九 日帝の南朝鮮再侵略を許すな
    ――日韓会談と労働者階級
 
 社共の裏切りに助けられて六〇年安保・三池闘争をのりきった日帝支配階級は、その帝国主義的野望の照準を、南朝鮮・韓国にあわせ、大量の資本進出というかたちをとって侵略を開始した。本論文は、革共同の日韓会談にかんする最初の論文であり、プロレタリア国際主義の立場を鮮明にうちだした重要なものである。
 
 
 南朝鮮における軍事ボナパルティズム政権の政府危機は、昨年十月の大平――金会談による「任意文書」をテコにして、日韓会談の早期妥結にむかいつつあった日本政府――日本資本家階級に深刻な動揺をもたらし、日韓会談の日程を大きく変更せざるをえないところまで発展しようとしている。
 このような新しい政治情勢に直面して、日本政府は、はやくも、
「一、韓国は民政移管を遂行して行く過程において諸種の困難に直面しており、金氏の準備委員長引退、離党などもその大きな波紋の一つであろう。こういう困難を克服して韓国がゆるぎない民政の基盤を固めることを願っている。
 一、韓国がこのような状態にあるため日韓会談を中止または中断せよとの意見もあるが、日本政府としては日韓国交正常化という歴史的な課題にたいする熱意は変らない」との外相談話を発表し、日韓会談にたいする日本資本家階級の決意をはっきりと表明した。
  つまり、日本資本家階級とその政府は、南朝鮮を日本帝国主義の商品と資本の輸出市場として獲得するために、朴軍事政権の政治的・軍事的な統治を強化するための援助を継続しつつ、民政移管へ統治形態の転換)をめぐるブルジョア的政治委員会の再編に注意ぶかく関係し、より安定した政治的秩序を確立する方向を模索しはじめようとしているのである。
 
 韓国に市場追求する日本資本
 昨年秋に二度にわたって南朝鮮を訪れた日本ブルジョアジーの「経済使節団」は、日本独占資本を代表する鉄鋼、造船、電機、自動車、軽金属、セメント、化学肥料、物産、銀行の実力者から成り立っており、日本資本家階級の「韓国問題」にたいする並々ならぬ関心を示している。
 とくに、過剰生産=操短に悩んでいる化学肥料、鉄鋼、そしてセメント、電機等の独占資本は、南朝鮮を自己の有利な商品と資本の輸出市場とするために、異常な熱意をみせており、個別資本のあいだの競争をすら予想させるところまで進展をみせているのである。すでに、三井資本と三菱資本は、ソウルに商社をおいて激しい輸出競争を展開しており、三菱商事は水力発電の設備、三井物産は四四万トンの化学肥料を輸出契約したのをはじめとして、しだいに日本独占資本の露骨な意志が南朝鮮に集中しはじめているのである。
 日本資本家階級は、日韓会談妥結後に、南朝鮮に投下される無償供与三億ドル、有償供与二億ドルという国家資本を先行させることによって、南朝鮮への日本帝国主義の進出の足がかりとし、日本独占資本の市場として強力に抱えこもうとしているのである。しかもアメリカ帝国主義の極東戦略の「後退」を徹底的に利用することによって、日本独占ブルジョアジーは、極東全域にわたる帝国主義的な市場分割を実現しようとしており、日韓会談を足がかりとする南朝鮮への帝国主義的な進出は、日本資本家階級の野望の突破口をなしているのである。
 もちろん、昨年秋から急速な進展をみせた日韓会談の政治的動因のひとつに、南朝鮮の軍事ボナパルティズム政権にテコ入れして、政治的秩序を強化し、極東、とりわけ日本のブルジョア的政治情勢の安定を確保しようとする反動的な政治家グループ(吉田茂、岸信介に代表されるコリアン・ロビー)の執拗な圧力がはたらいていたことはいうまでもないであろう。
 だが、このような政治的圧力は、南朝鮮を商品と資本の輸出市場として獲得しようと熱望している日本独占資本の階級的意志と結びつくことによって、はじめて事態を決定する力をうることが可能になったのである。したがって日本資本家階級とその政治委員会である池田政府は、朴軍事政権への政治的信義を確保しつつ、民政移管をめぐる政治的再編を総体的に保護しながら、市場の安定のためにいままで以上に南朝鮮の政治情勢にたいし積極的な関心を示すであろう。
 
 日朝労働者の収奪の強化
 
 だが、日韓会談を契機とする日本独占資本の南朝鮮への帝国主義的進出は、南朝鮮における労働者階級と農民・小ブルジョアにたいする搾取と収奪のより激しい強化をもたらすであろうし、必然的に激発するであろう労働者人民の反抗を抑圧するための政治的圧制をより厳しいものとするだろう。
 「日本政府としての日韓国交正常化という歴史的な課題」とは、朝鮮プロレタリアートにとって日本帝国主義の野望の幻想的な表現以外のなにものでもないのである。そして、それは同時に、日本労働者階級にたいする日本資本家階級の資本蓄積の熱病的な衝動による搾取と収奪の強化と、政治的抑圧の露骨な発動となってかえってくるのであり、大国主義的な表現をとって登場した愛国主義的宣伝は、このような日本プロレタリアートの搾取と収奪、政治的抑圧にたいする反抗を分裂させ、なぐさめるブルジョア的子守り歌なのである。
 軍事ボナパルティズム政権から「民政」=ブルジョア的合議制への移行の試みは、朴軍事政権にたいする南朝鮮の労働者階級と農民・小ブルジョアの反抗をブルジョア的な議会主義的幻想にそらそうとする中間的な方策である。だが、このような統治形態のブルジョア民主主義的な転換は、アメリカ帝国主義の法外な期待にもかかわらず、腐敗した金権政治家に幻想をもったほんの住民の上層の支持しかうることはできないだろう。
 失業と物価高、不作に苦しむ労働者階級と農民・小ブルジョアの圧倒的部分は、破滅した国民経済との「生活を守るたたかい」につかれきっており、政体についてほんのわずかしか関心をはらわないであろう。したがってブルジョア政治委員会の安定した多数派の欠如している状況のもとでは、プロレタリア革命の波が早急にやってこないならば、「民政」はより強力な軍事政権への中間的空位期をなすことになるであろう。そして、日本帝国主義の資本の投下による国民経済の一定の「回復」は、プロレタリアートを前人間的な生活からすこしでも引きあげ、工場に組織することによって、逆に、労働者階級の組織的な反抗を激発させるであろう。だからこそ日本資本家階級は、日韓会談の妥結をまえにして、自衛隊の戦力の根本的な強化に苦慮しているのである。
 新聞報道によると、防衛庁では、すでに日韓会談妥結後にはソウルに防衛駐在官を常駐させる計画をたてているといわれる。このような日本資本主義の軍事的強化は、まさに、南朝鮮における日本独占資本の帝国主義的な権益の防衛のためであり、ブルジョア的政治秩序の確立のための強力的保障なのである。そして、日本資本家階級の南朝鮮への帝国主義的進出は、極東の火薬庫としての南朝鮮と日本資本主義の共同の運命をますますわかちがたいものにするだろう。南朝鮮における政治的激動は、安保闘争当時よりもはるかに急速な伝播力で、日本階級闘争の激化をもたらすであろう。
 
 日本資本への攻撃そらせる社共
 
 だが、南朝鮮における軍事ボナパルティズム政権の政府危機と、それに波動する政治的危機が、日本政府の対韓政策の日程を変更させ、深刻な政治的動揺をもたらしているにもかかわらず、社会党も共産党も、このような政治情勢をたんなる政府攻撃の宣伝材料としてしかとらえていないのである。
 社会党は特別声明で「政府はこのような不安定な韓国を相手に日韓交渉を進めたことの不明を国民にわびるべきである」と追及している。だが、このような批判は、より安定した南朝鮮の政治的支配を熱望する日本帝国主義にたいする友情ある助言でしかないのである。
 また、共産党は、「日韓会談粉砕の有利な条件がうまれていること」を指摘するだけで、南朝鮮の政治危機を、日本政府の政府危機→政治的危機激化に転化する大衆行動の政治的指導を完全に放棄し、型どおりの「統一行動」をくりかえしているのである。そればかりか、共産党は「一定の限界をもちながらも、野党の民政、民主両党は政治活動浄化法″の全面解除、早期選挙反対などをかかげて、朴政権攻撃を公然と開始しています」などと主張することによって、軍事ボナパルティズム政権から「民政」への統治形態の転換にたいする小ブル的幻想に手をかし、南北朝鮮の革命的統一と労働者的計画経済の確立という革命的プロレタリアートの要求に敵対しているのである。
 
 日本帝国主義との正面からのたたかい
 
 革命的共産主義者は、日韓会談に反対しているすべての労働者、学生にむかって、日韓会談をテコとする日本独占資本の南朝鮮への帝国主義的進出が日本労働者階級への搾取と収奪の強化の道であり、日本人民への政治的抑圧の激化の道であること、したがって、日韓会談反対のたたかいは池田資本家政府の打倒のたたかいと有機的に結びつけねばならないことを、まずもって精力的に宣伝し、扇動しなければならない。
 共産党は、日韓会談の政治的背景のひとつをなしている日米関係を不当に強調することによって、日本帝国主義の労働者階級にたいする、強化しつつある階級的攻撃をおおいかくす反動的な役割をはたしているのである。
 したがって、このような民族主義的なワクから日韓会談反対闘争を解放することなしには、けっして日韓会談を粉砕することはできないであろう。
 日本労働者階級は、日韓会談粉砕を、自己を搾取し、抑圧する日本帝国主義との闘争として推進していかねばならない。
 革命的共産主義者は、自己の動員しうる大衆とともに、国民共闘の組織した統一行動に積極的に参加し、この行動をテコにして日韓会談反対闘争における誤った指導性、とりわけ、民族主義的偏向との非妥協的な理論闘争を強化し、日韓会談反対闘争のプロレタリア的展望を明確にうちださねばならないのである。
 だが、そのためにも、われわれは、わが同盟の内部に部分的に存在する日韓会談反対闘争にたいする空論主義的な偏向との徹底的な理論闘争を展開し、同盟の再武装をかちとることが不可欠なのである。朴軍事政権の政府危機による日韓会談の日程の「変更」を、同盟の再武装と労働者大衆にたいする革命的な宣伝・扇動のたちおくれの克服のために、革命的共産主義者は精力的に活用するであろう。
 日本帝国主義の搾取と収奪の道=日韓会談を粉砕せよ!
 日朝労働者の闘争で日本帝国主義の南朝鮮進出の野望を粉砕せよ!
 池田内閣打倒! 朴軍事政権打倒!
      (『前進』一二三号、一九六三年二月二五日目 に掲載)