三 国際スターリン主義の分解と日共中枢の分裂について
    ――志賀・鈴木一派の分裂に際して
 
 「不屈の四〇年」と「一枚岩の団結」を誇る日共の歴史が、じつは(共産主義者の党でない)ことを証明してきた過程であり、六四年四・一七ストの裏切りとソ連派スターリニストの脱党は、その最後の仕上げとなるであろうことを指摘している。
 
 
 部分核停条約の国会批准をめぐって日本スターリン主義運動の分解過程は、ようやく深刻な局面に移行しようとしている。
 日本共産党第八回大会(六一年八月)を契機とする「構造改革派」の分裂をもって表面化した日本スターリン主義運動の分解過程の第二段階は、中ソ対立の激化という国際スターリン主義運動の分解過程の不可逆的な進行を背景に、日本共産党の中央から細胞までを全体的にゆさぶりつつ深化しはじめた。日本共産党国会議員志賀義雄の(良心をかけた)党への反逆は、そのはじまりであって、けっしておわりを意味するものではない。すでに再出された日本スターリン主義運動の分解過程は、中国スターリン主義官僚の権威にかくれていかなる官僚的恫喝と官僚的処分がくりかえされようとも、けっしておしとどめることはできないであろう。日本共産党中央官僚の内部における中国官僚派とソ連官僚派の分裂は、不可逆的な必然性をもって日本共産党全体を分裂の渦にたたきこむにちがいない。
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 日本共産党国会議員志賀義雄はいう――
 「本日、ソ米英三国の核実験停止条約の批准案件が衆議院本会議に上程された際、日本共産党国会議員団は党の方針にしたがい反対投票をしましたが、私だけは唯一人あえて賛成の投票をしました。私が共産党議員としてはきわめて異例な、このような非常手段によってモスクワ条約を支持する態度を表明したのはなぜか。(中略)ソ連政府のイニシアチブによって結ばれ、世界の圧倒的多数の人民と政府によって積極的に支持されているこのモスクワ条約に反対し、事実上、核実験の全面禁止について協定が結ばれないうちは、地球上の大気が放射能に汚染されてもやむをえないという態度をとることは、はたして正しいでしようか。私は、日本の労働者階級と人民の利益と幸福のためにこそたたかいつづけてきた日本共産党が、今日のような態度をとっていることについて、多くの人民が納得しがたい気持をいだいている事実を率直にみとめ、このことから謙虚に学ぶ必要があると思います。(中略)過去四十有余年のあいだ、一人の共産主義者としていかなる迫害にも屈せずにたたかいつづけてきた私にとっては、人民と党の利益のほかに私を動かすいかなる動機もありえません。私はこれまでの生涯を通じて守りぬいてきた平和とプロレタリア国際主義とマルクス・レーニン主義の旗を、今後もかたく守りぬく決意です。したがって私は現在の日本共産党を正しいマルクス・レーニン主義の上に立たせるために今後とも全力をつくします」
 自民党、民社党から社会党にいたる一連の政党と、いっさいのブルジョア的言論機関、そしてソ連共産党機関紙『プラウダ』は、部分的核停条約にたいし「自民党、民社党、社会党とともに敢然として賛成投票」した共産党国会議員志賀義雄の(共産主義者としての良心)をたたえるコーラスをおこない、「自民党、民社党、社会党とともに敢然として賛成投票」しなかった唯一の政党である日本共産党にたいし、「国民感情に反するもの」と非難を投げかけている。
 これにたいして、日本共産党の『アカハタ』と中国共産党の『人民日報』は「部分核停条約に賛成した志賀議員の行動はアメリカ帝国主義の核戦争政策を擁護する以外のなにものでもない」と非難し、「共産党内に巣くっていた現代修正主義者が情勢の発展のなかで追いつめられ、これまでのように二枚舌でごまかせなくなっておこしたのがこんどの事件だと思う」と暴露している。
 いったいこれはどうしたことなのだろうか。一九六四年四月一六日、歴史的な四・一七ストが(池田・太田会談)によってうちやぶられたとき、四・一七ストの敗北を「良識」や「労働」や「愛国」の勝利だと一致して称賛した自民党、民社党、社会党そして共産党は、部分的核停条約の国会批准をめぐって深刻な党派的対立をかもしだそうとしている。四・一七ストを内部から切り崩すために四・九声明を契機に日本共産党が公然たるスト破りを開始したとき、一枚岩のように団結していた日本共産党中央指導部は、いま部分核停条約の国会批准をめぐって(共産主義者としての良心)をかけた非妥協的な分裂に突入しようとしている。いったいこれはどうしたことなのだろうか。
 昨年の七月、モスクワにおいて米英ソ三国の政府のあいだでいわゆる「部分的核停条約」が調印されたとき、われわれは、米ソ核実験に反対し、核戦争の準備に反対する国際的反戦闘争の戦闘的推進者として、かつまた(反帝国主義・反スターリン主義)の世界プロレタリア革命のための不屈の革命的戦士として公然と宣言した。
 ――この部分的核停条約が世界人民の切実な要求である核実験禁止のための条約ではなく、米ソ核実験に反対する世界人民のたたかいに応えるようなみせかけをとりながら、じつは米英ソの三国政府の手中に核兵器を独占し、集中し、世界プロレタリアートにたいする抑圧の手段とし、世界支配構造体系の構造的変動の動因として成長してきたフランス、西ドイツ、日本、中国などの支配階級の核武装化に対抗しようとする、きわめて欺瞞的な条約に反対する立場が、その巧妙な口実にもかかわらず自国の核実験と核武装を要求するものであり、米ソ核実験と自国政府の核武装に反対する世界人民とは正反対のものであること、を。
 われわれは、このような基本的立場こそが、その後の一連の国際的、国内的事件によって国際プロレタリアートの唯一の立場であることを証明されたものと確信する。当時すでに指弾したように、日本共産党の部分的核停条約にたいする反対は、けっして核実験と核武装に反対する世界と日本の人民の立場にたったものではなく、中国核武装化の道を準備し、かくして究極的には日本帝国主義の対抗的な核武装にたいする日本の労働者階級と人民のたたかいを政治的に武装解除するものでしかないのである。
 したがって、われわれは、部分的核停条約支持の旗のもとに結集した自民党、民社党、社会党、そして日本共産党国会議員志賀義雄の(奇妙な統一戦線)にたいしても、部分的核停条約反対の旗のもとに殉じた日本共産党国会議員川上貫一、谷口善太郎、林百郎、加藤進の(官僚的団結)にたいしても、これらをともに、核実験に反対し核武装を阻止するための反戦のたたかいを(前進させるもの)とは断じてみなすわけにはいかない。部分的核停条約の国会批准をめぐるカラ騒ぎは、日本労働者階級と人民の大衆的な反戦のたたかいを、政府内の取り引きにすりかえようとする反動的試み以外のなにものでもないのである。
 また、三年前の八月、安保・三池敗北後の日本プロレタリア運動の危機をよそに、日本共産党が第八回党大会を開催し、<四〇年の不屈のたたかいの歴史>を謳歌していたとき、われわれは労働者階級の生活と権利をまもるたたかいの一貫した職場の戦士として、かつまた、社会党・共産党をのりこえて革命的マルクス主義に立脚した労働者党の創立のたたかいの組織者として、日本共産党が世界革命の一環としての日本革命の勝利のためにたたかう共産主義者のようなみせかけを装いながら、じつはプロレタリア世界革命を放棄して(平和共存と一国社会主義)というスターリン主義の立場に変質し、ソ連=中国の特権官僚の忠実な走狗として一貫して日本社会主義革命の綱領に反対してきたエセ共産主義者の党であり、したがって、すでに安保闘争の試練をとおして(共産党の神話)から解放された数多くの戦闘的労働者が生まれ、現に(反帝国主義・反スターリン主義)の労働者党のためのたたかいがはじまっている以上、「構造改革派」を排除したうえでの日本共産党の(かりそめの統一と団結)も、おそかれはやかれ戦闘的労働者の実践的批判に直面し崩壊の危機にとってかわるであろう、と確信をもって宣言した。
 四・一七ストにたいする日本共産党の反階級的なスト破りと、これにたいする職場労働者の心の底からの怒りは、日本共産党の<四〇年の不屈のたたかい>の正体がなんであったかをはっきりと刻印した。日本共産党と労働者階級の戦闘的翼とのあいだの分裂は、日本労働運動史上かつてない規模で拡大しており、いまや、ますます拡大している。まさに、このような日本共産党と戦闘的労働者の分裂の拡大は、スターリン主義者党としての日本共産党と日本労働者階級とのあいだの本来的対立の今日的表現である。
 したがって、われわれは、日本労働者階級の現実的闘争にふまえることなく、四・一七ストの廃虚のうえに、ただただソ連=中国の特権官僚的利益の分裂に追従して平然と発生した今回の日本共産党中央指導部の分裂にたいし、そのいずれの分派の未来にも日本労働者階級の運命をゆだねることはけっしてできないことを卒直に訴える。
 日本共産党国会議員志賀義雄は、「日本労働者階級と人民の利益と幸福のためにこそたたかいつづけてきた日本共産党……」というが、このような神話を一つひとつ(不屈のたたかい)で訂正し、日本共産党が(共産主義者の党でない)ことを証明してきた過程こそ、戦後一八年の日本共産党の歴史であり、四・一七ストの裏切りと今回の分裂こそ、その最後の仕上げである。ソ連=中国間のスターリン主義官僚の奴隷の分裂は、同時に、分裂したソ連スターリン主義官僚と中国スターリン主義官僚にたいする個別の新しい奴隷的忠誠のはじまりを意味している。
 だが資本と当局の圧迫のまえにおしひしがれ、生きようとするかぎりたたかわねばならない職場の共産党員にとって、党中央の四・一七スト裏切り方針によって、いま日本共産党の官僚的統制と民同ダラ幹の労働貴族的な締めつけのなかで苦悩している職場の共産党員にとって、日本共産党中央指導部の分裂は、新しい反省の契機を普遍的につくりだすであろう。まさにすべての日本共産党員は、(共産主義者の良心)にかけてスターリン主義の新しい権威のまえに屈服するか、スターリン主義と決別して(反帝国主義・反スターリン主義)のプロレタリア革命の立場にたつか、の岐路にたたされているのである。
 日本スターリン主義運動の分解過程の第二段階(ソ連派と中国派の分裂)は、いまや妥協のない局面をむかえようとしている。疑いもなく、日本共産党中央指導部の分裂は、党全体へとしだいに波及するだろう。だが、日本スターリン主義運動の第一段階をスターリン主義と革命的共産主義の分裂として実現し、すでに、未熟だが新しい革命的労働者党の創成をめざす強力な組織集団の存在する日本プロレタリア運動の主体的条件のもとでは、日本スターリン主義運動の分解過程の第二段階は、ソ連派と中国派の単純な分裂をもっておわることはけっしてないであろう。
 四・一七ストの中止をめぐって深刻化している日本社会民主主義運動の分解過程と戦闘的労働者の左翼的地すべりとの正しい結合のもとに、われわれは、自己の組織活動の厳しい点検にふまえつつ、日本スターリン主義運動の分解過程に積極的に介入し、これを(反帝国主義・反スターリン主義)の革命的共産主義運動の創成過程に力強く転化させねばならない。
     (一九六四年五月一八日)
     (『前進』一八五号、一九六四年五月二五日 に掲載)