未来・第140号


            未来第140号目次(2013年11月19日発行)

 1面  秘密保護法を通すな
     戦前の“軍機保護法”の再来      

     伊方原発の再稼働阻止
     12・1“NO NUKES えひめ”の成功を

 2面  人権抑圧、戦争と治安国家化の
     秘密保護法案を廃案へ

     10・31に集会 「障害者」はあきらめない
     「骨格提言」の完全実現を

     守れ!経産省前テント シリーズH
     東電解体へ合同抗議

 3面  雇用破壊をぶっ飛ばそう
     10月23日 「共同アクション」を結成      

     地域の共闘強化へ
     関西合同労組が研修会ひらく

     JAL不当解雇撤回闘争
     反撃へ 大きな一歩を

 4面  裏切られた、撤回して」(3)
     福島で支援法基本方針の説明会
     請戸 耕一

     10・5関電前弾圧(2012年)
     松田さんの公判始まる

 5面  直撃インタビュー 第20弾
     戦争、チェルノブイリ、福島を語り続ける
     講談師 神田香織さんに聞く
     

 6面  違いをこえ共に行動を
     三里塚芝山連合空港反対同盟事務局次長 萩原進さん

     展望 −The Perspective− 13号 2013年11月 好評発売中

       

秘密保護法を通すな
戦前の“軍機保護法”の再来

11月12日、秘密保護法の廃案を訴えるデモがおこなわれ、600人が参加した。主催は大阪弁護士会

現在、衆院国家安全保障特別委員会で審議中の特定秘密保護法案を廃案に追い込もう。この法案では特定秘密に指定する事項を別表で列挙しているが、秘密の範囲が極めてあいまいだ。

「その他」の多用

たとえば「防衛に関する事項」では「その他の重要な情報」「その他の防衛の用に供する物」という表現が10項目中の4項目に見られる。「外交に関する事項」では、「その他の安全保障に関する重要なもの」「その他の重要な情報」「その他の外交の用に供する暗号」がほぼ全ての事項に入っている。「特定有害活動の防止に関する事項」や「テロリズムの防止に関する事項」でも同じだ。
つまり「その他」ということで秘密の範囲が限りなく拡げることが可能な仕組みになっているのだ。これでは、政府にとって都合の悪い事実や、民衆の目から覆い隠しておきたい情報はなんでも「特定秘密」に指定できることになる。
法案では指定の有効期間を「5年」としているが、延長が可能である。期間が30年を超えても、「情報を公開しないことがやむを得ない」と判断すれば延長することができることになっている。政府が決定しておこなう重大な事項を永遠に民衆の目から隠し通すことができるのだ。
しかも特定秘密を取り扱っている者が秘密を漏らしたときや、「不法」に「特定秘密」を取得したときは10年以下の懲役。また特定秘密の「不法」な取得を共謀したり、そそのかしただけでも5年以下の懲役に罰せられる。問題は何が「不法」な行為にあたるのかである。ここでも「その他の特定秘密を保有する者の管理に害する行為」という表現で、いくらでも拡大解釈が可能な仕組みになっている。

言論弾圧と民衆監視

法案には「報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」という文言が盛り込まれたが、これは「国民の知る権利」を保障したものではない。ただ「配慮する」という努力規定でしかない。これでは警察に対する抑制効果はほとんどゼロである。
しかも報道機関の取材行為を「著しく不当な方法」によらない限りで認めるという。何をもって「著しく不当な方法」とするかは、行政機関の都合で勝手に決められる。
戦前の軍機保護法が1937年に大幅に改定されたときも、当時の陸軍や司法省は帝国議会で「国民の目をふさぐような立法ではない」「危険な運用はしない」と答弁していた。ところが実際に運用されると、ささいなことでも逮捕・投獄される人が続出した。
秘密保護法案はこの軍機保護法との共通点が多い。いったん法律が通ってしまうと、取り返しがつかなくなる。断固として成立を阻止しよう。〔2面に関連記事〕

伊方原発の再稼働阻止
12・1“NO NUKES えひめ”の成功を

伊方原発3号機(愛媛県)など原子力規制委員会の「新規制基準適合性審査」が、大詰めをむかえている。
9月15日、国内の稼働原発がふたたびゼロとなった。当面する闘いの焦点は伊方原発3号機の再稼働を許さないたたかいである。これは、「全原発稼働停止・即廃炉」「原発輸出阻止」への道へ進むことができるかどうかを左右する重要な位置をしめている。
12月1日、地元愛媛県の「伊方原発をとめる会」から「福島を忘れない! 伊方を稼働させない! NO NUKES えひめ」大集会の開催が呼びかけられている。地元と全国の力で、中村時広・愛媛県知事が再稼働に同意できない状況をつくりだし、伊方原発3号機の再稼働を阻止しよう。

知事の同意を許すな

10月22日、愛媛県は新しい原子力防災指針に基づいて、伊方原発3号機事故を想定した原子力防災訓練をおこなった。この訓練に参加した地元住民は「実際に事故がおこれば、このような避難計画・避難訓練など全く役にたたない」と怒りをあらわにしている。とくに三崎半島(佐田岬半島)の西側で生活する住民は「事故が起これば、私たちは見捨てられる」と悲痛な声をあげている。
訓練後の記者会見で中村知事は、「防災対策の問題が解決できていない段階で、再稼働の判断を求められたらどうするのか」という質問に、「原発事故に対して100%解決できる防災対策などありえない」「13万人が参加した訓練など不可能だ」「防災対策と再稼働判断は切り離す」と言い放った。
中村知事の発言は、政府から再稼働の要請があれば、同意するということを前提にしている。そしていざ事故が起きれば「地元住民を見捨てる」というのである。働判断は切り離す」と言い放った。
中村知事よ。「100%解決できる防災対策などありえない」のならば、再稼働を認めることなど絶対にできないはずだ。「再稼働の判断は白紙」という言い逃れはもはや通用しない。
中村知事のペテンを徹底弾劾し、12・1、「知事は再稼働を認めるな」「知事は地元住民を切り捨てるのか」の声で県庁前をうめつくそう。

安全規制の原則を放棄

安倍首相は「新規制基準に適合すれば、原発の安全性が確認された」というが、そんなことはない。原子力規制委員会による「原発の安全規制」の内容とは「避難基準を実際に満たすことができない原発は、稼働を続けることが許されない」(ロゴビンレポート原則 ※注)という安全規制の大前提を意識的に放棄したものだ。
フクシマを切り捨て、住民の命を無視し、ただただ原発再稼働のためのお墨付きを与える「新規性基準適合性審査」では安全は保障されない。
12月1日、松山市に全国から結集し、「新規制基準適合では安全は保障されない」「適合性審査をただちに中止せよ」の声で中村知事を包囲しよう。

※注 ロゴビンレポート原則 1979年、スリーマイル島原発事故後、アメリカ原子力規制委員会(NRC)が、事故の原因、教訓、総括としてまとめた報告書の最終結論として、原子力発電所の安全規制をおこなうにあたって、「避難基準を実際に満たすことができない原発は、稼働を続けることがゆるされない」という原則にまとめたもの。

(集会要項)

福島を忘れない! 伊方を稼働させない!
NO NUKES えひめ

と き:12月1日(日) 午前10時スタート
ところ:松山市堀之内 城山公園やすらぎ広場
呼びかけ人:アーサー・ビナード(詩人・絵本作家)、宇都宮健児(前日弁連会長)、片山恭一(作家)、雨宮処凛(作家・活動家)、UA(ウーア)(歌手)、安西賢誠(真宗大谷派僧侶)、斉間淳子(八幡浜・原発から子どもを守るおんなの会)、須藤昭男(インマヌエル教会牧師・福島出身)、村田武(九州大学名誉教授・愛媛大学客員教授)

2面

人権抑圧、戦争と治安国家化の
秘密保護法案を廃案へ

T 安倍政権の改憲動向

今国会で審議中の「特定秘密保護法案」と「国家安全保障会議設置法案」は安倍政権が描く日本の将来像を浮かび上がらせた。それは戦争と治安国家化、人権剥奪をもってする「美しい国」の実現にほかならない。
安倍政権は、改憲に向けて、「共謀罪」と「ダーティ捜査手法」も導入しようと狙っている。「令状なし拘束」「黙秘権の否定」や全面的なネット検閲などである。
現在、法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」で盗聴の拡大、室内盗聴の合法化等の通信傍受法の改悪が検討されている。秘密保護法案の「特定取得行為」を立証する最大の武器となるであろう。秘密保護法が成立したら、盗聴が大規模かつ広範に拡大する。
来年2月には法制審議会の答申が出る。その答申では、「共謀罪」と「新しい捜査手法」とともに、「秘密保護法」が3点セットで出されることになっていた。しかし、3つのうちでも最重要の「秘密保護法案」だけを先行的に今国会に提出することになったのである。

U 階級攻防の焦点

自衛隊法の改悪

2001年に自衛隊法が改悪され、従来の第59条における「秘密を守る義務」規定に加え、第96条の2に「防衛秘密」が新設され、スパイ防止法(廃案)の一部と同趣旨の規定が盛り込まれた。この条項では防衛大臣が「防衛秘密」を指定するものとしている。さらに同法122条においては、防衛秘密を取り扱うことを業務とする者(業務をしなくなった後も同様)を対象として、漏洩の既遂、未遂および過失犯について罰則を設けている。この漏洩罪は、共謀、教唆又は扇動についても罰せられ、さらに刑法(明治40年法律第45号)第3条の例により、日本国民の国外犯も罰せられる。その意味で、この時の自衛隊法の改悪は秘密保護法を先取りしたものと言える。
2007年2月には航空自衛隊の1佐が読売新聞記者に機密情報を漏洩したとして、警務隊に事情聴取や家宅捜索を受けている。これは中国潜水艦の火災事故に関するものであったが、報道した読売新聞の記者は事情聴取さえされていない。このようなものが「防衛秘密」になるのか、という問題がある。であるからこそ、報道の側を捜査できなかったのである。秘密保護法案はこの限界を打ち破ろうとするものである。

何が秘密かは秘密

秘密保護法案は厳罰の対象となる「秘密」について、「別表」に羅列することで秘密を限定しているかのように見せている。ところが「別表」方式の参考にした自衛隊法の「防衛秘密」の運用状態をみると、秘密の数がこの10年間で39件から234件と6倍にも膨れ上がっている。結局、何もかも「秘密」になることははっきりしている。しかも「何が秘密か秘密」になることは「防衛秘密」と同じだ。

V 独裁政治が登場

厳罰化

諸外国の秘密保護法制と比較すると以下のことが言える。
米国では国防情報の漏洩には10年、英国は防衛情報や通信傍受に関する情報を公務員が漏らした場合に懲役2年、フランスは公務員による国防上の情報秘密漏洩に7年―の自由刑が各々、設けられている。
日本では次のような秘密保護法制がすでに存在する。
・政府情報の守秘義務に関する法律
・国家公務員法
・地方公務員法
・裁判所職員臨時措置法
・外務公務員法
・自衛隊法
・日米相互防衛援助協定等に伴う機密保護法
これらの法律は、日米相互防衛援助協定等に伴う機密保護法を除いて、機密情報を漏洩する公務員の存在を前提としたものであるため、公務員が機密情報を漏洩しない形でのスパイ行為を規制していない。また特別職公務員(公職政治家・国務大臣・副大臣等・国会議員公設秘書・副首長等)の機密情報漏洩について秘密保護法における「特別秘密」のような刑事罰規定はない。
以上の法律の中で、一般公務員関係の処罰の量刑は最高刑は1年、改悪自衛隊法は5年、日米相互防衛援助協定等に伴う機密保護法だけが最高刑10年と規定している。しかしまた裁判所職員、外交官、自衛隊員を除く特別職公務員の機密情報漏洩について秘密保護法における「特別防衛秘密」を除いて刑事罰規定はない。また一般に「スパイ行為」にたいしては、窃盗罪や電気通人事業法、不正アクセス行為の禁止等に関する法律など適用できる法律は膨大にある。加えて、日米相互防衛援助協定(MDA)に伴う秘密保護法では、米国から供与された装備品等に関する情報を漏らせば、最長で懲役10年の罰則となる。対米関係、米軍関係の罰則だけが、今回の秘密保護法案と同じく長期10年の懲役と重罪規定になっていることがわかる。

戦前の治安法より悪質

今回、安倍政権が狙っている秘密保護法は、ナチス全権委任法や米愛国者法が時限立法であるのと比べて、恒久法である点でより強力な治安法となる。その実態を広範な労働者人民に伝え、反撃の嵐をまきおこそう。
また「保護法益」(守るべき「国家秘密」)を法定せず、行政機関の恣意的指定に任せている点でも戦前の治安法よりも悪質である。行政権力のこのような肥大化を、労働者人民の反乱で阻止しよう。(落合 薫)

10・31に集会 「障害者」はあきらめない
「骨格提言」の完全実現を

2005年10月31日、「障害者自立支援法」は、「福祉を増進させるためだ」と称して、多くの「障害者」の抗議を踏みにじって成立した。翌年、この法律施行前後から利用料の大幅引き上げにより、心中、家族による「障害者」殺し、制度利用をあきらめる人々が続出した。
「障害者」の怒りは、06年10月31日に1万5千人の日比谷への結集として爆発した。そして、11年まで10月の闘いは、全国をカバーする団体の主催により継続されてきた。その中で、住民税非課税世帯のホームヘルプや通所の費用をゼロ化し、09年には民主党政府により「自立支援法」の廃止と新法の制定を約束させた。
そして、11年には、政府の作った「障がい者制度改革推進会議・総合福祉部会」の場において、全国の「障害者」関係者の総意として新法の内容となるはずの「骨格提言」が作られた。
しかし、厚生労働官僚を中心に激しい巻きかえしが始まる。自民党や公明党を突き動かし、民主党をも取り込んで、「骨格提言」を事実上無視して、介護保険制度により近づけるための法改悪が進められた。
その過程で、より政府寄りの団体を取り込み、大手の団体の連合体が動けなくなり、ついに昨年からこの10月の日比谷の闘いは、こうした団体によってはおこなわれなくなってしまった。
13年に入り、強制入院制度を強める精神保健福祉法の改悪、扶養義務制度を強化し申請をさせないようにする生活保護法改悪、社会保障を解体し「尊厳死」制度をも導入する法案の提出という動きが続く。

地域の仲間を中心に

危機感を持った地域の団体を中心に、8月、「『骨格提言』の完全実現を求める10・31大フォーラム」実行委員会がつくられた。10月31日、厚労省の隣の弁護士会館行動には、20団体の呼びかけに応えて、300人を超える仲間が結集した。
実行委員長の横山さんからは、兵庫や新潟をはじめ各地から結集していることが紹介され、「障害者」が地域社会で生きていくために「骨格提言」の実現が絶対に必要であることが訴えられた。呼びかけ団体発言として、全国青い芝の会、ピープルファーストジャパン、「精神障害者」の3団体、難病をもつ人の地域自立生活を確立する会などの発言が続く。
そして、全体が厚労省前に移動し、怒りのシュプレヒコールとリレートークを展開した。
発言者の中からは、「障害者」の声を踏みにじる行政の姿勢が40年前(「国際障害者年」以前)に戻ったようだ、との発言が相次いだ。「障害」や病気を持って生きることを否定する出生前診断や、「尊厳死」法制化の推進に抗議して、「優生思想反対」のシュプレヒコールが挙げられた。10月の闘いの炎を絶やさず、より強力にしていくことが全員の燃え盛る決意として表明された。(K)

守れ!経産省前テント シリーズH
東電解体へ合同抗議

東電本店合同抗議(11月6日 都内)

9月12日、脱原発テントといのちを守る裁判の第3回口頭弁論が東京地裁で開かれ、被告の淵上さんが汚染水問題にかんする意見陳述をおこなった。5月23日の第1回口頭弁論での陳述は、東電福島第一原発事故に対する国民主権に基づく正当防衛論をテントの存立理由として開示するものだった。
7月の参議院選挙で自民党が多数派となり、安倍首相によるオリンピック招致演説における「福島の状況は制御されている」という発言は、被害者への棄民政策断行に等しい。

東電前で抗議

11月6日、午後6時半から、2回目となる「月はじめ水曜 東電前抗議行動」がおこなわれた。あっというまに、その数400人に達し、主催4団体にさらに10団体が協賛をかってで、熱い連帯アピールが続いた。
それでも東電側は抗議要請文を受け取りに出てこず、代理に警備員をよこしただけだった。 東電株主代表訴訟の木村結さんは、一事が万事、卑怯で汚い東電経営の裏側をあばいた。各団体の東電攻めアピールは説得力に満ちていた。
再稼働がねらわれている伊方原発など原発立地の地元から、全国の仲間へ協力と結集が訴えられた。
12月1日には愛媛県松山市で「NO NUKES えひめ1万人祭」が開かれる。経産省前テントひろばは大型バスを仕立てて参加する。テント応援団のYさんは、11月下旬に、伊方原発即廃炉現地闘争本部に入ることになった。
11月20日には、伊方、大飯・高浜、川内・玄海、柏崎刈羽原発の再稼働阻止に向けた集会が、たんぽぽ舎で開かれ、現地闘争に入る人たちへの壮行会もおこなわれる。
稼働原発ゼロの清冽な空気の中で、ますます、再稼働阻止闘争は燃え盛っている。
脱原発テントといのちを守る裁判は、次回は11月29日、午後2時。東京地裁に傍聴支援を。(Q)

3面

雇用破壊をぶっ飛ばそう
10月23日 「共同アクション」を結成

参議員会館で開かれた雇用共同アクション結成総会(10月23日)

10月23日、「安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクション(略称:雇用共同アクション)」が参院議員会館で結成された。MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)、全港湾、航空連、純中立労組懇、全労連、全労協、中小労組政策ネット、下町ユニオン、東京争議団共闘、けんり総行動等が参加団体となり、代表等123人が参加。雇用破壊をぶっ飛ばす熱気にあふれた。国会議員も10人(秘書を含む)、日弁連からも河田副会長がかけつけ激励のあいさつをした。

12月労政審が焦点

結成集会参加者は雇用破壊を力をあわせて打ち破っていこうと次々と訴えた。日本労働弁護団の棗一郎常任幹事は、今国会で雇用破壊のための法案が多数出されるが、その最初の激突点になるのが12月の派遣法の改悪案であると指摘。昨年10月に改正・施行されたばかりの派遣法は激しい攻防を経てようやく日雇派遣の原則禁止、マージン率の公開、グループ派遣の制限等が盛り込まれたが、一年経つか経たないうちにこれらの改正内容のすべてをとっぱらえというどす黒い要求が資本の側から噴出しているのである。
解雇特区については厚労省等の抵抗で一度はとん挫したが、政府は地域限定の解雇規制緩和が問題なら全国一律に変えればいいだろうと、その手始めとして労働契約法18条の解雇規制を変えるため、「年内に労働契約法の改正案をあげろ」と労政審に指示を出していることが暴露された。

現場から怒りの声

郵政産業ユニオンは、限定正社員の先取りである(新)一般職の導入に対して弾劾。
神奈川・JMIU日産支部は、多国籍企業の日産では雇用破壊の先取りがおこなわれていると報告。日産では「解雇理由が適当であろうがなんであろうがすべてリストラは一気に行える状況が作られている」こと、すでに日産本社の6割を外国人労働者が占めていること、日産車体では日本人労働者をターゲットとして560人の解雇が強行されていること等々が報告されたが、これに対する現場からの闘いとして、この解雇攻撃と闘っていくためには、労働者を分離するような攻撃に負けないこと、連帯の立場の必要が熱く語られた。 息子を過労死で亡くし企業責任を追及している東京争議団共闘の矢田部氏は、雇用破壊を強行するのは殺人行為だと激しい怒りを表明した。
JAL争議団の内田さんは「解雇特区は小さく産んで大きく育てようとするもの。こんなものは許してはならない」と表明。
JMIU・IBMからは「成績不良」を口実にして労組役員等15人を狙い撃ちにした解雇が強行されているが、これは外資による整理解雇4要件のすり抜けであることが強く弾劾され、現在10人が原告として解雇撤回闘争を闘っていることが報告された。

国会議員10人が参加

法案をめぐる闘いではどうしても国会議員が必要である。結成総会には立場の違いを超えて国会議員10人(秘書含む)が集まった。相原久美子参院議員(民主党)は「解雇特区は地域限定ではなく、いずれ全体を視野に入れた動きになっていく。国会の中では数の力では負けているが、なんとしても国民運動をつくりそれを背景にして行動していきたい。そのためにも地域での活動が大切」と訴えた。

12・13日比谷野音へ

行動方針は柚木全労協常任幹事が提案した。雇用破壊との最初の激突となる11月、12月の労政審に対する連続抗議行動が提起された。さらに、攻防が白熱する12月13日に日比谷野音を満杯にする集会と国会デモが提案された。

大阪でも反撃を

大阪でも御堂筋に特区をつくる構想が発表されているが、激しい反対運動が起こっている。各地のさまざまな闘いと連帯し、反撃の陣形を作っていこう。

地域の共闘強化へ
関西合同労組が研修会ひらく

さまざまな職場の仲間が交流(10月27日 尼崎市内)

10月27日、尼崎市内で午後1時より、約30人が参加して開かれた。
石田委員長が「今日の大きな獲得目標は、各々の職場でばらばらに苦闘する仲間が経験や知恵を共有し交流しあって、地域で共闘していく、そういう機会になればと考えている」とあいさつ。
次に執行委員が「安倍政権のすすめる『解雇特区』について」と題して講演をおこなった。

資本の無法地帯

「雇用がおかしくなっている。雇用条件が大きく変えられようとしている。大変なことが起きている」、「勝手に決めて法律にして、システムを作ろうとしている。特区ということだけで法律をはずしていい。そこでは残業代をださなくていいという特別の地域をつくる」、「憲法に基づいた労働基準法や労働組合法は普遍法で例外を作ってはならない法律。ところが、例外を作ろうとしている。法律の考え方が変わってこようとしている」と安倍政権が「岩盤をドリル」でぶっ壊そうとしていることをわかりやすく説明した。「労働者がしっかりしないと世の中がおかしくなる。子どもにこんな世の中を渡していいのか」と呼びかけ、多岐にわたり「戦略特区」の重大な問題性を明らかにした。

若い労働者に伝えたい

続いて、各執行委員や組合員から7つの事例報告がおこなわれた。各報告は多くの教訓と示唆に富んでおり、参加者の関心を引き出し、質問が多く出された。
組合員交流会では、各自の職場の問題やかかえている問題などが多く語られた。
初参加のA運輸・Bさんは「良い会社を作るために団結したい」。同じく初参加の医療関連会社・Cさんは「若い労働者は労働者の権利を知らない。みんなが個々バラバラで手の施しようがない。泣き寝入りで、若い人が2〜3年でやめていく。こういう場での知識を伝えたい。どういうことが出来るか勉強したい」と発言。また郵政労働者3人も様々な問題を抱えながら闘っている、等々。
交流会での発言は90分にもおよび盛んな意見の交流が実現された。最後は団結ガンバローで締めくくった。

JAL不当解雇撤回闘争
反撃へ 大きな一歩を

「JAL不当解雇撤回 高裁勝利! 早期解決を目指す10・25大集会」が東京・文京シビックホルで開かれた。
この日の集会は、12月24日(客室乗務員)、12月26日(パイロット)に迫った不当解雇撤回訴訟の高裁での結審を前にしてひらかれた。
この間の原告、弁護団を中心とした闘いによって東京高裁の早期結審策動を押し戻し、事実審理の中で解雇の不当性を徹底的に暴露してきた。
主催者の開会あいさつに続いて報告に立った上条弁護団長は次のように訴えた。

要請署名25万筆

「この間、東京高裁に証人尋問、本人尋問を求める要請署名がなんと25万筆集まりました。この力が、1、2回の公判で控訴棄却という流れを打ち破り、証人尋問が実現しました」
「その中で、2010年12月の不当解雇の時点で人員削減目標が超過達成されており、整理解雇の必要がまったくなかったことが完全に立証されました。さらに、会社側は解雇を回避するための努力を一切おこなわなかったばかりか、不当労働行為を繰り返し、闘う労働組合を狙い撃ちにして解雇がおこなわれたことを、会社側の内部資料の暴露と証人尋問によって余すところなく証明することができました」
「今日の大集会の成功を梃子に、高裁勝利判決を目指した大運動を展開しましょう」

仲間を職場に戻す

続いて、愛知、大阪など各地の支援団体、宇都宮弁護士、OCCC(ワンワールド乗員組合連合)チャップマン議長、そして国会議員などから連帯のあいさつ。
当該組合として日本航空乗員組合の田二見真一委員長、キャビンクルーユニオン古川麻子委員長が決意を述べた。
田二見委員長は「私たちを取り巻く社会では雇用を破壊する規制緩和が進んでおります。社内では、人材の確保も育成も追いついていません。会社は『再生を目指す』と言っていますがそんな状況ではありません。会社は不当解雇撤回の裁判を含め五つの裁判を抱えています。これらの裁判を通して、当該の社員、家族の皆さんを傷つけ続ける会社の姿勢を絶対に許すことはできません。解雇された仲間を職場に戻すことを強く胸に刻み、勝訴に向けて皆様とともに闘います」と決意表明した。

反撃の大きな一歩に

国民支援共闘会議からの行動提起に続いて原告団から、パイロット・山口宏弥団長、客室乗務員・内田妙子団長から訴えがおこなわれた。
内田さんは「今、安倍政権の下で解雇、首切り自由の雇用破壊、これを進めようとする動きが数の力を背景に強まっています。私たちは、これらの動きに反対する人たちと共に、労働者の反撃の大きな一歩となるよう勝利判決をもぎ取りたいです。原告たちは今日の集会をばねに戦い抜く決意です」と固い決意を明らかにした。
最後に、決議文を採択。結集は1790名。不当解雇撤回闘争始まって以来の最大結集となった。高裁逆転勝訴に向けて闘おう。

4面

「裏切られた、撤回して」(3)
福島で支援法基本方針の説明会
請戸 耕一

真剣な眼差しで「基本方針案」の説明を聞く住民たち(9月11日 福島市)

昨年6月に成立以降、長らく店ざらしにされてきた「子ども・被災者支援法」について、その基本方針案が8月30日にようやく公表され、復興庁の主催する説明会が9月11日に福島市内で開かれた。そこでは多くの被災者から、「この基本方針は撤回して」という声があがった。今号(最終回)では、基本方針案の問題はどこにあるのかを検証する。

【W】「危険か安全かではなく不安」という論理

今回の説明会で、もっとも大きな論争点は、子ども・被災者支援法が、支援対象地域の指定に際して、放射線量を基準とすることを求めているにもかかわらず、基本方針案では、それが示されなかったことだ。
復興庁の担当者は、その批判への弁明に終始していた。中でも、次のような弁明には注目する必要がある。
「(ある放射線量が)危険か安全かという話はこの法律には関係ない。安全かどうか分からないから不安になるのであり、その不安に対して適切な施策を取るというのがこの法律の趣旨。その趣旨に則って、特定の数値は定めないで対象地域を定めた。これがもっとも留意した点だ」
「不安ということについて、どこまで科学的かという指摘もあったが、放射線関係の有識者だけではなく、社会学や心理学の有識者からも意見を聞いて決めた。有識者の意見について、公開しないという前提で率直な意見を聴きたいので公開はしない」

1ミリシーベルト基準

まず、繰り返しになるが、子ども・被災者支援法には、支援対象地域とは、「その地域における放射線量が政府による避難に係る指示が行われるべき基準を下回っているが一定の基準以上である地域」と明示されている。一定の基準を示すことは法律の要請するところである。
その上で、放射線に関して数値基準を議論すること自体がそぐわないかのように復興庁の担当者は説明しているが、別のところでは国は数値で基準を示している。
例えば、文科省は、2011年4月、福島県内の学校の校庭利用などに関する通知で、幼児、児童、生徒が受ける放射線量の限界を年間20ミリシーベルトとした。親たちの強い反対で押し返された形にはなったが、撤回はしていない。
また、避難指示区域の再編でも20ミリシーベルトを基準にした。国は、当初の警戒区域、計画的避難区域という避難指示区域の再編を2011年末に決定、▽12年3月から数えて5年以上戻れない帰還困難区域(年間放射線量50ミリシーベルト超)、▽数年での帰還をめざす居住制限区域(同20ミリ超〜50ミリ以下)、▽早期の帰還をめざす避難指示解除準備区域(同20ミリ以下)とした。この20ミリシーベルト基準によって、賠償の打ち切りや帰還の促進ということが進められている。
一方、被災者が求めているのは、事故前から法令で定められてきた追加被ばく線量は年間1ミリシーベルトが限度という基準であり、いわゆるチェルノブイリ法と同レベルの基準と支援だ。チェルノブイリ事故後、ベラルーシにおいては、年間1〜5ミリシーベルトの被ばくを余儀なくされる地域では、被災者は他の地域への移住を選択することができ、その場合、居住と仕事に関する国の支援がおこなわれた。
この被災者の求める1ミリシーベルトという基準を、どうしても受け入れたくないというのが、数値基準を示さない国の本音であろう。

支援法の意図と解釈

ところで、「危険か安全かではなく不安」という論理は、一見、数値で機械的に区切るよりも、「不安」に対して広く支援しようという寛大な措置のように取れる。 そもそも、子ども・被災者支援法の目的においても、「放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと等のため、・・・被災者が、健康上の不安を抱え、生活上の負担を強いられており、その支援の必要性が生じている」「被災者の生活を守り支えるための被災者生活支援等施策を推進し、もって被災者の不安の解消及び安定した生活の実現に寄与する」(法第1条)とある。
「健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていない」とあえて書き込むことで、低線量被ばくの健康影響に関する不毛な論争を避け、被災者の「健康上の不安」と「生活上の負担」をとらえて、それに対して実質的に支援を獲得することを意図したものともいえる。少なくとも善意に読めばそういうことだ。
そういう条文にすることを可能にしたのは、被災者の強い訴えであり、それを支援する全国の運動の力だ。それが全政党を動かし、官僚たちをここまで押し込んだ。しかし、その後の政治は逆方向に流れた。民主党政権の後退があり、昨年12月の自民党の政権復帰があり、官僚たちの態度も元に戻っている。先に見た復興庁参事官の暴言ツイート(本紙137号)もそういう中で起こったことだった。そして、こういう官僚たちによって、子ども・被災者支援法の解釈も大きく巻き返されていった。

「不安」のすり替え

ところで、被災者が原発事故によって受けている被害は「不安」なのであろうか。
被災者は、事故によって拡散した放射性物質に由来する放射線によって日々被ばくさせられている。その被ばくによる健康被害にはしきい値がない。つまり、ある被ばく線量以下だったら健康被害はないということはない。ICRP(国際放射線防護委員会)ですら、被ばく線量に応じて影響・被害があるとしているのだ。
そして、被ばくとは遺伝子に傷をつける傷害行為。つまり、国および東京電力による被災者に対する加害なのである。
「危険か安全かではなく不安」とする論理は、被ばくが傷害であり、加害という実体のある行為を、「不安」という心理的な問題にすり替え、国および東京電力の罪を曖昧にし、被災者の支援の要求を軽んじ、切り捨てる方向に働く。 子ども・被災者支援法の理念が、こうして否定されている。

やはり線量基準がカギ

では国は、この先も「白黒つけずに」というやり方を続けるつもりなのかというと、そうではないようだ。
根本復興大臣が、今年3月に次のように述べている。
「住民が安全・安心に暮らしていくためには、線量基準に対する考え方について客観的な根拠に基づく国民の理解が必要だ。子ども被災者生活支援法における適切な地域指定のあり方を検討するためにも、国際的な科学的知見も踏まえつつ、事故後の個人の実際の被ばく線量等の実態も考慮して議論を進める必要がある。ついては、線量水準に応じて講じるきめ細かな防護措置の具体化について、原子力災害対策本部で議論を行い、年内を目途に一定の見解を示していただくようお願いする。原子力規制委員会が、科学的・技術的な見地からの役割を十分に果たしていただくようお願いする」(2013年3月7日 復興推進会議/5月10日 参院特別委員会でも同趣旨を答弁)
年内を目途に被ばく線量基準に関する考え方を示すと言っている。「国際的な科学的知見も踏まえつつ」と言っているのは、ICRPの見解以外にない。
2011年11〜12月、6回にわたっておこなわれた「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」(当時の民主党政権下で政府・官僚・有識者が内外の専門家から報告を受けた)の場で、ICRPの主要メンバーが報告をおこない、〈チェルノブイリの場合、1年目は100ミリシーベルト。5年目でも5ミリシーベルト。だから日本政府は、1ミリシーベルトという要求に屈してはならない〉という趣旨で強く釘を刺している。それは、言うまでもなく、日本で1ミリシーベルト基準による支援や避難がおこなわれてしまったら、それが他国に波及し、原子力産業と核兵器開発の推進が困難になるような打撃になると見ているからだ。
原子力災害対策本部でのその後の議論については見えてこないが、被ばく線量の基準ということが懸案になっていることは間違いない。この問題は、被災者の支援や被災者同士の分断の解消といった原発事故により生起するあらゆる被害の問題のカギをなすだろう。そして、原発推進政策そのものの是非を問うような重大問題となってくるだろう。(了)

10・5関電前弾圧(2012年)
松田さんの公判始まる

昨年10月5日、関電本店前でのAさん不当逮捕に関連して、後日(11月16日)に令状逮捕された松田さんの裁判が始まった。Aさんには一審で無罪判決が出ている。
この事件は、「10・5関電前弾圧」でAさんが理由もなく逮捕されたことに松田さんが抗議したことを「公務執行妨害」であるとし、Aさんを拉致しようとしたワゴン車のアンダーミラーに触れたところ、着脱式のミラーがはずれたのを「器物損壊」であるとした、まったくのデッチあげである。
実際、ミラーははずれただけで壊れていない。はずれたミラーは、その場にいた警察官が受け取っている。

犯罪の事実はない

10月21日、第1回公判での冒頭陳述で松田さんは「『公妨、器物損壊』の事実は存在しない。犯罪の事実はなく、私は無実」と力強く述べた。
これに対して、検事の冒陳は許しがたい内容だ。無罪判決が出ているAさんを「犯罪者」と決めつけ、「この逮捕を妨害したから松田も犯罪者」というものだ。
永嶋弁護士は「当日(昨年10月5日)、現場で逮捕されたAさんに犯罪の事実はない。当日の警備活動は違法。(したがって)松田さんの公妨は成立しない。器物損壊も存在しない。アンダーミラーは損壊していない」と述べた。
その後、天満署鑑識係の警察官・大菅証人にたいする尋問がおこなわれた。大菅は関電前10・5弾圧時に「Aさんに倒された」と主張する天満署・城戸警察官の顔のケガ(擦り傷)の写真を撮影した警察官。
10月28日に開かれた第2回公判では、証拠映像(DVD)の再生がおこなわれ、検察側から6本、弁護側から2本が上映された。

5面

直撃インタビュー 第20弾
戦争、チェルノブイリ、福島を語り続ける
講談師 神田香織さんに聞く

高校卒業後、女優をめざし劇団へ。発声練習のためにと講談に弟子入り。サイパンへ旅行し戦争の傷跡を見たことが、その後を変えた。沖縄、広島へ。原爆資料館で『はだしのゲン』に出会う。『ゲン』上演は700回になる。『チェルノブイリの祈り』を語り続けたのに、福島が原発事故に襲われた。「どうして」と自問、落ち込むこともあった。しかし、あきらめない。「講談は怒りの話芸」という神田香織さんに聞いた。
                             〔聞き手=編集委員会/10月24日〕

日本という国 ぞっとしています

―3・11から2年8カ月。いま、何をいちばん思っておられますか。

人類史上はじめてといわれる重大事故。政府、東電の対応はチェルノブイリと比べても格段に酷いです。まるでなかったことに、忘れさせようとするような毎日・・・。私たちを人間扱いしていません。日本という国は想像以上に酷い国だったのだなと、ぞっとしています。
事故のすぐあと、当時の石原都知事が「尖閣」諸島を購入するなどと騒ぐ。参院選で自民党が勝ち、脱原発を押さえ込み始める。今度はアベノミクス。マスコミを総動員し、さも景気がいいかのようにまた騒ぐ。そして、消費税じゃないですか。人々の関心が、原発事故から遠ざかるように仕組まれてきているとしか思えません。目の前の暮らしに精一杯という状況に追い込み、庶民どうしをいがみ合わせる。こんな、あこぎなやり方はないですよ。
一方で憲法も変えちゃおう、治安弾圧のための秘密保護法でしょう。何が秘密か、何で逮捕されるかも秘密、裁判も秘密。成立すれば一人歩きします。露骨、尋常じゃない。戦争を語る私は、穏やかじゃない。焦っています。

我慢してはならない

―神田さんの故郷福島県は、いま・・・。

ますます酷くなっているのではないでしょうか。みんな限界にきていますよ。しかし福島、東北は忍従の土地柄、気風が浸透し、人権意識が弱いですね。辛抱強く、こまごまいわない従順な東北人。日本の、弱い部分を象徴しているような気がします。
放射能を問題にする人が、逆に奇異な眼で見られたりします。長崎大の山下教授が「(年間)100ミリシーベルトまでは大丈夫」と嘘をつく。怒るよりも、「原爆をうけた長崎から、偉い先生がきて言っているのだから大丈夫」ということになってしまう。危険とは思わないようにしながら暮らさざるを得ない。山下はそういう「仕事」をして、さっさと長崎に帰ってしまいました。そのあと真剣に真面目に心配する人が、本当のことを言っても通用しなくなってしまいます。

「見てきたようなウソ」

―安倍首相が「汚染水、福島原発はコントロールされている」「東京は安全だ」といいました。

笑顔で大嘘3連発には驚きました。「東京は大丈夫」とは、どこまで福島県民を愚弄し差別するのか。これには福島県民も怒り心頭。その怒りをマスコミはまったく伝えないですね。原発事故の責任を問う東電、政府、専門家など関係者を告訴しましたが、オリンピック招致が決まった翌日に「全員不起訴」決定です。講釈師顔負けの「見てきたようなウソ」です。怪談噺よりも怖いんじゃないですか。

―飯舘村からすぐに避難した方からお話を聞いたことがあります。事故前のすばらしい田畑、農園の映像も見ました。

私のいわき市は、映画『フラガール』のように炭鉱の町でしたが、福島全体はとっても自然が豊か。食べ物、魚、果物もおいしいところです。飯舘村は大変な苦労をして開拓し、飯舘牛を育て村おこし。やっとその成果が実り始めたところ。美しい村ですよ。そこに戻ることができなくなった。本当に胸が痛みますね。

はっきりと考え直すとき

―日本はヒロシマ、ナガサキを経験し、核兵器反対運動をおこなってきました。スリーマイル、チェルノブイリを知り、JCO事故も・・・。それなのに、なぜフクシマだったのでしょうか。に戻ることができなくなった。本当に胸が痛みますね。

そうですよね。戦後、ずっとアメリカべったりの政府。そして私たちも何となくそれに従い、考えない教育をうけ、半分容認してきたのではないでしょうか。どこかの大学理学部の生徒さんに先生が聞いたら「全原発が稼働していなくても、電気は足りている」と知っていたのは1割だったそうです。これではだめですね。お金を儲け、どんどん消費していく生活が「豊かさ」であるという、見事にそういう「戦後」を生きてきたわけですから。
しかし、それに気がついてきた人たちもいっぱいいます。どうやって流れを変えていくかですよね。もう、考え直さないと。

残酷なのは誰か、何か

―『はだしのゲン』閲覧制限。残酷さを知った子どもが、残酷な人間になるでしょうか。

いえ、「残酷なこと」を学んだ子どもは、そういう人間になってはいけないと思うでしょう。残酷な事実を知らないで育つことの方が、残酷さに思い至らない人間になるでしょう。アメリカがアフガニスタンなどで無人攻撃機を使って市民を殺傷しています。殺す側は、遠くからテレビ画面を見ながらゲームのように銃や爆弾を発射する。血を浴びることもない。
『はだしのゲン』は、中沢先生がどのシーンも考えぬかれ、表現されています。人間の根本を描かれていると思います。改憲、9条や21条の転覆、秘密保護法が画策される時代。松江市教委の例は、単に「閲覧制限」という問題ではありませんね。

生きる力をもらった

―中沢さんはどんな方でしたか。『ゲン』初演の年にチェルノブイリ事故。16年後に『チェルノブイリの祈り』を発表されました。

中沢先生は、すっごく底抜けに明るいパワーのある方でしたね。いつもニコニコしながら、鋭いことをおっしゃるんです。「いまでも原爆で死んだ弟を思い出す。苦しかっただろうなと、夜中に飛び起きるんだ」と言われていました。原爆という、いいようのない苦しみに会いながら前向きに必死で生きたゲンの姿そのものですね。私も、辛く落ち込んだ時期がありました。『はだしのゲン』を読み、中沢さんにお会いし、『ゲン』を上演し、生きる力をもらいました。中沢さんは、血みどろの体験を踏み台にして、みんなに生きていってほしいというメッセージを残されたんですね。
昨年、8・6ヒロシマに参加させてもらい中沢先生にお会いすることができ、本当に感謝しています。その後に亡くなられましたから、最後になりました。 チェルノブイリの消防士と妻、その愛を襲った原発と放射能。原爆と原発は同じです。ヒロシマ、チェルノブイリを語り、懸命に訴えてきました。それなのに自分の故郷が、日本がこんなにも無惨なことになってしまった。でも私は、あきらめずに語りつづけます。

子どもたちを守りたい

昨年8月6日、広島で『はだしのゲン』を熱演する神田香織さん。客席には原作者の中沢啓治さんの姿があった。

―ヒロシマ、ナガサキは大量の放射線、爆風、熱線でした。原爆後も急性放射能症で、たくさんの人が亡くなりました。福島は、その見えない放射線との、人間を無視した「復興」とのたたかいですね。

そうですね。子ども・被災者支援法は2年半たっても一向にすすみません。被災者や子どもの健康などに対策がおこなわれていない状態です。「除染」の実は上がらず、県民、とくに子どもたちは低線量被曝の危険にさらされています。健康調査や手帳、記録、診療など、国や行政にやらせなければならないことは山積しています。
私たちのNPOも夏休みに天草で子どもの保養にとりくんでいます。子どもの笑顔を思えば、たいていのことは乗り切れます。それにしても長期、持久戦ですね。
水俣や阪神淡路大震災からも学び、つながろうとしている人たちがいます。学び、交流し、そこから「私たちは主張し、行動していける」ということができると思います。

みんなの「テントひろば」

―「経産省前テントひろば」に参加、テント応援団を呼びかけられています。

「テントひろば」にきて、はじめて声をあげることができたという女性がいます。私は、この一人の女性だけのために、このテントがあってもいいと思っています。もちろん、彼女のような人がいっぱいいます。気持ちが一つになり、お互い力になって帰ることができるんです。
なお原発を推進する元締めの経産省前に、私たちの居場所があること。大勢の人の力で守っています。全国のみなさん、東京に来られたときは、寄ってください。参加し、応援してください。
たたかいは、「明るく、楽しく」「しつこく、しぶとく、しなやか、したたかに」「あきれはてても、あきらめず」。ますます繋がって、やっていきましょう。

【かんだ かおり】 1954年、福島県いわき市生まれ。講談師。戦争、原爆、原発、差別と人権などをテーマに語る。86年『はだしのゲン』、02年から『チェルノブイリの祈り』。新作『福島の祈り』も始めた。
NPOふくしま支援・人と文化ネットワーク理事長(ホームページ http://www.support-fukushima.net)