二 現代革命と史的唯物論の再建
   ――『ドイツ・イデオロギー』レジュメ
 
 反帝・反スターリン主義に立脚した現代革命論の構築にとって、スターリン主義的に歪曲されたマルクス史的唯物論を革命的に再建することは不可欠の歴史的課題である。しかも日本におけるその試みが黒田寛一的限界と反動化のもとにおしとどめられてきた現状を革命党の側から大きく突破してゆくことこそ、永年にわたるわれわれの念願であり、わけても本多書記長の強く希求するところであった。七一年三月末の出獄以後、本多書記長はレーニン主義革命論や戦争論にかんする考察・執筆作業に精力を注ぐ一方、この領域での理論的前進と党内の理論武装をめざして、マルクスの古典論文にかんすむ一連の学習会活動をみずから組織していった。ここに掲載するレジュメはその一端を示すものであるが、七五年三・一四反革命によって無念にもその端緒の段階で中座させられたこの課題をひきつぎ実らせてゆくことは、いうまでもなく現にあるわれわれの必須の任務である。
 なお、文中の『ド・イデ』、D・Iは『ドイツ・イデオロギー』のこと。『起源』は『家族・私有財産および国家の起源』の意。ページ数は岩波文庫版のもの。
 
 
 《現代革命と史的唯物論の再建》《社会的生産の本質論》《社会的生産の現実形態》
 
 
《現代革命と史的唯物論の再建》
 
(一)戦後世界体制の崩壊的危機
(1)帝国主義の戦後世界体制の解体的危機
(2)スターリン主義の歴史的破産
(3)階級闘争の高まり
(4)革命的情勢への過渡の成熟――反帝・反スタ戦略の現実性
 
(二)反帝・反スタ基本戦略の三つの構成
(1)共産主義の解放原理
 @賃労働者の歴史的使命――自己解放・人間解放
 Aプロレタリアートによる資本の積極的止揚
 B階級闘争をとおしてのプロ独の樹立
 C共産主義者――実践者と認識者の統一
(2)世界革命の完遂
 @資本主義の帝国主義段階論
 A社会主義社会論――過渡期の政策論
 B世界革命の過渡期
 C新しい型の党
(3)現代世界の根底的転覆
 @帝とスタの戦後世界体制(過渡期の平和共存的変容形態)の全面的打倒 反帝・反スタ世界革命戦略
 A反帝国主義
 B反スターリン主義
 C反帝・反スタの党の建設
 
(三) カクマルによる反帝・反スタ基本戦略の歪曲
(1)マルクス主義の修正
(2)レーニン主義の解体
 @革命論
 A段階論
 B独裁論
 C党組織論
(3)組織現実論(区別と連関論)の反革命的本質
(4)反革命の党 組合主義と突撃隊の結合
 
(四)史的唯物論のスターリン主義的改作
(1)世界革命の一国社会主義的歪曲
 @ロシア革命孤立・後進・遅延
 Aネップ
 Bレーニンの死去
 Cスターリンの一国社会主義論
(2)マルクス主義、レーニン主義の改作
 @世界革命論の放棄 一国社会主義の自己目的化
 A過渡期社会の変質
 B社会主義社会論――過渡期政策論の歪曲
  *量による分配→量と質による分配
 C史的唯物論の改作
(3)史的唯物論の歪曲
 @唯物弁証法と自然弁証法の等置(体系的混乱)
 A生産の概念の歪小化(労働と生殖→「物質的財貨の生産」)  *家族論の問題
 B法則の物神化
 C土台と上部構造の一対一対応化
 D生産力・生産関係の歪曲
  @関係概念化
  A生産諸力からの労働対象、ある種の労働手段の追放
    *大地の問題
  B生産力、生産手段、技術etcの超歴史化
 
 
 弁証法的唯物論の体系
  唯物弁証法  自然弁証法――自然科学
         唯物史観――社会科学
     *スターリンの『弁証法的唯物論と史的唯物論』の誤り
 
《社会的生産の本質論》
 
 (一)考察の前提――出発点としての現実的諸個人
  ・「われわれが出発する前提は、なんら任意のもの、なんら教条ではない。それは、ただ想像のうちでのみ捨象されうるところの現実的な前提である。それは、現実的な諸個人、かれらの行動であり、そして眼のまえにみいだされもすれば、自分自身の行動によってつくりだされもするところのかれらの物質的な生活条件である。したがって、これらの前提は純粋に経験的なやりかたで確認されうるのである」(『D・I』二三ページ)
  *唯物論
  ** 『草稿』の「類的人間」
  ***場所的論理と歴史的論理
 
 (二)人間生活の社会的生産(社会の本質としての)
 (a)労働における自己の生活の生産と、生殖における他人の生活の生産(『D・I』三六ページ)
  ・「唯物論の見解によれば、歴史における究極の決定的な契機は、直接的な生活の生産および再生産である。しかし、これは、それ自体また二種にわかれる。一方では、生活手段すなわち衣食住の対象の生産と、それに必要な道具の生産。他方では、人間自身の生産、種属の繁殖。そのもとで一定の歴史的時代および一定の国土の人々が生活するところの社会制度は、二種類の生産によって、すなわち、一方では労働の、他方では家族の発展段階によって、制約される」(『起源』)
(b)根源的な歴史的諸関係の四つの契機
 @生活手段と、それを生産する生産手段の生産
 ・「人間は『歴史をつくり」うるためには、生きていくことができなければならぬ」「ところで生きるのに必要なのは、なによりもまず、食うことと飲むこと、住むことである。したがって、第一の歴史的行為は、これらの欲望をみたすための手段の生産、すなわち物質的生活そのものの生産である」(『D・I』三四ページ)
  * 「第一の」基底的な
 A欲望の産出
 ・「満足された最初の欲望そのもの、満足させる行動、および満足のためのすでに手にいれた道具があたらしい欲望へみちびくということ」「あたらしい l欲望のこの産出こそ、第一の歴史的行為なのである」(前同三五ページ)
  *前同
B生殖(人間による他の人間の生産)
  *教育との関係
 ・「自分自身の生活を日々あらたにつくる人間が、他の人間をつくりはじめること、すなわち繁殖しはじめること」 「夫と妻との、親と子との関係、すなわち家族」(前同三六ページ)
C協働
・「生活の生産は、労働における自己の生活の生産も、生殖における他人の生活の生産も、そのまますぐに二重の関係として――一方では自然的な、他方では社会的な関係としてあらわれる。ここに社会的というのは、どんな条件のもとにしても、どんな様式によるにしても、また、どんな目的のためにしても、いくたりかの個人の協働という意味である。ここからつぎのことがあきらかとなる。すなわち、一定の生産様式あるいは産業段階は、いつも一定の協働様式あるいは社会的段階とむすびついており、この協働様式が、それ自身一つの『生産力』であるということ、そして人間の達しうる生産諸力の量は、社会的状態を制約し、したがって『人類の歴史』はいつも産業および交換の歴史とのつながりにおいて研究され論究されなくてはならない、ということである」 (前同三六ページ)
    *スターリンによる「生殖」の抹殺
    **宇野のいわゆる経済原則の問題
(c)前提的な補足
 @自然と人間
 ・「すべての人間史の第一の前提は、もちろん生きた人間的個体の生存である。したがって、確認されうる第一の事態は、これら個人の身体的組織と、そして、これらによってあたえられるところの、その他の自然へのかれらの関係である」 (前同二四ページ)
    *人間的自然と自然的な自然
 A人間の感性的な活動と、他の動物の「活動」
 B労働と消費の統一 必要労働と剰余労働の統一
 
(三)労働過程
 (a)労働過程の構造
 @資本論の構成〔下図参照〕
 A労働過程=資本の生産過程から歴史性と社会性を捨象したもの
 (b)労働の三つの契機
 @労働力
 A労働手段  
 B労働対象   生産手段
 (c)労働の三つの特質
 @目的意識性
 A技術性(法則性、法則、合法則性)
 B自己変革性
    *法則の問題 法則と社会の法則
 
資本の生産過程
        資本の直接生産過程
           労働過程
           価値形成増殖過程
             絶対的剰余価値の生産
             相対的剰余価値の生産
         資本の流通過程(第二巻)
 
(四)生産力と生産関係
 (a)生産力
 @人間による自然の支配力の度合 社会的に統制される自然力
 A労働の生産力
 B生産諸力とその実体的な統一
(b)生産関係
 @協働 労働関係
 A生産手段の分配
 B労働力の分配    分配関係
(c)生産力と生産関係
 
≪社会的生産の現実形態≫
 
(一)生産と所有の分裂 社会の階級社会への転化
(a)生産と所有の統一
 @生産手段の共同的所有と、それにもとづく協働の共同性
 A生産と所有、労働と消費の統一
 B生産力の発展にもとづく剰余労働の共同体的な所有 蓄積と分配
(b)分業と私有財産
    *「性的分業」と社会的分業
 @生産と所有の分裂
 A社会的分業――私有財産 生産と生産物
 B剰余労働の搾取
(c)階級社会
 @無階級の共同社会
 A支配階級、――被支配階級の関係
 B剰余労働の収奪関係、搾取関係
    *剰余労働の蓄積としての文化
 
(二)人間労働の自己疎外
(a)「疎外された労働」論の意義
(b)人間労働の自己疎外
 @労働力の対象化→人間労働の自己疎外
 A生産物からの疎外
 B人間の人間からの疎外=階級分裂
 C種属生活からの疎外=肉体労働と精神労働の分裂
(c)その問題点
 @認識対象の場所的直接性 生産関係論の欠落
 A剰余価値論、価値法則論の欠落
 B共産主義運動の未成熟
 
(三) 歴史的形態論
(a)歴史的形態論の構造
 @人間社会の歴史的な発展段階
 A所有関係、階級関係の歴史
 B諸形態(とりわけ資本制)の特殊歴史性の解明
(b)簡単な図式〔下図参照〕
     *種属的所有の問題
     **アジア的生産様式の問題
 
社会的生産の本質形態…………原始共産制社会
 
     奴隷制
     ↓
     封建制
     ↓
共産主義← 資本制
 
@無階級社会
A階級社会 疎外された労働の三大形態
 @奴隷制
 A封建制(農奴制)
 B資本制(賃奴隷制)
 C 労働者国家 階級社会を廃絶する階級社会
 B共産主義社会
(c)資本制社会の特殊歴史性
 @政治的国家と市民社会の分離
  @ 市民社会の本質――資本主義社会のイデオロギー的な表現
    *平等のスローガンを商品交換のうえに基礎づけることができるか
  A 政治的国家――虚偽の共同性と、そのもとでのブルジョア独裁
  B 階級支配の廃絶とブルジョア社会の止揚
 A資本主義の基本矛盾
    * 「生産の社会的性格と取得の私的性格の矛盾」
    **純粋資本主義と現実の資本主義法則の問題
  @ 生産の規定的動機としての剰余価値の生産
  A 労働力の商品化 それを基礎とした全社会の機構化
  B 階級関係――階級闘争の必然性
 B階級闘争
  @ 解放の主体としてのプロレタリアート
  A 自己解放・人間的解放の歴史的使命
  B プロレタリア独裁
 
(四)国家と法
(a)国家の本質
@虚偽の共同性
  ・「社会的活動のこのような定着化、われわれをおさえる物的な強力へのわれわれ自身の生産物のこのような固定化こそ、いままでの歴史的発展における主要契機の一つである。まさに特殊利害と共同利害とのこの矛盾にもとづいて、共同利害は、個別および全体の現実の利害からきりはなされて、国家としての一つの独立的な姿をとる。そして、それは、同時に、また幻想的な共同性としてである」(『D・I』四四ページ)
 A特殊な抑圧力 一つの階級が、他の階級を抑圧するための組織的な暴力
 B経済的に支配する階級の国家
(b)国家の歴史的諸形態
 @国家の諸形態の基礎
 ・「生産条件の所有者の直接的生産者にたいする直接的関係――この関係のそのつどの形態は、当然つねに労働の仕方の、したがってまた、労働の社会的生産力の一定の発展段階に照応している」(『資本論』第三巻)
A歴史的発展の産物
・「法的諸関係ならびに国家諸形態は、それ自身からも、また、いわゆる人間精神の一般的発展からも理解されうるものではなく、むしろ物質的な諸生活関係に根ざしているものであって、これらの諸生活関係の総体をヘーゲルは、一八世紀のイギリス人およびフランス人の先例にならって、『市民社会』という名のもとに総括しているのであるが、しかし、この市民社会の解剖学は、経済学のうちに求められなくてはならない」(『経済学批判』序言)
・「諸個人のたんなる『意志』には決して依存しないところのかれらの物質的生活、交互に制約しあうところのかれらの生産様式および交通形態こそ、国家の実在的な土台である。そして、それらは、分業と私有がまだ必要であるようなすべての段階にわたって諸個人の意志からはまったく独立に、そのような土台としてとどまる。これら現実的な諸関係は決して国家権力によってつくりだされるのではない。それらはむしろこれをつくりだす力である」(『D・I・』一九三ページ)
  *市民社会論と資本主義社会論の異同
 
B歴史的諸形態
 @ 原始共産制
 A 奴隷制国家
 B 封建制国家
 C 資本制国家
 D 労働者国家
 E 共産主義 第一段階(低次の)
        第二段階(高次の)
(c)統治形態
 @ブルジョア独裁とその統治の諸形態
   *ブルジョア独裁=ブルジョア民主主義を主張するカクマル
 A国家の相対的独立性
 B統治形態