む 岩井健作さん

岩井健作さん

「ダメな牧師ですね」

―56年の牧会〔注1〕生活を終えられ、印象に残ることは

岩国時代、年配の女性の熱心な信徒さんから「あなたは、本当にだめな牧師」といわれた。30歳すぎ、いちばん元気でやる気のあった時。「4代続くキリスト教の家に生まれ、牧師2代目。キリスト教のことはよくおわかりでしょう。それで完結ですか。私たちは封建意識に囲まれ、様々に家庭の問題もある。社会の矛盾に押しつぶされそう。魂の救いを求め洗礼を受けたのに」と縷々言われた。「新しく来た牧師さんに期待していたが、けっきょくキリスト教イデオロギーの人ですね」といわれました。
聖書のヨハネ伝に「一粒の麦が地に落ちても死ななければ、一粒のままである。死ねば、多くの実を結ぶ」という言葉がある。イエスもそうですね。「十字架の死と復活の命」という信仰の真理です。彼女は気負って言ったのではない。困り、すがりたい気持ち。「キリスト教という、その自負がだめ」。人間は、何につながって生かされているか。彼女との出会いは大きかったですね。
それから、教会の幼稚園に自閉症の3歳児がきました。まだ「自閉」ということも、知られていなかった。お母さんが「どこも預かってくれない」と。多動があり手に負えない状態でした。園の先生方からも「そんな難しい子はできません。園長先生おやりください」と言われた。ぼくは朝から晩まで、その子を追っかけ回していましたね。教会の仕事も何もできない。しかし、「いいじゃないですか」と言ってくれた人がいた。教会は1人の子のために、あっていい。そのうちに園の先生が「園長先生お困りだから、お手伝いしましょう」と、クラスに入れてもらった。「園長先生も、私のクラスに入ってください」という条件がありましてね。「新しいお友だちです。康明ちゃんと健作ちゃんです」と紹介される。子どもたちは「なぁんだ、園長じゃないか」と言う。「いいえ、康明ちゃんと健作ちゃんです」ということになり、1日中保育室にいましたね。他のお母さんたちにも、理解をお願いしました。
その子が小学校に入っていじめに会う。幼稚園でいっしょだった子らが、「おい、やすあきをいじめるな」と応援してくれた。当時、統合保育という言葉はありましたが、現場にはまだ届いていませんでした。
お母さんは、康明くんの勉強にも必死でした。だけど北風を吹かせても、康明くんは心を開かない。ぼくは、「北風と太陽」の話をしてね。お母さんは、ぽろぽろ泣いていました。幼稚園の園長などそのときだけ。お母さんは、一生背負っていく。太陽の話は正しいでしょう。そんなことをいう園長は何者だ。お母さんの涙。北風というのは、話している私ですよ。共に生きるということを教えられました。
岩国ではベトナム反戦の米兵〔注2〕に出会った。突然、知らない青年が教会にきて「ちょっと手伝ってほしい」と。官庁に勤めていた人でした。米兵のアジトに連れていかれました。彼は英語ができないのに支援するという。私も片言の英語。「これは反戦新聞だ。印刷するところがほしい」と。「兵士である前に、人間でありたい」「あなたは私たちを手伝って自己満足しないで。日本をよくするもっと大事なことをやってほしい」と言っていた。そんなことをいう兵士がいるのか、びっくりし感心しましたね。彼らは、ベトナム戦争で酷い目にあっていました。米軍が「ベトコン」といった解放戦線〔注3〕は、黒人を狙わず白人を狙ってくる。後ろからは、味方の将校が脅しに撃ってくる。
脱走した兵士を、友だちから友だちに渡すという運動がありました。逃げきれない場合、基地に自首する。捕まると営倉入り、本国に送られ裁判。でも「ぼくたちの運動は終わらない」と彼らは言っていた。いま考えると、彼らは理性というよりも生理的に運動していましたね。だけど「起ち上がるとき」は捨て身。彼らと接して「世界も捨てたものじゃない」と思った。戦争をとめた喫茶店といわれた「ほびっと」〔注4〕の中川六平さんのことも、大きな出会いでした。同志社を休学して岩国にきてね。
この三つの出会いは、その後の私の導きになりました。キリスト教も一つのイデオロギー。ぼくも若きイデオローグでしたから。そうならないように批判的聖書学を学び生きてきたつもりですが、それにしてこの様です。遅々たる歩みです。

沖縄・座喜味城祉から楚辺通信所(象の檻)を望む(2000年7月31日 岩井健作作画)

個として立ち、繋がる

―基地、核付き沖縄返還協定から、今に至る40余年。岩国も艦載機やオスプレイの本土拠点化という状態です

基地を押し付け、知らんふりをしている。アメリカの日本への、日本の沖縄への植民地主義。それは沖縄の課題であると同時に、日本と日本人の問題です。宗教では「罪責」という。倫理的な意味で人間の、相手に対する責任を自分が自覚することを大事にします。 沖縄との関係史における日本人の罪責。沖縄や福島を語るとき「犠牲の構造」というと、ちょっと違うと思う。「犠牲」ではなく、「犠牲にしてしまった罪責としての自覚」。犠牲というと客観的。沖縄の人たちは「どこにも基地はいらない」と言ってくれるが、「基地は本土に持って帰れ」と言う人たちもいる。本当には持って帰れない。「構造的差別」ともいわれます。差別される側が使うのはそのとおりです。しかし、私たちが「犠牲」と言ってはならないと思う。その罪責。
昨年1月にオール沖縄で政府へ辺野古新基地反対「建白書」を提出、それへの政府対応やヘイトスピーチを受けて以来、独立論をいう人が増えた。一方で、日本人に対する批判的主体としてわかるまで批判していくという立場の人もいます。それは、分離していない。私たちの側には、目覚めなければならない罪責がある。返還のときの「教団合同をとらえなおす」とりくみは、そこからでした。「知らんふり」は、もうできない。
それを沖縄との関係史のなかで自覚してこなかったことは、戦争責任の所在をあいまいにしてきたことと同一線上にあるでしょう。天皇を免罪してはならなかった。一人ひとりが自覚し戦争の問題、日本軍慰安婦問題を、「天皇の責任」まで追い詰めなければ。『ヤマザキ、天皇を撃て!』の著者・奥崎謙三の方法がいいか悪いかともかく、個の責任と天皇の責任を同等のところにおいて「撃った」ことに意味がある。本質は、そこにある。それを日常に生かし、運動の思想化、普遍化をおこなうという営為が求められます。
反基地、反戦、脱原発、環境など様々なテーマがあるが、基本的には戦争に加担しないという人間の倫理の問題にまで遡る。政党、党派になると、倫理までは遡らない。組織の論理に還元してしまう。みな同じことをいい、「党のため。党で決めたから」と個の意志はあやしくなる。個の責任から逃れてしまう。
個人の力はそれほど強くはないかもしれない。しかし、つながる人々は無数にいる。脱原発、沖縄、反権力・反弾圧と限りない。個として立ち、同時に「つながる」通路を持った個である私たちでありたい。思想の批判、批判の思想ぬきにはできないが、運動は思想がやっているわけではなく、運動のなかの個が思想をつくっていく。

―沖縄戦、ヒロシマ・ナガサキ、戦後の安保、高度経済成長と振り返るチャンスはありました。神戸のとき、阪神淡路大震災。その16年後に、東北、福島でした

いずれも日本近代史の延長線上に起こったこと。沖縄、原子力ムラの構造、三里塚も、そういうなかにあったし、いまもある。日本の近代の価値観は、単純にいえば「お金」ではないか。戦前は富国強兵、戦後は高度成長、そしていま「アベノミクス」。それを権力と教育、報道などが増幅させる。目覚める層は、徹底的に弾圧する。敗戦のとき「悔しい」という教師が多くいた。中学校に行くと、今度は「お前らは民主主義がわからんのか」と言われた。かくも続く「人間不在」の近代史。自分たちの戦争責任を一つ一つけじめをつけていく。一度にでなくていい。一度にというのは観念的になってしまうと思う。
阪神大震災のとき、小田実は「これが人間の住む国か」といった。東北、福島でも言われている。その現実を批判的に捉えていきたい。政治レベルの問題はあるが、根本は個。個々人が歴史や状況に対する自分の責任、自覚をもって生きていくこと。白紙委任してしまうような状況も生みだされているが、一方では困難な状況に混沌としながら、福島後、個を基礎とした行動が芽生えてきているのではないか。

三角から丸の思想へ

―「左翼」については、どのように

いわゆる「キリスト教」も、いわゆる「左翼」も嫌でしたね。宗教・キリスト教と左翼は似ている。自分たちに合わせ、「枠で囲う」という考えは同じ。本当は、そこに生きている人間の自立が問題です。「左翼」は、そういうところが意外とだめなのでは。
ぼくは「三角から丸の思想へ」と思っています。三角というのは、底辺があり頂点がある。いつの時代も底辺は喘いでいる。どんな小さな三角も権力を生む。個は大事だけど個ということだけいうと、かならず三角に組み入れられる。丸の思想というのは共同性、つながりです。三角をぶち壊す個とは、自己を相対化する共同性ということでしょうか。個と丸の共同性をどうつくるか。「左翼」の人たちに考えてほしいことですね。

〔注1〕信仰と生活を導くこと。
〔注2〕1960年代から70年代前半、最大時50万の米軍などがベトナムに侵攻。全世界にベトナム反戦運動が広がった。
〔注3〕南ベトナム解放民族戦線に対する米軍やマスコミによる蔑称。
〔注4〕『ほびっと 戦争をとめた喫茶店』(中川六平・講談社 参照)

【いわい けんさく】
1933年、岐阜県生まれ。日本基督教団教師として広島、呉、岩国、神戸、横浜の教会で56年間牧師を務めた。各地で市民運動に参加。阪神淡路大震災で、ばらばらにされた地域を目の当たりに。その体験から「みんな集まれる震災銭湯」の運動をすすめた。「沖縄から米軍基地撤去を求め、教団『合同とらえなおし』をすすめる連絡会」世話人代表

4面

評論 『格差』の戦後史
「『格差』の戦後史―階級社会日本の履歴書」「労働者階 級はどこから来てどこへ行くのか」(橋本健二著)を読む

はじめに

1月31日、総務省は昨年平均の労働力調査を発表した。
被雇用者全体に占める非正規雇用労働者は1906万人で、前年比1・4ポイント増加し、36・6%となり、過去最高を更新した。15〜34歳のフリーターは182万人で全体に占める割合は前年より2%増加した。男性は84万人で、女性は98万人だった。
深刻化する格差問題についてどのようにとらえるべきか。ここでは橋本健二氏(理論社会学)の『「格差」の戦後史―階級社会日本の履歴書』(2013年増補)と論文「労働者階級はどこから来てどこへ行くのか」(『現代の階層社会2』所収2011年)を取り上げて、検討してみたい。
戦後日本資本主義の発展過程で日本の階級構造がどのように変化したのか、特に、アンダークラス(日本語訳:階級以下)発生の経過・原因と実情の研究は学ぶべきところがある。

階級図式

著者の階級認識は、労働者階級を三分解し、上層部を新中間階級、最下層をアンダークラスとするものである。三分解は妥当な判断だと思うが、新中間階級から大企業マニュアル労働者(ブルーカラー)までを搾取者階級としているのはいかがなものであろうか。年収の格差を基準にした階級認識は現象論に流れているきらいがあり、マルクス主義的な階級論の見地からすれば問題が多い。
著者は従来の階級認識は資本家階級、小ブルジョア中間層、労働者階級の三階級(階層)図式であり、現在の階級関係を表現できていないと批判する。そして@資本家階級(従業員5人以上の経営者)、A新中間階級(被雇用者のうち専門・管理・男性事務員・課長以上の役職者)、B旧中間階級(従業員4人以下の経営者、農民、自営業者)、C労働者階級(非正規雇用の男性事務員を含むマニュアル職労働者)の四階級図式を設定している。その後、労働者階級の中にアンダークラスを設けて五階級図式にしている。

アンダークラス

著者はアンダークラスが社会問題になり始めたのは90年代で、その起点は80年代の経済変動にあるとみている。80年代は高度成長期が終わり、労働需要は減少し、失業者が増加した。中小零細企業労働者の賃金水準は抑制され、大企業労働者との格差が拡大した。
80年代半ばから急速に円高が進み、輸出企業は省力化・コスト削減、生産拠点の海外移転、下請け単価の切り下げなど下位転嫁によって危機乗り切りを図った。80年代後半には地価(91年ピーク)・株価(89年ピーク)が上昇し、景気が好転し、雇用が拡大したが、企業は非正規雇用労働者の雇用で解決を図った。85年から90年の5年間で、正規雇用は145万人増加したが、非正規雇用は226万人も急増した。その後非正規雇用労働者は毎年48万人のペースで増え続けた。
このような非正規雇用労働者の増加は自然に起きたものではなく、86年には労働者派遣法が施行され、99年には派遣の範囲が原則自由化され、03年には製造業への派遣を解禁することによってもたらされた。
95年から05年の10年間で、日本の貧困率は零細企業労働者で8・0ポイント増、非正規雇用労働者で6・8ポイント増、無職で8・3ポイント増となっており、全体の平均4・3ポイント増を超える上昇を示している。ちなみに05年の非正規雇用労働者の貧困率は29・2%である。〔注1〕
日本の貧困層は92年の1152万人から02年には42%増の1634万人に達し、その内、有職の貧困層(ワーキングプア)は459万人から16%増加し、534万人になった。〔注2〕

アベノミクス

著者は05年までの統計データを分析して上記のような結論を出しているが、その後どのように推移したのか。とくにアベノミクス下のアンダークラスはどうなったのか。 05年の正規雇用は3380万人で、13年には3294万人へと2・5%減少し、他方、非正規雇用は1669万人から1906万人へと14・2%増加し、全雇用者数の31%を占めるようになった。
05年のフリーター(15〜34歳)は201万人で、全体に占める割合は6・2%だったが、13年のフリーターは182万人で、前年より2%増加し、6・8%と過去最大になった。
アベノミクスのもとでも、労働者は不安定な非正規雇用を強いられ、結婚もできない青年たち、子どもを持てない家族が増えている。アベノミクスによる金融緩和で株や不動産は値上がりしても、アンダークラスの賃金は上がらない。結局、インフレと消費税増税は年収200万円の貧困線以下で生活する人々に死ねと言うことだ。

資本家階級

橋本氏による4階級図式で戦後日本の階級構成を見ると50年代は@資本家階級2%、A新中間階級11%、B旧中間階級58%、C労働者階級28%となり、00年代では、@8%、A19%、B13%、C59%に変化している。
ここで違和感を感じるのは00年代の資本家階級が8%という数字である。著者の四階級図式では、従業員5人以上の零細企業の経営者を巨大企業の経営者と同一視している。自営業者に毛の生えた程度の零細企業を資本家階級に加えることが妥当な基準になるのだろうか。むしろ階級関係(対立)を曖昧化する効果を果たしているのではないか。加えて専門的な技能・資格・地位を生産手段と見なし、新中間階級のかなりの部分を「搾取する側」としている。
企業の規模別分類は一般的に大企業(従業員300人以上)、中小企業(同30〜299人)、零細企業(同1〜29人)とされている。(大企業1000人以上、中堅企業100〜999人、中小企業30〜99人、零細企業1〜29人という分類もある)。
日本の企業総数は421万社あり、大企業は1・2万社(0・3%)、中小零細は419・8万社(99・7%、うち零細企業は87%)である。全従業員数は4013万人あり、大企業は1229万人(31%)、中小零細は2784万人(69%、うち零細企業は23%)である。製造業付加価値額は108兆円で、大企業は50兆円(47%)、中小零細は57兆円(53%)だ。
わずか0・3%しか占めない大企業の製造業付加価値額は50兆円(全体の47%)に達しており、99・7%の中小零細企業の付加価値額は57兆円(53%)にしかならない。たった1・2万社(0・3%)の大企業が日本の生産額の約半分を占めているにもかかわらず、中小零細企業経営者を含めて資本家階級とし、資本家階級の個人年入が760万円(05年)とはじき出すのはかなり問題がある。
日本経済を動かしている資本は0・3%の大企業であり、階級対立の構図は大資本対労働者階級とすべきであろう。企業総数のうち、零細企業(1〜29人)は87%を占めているが、これは資本家階級としてではなく、旧中間階級としてみるべきであろう。企業の規模別統計がないからといって、大企業経営者も零細企業経営者も一緒くたにして資本家階級とするのは間違いではないだろうか。資本家階級から少なくとも従業員29人以下の零細企業経営者は除外して、旧中間階級として問題を立てるべきだろう。
著者の分析は国内経済関係に限定され、資本の国際的運動についてはまったく無関心である。資本が国内の労働者からも、海外の労働者からも収奪している点を見落としてはならない。

新中間階級

著者は新中間階級をクローズアップし、資本家階級+新中間階級を現代の支配階級(搾取階級)とし、新中間階級の高収入を労働者階級(とくにアンダークラス)からの収奪としているが、はたしてそれでいいのか。
新中間階級はもともと労働者階級の一部を構成し、専門的な技能、資格、地位によって資本の尖兵としての役割を買われた階層に過ぎない。その故に一定の高収入を得てはいるが、だからといって搾取階級だというのは現象論ではないか。
55年、65年の資本家階級の収入額は新中間階級の2倍であるが、95年、05年の資本家階級の収入は新中間階級の1・2倍程度に縮まっている。もともと、資本家階級を零細企業経営者にまで拡大することによって、資本家階級の個人収入額が押し下げられているのに加えて、資本にとって有為な人材を確保するために、買収資金としての賃金を引き上げたことにより、両者の格差が縮まったにすぎないのだ。収入の多寡を基準にして、階級を考えることは現象論以外の何ものでもない。

労働者階級

労働者階級の社会的移行は橋本論文の主要テーマであり、とりわけアンダークラス(「階級以下」)形成の実態把握は学ぶべきところが多い。
著者が主張する「現代の階級理論」では、資本家階級と新中間階級(の高収入)は国内の非正規雇用労働者から搾取しているとしている。ここでは、資本が海外に進出し、搾取し、富を蓄積していることは問題にもされていない。著者は資本家階級と新中間階級をひとくくりにし、さらに「大企業の正社員はたとえマニュアル労働者(ブルーカラー)といえども搾取側に変質した」とし、自信なげではあるが、資本家階級の側に位置づけようとしている。
技能・資格・地位を生産手段と考える必要はない。経営に都合よい能力を持つ労働者を労働者階級から引きはがし、資本の尖兵にし、利潤のおこぼれを余計に与えていると考えればよい。そのことによって新中間階級と一般の労働者との間に深刻な矛盾と格差を引き起こしているのである。
アンダークラスとの賃金格差を根拠にして、大企業マニュアル職までも搾取階級とする考えは資本主義の本質はもちろん現実をも見失う危険性が高い。

われわれは99%

著者は『「格差」の戦後史』を、「さまざまな制度や政策が、どのように格差に影響するのか、そしてわれわれはどのような制度や政策を選択すべきなのか・・・本書では、こうした政策論について論じることを禁欲しておきたい」と締めくくっている。
格差や貧困の問題は資本主義生産体制そのものに原因があり、制度や政策を手直しすれば解決するような問題ではないことは著者自身が気づいているはずだ。圧倒的少数による生産手段の所有と圧倒的多数の無所有(We are the 99%)の矛盾を抱えているのが資本主義である。この矛盾を止揚することができるのは労働者階級である。その使命は、自らの力で資本主義社会を転覆し、共産主義社会の実現にむけて社会全体の生産を組織することである。(田端登美雄)

〔注1〕貧困率には@最低必要生活費を元にする方法と、A所得中央値の半分を基準にする方法がある
〔注2〕貧困層:貧困線以下で労働する人々。年収200万円以下。

5面

ヤマトゥの差別性を問う
石川一雄さん、山城博治さんが訴え
奈良

「オール沖縄」の闘いを報告する山城さん(2月23日 奈良市内)

「大和(奈良)からヤマトゥの差別性を問う」連帯集会(主催 同集会実行委員会、共催 沖縄平和運動センター)が、 2月23日に奈良市の県人権センターでおこなわれた。狭山事件で殺人犯にデッチあげ逮捕された石川一雄さん、沖縄で基地建設に反対して闘う山城博治さん(沖縄平和運動センター議長)、大阪市の放射能汚染震災ガレキ焼却受け入れに反対した件でデッチあげ逮捕された下地真樹さん(阪南大学准教授)、この3人の講演とパネルディスカッション。集会には奈良、大阪、京都から150人が駆けつけ、ともに連帯と団結を固めた。
集会のはじめに、共催団体の沖縄平和運動センターから、大城悟さん(同事務局長)があいさつ。大城さんは名護市長選について「もう補助金にはだまされない。市民の民意が示された」と総括した。主催者を代表して淺川肇さん(ハッキョ支援ネットワークなら)は、「それぞれの課題を一体的に、自分自身の課題として闘う必要がある」とあいさつ。

無実晴らし自由の身に

石川一雄さんは「狭山第3次再審の現状と再審実現にむけた課題。無実を訴え続けて50年」と題して講演した。@兄が犯人だと思い自分が身代りになった事、A無実を訴えるために獄中で字を学んだこと、B「生きた犯人を捕まえろ」という国の方針のもと自分を含め部落民4人逮捕されたこと、Cいまだ仮出獄の身であり、いろいろ制約があること、無実をはらして初めて自由の身になること、そのためには再審を勝ち取ることが必要であること、D「あと30年生きて、皆さんに恩返しをしたい」と石川さんは訴えた。

再審実現を訴える石川一雄さん

オール沖縄のたたかい

山城博治さんは「沖縄基地問題の現状とこれからの闘い。普天間・辺野古・高江・与那国島」と題して講演した。山城さんは、次のように述べた。沖縄では保守対革新の対立ではなく、国の戦争政策にたいして再び「虐殺の島」にされてしまうという沖縄県民の危機感(オール沖縄)が対立している。
その上で、ヤマトの闘う人びとは「基地はどこにもいらない」と言う。しかし、一方で沖縄の米軍基地の現状はなにも変わらない。沖縄の人々は「基地の犠牲になるのはもういやだ」「基地は県外に」と言っている。この事をどう考えるべきかを提起した。

国家による分断許さず

下地真樹さんは「法の暴力に抗し、法の理念を守ろう。がれき広域処理反対に対する弾圧とは」と題して講演。下地さんは、がれき受け入れ反対行動の意義を総括しつつ、「国は法にもとづいて暴力を行使する。ウソをつく国に法を語る資格はない」と述べた。
その後、この講演を受けて、次の様なテーマでパネルディスカッションをおこない、論議を深めた。@当事者としての闘い、A「世論」の感触と闘いの展望、B分断攻撃に対して団結を、いかにして自分自身の課題として闘うか。 国家は危機になれば、「国策に従うのか、従わないのか」という形で人民を分断する。安倍政権になり、この攻撃はますます激しくなるだろう。自分自身の課題として闘うことは、言い換えれば「国家の分断攻撃に対して、いかに団結を取り戻し闘うのか」という事だろう。集会参加者は、3人の訴えに耳を傾け、安倍政権との闘いに展望と決意をかためた。 集会には、糸数慶子さん、照屋寛徳さん、山内徳信さん、山本太郎さん、宇都宮健児さんからメッセージが寄せられた。

印刷工房エイト
和田多幸雄さんの死を悼む

本紙『未来』の印刷を一貫してになっていただいた印刷工房エイト社長の和田多幸雄さんが、2月6日、突然亡くなりました。『未来』145号の印刷を終え納品が済んで間もなくのことでした。私たちは訃報を知らず、2月17日に146号の印刷を依頼に行ったとき、この突然の不幸を知り、驚き、悲しみにくれました。そして彼を慕う人や仕事を通じて顔見知りの人が集まり、彼がやり残した仕事をしようと、各種データの後片付けをおこないました。享年65。まだまだ働ける歳でした。
和田多さんは島根県出身で、大阪に出てきてから70年安保闘争を反戦青年委員会で闘いました。その後、印刷の仕事について経営もおこなっていました。ヘルメットの色こそ違っていましたが、80年代以降は私たちの闘いに数々の協力をしてくれました。その縁もあり、私たちが『未来』(最初は『革共同通信』)の編集・発行を始めるにあたって相談にうかがうと、快く印刷を引き受けてくれました。最初は編集もおこなってくれました。短期日の納期など私たちの無理難題の要求にも嫌な顔ひとつ見せずに、一人で淡々と仕事をこなしてくれました。
折からの印刷業界の不況で、同業者の倒産・閉鎖が相次ぐ厳しい経営の中で、『未来』や『展望』の部数が増えることを喜び、おたがいに夢を語り合ったものでした。和田多さんは、職場が近かったこともあって、関西電力本店前の抗議行動にも時おり足を運び、70年闘争とは少し様相がちがう3・11以降の社会運動の発展に思いをはせていました。また大阪府警による不当弾圧には心から怒っていました。
かけがえのない人を突然失い、私たちは本当に悲しみでいっぱいです。彼を通じて知り合った人びとによって、立場や考えはちがいはありますが、3月末にしのぶ会をおこなうことになりました。和田多さん。本当にありがとうございました。あなたが育ててくれた『未来』をこれからも見守り続けて下さい。
和田多幸雄さん。これからは切迫した納期もありません。心静かにゆっくりお休みください。2014年2月末日
 『未来』編集委員会

ヘイト対策進める門真市
市民運動と自治体の連携で

門真市の先進的な施策の意義を語る戸田ひさよしさん

2月21日、「自治体行政におけるヘイトスピーチ勢力への規制〜門真市における対ザイトク先進施策の報告説明会」が門真市庁舎においてひらかれ、自治体議員、行政職員、報道機関、ジャーナリスト・研究者、市民など55人が参加した。主催は、門真市議・戸田ひさよしさん。

全国初の自治体研修会

大阪府門真市(人口13万人弱)においては、戸田議員の奮闘により、全国で唯一、市当局が「住民の安全と尊厳を守る行政責務を果たす」ことを明言し、 ザイトク対策に毅然として取り組んでいる。この日は、門真市での先進的施策の実際を知ってもらい、この先例を全国に広めるために報告説明会を開いた。
冒頭、市職員の研修に使用しているビデオ(8分)が上映され、どのようにして門真市がヘイトスピーチ勢力の活動を規制することができるようになったかを戸田議員が説明し、どこの自治体でも同様のことができることを強調した。排外主義とたたかう市民の運動と連携し、議員の力を活用し、前例をうまく使えば、不可能ではないと自身の活動を紹介した。
次に、門真市の総務部管財課、市民部人権政策課、教育委員会学校教育課などから施策の中身の説明がされた。
質疑の後、龍谷大学法科大学院教授の金尚均(キム・サンギュン)さんが「ヘイトスピーチ・ヘイトクライム問題と、それへの対策〜自治体行政などについて」と題して講演した。

対ヘイトの地域体制を

「自治体行政の施策として反ザイトクをやる」とは具体的にはどういうことか。戸田さんは語る。自治体レベルでの規制を、「自治体での反ヘイト・人権条例の制定」運動に考えてしまうと、「条文検討・議会過半数の同意必要=いつまでたっても制定出来ない机上の空論」に陥ってしまうだけ。30数年に渡る同和人権行政はどこへいったのか。自治体行政でこれまでの同和人権行政を適用する事が、ザイトク封じに最も実効性・即効性のある対策だ。そうすれば、行政のホームページ、広報を用いて、その自治体の何万、何十万の住民すべてに啓発できる。学校での教育指導や社会人教育として実施できる。民間委託も含めた全職員に反ザイトクの職員研修を継続できる。地元警察を人権行政への支援勢力として活用できる(警察にザイトク支援をさせない)。ザイトクに会館・公園・道路を使用させない。こうして、恒常的にザイトクの行動を封殺する地域体制を作ることができる。

〔注〕ザイトクとは、戸田議員の造語で、民族差別暴力を得意がる在特会などのヘイトスピーチ・ヘイトクライムをくりかえす勢力のこと。

米韓が大軍事演習を開始

2月24日、米韓両軍は2つの軍事演習「フォールイーグル」「キー・リゾルブ(重大な決意)」を開始。「フォールイーグル」は、米軍1万3千人、韓国軍20万人が参加し、韓国全土で展開される野外機動演習で4月18日まで。「キー・リゾルブ」は、米軍5200人、韓国軍1万人が参加する指揮命令系統中心の演習で3月6日までおこなわれる。これにたいし、朝鮮民主主義人民共和国は、国連特別委で「わが国を攻撃目標にする大規模軍事演習」と抗議した。

6面

投稿
間近に迫る監視社会
「共謀罪」国会上程に反対を

2月12日、衆議院第二議員会館で行われた「共謀罪創設反対を求める院内学習会」に参加した。
学習会に先立ち、破防法・組対法に反対する共同行動の朝からの情宣・アピール行動に加わり、2月14日の「秘密保護法廃止! 共謀罪・改悪盗聴法国会上程阻止! 総決起集会」のビラを永田町駅などでまいた。
学習会の始めに、日弁連副会長の房川樹芳弁護士があいさつ。「国連が越境組織犯罪対策にこうした法律が必要と言っているが、日本ではこれまで廃案にしてきた。しかし昨年秘密保護法が通った。その中で、共謀罪に係る規定も通った。共謀罪が出てくる素地ができつつある。日本の担当者が国際会議で『共謀罪を作る』と言っている。秋にも上程される可能性が高い。秘密保護法の制定を踏まえて足立先生に話してもらう。時宜にかなった話になる。日弁連の共謀罪等立法対策ワーキンググループを対策本部に改組することを検討している。実りのあるものになる」。
次に、学習会の司会でもあるワーキンググループ副座長の山下幸夫弁護士から経過報告がなされた。

上程阻止のたたかいを

「ほとんど議論らしい議論がなく秘密保護法ができた。スパイ防止法などの国会の議論を知らない議員が多い。与党多数の中では(共謀罪が提出されれば)簡単に通るのではないか。
昨年8月、FATF(マネーロンダリングに関する金融活動作業部会)の高官が来日して『法整備をきちんとやれ』と言ったらしい。警察庁や外務省の強い意思で法案が出されようとしている。一旦国会に出れば議論なく通ってしまう恐れがある」。

室内盗聴まで合法化

次は関東学院大学法学部教授の足立昌勝氏が講演。
「共謀罪は刑法を変えてしまう。一回(国会に)出てしまうと成立してしまう可能性が非常に高い。特定秘密保護法でも、未遂の漏示罪・取得罪の共謀が5年以下の懲役。提供される側も同じく3年以下の懲役になる。これまでは共謀行為の処罰は1884年太政官布告で定められた爆発物取締罰則、(01年に防衛秘密の概念と処罰規定を設けた)改正自衛隊法96条2項、122条4項だけだった。
共謀の処罰がいかに危険か。罪刑法定主義を唱えたイタリアの刑法学者チェーザレ・ベッカリーアが著書『犯罪と刑罰』の中で『犯罪の尺度は、社会に与えた損害である』と唱えている。犯罪の既遂には処罰がある。未遂は(人権や公共の利益を)侵害しないかどうかが法律の要件に規定してあれば罪になりうる。殺人罪には予備罪がある。ただ考えているだけなら人権侵害はありっこない。
器物損壊は懲役3年以下なので『懲役4年以上の犯罪を対象とする』としている共謀罪には該当しないが、殺人・窃盗・建造物損壊等、すべてが共謀罪の対象犯罪になる。窃盗は予備罪がない。準備をはじめて(摘発されて)も無罪なのに、共謀だけでどうして罪になるのか。その根拠はどこにもない。
共謀を取り締まるためには室内盗聴は不可欠。ドイツでは住居不可侵の条項が憲法にあってできなかったが、88年に憲法を変えてやっと認められた。日本の法制審の議論でも最初は『室内盗聴はだめだろう』と言われていたが、どんどん認められそうになっている。政府を監視しないと通ってしまう。安倍内閣のファッショと対決しなければならない」。

暗黒社会への突破口

つづいて共産党の仁比聡平議員が発言。 「秘密保護法成立の暴力的強行の後、安倍政権が何が何でも一年以内に施行しようとしていることを直視し、断固として廃止しなければならない。廃止法案を超党派で出す。共謀罪の提出反対と結んだ力にする。
秘密保護法は『令状主義』違反だ。法に触れたとして出される令状にも判決文にも具体的な内容が書かれない。個別の秘密は外部のチェック機関には見せない。 暗黒社会への突破口が開かれようとしている。共謀罪は06年に、危ういところまで行った。しかしメディアにも『共謀罪はおかしい』という認識が広がっていく中で廃案になった。秘密保護法も共謀罪も憲法も正念場。みなさん一緒に頑張りましょう」。

目配せだけでも共謀

福島みずほ議員も次のように訴えた。
「秘密保護法の論点について議論した。二人以上の会議で共謀となり、市民もジャーナリストも対象に含まれる。こんなに早い段階で共謀で処罰するのかと担当大臣の森まさこ氏に聞いたら『今まで(改正自衛隊法の共謀規定で)処罰はない』と言っていて、本当にあきれた。
06年、みんなの力で共謀罪を押し返した。『目配せだけでも共謀が成立する』との答弁があった。(共謀罪での)処罰範囲の拡充、通信傍受法の拡充の問題がある。(反対の闘いを)しっかりやっていきたい」。

戦争準備三法

質疑応答を経て、共謀罪等立法対策ワーキンググループ委員の海渡雄一弁護士が閉会のあいさつ。「今回まだ国会に共謀罪が出ていないが、(今日は)こんなに集まってもらえた。特定秘密保護法・NSC法が通った。憲法改悪と合わせて戦争準備三法と言える。戦争のための治安三法もあるが、特定秘密保護法は両方に入っている。戦争のために国民を徹底的に監視するためのものだ。共謀罪・改悪盗聴法の問題もセットで考える必要がある。
こうした問題について話してくださいという依頼が多い。この話をすると、聴いている人の顔が暗くなる。しかし最近では聴衆のレベルが上がってきた。みんなよく勉強している。反対の戦線が広がっている。
政府原案は反対されて修正、という経緯をたどるだろう。野党に維新の会などがあって、どうなるかわからない。頑張って廃止の流れと秘密保護法廃止法案を作らなければならない。その中で、共謀罪についても日弁連でやっていきたい。ワーキンググループも対策本部に改組することが本決まりになっている。」
昔読んだSF小説に出てくるような監視社会が間近に迫っていることと、断固とした反対勢力があることををもっと広く訴えたい。(東京 M)

市民の政治行動を監視
危険な秘密保護法の正体
大阪

1月6日、大阪市内でおこなわれた秘密保護法反対デモ。右端が永嶋弁護士

1月28日、共謀罪に反対する市民連絡会・関西の主催で「『特定秘密保護法』とは何か〜逐条吟味する」と題して学習講演会が大阪市内でひらかれ、70人が参加した。
講演をおこなった永嶋靖久弁護士は、自民党の広報ビデオなどを引用しながら条文を解説。 特定秘密保護法では、ほとんどの秘密情報の指定・廃棄などが、政令に委任することになっており、公文書管理法の枠から外されているため、政府・行政機関の長の一存で、秘密指定・廃棄ができる。永嶋弁護士は、国会審議中、長妻昭議員(民主党)の質問状に対して政府が「保存期間前の廃棄を定めることは否定されない」という答弁書を出していたことをあげて、「何を秘密にしていたのか明らかにしないまま廃棄することができる」構造になっていることを指摘した。
そして政府が、この法律の制定を急いだ理由を「行政による情報隠しの拡大と機密取扱者への監視、市民の政治的行動の抑圧・監視のためには日本版NSCの設置とセットで運用する必要があるためだ」と解説した。
国会に対して情報を提供する場合も、「行政機関の長が、安全保障に著しい支障を及ぼす恐れがないと認めたときだけ」に限定されている。国会は、官僚の許可がなければ何も知ることができないことになる。まさに「国会の自殺」というべき法律である。
さらに取得罪・漏洩罪について、未遂・予備・共謀・煽動(あおり)を処罰する規定をおいたことの重大さを指摘した。 また、特定秘密を取りあつかうと想定される公務員への適性調査では、「特定有害活動やテロリズム関係に関する事項(家族・同居人の名前、生年月日、国籍、及び住所を含む)に限るものではない」と規定しているようにすべての個人情報を調査ができる。
最後に永嶋弁護士は、現時点ではまだ表明されてはいないが、今国会でねらわれている「共謀罪」導入の国会上程を絶対阻止しなければならないことを強く訴えた。