二 フランス帝国主義の中国承認問題について
 
 本稿は、一九六四年年頭のフランス帝国主義・ドゴールによる中国承認という戦後史を画する新事態にたいして、革共同全国委員会・政治局の特別声明というかたちでわが党の見解を鮮明にうちだしたものである。このなかで著者は、米ソによる戦後的分割支配体制の動揺と中ソ対立の激化、中国社会の「自力更生」路線の破産と矛盾の激化、そして米仏および日本帝国主義の危機の深まりと帝国主義的対外進出の動向等について明快な分析と洞察を与えている。
 
 
    (一)
 
 フランスのドゴール政府は、一月二七日正午、<中国政府との外交関係の樹立>を正式に宣言した。
 構造改革路線に支柱を求め労資協調路線を完成しつつある社会党・総評の主流派、および日共を脱党した構造改革諸派は、<平和共存への巨歩>として評価し、他方、反米闘争路線を強化し自民党の良心分子との<民主連合政府>を夢みつつある日本共産党主流派および社会党内の反米派は、<国際的な反米統一戦線の巨大な前進>として評価しつつ、ともに、日本独占資本の対中接近と池田政府の日中国交への明確な政策転換を要求する方向を強めている。だが、国際的・国内的な階級闘争の現実は、<平和共存への巨歩>とか<反米統一戦線の巨大な前進>とかいった伝統的な固定観念ではフランス――中国の接近の意味する深刻さをけっして把えられないこと、まして、日本労働者階級のたたかいの前進をかちとることは不可能であることを明白に示している。
 フランス――中国の外交関係樹立という形態で現象した現代世界の構造的変動は、<米ソ対立と緊張緩和>あるいは<反米――反帝か対米従属か>という労働者階級の公認指導部の伝統的世界観の現実的破産とその反プロレタリア的本質を赤裸々に暴露している。したがって、革命的労働者は労働者階級の自己解放をめざす革命的戦列を強化し拡大するために、フランス――中国の接近の意味する深刻な現実、その根底によこたわる現代世界の帝国主義とスターリン主義による分割支配と構造的変動を直視し、いっさいの反プロレタリア的評価との全面的なたたかいにただちにとりくまねばならない。
 
    (二)
 
 ドゴール大統領とフランス帝国主義がアメリカ帝国主義の警告を無視して中国との国交を決断した前提には、アメリカ帝国主義とソ連スターリン主義官僚制を頂点とする複合的な現代世界におけるフランス帝国主義の独自の位置と、このような位置からの脱出、すなわち伝統的な世界体系の構造的変動を必然化するフランス帝国主義の国内的膨張と国外市場の矛盾が存在している。
 EECの形成=西欧帝国主義の回復とドル危機=アメリカ帝国主義の相対的後退の過程のなかで、国際的位置の一定の強化をかちとり、また、アルジェリア独立戦争と国内の階級闘争をドゴール・ボナパルティズムの支配のもとに抑圧し、「階級平和」の一応の実現に成功したフランス帝国主義は、EECの形成によってより先鋭化した国内的膨張と国外市場の矛盾を解決するために、中国との国交再開をテコとして、(1)インドシナにおける旧帝国主義宗主国としての権威を回復し、(2)中国大陸にたいする巨大な資本輸出の優先権を確保し、あわせて、(3)アジア・アフリカ地域における帝国主義勢力圏の強化と拡大をはかり、(4)帝国主義内部および複合的な現代世界体系における発言力をさらに強化しようとしている。
 ドゴール大統領とフランス帝国主義の中国承認政策は、じつに、フランス帝国主義の膨張から内的に必然化し、フランス帝国主義の発展の結果としてはじめて可能なところの徹頭徹尾帝国主義的な政策である。だからこそ、ドゴール大統領は、帝国主義者としての原則にふまえて、東南アジアの政治的危機を克服するためには、(1)日本帝国主義とインド資本主義の強化が不可欠であり、(2)中国スターリン主義官僚との接近をとおして後進国革命を慰撫することが必要であることを公然と宣言しているのである。
 
     (三)
 
 ドゴール大統領とフランス帝国主義の帝国主義的な中国承認政策と一連の行動にたいして、中国政府とスターリン主義官僚は、「世界人民の反帝反植民地闘争の圧力による帝国主義内部の矛盾のあらわれ」であり、「いまこそ全世界の国家と人民は反アメリカ帝国主義の大義のもとに大同団結しよう」と手ばなしの評価を与えている。
 だが、アフリカ諸国における周首相のカメレオン的言動とインドシナ問題をめぐる中国政府の態度は、明白に、中国スターリン主義官僚のこのような評価が欺瞞的な反プロレタリア的宣伝であり、事実的には<反米統一戦線>の旗のもとにアジア・アフリカ諸国の反帝反植民地闘争の利益をフランス帝国主義に売りわたし、西欧における労働者階級の自国帝国主義打倒のためのたたかいの抑制を隠蔽するためのものであることを示している。六三年七月の部分核停条約の締結に際して、ソ連政府とアメリカ帝国主義との<公然たる抱擁>を指弾した中国スターリン主義官僚は、全世界の労働者階級と人民の利益を裏切ってフランス帝国主義と<意義ある抱擁>をかさねているのだ。
 
     (四)
 
 流民化した農村プロレタリアートを同盟者とした農民闘争を主体として実現した第三次中国革命は、高利貸的な地主階級と同盟した国民党ブルジョア政権を打倒して土地の平等主義的分配を完遂し、帝国主義的勢力を基本的に駆逐することによって植民地的圧制に苦しむ人民に強力な激励を与えた。だが戦後革命の敗北による帝国主義の延命と革命的ロシアのスターリン主義官僚制的変質を前提とする現代世界の分割支配=複合的構造のもとでは、毛沢東の二段階戦略と一国社会主義論のもとに先進国革命との結合の展望を切断され、都市における革命的プロレタリアートの反乱と労働者評議会の形成を抑制した第三次中国革命は、ソ連の反プロレタリア的な経済・技術援助をテコにしつつ工業化と農民の集団化を強行する過程のなかで急激に堕落し、スターリン主義官僚制的変質を深化させたのである。
 かくして、激発する反植民地革命を背景にスターリン死後におけるスターリン主義諸国間の官僚制の動揺をついて強力な発言力を獲得した中国スターリン主義官僚は、中国革命(と、その官僚制的変質)を「国際的に普遍的性格をもった革命の経験」として評価することを要求しつつ、ソ連スターリン主義官僚とのあいだに官僚制的国有経済の発展テンポと剰余労働の官僚制的分配をめぐって深刻な<一国社会主義>的矛盾を強めていった。だが、五七年の人工衛星の打ち上げの成功で明確化したソ連スターリン主義官僚制のフルシチョフ的再編成の勝利と国際的威信の回復の過程のなかで、ソ連――中国間の工業力の発展の差異は、ソ連――中国のスターリン主義官僚間の先鋭な政治的対立に転化し、スターリン主義圏における前者の圧倒的優位をふたたび確立した。すなわち、労働者的な国際統合計画経済と生産の労働者管理の欠如したスターリン主義的な経済の<統合化>のもとでは、ソ連の中国への経済・技術援助(じつは国際価格を基準とした生産財と農産物・工業用原料の交換)は、現実的には、工業化が進展すればするほど中国経済をますますソ連経済の農村的関係に構造化する要因として作用し、総体として中国経済に重圧化し、消費財の欠乏をさらに深刻化する役割をはたしたのである。
 しかも、特権官僚化した中国スターリン主義官僚の強行する反労働者的工業化のための驚異的な<資本蓄積>と農民の官僚制的集団化は、ソ連の官僚制的な経済・技術援助および東南アジア・資本主義諸国への軽工業品・工業用原料・農産物の飢餓輸出という国際的交易関係と相互媒介しつつ、中国の労働者・農民の密集的労働強化と日常生活の極度の貧窮をもたらし、労働意欲の低下と労働の粗放化および官僚制的計画の必然的混乱と結合することによって、五五、五七、六〇年と周期的な経済危機をひきおこしている。ソ連スターリン主義官僚との中国共産党の一連の論争は、まさにこのような一国社会主義的現実の発展から必然化した官僚制的矛盾のイデオロギー的表現であり、同時にまた、中国官僚制的国有経済の利益をソ連スターリン主義官僚の大国主義的、官僚制的収奪から防衛するための幻想的表現である。
 したがって、スターリンの一国社会主義論を極端化した<自力更生>論をうちだして中国官僚制的国有経済をスターリン主義圏における<農村的関係>から脱出せんとする中国スターリン主義官僚は、一方では、<プロレタリア独裁>の名のもとに労働者・農民にたいする官僚制的統制を強化し、<反米闘争>の旗のもとに後進地域の政治的動揺を自己の国際的地位の確保のための緩衝地帯として動員し、あわせて、国内における政治的・精神的緊張をたかめ、工業的・農業的生産にいっさいの労働力を集中するための動力としつつ、他方では、中ソ対立の深刻化によるソ連からの生産財輸入の完全な停止と五九年以来の慢性的な経済危機を官僚制的にのりきるために、<平和共存>の名のもとに日本、イギリス、西独、フランスなどの帝国主義との接触を強化し、アジア・アフリカ地域の新興のブルジョア権力との提携を深めることによって生産財の輸入と日常雑貨・工業用原料および農産物の飢餓輸出を確保し拡大する、という二面的な政策を必然化するのである。
 だが、このような帝国主義(打倒でなく)との接近と貿易の拡大は、中国の労働者、農民の労働の強化と生活の窮乏の深刻化をもたらし、中国革命の官僚制的変質を深化させるのみである。
 
     (五)
 
 <国際的反米闘争>の欺瞞的スローガンのもとにおこなわれたフランス帝国主義との今回の<野合>は中国スターリン主義官僚の特殊的利益のために、西欧および日本の労働者階級の自国帝国主義打倒のための闘争を<反米統一戦線>の名のもとに抑制し、アジア・アフリカ・中南米における西欧帝国主義および日本帝国主義の帝国主義的進出と支配を<反米統一戦線>の名のもとに黙認しようとする帝国主義との接近政策の一環であり、国際プロレタリアートにたいするゆるしがたい犯罪的行為である。
 だからこそ、池田政府と日本資本家階級は、一方では、アメリカ大陸および西太平洋・東南アジアにおける従来の政治的・経済的権益を確保するためにフランス政府の中国承認にただちに追随しないことを明言しつつ、他方では<国際関係における事実と法の一致の確認>すなわち<六億余の民をもつ厳然たる存在>の確認の必要を提起し、日本帝国主義の資本の巨大な膨張のもたらす矛盾を解決するための資本の輸出市場として中国大陸を獲得するために、日本帝国主義の従来の国際関係と国内体制の全面的調整にとりかかろうとしているのである。
 現在、日本資本家階級および政治委員会の内部で起こっている<対米関係の手直し>的動揺は、西太平洋・東南アジアにおける日本帝国主義の勢力圏の確立のための、その一環としての中国貿易(商品と資本の輸出)の拡大のための調整的動揺である。日本帝国主義は、ドゴール大統領の決断した中国承認政策をテコにアメリカ帝国主義から妥協的権益をひきだしつつ、西太平洋・東南アジアに確固とした帝国主義的拠点を形成し、帝国主義とスターリン主義の世界的分割支配を前提とする複合的な世界体系の構造的変動の動因としての役割をますます強めている。
 
     (六)
 
 以上の事実から確認しうることは、おおよそ次のとおりである。
 第二次世界大戦をとおして実現した現代世界の帝国主義とスターリン主義による分割支配、すなわち、帝国主義の延命と世界革命のスターリン主義的変質を前提とする現代世界の複合的支配体系は、一方における西欧帝国主義および日本帝国主義の復興と帝国主義間の市場競争の激化、他方における中国革命とユーゴ革命の発展と官僚制的変質、およびスターリン主義諸国内の「一国社会主義」=官僚制的利益の対立の激化を動因として、いま巨大な構造的変動に直面している。今回のフランス帝国主義と中国スターリン主義官僚制の接近と外交関係の成立は、じつに、この構造的変動過程の過渡的な表現であり、さらに連続的な構造的変動を誘発しつつ帝国主義とスターリン主義の複合化を深化せしめるであろう。アメリカ帝国主義とソ連スターリン主義官僚制のフランス――中国問題にかんする<微妙な態度>は、じつは、このような構造的変動による両者の現代世界における特権的位置の相対的低下にたいする階級的警戒心の表現である。
 帝国主義とスターリン主義の現代世界の分割支配を前提とする複合的世界体系のこのような構造的変動は、現代世界の分割支配的体系の危機的・反プロレタリア的構造を突破するものではなく、逆にプロレタリアートにたいする帝国主義とスターリン主義の相互依存、複合的支配体系のいっそうの徹底化を意味している。中国スターリン主義官僚の<反米=反帝主義>は、このような中国スターリン主義官僚制と帝国主義の複合的構造化を隠蔽し美化するための幻想的・欺瞞的スローガンである。
 したがって、帝国主義とスターリン主義の二重の抑圧のもとにある現代世界のプロレタリアートは、部分的核停条約とフランス――中国の外交関係の樹立をテコとしてますます相互依存的に複合化しつつある帝国主義とスターリン主義にたいし、明白な綱領的対立を確認することなしには、けっして、みずからの解放のためのたたかいを一歩も前進させえないところに直面しているのである。
 
     (七)
 
 中国承認を契機とする日中国交問題の緊急化をめぐって日本労働者階級の圧倒的部分は、巨大なブルジョア宣伝と社会民主主義およびスターリン主義の諸潮流の<平和主義>的・<反米主義>的宣伝のまえに放置されている。労働者階級がいぜんとしてこのような思想的状況にとどまっているかぎり、日本帝国主義の中国政策の転換の実現(帝国主義的膨張の必然的結果!)は労働者階級にたいする思想的・政治的勝利に転化するであろう。わが同盟の各組織は労働者および人民の生きた具体的な思想状況と対応して、(1)フランス帝国主義の中国承認政策、日本資本家階級の言動の帝国主義的本質、(2)中国共産党――日本共産党の<反米統一戦線>論の反労働者性を、徹底的に暴露するため全力をあげてたたかうとともに、(3)帝国主義とスターリン主義の分割支配を前提とする現代世界の構造的変動――複合化の深化のもつ反革命性を追及し、世界革命の勝利をめざして、社会党主流や共産党の主張する<平和共存>論と<反米闘争>論の理論的・実践的粉砕と<反帝国主義・反スターリン主義>の綱領的深化のためにただちに前進を開始せねばならない。まさに、このようなたたかいは、同時に、社青同解放派、トロッキー教条主義者、社学同、山本派などの中間諸派にたいする壊滅的な思想闘争の展開として実現されるであろう。
 
 帝国主義打倒! スターリン主義打倒!
 万国のプロレタリア団結せよ!
   一九六四年一月二八日
       (『前進』一六九号一九六四年二月三日に掲載)