『経済学・哲学草稿』レジュメ
 
 「経済学・哲学草稿』は、マルクスおよびマルクス主義の古典的基本文献のうちでも、とくにポピュラーなものの一つである。初心者にとって格好な学習テキストというだけではなく、プロレタリア革命運動、とくに反帝・反スターリン主義運動の思想的立脚点の形成、深化にとって、この『経・哲草稿』や『ドイツ・イデオロギー』はきわめて重要な位置をもつ文献である。若きマルクスのこれらの諸著作にどのような視点からアプローチし、どのように追体験的再構成をこころみるか、そのこと自体がすでに重大な理論的意味を有している。このレジュメは、本多書記長が七一年の出獄後におこなったある学習会で使用したものである。
 なお、文中『ド・イデ』または『D・I』とあるのは『ドイツ・イデオロギー』のこと。また引用個所のページ数は岩波文庫版のものである。
 
 
〔T〕現代世界の根底的変革と、その思想的立脚点
 
(A)戦後世界体制の根底的動揺と、その特徴点
 
(1)帝国主義戦後世界体制の成立とその危機  経済、軍事=政治、文化の諸相
(2)スターリン主義の歴史的破産
(3)階級闘争の新しい質 旧植民地・後進諸国、帝国主義本国、スターリン主義圏
(4)根底的変革の綱領的立脚点としての「反 帝・反スタ」戦略
 
(B)現代世界の歴史的構造と、その根底的変革のための思想的立脚点
 
(1)マルクス主義の現代的展開 人間解放――自己解放、解放の世界史的担い手としてのプロレタリアート、共産主義者=実践 の主体と認識の主体の統一
(2)世界市場論と世界革命論 マルクス『草稿』『ド・イデ』『宣言』『資本論』『フランスの内乱』『ゴータ綱領』etc
(3)帝国主義論=戦争と革命の時代 レーニン『何をなすべきか』『帝国主義論』『国家と革命』『左翼小児病』
(4)過渡期と、その内容 三〇年代的選択の世界史的意義
(5)戦後的再編と、その根底的動揺
(6)プロレタリア世界革命の現実性
 
(C)現代世界革命論の若干の問題点
 
(1)危機の世界史的統一性
(2)プロレタリアート自己解放=人間的解放の立場
(3)現代の戦争の特質と、戦後革命の現実性
(4)旧植民地、後進国解放闘争の意義と役割
(5)プロレタリア独裁の問題
(6)過渡期社会の変容とその打開の道
(7)現代におけるイデオロギー闘争
(8)党のための闘争
 
〔U〕史的唯物論のスターリン的改作と、マルクス主義の再建
 
(A)弁証法的唯物論の構造的体系
   唯物弁証法 自然弁証法        ……自然諸科学
         社会弁証法(唯物史観)  ……社会諸科学
     *技術論、経済学の位置と役割
 
(B) スターリンによる史的唯物論の歪曲
(1)生産の概念を「物質的財貨の生産」に歪小化
(2)生産力、生産関係etcのカテゴリーの関係概念化
(3)生産諸力からの労働対象、ある種の労働手段の追放(例)土地
(4)生産力、生産手段、技術etcの超歴史化、超階級化
(5)土台と上部構造の一対一対応化
(6)法則の物神化
   *マルクス主義における家族論の問題
 
(C) 歪曲の社会的基礎 世界革命の放棄=過渡期社会の変質
 
(D)プロレタリアート自己解放=人間的解放論としてのマルクス主義
(1)政治的解放と人間的解放
(2)人間的解放の世界史的担い手としてのプロレタリアート
(3)プロレタリアート自己解放の条件としての人間の人間的解放
   *実践の主体と認識の主体
   **政治の止揚、政治の論理
 
(E)『経・哲草稿』と『ドイツ・イデオロギー」』の位置と役割
 
 〔V〕 『経・哲草稿』の学び方
 
 (A)近代ブルジョア革命の達成点としての人間の政治的解放 (1)封建制社会における身分制的秩序
 (2)ブルジョア階級の興隆と、それを基礎としたブルジョア革命
 (3)自由、平等、博愛のスローガンの意味!
  ブルジョア革命と共同利害(D・I 六八――六九ページ)
 (4)政治的国家と市民社会の分裂 政治的国家の公民という精神的側面における虚偽の「共同性」の付与 市民社会的諸個人 という物質的側面における個別利害の赤裸々な衝突の現実的展開
 (5)私有財産の運動――ブルジョアジーとプロレタリアートの階級闘争
 (6)人間の人間的解放の不可避性 その前提条件としての資本の生産力の飛躍的発展と、プロレタリアートの大量的産出
 
(B)若きマルクス
 (1)近代ブルジョア革命とドイツ哲学
 (2)ヘーゲル哲学の解体とドイツ革命の切迫性
 (3)若きマルクスの思想的苦闘 @『学位論文』、A『山林盗伐法にかんする討論』、 B『ヘーゲル国法論批判』、C『ユダヤ人問題について』、D『ヘーゲル法哲学批判序説』
 (4)『経・哲草稿』――ヘーゲル批判→人間的解放・プロレタリア自己解放論→「市民社会の解剖学」としての国民経済学の批判的摂取→私有財産=「疎外された労働」論の確立とプロレタリアートによる私有財産の積極的止揚としての共産主義論の追究
 (5)『ドイツ・イデオロギー』――社会的生産論を基礎とした社会史の構成=近代市民社会の特殊歴史性の対象化=現実を廃棄する現実の運動としての共産主義
 
(C)「疎外された労働」論
 (1)国民経済学は私有財産という事実から出発する。われわれは国民経済学上の項に存在する事実から出発する
 ・労働者の生産の力の増大→労働者の貧困の増大
 ・事実世界の価値増大→人間世界の価値低下
 ・労働は商品を生産するだけでなく労働者自身を生産する
 (2)労働の転倒
 ・労働の実現は本来的には労働の対象化
 ・しかし国民経済学的状態のもとでは、労働の実現→労働者の現実性剥奪、対象化→対象の喪失、対象への隷属、対象の獲得→疎外、外化
 (3)「疎外された労働」の四つの規定
 @労働者の生産物の疎外、喪失(自然を疎外)
 A労働の疎外(自己の生命活動を疎外)
 B類的生活からの疎外(人間から類を疎外)
 C人間の人間からの疎外(社会の階級への分裂)
   *本質論的構成ではA→@。
(4)私有財産の止揚
・私有財産とは、@外化された労働の産物、A労働がそれによって外化される手段、B外化の実現
・私有財産と労賃の一挙的廃棄(ブルードンの誤り)
・私有財産、隷属状態からの社会の解放が労働者の開放という政治的かたちで表明されるということ。〔「一般的人間的な解放が労働者解放にふくまれているというのは生産にたいする労働者の関係のなかに人間的な全隷属状態が内包されており、また全ての隷属関係は、この関係のは、この関係のたんなる変形であり、帰結であるにすぎない。〕
(5)労働者および労働にたいする非労働者の所有関係
 
(D)「私有財産と共産主義」論
(1)自己疎外の止揚は、自己疎外と同じ道をたどっていく
(2)共産主義の最初のすがた=私有財産の普遍化と完成
(3)政治的な性質の共産主義 国家の止揚をともなうが、完成されていない共産主義
(4)人間の自己疎外としての私有財産の積極的止揚としての共産主義
(5)私有財産の止揚のトータルな人間性
(6)人間の自立
 
(E)『経・哲草稿』の問題点
(1)認識対象の場所的直接性
 ・『ド・イデ』――近代市民社会の特殊歴史的性格の明確化
 ・『資本主義的生産に先行する諸形態』――プロレタリアートの創世記(生産手段からの分離、土地からの分離、生活手段からの分離、共同体からの分離)
 ・『資本論』二四章――本源的蓄積
(2)剰余価値論、価値法則論の問題
(3)共産主義連動の未成熟
(4)『直接的生産過程の諸結果』→『資本論』としての発展