二 北方問題と反ソ主義
   秘密外交反対! 社会排外主義反対!
 
 日帝ブルジョアジーの伝統的政策であるソ連脅威論に批判の照射をあて、これにたいしてレーニン的原則を対置しえないスターリン主義の腐敗・堕落を断罪している。スターリン主義への反発からブルジョアジーとの妥協にはしるいっさいの試みと、革命的共産主義とを峻別することを論じた貴重な小論。発表時署名武井健人。
 
 
 北方領土にかんする紛争が、再燃しようとしている。日本ブルジョア政府は、異常な努力をかたむけて、あたかも北方領土問題が、日本国民の死活の問題であるかのようにふるまっている。
 自民党は、もともと、自分の手で千島列島の領有権を放棄しておきながら(講和条約を審議した五六年の国会で当時の西村外務省条約局長は「放棄した千島には北千島、南千島が含まれる」とのべている)、いまごろになって、またまた、北方領土問題をむしかえそうとしている。政府と自民党は、もっともらしい顔つきで、北洋漁民の生活権がどうのこうの、とわめきたてている。だが、日本ブルジョアジーは、このアワレな漁民たちのために、千島列島の領有権問題について、真剣になりだしたのだろうか。そんなハズがないことは、すこしでも政治に関心をもっている労働者なら、すぐわかることである。
 もともと、日本ブルジョア政府は、ちょっとぐらい騒いだところで、ソ連政府が千島列島をかんたんに返しはしないことを、百も承知なのである。では、いったいなんのためか。答えはかんたんだ。日本の資本家階級にとって、直接に千島を返してもらうことよりも、この問題で騒ぎたてることによって、ソ連への民族的な排外主義をあおりたてる方が、はるかに利益になるのである。なぜなら、このような排外主義の熱病的な拡がりは、労働者階級が国内の矛盾を鋭くみきわめることをきわめて困難にしてしまうからである。したがってソ連官僚制政府や日本共産党のように、北方領土問題に対抗するために、沖縄、小笠原問題で別の排外主義をあおりたてるという方法は、すこしも労働者階級の利益にならないどころか、際限のない泥沼に労働者階級をつき落すことになるのである。
 マルクスは、約一世紀まえに、国際労働者協会(第一インターナショナル)の創立宣言の最後でつぎのようにいっている。
   「もし労働者階級の解放がその兄弟的な協力を要求するならば彼らは、その大使命を達成するために、民族的偏見を利用し強盗戦争に人民の血と財宝を浪費して犯罪的企図を追及する対外政策をいかに処理すべきであろうか?…‥これらのことは労働者階級につぎのことをおしえた。すなわち、国際政策の秘密に精通すること、おのおのの政府の外交行為を監視すること、必要とあればうごかしうるあらゆる手段によってそれらに対抗すること、それが阻止できないときは、いっせいに弾劾するために団結し、個々人の関係を支配すべき道徳と正義の単純な法則を諸国民間の交通の最高法則として承認することが義務であること。
  こうした対外政策のための闘争は、労働者階級解放のための一般的闘争の一部を形成する。
   万国のプロレタリア、団結せよ!」
 この短い文章からでも、外交問題と労働者階級との関係が、じつに生きいきと提起されている。すなわち、本来、国際的な労働者階級は外交問題に無関心でいることはできない。だが、このことは、労働者階級が、千島列島の帰属問題をめぐって、不必要な分裂をもたらされることを避けるためである。つまり、労働者階級は、主とした関心をその領土がどの国に属するのかという点にむけるのではなしに、国際的プロレタリアートの兄弟的団結をいかにかちとっていくのか、という観点からその問題をとりあつかうのである。
 だからこそ、ブルジョアジーが不必要な民族的排外主義で社会主義の戦列を攻撃するスキを与えないために、レーニンは、ソビエト政権の基本政策の一つとして「公正な講和」を強調したのである。この「公正な講和」とは、無併合・無賠償の講和であり、なんぴとといえどもその意志に反して抑留してはならないという立場である。とくに兵士は、強制的に戦争に駆りだされた労働者や農民であり、戦争の犠牲者を戦後もむやみに抑留するようなことは、けっして社会主義=労働者階級の利益にならないのである。このようなレーニン主義的原則と今日のソ連政府(スターリニスト官僚)の対日政策とが、まったく一八〇度も対立していることはいまさらいうまでもないであろう。
 したがって、今日、ソ連政府やその第五列である日本共産党は、「千島列島が日本領土になるならば、対ソ非友好的行為の場として利用されることは明らかであるから、返すわけにはいかない。日本にとり解決されていない領土問題が実際にあるとすれば、それは沖縄、小笠原問題である」と主張している。だが、日本ブルジョアジーが反ソ宣伝をあおる絶好の素材を提供しているのが、ほかならぬスターリニスト官僚の排外主義的対外政策であることを賢明な労働者はすでに見破っているのである。
 われわれ革命的共産主義者は、他の諸文書で明白に表現してきたように、今日のソ連を労働者の国家であるというスターリニスト的なデマに反対してきた。それゆえ、われわれは、ソ連労働者階級が強力的に官僚制(政府)を打倒し、レーニンとトロッキーの指導のもとにロシア革命権力として実現した労働者ソビエト=コンミューンを再建する闘争にたちあがるよう、いっさいの俗物的配慮をうち破って公言してきた。そして、北方領土問題の直接の原因が、ソ連政府の反レーニン主義的対外政策にあることを執拗に暴露しつづけるであろう。
 だがわれわれ革命的共産主義者は、同時に、この北方領土問題を、反ソ的な排外主義の宣伝材料に歪曲しようとするいっさいのブルジョア的試みにたいし、断固として反対しなければならない。なぜなら、そのような排外主義は、ブルジョアジーが内政の矛盾を対外問題にすりかえる狡猾なワナに労働者階級をおとしいれることになるからであり、日本労働者階級とソ連労働者階級の兄弟的団結をかちとるための大きな障害となるからである。
 日本ブルジョアジーは、明らかに、ソ連政府の核実験再開によって生じた国内の反ソ的気分を、この北方領土問題に結びつけ、民族的な排外主義(愛国主義)をいっきょに組織し、かくして、日本を極東における反革命の拠点として確立しようとしているのである。帝国主義的ブルジョアジーにとって、排外主義的気分に労働者階級が犯されている状態ほど、好都合なことはないのである。
 したがって、今日、社会党がとっている立場ほど、労働者階級にとって危険なものはないであろう。いまや、独占資本の巨大な超過利潤の恩恵にあずかるところまで栄達した労働貴族(社会民主主義者)たちは、千島列島の領有権を放棄したのは自民党の政治的責任である、などという超社会排外主義的な政策をかかげて、独占ブルジョアジーの歓心をえようと懸命になっている。しかも、わが労働貴族の政治的代言人は、自民、社会、民社三党の秘密党首会議を提唱することによって、労働者階級の目のとどかぬ赤いジュータンのうえでブルジョアジーの政治的代表者ととりひきをしようとたくらんでいるのである。
 労働者階級は、このような自民党、社会党、民社党の共謀による反ソ的排外主義=秘密外交にたいし、断固として弾劾しなければならない。このような社会排外主義の嵐は、かならずや、反共主義に一転して労働者階級の頭上を襲うであろう。それゆえ、労働者階級は、ソ連政府の反レーニン主義的対外政策を合理化するために、日本共産党によって強引に主張されるであろう反米的排外主義とも、きびしく自己を区別しなければならないのである。
 われわれ革命的共産主義者は、排外主義の流れに抗して、断固として労働者階級の国際主義の旗をたかくかかげなくてはならない。共産主義者同盟の崩壊の過程に生みだされたもっとも醜悪な分子は、いまや、公然と反マルクス主義の旗をかかげ、職業的反共主義者と結合を深めつつある。これらの職業的陰謀家たちは、反ソ的気分の一定の高揚とともに、ブルジョアジーの先兵として反共的暴動の先頭にたって労働者階級に襲いかかりさえするであろう。反スターリン主義と反ソ主義は無縁である。われわれ革命的共産主義者はスターリン主義への反発をブルジョアジーとの妥協に誘導しようとするいっさいの挑発から自己を区別し、恐れることなくわが道を進むであろう。
        (『前進』七〇号、一九六一十月一五日 に掲載)