未来・第103号


            未来第103号目次(2012年4月17日発行)

 1面  大飯原発を動かすな
     再稼働の危険性は明らか

     枝野福井入りに緊急の抗議行動

     琵琶湖を守れ 大津市で集会・デモ

 2面  「迎撃態勢」のねらいは何か
     進む自衛隊の実戦訓練と南西配備

     恥知らずな排外主義 「ミサイル」キャンペーン

     核搭載可能ステルス機 F35の採用を許すな

 3面  JAL解雇撤回請求棄却の不当判決
     整理解雇4要件を解体

     高裁でひっくり返す
     JAL闘争で決起集会

 4面  原発収束作業の現場から ある運動家の報告 ―第4回―

 5面  大飯再稼働するな
     関電本店に連日抗議

     大飯再稼働反対で兵庫県に申し入れ

     投稿 「尊厳死」法制化を阻止しよう

     書評 『日本の核開発 1939〜1955 』

 6面  解放運動の新たな発展を
     部落解放同盟全国連合会 第21回大会

     本の紹介
     『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知ってること』

     迎撃は不可能 ねらいは実戦訓練 PAC3配備

       

大飯原発を動かすな
再稼働の危険性は明らか

13日夕、野田首相と枝野経産相ら3閣僚は大飯原発3・4号機(福井県おおい町)の再稼動を「妥当」と判断した。今月3日に再稼動問題を協議する関係閣僚会議を開始してわずか10日足らず。野田政権は泊原発3号機が定期検査に入り全原発が停止する5月5日までに再稼動を強行しようとしている。再稼動阻止へ、全国から声をあげ行動しよう。福井現地へ結集しよう。

14日、福井県庁前で枝野経済産業相の再稼働要請に抗議する人びと

野田政権は、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)を再稼動するために、3日から首相、藤村官房長官、枝野経産相、細野原発担当相で構成する関係閣僚会議(四者協議)を開始した。
6日に原子力安全・保安院が出した「新安全基準」は、首相の指示からわずか3日足らずで作成したもの。その内容は政府がすでに指示した緊急安全対策や保安院が3月にまとめた30項目の対策を整理しただけ。しかも中長期的な対策は、すぐに実施しなくても電力会社が工程表を作成すればよいというもの。
こんないいかげんなものを四者協議は「妥当」として、再稼動の新基準として決定した。6日の政府決定をうけて関西電力は、9日に工程表を提出。政府は即座に「新たな安全基準におおむね適合している」と判断した。
ここまで初会合からわずか6日間。協議に要した時間は4時間程度。最初から「再稼動ありき」のやりかたに一斉に非難の声があがった。

安全性無視の工程表
関電が提出した工程表は、対応済みの対策を焼き直したに過ぎない。唯一新たな対策として示した常設の非常用発電機の設置も、台数や設置場所は「検討中」。事故時に放射性物質の飛散を減らすフィルター付きのベント(排気)設備の設置は2015年度、3年も先だ。また、大飯原発には免震重要棟がない。2015年度までに建設としているが、そもそも建設する土地がなく、どこに建てるのかも明らかにしていない。

事故対策拠点が水没
さらに重大なのは、いざ原発で事故がおきた時の対策拠点の見直しや、安定ヨウ素剤を住民にどう配るかなどの、肝心の対策がほとんど改善されていないことだ。
まず住民の避難など対応策を決めるオフサイトセンター(OFC)が大飯原発では、原発から8キロしか離れていない。しかも敷地の高さは海抜わずか2メートル。津波で水没する可能性が高い。ここが使えなくなった場合は高浜原発のOFCを使うことに
なっているが、ここも海抜4メートル。両方とも津波で水没したらどうするのか。
また福井県内には敦賀、美浜をあわせて4つのOFCがあるが、いずれも放射性物質を除去するフィルターがなく、非常用電源も15時間しかもたない。外部電源が失われれば機能しない。

福井現地の闘いへ
内部被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤の備蓄や配布計画の作成は進んでいない。福井県が確保している安定ヨウ素剤は2万2千人分。防災重点区域が8〜10キロ圏から30キロ圏に拡大され対象人数がふくれあがったため、22万8千人分が不足。30キロ圏には滋賀県、京都府が入るが、ヨウ素剤は確保されていない。
関電の工程表は、大飯原発再稼動の危険性を浮き彫りにしている。
7日、大津市内でひらかれた〈大飯原発再稼動を許さない関西集会〉で、元美浜町議の松下照幸さんは、美浜町でも福島原発事故のあと、町民の多くが原発の再稼動に強い危機感を持っていると報告。しかし、いまだに国の政策と電力会社の資金力の圧力によって、「再稼動反対」の意志を表明することは困難だという。だからこそ、現地の「再稼動反対」の大衆行動に関西各地からたちあがることが地元住民にとって最大の援助となると強調した。
大飯3・4号機の再稼動阻止へ、福井現地の闘いにたちあがろう。

枝野福井入りに緊急の抗議行動

福井県庁前に400人が集まった(14日)

枝野経済産業大臣が福井県知事説得のため、14日午後に福井県庁入りしたことに対して、緊急の抗議闘争が取り組まれた。
14日朝、 各地から福井県庁の正門前に抗議の人たちが続々と集まってきた。午後3時前には40人になった。様々なのぼりや横断幕、服に張りつけた文字など多彩ないでたちで抗議行動を展開。ドラム隊も加わって、「原発反対」「福井を守れ」「琵琶湖を守れ」のコールが鳴り響く。
午後4時ころ、枝野が裏門からこっそりと県庁に入ったと知らせをうけ、県庁の敷地に入り抗議。玄関の車どめで、激しくシュプレヒコール。5時45分頃、議会棟と庁舎をむすぶ空中廊下を報道陣が移動。記者会見が終わったのだ。さらに激しいシュプレヒコールをたたきつけた。

琵琶湖を守れ 大津市で集会・デモ

「再稼働を阻止しよう」大津市内をデモ(7日)

7日、滋賀県大津市なぎさ公園で、「大飯原発の再稼働を許さない4・7関西集会」がおこなわれ、京都・滋賀を中心に関西各地から600人が集まった。
主催者として共同代表の仲尾宏さんがあいさつ。仲尾さんは「政府は5月5日までに大飯原発を再稼動させようとしている。これに対して私たちは絶対に再稼動を許さないことを決意しよう」と述べた。
福島県南相馬市から大津市に避難している青田勝彦さんは、「私は1975年から18年間にわたって、(福島)第二原発の差止請求訴訟をやって来た。、結局、裁判は負けたが、私たちが心配したり指摘したことがそのまま現実となった。東電は、事故隠し、金を使った隠蔽工作など40年間やってきた。それがこのような結果を生んだ。琵琶湖を原発事故で汚してはならない。みなさんと一緒に大飯3・4号機の再稼動を阻止する」と決意を語った。
このほか、服部良一衆院議員、福井県美浜町の松下照幸さんなどから発言をうけ、再稼動に反対する集会決議を採択。関電滋賀支店へデモ行進した。

2面

「迎撃態勢」のねらいは何か
進む自衛隊の実戦訓練と南西配備

13日朝、朝鮮民主主義人民共和国が打ち上げに失敗した人工衛星ロケットに対して、日本政府は「破壊措置命令」を出して、陸上自衛隊900人を沖縄本島と先島諸島に派遣するなど大規模な迎撃態勢をとった。この背景には自衛隊の実践部隊化と与那国島など先島諸島への自衛隊配備を進める動きがある。

日本政府は先月30日、朝鮮民主主義人民共和国が、打ち上げを準備していた人工衛星「光明星3号」の打ち上げロケット(銀河3号)をPAC3ミサイルで迎撃するために、破壊措置命令を発令した。
これを受けて自衛隊は首都圏3カ所(習志野、市ヶ谷、朝霞)と沖縄本島2カ所(那覇市、南城市)、先島諸島2カ所(宮古島、石垣島)にPAC3を配備。さらに宮古島、石垣島、与那国島には陸自部隊を派遣。また日本海から東中国海へ、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載したイージス艦3隻を出動させた。
政府は朝鮮民主主義人民共和国に対して「国連安保理決議違反」と非難しているが、安保理決議では人工衛星の打ち上げを禁止する条項はない。二つの国連安保理決議(決議1718および1874)で禁じているのは核兵器開発を目的とした核実験とそれに付随した核ミサイルの発射だ。
したがって、朝鮮民主主義人民共和国が人工衛星打ち上げのロケットを開発し、それを生産して打ち上げることになんの法的制限もないのだ。

韓国も同軌道で発射
そもそも宇宙空間を平和的に利用する権利は、宇宙条約によってすべての国家に対して認定されている〔注〕。
日本政府はこの国際条約の発効時(67年)に署名しており、朝鮮民主主義人民共和国も批准しているのだ。
人工衛星打ち上げロケットの技術が弾道ミサイル開発に転用できることを問題にするならば、銀河3号よりも巨大な日本のHUBロケットは立派な弾道ミサイルである。世界屈指のプルトニウム保有国(核兵器5500発分)である日本のロケット開発の方がはるかに危険である。
また今回の人工衛星打ち上げ軌道は黄海から東中国海上空を通過すると発表されている。これはどこの国にも属さない公海上空だ。朝鮮民主主義人民共和国は、事前に複数の国際機関に発射地点や軌道について報告しており、国際規定に則って準備を進めている。
しかも今回の軌道は、韓国が09年と10年に打ち上げた人工衛星の軌道と、ほぼ同じなのだ。韓国のときには一言も問題にせずに、朝鮮民主主義人民共和国の打ち上げロケットは迎撃ミサイルで破壊するなどという道理は通用しない。

先島諸島への配備
政府・自衛隊の動きは今回の人工衛星打ち上げを絶好の口実にして、自衛隊の大規模な実戦訓練と沖縄・先島諸島への配備をねらうものであることは明らかだ。
陸海空自の900人を沖縄本島と先島諸島に展開するのは訓練以外でははじめてのことである。石垣島だけで2台の迎撃ミサイル、自衛官450人投入。また自衛隊の配備を狙っている与那国島には、軌道からも外れ、PAC3を配備していないのに「救援部隊」という名目で150人の陸自部隊を上陸させた。これに対して「常駐に向けたパフォーマンスだ」と住民の中から怒りの声があがっている。

基地外初の実弾装填
石垣島では自衛隊の施設がないため、PAC3は国が管理する埋め立て地に配備された。その周囲では、自動小銃や拳銃を身につけた陸上自衛隊員が警備にあたっている。防衛省は今回初めて、陸自隊員に基地以外で実弾を装填した武器の携行を許可したのである。
朝鮮民主主義人民共和国への排外主義の扇動と自衛隊の実戦部隊化―先島諸島への配備を許してはならない。〔6面に関連記事〕

〔注〕宇宙条約第1条
「月その他の天体を含む宇宙空間は、すべての国がいかなる種類の差別もなく、平等の基礎に立ち、かつ、国際法に従って、自由に探査し及び利用できるものとし、また天体のすべての地域への立入は、自由である。」

恥知らずな排外主義「ミサイル」キャンペーン

朝鮮民主主義人民共和国が人工衛星うちあげのロケットを発射させたことをとらえ、「衛星うちあげに名を借りたミサイル開発」と日本政府が大騒ぎし、排外主義キャンペーンをおこなっている。
そういう日本は、いままで何回ロケットをうちあげてきたのか。すでに60回を超えている。
日本政府が「事実上の大陸間弾道弾だ」と非難している朝鮮民主主義人民共和国のロケット銀河3号と、日本の最新鋭ロケットHUBを比較してみよう。〔右の表および図参照〕
日本は、朝鮮民主主義人民共和国にさきがけて、「衛星うちあげに名を借りたミサイル開発」「事実上の大陸間弾道弾」を開発してきたということだ。しかも、その能力は比べものにならないくらいだ。
自国のロケットは「平和目的」で、よその国のロケットは「軍事目的のミサイルだ」などと、いったいどの面さげて言っているのか。政府のお先棒をかつぐマスコミの排外主義キャンペーンも許しがたい。






















核搭載可能ステルス機F35の採用を許すな

空自の次期主力戦闘機となるF35

昨年12月、政府は、航空自衛隊F4戦闘機の後継となる次期主力戦闘機として、ステルス性能が高いF35(米ロッキード・マーチン社製)を決定した。2017年3月に4機、その後順次配備し、全体で42機配備の予定。

騒音と事故が
F35は、高推力エンジンと固定インテイク(吸入口)の取り合わせにより、騒音が大きく、構造の複雑化により整備性も悪いといわれている。うるさくて、事故が多い。

核攻撃も可能
胴体内兵器倉に左右で最大4発のミサイルを搭載できる。また、一部機体に戦術核兵器搭載機能の追加が検討されている。翼下パイロン〔注〕は左右3ヵ所ずつあり各種ミサイル・爆弾が搭載可能だ。

高度な地上攻撃能力
F35A型には、 GAU22A 25ミリ機関砲(ガトリング砲)が機内に固定装備されている。また、機動性、旋回維持能力はF16に匹敵し、ステルス性、ペイロード(有効積載量)、航続距離、内部燃料搭載量、アビオニクス(電子機器・航法システム)ではF16を上回っている。
小直径爆弾と呼ばれるSDB(Small diameter bomb) はステルス性能を維持したまま搭載できるように、爆弾槽の開発がおこなわれている。SDBは精密誘導を志向した滑空式の誘導弾であり、GPSを利用した高空投下による運動エネルギーを利用した省重量設計で、貫通力が高い。

F15戦闘機との比較
現在、航空自衛隊の主力戦闘機であるF15と比較すると、速度はF15のマッハ2・5に対して、F35はマッハ1・6、航続距離はF15の46000qに対して、F35は22000qである。
この数字だけではF15よりも能力が低いように見えるが、実はF15の速度は増槽しない場合の数字であり、航続距離は増槽した場合の数字である。したがって、F15が増槽すれば、空気抵抗が増え、重量も大きくなるのでマッハ2・5で飛ぶことができず、実際にはF35と同程度の速度になると思われる。

F35戦闘機の採用に反対しよう
このように、F35は「敵から身を守る」ための戦闘機ではなく、対地・対空攻撃用のしかも戦術核兵器を搭載できる戦闘機である。ステルス機であることに、その狙いは明白だ。攻撃対象国のレーダー防衛網をかいくぐって攻撃するためである。現行機種F15と同様、日本海を越えて朝鮮半島を攻撃できる戦闘機だ。1機99億円もの高額で、騒音が大きく、事故が多く、核兵器の搭載が可能で、「専守防衛」の枠をはみ出した機種であるF35の採用を許してはならない。

〔注〕パイロン
航空機の胴体や主翼から物を吊り下げるために使われる、前後に細長い板状の支柱。

3面

JAL解雇撤回 請求棄却の不当判決
整理解雇4要件を解体

日本航空が2010年末に強行した165名不当解雇(整理解雇)の無効・撤回を求めた裁判で、東京地裁は3月29日にパイロット事案(76人「渡辺判決」)について、同月30日には客室乗務員事案(72人「白石判決」)について、それぞれ原告の請求を棄却し、解雇を正当とする不当な判決を出した。これは整理解雇の判例法理〔注〕をくつがえし、解雇自由の〈雇用破壊〉に道を開こうとするものである。まさしく労働者全体に向けられた攻撃である。

解雇は自由
整理解雇は、労働者に責任がなく、経営の都合で労働者の解雇をおこなうもので、その解雇は厳しい要件(@必要性A回避努力B人選の合理性C手続きの妥当性)が資本に強制される。これは、戦後労働運動が闘いでつくりだした判例法理。
この裁判は「更生再建中」の整理解雇事件であり、その適用がはじめて争われた事案である。また、こうした経営破たんの責任、航空という公共交通の安全にもかかわる事業体であり、厳密で慎重な判断が求められた。裁判では、会社側の主張はことごとくうちやぶられ、破綻した。会社側は、最後には「更生計画は整理解雇4要件を上回る」なる主張までもちだした。
判決は整理解雇4要件が適用されるとし、「更生計画案」をもって会社がおこなった解雇、選別、手続きなど、すべてを4要件に合ったとして正当化した。整理解雇4要件を解体する暴挙である。

稲盛証言を無視
判決は「一時黒字であっても」「更生計画の要請として、事業規模に応じた人員規模とするために人員を削減する必要があった」と解雇を認めた。
判決がいう「事業規模縮小」「人員規模」とは、人員削減協議の中で、会社が持ち出してきた(2010年9月)「稼働ベース」という指標である。この指標は更生計画にも出てこない。実際は2010年12月の時点で「更生計画」上の人員削減計画(1500名)や利益目標(641億円)をすでに大幅に達成(目標を900億円も上回る史上最高益)していた。165名の整理解雇は「必要性」「合理性」も「説得性」も全くない状態であったのである。すでに経営破綻から脱却し、利益をさらに上積みする財務状況にあったこと、人件費削減目標も大幅な超過達成が見込まれていた。この事実を、判決は一切無視した。
昨年9月30日の法廷で、稲盛会長(当時)が「会社の収益状況から言えば、誰が考えても雇用を続けることは不可能ではなかった」と、解雇の必要性がなかったと認めていた。判決は、この稲盛証言を、「主観的真情を吐露したものにすぎない」とまで言い、解雇必要性なしの根拠とはならないと会社を擁護した。必要性は「高度の」という要件がつけられているが、その検討を完全に放棄したもので、解雇ありきの判決となっている。

手続き欠如・退職強要
判決は「人員削減目標数の確定に労働組合を関与させなかった」「解雇と人件費の関係について具体的な数値で説明してない」のは「更生計画の履行としておこなわれた」ので許されると強弁。これでは、会社側の一方的な人員削減計画を、労働組合との協議なしでおこなってもよいということになる。
さらに、「整理解雇」対象者にたいする「勤務はずし」や「面談実施」を「手続きの円滑な遂行のためにスタンバイ勤務は合理性があった」と追認した。不誠実団交、退職強要や勤務はずしを合法とする資本擁護の内容である。

不当労働行為のすすめ
争議権投票への不当介入(昨年8月、東京都労働委員会が不当労働行為と認定)については、「渡辺判決」ではまったく言及せず。「白石判決」では、「不当労働行為があっても、整理解雇の相当性に影響せず」といい、「原告側が整理解雇手続きへの影響の有無、程度等をあきらかに」せよと言及。これでは、会社側は不当労働行為やりほうだいである。

解雇撤回、職場復帰を
組合のワークシェアリング提案を無視、年齢の高い順による解雇(年齢差別)、対象期間中の病気欠勤・休職等の日数を基準とした人選基準、組合活動家の排除をねらうなど、この「整理解雇」の悪質さを、両判決は完全に擁護した。
「渡辺判決」「白石判決」の論理を認めれば、企業はどれだけ利益を上げていようとも、「全ての雇用が失われる破綻的清算を回避し、利害関係人の損失の分担の上で成立した更生計画」のために必要だと言いさえすれば、いくらでも不当労働行為、組合無視、労働者の首を切れることとなる。これでは、経営上の理由による一方的な解雇から労働者を守るための整理解雇法理は、根底から形骸化されてしまう。このような判決が横行すれば、労働法の根幹は解体されてしまう。
4月2日、都内の日航本社前で終日すわりこみ抗議行動がおこなわれ、3日には原告団が、京都市の京セラ本社を訪れ、稲盛名誉会長(日航名誉会長)に「早期の職場復帰と争議の全面解決」を要求した。原告団は11日に控訴した。
大量不当解雇撤回、職場復帰めざしてたたかおう。(森川 数馬)

〔注〕判例法理
法律で明文化されてはいないが、法律の解釈について裁判で明らかにされ、同じような判例が積み重ねられることにより、一つの法理として確立されたもの。

高裁でひっくり返す
JAL闘争で決起集会

5日、「早期全面解決! 早期職場復帰! 安全で明るいJALを! 総決起集会」が都内でひらかれ、会場は600人をこえる人で満杯となった。主催は、JAL不当解雇撤回国民支援共闘。
3月29、30日の「整理解雇は合法」という地裁判決に対する怒りが会場に充満し、各発言者からは口々に不当判決に対する批判が語られた。
主催者あいさつに続いて、東京大学名誉教授の奥平康弘さん、「支える会」から早稲田大学教授(労働法)の浅倉むつ子さんが発言。弁護団の堀浩介弁護士が、不当判決に対する批判点を次のように報告した。

会社の主張を丸のみ
この判決は、整理解雇の法理(解雇4要件)を形の上では適応するそぶりを見せながら実質的には適応しなかった。不当解雇がおこなわれた2010年12月31日の時点で、どんなに経営状態が改善し史上最大の利益があっても、更生計画に人員削減目標があるから整理解雇するという論理を、徹頭徹尾追求した判決になっている。さらに、希望退職に年齢制限を設けることによって、比較的高齢者の割合が多い、たたかう労働組合を狙い撃ちにしていること、組合の中心的メンバーを解雇の対象としたこと、スト権確立の過程に不当に介入したことなどの組合差別、不当労働行為の全てを無視している。これは労働者すべてにかかわる問題だ。控訴審に向けてのさらなる協力をお願いしたい。

反撃の運動を
不当解雇から1年3ヶ月あまりの闘いの日々をまとめたDVD上映をはさんで、国民支援共闘の総会提案を同事務局長の津惠正三さんが提起。
@控訴審で不当判決を取り消し、原告全員の職場復帰を勝ち取る、A不当判決に対する広範な怒りを組織し、反撃の運動を強化する、B「支える会」会員拡大をはじめ支援態勢の強化を図る、と確認した。

解雇自由の社会許さぬ
つづいて、京都、大阪、福岡、東京中部地区の各支援共闘が、不当判決に対する怒りと今後の闘いにむけ決意を表明。
原告団からは、山口宏弥原告団長(パイロット)、内田妙子団長(客室乗務員)が発言。
山口さんは「私たちの解雇撤回闘争を通じて、解雇自由の社会を許さない、安全と公共性の日本航空の再建、司法の反動化を許さない。そのために力いっぱい闘います」と決意を述べた。内田さんは「売られたけんかは買わずにおきません。私たちはこの歴史的闘争をさらに大きく広げなければならない責任を感じています。この判決を高裁でひっくり返すためには壁は厚いし高いと思います。皆さんのこれまで以上の支援が必要ですし、私たちも全力投球していきます。勝利するまでたたかいます」と怒りを込めて発言した。
「あの空へ帰ろう」を全員で合唱し、決議文採択、団結頑張ろう! で集会を閉じた。

東京地裁前に集まった原告団・支援(3月29日)

4面

原発収束作業の現場から
ある運動家の報告 ―第4回―

悪徳企業
でも、ちょっと次元の違う意味で酷いところがあります。企業名を言うと、アトックス(ATOX)という会社。
元の名前がすごいです。「原子力代行」。代行というのは、「原発における諸雑務、一番下の仕事に人夫出しをしますよ」ということです。
カタカナとかローマ字になっているからごまかされるけど、一番ひどい会社です。ある意味、東電以上。
樋口健二さんの写真集に、「雑巾掛けが一番あぶないんだぞ」という話が出てきますが、その作業をやっているのはアトックス。

――どういう点がひどい


僕ら放管(放射線監理員)が、作業員をサーベイ(放射線測定)していると、とにかく一番無防備で、危険な作業しているのが、アトックス。作業員の線量が一番高いのです。
知っている人は、みんな、元請けがアトックスと聞いたら、その会社には行かない。アトックスには地元の人はいないです。
知らない人がアトックスに行く。東京のプレカリアート層だ。
普通に「寮付で、飯が食えますよ」と、雑誌とかホームページに出ている。
もちろん、危険な作業への従事についてなど、一言も書いていない。
たしかにアトックスでは技術は必要ないです。いまだに雑巾掛けですから。
しかもアトックスは、タイベック(※)も着せないで、低レベルの放射性廃棄物を扱わせたりとかしていている。

※高密度ポリエチレン不織布〈タイベック〉でつくられた防護服


僕らだったら、危険作業に従事していることをわかっているから、低レベルでも放射性廃棄物を扱うときは、タイベックを着て、ゴム手袋を二重にはめて作業をするけど、アトックスの人は、綿の手袋だけで、タイベックも着ない。そういうことを知らない。もしくは、下手するとゴム手袋とかタイベックを着ることを禁止されてるかもしれない。分からないけど。
だから、放管として、一番気をつけているのは、アトックスの作業員。
他の作業員は、タイベックを着ているから、それを脱いだら、そんなに線量は高くない。だから、そんなに詳しくはやらない。だけどアトックスの作業員だけは、どの放管も、とにかく、袖口とか、一番汚れやすいところを厳しくやって、すぐに水で洗うようにとかアドバイスをしています。

労働条件引き下げの先兵
原発専門で人夫出しをしたら儲かるということで、1990年代の派遣法改正のときに、真っ先にそれに目を付けたのがアトックス。それがいまや、日本では一番大きい人夫出し業者。全国区で展開している。
発注元が東電だとすると、元請けが東芝とか日立とかで、その下の1次下請けになる。1次下請けの立場で、全ての業務をこれからおさえようとしている。
人をシステマティックに集めるノウハウを持っているからですね。
ヤクザなんかとかは違う。数年前に問題になった人材派遣会社のグッドウィルみたいな感じと言えば、イメージが浮かぶのでは。
とにかく労賃がむちゃくちゃ安い。そして、元請け企業には、格安で受注しています。タイベックを着なければ、それで経費が浮きますから。
実は、原発労働者の労賃が、すごくディスカウントしているけど、アトックスの影響がものすごく大きい。
あらゆる元請けにアトックスが入り込もうとしているので、そのせいで、どんどん労賃が下がり続けている。除染作業は、アトックスがほぼ独占しようかという勢い。
だから、除染というと単価の話になって、安ければ安いほど良いかもしれないけど、実は、それが原発の被ばく労働の単価をどんどん押し下げている。
結局、アトックスが、賃金の面でも防護策の面でも、労働基準法や放射線障害防止法の壁を取っ払う役割を果たしている。
冷血ですよね。次から次へと供給できるから、労働者を使い捨てにしている。アトックスの働かせ方は、危険だと感じています。

――雇われている人たちは都市の若年層ですか


そうですね。一番若いです。ほぼ全員二十歳代。
現代の縮図みたいです。
地元の人はほとんどいない。
現場でも、アトックスの人だけ孤立してますね。かわいそうですよ。
しかも、他の下請けに行ったら、しばらくいればある程度の技術なりが身につくでしょうけど、アトックスにいたら技術も身につかないですから。何年やってもふき掃除、何年やってもごみ片付けです。

――実態はマスメディアには知られてない


知られてないでしょう。

――労働運動では


多分、僕しか知らない可能性が。原発労働者の間では有名ですよ。アトックスって言ったらもう「あんな危険なことさせてるよ」とか「あそこの除染作業をあんなダンピングの価格で請け負っちまって、おれらどうすりゃいいんだよ」とかね。

V.地元労働者と新たな貧困層

――収束作業に携わっている人たちはどういう人ですか


出身は、ほとんどが原発立地周辺の市町村です。いまも収束作業をやっているのは、泊、福島、柏崎、福井、浜岡などの人たちです。
僕の今の実感としては、8〜9割ぐらいかな。
なぜそうなっているかというと、自分の地元だから何とかしないと、という気持ちがあります。それで食ってきたから、それ以外の仕事ができない、ということもあります。二重の意味で、閉鎖的な環境で作業が行われているのです。
東京・首都圏という電力の消費地が、福島や新潟のような地方を、ある種の植民地にしたような状況にあると言えると思います。経済的に見ても、歴史的に見ても、東北というのは、低開発になるようにずっと強いられてきた。そういうところに、「雇用を生み出しますよ」という形で提示されたのが原発ということなのでしょう。

地元のつながり
現場にいて感じるのは、現場の労働者が、どの会社にいようと、東電であろうと、みんな顔見知りなのです。
小学校が一緒、中学校や高校が一緒、町が一緒という形で、みんなそこに住んでいる住民。だから、「あいつ同級生、あいつ後輩」という感じです。
東電についても同じです。地元採用枠というのがあって、一生、本社に出ることはなく、出世とは一切関係なく、地元の原発を動かしながら一生を終えるために採用される人です。
危険要員という面もあるでしょう。実際、東電の社員という一括りで非難するけど、いま一番危険な作業を行っているのは、実は地元採用の東電社員かもしれません。
危険な作業というのは、下請けだけではないのです。僕は、東電社員と一括りには、ちょっとできないなと思います。だって、「親戚の息子が東電」「知り合いの兄さんが東電」という具合ですから。
だから、現場では、同じ東電でも、地元採用の東電社員にたいする視線と、東京にいて指令を下すだけの東電社員にたいする視線は違います。

――現場で、地元採用の東電社員は


以前は、東電の社員というのは、ふんぞり返るのが仕事。作業はしない。地元採用でもそうでした。
地元採用の東電社員は、高校で一番とか、生徒会長をやったという人でしょう。現場で作業するのは、同級生でも「落ちこぼれ」の人という感じです。
いまでこそ東電の社員は、僕らみたいな協力会社の社員にも頭を下げて挨拶するようになりました。以前は、「おはようございます」と言っても無視するのが当たり前だったのに。いまは向こうから頭を下げて、「おはようございます」と言うんですよね。

新たな貧困層

――原発立地周辺以外だと、どういう人たちが


後のことはどうなってもいいという人たちがいます。そういう人たちが、1カ月に何十ミリシーベルトも浴びても構わないという風になっています。
その人たちは、そうなった事情があって、借金を背負ったりで、「一攫千金を得たい」と。千金はもらえないんですがね。それでも、「普通の仕事の倍は稼ぎたい」という人です。
「危険だ、危険だ」と言われながら、その危険がどういうものかという知識を持っていない人、知らされていない人たちです。
3・11以降、1F(福島第一原発)を中心に、そういう新しい層が、危険も知らないで、飛び込んで来ています。
1Fの収束・廃炉の作業には、これから、数十万人、百万人単位の人が必要になります。そのとき、確実に言えるのは、新たな原発労働者の層は、プレカリアートといわれている人びと、貧困に陥った若年労働者になるでしょう。

現場からもどったダンプカーを放射線測定している様子

福島県いわき市湯本の温泉街 人通りはまばらだ(今年2月撮影)

5面

大飯再稼働するな 関電本店に連日抗議

ヒューマンチェーンで関電本店を包囲(12日 大阪市内)

政府が大飯原発3・4号機の再稼働をねらい、関係閣僚会議を開始した3日以降、関西電力本店前には、連日、大阪市内はもとより、関西各地からさまざまな市民団体、個人がかけつけ、抗議の声をあげた。
6日、昼前から抗議の人々が集まり始めた。関電ビルの周囲には、カラフルなノボリ、バナー、寄せ書きの布などがあちこちに立てられ、舗道に貼り付けられた。午後には「大飯原発の再稼働をとめよう、原発のない安心安全な社会を作ろう」と、ヒューマンチェーンがおこなわれた。午後6時からは、ツイッターで連絡をとりあった人びと200人が集まり、関電ビル通用門で、「再稼働するな」の声をあげた。
週があけた9日からは、関西各地から集まった人びとが抗議のリレーハンストを関電ビル玄関前で始めた。13日までの5日間にわたり、連日30人〜50人の人が、朝10時から夕方5時まで座りこんだ。
12日午後には、再度、ヒューマンチェーンがおこなわれた。
関係閣僚会議がひらかれている13日夕方、雨がふるなかを、150人が集まり、関電ビル通用門で「再稼働やめて」と訴えた。

大飯再稼働反対で兵庫県に申し入れ

10日、さよなら原発神戸アクションなど約20人が兵庫県防災計画課に「大飯3、4号機の再稼働に反対するよう」求め、申し入れをおこなった。「兵庫県として大飯3、4号機再稼働に反対の意志表示を」「兵庫県も稼働の同意を含む安全協定を関西電力に求めること」「防災計画を全面的に改定すること」などを要求した。
防災企画室長は、「地元は福井であり、兵庫は入っていない」「万が一の避難計画を改定する用意があるが、ヒアリングをおこない、まとめるのは年内かかる」などと、煮え切らない回答に終始。
丹波からの参加者は「丹波は大飯から60キロ圏。福島の子どもたちを保養キャンプに招いている。そのためには地域が安全でなければならない」。
30年以上、原発に反対してきた神戸の田中英雄さん(保育園理事長)は、「兵庫、神戸は遠く離れているのではない。北風が吹けば放射能は3時間、5時間で兵庫、神戸にくる」「福島のみなさんの苦難を考えれば、再稼働反対を表明すべきだ」と追及した。
今後、街頭行動、集会、座り込みなどを強める。

投稿 「尊厳死」法制化を阻止しよう

昨年12月8日、超党派の国会議員が参加する「尊厳死法制化を考える議員連盟」(以下、「尊厳死議連」)は、「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」を発表した。
主治医以外の2人以上の医師が、死期が真近(これを「終末期」と呼んでいる)と判定すれば、患者が書面などにより示していた意思に基づき、新たに人工呼吸器をつけたり経管栄養や胃瘻(いろう)などで水分や栄養の補給をしないようにする、というものだ。これでは、人工呼吸器などをつけて生活している人たちは「贅沢をしている者」とされ、そうした治療が必要な人も受けられなくなるだろう。
人にとって、息ができないこと、のどが渇き続けること、空腹であることは苦しいことであるのに、なぜそれを「尊厳死」などという言葉で死なせたいのだろうか。それは「生きる価値がない」という思想があるからできることだと思う。
「尊厳死議連」は、今年に入っても検討を続け、今の通常国会への法案上程を狙っている。
これに対して、全国「精神病」者集団をはじめとして、次々と反対声明が上がっている。全国青い芝の会、DPI、人工呼吸器をつけた子の親の会(バクバクの会)、日本ALS協会、日弁連、怒っているぞ!障害者きりすて・全国ネットワークなどである。

国会上程を阻止しよう
「尊厳死議連」は、3月22日に法案としての形式を整えて、新たな案を提出した。これを各党で議論し、法案の国会上程を狙っている。
昨年12月8日に出されたものと比べると、「延命治療の不開始」についての家族の同意をなくし、〈本人の意思〉だけにしている。「終末期」かどうかについては、〈主治医ともう一人の医師で判断する〉と変えた。いずれにしても、死なせる手続きを簡略化している。
国と地方公共団体には、「終末期の医療について国民の理解を深めるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と、啓発の責務が課されている。そして、臓器移植法のように「延命措置の不開始を希望する旨の意思の有無を運転免許証及び医療保険の被保険者証等に記載することができる」ようにするなどの措置をおこなうとしている。この法案は、臓器移植法とよく似た構造を持っている。
何を「国民」に理解させるのか、全く無限定である。やろうと思えば、オランダやベルギー、アメリカの一部の州で行われている「積極的安楽死」(毒薬を飲んだり、注射したりして死なせること)のキャンペーンや、欧米で広がりつつある「無益な治療」という考え方さえキャンペーンできることになってしまうのではないだろうか。
同議連は、昨年8月には91人だったが、3月22日時点では112人になっている。顔ぶれは、首相や厚労大臣経験者も並んでいるが、小宮山厚生労働相もその一人だ。法案が採決された場合には、通る可能性が高い。
だから今、反対の声を挙げて、国会への法案上程を阻止していかなければならない。(K)

書評 『日本の核開発 1939〜1955』

この本は「戦前・戦中編」と「戦後編」の二部構成になっている。長大な論文なので、戦前・戦中編(約百ページ)のみを対象にして、日本の核開発の揺籃期の様子をまとめた。
アメリカのマンハッタン計画(米、英、カナダ)によって、原爆が開発され、1945年に広島・長崎に投下された。ドイツでは、同年3月に原子炉の臨界実験がおこなわれた。

日本の原爆研究
日本では、1940年頃から、理化学研究所(理研、仁科芳雄)と陸軍が原爆に関する調査・研究を始めたが、「予算は2千万円、ウラン1トン未満」という小規模な研究だった。アメリカの研究規模はウラン鉱石の確保の量からして、日本とは比べものにならなかった(1944年10月までに3670トンの酸化ウラン)。
日本の原爆研究は基礎研究程度だったが、1942年、仁科芳雄は「お国のために役立つ研究(軍事応用研究)」の決意を固め、翌43年、東条英機と会った。東条は「米独で原爆製造計画が相当進んでいる。遅れたら戦争に負ける」と言って、安田武雄に「陸軍航空本部が中心となって核開発」するよう命じた。
理研の核開発は仁科の頭文字をとって「ニ号研究」と呼ばれ、44年7月からウランの分離実験を始めた。
一方、海軍は44年、京大に研究を委託(F研究)した。京大では広島型原爆に相当する「速い中性子の反応」を研究した。東京計器で遠心分離法によるウラン濃縮実験をおこなったが、製品にならなかった。
仁科芳雄は陸軍にウラン資源(2トン)の確保を依頼。軍はドイツの占領地チェコからピッチブレンドを入手し、2隻の潜水艦で搬送したが、米軍に電報を傍受されていて、1隻は撃沈され、もう1隻(五六〇キロの酸化ウラン)はドイツが敗戦した時に投降したので、日本には届かなかった。

朝鮮でウラン採掘
44年六月から朝鮮黄海道の菊根鉱山でウラン鉱石を採掘し、4〜5%の酸化ウランを含むフェルグソン石3トンを確保した。8月からは福島県石川町で、中学生を動員して、750キログラムのウラン鉱石を採掘したが、敗戦で使えなかった。
45年4月14日の東京空襲で、理研の熱核分離塔が焼失した。分離測定実験は失敗し、理研での計画中止を決定した。仁科研究室の宇宙線研究室が金沢に疎開しており、金沢で分離塔建設構想が立てられ、陸軍は大阪で分離塔を建設したが、敗戦を迎えた。
8月6日に広島に原爆が投下され、仁科芳雄は広島に向かった。玉木英彦への手紙には「・・・万事は広島から帰って話をしよう。それ迄に理論上の次の問題を検討して置いて呉れ給へ。普通の水の代りに重水を使ふとしたら、ウランの濃縮度はどの位で済むか、又そのウランの量は如何?」と、仁科はあくまでも原爆製造に意欲を持っていた。

人間にたいする被害の発表はするな
陸軍参謀中佐の新妻清一は「人間ニタイスル被害ノ発表ハ絶対ニ避ケルコト。コレニ関スル発表モサケルコト」と通達し、8月14日の仁科芳雄の談話(8/16朝日新聞)から残留放射能に対する注意の部分が削除されるなど、原爆の被害(特に二次被害)の危険性を警告せず、軽視したことによって、入市被爆者11万人を生みだした。
福島原発事故でも、政府と東電は放射性物質の飛散状況を知らせず、多くの市民に被ばくを余儀なくさせた。政府の体質は、戦時中と何等変わらない。

科学者の戦争責任
戦後、多くの科学者は「科学者として戦争に協力したことの責任」に無自覚だ。荒勝文策は「若い研究者を戦場に向かわせないために原爆計画に関与」したと言い、武谷三男は「この研究をやっておれば、兵隊にとられることもないという点にも魅力があった」と語っている。44年5月に、武谷は特高に逮捕されたが、陸軍の核開発に係わっていたので釈放された。
核開発研究者・技術者は残虐兵器原爆の製造に関与したが、成果が小さかったので非難されなかっただけであり、戦争責任とは決して無縁ではない。科学者が戦争について真摯に反省しないから、いまだに、原子力ムラなどが大手を振っているのだ。(竹内二郎)

山崎正勝著 績文堂 2011年12月刊 3200円+税

6面

解放運動の新たな発展を
部落解放同盟全国連合会 第21回大会

7日、8日の両日、東大阪市の荒本人権文化センターで、解放同盟全国連第21回大会が開催されました。
運動方針案では、中央本部・中田潔書記長から「差別糾弾闘争を基軸とした三大闘争を堅持しつつ、勇気をもって改革に踏みだそう」と題して、@「格差是正」要求から脱却し、全民衆的なたたかいの先頭にたとう、A青年にとって魅力ある運動へ―部落解放運動と青年との接点を豊富化しよう、B部落の地域的「自治」を復権させよう、の3点が呼びかけられました。
来賓あいさつで、広島修道大学の森嶋吉美教授は「震災をめぐって、『復興』や『ふるさと』が喧伝されている。『復興』とは『元に戻す』ということ。だがそれでいいのか。ドイツの友人たちは『瓦礫は閉じこめ、人を避難させるべき』と口々に言ってくる。広島では被災地住民のサテライト避難受け入れを始めている。私はその人たちを福島に帰したくない。3・11を、原発を受け入れてきた日本の民衆が変わるきっかけにしなければならない」と訴えました。
〈子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク〉の中手聖一さんは「被災地からのアピール」をしました。これを受けて、全国各地から反原発のとりくみが報告されました。
狭山第三次再審闘争について、小森勝重糾弾闘争本部長から、「年内にもなんらかの決定が出される緊迫した情勢を迎えている。検察が筆跡及び死体についての新鑑定を出すと伝えられている。裁判所は、検察・弁護団双方の鑑定人を呼んで事実調べをおこなうべき」との訴えがなされ、「全証拠の開示と事実調べを求める大会決議」があげられました。また、長野結婚差別事件糾弾闘争、西宮芦原地区住宅裁判など、各地からの貴重なとりくみの報告と討論がおこなわれました。
新たな解放運動の発展をめざす全国連の闘いに学び、連帯して、共に闘いたい。(投稿 S)

本の紹介 『本土の人間は知ら
ないが、沖縄の人はみんな知ってること』

日本全土のわずか0・6%(沖縄本島だけなら0・3%)の沖縄県に、在日米軍基地面積の約70%が集中しているとは、よく言われる。しかしこの本を読むと、本土、ヤマトのどれだけの人が、その数字を知っているのだろうかと思わされる。知ってはいても実際の米軍基地、施設の数や役割、実態について概略でも言える人は、そう多くはないだろう。伊江島を「いおうじま」、嘉手納を「かねだ」と言う防衛大臣は論外としても、である。
この本は昨年6月に出版された。那覇軍港、キャンプ・キンザーから陸軍貯油施設、伊江島演習場までの28の米軍基地、施設をていねいに紹介している。それぞれの基地について、@基地の、いわゆる「観光的」ガイド、A基地をめぐる写真、Bそして基地の背景。「沖縄・基地観光ガイド」の体裁であるが、「沖縄、沖縄米軍基地とは何か」に、執拗にこだわる。もちろん観光のつもりで読み流せる本ではない。
もう一つの柱は、「(アメリカは)イラクから7年で『撤退』したのに、なぜ沖縄には66年も居座るのか」「鳩山首相は、なぜやめたのか」「細川首相が、やめた背景」、さらに「60年安保」「沖縄返還」にさかのぼる。それこそ「沖縄の人はわかっている」が、本土の人は「鳩山が、できもしない県外を言い、迷走した」「(米軍基地は)安全保障、抑止力のため」と、たやすく看過してしまっているのではないか。テレビ、新聞などで「識者」らがとくとくと言う「鳩山迷走が、普天間を固定化した」という図式。それが、どれだけ本末を転倒させたものか見えてくる。
昨年、手にした知人が「集会に1泊で行くのでは駄目だ。1週間ほどかけて回ってくる」と、さっそく出かけた。ところが高江ヘリパッドの座り込みが緊迫。折も折、沖縄防衛局長の、引用も憚られる暴言が暴露され、「基地めぐり」どころか座り込みと闘争参加に終始した。そういう本として効能は抜群である。
普天間上空のヘリ編隊飛行の見開き写真。普天間に駐屯するのは「輸送、救援ヘリ」と聞いていたが、「敵地に突っ込む戦闘訓練」であることが迫ってくる。嘉手納に着陸するF22ラプター(ステルス)戦闘機からは、「この世のものとは思われない」轟音が聞こえてくるようだ。全編に、基地をめぐる沖縄の人々の想い、写真家と筆者の気概があふれる。
取材の際「沖縄、基地への知識も十分になく、知り合いもなく」、ところが「出会う人、出会う人が撮影のベストスポットを教えてくれ、説明する」「それは沖縄の人たちの共同作業、一つの闘いの形なのだ」「米軍基地の問題を知ると同時に、あらためて沖縄の魅力にふれてほしい」(「はじめに」「読者のみなさんへ」)というあたりに、意外と深い意味が潜む。352ページほとんどカラーグラビア写真で、この価格はお買い得。(俊)

須田慎太郎(写真)、矢部宏治(文)、前泊博盛(監修)
書籍情報社 2011年6月刊 1300円+税

迎撃は不可能
ねらいは実戦訓練 PAC3配備

政府はPAC3によって「弾道ミサイル」の迎撃が可能であるかのように宣伝しているが、専門家の多くは「迎撃は不可能」と断言している。
弾道ミサイルは秒速2〜7キロという猛烈なスピードで落下してくる。したがって、これを迎撃できるのは、相手側の攻撃地点が判明し、軌道を予測できる場合だけだという。朝鮮民主主義人民共和国が打ち上げる人工衛星の軌道は日本の領土・領海上を通らない。もしも「日本の領土・領海に落下する」場合は、ロケットは軌道を外れている。これを迎撃することなど100%不可能だ。
また政府は「人工衛星打ち上げの失敗による落下物」を迎撃すると言っているが、ロ
PAC3の発射実験
ケットの破片は大気圏突入でほとんど燃えつきる。むしろPAC3の破片が民家に降り注ぐ可能性の方が高い。
PAC3の命中率は8割以上と言われているが、とんでもない。91年の湾岸戦争の時は、イラクのスカッドミサイルの9%しか破壊できなかった。この報告をおこなったのは、米国会計検査院(GAO)である。
98年に朝鮮民主主義人民共和国が1回目の人工衛星打ち上げをおこなった時、小泉政権は1兆円規模のミサイル防衛システムを導入した。人工衛星打ち上げをめぐる政府の異常な対応が、軍事予算の増大と自衛隊の実戦配備にあることは明らかだろう。